不道千景は勇者である   作:幻在

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蓮華の奮闘

「――――お――――う―――――きろ――とう――――!」

誰かが呼んでいる。

だが、分からない。

体が重い。動かない。何も見えない。眠い。

意識がはっきりしない。

記憶が混乱している。

だけど、目覚めなければならない。

でなければ、きっと、心配してしまう。

誰が?友達が。その友達って?大切な人。

 

忘れてるのに?

 

忘れてる?

 

貴方は忘れてる。とても大切な記憶を。

 

勇者なのに、役に立たない。戦果を挙げているのは、彼女たちなのに、自分はいまいち役に立てていない。

 

それは何故か。弱いから。貴方はとても弱いから。役に立たない。

 

待って、何を言ってるの?

 

貴方は忘れてる。だからあの時の後悔も思い出せない。

 

友達を守れない、その事さえも忘れてしまった、哀れななりそこない勇者。

 

貴方が、彼の一番である資格なんて無い。彼の想いを忘れて、自分の想いさえも忘れて、全てを忘れて、傷痕の意味を解らずに生きている、失格勇者。

 

貴方は勇者なんかじゃない。貴方は勇者なんかじゃない。

 

そう、貴方は、勇者と名乗る資格すらない。貴方は――――

 

 

 

 

 

 

 

――――どうしようもない、『役立たず(失格勇者)』よ。

 

 

 

 

 

 

「起きろ東郷ッ!!!」

「はうあ!?」

突如、額にとてつもない衝撃が叩きつけられた。

それによって目を見開く美森。

「あ・・・れ・・・?」

「やっと起きたか」

目の前には、こちらの顔を覗き込む千景。不道千景。

「千景・・・くん・・・・・・あ!?」

美森は、今の状況を思い出し、すぐさま起き上がる。

「皆は―――――つぅッ!?」

左肩に酷い痛みを感じ、思わず右手で抑える。

そこは、白い何かの布で縛られた、片腕。

「アイツの砲撃が左肩を掠ってやがったから、とりあえずTシャツ破って巻いておいた」

見ると、千景の来ていた制服が前開きとなり、その下にあったTシャツが、大きく破かれていた。

そして、周囲を見渡すと、自分の右側。

 

そこには、何かに削り取られたかのような惨状の巨根があった。

 

「ギリギリの所で、お前を引っ張ってなんとかあの砲撃から逃れられた。反則だろあんなの」

千景は、向こうでなお健在の敵を睨み付ける。

美森も、それにつられて敵、オフィウクス・バーテックスを見る。

犬の様な頭部に、人間の上半身、下半身はまるでタコのように巨大な蛇が蠢いていた。

その姿に、背筋が凍るような感覚を感じる美森。

 

 

歯が立たなかった。

 

 

その現実が、否応なく突きつけられた。

「あんな敵、どうすれば・・・・・」

「・・・・」

千景は、それに答える事が出来ない。

 

 

その時、ある場所で、赤い光が輝いた。

 

 

 

「!?」

「あれは――――――『満開』か!?」

その視線の先には、四本の巨大なアームに四本の巨大な刀を携え、自らの両手にも刀を持った、夏凜の姿があった。

彼女だけは、比較的軽傷で済んだようだ。

「夏凜・・・」

「夏凜ちゃん・・・」

二人は、まるで武神のように空中に佇む夏凜の姿を見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夏凜はオフィウクスに突撃を開始した。

「オオオオオオッ!!!」

咆哮が迸り、六本の刀を振るう。

それに対して、オフィウクスは、蛇を向かわせる。

「甘いッ!」

始めの一体を縦断する。

二体目は上空へかわし頭部を串刺しにする。

三体目は二体目に刺した刀をそのまま振るい、下段から斬り飛ばす。

四体目、五体目は、同時に左右が襲ってきたので、左右二本ずつのアームを上下交互に振るい、細切れにする。

まだまだ襲い掛かってくる。

夏凜は、それを鍛えられた動体視力と反射神経、焼き切れんばかりの頭の回転によって対処していく。

今目の前にある、景色。

それを認識する為には、今脳に回されている戦闘に必要の無い感覚の殆どを遮断し、その他の感覚を研ぎ澄まさなければならない。

視覚から色を消し飛ばし、敵のみを捕らえる。影さえも、必要の無い。

敵の姿だけを捉えろ。

耳からは一切の雑音を聞き漏らすな。

肌から僅かな風の流れを感じ、敵の次なる攻撃を予測しろ。

鼻からは匂いで敵の位置を割り出せ。

口は、呼吸を留めろ。必要な時のみ息を吐き出し空気を吸い込め。

僅かな気の緩みも許されない。瞬き一つも命取り。一切の油断や妥協を捨てろ。

 

