不道千景は勇者である   作:幻在

21 / 98
星砕く拳

御霊が破壊される、数分前。

「ハァッ!」

「オォッ!」

拳と刃が激突する。

幸奈の拳は手甲によって守られているため、斬撃によって傷つく事がない。

しかし、衝撃は腕にダイレクトに伝わってくる。

鎌による重い衝撃を、常に拳で、腕で受け止めなくてはならない。だから、腕には大きな負荷がかかる。

持久戦では、断然千景が有利だ。

幸奈が、懐に入る事もある。

だが、どういう訳か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()巧みに鎌の柄で幸奈の攻撃を防ぎ回避してくる。

「どう、して!?」

なかなか自分の攻撃が届かないことに、焦りを感じ始める幸奈。

千景は、この日の為に、戦闘訓練など受けてこなかった筈だ。

だというのに、何故ここまでして()()()()()()()()()

その理由が、幸奈には分からなかった。

一方で千景といえば。

(似ている・・・・)

鎌を振るいながら、ここまで攻撃を受けず、与えられない拮抗状態の中、幸奈の戦い方を、ある人物と重ねていた。

(高嶋さんの戦い方によく似ている・・・友奈の場合は父親から学んだから、流派の特色が表に出ているが、高嶋さんの場合、ありとあらゆる武術や格闘技を教え込まれてきたから、決まった型がない)

空手、ボクシング、カンフーに柔道や合気道、様々な武術を教えられていた初代勇者のムードメーカー『高嶋(たかしま)友奈(ゆうな)』の戦い方に、幸奈の戦い方はよく似ていた。

(その手の戦い方を学んだなら、俺はよく知っているぞ!)

「オオッ!」

鎌を薙ぐ。

幸奈が手甲で防ぐ。

「く!だったらッ!」

彼女の周りを黒い風が巻き起こる。

「!?」

「吹き飛べッ!」

掌の中に、風が集束する。

螺旋に渦巻くその風の球体をもって、千景に一瞬にして走り寄る。

そして、掌に収まる螺旋の球体を、千景に向かって一気に開放する。

それを千景は防ごうとする。が、

「ッ!?」

何か嫌な予感が背筋を走り、千景は、すぐさま防御を放棄。代わりに右手を前に伸ばしつつ体を捻り、強風の一撃を避ける。

そして、地面を蹴り、幸奈の肩に右手を置いてハンドスプリングで、次に来た蹴りを回避した。

そのまま幸奈の背後に降り立った千景は振り向き様に鎌を薙ぐ。

それと同時に幸奈が風を纏った拳で迎撃。

双方の攻撃が正面からぶつかりあう。

「ぐあ!?」

吹き飛ばされたのは、千景だった。

そのまま靴底をすり減らしながら後退する。

「アアア!!」

「!?」

幸奈が追撃してくる。

黒い風は、ただでさえ強力な力を有する。

まともに受ければ、ただでは済まない。

千景は、回避と防御に徹する。

だが、千景が憑依させている『七人御先(しちにんみさき)』では、あまり効果がないといえる。

 

七人御先。

その能力は、同一個体の七体同時存在。

いわば、一つの存在を七つに分け、同時に存在させる事。

その数は、絶対に増える事も減る事もなく、それ故に、七人いるうち一人が死んでも、別次元から別の存在の千景が入れ替わり、戦闘を続行する。

一体死ねば、一体入れ替わり、二体死ねば二体入れ替わる。

()()()()()()()()()()()()()()、決して死ぬ事の出来ない、いわば、『不死化』だ。

本体なんて存在しない。それぞれが別々の個体であり、同一の存在。

それが、千景の操る七人御先の力。

 

 

そもそも、この憑依、西暦の時代において『切り札』と呼ばれていたこの力は、神樹の中に存在する概念的記録にアクセスし、その力を概念にあった形で引き出すと言ったもの。

その使用には、肉体的負荷と精神的負荷の二つがある。

強力な精霊なほど、操れる力の強大さは、大きくなるが、その反面、肉体にかなりの負荷がかかり、体自体が摩耗していく。

その上、切り札は、一種の降霊行事のようなものであり、妖怪などの悪霊の類を体の中に宿すのだから、体の中に、なんらかの瘴気が溜まり、精神に影響を及ぼすのだ。

かつて、千景の子孫である郡千景は、その精神的負荷によって一人の勇者を殺めかけた事がある。

だから、切り札の使用は出来るだけ控えるべきなのだが。

 

 

(そんな事考えてる暇はねぇえええ!!)

