不道千景は勇者である   作:幻在

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彼岸花の覚醒

気付けば、千景は、月下に咲き乱れる紅い花の花畑に立っていた。

「ここは・・・・?」

訳が分からないとでもいうかのように、千景は周囲を見渡した。

だが、ここは、どこか懐かしく、悲しい感情が溢れてくる空間だった。

何故その様な感情が溢れてくるのか分からない。

ただ足元を見てみると、一面に咲き誇るその花が、彼岸花だと分かった時、千景は、ここがどういう場所なのか理解する。

「そうか・・・・・」

千景は、月を見上げる。

「貴方は・・・悔しかったんだな」

そして振り返り、そこに立つ人物を見据える。

千景の今の服装は、勇者の装束のそれ。そして相手は、千景のものと酷似している、戦装束。

ただ、千景と違う点は、僅かな身長の違い、髪の長さと質感、そして、胸のふくらみ。

相手は間違いなく、女性だ。

だけど、千景はその人物をよく知っていた。

「ずっと後悔し続けた。自分を今まで愛してくれた事、楽しい思い出をくれた事、人との間に壁を作っていた自分に手を差し伸べてくれていた事、それに気付かず、傷付けてしまった事。その全てを貴方は後悔していた。出来る事なら謝りたい。貴方はそう願った」

 

彼女の名前は、『(こおり)千景(ちかげ)』。

 

不道千景の先祖にして、勇者としての力を剥奪された、失格勇者。

神樹に受け入れられず、ずっと一人で、いつか、仲間たち(ともだち)に会える事を願い続けた、ただの呪われた少女。

呪われているが故に、神から見放され、そして、全てを失った、ただ一人の少女。

しかし、それでも―――

 

 

 

――――彼女は確かな幸せを手に入れた。

 

 

 

だが、そうであっても、神樹に受け入れられなかった。

穢れた存在だから。神の意志に背く行いをしたから。

だが、そうであっても――――

 

「――――俺は皆を守りたい。その為に、力が欲しい」

 

不道千景は拳を握りしめる。そして、郡千景を見据える。

「だから、アレを使わせて欲しい。危険だと分かっていても、俺は友奈を・・・・皆を守りたい。こんなところで寝ている暇なんかない」

千景は彼女に問う。

「お前も守りたいだろ。あの人が守ったこの世界を。あの笑顔を。あの景色を。だったら負けていられない。死んでもだめだ。だから、使わせて欲しい。あの力を―――ッ!?」

その瞬間、千景を取り囲むかのように、何かが現れる。

全部で七体。笠を頭に被り、白い装束に身を包み、鈴を鳴らす。

 

どれもこれもが皆同じ、七人減る事増す事無し。

 

そして、少女が微笑んだ。

「――――必ず、守りなさい」

優しい、慈愛に満ちたその表情は、まるで、逞しく成長した息子を見る、母親のそれ。

その瞬間、千景の脳裏に、まるでパズルの最後のピースがはまり、完成するかのような感覚がおとずれる。

ずっと引っかかっていた疑問。それが、今、解けたかのように。

力の使い方を理解する。

「・・・当たり前だ」

千景は、手を伸ばす。その先には、笠を被る七人のうちの一人。

その名は――――

 

 

 

 

 

 

 

「出番だ、『七人御先(しちにんみさき)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼が佐奈に撃ち抜かれる数分前。

 

 

 

 

 

 

剣を引き抜く翔琉。

その刺さっていた場所には、一人の少年がうつ伏せに横たわっていた。

「・・・・ふん」

翔琉は、鼻を鳴らす。

せっかく、幸奈がこちら側へ誘ったのに。断らなければ、今頃は生きていられたものを。

「まあいい。あの女に任せれば()()()()()()()()だろう」

そう吐き捨て、次の目標へと行こうとする。

 

だが。

 

