不道千景は勇者である 作:幻在
異世界の神々によって作られた、もう一つの四国。
そこでのんびりと暮らす勇者と救導者たちは、今日も勇者部として楽しく活動を――――
「「くたばれぇぇええ!!」」
「またかァ!?」
―――なんて事は無く、例にもよらず小学生の翼と須美の大喧嘩から事は始まっていた。
一度喧嘩を始めれば二人は止まる事は無く、ただただ己の不満を目の前の相手に叩きつける。
「怒った、もう怒ったわ!ここで今までの因縁に決着をつけてやる!」
「どこのセリフだゴラァ!それはそっちのセリフだデカチチ女!」
「なによ極小陰嚢男!」
「ちょっと!翼君の陰嚢はとっても大きいのよ!」
「それ言っていいのかな東郷さーん!?」
「ご、剛のだって負けてないんだからね!」
「対抗すんな風!」
すでにカオスと化している部室。
「お、おはよう千景・・・」
「え、ええ・・・乃木さん・・・」
「「「「・・・・」」」」
「「そんな生暖かい目でみないで!」」
「ああー!この間の事で照れる若葉ちゃん可愛い!千景さんも一緒にいると余計映えますねぇ!」
「いや、もう忘れてあげたほうがいいだろ・・・」
既に顔を合わせられない若葉と千景、それを生暖かい目で見る子孫ズに高速で千景ごと若葉を写メに収めるひなたに、呆れる辰巳。
その部室の様子を一人微笑ましそうに見るのは、大人びた雰囲気を醸し出す一人の少女。
千景の未来の姿である、久我楔である。
「ふふ、賑やかね」
「しっかし、過去のお前と若葉は一体何があったんだ?」
「さあ」
隣には彼女の旦那である久我真一が若干引いた様子で千景と若葉のやり取りを見ていた。
「何かあったのかもしれないわね」
ちなみに、楔の現在の年齢は二十歳であり、真一は二十九歳である。
「はあ・・・はあ・・・どうにか抜け出せたわ」
「あら、お疲れ様、お水飲む?」
そこへ、郡がどうにかこちらに流れこむ。
「ああ、ありがとう・・・って、貴方の施しを受ける気なんてさらさらないわ!」
「あら?それはこれを見ても同じことが言えるのかしら?」
と、楔は傍にあった紙袋から一枚のパッケージを取り出した。
そして、郡はその正体をすぐに見破った。
「そ、それは・・・!?」
「ええ。貴方が今ハマっているであろう『ワンダークエスト』の最新作・・・これを見て、貴方は果たしてさっきの言葉を有言実行できるのかしら?」
「ぬ、ぐぐ・・・」
流石に歳というか経験故か、郡が真っ赤な顔して楔を睨みつける様に、楔は笑いをこらえきれない。
「おい今、ワンダークエストの最新作が出たとか聞こえたが?」
「それは俺も聞いたぞ」
「あ、貴方たち!?」
「あら、もう喰いついてきた」
そこへ不道(中)と不道(小)もやってくる。
「どうする~?このままだと二人に取られちゃうわよ?」
「げ、ゲームは一つしかないわ・・・だから、結局は争う事になるわ・・・!」
「でも残念、カセットは二つあるのよね」
「ああああ!!!」
郡が耐え切れず絶叫する。
「ずるいずるいずるい!ものずごくずるい!」
「ほら、やっぱり幼児退行した」
「お前・・・過去の自分をコントロールしすぎだろ?」
「年の差よ」
得意気に言い張る楔。
「さて?どうするの?このままだと二人に取られるわよ?二つともね。二つとも、ね」
「ああぁぁああ!!!ムカつく!その顔ものすごくムカつくぅぅうう!!」
もはや勝てないとふんでなのか、最後の抵抗のつもりなのか、地団駄を踏んで駄々っ子のように振る舞い始める郡。
そんな状態の郡を気にしつつ、不道(中)が楔に近寄る。
「てか、それもうすぐあるご先祖様の誕生日プレゼントなのでは?」
「いいえ、違うわよ?ほらただのコピー」
以外とあっさり否定された。パッケージも偽物だった。当然中身も空っぽだ。
「え、じゃあなんなんすか?」
「ただの嫌がらせ」
「どんだけ過去の自分が嫌いなんだアンタ!?」
「そういう訳じゃないわよ?」
あっけらかんと返しをされつつ、それでも横眼で床に四つん這いになった地面をぐーで叩きまくる郡を一瞥する。
(昔、あまりリラックスできなかったからかしらね・・・)
「ん?どうかしましたか?」
「いいえ、何も。それよりも不道君、ちょっと」
楔は不道(中)を手招きして、耳打ちする。
「・・・・マジで言ってるんですか?」
「いいじゃない。少しは楽しませてあげて」
「はあ・・・」
生返事を返しつつ、不道は、視界の端で暴れる郡を一瞥したのだった。
そして誕生日当日――――
「・・・・なぜ、私は貴方と一緒にいるのかしら?」
「それは聞かないでくれ・・・・」
讃州の街の中を、多少のおしゃれをしたダブル千景が並んで歩いていた。
「あとで結城さんに後ろから刺されそうで怖いわ・・・」
