不道千景は勇者である   作:幻在

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千景のいない間の勇者部

千景が、自らの故郷に戻って、三日。

 

六道翼は、廊下を歩いていた。

その手には、大きな封筒。

ちょっとした書類を、職員室に届けに行くのだ。

ただ、その顔はあまり浮かない。

その理由は、この間、千景と美森が告げた乃木園子の話。

そして、その事を犬吠埼風に話し、他の者には話さないと決定した事。

もうバレたために、人質はもはやあまり意味を成さないだろう。

ならば全てを話すべきか、そうじゃないべきか。

だが、それで、誰かが暴走する可能性がある。

それを考えると、慎重に説明しなければならない。

「どうしたものか・・・ん?」

ふと、視線の先に、クラスメイトと思われる少女二人を相手に、姉からもらったスケッチブックで何かを伝えている樹の姿が見えた。

樹が何か文字を書いたスケッチブックをその二人に見せると、二人は顔を見合わせ、それじゃあまた、といって別れた。

そんな樹に、翼は後ろから声をかける。

「樹ちゃん」

樹は、すぐにこちらを向く。

「こんなところで会うなんて奇遇だね」

『はい』

と、スケッチブックを見せる樹。

しかし、そこには他にある事が書かれていた。

「ん?用事?」

日曜日に用事がある。

どうやら、何かに誘われたらしい。

樹は、しまった、という顔をした。

「別に日曜日に予定がある訳でもないし、行ってみたらどうなんだい?」

すると樹は無理に笑って、スケッチに文字を書き込んだ。

そこには。

『カラオケで歌うのが好きな人たちなんだ』

「そうなのか・・・」

さらに、書き込む。

『私がいると、気を使ってカラオケに行けないから・・・』

それに、翼は息を飲んだ。

 

樹は、満開の影響で声を奪われた。

 

だから、声を発する事が出来ない。

「・・・そう、か・・・」

そこに、樹は遠慮したのだろう。

『それより、こんなところでそうかしたんですか?』

「ん、ああ。職員室にこれを届けにね」

翼は、自分が持っている封筒を見せる。

『いっしょに行きましょうか?』

「いや、大丈夫だよ。君は教室に戻ってて」

翼は無理に笑う。

それに、樹は心配そうな顔になるも、頷いて翼を脇を通っていく。

「・・・・ふう」

翼は、また歩き出す。

 

翼がこの間の満開で失ったのは肺の片方。

 

しかし、息苦しさを感じる訳では無い。

それは、おそらく精霊の補助のお陰だろう。

翼の勇者システムはいささか特殊なのだ。

やはり、初代の端末とそのデータを二つ入れている事が原因なのだろうか。

「今後・・・僕だけで・・・・」

翼は、そう想い老ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校がおわり、下校路を歩く翼。

そこへ。

「何辛気臭い顔してんだよ」

「銀ちゃん」

銀が木に背をつけて待っていた。

「・・・・ちょっと寄ってかねえか?」

 

 

 

