不道千景は勇者である 作:幻在
オフィウクスが、下半身の蛇を一息に千景たちに突っ込ませる。
その攻撃を、いとも容易く避ける三人。
「とにかく頭狙っていこう!」
「オッケー!」
「了解!」
蛇の上をつたって、オフィウクス本体へ接近する園子達。
しかし、それを黙って見ている程、オフィウクスはバカでは無い。
すぐさま残していた蛇を三人それぞれに向かわせる。
「オォオッ!!」
銀は、すぐさま自らの体を軸として高速回転。
斧を振り回し、次々に蛇を斬り落としていく。
「対天武術『灯篭』」
園子は、槍を巧みに振るい、天衣無縫が如く、その攻撃を華麗に避けていく。
「ハァアッ!」
千景は、鎌をとにかく振るい、攻撃を凌いでいく。
それぞれがそれぞれの方法でオフィウクスへ接近していく。
一番最初に辿り着いたのは、銀。
飛び上がり、オフィウクスの正面へ。
「貰った―――ッ!?」
攻撃を仕掛けようとしたところで、銀は気付く。
他の蛇が、すでに砲撃の発射態勢に入っている事を。
「ミノさん!骨を射出出来る!?」
「その手があったかァァアアア!!!」
園子の問いに、銀はすぐさま行動に移る。
銀の背中が隆起し、そこから骨が飛び出す。
「喰らいやがれッ!」
そして、そこからいくつか棘状へと変形させ、それを蛇に向かって射出する。
その骨は、さながら大砲の様な勢いで飛んでいき、全ての蛇の口の中に入る。
その瞬間、蛇の頭部が爆発する。
「よし・・・・!?」
だが、その隙をついてオフィウクスが銀を叩き落とす。
「ぐあぁあ!?」
地面に叩きつけられる銀。
だが、落下の衝撃は銀の精霊『鈴鹿御前』が防いだ。
そこへ、千景が飛び込む。
だが、オフィウクスの反応は速かった。
すぐさま、蛇の一体を千景に向かわせ―――――その胴体を噛み千切った。
「「ッ!?」」
その様子は、遠くで見ていた美森や翼にはっきり見えていた。
あまりにも呆気無く、喰い千切られた。
しかし、その驚愕は――――――次の瞬間、さらなる別の驚愕に塗り替えられる。
喰い千切られた千景が、突如として煙となって消えた。
「「・・・・・・・・・は?」」
そんな、間抜けな声が漏れた。
しかし、茫然としている暇は無かった。
突如として、オフィウクスの周りに、無数の千景が煙と共に出現した。
「「なッ!?」」
玉藻の前。
九尾の狐とも呼ばれるこの妖怪は、何千年ともいえる修練や修行の果てに成る妖怪、それ故に妖術や呪術の類に長けている。
それ故に、炎を生み出し、水に浮かび、風と踊り、土に力を与える。
特に玉藻の前は、相手を化かす事において、群を抜いている。
その姿は、美しい女性からみすぼらしい男まで、多種多様。
化かす事に長けているが故に、
例えば、実体の持つ分身を作り出し、相手を誘いだす事も可能。
または水で化かして
はたまた、火で化かして
卑しい性格ではあるが、その力は、まさしく、妖魔の王の名に相応しい。
まさしく、千変万化の異名に相応しい―――――――――暴力的なまでに美しい妖術の使い手。
「影分身」
さらに、それぞれの分身が、鎌を持っていない掌に、さまざまな輝きを纏わせる。
火遁、水遁、風遁、雷遁――――数えたらキリがない程の属性のオンパレード。
さらに、その属性の使い方も多種多様。
圧縮した空気、水の手裏剣、炎の円盤、雷の矢――――こちらも数えたらキリがない。
さらに、一部の分身たちは地面に降り立ち、両手を地面に置く。
すると、神樹のものではない樹木や、鋭利な切っ先を持つ岩、四角い面を持つ土など、地面に関係するもの全てを利用した妖術で地面そのものに干渉した攻撃を仕掛ける。
さらに、鎌を構えたまま、その刃に、様々な属性を纏わせて飛びかかる者もいる。
