不道千景は勇者である 作:幻在
レオ・スタークラスターが吐き出した御霊。
その大きさに驚いているのは、何も佐奈だけではない。
勇者部一同も、その大きさに驚いている。
「何もかもが規格外過ぎる・・・」
「しかもこの御霊、出てる場所が・・・
巨大過ぎるその御霊。それに絶句する一同。
その出現場所が宇宙となると、壊すどころか、辿り着くことすら出来ない。
「おおき、過ぎるよ・・・あんなものどうやって・・・」
「あはは・・・ここまで来て・・・・か・・・」
翼が引きつった笑みを浮かべる。
「最後の最後で・・・畜生!」
夏凜が悔しそうに拳を握りしめる。
それもそうだろう。そもそもあのサイズ、どうやって壊せばいいのだろうか?
可能性のある剛はレオの攻撃を弾く事に全ての力を注いで風と共にダウン。
しかも、あれを破壊する事に、どれほどの時間がかかるのだろうか。
とてもではないが、リミットまでに破壊する事は不可能に近い。
そう、諦めかけた時だった。
「大丈夫」
そんな声が聞こえた。
「あれも御霊なんだから、今までと同じようにすればいいんだよ」
友奈だ。彼女は、自信をもって言い放つ。
「どんなに敵が大きくたって、諦めるもんか!」
その言葉に、皆が安心する。
「友奈・・・」
「友奈さん・・・」
「友奈ちゃん・・・・」
その中で、美森が言う。
「行こう、友奈ちゃん。私なら、友奈ちゃんを運べると思う!」
「うん!」
「分かった。僕らで封印しておく。二人は、あの御霊を壊してこい!」
翼がそう言い、それに頷く一同。
「気を付けろよ」
千景が、そう言う。
「・・うん」
そして、友奈が美森の戦艦に乗る。
二人は手を繋ぎ、御霊に向かって一気に飛んでいく。
「・・・・頼んだよ・・・」
「翼様!」
「!?」
二人を見送る翼。だが、夏凜の悲鳴にも似た叫びに、思わず振り返る。
そこでは、樹海が激しい速度で腐敗していっていた。
「浸食が速すぎる・・・それに、拘束力も・・・・!」
残り七十秒。
それまでが、リミットだ。
「乃木・・・園子・・・」
「そうそう、乃木園子だよ~。気軽に、園子って呼んで~」
なんとも間の抜けた口調で語りかけてくる、金色の髪の少女。
その装束は、鮮やかな紫をしており、バラを想起させる、優雅さが感じられるものだった。
ただ、その容姿に、千景はとある人物を想起させ、またその性格も、もう一人の人物を想起させた。
ただ、何よりの証拠は、その名に『乃木』の二文字がある事だ。
おそらく、そういう事なのだろう。不道千景が『郡千景』の子孫であるように。
「そういえば、貴方の名前を聞いてなかったなぁ」
「あ、ああ、悪い。俺は不道千景。一応・・・勇者やってます」
「そんな硬くならなくていいよ~。リラックスリラックス~」
刹那。
園子は何も見ずに、まるでそよ風に吹かれるかのように回転させた槍で飛んできた矢を弾いた。
「な!?」
「ついでに~」
更に、園子の姿が千景の視界から消える。
それと同時に、背後で鋭い金属音が鳴り響く。
慌てて振り向けば、すぐまじかで、先ほど吹き飛ばした筈の美紀が、千景に向かって刃を突き立てようとし、それを園子が防いでいた。
「ふーくんには、手出しさせないよ~」
「え!?」
瞬間、園子の左足が美紀の脇腹に突き刺さっていた。
そのままレオの方向とは全く逆の方向に吹き飛ばされる。
「きゃぁあ!?」
「美紀!」
そのさなかに、佐奈が美紀を空中で受け止め、着地する。
「お前は・・・!?」
「こんにちは~、私、乃木園子っていうんだよ~。よろしくね~」
「乃木・・・だと・・!?」
佐奈の顔が、驚愕に染まり、次に激しい憤怒に変わる。
「あの男・・・・どこまでも・・・・!?」
「ねえ。それ、もし
佐奈が呟いた言葉に、園子が反応する。
その場の空気が冷え切り、まるで心臓を鷲掴みにされるかのような、そんな声音で。
「――――殺すよ?」
「「「―――――ッ!?!?」」」
呼吸する事さえ忘れる程に、濃い殺気。
それに、佐奈は表情を歪め、美紀は恐怖に顔を強張らせる。
そして、その殺気は、翔琉の元にも届いていた。
「「ッ!?」」
思わず、攻撃の手を止める双方。
(なんだ・・・今の殺気は・・・!?)
