不道千景は勇者である   作:幻在

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オフィウクス・バーテックス

高知県。

とある街にある、山の奥にある、一つの神社。

一人の女性が、鼻歌を歌いながら、箒を履いていた。

黒髪で、髪を三つ編みにした、一人の高校生ぐらいの少女。

「・・・・・!」

ふと、少女は、社の方を見た。

「・・・・そうですか」

そして、先ほどの、機嫌が良さそうな顔と打って変わり、とても悲しそうな表情になる。

「・・・・あの子が、帰ってくるのかもしれないのですね」

少女は思う。

あの施設で起きた事件を知ったらどう思うか。

記憶を砕かれた彼は、どう思うか。

「その場の判断は、全て任せる、ですか・・・・」

少女は、そう、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・という訳で、敵に生き残りがいたから、戦いは延長戦に突入した。大まかに話して、そうなるわ」

風が、そう説明した。

部室にて、勇者部全員の前に、アタッシュケースの中に入った、携帯端末があった。

しかし。

「なんで毎度毎度俺のだけ帰ってこないんだ・・・・」

「言っても仕方が無いと思うよ千景君」

何故か千景のものだけ返ってこなかった。

「それについては大赦にも問い合わせたわ。だけど、まだ千景のだけはメンテが終わってないらしくてね。それに、敵の襲撃までに間に合わないといけないから、アタシたちのが先に返された感じね」

「俺のってどうしてここまで治るのが遅いんだ?」

「考えてもしょうがないでしょ」

ふと、夏凜が話に口を挟む。

「生き残りの一体や二体、敵の一斉攻撃を殲滅した私たちなら問題ないわよ」

ぐっ、と治った右手を握る夏凜。

「俺の七人御先がいなかったらお前やられてたよな?」

「う・・・・」

「まあ、相手は少ないらしいから、問題ないでしょ」

風が、そう言い、一同が頷く。

「勇者部五箇条、成せば大抵なんとかなる、ですね」

「おう!何事も、大抵成せば何とかなる!勇者は根性と魂だ!」

ドン、と胸を叩く剛。

「さあバーテックス!どこからでもかかってきなさい!勇者八人が相手だぁー!」

風がそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言っておきながら、二学期が始まるまで何事もなく、時間は過ぎていった。

 

「悪い翼、今日も職員室で依頼だ」

「分かった、先に言ってるよ」

千景の端末が戻る事もなく、いつも通りの日常が過ぎていく。

未だに、帰郷する決心もつけられず、勇者部の活動をただこなしていく日常が、ただ過ぎていくだけだった。

 

 

 

 