銀にうながされるままに、翼はうどん屋かめやにやってきていた。

「っはぁ!やっぱうどんは美味いなぁ!」

銀が盛大に声を挙げる。

「銀ちゃん、他のお客さんに迷惑だから声を抑えて」

「良いじゃねえか。たまには二人っきりってのもさ」

銀は、昔と変わらず陽気だ。

変わった事があるとすれば、髪が昔より伸びた事。

身長が結構伸びた事。

そして、右腕の事。

「おばちゃん!もう一杯!」

「風先輩といい勝負してるな。お金はあるの?」

「師匠からばっちしと貰ったぜ」

「あ、そう・・・・」

もはや追及はしまい。

「それにしても、君が生きててくれて嬉しいよ」

「アタシも、まだ翼と園子、そして須美が生きててくれて嬉しいよ」

銀の表情に僅かばかりに陰りが差す。

「・・・・その体、治らないんだって・・・?」

「・・・・うん」

翼の体は、もう二度と戻らない。

神に奪われたものは、どれほど足掻こうとも、戻る事は無い。

「そっか・・・・なんか、悔しいなぁ・・・・アタシ以外、めっちゃ苦しんでるのに、こんな悠々としててさ・・・・」

「銀ちゃんの端末には・・・・」

「無いよ。満開は無い。その代わり、師匠(せんせい)の切り札が入ってるんだ」

「そうか・・・・」

二人の間に、不穏な空気がよぎる。

「・・・あー、やめだやめだ。こんな辛気くさい話はやめにしよう。それよりも、夏凜の奴が順調に回復していってるってよ。今日中には目を覚ますみたい」

「本当かい?」

「アタシは毎日が忙しい学生様と違って、暇な怪物なんでな。色々と諜報活動やらやってんのよ」

「その為の仮面かい?」

「あれ?言ったっけ?」

「腰のバックに師匠(せんせい)の端末。動けない先生の代わりに動くなら必要なものだ。それに骨で自分の身長を偽る事だって出来るだろ?」

「ありゃりゃ、やっぱり翼の観察眼には敵わねえな」

銀の腰のバックには確かに変装の為の大赦の仮面と装束がある。

銀の謎の骨の無限生成能力は、どうやら自身の体内に存在する骨を無限に変形、増殖、切り離しなどの事が出来るらしい。

まだその事については詳しくは知らないが、色々と信じられない事だ。

何が、彼女をそんな体にしてしまったのか。

「がしゃ髑髏」

「え?」

「全身が骨の巨大な妖怪。埋葬されなかった死者の亡骸の骨と怨念によって集まって出来て、夜な夜な町中を彷徨って、生きてる人を見つければすぐさま噛み殺す、まさに悪霊の一体。その因子が、アタシの中に入ってんだよ」

「それが、君の骨の無限生成能力の正体だって言うのかい?」

「そだよ。前、敵の親玉がそう言ってたのを聞いた事があるんだ。アタシにこの妖怪の因子を入れるって」

「それで・・・・」

()()()()()()()()で、適合した」

それに、息をのんだ翼。

「限りなく低い成功率で、アタシはその因子と適合して、そして自分のものに出来た。大抵の奴は、その因子に体を乗っ取られて、救いようのない化物として暴れまくる。そして、そんな化物となった奴は、容赦なく殺された。失敗作って言われてな」

つまり、下手をすれば銀はここにいなかったという事になる。

しかし、今の問題はそこではない。

「他にもいたのかい?」

「ああ、見た限り十人以上。鱗を体に出したり、キバが生えたり、毛むくじゃらになったり、そして暴走して周りの奴らを襲った。そいつらは全員水槽の中にいて、その中にある水槽が割られれば、そのまま死ぬ。いわば、あの中でしか生きられない奴らばっかりだったんだ」

銀の骨の右手が握りしめられる。

「アタシは、最後だった。周りの奴らが死んでいくのをみて、すごく怖かった。アタシもあんな風になって、死んじまうのかなって思って。せっかく生きてるのに、翼や須美や園子に会えずに死ぬなんて、アタシには耐えられなかったんだ」

そして、ついに自分の番となり、因子を入れられた。

がしゃ髑髏の因子は、銀の中で爆発的に銀の遺伝子を書き換え、すぐさま銀の体を人ならざる者へと変えていった。

 

だけど、ダメだった。

 

一瞬にして暴走したがしゃ髑髏の因子に体を乗っ取られ、意識は闇の底に突き落とされた。

無限の骨に覆われ、研究所を破壊しまくった。

そして、他の奴らに()()()()

そのままゴミのように捨てられ、そこで、終わるはずだった。

 

だが、銀は生きていた。

 

どういう訳か、がしゃ髑髏に存在した『周囲の物質を変換して体を徐々に修復していく体質』によって、銀の体は修復されていって、何の因果か、すぐ傍にあった木に落ちた雷によって、その雷が銀を打ち、そのショックで心臓が再び動き出した。

因子の暴走は一時的な死によって止まり、そして、銀は骨の無限生成能力を手に入れた。

それから、幾たびもの時間がたち、銀は友人、園子の師匠である辰巳と再会。

そして、現在、大赦に紛れ込んで翼や園子の状態、東郷美森へと改名した友人『鷲尾(わしお)須美(すみ)』の様子を知るに至った。

さらに、新たな勇者たちの事も。

「師匠の端末は受け継いで、樹海にも入れるようにはなったけど、アタシは戦闘には参加しなかった。いや、したくなかったんだ。こんな体になった事で、翼はともかくとして、須美に怖がられるのは、結構堪えるからな」

「そうだったのか・・・・」

うどんを食べ終わり、二人はさらに話し込む。

「今後、犬吠埼風が暴走する可能性がある」

「それは、樹ちゃんの事で?」

「樹は、ある歌のオーディションを受けているんだ」

「それって・・・!?」

「腕前はアタシは知らないけど、不合格になってくれた方が・・・・」

「問題はそこじゃないだろ」

そう、問題なのは、樹が、オーディションに受けた事にある。

「くそ・・・!僕が初めから満開の事について話していれば・・・!」

「自分を責めないでくれ翼。それなら、いつでも動ける身であいつらに何も言わなかったアタシにだって非があるんだ。翼には、人質がいただろ?」

銀の言葉に、翼は、一旦落ち着く事を選んだ。

「もし、風さんがこの事を知れば・・・・」

「妹思いだというのは兄貴の話から聞いた。確実に暴走するだろうな」

そして、自分を責めるだろう。

そうなれば、もはやバーテックスどころではない。

「この大赦の秘匿主義さえなければ・・・」

こんなにも後悔する事はなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院にて。

「・・・・・」

一応容態が安定して、目を覚ました三好夏凜が真っ先に思った事はこれだ。

(やってしまった・・・)

