不道千景は勇者である 作:幻在
バーテックスとの戦いが終わり、多大なる戦果を挙げた、千景たち勇者部一同は、検査の為、しばらく病院に入院している。
「――――はい、それじゃあ今日はここまで、お疲れ様」
「・・・どうも」
千景は、カウンセラーの言葉にそう返し、立ち上がった。
カウンセリング室を出て、千景は、長い廊下を一人歩く。
「あー、しんどかった」
肩をもんで、そう言う千景。
「まあ、しょうがないか・・・・」
千景の使った『切り札』。
それは、神樹の中にある、概念的記録にアクセスし、力を抽出、それを自らの体に体現させるというもの。
その反動は、大きく分けて二つ。
一つは、肉体的負荷。
精霊という人の身に余る力を使うのだ。
体になんらかの負荷がかかっていてもおかしくない。
それ故に、千景の体には、未だに疲労が残っている。
もう一つは、精神的負荷。
先ほどのカウンセリングの理由がこれだ。
精霊と呼ばれるものは、名前というところから調べていくと、怨霊や妖怪のような、人に害を及ぼす存在でもあるのだ。
そんなものを、体の中に憑依させて、果たして精神が無事で済むだろうか。
そんな訳はない。かつて、千景の先祖である郡千景は、その影響で、一人の勇者を殺し掛けたのだ。
常に気持ちを強く持たなければ、いずれその闇に引きずり込まれる。
「その手の文献が残っていたという事には驚いたが・・・・」
そうぼやく千景。
そのうち、友奈たちがいる控室に辿り着く。
「あ、千景君!」
「千景、アンタも検査終わったのね」
「検査というか、カウンセリングなんですがね」
見れば、車椅子に座る美森、右腕を布で吊るしている夏凜、体の一部を包帯で巻いている剛、特に変わりのないようにみえる翼と友奈と樹、左目を眼帯で覆う風。
「風先輩、その眼帯は・・・」
「ふっふっふ、よくぞきいてくれt」
「左目の視力が低下してるのよ」
「ちょ!?夏凜!?また私の言葉遮って!?」
「なるほど」
千景は一人納得する。
「なんだか、戦闘による疲労によるものだってお医者さんが言ってたらしいよ、すぐに治るって」
「ならいいけどさ・・・」
そう、呟く千景。
「夏凜はその右腕大丈夫か?」
「所々に炎症が出てるみたいだけど、それ以外は問題ないって。しばらく訓練は控えるようにと言われたけど」
「あまり無理しちゃダメだよ」
弘のレイピアによって貫かれていたのだ。そうなっても可笑しくはないだろう。
「東郷と樹も大丈夫か?」
「ええ。私は特に問題はないわ」
「・・・」
美森はそう答えるも、樹の方は喋る事はせずに表情で答えた。
「ん?どうした?」
「樹ちゃんは声がね」
「ああ、なるほど・・・・」
そう納得し、今度は翼と剛の方へ向く。
「二人も大丈夫なのか?」
「僕は特には」
「俺は右腕動かないが特に問題はないぞ」
「右腕が?」
「ああ」
確かに、剛はさきほどから右腕を動かしていない。
「なんか神経系に問題がおきたみてえだけど、すぐに治るってよ」
「そうですか、ならよかったです」
そう言う千景。
だが、その中で、翼だけはあまり浮かない顔をしていた。
まるで、憐れむかのようなそんな表情を。
「そういう千景はどうだったのよ?」
ふと風が聞いてくる。
「俺ですか?いえ、特に問題は・・・・」
その時だった。
突然、風の右目が、真っ黒い何かに塗り潰されていた。
「え・・・・」
「ん?どうしたの千景」
「ああ、いえ、なんでもないです・・・・」
周囲は、風のその様子に気付いていない。
まさか、見えていないのか。
そう思い、視線を美森達の方へ向けた。
そこでは、樹の首、主に喉当たりと、美森の両足と左耳が、風と同じように黒い何かに塗り潰されていた。
(なんだ・・・・?)