職員室での依頼が終わり、部室に戻ってきた千景。

「不道入りま―――ぐあぁあ!?」

突然、千景の頭に何かがぶつかった。

「ああ!?ごめん千景!」

床に倒れ伏した千景に謝罪する風。

「な、なんなんだ一体・・・」

体を起こした千景の腹には、尻尾が鎌のイタチの様な精霊がいた。

「こいつは・・・・」

「『鎌鼬(かまいたち)』。アタシの新しい精霊よ」

「鎌鼬・・・・てなんだこりゃぁあ!?」

見ると、部室中精霊だらけだった。

「いやーみんな出てきちゃって」

「軽く百鬼夜行じゃねえか・・・」

友奈の牛鬼と火車。

美森の青坊主と不知火と刑部狸。

風の犬神と鎌鼬。

樹の木霊。

剛の分服茶釜。

翼の傘、三郎、一反木綿、河童、猫又、鵺。

夏凜の義輝。

よく見ると、夏凜と友奈以外、そして風以外にも、精霊が+アルファされていた。

美森には『川蛍(かわぼたる)』、樹には『雲外鏡(うんがいきょう)』、剛には『狒々(ひひ)』、翼には『天邪鬼(あまのじゃく)』がそれぞれ追加されていた。

「大赦が、新しい精霊を使えるように、端末をアップデートしてくれたのよ」

「お陰で、大分賑やかになったけどね」

美森が答え、翼が千景に手を差し伸べる。

千景は大人しくそれを手に取り、立ち上がる。

「それにしても、夏凜と友奈にが新しいのは来てないんだな」

「ええ。そうなのよね」

「あー・・・・・実は私はそうでもないんだー・・・あはは・・・・」

『え?』

友奈が頭を掻きながら苦笑いする。

「友奈ちゃんにもまた新しい精霊が?」

「うん。でもなかなか出て来てくれなくて・・・・」

友奈が端末を操作しても、その件の精霊は出てこない。

「友奈ちゃんの呼び出しにも応じないなんて、なんて無礼な精霊なのかしら・・・・?」

「東郷さん?なんで友奈ちゃんのスマホを睨み付けてるの?」

美森と翼の言い合いを他所に、千景は友奈の精霊について考える。

(友奈のもう一体の精霊、か・・・なんだろうな・・・)

そう、想い老けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう・・・・やっと端末に戻ったわね」

空が夕焼け色に染まった頃、どうにか全ての精霊をそれぞれの端末に戻した一同。

「相変わらず俺の端末が戻らずか」

「そうね・・・・そろそろ戻ってくるころだとは思うんだけどね」

千景のつぶやきに風が答える。

ただ、その中で、夏凜は自分の端末を見つめていた。

(何故、私だけ新たな精霊が・・・)

夏凜だけ、新しい精霊が来なかった。

それについて、夏凜は疑問に思わずはいられなかった。

ふと、夏凜が視線をあげると、そこには樹がスケッチブックに文字を書いていた。

『敵いつ来るのかな ドキドキ』

それに、自分の内心を悟られぬように不敵な笑みを浮かべる夏凜。

「そうね。私の感では、来週あたりが危ないわね」

「実は敵の襲撃なんて気のせい!・・・・だったらいいんだけどね」

「まあ、あの諸葛孔明だって負け戦ぐらいあったからな」

「神樹様も予知のミスくらい・・・」

 

直後だった。

 

突然、端末からけたたましくブザーが鳴り響いた。

「ええ!?」

「はいフラグ回収乙」

「噂をすれば、って奴ですね・・・」

千景が額を抑え、友奈が苦笑いをする。

「なんだろう。この既視感・・・・」

「翼君?」

「気にしなくていいよ。君は」

翼の言葉に首を傾げる美森だったが、すぐさまなんでもないと首を振る翼。

そうしている間に、光が迫ってくる。

「来ちゃったわね・・・・」

「上等!殲滅してやるわ!」

「おい、俺はどうすれば―――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲が、樹海に包まれた。

「敵は一体・・・・あと数分で陸に到達します」

美森が、そう報告する。

「一体だけなら!」

「今回の敵で、延長戦も終わり。あとは奴らよ」

「バーテックスとの戦いは、これでゲームセットにしてやんよ!」

全員が意気込む。

だが、翼と千景だけは、そんな雰囲気には乗っかっていなかった。

「これが最後なら・・・・ね」

「これが最後なら・・・・な」

そう呟く二人。

「行くわよ!」

全員が頷き、アプリを起動する。

「じゃあまた、あれやろうか!」

「了解です」

「ほんと好きね」

「いいじゃないか」

円陣を組む一同。

「さあ、これで敵さんを昇天させてやりましょう!勇者部ファイト、」

『オー!』

 

 

 

 

 

 

敵が視認出来る距離まで近づいた勇者部一同。

「なに、あいつ?」

夏凜が、敵の姿を視認する。

そこには、今までに見た事もないようなバーテックスがいた。

エジプトのアヌビス神のような上半身で、下半身は、複数のヘビがタコの足の様に出ている、そんなバーテックス。

「蛇使い型・・・・オフィウクスって言った所か」

千景が、美森の端末を使って、その名を口にする。

「何か、嫌な予感がする・・・・」

美森が、スコープで敵の姿を見据えながら、そう呟く。

「東郷、周囲に奴らは?」

「今のところ・・・見えません」

美森の報告を聞き、ホッとする風。

得体の知れない相手だ。

襲撃者たちが来ないなら、いざって時に全員で対処できる。

(それに、東郷から聞いた、満開の危険性・・・・・もし、東郷の仮説が正しいなら・・・)

風は、樹を見た。

樹は、首を傾げる。

(いや・・・・今はそんな事を考えている暇はないか)

