不道千景は勇者である   作:幻在

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再開

オフィウクスとの戦いから、三日。

 

先の戦いにおいて、端末を返された千景と美森以外は怪我を負ったので、入院している。

特に、夏凜の容態は酷く、生死の境を彷徨っているとの事。

翼曰く、夏凜がやったのは、己の生存本能を意図的に破壊し、本来手を出してはいけない力に手を出したからだと言う。

本来、生物全てにおいて、生きる為として、生存本能というものが、存在する。

それゆえに、人間は本来の三十%以上の力を発揮できないのだ。それを超えればたちまち、自らの体を壊してしまうからだ。

だが、夏凜は、その生存本能を何故か破壊する事が出来た。

理由としては分からない。

ただ、夏凜の、兄を超えたいと思う気持ちは、そのリミッターを破壊するに至ったという事だ。

生きる為のエネルギーを根こそぎ絞り出した夏凜の今の状態はかなりの衰弱状態にあるようで、しばらく、集中的な治療が施されるとの事だ。

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わって、夏凜を除いた勇者部一同は、一つの部屋に集まっていた。

「夏凜ちゃんが・・・・・」

友奈の信じられないとでも言うような声が漏れた。

「あれほど使うなって言ってたんだけどね・・・」

一方で、夏凜の容態を伝えた翼の表情も暗い。

「命に別状はないらしいけど、それでも油断は出来ないらしい。しばらくは、起きられないと思う・・・」

翼の言葉に、全員が苦虫を噛み潰したかのような表情になる。

「部員がそんなになってるのに・・・・何も出来ないの・・・?」

「くそ、これじゃあ庇った意味がねえじゃねえか・・・・」

「・・・・」

体のあちこちを包帯で巻いた、美森と千景以外の部員たちは、そう悔し気に言葉を漏らす。

「・・・・夏凜の事については、今は置いておこう」

千景が、そう言う。

「千景君・・・」

「命に別状がないなら、まず今すぐ死ぬって事はないだろうさ」

「千景、流石にそんな言い方は・・・」

風が咎めるように言うが、それを遮るように千景が次の言葉を放つ。

「だから今は、すぐにでも解決できる事を話し合おう。あの・・・・・三ノ輪銀の事についてな」

「なんだと!?」

剛が、思わず声を挙げる。

「なんでお前が銀の名前を知ってんだ・・・!?」

下手をすれば、今すぐにでも殴りかかりそうな雰囲気になる。

そんな剛を慌てて止めようとする一同。

だが、そんな切羽詰まった状態も一気に意気消沈する事になる。

「兄貴」

ふと聞こえたそんな声。

その瞬間、剛の中の時間が、止まった。

他の全員の視線は、一斉に部屋の入口へと向かう。

そこにたつのは、剛と同じ麹塵色の髪をした少女。

身長は、友奈を超え、髪の毛は頭の後ろで結っているものの肩甲骨あたりまで伸びており、しかしその顔立ちは、翼の知る無邪気さを残している。

剛の顔が、ゆっくりと銀に向く。

その顔を認識した途端、一瞬、それは何かの悪い夢かと思った。

「兄貴、ちょっと遅くなったけど、ただいま」

だが、確かに、彼女はそこにいた。

そこからの剛の行動は早かった。死んだ筈の最愛の妹が、そこにいるのだから。

「銀!」

一気に駆け寄り、体当たりをかます勢いで銀に抱き着く剛。

「うわ!?」

「銀!銀!」

「分かった!分かったから!ああもう!なんだよ、アタシだって我慢してたんだぞ馬鹿野郎!」

剛の泣き声が、その場にこだましていく。

 

 

 

数分経った後。

「すまん。見苦しい所みせた」

「いいわよ、それぐらい。せっかくの再会でしょ?」

まだ目が赤い剛を慰めるように風が背中を撫でる。

「えー、それでは改めまして。三ノ輪剛の妹の三ノ輪銀です!兄がお世話になっています!」

『いえ!そんな事はありません!』

樹がスケッチブックにそのように書く。

『剛先輩にはこちらが助けていただいているというか』

「いいよいいよそんな事言わなくても。でまあ、もう一つあるって言えば、翼の幼馴染であんたたちの先輩勇者にあたるって事かな?」

「間違ってないよ、銀ちゃん」

翼がそれを肯定する。

「まさか翼が先代勇者だったなんて・・・・まあ、薄々気付いてはいたけどさ・・・・」

風が額に手を当てて呆れる。

「それで、どうして銀ちゃん、生きてるんだい?あの時、確か君は・・・」

「ああ、確かにアタシは死んださ。ちゃんと一回、きっちりとな」

「火葬もされた筈だよ?」

「そ。その筈だ。だけど、アタシは何故かここにいる」

銀の服装は、黒いジャケットに長ズボン、そしてどういう訳か、右手にだけ手袋をしている。

「何かあったのかよ?」

「・・・・まずはさ、これを見てほしいんだ」

そう言って、銀は、自分の右手の手袋を外した。

『!?』

翼、美森、千景以外の全員が息を飲む。

そこにあったのは、およそ人間のものとは思えないものがあったからだ。

筋肉、神経、血管、皮膚の下で形成されている、人間が体を動かす事において必要なものが、全て、真っ白い『骨』で形成されていた。

さらに、上着を脱ぐ銀。

下はTシャツみたいだが、問題はそこではない。

右腕の二の腕の半ばまで、その腕は、骨で形成されていた。

「お前・・・・それ・・・・」

「アタシ、実はさ、最後にバーテックスと戦って気を失った・・・・いやこの場合は死んだというべきか?・・・まあそれは置いておいて、気付いたら、敵の本拠地にいたんだよ」