修羅になれ。着けてはいけない力に手を出せ。生存本能(リミッター)()()()()ッ!!!

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

夏凜の絶叫。

その時、翼が訓練の時に言っていた事が、頭をすべっていく。

 

『いいかい。その力は、使い過ぎれば()()()()()程のダメージとなって自分の返ってくる。それは、自らの生存本能(リミッター)を、破壊している行為だからね』

 

 

 

 

自分に与えられた、異常な能力。

本来、生物が持つ事はありえない、制限解除(リミットブレイク)の能力。

人の体は、無意識下で、自らの力に制限を掛けている。

その理由は、自らの体が、その力に耐えられないから。

だから、制限をかける。

その制限を、破壊する事が出来れば?僅かな時間だけ、その限界を突破出来れば?

 

 

 

 

 

その瞬間、人は、修羅へと変貌する。

 

 

 

 

 

 

その名は――――『鬼気・修羅領域』

 

 

 

 

 

 

 

止まらない止められない止めたくない止まるな。

それらの想いが、夏凜の中で湯水の如く溢れかえる。

四本のアームと、六本の剣を振り回し、敵の猛攻をしのいでいく。

 

入れるのは一発。それで決める。決めなければならない。決めて見せるッ!

 

目まぐるしい攻防の中、オフィウクスの懐に潜り込む事に成功する。

そこで、とうとうオフィウクスの上半身部分が攻撃を開始した。

拳を握り。右腕を引き絞る。

そして、一気に夏凜に向かって振り下ろす。

夏凜は、それを二本のアームで防ぐ。

その重さは、酷く重い。

「ッ!?!?」

(二本で受け止めるのに、こんなに―――――ッ!?)

だが、それで諦めるほど、夏凜はやわな鍛えられ方はしていない。

「上等よぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおッ!!」

オフィウクスの、その図体に似合わぬ速さで、左右の拳を夏凜に向かって交互に、そして残像が見える程に振り下ろした。

「ッ!」

(落ち着けどんなに速くても腕は二本左右どちらか見極めろ教えられた事を思い出せ色を失くせ神経を研ぎ澄ませ一秒速く相手の次の攻撃を予測しろ――――)

息継ぎをする暇も無い。

手刀、拳打、掌打、裏拳、肘鉄。

ありとあらゆる拳の形で、夏凜を攻撃する。

対して夏凜は、巧みに四本のアームを操作し、受け流し、迎え撃ち、ありとあらゆる手段で敵の攻撃を防ぎ弾き逸らす。

だが、それでも、オフィウクスの方が、紙一重で一枚上手。

「ぐ―――うぅ――――!!?」

返ってくる衝撃が、夏凜の体力を削っていく。

(この―――まま―――じゃ―――まず―――い―――)

意識が途絶えていく。

もうそろそろ、限界だ。

(せ―――めて――――一発――――ッ!!)

夏凜は、ここで渾身の攻勢に出た。

両の手が、同時に左右から襲ってくる。

片方は握り拳、もう片方は、掌を広げている。

おそらく、このまま蚊を叩き潰すかのように、手を打ち合わせるのだろう。

 

だが、これは、夏凜にとって、待ちに待った、好機。

 

「ここだぁぁあああああッ!!!」

左右二本ずつ、渾身の力を込めて、左右の手を弾き飛ばす。

その反動で、オフィウクスの体が大きく仰け反る。

「ここだッ!」

チャンスは一度切り。

彼女は、オフィウクスの頭部目掛けて飛んでいく。

そして、自らの射程に、オフィウクスの頭部を捉えた。

「ッ―――!!」

 