それら全て、自らを殺す事の出来る、
『オオオオオオッ!!』
そして、分身たちは一斉に飛びかかった。
まとめて喰らえば、いくらオフィウクスでも、体の殆どを吹き飛ばされるだろう。
だからこそ、下半身の蛇を全て駆使して、それらの迎撃に入る。
高速で動く無数の蛇が、無数の千景たちを喰い千切り、噛み砕き、砲撃で撃ち抜き、叩き伏せ、ありとあらゆる危険要素を虱潰しに潰していく。
しかし、オフィウクスは気付いた。
千景が、一体何を標的にしていたのか。
それは、千景の分身を殺し続けている蛇。
蛇が、気付けばほとんどが打ち倒されていた。
そう、千景の狙いは最初からこれ。
本体を攻撃しようとすれば、当然、蛇が本体を守ろうとする。
それを逆手にとって、まずは、蛇を全て倒す事にしたのだ。
炎で焼き、水で叩き、風で斬り、土で封じる。
やられても、本体には何のダメージにもならない分身を利用して、千景は徹底的にオフィウクスを守る蛇を一匹残らず狩ろうとしているのだ。
それだけではない。
例え気付いて攻撃をやめたとして、結局は、残った千景の分身が一斉に本体に襲い掛かってくる。
そうなれば、例え圧倒的な攻撃速度を持つ『腕』でも対応しきれない。
さらに、分身は千景の精神力が尽きるまで、無数に生み出され続ける。
であれば、いくらオフィウクスでも、一瞬の隙が出来る。
それは、他のバーテックスより高い知能を持つオフィウクスだからこそ、考えた。
そもそも、何故、この人間は、自分の蛇を減らす事に専念しているのだろうか。
この数なら、いくらでも自分への攻撃が可能な筈。なのにそれをしないという事は、何か、
それは、オフィウクスのすぐそばまでやってきていた。
一人の少女が、オフィウクスの背後に飛び出る。
園子だ。
千景のやっていた事は、蛇を破壊する事ではない。『撹乱』だ。
あえて無数の分身で相手の意識をそれらに向ける事で、突破口を開き、見事、園子をオフィウクスの背後へ導いたのだ。
「これで――――ッ!?」
そのまま、オフィウクスの頭部へ攻撃を入れようとした途端、突然、オフィウクスの頭部がぐりんと百八十度回転した。
その口は、大きく開かれていた。
「え―――!?」
そして、その口が急速に輝き出す。
「ッ!?まずい!」
千景がそう叫ぶも、すでにオフィウクスは
そして、その口から、蛇の頭部と同じ、光の砲弾を吐き出した。
その光弾は、すぐ傍にいる園子に真っ直ぐに向かっていく。
回避は、不可。
「させるかぁぁぁああああぁああああああ!!!!」
そこへ、銀が、作り出した骨格のばねを使って、砲弾さながらのスピードで園子をかっさらい、砲撃から救出する。
「ミノさん!」
「投げるぞッ!」
「え―――――うん!」
銀の言葉に、一瞬戸惑うも、すぐにその意図を察して頷く園子。
銀は、右腕に纏わせている骨を増加、変形させ、巨大な腕へと変形させる。
その手が園子の体を掴み、そして、空中で思いっきり振りかぶる。
「喰らえ闘魂!三ノ輪銀様の剛速球は、須美の言う長門の砲弾さえもブッチギルッ!受けてみやがれぇぇぇえええええ!!!」
そして、園子をオフィウクスへぶん投げる。
まるで砲弾の様に飛んでいく園子。
その園子に対して、すぐさま対応するオフィウクス。
「させるかよ」
それを阻止するかの様に、千景が地面を変形させ、伸ばし、オフィウクスの腕を拘束する。
オフィウクスなら、すぐに振りほどけるが、それでも一瞬の隙が出来る。
その隙だけで十分。
園子は一気にオフィウクスへの頭部へと再び急接近する。
だが、それでもオフィウクスは園子へあの砲撃を浴びせようとする。
「風遁――――」
だが、そこへ千景の分身が真横から迫る。
その手には、空気を限界まで圧縮した球体。
