不道千景は勇者である   作:幻在

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勇者の真実

「ようやく呼び出しに成功したよ。わっしー」

園子は、戦闘の時とは全く違う、穏やかな様子で、微笑んでくる。

「わっしー・・・・鷲・・・」

千景は、そう繰り返す。

だが、すぐさま、その疑問を振り払い、美森の方を向いた。

「で、東郷はこいつを知ってるか?」

「・・・・・いいえ、初対面だわ」

美森は、そう答えた。

 

やはりか。

 

千景は、そう思った。

「あー・・・・あはは」

園子は、思い出したかのように声を漏らし、そして、力無く笑った。

「わっしーっていうのわね、私の大切なお友達の名前なんだ~」

「なあ、聞くが、その友達って、翼やあの三ノ輪銀も含まれるのか?」

「うん。私の、大切な友達だよ~」

本当に、覇気の無い口調だ。

これが、先ほどあの強力なバーテックスを押し返していた勇者の姿なのか。

「俺たちを呼んだ・・・と、言ったな・・・・それって、あの祠を使ったのか?」

千景が、すぐ傍にある、学校の屋上にもある同一の祠を見た。

「うん、そうだよ~」

「そうか・・・」

どう、切り出せばいいのか、分からない。

千景には、見えていた。

彼女の、体のほとんどが、真っ黒く塗り潰されている事を。

「・・・・・・翼君から聞いたわ。貴方、翼君と同じ、先代勇者だって・・・」

「うん。私と、つばくん・・・あ、つばくんっていうのは翼君の事だよ。それでね、あと、ミノさん・・・ああ、さっき一緒に戦ってた子ね。名前は『三ノ輪銀』て言うんだ。そして、もう一人の友達と一緒に、えいえいおー、って頑張ってたんだ」

「だけどそんなになった・・・・・」

「それは、バーテックスにやられたの?」

美森は問うた。

「ううん・・・・私、これでもそこそこ強いんだ」

「だろうな。何せ、あの人の元で、鍛錬を積んできたんだろ?」

後ろから、足音が聞こえた。

こつり、こつり、と、古い革靴の音が、後ろから聞こえた。

「お前の使う『対天武術』のもともとの名前は、『対天剣術』。対バーテックス用に作られた、()()()()が作った剣術だ。それを派生させたのがお前の槍術。そうだろう?」

千景は、振り向く。

そこに立つ、男に向かって。

 

 

足柄(あしがら)辰巳(たつみ)さん」

 

 

そこに立つのは、一人の、五十代に見える、男。

その体は逞しい程に鍛えられており、厳ついそのしわのある顔は、威厳ある強者の風格を思わせる。

髭も、妙に似合っている。

「あれ?師匠(せんせい)の事知ってたの?」

園子は首を傾げた。

「・・・・」

美森は、その男の気迫に黙り込んでいる。

「・・・・・千景、という名前を聞いた時から、予感はしていたが、そうか、お前が千景の子孫か」

「不道千景です。一応、先祖から記憶を受け継いでいるので、貴方の事は知っています」

千景は男、『足柄辰巳』に向かって、そう自己紹介をした。

「話したい事は色々とあるが・・・・まずは園子の話が先だろう」

それに、園子は、辰巳に目を向けた。

美森と千景はそれに気付いていない。

「・・・・他の奴らは外で待機させている。盗聴器も無い」

「そっか・・・・ありがとうございます、師匠(せんせい)

千景と美森は、園子の方向を見た。

「そういえば、貴方の名前を聞いてなかったな」

「あ、東郷美森、です・・・」

いきなり振られ、戸惑い気味に答える美森。

「美森ちゃん、か・・・・美森ちゃんは、満開をしたんだよね?ぱーって咲いて、わーっと強くなる奴」

「え、ええ・・・・」

「そっか・・・・」

園子の眼に、哀しみがうつる。

「咲き誇った花は、その後どうなると思う?満開の後には、『散華(さんげ)』っていう隠された機能があるんだよ」

「散華・・・・華が散る、の散華・・・」

美森が、繰り返す。

「・・・・おい、待て」

 