実に()()()()()()で幸奈の攻撃を受け流していく千景。

しかし、幸奈の攻撃が激しい事には変わりはない。

一応、()()()()()()()()()()()()精霊はもう一体存在する。

だが、それをやれば別の場所で戦っている別個体の千景が消滅してしまう。

(園子が戦ってるから大丈夫か?いや、いくらアイツでも厳しいだろう)

ならば、このまま戦うしかない。

と、そこで蹴りを入れられ、吹き飛ばされる千景。

「ぐあ!?」

地面を転がり、木の根に叩きつけられる。

「がは・・っ!」

致命傷故のダメージで血を吐く。

それと即時に別の千景と入れ替わり、完全復活する。

「いい加減に・・・・してよ・・・!」

苦々し気に睨み付けてくる幸奈。

「断る」

千景は、鎌を構える。

「――――ッ!!」

それに、幸奈は泣きそうな顔になって、黒い竜巻を巻き起こす。

「どいてよ!」

その黒い風を纏って、千景に突っ込む。

「どかねえ!」

鎌を変形させ、光の刃を出現させる。

「アァァアアアアァアアッ!!!!」

幸奈が、拳を突き出す。

大葉刈(おおはがり)イィィィ―――――!!」

刃が、拳が正面から激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙―――

 

美森の満開によって出現した戦艦に乗って、上空にある御霊に向かう友奈と美森。

いつみても、その大きさには圧倒されてしまう。

と、まっすぐに御霊に向かっていた二人だったが、突如として御霊が自らの体から欠片を削り出し、それを友奈たちに向かって放った。

「御霊が攻撃!?」

「迎撃するわ!地上にはおとさない!」

冷静に対処する美森。

八門の砲門から、一斉に掃射する。

その一撃は向かってきた欠片を全て破壊した。しかし、それで終わりではなく、次から次へと欠片が向かってくる。

「く・・・!」

美森は思わず顔をしかめる。

「東郷さん・・・」

「大丈夫・・・・友奈ちゃん、見てて」

ぎゅっと友奈の手を握り絞める美森。きっと、自分が全ての欠片を落としきって見せるという、宣言。

それに、友奈は力強く答える。

「・・・・うん!」

美森は、すぐさま八門の砲門から砲弾を撃ちまくる。

「一個たりとも通さないッ!」

その言葉通り、美森は、全ての欠片を落としまくる。

だが、如何せん、数が多すぎる。

いくら射撃に秀でた美森でも、

 

当然、撃ち漏らす。

 

欠片の一部が、通り過ぎていく。

「しまった・・・!?」

思わず振り返る友奈と東郷。

だが、それも杞憂に終わる。

撃ち漏らした欠片が、どこからともなく飛んできた無数の矢によって撃ち抜かれる。

「あれは・・・!?」

「翼君!」

なんと、翼が追いかけてきて両手のボウガンで欠片を撃ち落としたのだ。

「やっぱり心配で来ちゃったよ。バックアップは任せて、心置きなく進めッ!」

翼は、両手のボウガンから矢を連射し、欠片を撃ち落としまくる。

「翼君・・・支援、感謝する!」

「ありがとう!翼君!」

進み続ける戦艦。撃ち抜き撃ち落とし、破壊し突き進む。

撃ち漏らしは、全て翼のバックアップの元、全て撃ち落とされる。

そして、とうとう御霊に辿り着く。

「凄いよ東郷さん!ここまで来たよ!」

友奈が歓喜の声をあげる。だが、満開の長時間使用の上、御霊の欠片を撃ち落とし続ける事による疲労によって、倒れかける美森。

それを、友奈が支える。

「東郷さん!?」

「・・・・友奈ちゃん・・・・ごめん、ちょっと疲れちゃったみたい・・・」

美森は、無理に微笑む。

それに、友奈は両手で美森の右手を包む。

「うん、ありがとう、東郷さん」

精一杯の感謝を込めて、

「・・・見ててね、やっつけてくる!」

友奈は、宣言する。

それに、美森は、

「いつも見てる」

送り出す。

「満開ッ!!」

叫び、友奈は、もう一つの姿を、その身に開花させる。

両側に、剛腕を出現させる。

「皆を守って・・・・」

拳を、握りしめ、振りかぶり、それを、御霊に向かって振るう。

 