風は、足を止め、敵、オフィウクス・バーテックスを見据える。

「皆、一つ提案があるわ」

「提案?なんだよ」

剛が、聞いてくる。

「今回は、出来るだけ満開を使わずに、敵を倒しましょう」

「満開を?なんで?」

夏凜が首を傾げる。

「確かに、使わないに越した事はないですね」

翼が、左腕に一反木綿を巻きつけ、賛同する。

「満開に頼る戦法も良くないだろうしね。急激なパワーアップは、いずれ自分の身を滅ぼす事になると思うな」

「まあ、翼様がそう言うなら・・・・」

「でも、大火力で一気に倒した方が良いんじゃないか?ほら、神樹様への負担とか」

剛の言う事は最もだ。

樹海化は、人類守護の最終手段。

神樹様の張る結界内の時間を全て止め、自らの根で世界を覆い尽くす。

それによって、勇者が心置きなく戦える場をもたらす。

それが樹海化。

 

そう、美森は千景から聞いていた。

『風先輩や、翼君の言う通り、満開は使わない様にしましょう。まだ、分からない事が多いですし、それに、前回の満開の影響も治り切っていないでしょう?』

「まあ、そうだな」

剛は、補助ギミックによって動く右腕を見る。

「よし、それじゃあ風先輩たちの言う通り、満開は使わないようにしよう!」

友奈がそう頷く。

それに、全員が頷く。

「よし」

「東郷さん、様子見だ。二方向から射撃しよう」

『分かったわ』

美森がライフルを、翼がボウガンをオフィウクスに向ける。

そして、ほぼ同時に、弾丸と矢を放つ。

ミサイルの様な威力を持つ翼の矢と、戦艦の徹甲弾並みの威力を持つ美森の弾丸。

その二つが、オフィウクスへと向かう。

 

だが、その二つの閃光は、いとも容易くオフィウクスの前に弾かれた。

 

『!?』

それに、全員が眼を見開く。

「弾いた・・・ッ!?」

千景が、そう声を漏らした途端、猛烈に嫌な予感を感じた。

オフィウクスが、二人の射撃を皮切りに動いたのだ。

足の蛇が、動く。

 

 

 

 

声を発する間も無く、その蛇は、翼を吹き飛ばした。

 

 

 

 

「翼様!?」

「翼君!?」

悲鳴の様な声を挙げる夏凜と美森。

さらに、他の蛇の一体が美森の方へ頭を向けたかと思うとその口を開けた。

そして、その口内が光り出したかと思うと、美森に向かって巨大な光弾を吐き出してきた。

「「!?」」

反応する間もなく、美森、そして、その場にいた千景がその光弾に飲み込まれた。

「千景君―――――!東郷さぁあああああん!!!」

友奈が悲鳴をあげる。

だが、オフィウクスは今度は友奈を標的に選んだ。

「友奈!逃げてぇ!」

「!?」

風の叫びに反応し、友奈は振り返る。

そこには、既に蛇の頭が迫ってきていた。

「ッ――――ァア!!」

友奈は、根を蹴り、蛇の大きく開けられた口よりも大きく跳躍して回避する。

だが、その間に、別の蛇が他の勇者たちを襲っていた。

「――――あ」

飛び上がった友奈は見た。

目の前に立つ、巨大な存在。

犬のような顔をした、巨大な人の上半身。

その瞳から見せられる、圧倒的恐怖。

 

『バーテックス』、その意味は『頂点』。

 

 

ああ、そうか。ならば、その名がつけられた意味が、良く分かる。

 

 

