不道千景は勇者である 作:幻在
遠い遠い昔。
青い勇者がいました。
その勇者には、八人の仲間がいました。
一人は勇者の一番の友達で、神の声を聞く巫女。
一人は竜の力をその身に纏い、勇者の隣で戦った竜の剣士。
一人はその岩をも砕く拳で敵を打ち倒し、勇者の背中を押した鬼の拳闘士。
一人は弩をもって敵を射抜き、様々な策略で勇者を手助けした雪の弓兵。
一人は楯を率いて敵の攻撃を防ぎ、勇者を敵の害意から守った炎の楯士。
一人は大鎌を使い、敵を屠り、敵を狩り、敵を殺す事を目的とした紅の鎌使い。
一人は鞭を持ち、人々を守り抜き、勇者の良き相談相手となった、緑の守護人。
一人はそんな守護人の友人であり、手助けをした、もう一人の巫女。
勇者たちは、世界を脅かす異形たちに、勇猛果敢に戦いました。
人々から賞賛され、褒め称えられ、それに答えるように、勇者たちは人々を救い続けました。
しかし、いついかなる時も、上手くいく時はないのです。
一人、一人と勇者の仲間は倒れていきました。
挙句の果てには、青い勇者を妬んだ紅の鎌使いが、青い勇者を襲う事もありました。
しかし、それでも勇者たちは戦い続けました。
いつか来る、幸せの未来のために。
少年少女は、神に挑み続けた。
気付けば千景は、真っ白い空間に立っていた。
「・・・・・・・は?」
思わず、そう声を漏らしてしまう千景。
何もない、真っ白な空間。
いや、何も無い訳では無い。
何か、切れ端のようなものが空中を大量に漂っている。
「なんだこれ・・・」
思わず、欠片の一つに手を伸ばしてみる。
それを右手で手に取り、そのまま物色。
「・・・?」
よく解らず、今度は左手で持ってみる。
すると、脳内に明確な答えが浮かび上がった。
「これは・・・・・記憶の欠片?」
千景は、その欠片から視線を外し、他の欠片を見渡す。
「だけど・・・一体誰のだ・・・・?」
『貴方のよ』
「ああ俺の・・・・って」
思わず振り返る千景。
そこには、あの彼岸花の花畑で出会った少女―――『
「ご先祖様・・・!?」
『それは貴方の砕かれた記憶。
「俺の体と御役目・・・・なんだよそれ・・・」
『それは、自分でみつけるべきだわ。私が教える事じゃない』
「そんな・・・・」
『ただ、記憶を取り戻したいと思うなら、一度故郷に帰ってみたらどう?そこに行けば、何かわかるかもしれないわよ』
「故郷って・・・」
千景の故郷は高知県にある。
そこにある施設にて、千景は生活をしていたのだが、まあ、諸々の事情で香川まで引っ越してきた。
そこに戻れば何かあるのだろうか。
『・・・・と、そろそろ時間の様ね』
「は?時間?」
『皆が戻ってきたって事よ』
「みんなって誰が・・・・」
千景は、目を覚ました。
「あ、起きた」
目の前には、二人の少年の顔。
「・・・・三ノ輪先輩に翼か」
「びっくりしたよ。まさか戻ってきたら君が仰向けに倒れてるんだもの」
「それは、すまなかったな」
千景は起き上がる。
「風呂はもういいのか?」
「おう、さっぱりしてきたぜ」
剛がふふん、と鼻を鳴らす。
「そっか。じゃあ俺もいくかな」
千景は立ち上がり、部屋を出ていく。
借りている部屋は二つ。片方は女子組、もう片方は男子組で別れているのだ。
「もうすぐ消灯時間だから急いでね」
「分かってる」
翼の言葉を軽く受け流し、千景は浴場に向かう。
「・・・・・故郷に戻れ・・・・か・・・・」
千景は、そう考える。
「・・・・その内、行くか」
たまの里帰り。そう思ってみるのも、いいのかもしれない。
とある山奥の研究所。
「皆の様子はどう?アモルさん」
「順調に回復してるわ」
幸奈は、妖美な雰囲気を醸し出す白衣の女性『アモル』にそう声をかけ、アモルはそれに妖しい笑みを浮かべて答える。
アモルの座る椅子の前にある机には、六つの端末。
幸奈たちの端末だ。
「今回ばかりはいけると思ったんだけどねぇ。まさか、
「乃木園子の援軍は、予想外でした。まさか、彼女が自分から動くなんて・・・・」
「彼女は、あの
アモルは、パソコンを操作する。
「ま、さらにアップデートしておくわ。その為にも、『カプセル』に入って頂戴。また
「分かりました」
「ああ、それと、近頃また『侵攻』があるけど、今度は出なくて良いわ」
「・・・・それは、何故?」
幸奈が、肩越しにアモルを睨み付ける。
「十三体目が来るわ。倒せなくても、勇者全員に深手を負わせる事は可能でしょうね。最悪、
ふふふ、と妖美な笑みを浮かべるアモルに、幸奈は、なんとも言えない恐怖を感じる。
「それでも、千景君は一緒なのよね?」
「ええ。協力してくれる限りは、ね」
「そう」
幸奈は、部屋を出ていき、また別の部屋に入る。
そこには、巨大な円柱状の水槽がいくつもあった。
その中には、幾人かの
幸奈は、服を脱ぎ出す。
全部脱ぎ捨て、空いている水槽の中に、どぷん、と入る。
ぬめりのある液体、ひんやりとしており、不思議と苦しくならない。
だが、意識は遠のいていく。
ゆっくりと瞼を閉じ、意識を沈める。
幸奈の意識が完全に闇に堕ちた時、水槽の蓋が閉められる。
彼女以外の、人間の入っている水槽。
そこには、佐奈や美紀、弘や真斗、そして、翔琉が入っていた。
自らの体を、人の領域を超えた存在とするために。
とある、山奥の一軒家にて。
「・・・・本当か?」
「は、はい・・・」
一人の男が、とてつもなく低い声で呟く。
男の目の前にいる少女は、その声に、思わず怯える。
「この写真に写っているバーテックスが、次の襲撃に来る奴だと?」
「は、はい・・・・さっき壁の外で、一番近そうな奴を写真に撮ってきて・・・」
「・・・・」
男は、写真を見る。
そして、悔しそうに顔を歪める。
「コイツは、アイツが倒した筈だ・・・・」
その写真に写る、最凶の敵を見ながら。
次回『オフィウクス・バーテックス』
十三体目の頂点。