その瞬間、夏凜の四本のアームが、粒子となって消滅した。

 

満開の稼働限界か?否、違う。

粒子が、彼女の両手で持つ一本の刀に集束していく。

「一斬決戦―――――」

夏凜は、その刀を高く、高く掲げる。

 

「――――『(ひとつ)の太刀』ッ!!」

 

そして、振り下ろす。

その一撃は、満開の残っていた力の全てを集束させて撃ち込んだ、夏凜、渾身の一撃。

決まれば、オフィウクスであっても、無事では済まない。

夏凜の渾身の一撃が、オフィウクスの頭部に叩き込まれる。その寸前。

 

オフィウクスが、顔を傾けた。

 

「ッ!?」

刃は、頭部から僅かに外れ、鎖骨と首を間に入り、一気に斬り抜く。

その一撃は、オフィウクスの体を確かに両断した。

 

だが、それではオフィウクスは倒せない。

 

「くッ!―――――ごふっ」

夏凜はすぐさま二撃目に入ろうとしたところで、突然、口から血を吐き出した。

(無理・・・・しすぎ・・・・た・・・)

活動限界。

自らの生きる為の力のほとんどを出し切ったのだ。

体がどんどん衰弱していくのを感じる。

暗転していく視界の中、夏凜は、オフィウクスにつけられた、大きな傷が、急速に回復していくのを見た。

満開も、解除された。

(ち・・・く・・・しょう・・・!)

そこで、夏凜の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、千景は、胸の中に渦巻く激情と共に見ていた。

 

 

 

 

 

くそ、くそくそくそッ!

 

なんでこんな時に限って端末がない。戦う力が無いんだ!

 

 

 

 

千景の中で、そんな想いが駆け巡っていく。

 

 

皆戦っている。傷付いていく。だというのに、何故、自分だけ戦う力がないのか。

 

何故、自分だけ、端末が返されなかったのか。

 

分からない。解らない。判らない。

 

 

 

千景は、拳を握りしめる。

目の前で、夏凜が全力で戦っている。

たった一人で、強大な敵と戦っている。

なのに、自分はただ後ろでそれを傍観する事しか出来ない。

こんなに悔しい事はあるだろうか。

千景が、ただそこで、激情のまま突っ立っている、そんな時。

 

 

 

 

 

 

『考えないで。ただ、貴方の想いを吐き出せばいいのよ』

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

突然、心の中で響いた、声。

 

 

 

 

 

 

 

『貴方は何をしたいの?戦いたいの?今目の前にいる存在を、ただ己が望むままに殲滅したいの?』

 

 

 

 

違う。

 

 

 

 

『なら、なに?』

 

 

 

 

 

千景は、スッと目を閉じる。

「千景君?」

美森は、そんな千景の様子に気付く。

「――――守りたい」

千景は、呟いた。

 

 

 

「俺は、皆を、友奈を、守りたいッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、千景の姿が、彼岸花を想起させる装束へと変貌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景に、美森は、ただ茫然とするしかなかった。

千景の姿が、突然、いつもの勇者装束へと変貌したのだ。

その手には、巨大な鎌。

千景は、ふっと、深く態勢を深くし、鎌を持っていない左手を、地面に置く。

 

 

そこから、神樹から、力を無理矢理()()()()

 

 

 

「出番だ、『玉藻(たまも)(まえ)』」

 

 

 

さらに、変化。

一瞬の光に包まれたかと思うと、千景の姿は、赤はそのままに、まるで巫女服の様な服装となり、頭には、三角耳、腰には九本の尻尾が生えていた。

 

それは、かつて千景が話してくれた、切り札。

 

それを今、発動したのだ。

そして、美森は確信する。

「行って、千景君」

そう、告げた。

「ああ、行ってくるッ!」

千景は、地面を蹴る。

そして、そのままオフィウクスに向かって突き進む。

その視界の先では、修復されていくオフィウクスが、まだ治り切っていない状態で、夏凜に止めを刺そうとしていた。

 

おそらく、()()()()()()

 

どんな手段を率いても、きっと間に合わない。

なら、どうする?