「満開のあと、()()()()()()()()()()()()()筈だよ」

 

「え・・・・」

「・・・・そういう事か・・・・ッ!」

美森は絶句し、千景は悔しそうに歯を食いしばる。

「散華っていうのは、神の力を使った代償として、自分の体を供物としてささげる事か・・・・ッ!」

「ッ!?」

「うん。そして、その代わり、勇者は、決して死ぬ事はないんだよ」

「・・・・俺以外はな」

「うん、ふーくん以外はね。何せ、神樹様から、()()()()()()()()()存在だからね」

千景は拳を握りしめる。

「不道千景」

ふと、後ろの辰巳が、口を開いた。

「お前の勇者システムは、本体なら、機能しない筈だった。お前は、勇者としての適性が()()()()()()からな」

「え・・・なら、どうして・・・・」

美森が聞いた。

「それは分からん。ただ、不道にダウンロードさせたアプリは、他の奴らと同じものだ。それが、不道の中にある千景の魂となんらかの影響で同調して、樹海へと向かわせた」

「本当なら、そこまでで終わる筈なんだけどね」

園子は、理解しているかのように、口を開く。

「樹海には入れる。だけど勇者には慣れない。本来なら、ふーくんはそんな存在になる筈だった。だけど、それでも、君の魂は、戦う力を欲した。初代勇者の魂じゃない。ふーくん自身の、熱い魂って奴がね」

「魂・・・・」

千景は、自分の胸に手を当てる。

師匠(せんせい)から聞いたけど、精霊を憑依させる、あの『切り札』っていうものの代償として、体に瘴気が溜まっちゃうんだけど、どうやら、ふーくんの魂は、その瘴気を消し飛ばしちゃってるみたいだね」

そこで千景は気付く。

日本三大妖怪に数えられる玉藻の前を憑依させたのに、千景の精神は異常なほどに正常だ。

普通なら、負の感情が表に出る程、気分が暗くなる筈なのに、今はそれが全く無い。

疲労は感じるが、それ以外には何も問題は無い。

「ふーくんは、自分が思っている以上に、情熱的な人だよ。自分でも気づいてないと思うけどね」

「・・・・それで、お前は、満開をやり続けて、そんな体になったのか?」

千景は、園子に聞いた。

そして、園子は、それを肯定した。

「うん。でも大丈夫だよ。敵はちゃんと撃退したからね」

「満開をし続けて、戦い続けて・・・・その体は、その代償で・・・」

美森の信じられないかのような問いかけに、園子は―――

 

 

「うん」

 

 

―――もう一度、肯定した。

 

「「―――――――」」

二人は、絶句した。

彼女の言う事。

そして、今の、勇者部の現状。

「・・・・・神に見初められるのは、いつだって無垢なる少年少女だ」

辰巳が、口を開いた。

「いつの時代において、神々に供物としてささげられるのは、そんな存在だ。穢れなき身だからこそ、大いなる力を宿せる。その力の代償として、体の一部を供物として捧げる。それが、今の勇者システムだ」

辰巳は、淡々と述べた。

「・・・・足柄さん。貴方なら、俺達にこの事を言えた筈だ。なのに・・・何故、言ってくれなかったんだ」

しばしの沈黙。

そして、辰巳は、口を開いた。

「・・・・すまない。大赦から監視されていて、お前たちと上手く接触出来なかった」

「・・・翼の場合は、人質ですか?」

「・・・・・その通りだ」

「ッ!?」

美森が、息を飲んだ。

「座を放棄したとしても、翼の兄は、未だ六道家の人間だ。さらに、翼と違って、奴は武術面では一切の才能を示さなかった。それに、翼にとっては、たった一人の兄だ。故に、人質としては恰好の的だ」