思わず、翼たちの方へ視線を向けた。
「!?」
そこで、千景は、剛の右腕全体が真っ黒く塗り潰されているのを見た。
それだけじゃない。翼の方がもっと多かった。
眼帯をしている右目、右耳、そして左腕。それだけではなく、口と鼻、そして右胸が黒く塗り潰されていた。
ただ、夏凜だけは、何もなかった。
「千景君、どうかしたの?」
ふと、友奈が千景の顔を覗き込んでくる。
「ああ、いやなんでも・・・」
そこで絶句する千景。
友奈の口元・・・否、舌が、黒く塗りつぶされていた。
それだけではない。友奈の左胸。
そこにある器官を塗り潰すかのように、黒くなっていた。
「千景君・・・・?」
「千景、あんたどうしたの?」
友奈の怯える声、風の心配するような声に、我に返り、慌てて周囲を見渡す。
全員が全員、こちらを見ていた。
「ああ、いや、なんでもない・・・・」
黒い、クレヨンのように塗り潰されていた光景は、消えていた。
(なんだったんだ・・・・?)
千景は、先ほどの光景に疑問を持つも、取りあえずその考えは蚊帳の外に置いた。
「それはそうと!私たち、バーテックスを全部倒したんだよ!お祝いしないと!」
と、友奈がそう言い、机の上に、売店で買ってきた、お菓子やジュースが置かれていた。
「随分沢山買ってきたな」
「お祝いは豪勢にやらないと!」
そう言い、友奈は美森にジュースを渡した。
「はい、皆、飲み物を持って下さーい」
全員が、それぞれの飲み物を手に取る。
「こほん。それじゃあ、勇者部部長から、乾杯の一言!」
「え!?あ、と・・・ほ、本日はお日柄もよく・・・」
「真面目か!?」
一同が笑みを零す。
「堅苦しいのは抜きで」
「それじゃ、みんなよくやったー!勇者部大勝利を祝って、かんぱーい!」
『かんぱーい』
と、一同、ジュースを飲み始める。
その中で、友奈がジュースを喉に流し込んだ瞬間に一瞬何かに気付いたかのように止まったが、すぐにまた飲み始めた。
その様子を見逃す美森と千景ではない。
二人は、機械修理の際に使う
『友奈を任せる』
『了解』
ふと、風が何かを思い出したかのように、近くにおいてあった段ボールからあるものを取り出す。
「そうだ。みんなに渡すものがあったんだった」
と、渡してきたのは新しい携帯端末だった。
「これは・・・」
「私たちの端末は回収されちゃったでしょ?」
「はい、この病院に入る時に」
「なるほど、これはその代わりって奴か」
「そ、しばらくメンテナンスで戻ってこないから、代わりにこれを使えってさ」
「それなら僕も聞きました。風さんに渡されるからそこから受け取っておけって言われました」
ふと、美森は携帯を操作し、そしてある事に気付く。
「あれ?あのアプリをダウンロードできなくなってる・・・」
「ああ、あのSNSアプリはもう使えなくなってのよ。あれ、勇者専用のだから」
「・・・・そういえば・・・あいつらどうなったんだ?」
千景の一言で、場の空気の温度が下がる。
そう、まだ奴らは捕まっていないのだ。
決戦時、四人に重傷を負わせ、撤退に追い込ませた、襲撃者たちの事だ。
その場に不穏な空気が漂う。
「・・・・その事については、メンテをなるべく早く終わらせるって言ってたから、時間との勝負でしょうね」
「なら良いのですが・・・・」
まだ不安が拭い切れないのか、千景の表情は暗い。
だが、すぐさま友奈が場の空気を保とうとする。
「大丈夫だよ。もしあっても、話し合えばいいんだよ。もう戦う必要はないんだから」
そう安心させるように言う友奈。
だが、千景は知っている。
まだ
(園子が言っていた外の世界の真実・・・・すでに終わっているとは、どういう事なんだ・・・)
勇者システムが戻った暁には、すぐさま壁の外まで行くつもりだ。
気になる事は、確かにある。