 

 

情けない話、()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その他人任せの結果がやってきた。

オフィウクスが、右拳を夏凜に振り下ろそうとした時。

 

突如、上空から赤い彗星が落ちてきた。

 

「さ・せ・る・かぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁああぁあぁあぁぁあああ!!!!!」

絶叫と共に、その彗星は、両手に持った斧を振り回してオフィウクスの右腕を斬り飛ばした。

その声は、樹海の中に響いた。

「――――――」

そして、どうにか受け身と取り、比較的軽傷で済んだ翼の耳にも届いた。

それは、懐かしい、そして、この場にいない筈の少女のものだった。

「――――――嘘だ」

視界が、霞んでいく。

「こんなの・・・・何かの夢だ・・・・」

そう、走馬灯の様な、そんな、夢。

 

彼女が、ここにいる訳が無い。

 

あの日、確かに、彼女は、死んだ筈だから。

 

翼は、体を起き上がらせ、オフィウクスを両断した、赤い彗星の姿を見上げる。

両手に、見慣れた巨大戦斧。

牡丹を想起させる、赤と、竜胆(りんどう)を想起させる、白。その二つが合わさった、紅白の勇者装束。

そして、剛と同じ、麹塵(きくじん)色の髪。

それは、後ろ姿。

こちらを向いてくれなければ、きっとわからない。

彼女だと、信じられない。

「――――――ちゃん」

翼は、確かに、彼女の名前を呼んだ。

その声に、答えるかのように、その少女は、ゆっくりとこっちを向いた。

そして、その顔が、完全に、こっちを見た時―――――翼の見ていた夢は砕け散った。

「――――よお、翼」

「――――銀ちゃん・・・・!!」

 

紅白の勇者、『三ノ輪(みのわ)(ぎん)』が、今、この場に推参した。

 

銀が、翼の元へ駆け寄る。

「銀ちゃん・・・どうして・・・」

「説明は後・・・・いや、どうせ見られるか・・・」

銀は、翼を抱えて飛ぶ。

夏凜を拾い、風を拾い、樹を拾い、友奈を拾い、そして、剛を拾った。

普通、一人では持てないような人数を、一人で抱えている。

そして、一度、全員をその場に横たわらせる。

「銀ちゃん、何を・・・」

「いいか、翼・・・・・これを見ても、怖がらないでくれ」

「え?何を―――――」

次の瞬間、銀の右腕、否、装束の下から、『白い何か』が突き破った。

「!?」

それに、眼を見開き驚く翼。

それは、銀の右腕全体を覆い、やがて巨大な腕へと形を整えた。

「銀ちゃん、それは・・・」

「向こうで受け止めておいてくれ」

銀は、翼をその腕で掴むと思いっきり振りかぶった。

「!?」

「オォラァァアアア!!!!」

そして、投げ飛ばした。

「銀ちゃぁぁぁぁぁぁぁああああああん!!!」

翼は叫ぶ。だが、成す術もなく、吹っ飛ばされていく。

しばし空中を飛んだあと、やがて、ある場所に落下する。

「翼君!」

「え!?」

美森のいる場所だった。

美森は、翼を受け止めようと飛んでいた。

だが、そこで、翼は()()()()()()

 

「須美ちゃん!?」

「え?」

 

しまった、と思ってももう遅い。

翼の頭を足より下。そして、美森は一瞬呆けた。

結果、顔面から正面衝突する。

「「ぬあ!?」」

―――という結果にはならず、互いの精霊が翼の持っていた運動エネルギーを全て相殺し、どうにか受け止める事に成功した。

しかし。

「わ」

「きゃ」

そのまま二人とも、地面に落下。

「ん・・んん・・・」

「んぐ!?ふがふが!?」

「ひゃん!?」

思わず、落下によって頭部の強打を覚悟して目を閉じた美森だが、その衝撃は来ず、代わりに、自分の乳房に感じたなんともいえぬ『感覚』を感じて、思わず体がぴくりと跳ねた。

