不道千景は勇者である   作:幻在

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哀しみの果てに

潰してやる潰してやる潰してやる――――ッ!!!

 

もはや、犬吠埼風の中にはそれしかなかった。

勇者に変身し、空を飛ぶ。

目指すは、大赦本部。

 

樹の声を奪った、張本人。

 

 

 

 

 

始まりは、美森によってもたらされた、勇者システムと満開の恐ろしさについて。

この間のオフィウクスとの戦いの後、美森と千景の二人は、乃木園子なる人物と対面していた。

その人物から告げられた事が、満開の代償。

 

神の力を行使する為の代償。それは、自らの体一部を供物として捧げる事。

 

それを知った時、風は、何をバカな事を、と思った。

医者は言った、すぐに治ると。

だが、それはまやかしなのだろうか?

風は、否定したかった。

しかし、日々の日常の中で、樹は、どこか肩身の狭い生活をしていたのだと思う。

声が出ない事が災いして、音楽の授業に支障が出る。

カラオケが好きな友人と一緒に遊べない事。

目に見える形で、樹の生活が崩れて行っている。

風は、そんな樹が心配だった。

 

しかし、その数日もしないうちに、東郷が自分だけを呼び出し、新たに分かった事。

 

それは、精霊が是か非でも勇者を死なせない事。

それだけを聞けば、良い事に聞こえるかもしれない。

だが、問題はそこではない。

 

それ故に、乃木園子の言っていた、満開の代償は二度と治らないという事を確定させてしまう証拠となってしまったのだ。

 

もう、二度と治らない。

それは、樹の声が、二度と戻らないという事と同じだった。

さらに、美森は友奈の心臓の事についても告げた。

その事実は、確かに風の心を弱い方向へと傾けて行った。

 

そして、今最も精神が不安定な状態の風に、止めが入った。

 

 

 

樹の、歌のオーディション合格。

そして、その時、樹の言った、姉を称賛する言葉。

 

 

 

 

もう、歯止めは効かなくなった。

 

 

 

そこから、今に至り、風は真っ直ぐに勇者の跳躍力を使って大赦本部へと走っていた。

 

憎い、妹の夢を奪った奴らに鉄槌を下す為に。

 

潰す、とにかく潰す。奴らに、自分達が受けた苦痛を味合わせる。

文句は言わせない。絶対に言わせない。全部奴らが悪い。私たちは何もしていない。

もう、風の心はぐちゃぐちゃだった。

「よくも―――よくも――――樹を――――ッ!!」

目から、とめどない程の涙が溢れ出てくる。

一刻も早く、潰してやらなければならない。

速く速く速く速く・・・・

そう、思っていた風に向かって、突然、地上から何かが飛んできた。

「―――ッ!?」

それをもろに喰らって、地面に落下する。落下した場所は、海の見える展望台。

「ぐ・・・誰だァ!」

何が起きたかわからない。だが、確実に第三者からの攻撃である事は確実だ。

自らの進撃を止めたものに、風は咆える。

目の前には、一本の刀。

なんの変哲も無い、ひし形の鍔を持つ打刀。

そして、その正体が降り立った。

手首まである細袖の黒い羽織を帯で締め、足には黒い袴。そして(わら)草履。

それだけを見れば、ただのコスプレしている変人だと思うだろう。

しかし、頭に付けられた仮面を見れば、誰もが道を開ける。

 

それは、神樹を模した紋章が描かれた仮面。

 

顔全体をフードのようなもので覆い、そこから仮面をつけた顔がのぞいていた。

体格は、男だ。

そして、その仮面をつけているという事は、その男は、大赦の人間だという事が分かる。

ならば、風がする事は何か。

 

 

叩き斬る。

 

 

「大赦ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁああぁあぁあああ!!!」

風の咆哮。

大剣を顕現させ、男に斬りかかる。

対して男は一言も声を発さず、地面に突き立った刀を引き抜き、その剣を一歩も動かず迎撃する。

風の幅広の大剣に対して、相手はただの刀。

一見、風の方が有利に見えるだろうが、風は剣術も何も習っていないただの素人。

対して相手は―――――()()()()()()()