『ハア!?敵の本拠地!?』

銀の口から聞かされた事に全員の声が一斉にハモる。

「ぎ・・・三ノ輪さん、敵の本拠地にいたの!?」

友奈が身を乗り出してそう銀に聞く。

「銀でいいよ。でまあそうなんだけどさ、その時まではアタシの右腕はなくてさ、それに、変な水槽の中にいて、目の前には八神翔琉やら安室佐奈やら、とにかく何人もの敵がいたわけよ。それで、その中で敵の親玉っぽい白衣を着た女が、アタシに何をしたのか解らないけど、こんな体にしたんだよ」

と、銀はデモンストレーションをするかのように、右腕を変形させ始めた。

バキバキと、プラスチックが割れるような音が響き、銀の白骨の腕がさらに隆起していき、やがて一本の杭のようになる。

それに、全員が唖然とする。

それを分かってたかのように、銀は右腕を元の形に戻す。

「まあ、簡単に言うと、今のアタシに出来るのは『骨の無限生成』。ついでに軽い再生能力までオマケについて、大抵の怪我なら簡単に直っちまう。まあ、しいて言うところの『化け―――――」

「言うな」

銀が言わんとしていた事を、剛が止める。

「頼む。言うな」

「・・・・わかった」

まるで、聞きたくないとでも言うように、剛は、そう言った。

それに、銀は、悲しそうに笑って承諾した。

「でまあ、アタシがどうしてここにいるのかと言うとな。この能力を与えられた途端に嫌な予感がしたから、大慌てで逃げてきた訳」

「一応聞くけど、敵のアジトの場所は?」

「逃げるのに無我夢中で覚えてない!」

「だろうね・・・・」

胸を張って言う銀に、翼は分かってたとでもいうかのようにがっくりとうなだれる。

「ま、一応、アタシがこの体になって生き返った経緯はこんな所。それで、どうしてアタシが持ってない筈の三好夏凜にあげちまった勇者システムを持っているのかと言うと・・・」

「ちょっとまてぇええい!」

そこで風のストップが入り込む。

「な、なんですか・・・・?」

「今アンタ、夏凜にあげたって言わなかった?」

「え?ああ、そうですね」

風の質問になんの疑問を抱かずに肯定する銀。

「夏凜ちゃんの持っている勇者システムは、元々は銀ちゃんのものなんですよ」

「そうなの?」

美森がそう聞くと、翼は肯定する。

「銀ちゃんが死んだ直後、大赦で三ノ輪銀の後継者を探す為に、全国から性質の近い適性者たちを集め、育成していたんですよ」

「へえ、そうだったんだ」

友奈がすごい事でも言うように言うも、翼の顔は険しいものだった。

「初めは、かなりの人数がいたみたいなんだけど、僕が来た時には、もうその十分の一もいなかったよ。相当厳しく選抜したんだろうね」

『それで、夏凜ちゃんは選抜を勝ち残ったんですね』

「その通りだよ樹ちゃん。大赦が僕を呼んだのも、最終選抜の時に、誰を次の後継者にするかを決める為だろうね。まあ、その中で、最も成績も良く、なおかつ他人を気にかけられる存在が、夏凜ちゃんだったと言う訳」

「一応聞いておくが、他にも夏凜に近い奴はいたのか?」

千景が聞く。

「一応、訓練の成績では夏凜ちゃんよりもわずかに勝っていた子はいたよ。だけど、あの子はダメだ。とてもじゃないけど夏凜ちゃんよりも協調性にかけてる」

「だから切り捨てたのか」

「後悔してないよ。あの子はそこまでしないと止まらない子だからね」

翼にしては珍しく冷たい態度だ。よほどその子の事が気に入らなかったのか。

「夏凜の奴がアタシに似てるっていうのは、まあ、分からなくもないけどさ・・・・と、話がズレたな。で、アタシの使っているこの勇者システムは、アタシと翼、そして、他二人の勇者が師事していた人のものなんだ」

そう言って、自分の端末を机の上に置く銀。

「え!?師匠(せんせい)の!?」

翼が驚きの声を挙げる。

(足柄さんか・・・・・)