退院は明後日と決まり、千景は一人、廊下を歩く。
先ほど見た、黒いモヤのようなもの。
あれは一体なんだったのか。
どうやらあれは他の人間には見えていないらしい。
まるで、そこだけが欠落したかのように、真っ黒に塗り潰されて、いや、色が抜け落ちていた。
一面、真っ暗闇のように。
「まさか・・・・戻らないって事はないよな・・・・」
まさか、とその可能性を除外する。
しかし、そこで立ち止まる。
「・・・・・いや、目を逸らすべきじゃ、ないよな・・・」
その可能性を考え、千景はまた歩き出す。
無事、退院できた千景たち。
美森は、もう少し検査に時間がかかるという事、夏凜は怪我の療養のため、まだ退院はしていない。
ただ、千景は、退院するまでの間に、自分に変な能力がついた事に気付いた。
真実を見通す眼。だから『真実眼』。
なんとなく、そう命名。
その能力は、相手の体にある真実を見破る力が備わっているらしいのだ。
発見は、この間の、黒くすっぽ抜けたような光景を、勇者部全員に見た時。
それから、千景は、目に意識を集中させれば、いつでも発動出来る事に気が付いた。
そして、病院内で、他に入院している人がどこを怪我しているのか、あるいはどこに病気を患っているのかというのを色で識別出来る事に気が付いた。
ただ、友奈たちに見えた、あの黒く変色した部分は、何故ああなったのか分からなかった。
まあ、以上の事から、相手の体に起きている異常を見破る能力といった所だ。
「本当に、なんだったのか・・・」
と、勇者部部室の扉を開ける千景。
日直の仕事ゆえ、翼には先に行ってもらったのだ。
「不道千景、入りまーす」
「あ、千景君!」
千景を出迎えるのは当然友奈。
「お、来たわね千景」
「どうも風先輩・・・あれ?その眼帯どうしたんですか?」
ふと、風の眼帯が変わっている事に気付く千景。
「ああこれ。ふふ~んどうよ~」
「・・・中二病くさ」
「酷い!?」
千景の冷たい反応にショックを受ける風。
「えー!?かっこいいでしょ!?この眼帯!」
「悪いな友奈。俺にはどうにも風先輩の中二病に磨きがかかったようにしか思えない」
「ごーうー!」
「うおわ!?」
涙目で剛に抱き着く風。
「千景がー!千景が冷たいのー!」
「分かった分かった!分かったから!」
そんな風を左腕のみで抱く剛。
「アハハ・・・千景君も、もう少し手加減したらどうかな?」
翼がそう言う。
「そんな事言われても困る」
頭を掻いて、そう唸る千景。
「樹は、最近どうだ?」
『はい、とどこおりありません』
「スケッチブックか、いい案だな」
『お姉ちゃんの案です』
樹がスケッチブックをもって答える。
ただし、それで千景が風へのイメージを変えるつもりはない。
むしろそれでこその風なのだ。
「あ、そうだ千景。あんた、ホームページの更新って出来る?」
「一応は。そうか、しばらく更新してなかったからな・・・・」
千景は、いつも美森が使っているパソコンへ視線を向ける。
「頼めるかしら?」
「今すぐやりましょう」
と、椅子に座って手慣れた手つきでパソコンを操作していく。
「ただ、東郷よりは上手くないので、時間はかかると思いますが」
「構わないわ。それじゃ、アタシたちはアタシたちで、文化祭の演劇について会議始めるわよ!」
「おー!」
「僕は剣道部の練習に行ってきます」
そう、意気込む一同。
「・・・・・」
千景は、パソコンを操作する中で、友奈を見る。
そこで、最近備わった能力『真実眼』を発動する。
視界が青い半透明のガラスに通して見ているかのように染まり、異常を見破る。
やはり、友奈の左胸、正確には、『心臓』。
そこが、黒く塗り潰されているかのように、色がすっぽ抜けていた。
(なんなんだ・・・あれ・・・?)