「ッ!?」

ものの見事に上へ逸らされた。

なんの変哲のない刀が、その形の一切を歪ませずに、いともたやすく風の刀を逸らし切った。

完全な隙。

そこへ、男は刀を一閃。横薙ぎに一太刀入れた。

しかし、その刀が風へ到達する事は無かった。

風の精霊、犬神が障壁(バリア)で防いだのだ。

しかし、それは確かな衝撃となって、風を下がらせる。

「ぐッ!?」

「・・・・・」

男は、追撃するような事をせず、刀を構える。

ただまっすぐに、仮面越しに風を見据えていた。

その、なんでもないような表情が、風をさらに苛立たせる。

「―――ッ!!」

すぐさま斬りかかる。

上段から、まっすぐ、狙いが丸わかりな一撃。

そんな一撃を、男はなんの苦も無く右に移動して回避した。

さらに、あからさまに大きく振りかぶって。

剣が振り下ろされ、地面を砕く。

その次の瞬間、男の刀が風の脇腹に叩き込まれる。

しかし、やはり精霊がその一撃を防ぎ、風はなんのダメージもなしに吹き飛ばされる。

たたらを踏んで踏みとどまる風。

「・・・・・その程度か?」

ここで、男は初めて声を発した。

淡々と、冷徹な程に、冷めた一言。

その声で発された挑発。

それは、風の逆鱗をさらに逆撫でする。

「ふ、ざ、けんなぁぁぁぁあああぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁあああぁあああ!!!」

もはや技もないでたらめな乱舞。

しかし、そのどれもが、人間の兵器が効かないバーテックスを攻撃できるに値する破壊力を秘めている。

しかし、そんな喰らえば木葉のように叩き斬られるような剣戟を、男は何の苦もなく回避していく。

「お前たちが初めから満開の事を教えていれば、樹は夢を失わずに済んだんだ!」

涙を流しながら、風は剣を激情のままに振るう。

しかし、男はその剣を逸らしていく。

そして、決定的な隙が出来た瞬間、そこに一撃を叩き込んでくる。

「ぐぅ!?アァァアッ!!」

その一撃は、生身の人間のものとは思えない程に重い。

おそらく、自身の全体重を乗せて攻撃を叩き込んでいるのだろう。

「アタシたちが、アタシたちが何をしたっていうのよ!どうしてこんな事にならなくちゃいけないのよ!どうして、体を供物として捧げなければならないのよ!」

「・・・・」

「答えろッ!!」

「ぐッ!」

そこで、風は初めて男に一撃を入れる。

しかし、その一撃は男の持つ刀によって防がれる。

しかし、その刀は折れなかった。

なんの変哲も無い刀が、神の力によってつくられた風の大剣の一撃を受けても、折れる事が無かった。

だが、その事実は今の風にはどうでも良かった。

 

殺す。

 

何があっても、目の前のこの男だけは殺す。

「フーッ!フーッ!フーッ!」

まるで獣のように、荒く呼吸する風。

しかし、男はあくまで冷静だ。

 

まるで弄ばれている。

 

その事実が、風をさらに駆り立てる。

「アァァァアアア!!!」

先ほどよりも激しい。

もしかしたら、怒りによって、自らのリミッターを軽く外しているのかもしれない。

 

自滅覚悟の剣戟。

 

男は、これを迎撃。

しかし、極力攻撃を受けない様にと避け続けてきた男が、ここで迎撃するという戦法へシフトしてきた。

錯綜する二人の剣。

ただただ、相手を斬り殺す為に、精霊のバリアに全てを任せて攻撃一辺倒になる風。

対して、卓越された剣技によって、風の剣を全て逸らし受け、そして隙をついて攻撃する男。

勝負は一見互角のように見える。

しかし、精霊のバリアの存在する風が優性に見えるも、疲労の色が明らかににじんで見える。

それが濃くなるにつれて、風の剣速がどんどん遅くなっていく。

対して、男の剣は一切衰える事なく、風へ斬撃を入れていく。

そして、男がその拮抗を破り、風を刺突によって吹き飛ばす。

「ああ!?」

「・・・・」

壁に叩き付けられる風。

男は、一切の追撃もせずに、そこに佇む。

風は、地面に倒れ伏す。

「・・・・・どうしてよ・・・」

立ち上がる風。

「どうしてよ!そんなに戦う力があるのに、どうして戦わなかったのよッ!そんなに戦えるなら、せめてアタシたちを守りなさいよぉぉぉおおおッ!!!」

また、突撃する風。

上段からの振り下ろし、男は、それを軽く受け流す。

「守りたいなら自分で守れ!そんなに力があるのになんで戦わないのよ!どうして他人に任せるのよッ!どうしてアタシたちに押し付けるのよッ!満開なんて機能をどうしてつけたのよッ!どうして樹の声を奪ったのよ!どうして友奈の、東郷の、翼の、夏凜の、剛の大切なものを奪ったのよ!何もしていない癖に!何もしていないくせに!」