「シャアッ!!」

「ッ!?」

突如、背後からの殺気を感じ、大きく前に跳んだ翔琉。

どうやら敵の刃を回避できたらしい。

「まだ生きていたのか」

おそらく、千景が不意打ちに出たのだろう。わざと死んだふりをして、翔琉を背後から奇襲するという――――

千景の姿を見た途端、その思考は断ち切られた。

「なん・・・・だと・・・・!?」

その表情は驚愕に染まっていた。

そこには・・・・・

「何故・・・・七人いる・・・!?」

白い羽織りのようなものを纏い、頭の部分をフードのようなもので隠している千景。

そこまでは良い。

 

問題なのは、()()()()()()()()だ。

 

千景は決して忍者ではない。それは普通。そもそも分身の術など、人間の身で出来るような業ではない。

では何か?

翔琉には分からない。

そうもしている内に、千景たちのうち一人が、翔琉に向かっていく、残り六人は、別々の方向へと飛んでいく。

「チィ!」

おそらく、他の仲間の救出に行ったのだろう。

そんな事は、翔琉がさせる筈も無い。

両手の剣を瞬かせ、向かってきた千景を、すぐさま斬りつける。

千景は、その攻撃を鎌によって凌ぐ。

だが、二刀となって手数の増えた翔琉の攻撃を、姿が変わっただけで全く強化された訳はない千景では、持つはずも無かった。

すぐさま、右肩から左脇にかけて、深く斬られる。

「ふん、こんなものか」

と、すぐさま他の者の所へ行った千景たちを追いかけようとした翔琉だったが。

「どこへ行くんだ?」

「ッ!?」

すぐさま、後ろから声が聞こえた。

本能のままに振り返り、右手の剣を薙ぐ、同時に、甲高い金属音がその場に響く。

「バカな・・・・!?」

そこには、たった今斬り殺された筈の千景が、()()()()()()()()()()()のだ。

血を流した痕跡の無い、まるで、汚れた服を全く同じ新しいものへと着替えたかのようにそこに立っていた。

ならば、と翔琉は駆け出す。

千景は、そんな翔琉を迎撃する。

斬撃の応酬。

だが、その拮抗は呆気も無く崩れ、大きく弾かれて体を仰け反らせる千景。

そんながら空きの胴体に、翔琉は、心臓に向かって左の刃を突き立てた。

「心臓ならどうだ・・・!」

剣は貫通し、左胸から背中まで、剣が皮膚を突き抜ける。

それにぐったりとする千景。

今度こそ絶命した。

翔琉は、そう確信して剣を引き抜く。

時間を喰われた事に苛立ち、すぐさままた追いかけようとしたその時。

「まだだぞ?」

「ッ!?」

また、声がした。

足に鋭い痛みが走る。

「ぐッ!」

大きく飛び、距離を取る翔琉。

そこには、やはり、無傷の千景がいた。

「何故だ・・・確実に心臓を貫いた筈だ・・・!」

「そんな単純な話じゃないんだよ。これはただの分身じゃない」

「・・・・そうか、本体か」

翔琉は、剣を向ける。

「あの六人の中に本体がいるんだな?ならば、ソイツさえ殺せれば、お前は消滅する。そういう事だな?」

「そんな事をわざわざ教える馬鹿がどこにいる?いいから来いよ。何度でも相手してやる」

千景は鎌を構える。

翔琉も剣を構える。

もはや、味方の救援には行けない。

戦況は、今この場で逆転した。

向こうの奴らが、どうにかしてくれる事を祈るしかないだろう。

そして、言葉交わずして双方はぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――――

 