それを、オフィウクスの側頭部にぶつける。
限界まで圧縮された空気が、一気に開放されるその勢いは、その場にあるもの全てを吹き飛ばす。
だから、オフィウクスの顔が大きく横を向く。
「対天武術―――」
園子が右手に槍を携え、限界まで引き絞る。
突きによる、殺人的なまでの貫通力と威力を誇る、園子オリジナルにして最強の一撃。
「―――『
その一撃が、オフィウクスの頭部を貫いた。
だが、その直前で、御霊がオフィウクスの体から
「「「ッ!?」」」
それに三人とも目を見開いた。
それと同時に、オフィウクスの体が崩れる。否、分裂する。
「これは――――!?」
その体が、白い、ウジ虫の様な、白い異形へと無数に体を分裂させながら、バラバラになっていく。
「おいおい、どうなってんだ!?」
「わー、いっぱい・・・」
着地した銀と園子が唖然とする。
「銀!園子!」
千景が叫ぶ。
「こいつらを急いで倒せ!また
「「ッ!?」」
千景が、無数の分身を使って、小さな異形―――『星屑』の集団を全力で削りにかかる。
それに答えるかのように、銀と園子も動き出す。
確実な殲滅力、その為には、もっと別の方法でやらなくてはいけない。
「オオオオッ!!」
銀が、体から棘状の骨を突き出させ、それを無数に連続で射出する。
「ハァアアッ!!」
一方の園子は、他の精霊の武装を顕現させる。某機動戦士のファンネルやら剣やらクナイやら、飛び道具という飛び道具、さらには氷の矢やら炎の短剣やらを顕現させて、それを星屑へと放つ。
星屑は、瞬く間に減っていく。
だが、崩れていくオフィウクスの胴体の上、そこから、いきなり圧縮されていたかのように、中から体から出てくる星屑の数とは比べ物にならない程の大量の星屑が飛び出てくる。
「な!?」
「何!?」
銀と千景が思わず目を見開く。
「もしかして、
園子の指摘、それは的を射ている。
(あれか―――ッ!)
かつての記憶の中、その光景を千景は覚えている。
巨大な卵のようなものの中に、蠢く、あの白い異形。
だが、あれほど大きな卵にあの数、いくらなんでも大多すぎる。
少なくとも人三人分は入る程のサイズを、巨大ではあるが他のバーテックスよりは華奢な体の中にどうやって隠していたのか。
だが、そんな事を考えている暇は無い。
「まずいッ!」
千景が見据える先。そこには、オフィウクスの御霊がある。
星屑たちが、それに群がるように集まっていき、一気に形を成していく。
「おいおい嘘だろ・・・・!?」
「これが狙いか~」
銀と園子の顔が引き攣る。
瞬く間に、集まった星屑たちが、形を成していく。
バーテックスは、本来、生物が長い年月をかけて成し遂げていく『進化』を、ものの数分で『融合』という形で成し遂げてしまう。
星屑が、『細胞』だとして、それらが集まった存在は、一つの個体として君臨する。
その『完成体』にまで昇華した存在を、
頂点。まさしく、バーテックスは、生物の頂点に座する存在だろう。
星屑が形を成し、再びオフィウクスが君臨した。
また一からやりなおし。
「何回続くのかな。これ」
銀が呟く。
せっかく苦労して形を崩したのに、これではやりなおし。
流石に連続はきつい。
しかし
「あ、ピッカーンと閃いた!」
そこで、園子が何かを閃いた。
「待ってましたぁぁああああ!!」
「うお!?」
銀が叫び、千景がそれに驚く。
「ふーくん、たしか今憑依させてるのって『玉藻の前』だよね?」
園子が、そう聞いてくる。
それに千景は、溜息を一つ。
「・・・・時間を稼げ」
「了解。ミノさん」
「しゃあ!やってやるぜ!」
銀が、腕の骨をさらに増量させる。
これによって、さらに膂力が強化させる。
「それじゃあ、私も頑張っちゃうよ~」