横に薙ぐ。男は、飛び上がって回避する。

「そんなに怖いのか!そんなに戦うのが怖いのか!そんな力を持っておいて!どうして戦おうと思わなかったのよ!どうしてよ!どうしてよ!どうして樹の夢を奪ったのよ!どうして!」

剣を振るう度に、男の視線が風に突き刺さる。

「答えなさいよ・・・答えたらどうなのよッ!大赦ァッ!!」

剣が、地面にめり込む。

「・・・・・憎いか」

その時、男が、初めて攻勢に出た。

「憎いか!犬吠埼風!」

「ッ!?」

おおよそ、人のものとは思えない膂力。

それが、風をどんどん後退させていく。

「妹の声を奪われた事が憎いかッ!妹の夢を奪われた事が憎いかッ!ならば結構!それは正当で全うな怒りだ!」

風の目では捉えられない、無数の剣戟。

「お前は正しい!その怒りは、正しく我々大赦に向けられるものだ!お前は間違ってなどいない!」

剣を振り下ろす、しかし、その剣を受け、一回転したかと思ったら、その風が放った一撃の威力がそのまま風に返ってくる。

「だが――――自分を恨むなッ!」

目の前の風へ、剣を叩き込み続ける男。

反撃しても、その一撃がそのまま自分に返ってくるかのように反撃される。

「傍にいる者を恨むなッ!物を恨むなッ!関係無き者を恨むなッ!ただ俺たち大赦を恨めッ!お前達の体を奪った俺たちをッ!」

反撃しても無駄。

足裏に一撃を入れられる。

「うッ!?」

片膝をつく。

そこへ額に突きが叩き込まれ、仰向けに倒れる。

「うう・・・!?」

その風へさらに追撃を入れる男。

あまりにも速すぎる斬撃。

反射的に大剣の腹を突き出すも、その両手にかかる衝撃が、風の両腕を襲う。

「う・・・アァッ!」

風は、そこから抜け出す為に、剣を振り回して男を追い払い、立ち上がり、剣を構える。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

「もう一度言うぞ・・・お前の怒りはその程度か?」

「ッ!」

男は、風に問いかけ、風は、やはり心の中で巻き起こる激情を抑え込む事は出来なかった。

「そんなわけないだろぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおおぉおおぉおおおお!!!!」

ここでついに風は剣の巨大化を使用した。

数倍にまで巨大化した風の剣は、まさに巨人の剣。

 

確実に倒す。

 

その為には、斬の攻撃ではだめだ。それでは避けられてしまう。

 

ならば、面の攻撃で圧し潰す。

 

「死ねェ!大赦ぁぁぁああぁあああぁああああああ!!!」

 

そしたら、自分も死のうか。

 

そう、思ってしまった風。

その時。

「―――――だから、自分も責めるなと言っただろうが、バカヤロウがッ!!!」

そんな声が聞こえた。

「『鬼気・修羅領域』」

そう、呟いたとき、明らかに大気が震えた。

さらに、袖から一枚の札を抜いた。

「『封印解除』急急如律令ッ!!」

瞬間、何の変哲も無かった彼の刀が、突如としてその刀身になんらかの文様を浮かべる。

そして、札は、燃え、塵も残さずに消えた。

「覚えておけ犬吠埼風」

身を深く沈め、刀を右半身に置き、風の巨大化した大剣を迎え撃つ。

 

「我が三好の名において、その名の開放を認める―――」

 

刀が、異様な光を発し始める。

 

「その六百貫の値打ちを持つ刀だと豪語するならば、その力を今ここで示せ――――ッ!」

 

風の剣が、男に直撃する。

 

「――――薙ぎ払え『大般若長光(だいはんにゃながみつ)』」

 

 