「勇者になぁぁぁぁぁああああああぁああああぁああるッ!!」

 

御霊に向かって飛ぶ友奈。

それを支援するかの様に、美森と翼が、最大出力を持って、援護射撃に出る。

八門一斉掃射(フルファイア)

火砲級貫通矢(カノンボルト)

その二つの強力無慈悲の砲火が、御霊の一部を吹き飛ばし、中を露出させる。

「そこだぁぁぁあああぁああああッ!!!」

そこへ、友奈は剛腕を叩きつける。

そして、何度も拳を叩きつけ、中に入っていく。

「友奈ちゃん・・・・」

美森は、そんな友奈を見送る。先ほどの砲撃で、全ての力を使い果たしたのか、満開が解除されていく。

そんな彼女を、抱きしめる者が一人。

「お疲れ様」

翼だ。

彼は、やはりいっぱいの優しさの中にほんの少し哀しみ紛らせて笑っていた。

「・・・・翼君も・・・」

その時、美森は、微かに、その言葉に、懐かしい感覚を覚えた。

「・・・お疲れ様」

青い光が、二人を包んだ。

 

 

 

 

 

 

拳を叩きつけ続ける。

幸奈に喰らったダメージが痛み、意識が何度も飛びそうになるも、耐える。耐え続ける。

拳を叩き続け、突き進み続ける。

だが、やがて、行き止まりはやってくる。

拳を叩きつけても、もろく、砕け散る筈の御霊の物質が、砕けない。

「硬いッ!?」

さらに、御霊が友奈を押しつぶすかのように、その体を再生させていく。

「う、うわぁぁあああああ!?」

再生していく御霊に、押しつぶされる友奈。

(う、動けない・・・!?)

無理矢理、体を動かそうとする。しかし、御霊の再生は、友奈を完全に押しつぶさんと、再生を続けていく。

(う・・あぁあ・・・・!?)

御霊が再生していこうとする度に、胸のダメージに響く。

(あ、ああ・・・)

意識が飛びそうになる。体が痛い。潰される。死ぬ。息が出来ない。痛い。壊れる。死ぬ。消える。跡形もなく。

様々な恐怖を、友奈を襲う。

朦朧とする、意識の中で、友奈は、ある事を思った。

 

なんで、戦っているんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは、すぐ傍にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者だからだよッ!!!!!」

体を奮い立たせ、自分を圧迫していた御霊を砕く。

「勇者部五箇条ォッ!!!ひとぉぉぉぉぉつッ!!!」

拳を叩きつける。友達の為に。

「なるべく、諦めなぁぁぁぁあああぁぁあいッ!!」

拳を叩きつける。皆の為に。

「さらに、勇者部五箇条ッ!!」

拳を叩きつける。前に進む為に。

「もうひとぉぉぉぉぉぉおおおつッ!!」

拳を叩きつける。待っている、人の為に。

「成せばぁぁぁぁぁぁああああああ大抵ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい―――――――!!!!」

 

学校の裏にある、一本の木の下で、自信作の押し花を、渡した男の子の顔が、思い浮かんだ。

 

「なんとかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁああああああるッ!!!!」

 

 

 

次の瞬間、御霊が砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嵐が過ぎ去ったかのような惨状の場所に、二人は立っていた。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

息をあげ、右腕から血を流し、背中を丸め、項垂れている幸奈。

「・・・・」

鎌を構え、無傷の状態で、幸奈を睨み付ける千景。

 

はっきり言って、先ほどの正面衝突は、幸奈が勝った。

 