「大赦は、何故そこまでして・・・」

美森は、辰巳に聞いた。車椅子に置く、手を震わせて。

「・・・・分からん。ただ、今の俺には、今の大赦を変える力は無いという事だけだ。出来るのは、次の勇者を育成する事だけだ」

辰巳は、淡々と答えた。

だが、その目は、果てしない程の悔恨の色が見えた。

それは、千景が知る、辰巳の眼とは、程遠いものだった。

ただただ、戦えない悔しさと、次々と死んでいく、勇者や、仲間たちに置いて行かれる苦しみ。そして、いつ終わるかも分からない、戦いへの憎しみ。

自分が戦えない中、ただ、自分の育てた勇者たちが傷付いていく様をただ見る事しか出来ない。

それは一体、()()()として、どれほどの悔しさなのだろうか。

「・・・なあ、園子」

「なに?」

「お前は、知ってたのか?知ってて、満開を使ったのか?」

その問いに、園子は―――

 

 

「―――うん。知ってた。他の皆も、知ってて使った」

 

 

肯定した。

何の躊躇いも無く、ただ、本当の事を言った。

「あ、皆、とは言えないかな。ミノさんはちょっとした事情で戦ってなくて、三人でバーテックスを追い返した、て所かな」

「その二人・・・・翼も、知ってて、満開を使ったって事なのか・・・・」

「うん。つばくんも、そしてもう一人の友達も、その危険性を知ってた上で、満開を使ったんだよ」

「どうして・・・・私たちの時は知らされなくて、貴方達の時は知れたの?」

美森が、そう聞いた。

師匠(せんせい)が教えてくれたんだ。大赦自身は知らせるつもりは無かったんだろうけど、師匠(せんせい)だけは、教えてくれたんだ」

園子は、申し訳なさそうに、答えた。

「なのに・・・なんで、戦う事をやめなかったの?体の機能を失うと分かってて、どうして、戦う事を選んだの?」

美森は震える手を握りしめて、そう問うた。

怖い、とても怖い。

そんな気持ちが、はっきりと分かった。

「守りたいものがあったから」

それに園子は、なんの躊躇いも無く答えた。それだけは本物である事を言うかのように。

「どんなに傷付いても、辛くても、守りたいものがあったから、私とつばくんは戦ったんだ。どんなに、苦しくても、ね」

まるで、あやすように、落ち着かせるような口調で、答えた。

それに、美森は、背中を丸めて、体を震わせる。嗚咽が漏れる。

「・・・・また、今度話そう。これ以上は・・・・」

千景の提案に、園子は受け入れた。

「うん。流石に一度に言い過ぎたね。ごめんね・・・」

その時、園子の頬に、何か、煌くものが落ちた。

「お前・・・」

「あれ・・?」

それは、涙。園子の、残った瞳から流れ出た、哀しみから来る、涙。

(ああ、そうか・・・)

本当は、園子は辛かったのだ。

友達に会えない、体が動かない、好きな場所に行けない。

そんな、何もかもが束縛されたような生活を強いられて、果たして、辛くない訳があるのだろうか?

 

否、断じて、否。

 

辛い筈だ、苦しい筈だ、嫌な筈だ、悲しい筈だ、憎む筈だ。

体が動かない不幸。

何も出来ない苦痛。

今の生活に対する嫌悪。

友に会えない悲痛。

こんな体にした、神への憎悪。

そんな想いを、体が動かなくなった時から、ずっと抱き続けて、果たして、正気でいられるのだろうか。

今、彼女の精神が安定している理由は、翼が顔を出している事によるものだろうが、それでも、苦しい事には変わりない筈だ。

 

そんな想いを、きっと、彼女は、心の奥底に、圧し潰して生きてきたのだろう。

 