翔琉は、その威圧に、冷や汗を流す。
それは千景も同じだった。
だが、すぐさまもたらされる
(あの人・・・それほど大事な人なのか・・・?)
と、よそ見をしていた所で、眼前に黒い何かが迫っていた。
反応する間もなく、大きく吹き飛ばされる。
翔琉が千景を蹴り飛ばしたのだ。
「復活するのはその場でだ。つまり、大きく吹き飛ばしてしまえば追いつけないだろう」
翔琉が走り出す。
(あの殺気の持ち主、このままにしておくのはまずい・・・!)
翔琉は、その元へ急ぎ駆け出す。
「待て!」
すぐに千景も追いかける。だが、かなり吹き飛ばされた上に、翔琉の異常な速度に、千景は追いつけない。
(まっずいぞ・・・あれじゃあ食い止められない・・・!)
場面戻って、園子たちの所では。
ほんの一瞬だったが、異常な殺気を発した園子。
ちなみに、その殺気は翼たちには届いていない。
かなり抑えたのか、範囲はそれほどではないらしい。だがその代わり密度があまりにも濃かった。
だから、千景は現実に引き戻されるまでに時間がかかった。
「―――ッハア!?」
やっと、肺の麻痺が解けたのか、大きく過呼吸する千景。
「あ、ごめんね~。ちょっとらしくなかったかな~」
園子が、それに気付いて振り向く。
その口調は、先ほどまでと同じ、穏やかなものだった。
「おい・・・心臓に悪いぞ・・・乃木さん」
「園子で良いよ~。私はふーくん、って呼ぶからさ~」
「ふーくん!?」
「あ、それともちーくんの方が良かったかな?それともふろすけかな?」
「・・・・ふーくんでお願いします」
「分かった~」
えへへ~、と嬉しそうに笑う園子。
完全に園子のペースだ。
「ってそれよりも!」
「大丈夫だよ。周囲に気を配るのは得意だから」
少し落ち着いた声音で返す園子。
それと同時に、槍を背中に回し、穂先を後頭部あたりで止めた途端、矢が迫って弾いた。
「く・・・!」
「無駄だよ~。貴方の攻撃は私には届かない。ここから動く事も出来ない。八方塞がりって奴だよ~」
「・・・あの男に教授されていたというのは伊達ではないようだな・・・」
「あの男?」
首をかしげる千景。
あの男とは、一体誰なのだろうか?
「そうだよ~」
パチン、と園子が指を鳴らす。
すると、彼女の周囲に大量の精霊が現れる。
その数、十六体。
「・・・・すごい・・」
改めて感嘆する。そして思う。
この少女は、相当の強さを誇る者だと。
「だからさ、ここで手を引いてくれると助かるんだけどな〜」
と、警告する園子。
その声音は口調こそは穏やかだが、その言葉に込められた意味は、相当重い。
つまりは、『このままやるなら容赦はしない』という事だ。
これには思わず二人はたじろぐ。
圧倒的力を持つ相手に、勝算などありはしない。
更に。
どさり、と真斗と弘が佐奈たちの側に落ちてくる。
見ればそこには二人の千景が立っていた。
さらに、佐奈と戦っていた千景もおり、全員で四人の千景がそこに集まってきていた。
真斗と弘はとうにノックアウト。さらにレオの爆炎を受けて身体中に火傷の痕があり、その痛々しさを見る限り、とても戦えるような状態ではない。
これで、五対二。状況は園子たちが圧倒的に有利だ。
「く・・・」
「あわわ・・・」
佐奈は悔しさに顔を歪め、美紀は挙動不審にきょろきょろしていた。
しかし。
突如、園子とその場にいた千景が動いた。
千景は避けるように、逆に園子は迎え撃つように、退き、槍を、横に向かって振り抜いた。
金属音が鳴り響き、園子の手に重い衝撃が走る。
「ん・・・!?」
「美紀、やれ」
その相手は翔琉だった。
翔琉は何かを呟くと、美紀はそれに反応した。
「
瞬間、美紀の体から真っ黒い霧が撒き散らされる、それは広範囲に一気に広がり、園子たち全員うあを包み込む。
「これは・・・」
千景が周囲を見わたそうとすると、突然、呼吸が苦しくなり、激しく咳き込む。
「ゲホッ!?ゴホッ!?」
吸い込めば、肺や喉が痛くなる。
これは―――酸か?