園子の周りに、全十六体の精霊が出現する。
そして、千景は下がり、自らの鎌に、自分の左手を重ねる。
「三分、それ以内に準備を終わらせる」
「分かった。ミノさん、三分だよ」
「分かってるって!」
そして、二人は、オフィウクスに向かって走り出す。
オフィウクスの蛇が砲撃を開始する。
狙いは―――千景だ。
「やっぱそうくるよなぁぁあぁぁああああ!!」
銀が、骨を展開する。
それは、壁となり、砲撃を防ぐ。
「ぐう―――ちょっとキツイ・・・けど、一分は持ちこたえてみせらァ!」
「十分だよ!」
その間に園子がオフィウクスに突っ込む。
別の蛇が、園子に襲い掛かる。
だが、園子は華麗にその猛攻を避け続ける。
「対天武術『
岩をも断つ、力任せの剛撃。
その一撃を持って、蛇を一匹一匹、確実に討ち取っていく。
「対天武術『
さらに、一匹の蛇の上に降り立つと、一気に加速、姿が霞む。
そのまま、一気にオフィウクスへと接近。途中、蛇の妨害にあうも、それをいとも容易く切り払う。
そして、オフィウクスの大きくも華奢な胴体に、強力な
「対天武術『
右掌で、オフィウクスを大きく押し出す。
オフィウクスの体が折れ、その巨体を下がらせる。
だが、それでは終わらない。
「ハァァァアアッ!!」
さらに、槍を仕舞い、左手で二撃目を入れる。
そのまま連続で押し、どんどんオフィウクスを下がらせる。
だが、黙ってその攻撃を受けるオフィウクスではない。反撃と言わんばかりに蛇を園子を向かわせる。
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁああ!!!」
しかし、園子の熊倒によって砲撃が止んだことで動けるようになった銀が、巨大な戦斧を振り回して、蛇の長い首を斬り落としていく。
「園子、には、指、一本、触れさせねぇぇぇぇぇぇええええ!!!」
拘束で回転し、蛇を斬り落としていく。
その蛇は、西洋の神話に出てくるヒュドラさながらの再生力で首を瞬く間に生やし、また襲い掛かってくる。
その猛攻に、いくら銀一人で、耐えきれる筈もない。
やがて、蛇の一匹が、銀の右腕に噛みついた。
「ミノさんッ!?」
園子がそれに気付いて、叫ぶ。
そして、彼女の脳裏に蘇るは、あの戦いの情景。
鮮血をまき散らして戦う中、
その時の、恐怖を思い出し、園子は、つい銀に腕を伸ばした。
だが、銀は叫んだ。
「攻撃をやめるな!園子!」
「ッ!?」
その直後、銀の右腕が喰い千切られた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあああああ!!!」
絶叫する園子。
一方で、銀の喰い千切られた右腕から、大量の血が――――――――――出なかった。
「悪いな――――アタシの武器は返してもらう!」
それどころか、銀の右腕から
もともと、その腕が初めから骨だったかのように。
銀は、右腕の骨を伸ばし、先ほど右腕を喰い千切った蛇に突き刺す。
その口には、銀の斧が加えられたまま。
銀は、伸ばした骨を巻き取る様に縮小させ、一気にその蛇に近付いていく。
「オオオオッ!!」
そして、左の斧で、その蛇を頭部を斬り飛ばし、それと同時に斧を回収する。
まるで何事も無かったように降り立つ銀。
異形だった右腕も元の形に、しかし骨のまま戻り、まるで自分の腕の様に動かす銀。
そもそも、何故銀の
それ以前に、銀の扱う体から骨を無限に生み出す能力は一体なんなのか。
強敵との戦いだったから、気にしないでいたが、園子は、改めて戦慄する。
今の銀は、人間じゃない。
それがどういう事なのか、園子には理解できない。
だけど、それでも――――
(ミノさんは、ミノさんだよね)
今目の前で、頼もしく戦っている銀。