瞬間、轟音と爆風と砂塵が舞った。

そして、風の横に、何か巨大な物が落ちた。

「・・・・・・・え」

それは、風の大剣の半分から先。

綺麗に切断されたそれは、風の大剣が、いともたやすく叩き斬られたという事実を突き付ける。

それに、呆然としながら、風は、前を向いた。

そこでは、剣を右手に構え、左手で狙いを定める男の姿があった。

「――――ぁ」

次の瞬間、男がおおよそ人間とは思えない程の速度で走り抜けた。

そして、また砂塵が吹き飛んだ。

「―――ぁ――――ぁ―――」

「・・・・・覚えておけ」

男の刀は、風の右頬を掠めていた。

しかし、その一文字の長い傷口から、血がペンキのように流れ出ていた。

精霊の障壁を突き破り、かつ、狙い澄ましたかのように、風の右頬を斬り裂いた。

まるで、風の怒りを鎮めるかのように。

「俺の名前は『三好(みよし)春信(はるのぶ)』」

男は、刀を降ろし、仮面を外す。

夏凜と同じ色の短く切られた髪、夏凜と同じ色の目、その顔立ちも夏凜に似ていた。

ただ、違うとすれば、強力な力の行使によって引き裂かれた腕袖から見える、傷だらけの腕と、左頬に三本、右頬の二本の切り傷。

「三好夏凜の兄にして、大赦の役人だ」

その眼は、こちらを哀れむかのような目だった。

「全大赦を代表して、お前に謝ろう――――すまなかった」

そして、深々と頭を下げた。

それに、風は呆然とする。

 

しかし、それで彼女の怒りは収まらなかった。

 

「ふ・・ざ・・・・」

晴信は、顔を上げた。

「ふざけんな!」

風の拳が、春信の顔面に叩き込まれる。

春信は無様に吹っ飛び、手すりに叩き付けられる。

「そんな、そんな、謝るぐらいだったら・・・樹の声を返しなさいよぉぉおおお!!」

もはや、訳が分からなくなり、風は、このとめどない怒りを、目の前の男にぶつけようとする。

春信をもう一度殴る為に、風は春信に駆け寄ろうとする。

しかし、その風に立ち塞がる者がいた。

「やめろ風ッ!」

「剛・・・・!?」

剛だった。

暴走する風の両手首を掴み、必死にその手を握りしめていた。

「そんな事しても、意味がねえ!」

「でも、それでも!こいつらはぁ!」

風の両目から、とめどない程の涙が溢れ出てくる。

その声には、確かな後悔と哀しみが感じられた。

風は、必死に剛の手から逃れようともがく。

剛は、必死にそれを阻止するが、そもろも右手の機能が停止しており、なおかつ補助ギミックというあまり期待できない装置では、風の左手をいつまで抑え込んでおけるかわからない。

剛は、考える。

どうやったら、風が止まるのか。

どうしたら、誰も傷つかずに済むのか。

それだけを必死に考える。

 

泣き叫ぶ風。

 

そして、剛は、今の風の姿を、一年前の自分と重ねる。

そう、銀を失って、自暴自棄になって、何もかもがどうでもよくなった、あの頃を。

「分からないわよ・・・・剛には分からないわよ!樹の声を奪われた!妹の夢を奪われた!そんな事されて、黙っていられるわけが無い!そんな苦しみが、アンタには分かるの!?」

あの時、剛は確かに風に救われた。

「分かる訳ない!アンタなんかに理解されたくない!こんな、こんな事になるぐらいだったら・・・こんな・・・・!」

あの時、言ってくれた言葉が、自分を救ってくれた。

ならば、今度は―――

(俺がこいつを救う番だ―――ッ!!)

だから考えろ。

両手は塞がっている。離して殴るもよし、しかしその瞬間に風に殴り飛ばされるかもしれない。

そして例え殴ったとしても、風は止まらないかもしれない。

今、この瞬間、風を止められる方法。

 

それは――――

 

「だから良いのよ!私の事なんかほっといてよ!」

(許せ・・・!)