「なんだよこれ・・・酸の霧!?」
服の裾を口に押し当て、体内に霧を入れないようにする。
だが、次の瞬間、足を貫かれる。
「ぐあ!?」
「苦痛だろうな。死なないお前にとっては」
「!?」
突然、声が聞こえた。
佐奈だ。
「どういう原理か知らんが、お前はどうやら、
方向がバラバラ、聞こえる大きさもバラバラ。まるで自分の位置を悟られないようにしているかのようだ。
しかし、攻撃する時の気配は誤摩化せないようだ。
「ふッ!」
斜め後ろからの攻撃を、どうにかして弾く千景。
遠くでも、激しい剣戟の音が聞こえる。園子が翔琉と、他の千景は美紀と戦っているのだろう。
だが、この霧はまずい。
精霊のバリアを持たない千景にとっては、あまりにもきつい。まるで自分の体を内から溶かされているかのようだ。
「なんだよ・・・この霧は・・・!?」
「とある昔、ヨーロッパのロンドンという所で、この様な酸の霧が蔓延していた時期があったそうだ」
姿の見えない敵は語る。
「その町では、子供は救われない。腐敗した人間の本性が表れる街だ。これは、そんな街の状態を具現化した結界。人類の罪の一つだ!」
矢が飛んでくる。
千景はそれを迎撃しようとするも、視界が霞み、防ぎ損ね、矢を胸に受けてしまう。
「ぐぅ!?」
膝をつく。しかし、矢は体をすり抜ける様に落ち、千景の状態は最初に
だが、霧の毒素はなおも千景を蝕む。
「くそ・・・!」
逃げる事は叶わない。攻撃を当てる事も出来ない。そんな状況の中、千景は武器を構え、敵を迎え撃つ。
一方、園子の方では、怒濤の剣戟が巻き起こっていた。
「オオォォォオッ!」
翔琉が絶叫するも、園子に剣は届かない。
その理由は、園子の卓越した槍技にある。
まるで踊っているかの様に、槍を操り、翔琉の二刀の長剣の乱舞を凌いでいく。何の苦も無いかのように。
それ故に、翔琉は苛立つ。
この日の為にどれほどの修練を重ねて来たのか。世界を壊す為にどれほどの努力を重ねて来たのか。神樹を殺す為だけに、どれほどの苦痛を受けて来たのか。
分かる訳がない。
「何故だ!」
激しい剣戟の中、翔琉は叫ぶ。
「何故貴様はこの世界を守ろうとする。お前は裏切られた筈だ。この世界に、神樹に、大赦に。ずっとベッドの上で過ごさなければならないような体になって、何故この世界を守ろうとする!?答えろ!乃木園子!」
互いに弾き合い、距離を取り合う。
「・・・そんなの、決まってるよ」
それに対して、園子は確固たる決意を持って言い放つ。
「
彼女は、この結界の影響を受けていない。だから、まともに動ける。
翔琉が動く。
右手の剣での、突き。
まるでジェット噴射の様な弩級の速度で放たれる強力な突き。
突きは、あらゆる武術において、最も