それは、誰よりも優しく、強く、格好良い、自分たちの切り込み隊長。情熱の勇者『三ノ輪銀』だ。
ならば自分も、精一杯戦うだけだ。彼女たちの、リーダーとして。
「よし、それじゃあもう一押しだね!」
そして、園子が、再び、オフィウクスへ攻撃を加えようとした時、それが来た。
「もう十分だ」
「「!」」
その声は、オフィウクスの正面から。
そちらへ視線を向けると、そこには、鎌を構えて佇む千景の姿があった。
「準備が出来た。離れてろ」
千景が、二人にそう言う。
二人は、それに大人しく従うように、オフィウクスから離れた。
主に、千景の鎌。
その刃から発せられる、
まるで、この世の全てを妬み恨み憎んでいるかのような、そんな、負の感情に満ちた、殺意を。
そして、オフィウクスは、怯えていた。
「どうした?そんなにこの鎌が怖いか?」
オフィウクスは、千景から距離を取る様に、下がっていた。
「なら、お前は正しい、だけど正しくもない。これは、恐怖とかそんな
千景は、深く体を沈める。
「せいぜい足掻け」
そして飛ぶ。
オフィウクスは、千景から、全力で
蛇の砲撃を我武者羅に撃ちまくる。
とにかく撃つ、跡形もなく、消そうとする。
それほどまでに、千景の持つ力は恐ろしいものだから。
千景は近づけない。
このままでは、ジリ貧だ。
だからこそ、仲間がいる。
「オオオオッ!」
銀が、骨を射出する。
乱射された骨の棘は、蛇にどんどん突き刺さっていく。
「対天武術『縄張』」
園子は、槍を伸ばして、蛇の首を斬り落としていく。
それによって蛇は数を失い、同時に、千景はオフィウクスへますます近付いていく。
とうとう、蛇の首の射程に入る。
オフィウクスは、ついに蛇を向かわせる。
まるで、鎌の振るわれる死角から攻撃するかのように。
だが、それで反応できない千景ではない。
鎌の一撃が、蛇の頭部を掠める。
そして、掠めた瞬間、オフィウクスがいきなりその蛇を根元から斬り落とした。
さらに、その斬り落とされた蛇が、まるで腐ったかのように、崩れ、跡形もなく消滅した。
「やっぱり!」
園子は、その原因を知っている。
玉藻の前の伝説において、その結末は、魔物の物語において必然とも呼べるもの。
平安時代後期、玉藻の前は鳥羽上皇に求愛されたものの、その鳥羽上皇が病に伏せてしまう。
その原因は、とある陰陽師によって、その正体を見破られてしまった九つの尾を持つ狐、『九尾の狐』の玉藻の前だった。。
正体がバレたために栃木県まで逃げたものの見つかり、結局は武士たちに退治されてしまうのが結末だ。
しかし、その直後、玉藻の前は、その姿を永久に命を奪い続ける石に変え、周囲の木々を腐らせ、生命を殺し続けた。
何人もの僧侶が、この石の鎮魂にやってきては殺され、やっとの思いで砕かれても、その怨念はその石に残り続けた。
ありとあらゆる『生』を殺し続ける呪われた石。
そして、玉藻の前、唯一の、
その名は――――――――
「『
千景は、走り出す。
もはや自棄なのか、オフィウクスが、蛇を一斉に向かわせる。
そこへ、銀の骨が飛来、地面を抉り、土煙を巻き起こす。
さらに、園子の精霊の一体が、砂塵を巻き起こし、オフィウクスの視界を四方八方から遮る。
警戒するオフィウクス。
その中で、巻き起こる砂塵の竜巻。
その一方から、オフィウクスにとって、小さな影が飛び出してくる。
オフィウクスは、それに反応し、何者も反応できない速度でその影を殴り飛ばす。
ばきぃ・・・・
そんな、何かが砕ける音がした。
そして、オフィウクスは猛烈な違和感を抱いた。
これは、肉の感触では無い。
「引っ掛かったな」
それは、骨の楯を張った銀だった。
まさかの囮。ではあの人間はどこへ?