「・・・・え?」

翼は、絶句していた。

美森が撃ち抜かれた事に激昂し、そのせいで大きな隙を晒し、そこを佐奈の矢が撃ち貫く。

そう思っていた。

だが、翼の目の前で、白い装束を身に纏う千景が、翼を押し飛ばし、代わりにその矢を受けたのだ。

「ち・・・・かげ・・・・くん・・・・?」

そう、名を呼ぶも、目の前に立つ千景の胸には、大きな穴が空いていた。

「なんで・・・なんでなんだ・・・どうして君が・・・・」

ゆっくりと、前のめりに倒れる千景。

あんな傷では、助からないだろう。

「・・・・」

佐奈は、そんな彼の様子を、哀悼の意をもって目を閉じた、その時。

「きゃあ!?」

「「!?」」

突如、美紀の悲鳴が聞こえた。

そこには、今翼の目の前で胸を撃ち抜かれ倒れている筈の千景が、美紀に鎌を振るっていた。

「なッ!?」

「どういう事だ!?」

二人して目を見開く。

「驚いてどうする翼」

「え・・・・」

更に、信じられない事に、倒れ伏した千景が()()し、同じ場所にもう一人の千景が現れたのだ。

「ち・・かげ・・・くん・・・?どうして・・・・」

「ああ。これか?俺の奥の手らしい」

「まさか・・・満開か?」

「いや、そんなたいそうなものじゃない。強いて言うなら―――――『憑依』だ」

気付けば、美紀を襲っている千景の他に、もう四人。

「く!?どういう事だ!?」

佐奈を襲う千景が一人。

他三人は、おそらく他の者の救援に向かったのだろう。

「翼、ここは俺達が抑える。お前はあのバーテックスをどうにかしろ」

「だ、だけど・・・・」

「お前、東郷の事になると集中できなくなるだろ?だったら、あいつの元にいってやれ。正直言って、まともに戦えないなら迷惑だ」

「そうかもしれないけど・・・佐奈さんは・・・・!」

「シャーラップッ!」

ゴンッ!と翼の頭にチョップを叩き込む千景。

「大切なんだろ!だったら自分の事情なんかより、あいつを優先しろ!」

「・・・・分かった。死なないでくれよ」

「死なねえよ。少なくとも、今の状態ならな」

「そっか・・・」

互いに笑い合う。

「ちなみに、七人だからこの俺がそっちにつく。他の奴らは他の俺がどうにかする」

「分かった。捕まって!三郎!」

とくに追及する事なく、翼は、三郎を呼び出す。

 

海戦において、撃墜王と呼ばれた男、『坂井三郎』。それがその精霊の正体だ。

 

背中に飛行ユニットを展開し、千景を掴んで、飛び立つ。

「途中で夏凜ちゃんたちも拾っていく、いいね!」

「ああ、構わない!」

加速する二人。その先にいるのは、夏凜と剛だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・うう・・・・」

「さあ・・・楽になれ」

そうして、弘が、夏凜に刃を突き立てようとしたところで、千景が割って入った。

「うわ!?」

レイピアを弾かれ、さらに蹴りを入れられ、下がる弘。

「無事か!夏凜!」

「ふ・・・どう・・・?」

夏凜は、目の前にいる千景を見上げる。服装が大きく変わり、白い装束を勇者装束の上から来ているようだった。

千景は、夏凜を心配そうにみていた。

その右手には、レイピアが突き刺さっていた。

「大丈夫か・・・!?」

「え、ええ・・・・」

ふと、夏凜は、千景の背後を見た。

「不道!後ろ!」

「え・・・」

間に合わず、数本のレイピアが千景の背中に突き刺さる。

そのうち一本が、心臓に突き刺さっていた。

「不道!!」

夏凜は悲鳴をあげる。

(嘘・・・嘘よ・・・そんなのって・・・・!)

千景は、屈んだ状態で、うつむいた。

「邪魔が入ったけど・・・・これで一人だね」

弘は、少し忌々し気に、背中にレイピアを突きたてられた千景を睨み付ける。

数本のレイピアを投擲して、千景を貫いたのだ。

「ふ・・・どう・・・・!」

夏凜は、左手で千景の頬に触れようとする。

 

からんからん

 