その一撃は、園子の顔を貫かんと迫る。
「わわ!?」
それを園子はギリギリのところで頭を傾けて回避する。
その直後に、園子は翔琉を蹴り飛ばす。
「ぐ・・・!」
強制的に距離を取られる翔琉。
(時間はあまりかけてられないかな・・・)
この戦いにおいて、翔琉の成長は異常な速度で進んでいる。かなりの才能の持ち主だ。おそらく、短期間でありとあらゆる剣術をその身に叩き込んだのだろう。
このままでは追いつかれる。
ならば、と園子は次の行動に出る。
「
彼女の側に、一体の精霊が出現する。
鴉のようだが、その服装は天狗のような装束をまとっている。
その精霊を出現させた園子は、槍の柄の端を両手で持つと、それを頭上から思いっきり振り上げる。
「対天武術『
そのまま一気に頭上から振り下ろす。しかし、槍の射程には、翔琉はいない。むしろ、程遠い。
園子の、その行動に首を傾げる翔琉。
すると、彼女の持っている槍の柄部分が、物凄い勢いで
「!?」
彼女の槍の能力は、長さの無限伸縮。その長さに制限はない。
しかし、翔琉のそこからの防御は、まさに神業と呼べる程の速さだった。
両手の剣を交差させ、その槍を受け止める翔琉。
だが、その衝撃は恐ろしく重い。
「ぐぅ!?」
「まだまだいくよ~」
園子は、槍を元の長さにすぐさま戻すと、今度は自分から接近。
「『
ほぼ同時に三撃、神速の突きが迫る。
それを翔琉は両手の剣を持って、一撃目、二撃目を逸らし、三撃目を回避する。
その三撃を凌いだ翔琉は、すぐさま反撃に出る。
恐ろしい速度で振るわれる剣。
「『
それを園子は、まるで流れるような動作で逸らす。
だが、翔琉はすぐさま、もう片方の剣で追撃。しかしこれもいとも容易く躱される。
まるで、水を切っているかのように抵抗が無い。
翔琉は、両手交互に剣を振るう。その速さは、常人では見切れない。
それに対して、園子は流れるように槍をふるい、その連撃を捌き切る。
一見、園子は余裕そうに見える。だが、そうではない。
僅かだが、翔琉の剣が園子の頬を掠める。
「ッ!?」
それに、表情を強張らせる園子。
余裕は、本当は無い。
何せ、最近まで
流石に、一年近くもベッドの上で何もしないで生活をしていれば、腕が鈍るのも致し方ない。
それに、感も鈍っている。
(これじゃあ
内心で苦笑しながら、園子はポーカーフェイスを貫き通す。
意識を研ぎ澄ませ。
斬撃に、一切のブレを作るな。
水面を鎮めろ。
決して揺れを作るな。
一切の無駄なく放たれる一撃は、どんな技でも、一級品に昇華する。
全てを守れる刃となる。
園子は、自身の師匠の教えを、心の中で反芻する。
だからこそ、決める。
(私の一番の得意技ッ!)