必ず、襲ってくる。
それだけが確か。
「
そこへ、上空から落ちてくる、一人の少年。
誰が言わずもがな、千景だ。
オフィウクスは、すぐさま振り返り、上空へ向かって拳を振るう。
しかし、それよりも速く、
「これで、王手だよ」
園子が、笑う。
その間に、千景が、鎌を振り上げる。
「全ての生きとし生けるものに、平等なる死を――――」
鎌が変形し、光の刃を出現させる。
しかし、その形は以前とは違う。
刃が通らなければ、意味は無い。
だから、ダメ押しで一撃を入れる。
「故に、これは我が唯一にして最後の真実――――」
鎌の形が、左右から刃が生えるだけではとどまらず、その形が斧のように形を変える。
「呪い殺され無に帰せ、『
全ての生を平等に殺す、死の呪いを、その胸に受けたオフィウクス。
その直前に、オフィウクスの御霊は、オフィウクスの頭部から逃げる。
そして、その直後に、オフィウクスの体は、死の呪いによって死滅していく。
分裂する事は無い。
地面に着地した千景は叫ぶ。
「御霊を逃がすなァ!」
「言われなくても!」
「やってやるよッ!」
園子と銀が、壁の外へ逃げようとする御霊に同時に襲いかかる
「対天武術『
「オオオオオッ!!!」
強力な一撃が、同時に振るわれる。
御霊は、十字に斬られ、そして、その形を爆散させる。
地面に降り立つ園子と銀。
千景は、大葉刈と殺生石を解除し、二人に駆け寄る。
「これで終わったのか?」
「うん。今回の襲撃はこれで終わりだよ~」
「あ~、終わった~」
銀が、腕を回す。
「お疲れ様、ミノさん」
「おう!」
「・・・・」
ふと、千景は、銀の右腕を見る。
銀の右腕は、骨によって形成された、異形の腕があった。
勇者装束が破れた事により、それが露出されている。
「ん?ああ、これか」
銀が、千景の視線に気付き、その腕を自分の前に持っていく。
「憑依じゃない・・・それは一体・・・・・」
「話すと長くなるけど・・・・・おっと」
周囲が、光に包まれる。
「ごめん、続きは向こうで」
「・・・分かった」
両手を合わせて謝ってくる彼女に、頷く千景。
そして、周囲が、光に包まれた。
「――――――ごめんね。少し付き合ってもらうよ」
光が収まる。
そして、視界に入ったのは、夕焼け色に染められた、
「・・・・・・は?」
まず一つ目に、いつも送り返される讃州中学の屋上では、海は見えない。
というか、
ここはどこだ?
「千景君?」
「!?」
ふと、聞き覚えのある声に、思わず振り返る。
そこにいたのは、美森だった。
「東郷か」
「千景君、ここは・・・・」
「戻ったは戻ったが、どうやら、別の場所に飛ばされたみたいだな。それもかなり遠くだ」
千景が見る先、そこには、天に向かって大きくひしゃげた、瀬戸大橋の姿があった。
「大橋・・・」
美森は試しに携帯を取り出して位置情報を確認しようとする。
「・・・・電波が入ってきていない?」
美森が首を傾げる。
「何?」
「改造版なんだけど、電波が全然はいってきていないの」
「今ものすっごく聞いてはいけない事を聞いた気がしたが気にしないでおこう」
その方が、安全だろう。
だが、そこで千景は考える。
何故、自分と美森だけがこんなところに飛ばされたのか。
神樹によるものか。否、神樹がこんな事をしても意味が無いのは分かっている。
だが、送り返される場所を少数ながらも変える事が出来るのは、僅かばかり神をも凌ぐ力を持っている者。
それが出来るのは―――――
「会いたかったよ。わっしー」
「お前か、園子」
そこにいたのは、病衣を着た、包帯だらけの少女だった。
次回『勇者の真実』
それは、余りにも残酷な真実で―――