千景は内心で勝手に納得する。

『せんせい、て一体誰ですか?』

樹が聞いてくる。

「ああ、僕と銀ちゃんと他二人の勇者・・・というよりも、その中の一人の師匠の事なんだけど・・・」

「その人も勇者なの?」

友奈が聞いてくる。

「元、と言った方が良いかな。あれでももうさん・・・いや、六十は超えてるからね」

「そんなになの?」

翼の答えに、目を丸くする風。

「もう勇者としての力は持っていないんですけどね」

「で、アタシはその人のものを受け継いだって訳。なんだかアタシ、師匠とも性質が似ていたらしいんだよね」

「つまりは夏凜もそれが使える・・・なにかしら、この、今年入ったばっかの部員に一気に追い抜かれていく感じは・・・」

「風、あんまり落ち込むな」

なんだか落ち込んでいる風を他所に、話は続いていく。

「ま、これがアタシが生きている事についての経緯と、勇者システムについてだ」

「なんというか、生きててよかったよ。本当に」

本当に安心したかのように言う翼。

「悪かったな。今まで生きてるって言えなくて」

「その腕じゃ仕方がないよ。流石に僕でも驚く」

「はは、そうか」

ふと銀は、美森を見た。

「・・・・?」

思わず首を傾げる美森。

そして、銀が微笑んだ。

(ああ、この人も同じだ)

翼や、園子と同じ、いっぱいの優しさの中にほんの少しの哀しみを残した笑顔を、銀もしていた。

六道翼、乃木園子、三ノ輪銀。

何故、この三人は、自分にだけそんな笑顔を向けてくるのだろうか。

 

 

その理由は、きっと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、話も打ち切りとなり、銀は剛とつもる話を、他の一同はそれぞれの病室に戻っていく。

 

だが、千景と美森は、翼と風にのみ、昨日、園子から聞いた事を伝えていた。

千景は、翼に、友奈が失ったものを伝えていた。

「そうか・・・友奈ちゃんは・・・心臓を・・・・」

「アイツの事だ。きっと心配かけたくなかったんだろうよ」

翼は、俯いて、手を組んでいた。

「ごめん千景君」

「・・・・なんで謝るんだよ」

「君に嘘をついていた事についてだよ。僕は、こんな体になった事を、事故の所為だと言って君を騙したんだ。バレた以上は謝るしかないでしょ?」

と、苦笑する翼。

それに、千景は深い溜息をついて、翼の頭に軽くチョップを叩き込む。

「あう」

「そんなもの、とっくにバレてんだよ。謝るぐらいなら、警察はいらない」

と、呆れるように言う千景。

叩かれた頭をさすりながら、翼は茫然とするが、すぐに噴き出す様に笑った。

「はは、やっぱり千景君は優しいね」

「・・・・別に」

千景はそっぽを向く。

「それで、これからどうするんだい?」

「・・・・故郷に戻ろうかと思ってる」

その千景の言葉に、翼は驚く。

「故郷に・・・・って君、またいきなり・・・」

「気になる事があるんだ。どうして俺が神樹から力を奪えるのか。そして、俺がどうして勇者になれたのか」

神樹に呪われた一族。

それが、千景の血筋だ。

神樹に見捨てられた千景の先祖たる郡千景の血を体に流しているのに、どうして勇者になれたのか。

その理由を知る為に。

「俺は行ってくるよ。自分の事を知る為にな」

「そうか・・・・わかった。僕の方から学校に言っておく。だから、気を付けて」

「ああ。頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千景が、翼の病室から出て行ったあと、翼は、窓の方へ顔を向けた。

「入ってきていいよ」

すると、がらっ、と窓が開き、外から黒服の男が入って来た。

「山さん、大赦の動きについて報告を」

「はっ、やはり不道千景は排除すべきという動きがあります」

「だろうね。まあ、そんな事僕と園子ちゃんがさせないけど」

「でしょうね。大赦はあまり貴方達を敵に回したくはない筈ですから、そこまで大きな行動には出ないでしょう」

「・・・・やっぱり、神託が降りたのが大きい理由?」

「ええ」

「そっか・・・」

翼は、窓の外を見上げる。

「・・・・『千景(せんけい)災害』・・・それを引き起こした張本人の子孫・・・・か・・・」

「吾輩には、彼がそんな極悪人の子孫とは、到底・・・」

「うん、僕もそう思うよ」

 

 

千景(せんけい)災害』。

それは、香川の丸亀を襲った、未曽有の大災害。

名前は伏せられた状態で歴史の教科書に載る程のその災害で失われた命は、たかが知れている。

 

地震が起きた訳でもないのに、何の前触れもなく、建物が崩れ、木が枯れ、生物が腐り、そして、大量の死者を出した、災害。

 

()()()()()()()にそんな災害を引き起こすには、翼が思いつく限り、樹海への攻撃。

そして、樹海に入れるのは勇者とバーテックスのみ。

基本的に、樹海へ攻撃するのはバーテックス。

だが、神託では、その時の大災害を引き起こしたのは、勇者だという。

 

勇者であるのに、樹海を攻撃した人物。

 

 

 

「その子孫が、千景君だというのか・・・」

翼には、到底信じられない話だった。




次回『帰郷』

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