「行くよッ!」
「ッ!?」
翔琉の懐に飛び込む園子。
それは、槍使いにとって、自殺行為に等しい行為だ。
だが、園子がやるのは、槍による攻撃ではない。
唯一生き残っている、左手と右足。
それを使って、園子は、翔琉の腹に強烈な一撃を叩き込む。
掌打だ。
左掌による、打撃。それによって翔琉は空中へ吹き飛ばされる。
「ぐぅッ!」
「対天武術ッ―――――!!!」
園子は、、自らの槍の射程から、翔琉が出てしまう前に、右手に持った槍を一気に突き出す。
体中の各所で、捻り、伸ばし、曲げ、僅かな『加速』を起こし、それらの速度を、全て右手へ集束し、ありったけの力で、一気に解き放つ、園子唯一のオリジナル槍術。
「『
超神速の刺突が、翔琉を打ち貫く―――――まではいかなかった。
天性ともいえる反応速度で、その突きを防いだのだ。
両手の剣を交差させて、槍の軌道上で防いでいた。
だが、それで良い。
「鴉天狗ッ!」
叫ぶ園子。すると、槍が物凄い速さで伸び、翔琉を彼方へと連れていく。
「ぐぅおおおお!?」
彼方へと飛ばされていき、見えなくなる。
ある程度まで伸びた槍は、すぐさまもとの長さに戻る。
「さて、これであの人はしばらくは・・・・」
園子は、元の長さに戻った自分の槍を見る。
「う~ん、やっぱり前よりも速さが落ちてるな~」
そうぼやく園子。
ふと、殺気を感じた園子は素早く前に飛び出し、振り返る。
そして、腹に鋭い痛みが走る。
美紀が、背後から奇襲し、その一撃が、園子の体を掠ったのだ。
ただ、浅い筈なのに、美紀の顔には狂喜が現れていた。
それに疑問を感じた園子だが、すぐさま彼女の体を引き千切るかの様な激痛に襲われる。
「がはっ!?」
さらに、吐血。
口から少量の血を吐いた程度だが、体には、刃物で斬りつけられたかの様な痛みがあった。
これは、呪いか?
「あらら、しくじっちゃったかな・・・?」
まあ問題はないのだが。
「どうもこうも」
彼女の側に、新たな精霊が現れる。頭が二つある、奇妙な妖怪だ。
その精霊が、園子の斬られた部分を撫でると、その傷は一瞬にして塞がる。
「あら、傷痕は残っちゃったか。まあ呪いの類だからしょうがないよね」
と、気楽に笑う園子。
体の痛みも引き、上手く体も動く。
「どうして!?」
その一方で、美紀は驚いていた。
おそらく、先ほどの一撃で死ななかったからだろう。
「ごめんね~、私に呪いの類はあまり効かないんだ~。なんだか、耐性?っていうものがあるみたいだから~」
「く・・・・でも」
一瞬、悔しそうに顔をゆがめるも、すぐさまその顔を笑みに変えて、もう一度園子に襲いかかる。
「直接、バラバラにすれば・・・・!」
と、刃を突き立てようとした、その時だ。
「オオオォォオッ!!」
「え・・・?」
すぐ横から、千景が鎌を変形させて、光の刃を出現させる大技『大葉刈』で美紀におそいかかってきた。
「元凶はお前かァ!」
「あ・・・・」
下からすくい上げるかのように、鎌を振り上げた。
何かが砕ける音と共に、美紀の体が宙を舞う。
そして、地面に落ちる。
「あ・・・うう・・・」
胸から、止めどない程の量の血が流れ出ている。
ナイフで心臓への直撃は免れたようだが、それでも、ナイフは砕かれ、致命傷を負った事には代わりない。
「終わりだ」
「うん、もう終わりにしよ?」
そう、さとす様に言う二人。
「うう・・・・ふえぇ・・・」
一方で美紀はあまりにも痛いのか、泣いている。
とてもではないが見ていられない。
だが、そうも言っていられないのも事実。
二人は、警戒する。
だが、突如として、千景が殴られたかのように前のめりに倒れる。
「!?」