「こっちは乃木さんにいつ斬られんのか気が気じゃないんだが・・・」
「・・・なぜ、そこで乃木さんの名前が出てくるの?」
「・・・・」ジー
「そんな目で見ないで私が悪かったから!!」
とりあえず黙らせた所で。
「別に、たまにはご先祖様と出かけたいって思っただけですよ」
「はあ・・・まあ、そういう事にしてあげるわ。それで、どこに行くの?」
「そりゃあ、行くと言ったら、あそこしかないだろ?」
「・・・?」
ふと立ち止まった二人の前にあったのは・・・
「香川最大のゲームセンター『THE・BAKASAWAGI』です」
「そっち!撃ってください!!」
「分かってるわよ!いちいち命令しないで!!」
最新作のシューティングゲームを、最高難易度で攻略している二人。
二人の反応速度はすさまじく、敵キャラが出てきた瞬間、ものの十秒以内で片付けて行ってしまうほど、卓越していた。
「こ・・・の・・・!鎧かってーな!」
「甘いわね。こういうのには必ず弱点ってものがあるのよ。そう、こことかね!!」
「んな!?やろぉ・・・でもアンタも一つ見落としていたな!ここを撃てばボーナスポイント入るんだよ!!」
「な!?くぅ、やるわね!」
「誰の血を引いてると思ってんだオラオラァ!!」
瞬く間にハイスコアを叩きだしていく二人。
「おい!見てみろよ!最高記録叩きだしやがったぞ!」
「なんだこの数値!?達人!?達人なのか!?」
「いや、神だ!!」
次に行ったのは太〇の達人にて。
「ワハハハハハ!全部フルコンボだハハハハハ!!」
「この程度で鬼なんて片腹痛いわぁ!!」
「うぉい!全部良でフルコンボ叩きだしてるやつらいるぞ!?」
「兄妹か?」
「いやカップルだ!」
続くレースゲームにて。
「おいそこじゃまだどけや!」
「どけと言われてどく奴はいないわ!抜けるものなら抜いてみなさい!!」
「チィ!だったらこのカーブで・・・」
「なぁ!?インコースから押して・・・・やってくれたわね!」
「ハッハッハ!一位かっさらってやったぜ!!」
「見てみろ!さっきシューティングでハイスコア取った奴らがレースで勝負してるぞ!?」
「なんだこれ!?NPCが相手にすらなってねぇ!!」
格闘ゲーム。
「オホホホホ!どうしたのかしらその程度?」
「だがしのいでやったぜ今度はこっちの番だ!」
「かかってきなさい!しのぎ切ってやるわ!」
「なんだこれ手が霞んで見える!」
「てか画面の方もすごい事になってるぞ!?」
「何が起きてんのか全然わからねえ・・・」
結局、ゲーム機自体が動きについていけずクラッシュして引き分けに終わった。
そうして遊ぶこと数時間。
「あー・・・かなりはっちゃけたな」
「こんなに遊んだのは初めてよ・・・」
ベンチにて、熱を冷ましていた。
息をあげて、休憩している中、不道は郡を横目に見て、呼びかける。
「楽しかったか?」
「え・・?」
「前はあまりこんな風に遊ぶことなかったでしょう?」
「・・・・ええ、そうね」
ゲームセンターの喧騒の中、郡は、静かに語りだす。
「子供の頃から、周りは全部敵に見えてた・・・そんな周囲から切り離せられるのがゲームだけだった。だけど、そんな事に付き合ってくれる友達なんていなくて、だからずっと一人で遊ぶ事が多かった。だけど、そんな中で、勇者の御役目について、高嶋さんたちに出会った。そして、その日から、私は、初めて友達と呼べる人たちが出来た。だけど、ここまで激しく遊んだ事は無かったわね・・・私が誘わなかったっていうのもあるけど、それでも、こんな風に遊んだ事はなかった」
「そうか・・・」
「だから、まあ、感謝しているわ。ありがとね」
「そいつはどうも」
そこで、おもむろに立ち上がる不道。
「それじゃあ、最後にあれでもやりますか」
千景が指差した先にあるのは――――
「ダンスダンスレボリューション・・・持つかしら?私・・・」
ダンスダンスレボリューション、十字にある矢印パネルを画面に現れた矢印と同じものを踏んでスコアを競う音ゲーである。
「なんなら最低難易度でもいいぞ。当然俺は最高難易度だけどな」
「カッチーン・・・・いいわ、私も最高難易度でやるわ」
「オーケー。それじゃあ始めましょうか!」
選択した曲は、激しいロックミュージック。
メロディがスピーカーから流れだす。
気付けば周囲には人だかりが出来ていた。
他のゲームで目立ち過ぎた影響だろう。
口々に、「さっきの二人が今度はダンレボやるってよ!」「見ようぜ見ようぜ」「どんなスコアが出るか」などなど言っている。
そうして始まるダンレボ。最初は歌詞と共に、メロディ部分にも関わらず、とてつもない量の矢印が上ってきて、しかしそれを今までの経験から培ってきた反応速度で対応していく二人の千景。