千景の体半分を吹き飛ばしたが、千景の大葉刈は、幸奈の右手を深々と斬った。

死んでも再生する千景に対して、怪我をすれば、治らない幸奈。

右手が使えない、その上、血を流している量も少なくはない。

持久戦では勝ち目はない。

双方、睨み合って、動かない。

だが、突如として、空が爆ぜた。

「「!?」」

二人して、空を見上げる。

それは、御霊が破壊された際の、散り様に発する光。

「・・・御霊が破壊されたのね」

「そうだ。もう終わりだ」

千景は、刃を向ける。

「投降しろ。これ以上は無駄だ」

「・・・・」

幸奈は、答えない。

だが、しばしの間を置いて、幸奈は口を開いた。

「・・・・まだ終わりじゃないわ」

「何?」

「壁の外を見てみれば分かる。この世界は、絶望しかないわ」

黒い風が巻き起こり、千景は思わず手で顔を庇う。

そして、風が収まり、手をどかしてみれば、そこには、誰もいなかった。

「幸奈・・・」

その名を呼ぶも、誰も答えてくれはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当って、どういう事だよ・・・・」

千景は、園子に向かって、そう言う。

「何から話したらいいかな・・・・そうだ。君は、壁の外の事を知ってるかな?」

「壁の・・・・外・・・・?」

千景は、しばし逡巡し、答えを述べる。

「ウィルスに汚染された世界・・・・というのが建前上の大赦の言い訳だろう?」

「あれ?知ってたの?」

「少なくともここまではな」

「それなら、バーテックスが一体何によって作られたのか知ってる~?」

それにも、千景は考える。

この場合、二つの結論がある。無知であるか既知であるか。

ただ、この少女の場合は、恐らく、()()()()()のだろう。

 

 

「―――天の神が、人類への天罰の為に、使わせた存在。だから、頂点(バーテックス)

 

 

「うん、そうだよ。よく、知ってるね」

「まあな・・・・」

園子は、あえて、千景がその事を知っている事について、追及しない。

「君の言った通り、バーテックスっているのはね、天の神様が、人類への粛清として送り込んだ、天の使い」

「奴らは、地上の生物が数百年かけて成し遂げてきた進化を、融合によってものの数秒で成し遂げる。さっきのバーテックスが融合したのも、その進化によるものだ・・・まだ進化するなんてな・・・」

先祖の記憶の中にある、地獄を千景は思い出す。

「うん。そして、この結界の外にはね。何もないんだ」

「何もない?」

流石にそこまでは知らない。

「まるで人類の痕跡そのものを忌み嫌うかのように、全てを焼き払ったんだよ。地上のありとあらゆるもの全て、跡形もなく消し飛ばしたんだよ」

「・・・・・」

それに、千景は絶句する。

消し飛んだ?何故?

記憶には無い・・・つまり、その瞬間を先祖は見ていない?

「たぶん、人類再興の可能性を片端から排除したいんだと思う。そのお陰で、今、こんな事になってるけどね」

と、園子は、赤い光を纏って落ちてくる隕石のようなものを見る。その眼には、何かを懐かしむ様な、そんな感情が籠っていた。

「・・・・貴方は、まさか・・・」

「・・・・ごめんね。話せるのは、今回はここまで。次もまた会えると思う。その時は、もっとお話しするね」

園子が、指を鳴らす。

次の瞬間、何かが破裂する音と共に、園子は煙に包まれ、それが晴れた時には、そこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御霊を破壊した。

その達成感と共に、友奈は、地面に向かって落ちていく。

そんな友奈を、美森が受け止め、翼が支える。翼の満開は、まだ解かれていない。

その足元には、美森が満開の最後の力を使って残した、戦艦の船底部分。

「東郷さん・・・翼君・・・」

「友奈ちゃん・・・お疲れ様」

「お疲れ、友奈ちゃん」

成し遂げた友奈を、労う二人。

「・・・・おいしいとこだけ、とっちゃった」

「・・・・ごめん。最期の力で、これだけ残したけど・・・・持つかどうか、分からない」

美森は、申し訳なさそうに言う。

「大丈夫」

そんな美森に、友奈は微笑む。

「きっと、神樹様が守って下さるよ」

「・・・・そうね」

そう、微笑みあう。

「・・・あのさ、僕の存在を忘れてもらっちゃ困るんだけど」

翼が、頬をかきながらそう言う。

「あ、ごめんね翼君」

謝罪する友奈。ただ、美森は、真っすぐに翼を見ていた。

「・・・・大丈夫、なんだよね?」

「・・・・うん。君の為なら、どんな事だって出来るよ」

そう言い、翼は、自身の満開の力を開放する。

「僕の力は、守る為の楯と弓だ」

守る為に、どんな距離からでも、助けられるように。

 