その後頭部には、一本の矢が突き刺さっていた。
それを見た園子の反応は速かった。
すぐさま槍を手の上で回転。後ろに回して、敵の第二射を弾く。
だが、それでは終わらない。
「美紀から離れろォ!」
「わわわ!?」
佐奈が鬼の形相で蹴りを放ってくる。側面から打撃を加える回し蹴りだ。
それを園子は体を反らし、頭を下がらせることで回避する。
佐奈はそのまますれ違い、美紀の元へ降り立つ。
そして、矢をつがえ、その
「うう・・・・佐奈さぁん・・・」
「安心しろ、すぐに助けてやる」
先程とは一変して、まるで母親のような慈愛に満ちた表情で美紀に微笑む。
だが、美紀から視線を外し、千景たちを見たとき、その表情は険しいものへと戻っていた。
千景が起き上がる。
「いきなりかよ」
千景は呆れた様子でそう呟く。
「あれ?生きてたんだ」
「そういう設定だからな」
そんな軽い会話をするも、注意は佐奈からはそらしていない。
「・・・さっきの攻撃、どうして私を先に狙わなかったのかな?」
園子がそう問いかける。
確かに、圧倒的な力を持つ園子を不意打ちで倒せるなら、これ以上の戦果はないだろう。
だが、彼女は千景を先に狙った。
「そこまでのチャイルドコンプレックスって事かよ」
千景が翼から聞いたこと。
彼女は、千景と同じ捨て子だったらしい。理由は不明。
ただ、拾ったのが施設ではなく、六道家傘下の家系の一つの『阿室家』だった。
そこで養子として引き取られ、大赦暗部部隊の一員としての訓練を受けた。
当時、六道家次期当主の座は翼の兄のものだった。当然、道場で会う事は必然とも言える。
格闘技において、目覚ましい成果をあげていた佐奈は、当然の様に目立つ。
足も速く、知能も高い、そして容姿も抜群とくる。
まさしく、『強い者こそ美しい』を体現する人であった。
そんな彼女だが、彼女には、とある願いがあった。
自分と同じ境遇の子供達を救いたいと。
全ての子供達に、少しでも良い。幸福を与えたいと、そう願っていた。
例え全てを救えなくとも、ほんの少しでも、助けられたらと、そう思っていた。
だから、訓練の合間に、近所の子供達と一緒に遊んであげたりと、そうやって生活してきた。
そんななかで、二年前の事だ。
彼女が中学二年にあがりたての三月の頃だった。
彼女と親しかった近所の子供が、強盗に殺された。
それも、彼女の目の前で、だ。
その強盗を行った男は、半殺しになった状態で逮捕されたらしい。
その半殺し状態にしたのが、佐奈だった。
そして、事態はさらなる急展開によって最悪の方向へ向かう事になる。
例の、暗部部隊の壊滅だ。
ほとんどが弓矢によって射殺されていた。
その犯人が、佐奈だったらしい。
唯一の目撃者が、翼の兄であり、その証言から、そういう事になったらしい。
大赦は彼女を指名手配したが、ついぞ捕まることなく、捜索は打ち切られた。
そして、翼の兄は、当主の座を翼に譲った。
その時、翼は兄を問い詰めたらしい。
何故、当主の座を降りたのだと。
兄は、短く。
『俺は佐奈の想いを理解してやる事が出来なかった』
とだけ、言い、己の持つ権限のほとんどを翼に託した。
それが、千景の知る真実。
このことが、本当なら、佐奈は、相当な子供好きだという事だ。
しかし、何故そんな彼女がこの世界の滅亡を願うのか。
「・・・・お前達も、この
「世界の真実・・・?」
佐奈の言葉に首をかしげる千景。
だが、園子には分かっていたようだった。
「もしかして・・・壁の外を見たの?」
千景は、彼女たちの会話に、疑問符を浮かべるばかり。理解する事が出来ない。
「そうか、お前は
佐奈は怒鳴り散らす。
「お前達勇者は永遠に戦わなければならない!