「あはは、どうしてだろうね。泣かないって、決めてた・・・筈なのに・・・」

だんだんと言葉が途切れていく。

「・・・・」

そんな中で、ふと、美森が動いた。

車椅子を動かし、園子の寝るベッドの横に行った。

「東郷・・・」

そして、美森は、園子の流している涙を拭った。

それに、一瞬目を見開いた園子。そして、その表情は、笑みへと戻る。

翼と同じ、いっぱいの優しさの中に、哀しみを含んだ笑顔を。

「そのリボン、似合ってるね」

ふと、園子は、美森のトレードマーク、あるいは、チャームポイントともいえる、緑色のリボンを褒めた。

それに、美森は、震える手でリボンを握りしめた。

「このリボンは・・・とても大切なものなの・・・・それだけは覚えてるの・・・でも、ごめんなさい・・・・何も、思い出せなくて・・・・」

美森さえも、涙を流す。

それに、千景は、やるせなさとどうしようもない憤りを感じ、顔をそむけた。

「・・・しょうがないよ」

そんな様子を、辰巳は黙って見守っていた。

「・・・・東郷美森、不道千景、どうする?今日は、これぐらいにするか?」

辰巳は、そう聞いてきた。

それに、すぐには答えられない、千景と美森。

しばしの沈黙。

 

 

 

 

 

しかし、そこで、とある、()()()()を思い出した。

 

 

 

 

 

「あの」

「おい」

同時に、辰巳に問いかける二人。

二人は、一瞬、目を合わせ、お互いに、同じ結論に辿り着いた事を確認した。

そして、美森が切り出した。

「・・・・・友奈ちゃんは、()()満開した筈です。二回目の満開の代償は味覚だという事は分かっています。ですが、()()()()()()を、私たちはまだ分かっていません」

その問いに、辰巳は、思わず目を逸らした。

「教えてくれ、足柄さん。友奈は、一体()()()()()んだ?」

声が、震えている。おそらく、怖いのだ。何よりも、その答えを聞く事が。

それの内容が、限りなく、恐ろしい事だという事を。

特に千景は、それだけは最も目を逸らしたかった事案だった。

「・・・・・」

辰巳は、躊躇う。

言っても良いのか、ダメなのか。ただ、言えば、おそらく、千景たちは、きっと絶望する。

 

 

 

だって、それは、()()()()()()()()()()しかねない事なのだから。

 

 

 

 

「・・・・・」

だが、ここで言わなければ、おそらく、最悪の結末を辿るかもしれない。

()()()()()()()()辰巳は、その経験上から、結論を出し、そして、口を開いた。

「・・・・・」

師匠(せんせい)・・・・」

園子が心配そうに、辰巳を見ていた。

千景と美森は、何も言わない。

ただ、辰巳の口から聞かされる『真実(答え)』を待つ。

そして、辰巳は顔を上げ、二人に、告げた。

 

 

「・・・・結城友奈が一回目の満開で失ったものは――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦によって用意された車の中で、千景と美森は、一言も言葉を発さず、ただ、千景は窓から見える移り変わる景色を見て、美森は、俯いたまま。

ただ、辰巳の口からもたらされた真実を、頭を反芻していた。

 

まるで、裏切られた気分だった。

 

友奈の性格上、言わなかった、というのが正しいのかも知れないが、それでも、彼女が、()()を失ったのなら、()()()()()()()()()()()()()筈だ。

そうなぜなら、結城友奈は、人として、最も()()()()()動いているものを失ったのだから。

「・・・どうしてなの・・・・・・友奈ちゃん・・・・・」

ふと、美森の声が聞こえた。

その声は、普段通りの覇気が感じられなかった。

「どうして・・・・どうして・・・・どうして・・・・」

「・・・」

千景は、そんな美森の姿を、黙って見る事しか出来ない。

「東郷・・・」

名前を呼ぶ。だが、それ以上、何も言う事は出来なかった。

何故なら、気付いていながら、その事を伝えなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結城友奈が一回目の満開で失ったものは―――――――――『心臓』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『再開』

大切な人との、束の間の再開の喜びを。
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