同じ名前を持ち、かつ、同じ趣味を持った二人は、まさしく息ぴったりにノーミスでゲームを進めていく。そして入るサビの部分、メロディ部分とは比較にならないほどの量とタイミングの矢印が出現し、そしてそれを汗だくになりながらも対処していく。
その激しさのままに、二人は全力でそれにのめり込んでいく。
そして、最後の一発にて、思いっきりそれを踏みしめた。
そして画面に現れたのは――――
『!!FULL COMBO!! !!!CONGRATULATION!!!』
かなり際どかった。しかし、やり遂げた。
かなり難しく、そして体力的にも限界。その上での、フルコンボ達成。
思わず顔を見合わせる二人。そして、体の中から溢れ出た感情とともに、
「「っしゃあ!!」」
パァンッ!という景気の良い音と共に、二人は互いの右手を叩き合った。
ハイタッチ、とも言えるそれは、まさしく二人の抑えきれない感情の現れであるといえるだろう。
そして、周囲も初めて出たダブルフルコンボに歓声を上げていた。
その祝福の中で、二人はその熱を噛み締めるかのように、フルコンボと表示される画面を見ていた。
「ふぃー、すっかり遅くなったな」
「そうね」
夕焼け色に染まる空の下、不道と郡は街頭が付き始めた街の中を歩いていく。
「久しぶりね。こんなに熱くなってはしゃいだの」
「あー、俺も。こんなに楽しかったのは生まれて初めてだ」
勇者部の皆と過ごすものとは違う楽しさ。とあるちっぽけなものの最高得点を取るための努力からの喜び。
それは、まさしく『ゲーマー』である二人だけの喜びと言えよう。
「もし・・・」
「ん?」
「もし、昔、私に友達が出来ていれば、こんな風に遊ぶことが出来ていたかしら?」
「・・・・」
それは、切望にも近い、彼女の本心なのだろう。
とてもではないが、客観的な『普通』とは程遠い生活を送ってきた彼女だからこそ言える、彼女だけの本心。
そして、それは不道にも分からなくはない事だった。
彼も、とある洗脳のせいとはいえ、いじめられていた経験があるのだから。
「・・・・過去の話はやめにしよう」
「え・・・?」
「過去を思い返した所で、その時間に戻れるわけじゃない。必要なのは今。これから起こる事だ」
不道は、郡の頭に手を置いた。
「今の貴方は、不幸なのか?」
「・・・」
頭の上に置かれた手を眺め、そして、目を閉じて、今の自分にあるものを数えてみる。
やがて、そっと微笑んで、
「いいえ、とっても幸せよ」
そう、短く、そう答えた。
「そうか。よっし、それじゃあ帰るか。もう準備できてると思うからな」
「え?準備って・・・」
破裂音が炸裂する。
『ぐんちゃん!』
『千景』
『千景さん』
『お誕生日おめでとう!!』
「・・・・・」
クラッカーから飛び出した紙吹雪を被りつつも茫然とする郡。
「・・・・え?」
「忘れたのか?今日はお前の誕生日だろ?」
後ろから不道が押す。
「もう焦ったわよ。千景君、遊び過ぎて完全にこの事が頭から吹っ飛んでたんだから」
「う・・・それは申し訳ない」
「僕が電話をしなければいつまでも忘れたままだっただろ?」
美森と翼の同時攻撃を喰らいつつ、郡を楔の隣に立たせる。
「ほら、今日の主役は貴方なんだから。もっと笑顔になりなさい」
「・・・・そういう貴方も、主役でしょう?」
「ふふ、そうね」
楔のつかみどころのない笑みを恨めしく思いつつ、それでも、皆が祝福してくれている今に、郡は感謝をする。
今、この光景があることを、感謝して。
余談、誕生日会の最中、園子ズが小説のネタにしようと出かけようとしていた所を辰巳に阻止という名の鉄拳制裁の隙をついて若葉が抜け出し、そしてその若葉をひなたが縛り上げた事が、いたずら好きの美紀の口から放たれ、それによって郡が若葉にとてつもなく冷たい避難の目を向けたのだった。
一方で、不道は後日、結城と埋め合わせの為のデートをする事となった。
不道千景
ゲーム大好き神様。ゲームに関して、
先祖の誕生日に時間稼ぎという名目上のデートを請け負う。
その際になぜか友人の先祖にものすごい眼光で睨まれた。
郡千景。
ゲーム大好き勇者。ゲームに関して、
なぜか自分の子孫にデートに誘われて混乱。のちに全力で楽しむ。
子孫の恋人から危うく後ろから刺されそうになった。
結城友奈。
全く出てないけど、恋人が他人をデートに誘っている事に暗い炎を胸に抱く。
(ネタバレ)の影響で独占欲が強くなっている。
乃木若葉。
今回のデートを尾行および妨害しようとしていた。しかし親友にのされて阻止される。
お仕置きとして吊るされるが、それについては二人は知る由もない。