純粋な怒り、憎悪を吐き出す佐奈。
「神樹が力尽きれば、どうせこの世界は終わる。子供達も救われない。この世界じゃ救われるわけがない。お前達のような子供を犠牲にし続けていく世界なんて、私はいらない。新しい世界なら、そんな事はなくなるんだ。誰もが救済される世界が、確かにあるんだ。誰も苦しまない、不幸にならない。そんな、確かな幸せがある世界が、そこにあるんだ!」
千景には訳がわからなかった。壁の外、絶望、神樹、見た。それらのワードをどうにか繋げようとして、千景は、先祖の記憶を掘り起こした。
そして、行き着いた。
「なのに、何故お前は戦おうとする!?あの男か!?あの男の『命令』だからか!?お前は、道具じゃない。そんな『命令』を聞く必要なんかない!何人もの子供達を、勇者にして戦わせて、殺している、あのろくでなしの男に、何故従う!」
そう言い終えた時だった。
「・・・・・
その、確かな言葉に、彼女は反応した。
そう、反応してしまったのだ。
彼女最大の逆鱗に、佐奈は触れてしまった。
「今、あの人の事を、ろくでなしって言った?」
「・・・・」
何も、言えない。いう事が出来ない。そうだと言おうとしても、彼女の本能が、無理矢理声帯の機能をカットしていた。
言ってしまえば殺される。本能がそう語りかけてくる。
逃げろ逃げろ急かしてくる。だが動く事さえも出来ない。足が動かない。
「・・・・」
それは、隣にいた千景も同じだった。
それは、余りにも濃密な殺気。
その場にいる生物が震え上がり、すくみあがり、絶望する程の、殺意。
化身が見える。彼女の怒りを具現化したかのような、化け物が見える。
それほどまでに、その人物の事を、けなされたくないのか。
「あの人は、いつも苦しんでるんだよ。あの人は、いつも辛かったんだよ。大切な人たちに
彼女は、自分の胸に、握り拳当てる。
「そんな人を、今、ろくでなしって言ったの・・・・!?」
それは、明確な殺意。濃密な殺気。触れる者全てを、殺す程の威圧。
そんなモノを向けられて、喋れるわけが無い。動けるわけが無い。
穏やかそうな少女の、唯一触れてはいけない逆鱗。
それに今、佐奈は、触れてしまった。
「もしそうならさ・・・・」
園子が、槍を構える。
だめだ。それ以上はいけない。
その領域に踏み込めば、確実に戻れなくなる。
そこへ、入ってしまえば、貴方は、二度とまともではいられなくなる。
止めなければ、あの人の子孫である彼女を止めなければ。
動け、動け動け動け、動いてくれ。
「死んでよ」
彼女が、明確な言葉を呟き、その切っ先を、佐奈に突き立てようとした。
「それ以上はだめだァァァアアア!!!」
その前に千景が絶叫した。
「!?」
それに、園子は、踏み込んだ所で止まった。
「・・・・・・・・あ」
そして、怯えた。
「や・・・ちゃ・・・・・た・・・・」
まるで、怒られて、縮こまる子供のように、園子は後ずさった。
そんな彼女を、千景は後ろから抱きしめた。
「―――落ち着いて」
「ッ!?」
「大丈夫、落ち着いて。ゆっくり息をするんだ」
千景は、彼女が落ち着くまで、抱きしめた。
人が安心する行為として、他人の体温を感じる事に、それほど安心する事はない。
「・・・ん、もう大丈夫、ありがとう」
「そりゃどうも」
気付けば、霧は晴れていた。
園子の殺気が切れ、それによって美紀が気絶した結果だった。
同時に、佐奈の四肢が弛緩したのか、地面にへたり込む。
異常だった。
とても、年の近い少女のものとは思えない程の、殺気。
ただ一人、彼女が『
おそらく、そこまで大切な人なのだろう。
(あまり言わない方がいいな・・・・)
そう心に誓う千景だった。
その直後だった。
空が爆ぜた。
否、それは、御霊が砕け散った時の光だった。
「友奈・・・・やったんだな」
そこへ、翔琉がやってくる。
「チッ・・・」
舌打ちする。
「おい、二人を回収していくぞ」
「あ、ああ・・・」
まだ、脱力しているのか、よろよろと立ち上がる佐奈。
二人は、気絶している美紀、真斗、弘の三人を回収し、立ち去ろうとする。
「あ、おい!」
追いかけようとした千景だったが、園子が止める。
「追いかけても、意味ないと思うよ」
諭すように言われ、引き下がる千景。
「・・・・覚えておけ」
立ち止まった翔琉が、肩越しに振り向く。
「これで終わりでは無い」
そう言って、すぐさま遠くへ行ってしまう。
「なんだったんだ・・・・それに、最後じゃないって・・・?」
「残念だけど、あの人が言ったことは本当だよ」
「え・・・・?」
園子の言葉に、千景は呆然とするしかなかった。
次回『星砕く拳』
ここに一つの戦いが終わりを告げる。