かつて、二人の勇者がいた。

その二人は、姉妹の様に仲が良かったと言う。

その二人がそれぞれ持っていたのが、(たて)(おおゆみ)

 

翼の端末は、性質が近い弩の勇者のものに、楯の勇者のものを組み込んだものだ。

 

故に、彼には全てを守る楯と全てを撃ち抜く弓が与えられた。

 

船底が、落下を始める。

「守るよ。どんな事があっても」

そう言った瞬間、盾が碧く白く光り出す。

「――――『神屋楯比売(かむやたてひめ)』」

青白い光が、三人を包み込む。

翼が、満開状態において、最大の防御力を誇る、絶対防御の楯。友達の師から与えられた、かつて、初代勇者の持っていた楯の名前を持つ、絶対防御の力。

 

二度と、大切な人を失わない為の、翼の楯。

 

それは球体となり、やがて、大気圏に突入。摩擦によって赤熱するも、熱は、通さない。

中にいる、友奈と美森は、手を繋ぎ合い、寝転がる。

その表情は、とても安らかだ。

それに、翼も笑みを零す。

絶対に、この楯が砕ける事はないからだ。

だが、それでも落下の衝撃までは殺せない。

 

だからこそ、地上にいる者が動く。

 

ワイヤーが、網状に編まれ、落下物を受け止める。

「樹ちゃん・・・・!?」

樹が、無数のワイヤーを使って、受け止めようとしているのだ。

しかし自由落下による等加速度運動によって、恐ろしい速度で落ちてくる物体を支えきれず、ワイヤーが引き千切れる。

だが、それでも樹は諦めない。

「すごい衝撃・・・・!?」

巻き起こる風圧に、感嘆を漏らす樹。

「絶対、助けて見せます!」

いくつもワイヤーが落下物に絡みつき、引き千切られ、また絡みつき、無理矢理にでも止めようとする。

絡みつく度に、確実に、その速度は落ちている。

そして、地面に直撃する寸前で、落下は止まった。

「ナイス根性、樹!見て、アンタが止めたのよ!」

夏凜が、歓喜の声を上げる。

白銀之大楯が解除され、中から、友奈、美森、翼の三人が出てくる。

「はは・・・本当にすごいよ・・・・樹ちゃん・・・・は・・・・」

ばたりとうつ伏せに倒れる翼。それと同時に満開が解除される。

「翼様・・・!?」

悲痛な声をあげる夏凜だったが更に、樹も力尽きたかのように後ろに向かって倒れかける。

それを夏凜が慌てて支える。

「いってあげて・・・・下さい・・・・」

「・・・ええ」

樹をそこに座らせ、夏凜は三人に走り寄る。

「・・・・お姉ちゃん、私、頑張ったよ・・・」

満開が解除される。

「サプリ、きめとけばよかった・・・・」

そして、倒れる。それを、千景が支える。

「お疲れ様、樹」

彼女を寝かせる。その直後。彼の体が霞み始める。

「もう限界か・・・」

そう呟いた直後、千景の姿が、消えた。

七人御先が解除されたのだ。

一方で。

「友奈ーー!東郷ーー!翼様ーー!」

夏凜は、三人に駆け寄る。

だが、三人とも目覚めない。

「友奈!?東郷!?翼様!?」

呼びかけても、返事しない。

「おい!皆、しっかりしろよ!」

それでも、起きない。

起きない事で、焦る夏凜。

だが、それと同時に、もう一つの可能性が思い浮かばれる。

それを思うと、胸が締め付けられ、眼尻に涙が溜まる。

その時だ。

「げほ・・・・」

短くせき込む声。

それに、目を見開く夏凜。

「え、えへ・・・大丈夫」

友奈が、目を開けて、そう言う。

「う・・うう・・・」

美森が、呻き声を上げる。

「はーい・・・・なんとか・・・・生きてます・・・・」

風が、仰向けに倒れた状態で手を上げる。

「ぐおぉお・・・・いてぇなぁ・・・・おい・・・」

剛が、答える。

「げほ・・・・ごほ・・・・!?」

樹がせき込む。

「ハハハ・・・・結局皆生き残ったね・・・」

翼が苦笑いを浮かべる。

それに、夏凜は、嬉しそうな表情をする。