能力解除。作業に戻る。
未だに、あれがなんなのか、分からない。
ただ、分かる事は、あの部分に、なんらかの異常が起きているという事だ。
あのすっぽ抜けたかのような光景は、他の部員にも見られる。
一番、聞くのに最適な人物。
千景は、その人物に向かって視線を向けた。
翼と共に、帰路につく千景。
「まさか、あんなに速く更新を終わらせるなんて驚いたよ」
「東郷は、あれの何倍も速く終わらせられるぞ」
「へえ、流石だなぁ」
関心する翼。
そんな中、千景は、翼に尋ねる。
「なあ、翼」
「なんだい千景君」
「・・・・お前、味分かんのか?」
そう、恐る恐る聞いた。
その瞬間、翼が、確かに動揺するのを見た。
「・・・・どうして、そう思ったんだい?」
「・・・お前、カロリーメイトしか食ってないだろ?」
味に関して、これは、確かに言える事だ。
翼は、東郷をぼた餅をよく食べる。
だが、翼が昼にいつも食べているのは、カロリーメイトなのだ。
普通、そんな健康だけを考えたものをいつも食べている人間が、果たして特定の甘味だけを食べるだろうか?もっと別の味も味わいたい筈だ。
なのに、翼はそうしない。
まるで、初めから味を感じていないかのように、そんな感じに。
「・・・・まいったな・・・・」
「ゲーマーを舐めるなよ。これでも探偵ゲームもやり込んでるんだ」
「それゆえの推理力か・・・・まいった、降参だ」
そう右腕をあげて、降参の意志を示す翼。
「・・・僕と美森ちゃんは、一緒にいた」
「だから、東郷のぼた餅が大好物だったのか」
「和食が好きで、英語や横文字が苦手で、僕は、そんな美森ちゃんの傍にいた。もう二人の友達も加えてね」
「だけど・・・・・事故によって東郷は記憶を失った・・・」
美森は、交通事故によって、記憶を失くし、両足の機能を失った。
そう、
「僕も、それに巻き込まれたんだよ」
(嘘だ・・・)
千景は、そう直感した。
声音が、
いや、全てが嘘じゃない。
何かに巻き込まれたのは確かだ。
だけど、それが何なのかは分からない。
「その結果、美森ちゃんは記憶を失って、僕はこんな体になった。頭を打ったから、味覚どころか匂いも感じないんだ」
「・・・・そうか」
今は、そうしておこう。
どうしても、誤魔化したい事であるのだろう。
ただ、ただ一つだけ、知っておきたい事がある。
「・・・あの時、東郷のぼた餅を、大好物って言ったよな。あれは、本当か?」
「うん」
即答だった。
「彼女の作る和菓子は、この世界のどこを探しても、きっと見つからない程に、美味しいものだって、僕は知ってるから」
そう翼は、千景に微笑んだ。
その表情は、誰かに似ていた。
「・・・・やはり、上里さんの子孫か」
「ん?何か言った千景君?」
「いや、なんでもない。東郷には黙っておいてやるよ」
「ありがとう」
そうして二人は、また歩き出した。
千景は、先祖の記憶を掘り起こす。
(今思えば・・・上里さんは、誰よりも、弱さを見せない人だったな)
いっぱいの優しさの中に、ほんの少しの哀しみを含んだ、あの笑顔。
きっと、沢山の修羅場を潜り抜け、たくさんの哀しみを知って、自分の罪を背負って、そうして、六道翼はここにやってきたのだろう。
美森を守る為に。
確かな、決意を胸に抱いて。
(だったら、口を出すべきじゃないだろうな)
千景は、そう結論付け、翼と共に帰路を歩いた。
夏凜の病室にて。
「・・・・」
夏凜は、病院のベッドに寝転がり、天井を見ていた。
右腕は、怪我で動かせない。
レイピアに貫かれた程の重傷だ。流石に後遺症の一つも覚悟していたが、そんな事はなく、炎症を起こしている程度で、他は何も問題はなかった。
ただ、回復までには時間がかかるらしい。
その為、右腕は使えない。
箸が使えない、鉛筆が持てない。
これほど不便な事があるだろうか。
いや、問題はそこではない。
端末を通して、風から知った事実。
満開をやった者は、その全員が例外無く、どこかの機能を失っていた。
翼に至っては、片方の肺が機能を停止したらしいのだ。運動に支障はないらしいが。
千景のあれは、満開じゃないらしいが、それでもその場に七人同時に存在させる力だ。
何かあっても可笑しくない。
「私だけ・・・何も失ってない・・・・・」
この日の為だけに、訓練をし続けてきたのに。
結局、肝心なところで、役に立っていない。
自分だけ何も失っていない。自分だけが、全然戦えていない。
戦うためだけにここに来た。戦う為だけに勇者になった。
血の滲む様な努力の末に手に入れた力の筈なのに、役に立っていなかった。
これほど悔しい事はあるのか?