そんな音が聞こえた。

「・・・え?」

「なん・・・で・・・!?」

弘と真斗が、驚愕に目を見開いていた。

何故なら、突き刺さっていたレイピアが、まるですり抜けるかのように千景の体から落ちたからだ。

「不道・・・・・?」

「安心しろ夏凜。まだ死んでない」

千景は、顔をあげ、微笑む。

さらに。

「ぎゃぁあああ!?」

叫び声が轟いた。

見ると、真斗の後ろから、鎌を突き立てている千景の姿があった。

「三ノ輪先輩!」

その突き立てた千景が叫ぶ。

「お返しだオラァアアア!!」

背後から飛んできた剛が、反時計回りに振り回したハンマーを真斗に叩きつけた。

「げう!?」

「うわぁああ!?」

弘を巻き込む形で、吹き飛ばす。

根の壁に叩きつけられ、土煙をあげる。

「っしゃぁああ!勇者たるもの!あの程度の雷撃でくたばるかぁあああ!!!」

咆える剛。

「千景が・・・・二人・・・?」

夏凜は、今起きている事に、混乱していた。

何故、千景が二人いる?それよりも千景は弘のレイピアに貫かれて一度死んだ筈だ。その時の傷はどこに行った?

ありとあらゆる疑問が一変に襲い、訳が分からなくなる夏凜。

「夏凜ちゃん!剛さん!」

「おう翼・・・・って千景!?」

さらに、翼が千景を引き連れて飛んできた。

これで三人。ますます訳が分からない。

「ちょ、ちょっと不道・・・・」

「ん?なんだ夏凜?」

そこで夏凜は、最も可能性のある事を、千景に聞く。

「もしかして・・・使ったの?満開を・・・」

「いや違うけど?」

速攻で否定された。

「いやいやいや、それじゃあその三人に分かれている理由が説明できないでしょう!?」

「説明は後でする。まずは、あのデカブツをどうにかしてこい」

そうして、千景は、レオ・スタークラスターのいる方向を見据える。

「夏凜ちゃん、大丈夫?」

「翼様・・・」

「時間がない。抜くよ」

「あ・・・ああああああ!?」

待った待たずに一気にレイピアを引き抜く翼。

激痛が走るも、歯を食いしばって、耐える夏凜。

「一反木綿」

翼の左腕に巻き付いていた一反木綿の一部が引きちぎれ、夏凜の傷口に巻き付く。

「良いな?奴らの相手は俺たちがする。お前たちはあの化け物の相手に行け!」

「夏凜ちゃん、剛さん、ここは千景君の言う通りにしよう。今の千景君なら、奴らを抑えられる」

「しょうがねえか」

剛が承諾する。

「で、でも・・・」

「夏凜ちゃん」

だが食い下がろうとする夏凜。それを翼がとがめる。

「今は、千景君を信じよう。僕らは、バーテックスの撃破だ」

「・・・分かりました」

渋々と承諾する夏凜。

「行け!一人連れてけ!」

「行くよ!」

「くたばんじゃねえぞ!」

「負けないでよ・・・!」

強化された跳躍力で、去っていく翼たち。

その場に残されたのは、千景二人。

一人は、翼たちのもとへ向かったのだ。

「ぐ・・う・・・」

そこで、真斗たちが起き上がる。

「悪いが・・・」

「ここから先は通さない」

鎌を構える千景たち。

「ふざけるな・・・・」

弘が、レイピアを取り出す。

「何故邪魔をする・・・どうせ守ってくれない・・・邪魔になったら消されるようなこの世界を・・・・どうして守る必要があるんだ・・・・!」

弘はレイピアを向ける。

「殺す・・・・殺してやる・・・・殺してやるぅぅぅぅうう!!」

絶叫する弘。

「うがぁああああああ!!」

同時に、雄叫びをあげる真斗。

千景二人、真斗と弘。双方が激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で。

レオの攻撃で、地面に倒れ伏す、風。

「じょ・・・冗談じゃ・・・ない・・・わよ・・・・」

痛む体を動かし、どうにか立ち上がろうとした、その時。

巨大な水泡が、風を捉えた。

「がぼ・・!?」

身動きが取れない。水をかいて脱出しようとしても、まるで手応えが無く、脱出する事が出来ない。

「んん・・!」

ならば。剣を振り回す風。

とにかく脱出しなければ、溺死してしまう。いくら精霊の加護があろうとも、苦しいものは苦しい。

「お・・・ねえ・・・ちゃん・・・?」

樹が、そんな姉の名を呼ぶ。

(だめ・・・だめだ・・・・!)