そう、自らが敬愛する翼の言いつけを破って『鬼気・修羅領域』を使ってしまった事だ。

あれは、あまりにも過酷な訓練の末に手に入れた、自分の生存本能を自分で破壊して本来なら手をつければ自らの体を破壊してしまう力に手を付けるというものだ。

そんなことをすれば、当然、体はボロボロとなって、数日の昏睡状態に陥るのは目に見えていた。

「はあ・・・・」

そして、自分の()()を確認する。

「匂い・・・か・・・・」

周囲に臭う筈の薬品の匂いの一切が感じられないのだ。

「まあ、別に生活に必要不可欠なものでもないし、大丈夫でしょ」

そう一人で納得し、起き上がる夏凜。自分の口についていたマスクを外し、周囲を見渡す。

どこにでもある、ごく普通の病室だ。

「・・・・・翼様」

そう呟く夏凜。

翼は、満開の使用を極力控えるように言っていた。

そして、その後にいつもこういっていた。

 

『代償無き力なんて存在しないんだよ』

 

強くなる為には時間が必要だ。

そして、その時間を無駄にしないための知識も必要だ。

強くなる為には、確かに時間は必要。

そして、一歩進む度に、戻る事は出来なくなる。

もし、今、匂いが感じられないと言うのなら・・・・

「満開の、代償か・・・」

ふと夏凜は、そばにある机の上に、自身の携帯端末がある事に気付く。

それを手に取り、軌道させた途端。

「うわ!?」

中から精霊が飛び出してきた。

「な、なに・・・!?」

それは、義輝と同様の人型精霊。

しかしその風貌は、義輝のような武人というよりも、何かの職人のような・・・

夏凜は、空中に佇むその精霊の名前を確認する為に端末を操作し、その名前を確認する。

 

 

『村正』

 

 

「・・・・・・」

たっぷり三秒。

 

村正―――その名は――――

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇええええええぇえぇえええええ!?」

その日、病院にとんでもなく大きな絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏凜が起きて、二日。

千景が故郷に行って、五日。

あと二日で、一週間。

夏凜が順調に回復していっている。

あの様子なら、あと数日で学校生活に復帰できるだろう。

しかし、彼女の嗅覚は戻らない。

翼は、ここ数日の勇者部の様子を振り返ってみた。

犬吠埼風は、一見普段通りだが、どこか、遠慮というものを感じる。

東郷美森は、最近、親友である筈の友奈に、どこか素っ気ない態度を取っている。

結城友奈は、そんな美森の事を心配しているものの、どこか遠慮がちになってしまっている。

犬吠埼樹は、声が出ない事で、周囲から遠慮されているのか、どこか表情が暗い。

三ノ輪剛は、そんな勇者部の空気に感づき、風に心配している旨の話をしてくるも、風はなんでもないと答え、その違和感を解消できていない。

三好夏凜は、順調に回復していっているものの、まるで何かに感づいているかのような表情をしていた。何かしらのノートも取っているらしい。

不道千景は、音信不通・・・・ではなく、代わりの誰かが出てきた。その人物の話を聞く限り、今、千景は記憶を取り戻す為の大事な儀式をしているとの事。いささか不安ではあるが、今は、その人の言葉を信じるしかない。

 

はっきり言って、不穏な空気が流れている。

 

やはり、園子が告げた事は、大きな衝撃となって勇者部の空気を乱したのだろう。

これは、どうにかしなければならない。

いずれ、誰かが崩れる。

そうなれば、もはや今まで通りとはいかない。

確実な崩壊がくる。

そんな事になれば、敵との襲撃の際に――――

 

 

 

 

 

 

 

あれから、一週間が経った。

特に、大きな事は何も無かった。

しかし、昨日、風は酷く落ち込んだ表情で勇者部部室に入って来た。

その理由を聞いても、軽くあしらわれて、聞く事は出来なかった。

そして、美森の表情も、どこか険しい事になっていた。

「わざわざお出迎えに来て頂いてありがとうございます」

ふと、隣を歩く三好夏凜に声をかけられ、我に返る翼。

「ああ、友達なんだから、当然の事でしょ?」

「友達だなんて恐れ多い・・・・」

「僕たちは同い年だ。君が謙遜する必要なんてないんだよ?」

「いえ、私は、貴方の強さに純粋に憧れているだけですから」

夏凜は恥ずかしがるように言う。

時刻はすでに放課後。

それもかなり時間が経っている。

(流石に意地張らずに車で来るべきだったか・・・・)

今更後悔しても遅い。

「それにしても、風の奴、ずいぶんと落ち込んでいたような・・・」

「ああ、夏凜ちゃん、それについては・・・」

 

 

 

その時、二人の端末に、一本のメールが入った。

 

 

 

「なんだ・・・?」

そして、メールを開ける。

 

何か、嫌な予感がする――――

 

 

「・・・・・犬吠埼風が、暴走・・・・」

 

 

事態は、最悪の方向へ動いていた。

 

 

 




次回『哀しみの果てに』

彼女を止める人物は、あまりにも意外な人物。
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