そして、ゆっくりと目を開けると―――――翼が、美森の豊満な胸の片方をくわえこんでいた。

「「・・・・・・」」

互いに、無言。

そして、すぐさま翼が美森から退いた。

「ごごごごごごごごごごめん!そんなつもりは無かったんだ!?君の○○○○をくわえるなんて事は決してしたかった訳じゃ無いんだ!わざとじゃないんだ!それは本当だから信じてくれ!」

尻もちを着きながら、後ずさる翼。

その様子は、羞恥と罪悪感で混乱しているようだった。

それに美森は、顔を真っ赤にして、自らの胸を庇うように座り込んでいた。

「・・・・」

「・・・・・あれ?」

思った以上に騒がない美森に、思わず首をかしげる翼。

その時、翼の上から、風が飛んできた。

「ふがぁ!?」

「あ、翼君!?」

さらに、美森の元には樹と夏凜が降ってきた。

「きゃぁああ!?」

可愛らしい悲鳴が聞こえた。

しかし、これで終わりではない。

 

友奈と剛だ。

 

二人とも、先客によってすでにノックアウト。

よって、受け止める者はいない。

ただ、そのまま地面に突っ込んでも精霊が防いでくれるから大丈夫なのだが。

 

しかしそんな友奈と剛を、受け止める者が一人。

 

「はい、最後の二名入りま~す」

金紗の髪をなびかせ、剛を受け止める、一人の少女。

「!?」

その声にも、翼は聞き覚えがあった。

「園子ちゃん!?」

「やっほ~、ボロボロだねつばくん」

剛を受け止めた少女、乃木園子が柔和な笑みを浮かべて翼に応える。

「どうして!?」

「皆が傷付いていくのを、見ていられなかった。それだけだよ~」

園子は、剛を地面に横たわせる。

「貴方は・・・」

そして、美森は、新たな存在に、困惑していた。

園子は、そんな彼女に、微笑む。

「久しぶりだね~、わっしー」

「・・・・え?」

園子の呼びかけに、美森は、さらに困惑する。

「園子ちゃん」

「うん。分かってる。だけど、ほんの少しだけ、希望があるなら、って思っただけだから」

そして、園子も、翼と同じ表情をする。

いつも、自分に向ける、いっぱいの優しさの中に、ほんの少しの哀しみを含めた、そんな笑みを。

だが、彼女は、すぐさま翼に向き直る。

「つばくんは、ここでみんなを守ってて。あいつは私とふーくんが倒してくるから」

「待って、僕も・・・」

「つばくんは、ここでわっしーを守ってあげて。つばくんの、一番大切な人を」

「園子ちゃん・・・・」

美森は、二人の会話に、疑問を持つしかなかった。

わっしーとは誰か。翼と知り合いなのか。

何故、翼と同じ表情をするのか。

「それと、ふーくんとわっしーを連れて行くからね」

「!・・・・分かった」

翼は、そこで引き下がった。

「・・・銀ちゃんが、いるよ」

「・・・・・ありがとう、つばくん」

そして、銀。

何故だろうか。とても、懐かしく感じるのは。

「行ってきます」

そして、彼女は、オフィウクスに向かっていく。

美森は、翼に歩み寄る。

「翼君、彼女は・・・」

「・・・・乃木園子。そして、僕を投げた張本人の名前は、三ノ輪銀。二人とも、僕と同じ、『先代勇者』だった」

「先代勇者・・・・」

美森は、今飛んでいった少女の後ろ姿を見た。

だが、どんなにその姿をよく見ても、思い出す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ~て、よくもいろいろとしてくれたみたいだな」