ふと、病室の扉が開いた。
「夏凜ちゃん、入るよ」
「つ、翼様!?」
慌てて飛び起きる夏凜。
「と、不道?」
「おっす夏凜。具合どうだ?」
そこには、翼と千景の二人がいた。
さらに。
「こんばんわ、夏凜ちゃん、怪我の具合どう?」
「友奈・・・」
友奈が入って来た。
「大人数でおしかけてごめんね」
「い、いえ、そんな・・・」
「右腕使えないから、飯上手く食べれてないって看護師から聞いたぞ?ほれ、箸使わなくても食べれるサンドウィッチだ。食いタマえ」
「い、いいわよそんな悪い・・・」
「ちゃんと食べないと、治る怪我も治らないよ」
「・・・・」
なんだか、その励ましの言葉が、妙に心に突き刺さる。
苦しい。
「あれ?夏凜ちゃん?」
友奈が心配そうに声をかける。
「・・・・・戦いは、終わった」
「え?まあ、そうだな。確かにバーテックスは全部倒したな」
「・・・・そう、よね」
「・・・夏凜?」
千景は、首をかしげる。
「・・・・私は、もう、用、済み・・・なのよね・・・・」
「「「・・・・・・・・は?」」」
一斉に間抜けな声を漏らす、千景、友奈、翼の三人。
「だって、そうでしょう・・・私は、ただ戦うために、ここまでやってきた。だけど、戦いが終わった今、私には、何の価値もない。勇者である事以外、なんの価値もないじゃない・・・・勇者部だってそうよ・・・もともと、バーテックスを殲滅するために作られた部でしょ?だったら、殲滅した今、もう、意味なんてないじゃない・・・・!」
シーツを、握りしめる夏凜。だが、そんな夏凜の手を包むものがあった。
「それは違うよ。夏凜ちゃん」
「え?」
友奈だ。
「勇者部はね、風先輩がいて、剛先輩がいて、樹ちゃんがいて、翼君がいて、夏凜ちゃんがいて、東郷さんがいて、千景君がいて、みんなで楽しみながら、人が喜ぶ事をする部なんだよ。バーテックスがいなくても、勇者部は勇者部!」
「でも・・・・」
「戦うとか、そんなの関係ないんだよ」
夏凜の頭を撫でる翼。
「翼様・・・・あだ!?」
「お前は頭が固いんだよ。いいか、価値だとか意味だとかそんなもの、他人に求めるな。そして自分で勝手に決めるな。ただ自分が必要とされている。それさえ実感できればそれでいいんだよ。そうじゃないなら、自分が自分を必要としてると思え。事実、お前があの戦いにおいて、あのシスコンを食い止めてくれてたから、俺が駆け付ける事が出来たんだ。流石、翼の弟子だよな」
「不道・・・」
千景の言葉に、夏凜の目尻に涙が浮かぶ。
「俺達は、部員全員揃ってこその勇者部だ。そこには夏凜、当然お前も含まれている」
「そうだよ。夏凜ちゃんがいないと寂しいし、それに私、夏凜ちゃんの事好きだし」
友奈の言葉に、夏凜の顔が一気に赤くなる。
「な・・・な・・・・!?」
「あれ?どうしたの夏凜ちゃん?」
「・・・・友奈、それ、あまりその年ごろで多用しない方が良いぞ」
「え?」
気恥ずかしさに口をパクパクとする夏凜に、そんな夏凜の顔を覗き込む翼、原因である友奈に苦笑する千景に、それに首を傾げる友奈。
(そっか、私、まだここにいていいんだ・・・)
夏凜は、改めて、そう思った。
そんな様子を見守る者が一人。
「・・・・あれがアタシの後継者・・・か・・・・」
強化された視力で、病室を覗く、一人の少女。
「問題なさそうだな」
安心した様に微笑み、上っていたいた木から降りる。
「・・・・」
そのまま立ち去ろうとするも、少女は、また振り返る。
「・・・・まだ、会うのは早いよな・・・それに、満開の本当の恐ろしさも・・・・」
少女は、自分の右腕を左手で掴む。
「・・・・アタシの事も・・・・」
ギュッと握りしめ、少女は仮面を被って、立ち去った。
体の内から、白い骨のようなものを体の中から皮膚を突き破る様に出し、それが足に纏わりつき、形を成し、勇者の力を発動させてもいないのに、高く飛び上がった。
少女は誰にも見られたくない。
人成らざる者へと変わってしまった、自分の姿を。
数刻後。
翼と友奈は、美森の病室に来ていた。
「そっか、東郷さんは左耳が聞こえないんだ・・・」
そう呟く友奈。
美森は、左耳の聴覚が無いのだ。