風の中で焦りが産まれる。

樹を置いて、皆を巻き込んでおいて、自分だけが先にくたばる。

そんな事、そんな事は、風には許せない。そんな事に陥ったら、自分を許せない。

そんなの絶対に認めない。認めたくない。出来る訳が――――

 

 

 

「そんなの出来る訳ないでしょぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

その瞬間、風の体を光が包む、水泡を吹き飛ばした。

 

それと同時に。

 

紅い一閃が、友奈と幸奈を引き離した。

「え・・・!?」

「くッ!?」

それと同時に来た眩い光に思わず顔を腕で覆う友奈と幸奈。

そして、対峙していた彼女たちの間に、一人の少年が降り立っていた。

「「!?」」

光が収まり、顔をどかせば、そこには、友奈には背を、幸奈には正面を向ける千景が立っていた。

「千景君・・・」

「千景君・・・どうしてここに?」

幸奈は、苦い顔をして、千景を睨みつける。

対して、千景は真っ直ぐに幸奈を見据え、言う。

「お前を止めに来た」

ぐっと、姿勢を低くして、鎌を構える千景。

「千景君・・・」

「行け、友奈」

「でも・・・」

「頼む」

短く、そう頼み込む。

だが、それでも友奈は、その場に踏みとどまろうとする。

「大丈夫」

振り返る千景。

「俺は死なないし、お前ならやれる」

白い装束から見える、彼の笑顔に、友奈は、心が安らぐのを感じる。

「・・・わかった。信じてる!」

すぐさまレオの元に走る友奈。

それを見送る千景。

「・・・・さて」

千景は、幸奈を見据える。

「あいつらの元には行かさないぞ。幸奈」

「・・・・・・なんで」

幸奈は、俯いており、その拳を握りしめている。

「なんで!」

そして、昂る感情を吐き出す。

「この世界を守ろうとするの!この世界には絶望しかない!神樹が力尽きれば終わるような世界を、何故守ろうとするの!貴方を愛さないこの世界を、何故!」

黒風が巻き起こる。

「・・・・お前、俺を愛さないと言ったな。悪いが、お前は一つ勘違いをしている」

千景は、幸奈に言う。

「俺は、勇者部の皆がいるだけで、それでいいんだ」

「!?」

「俺はただ勇者部の皆がいるだけでそれで良いんだよ。皆が生きるこの世界が好きなんだよ。誰もかれもが一生懸命に生きるこの世界が好きなんだよ。元気な人、賢い人、熱血な人、諦めない人、ずるい人、気弱な人、恋する人、清楚な人、強い人、優しい人、頑張る人、守ろうとする人、戦おうとする人、皆が皆、それぞれの生き方で生きている。この世界で確かに生きている。どれだけ絶望しても、人は必ず立ち上がれる。俺はそれを信じている。だって俺は――――」

今なら、迷いなく言える。自分が何者なのかを、自分がなんであるかを。

 

 

 

「不道千景は勇者だからだ」

 

 

 

真っ直ぐにそう言い放った。

「・・・・・何よそれ」

幸奈の周囲を、黒い風が取り囲む。

「何が勇者よ・・・・貴方は貴方、不道千景よ・・・・」

幸奈は顔をあげる。

「貴方が自分を勇者だと言うなら・・・・私は貴方を否定する!」

そして、拳を向ける。

「そうかよ。だったら来い!幸奈!」

走り出す千景。

同時に、幸奈はクラウチングスタートの態勢になり、あげた踵に風を圧縮、開放し、初速から高速で千景に突っ込む。

「オオオ!」

「ハアア!」

その瞬間、刃と拳がぶつかり合った。




次回『勇者は根性』

守り切れ、全力(たましい)で。
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