銀は、両手に斧を顕現させる。

そして、他のバーテックスなど比較にならない程の速度で再生していくオフィウクスを睨み付ける。

そこへ、一人降り立つ者が一人。

紅の勇者装束、そして、まるで狐の様な姿をした、一人の男。

「・・・不道千景だな」

「俺を知ってんのか」

「・・・お前、そんな姿だったっけ?」

「それの説明は追々と。で、お前は誰だ?」

千景は銀を睨み付ける。

それに、銀は二ッと笑って言う。

「アタシは三ノ輪銀!先代勇者だ」

「先代勇者?いや、三ノ輪って事は、三ノ輪先輩の妹か?」

「そ、アタシは三ノ輪剛の妹」

「死んだんじゃなかったのか?」

「まあ、そこは、ね・・・・」

言葉を濁す銀。

「一応、味方って事だよな?」

「ああ。まあ、もう人間じゃないけどな」

「?」

銀の悲しそうな表情に、首を傾げる千景。

「それはそうと、もう殆ど治り切ってるな」

千景は、空にたたずむ敵を見据える。

オフィウクスの傷は、そのほとんどが治っており、斬り飛ばされた腕ももうほとんど生え変わってきている。

まるで、自分たちの努力を全て否定するかの様に。

そんな中、突然、銀に飛びかかる者が一人。

「ミノさぁぁぁぁぁぁぁあぁああああああああん!!!」

「ぐふお!?」

「なあ!?」

銀の背中に園子が思いっきりダイブして、もつれあうように地面を転がる二人。

「いったた・・・・」

仰向けに、倒れ、背中の痛みに苦しむも、ふと頬に落ちた水滴に、思わず視線を上に向ける。

そこには、ぼろぼろと涙を流す園子の姿があった。

「生きて・・・たんなら・・・・連絡くらい・・・・ちょうだいよ・・・・」

「園子・・・・」

顔はくしゃくしゃになり、溢れ出る感情が涙になって零れ落ちる。

言いたい事が沢山あるが、それがどうにも言葉に出来ない。

とにかく、嬉しさや怒り、悲しみが渦巻いて、ぐちゃぐちゃになっているのだ。

「ごめんな」

銀は、そんな園子の頭を撫でる。

「なあ、感動の再開は後にした方が良いんじゃないか?」

千景が、そんな二人の間に口を挟む。

その視線は、オフィウクスを見ていた。

そこには、もうほぼほぼ再生しているオフィウクスの姿があった。

「この様子じゃ、封印はそう簡単にして貰えそうにないな」

「ぐす・・・・そうだね」

「だけど、御霊の場所はもう特定してる」

「え、分かったのミノさん?」

「おいおい、我らがリーダーが鈍い事で。しばらくベッドの上に寝てたから感でも鈍ったか?」

「お恥ずかしながら」

えへへ~、と笑う園子。

「やれやれ・・・・・あそこだ」

銀は、オフィウクスの頭部を指差す。

「さっき、夏凜の奴がアイツの頭に一撃を入れようした時、思いっきり頭傾けただろ?」

「なるほどな」

「弱点、絞り込んだね」

全員がそれぞれの武器を構える。

「それと、園子・・・」

ふと、銀が、園子に言う。

「これからアタシのする事見て、怖がらないでくれよ・・・・・」

「大丈夫だよ~」

園子は銀に微笑む。

「どんな事をしても、ミノさんはミノさんだよ」

その言葉に、茫然とした銀だったが、やがて安心した様に、フッと笑う。

「そっか・・・だったら、遠慮なくやらせてもらう!」

直後、何かがバキリと折れるような音が聞こえた。

その音の発生源は、銀。

銀の勇者装束が、というよりも、腕全体が盛り上がったかと思うと、やがて内側から、白い物体が突き破ってきた。

「「!?」」

それに驚く園子と千景。

 

それは、骨。

 

その骨は、だんだんと形を成していき、銀の腕、そして持つ斧の柄に、骨が纏わりつく。

やがて、その骨は、巨大な腕を形成した。

その様子に、唖然とする二人。

「・・・・怖いか?園子」

「・・・・ううん」

園子は首を横に振る。

「かっこいいよ。ミノさん」

その言葉に、銀はまた安心したように笑う。

「相変わらず、園子の感性は分からないな」

「え~」

「褒めてるんだよ」

そして、銀は、上空にいる敵を睨み付ける。

「よっしゃァ!あの蛇野郎を一気に片付けるぜ!」

「言われなくてもやってやるよ」

「殲滅するんだぜ~!」

再生しきったオフィウクスの体が動く。

そして、勇者三人が構える。

 

 

次の瞬間、双方がぶつかった。




次回『妖狐と天狗とがしゃ髑髏』

三体の妖怪VS最悪の蛇使い
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