視線を横に向ける。

そこでは、既に、他の勇者も吹き飛ばされていた。

成す術無く、反応する間も無く、呆気無く。

友奈に、重い衝撃が加わる。

それは、敵の掌。

圧倒的圧力を前進に受け、友奈は地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・うぅ・・・!?」

覚醒する夏凜。

そして、今の状況を確認し、すぐさま立ち上がろうとする。

だが、自分の上に乗っかっている存在に、それを阻害される。

黄色いアフェランドラを想起させる装束。

「剛!?」

夏凜はその名を呼ぶ。

慌てて起き上がり、剛を仰向けにする。

そして夏凜は思い出す。

敵の攻撃を回避しようとして間に合わず、防御さえもする暇も無しに蛇の突進を受ける直前、何かが前に出たのを。

「この・・・バカ・・・・」

思わず、夏凜は悪態吐く。

「ゲホ・・・バカで結構・・・・」

剛が、血を吐き出しながらそう言う。

よく見れば、剛の体はボロボロだ。

「!?あんた、起きて・・・」

「あーくっそ、体中がいてえ・・・・」

剛は、苦し紛れにそう声を発する。

「喋らないで、もしかしたら骨が折れてるかもしれない・・・・」

「それは心配すんな・・・もともと・・・頑丈なのが取り柄だしな・・・・」

「そんな事を言ってるんじゃないの。なんで私なんか庇ったりしたの!?」

夏凜は、剛に向かって怒鳴る。

そんな夏凜に、剛はフッと笑う。

「オメェが妹に似てるからだよ」

「妹?」

「そ・・・妹だ・・・本当は怖い癖に・・・意地張って前に進もうとするところがな・・・・・そんで・・・・・誰よりも・・・・・誰かの心配をする・・・・・・そんなところがな・・・・ぐっ・・・!?」

痛みに顔をしかめる剛。

だが、それでも言葉を紡ぐ事をやめない。

「だから・・・・・よ・・・・・つい・・・体が・・・動いた・・・・それだけだ・・・」

「バカよ・・・・アンタ究極のバカよ・・・・」

「ハ・・・仲間見捨てるぐらいだったら・・・・バカでいい・・・ね・・・・」

そこで、がくりと力尽きる剛。

「・・・・・・」

夏凜は、何も言わない。

そっと、地面に横たわせると、すっくと立ちあがり、目元を拭う。

そして、自分の左肩を見る。

そこにあるのは満開ゲージ。

それを見た夏凜は、すぐさま上に上がる。

上に上がると、そこには、ゆっくりと進撃しているバーテックスの姿があった。

強化された視力で、周囲を見渡す。

十一時の方向に、翼が血まみれで倒れている。

四時と五時の方向に、樹と風が、同様に血まみれで倒れている。

三人とも、気絶している。

 

精霊の障壁が役に立っていない。

 

おそらく、あのバーテックスの攻撃が強すぎるのだろう。

友奈の姿が見えない。おそらく、樹海の根の中に落ちたのだろう。

美森と千景は、土煙がまだあり、分からない。

だが、確認する暇など無いだろう。

 

今、戦えるのは夏凜一人。

 

夏凜は、大切な友を傷付けた化物を睨み付ける。

「よくも、好き勝手やってくれたわね」

すると、オフィウクスが止まる。

そして、ゆっくりと、その犬のような顔を捻り、こちらを見た。

その眼光に、思わず身震いするも、決して怖気づかない夏凜。

「そこから先は通さない」

刀を抜き、両手に構える夏凜。

「行くわよ、義輝」

『諸行無常』

そして―――――。

 

 

(悪いわね。風)

 

「さあ、見てなさい――――満開ッ!!」

 

 

 

赤い光が夏凜を包み込み、新たな姿を顕現させる。

 

片方二本ずつ、計四本ものアームに、刀身が紅一点に染められた日本刀が一つずつ握られている。

さらに、夏凜自身にも同様に日本刀が握られており、全部で六本の日本刀があった。

 

オフィウクスが、すかさず蛇の一体を向かわせた。

その仕草は、まるで羽虫をはたくようだった。

その蛇が、大口を空け、夏凜を一飲みにしようとする。

 

しかし。

 

その蛇は、一瞬にして木端微塵に切り刻まれた。

 

「何?こんなもので私が止まるとでも?」

夏凜が、不敵に笑う。

「舐めんじゃないわよ。この蛇野郎がッ!」

明確な敵意と危険性。

それを感じ取ったのか、オフィウクスは夏凜に振り向く。

 

双方が対峙する。

 

夏凜が構える。

「勇者部部員、三好夏凜。いざ尋常に、勝負ッ!!!」

そして、夏凜の決死の戦闘が始まった。




次回『蓮華の奮闘』

友を守る為に、少女は修羅となる。
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