「一応、右耳は聞こえるんだよね?」
「ええ。問題は無いわ」
心配する翼に、なんでもないというように、美森は答える。
「なら良かった・・・・」
それで安堵の息を吐く翼。
それに首をかしげる二人。
「それじゃあ、僕たちはこれで」
「バイバイ、東郷さん」
「うん」
そう言い残し、帰る二人。
「・・・・」
二人が行ってしまうのを改めて確認する美森。
そして、携帯を取り出し、ある人物へと連絡を取る。
しばらく、電子音が聞こえた後、誰かが電話に出る。
『はい、こちら勇者部修理部門の不道千景です。今回はどのようなご用件で』
「私よ、千景君」
『東郷か。どうした?』
出たのは、千景だった。
「さっきの対応だと、何か作業してたみたいね。ごめんなさい」
『謝るな。あとははんだ付けするだけで終わりだ、待ってろ』
がちゃがちゃ、と何かを置く音と組み立てる音が聞こえた。
『それで、一体何の用だ?』
「単刀直入に言うわ。満開の後遺症について、何か気付いた事は無い?」
『満開の後遺症・・・・風先輩に聞けば何かわかるんじゃないのか?』
「そう思ったんだけど・・・千景君、この間、皆を見て、何か気付いた事があるんじゃないかしら?」
そう、揺さぶる美森。
『・・・・どうしてそう思った?』
「貴方、この間、突然様子がおかしくなったから気になって・・・それに、貴方の言う『切り札』の事について知りたい事があるの。良いかしら?」
黙り込む千景。
だが、すぐに観念したかのようにため息を吐く声が聞こえた。
『分かった。俺とお前は考えてる事がなんでか知らんが似てるからな。俺が勝手に調べた満開の後遺症について、そして『切り札』の危険性について、そして俺の秘密について、お前に話してやるよ』
「お願い」
そして、千景は美森に、自分が気付いた事について話した。
「真っ黒・・・?」
『ああ。なんでか知らないが、真っ黒だった。抜け落ちたかのようにな』
美森は、自分の脚を見た。
もし、千景の言った事が本当であるなら、満開の後遺症というものは、そんなちょっとやそっとでは治らないものではないのだろうか・・・
「翼君なら、何か・・・・」
『知ってるかもしれないが・・・・何か様子が可笑しい。満開の事について頑なに話そうとしないし、もしかしたら、大赦から口止めされているのかもしれないな』
「大赦は、どうしてそこまでして私たちに満開の事について教えてくれないのかしら・・・」
『それは分からない』
「それに、千景君も、切り札の影響で、精神が不安定になるんでしょう?そっちは大丈夫なの?」
『一回だけだからな。一回程度じゃ、確実な精神の不安定化には至らない。それに、心を強く持っていれば問題も無い。事実、俺のご先祖様は心の弱さ故に、仲間を殺し掛けたからな』
「郡千景・・・・千景君と同じ名前で・・・・初代勇者・・・・」
『あまり悪いイメージもたないでくれよ。これでも、人の為に戦っていた勇者の一人だからさ』
「思うわけないわ。貴方のご先祖様だもの。ただ、その精霊の憑依システムは、私たちの端末にはないのよね」
『その筈だぞ?何せ精霊が顕現してたんだ。おそらく、そのシステムは乃木さんたちが廃止している筈だしな』
「なら、問題ないわね」
ホッと、息をつく美森。
「ありがとう千景君。私の方で、もう少し考えてみるわ」
『ああ、結果が分かったら教えてくれ』
そうして通話が切れる。
そして、美森は思案顔になる。
「もし、千景君の言う、抜け落ちた、というのは・・・・・・本当は、
一つの結論に、身震いする美森。
「まさか・・・でも、そんな・・・・・」
信じられない、という表情で、美森は、パソコンの画面に、視線を落とした。
そこには、勇者部一同の、満開による後遺症についての記述が書いてあった。
結城友奈 味覚機能停止 回復の兆し無し。
犬吠埼風 左目視力低下 回復の兆し無し。
犬吠埼樹 声帯機能停止 回復の兆し無し。
三ノ輪剛 右腕機能停止 回復の兆し無し。
東郷美森 左耳聴力低下 回復の兆し無し。
三好夏凜 異常無し。
不道千景 異常無し。精霊の影響無し。
次回『海水浴と豪華な料理』
功労者たちに、一時的な休息を。