「なんだよ、もう・・・・皆・・・はやく返事しろよ!」

眼尻に、涙を浮かべ、そう言う。

「はは・・・やっぱ似てるなぁ・・・・君は・・・・」

最後に、翼はそう答え、顔を傾け、美森を見る。そして、天高く拳を突き上げる。

(・・・・守ったよ・・・・銀ちゃん)

 

 

 

 

 

 

 

ここに、一つの戦いが決着を迎えた。

勇者部側の被害。

三好夏凜 右腕負傷

三ノ輪剛 火傷軽微

 

襲撃者側の被害。

稲成幸奈 右腕負傷

針目美紀 胴体重傷

車田真斗 全身火傷

加賀弘  全身火傷

 

バーテックス

ピスケス   撃破

アリエス   撃破

タウラス   撃破

ジェミニ   撃破

リブラ    撃破

アクエリアス 撃破

レオ     撃破

 

過去撃破したバーテックスの数を合わせ、十二体。

 

 

 

 

 

よって、全てのバーテックスを倒した事が確認された。

 

 

 

勇者側の勝利が、ここに確認された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは、()()()()()()()()()という事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香川県丸亀市。

讃岐国とも呼ばれるその県のある土地にそびえ立つ、一つの城、『丸亀城』。

そこの石垣の上にて、一人の男が、水平線に沈む夕日を見ていた。

「・・・・・」

黒い髭が程よく口周りに生えており、髪の色は、年相応に、白髪が多い。

ガタイが良く、服の上から分かるほどに、筋肉がとても目立つ。

その男は、以前、包帯の少女――――乃木園子を訪ねた男だった。

「・・・・・まずは、一歩だ。ひなた」

自信の携帯を起動し、ポケットに入れていた巾着から、カセットカードを一つ、取り出し差し込む。

すると、データが読み込まれ、出てきたフォルダーの内一つを選び、更にその中から一つ、写真を選んだ。

そこには、六人の少女と、一人の少年が、二列に並んで写っている写真があった。

武人の様な少女。活発で無邪気そうな少女。大人しく気弱そうな少女。屈託のない笑みを浮かべる少女。どこか困っているような表情の少女。そして、お淑やかに見える、黒髪の少女。

そんな女所帯の中の黒一点、山鳩色の髪の少年がいた。

「・・・・必ず、取り戻して見せる」

ふと、そこへ、一人の少女が降り立つ。少女は、まるで中世の騎士のように、膝まづいていた。

()()()()麹塵色の髪。

牡丹(ぼたん)竜胆(りんどう)を想起させる、紅白の装束。

「お前か・・・」

「たった今、戦闘が終わりました。七体同時に攻めてきましたが無事、全てのバーテックスを撃退、更に、襲撃者に少なからず被害を与えれました。こちら側の被害は、三好夏凜の右腕負傷、あに・・・三ノ輪剛の軽微の火傷だけです・・・・ただ・・・・・」

「どうした?」

「・・・・友奈、風、樹、翼、す・・・美森、あに・・・・剛の六名が、満開を使用しました・・・・」

ぎゅう、と拳を握りしめる少女。

「・・・・そう・・・・か・・・・・」

男も、重々し気に、答えた。

「ご苦労だった・・・・園子はどうだ?」

「無事帰還したようです。特に大きな問題もなく、今はベッドの上でぐっすりと眠っています」

「そうか。ありがとう、―――。よく、戦いには参加しないでくれた。苦しかっただろう」

「いえ」

少女は立ち上がる。

「確かに戦えないのはむずがゆかったけど、勝てて良かったって思っていますよ」

少女は、そうにかっと笑った。

 

 

 

 

 

 

勇者部の戦いは、まだ続く。さらなる展開を見せて。




次回『後遺症』

奪われたのは、大切なもの。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。