剛は、意を決して、その行動に乗り出す。

「私の事なんて―――――ッ!?」

 

 

唐突に、風の言葉が途切れた。

 

 

それは、口を塞がれたからだ。

しかし、その方法は、手で押さえるのではない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「んん―――!?」

それに、風は目を見開き、一気にその顔を赤くする。

あわてて離れようとする風を、剛は左手を腰に回して逃げられなくする。

ある意味では、捨て身ともいえる、剛の大胆な行為。

ただ、それでも離れようともがく風。

それに苛立った剛は、さらに風の口の中に強引に()()()()()()()

「んんん――――!?」

さらに、風から喘ぎ声が響く。

剛はそのまま風の口内を乱暴にかき乱す。

テクニックなどなく、ただただ乱暴なだけの接吻(キス)

「ん―――ん―――・・・」

そうしているうちに、だんだんと、風の体から力が抜けていく。

そして、完全に風の両腕から力が抜け、だらりとなり、そこで剛は口を離した。

「「ぷはぁ・・・!!」」

互いに息を上げ、風は、膝をついた。

「はあ・・・はあ・・・剛・・・何を・・・・」

「風」

先に息を整えた剛は、へたり込んだ風と視線を合わせるようにしゃがみ、言う。

「お前の妹は、それを望んだのか」

「――――ッ!?」

風は、息を飲む。

それは、かつて、自分が剛に向かって言った言葉。

「風、確かに俺たちは大赦に騙されていた。満開の代償を知っていれば、樹は声を失わなかったかもしれない。そこは、怒っても良い。だけど、それを理由に、誰かを傷付けていい理由にはならないだろ?」

「でも・・・でも・・・私は・・・私が、勇者部さえ作らなければ・・・・・」

「おい、またキスすっぞ」

「な!?」

「良いか風」

剛は、風の両頬を持ち、ぐっと自分と視線を無理矢理合わせる。

「勇者部作らなければ、とか言うけどさ。お前が俺に勇者としての適性があるから声をかけてくれたんだろ?」

「そ、そうよ・・・だけど、そうじゃなければ・・・・」

「俺は、それを良かったと思ってる」

「な・・・・!?」

風は目を見開く。

「だって、俺はお前に出会わなければ、今頃、あの路地裏でろくでなしとして生きてた。お前が、俺を止めてくれたからこそ、今の俺がここにいるんだ。それだけじゃねえ。樹や友奈、東郷に千景、翼にも出会えた。それは、俺にとっては大切な思い出だ。だから、勇者部を作らなければなんて、思い出を否定するような悲しい事を言わないでくれ」

風は、目を見開く。

「ア・・・でも・・・・でもぉ・・・・・!」

「もし、今が辛いなら、俺がこれから楽しい思い出をいくらでも作ってやる」

剛は、顔を近付ける。

 

「風、お前が好きだ。だから、もうそんな悲しい事言うな」

 

そして、強引に唇を、また重ねた。

今度は、誰かの暴走を止めるような、乱暴なものではない。

ただただ、愛を伝える為の、行為。

唇が離れ、風の目から、とめどない程の涙が溢れ出る。

「・・・・ばか」

「は?」

「ばか!剛のばかぁ!」

「ハァ!?」

突然の罵倒。そしてポカポカと剛の胸を叩き続ける風。

「ばか!そんな事、そんな事言われたら、剛の事しか考えられなくなるじゃない!ばかぁ!ごうのばかぁ!」

まるで子供のように泣きじゃくる風。

「あー、はいはい悪かった。でも後悔はしてねえからな?」

「うう、分かってるわよ・・・・」

抱きしめ合う二人。

そこへ、歩み寄ってくるものが一人。

「犬吠埼」

春信だ。

それに、風は座り込んだまま、見上げる。

その顔は、殴られた事でくっきりと風の拳の痕が残っており、赤く腫れていた。

だが、その表情は毅然としてものだった。

「・・・・これは、先々代勇者としての謝罪だ」

晴信は、風に頭を下げた。

「・・・・戦いを終わらせられなくて、すまなかった」

「・・・・」

それに、風は何も答える事は出来ない。

その前に、春信は顔を上げ、そして、陸の方を見た。

「さて、そこで傍観している馬鹿どもはどうする気だ?」

「へ?」

見てみれば、そこには、何故か顔を赤くして苦笑している友奈、樹、夏凜、翼、銀の五人がいた。

一体いつからいたのか。

いや、その前に、さっきの光景を見られたらしい。

「あ・・・忘れてた」

そして、剛の呟き。

それを理解するまで、三秒。

「な・・・なぁぁぁぁぁああああぁぁあああぁあああ!?」

一世一代の告白のシーンを、他人に見られた。

それは、風にとっては莫大なダメージと羞恥となってこみ上げてきた。

「えっと・・・・おめでとうございます、風先輩!」

「・・・」パチパチパチ

「ま、おめでとうとでも言っておくわ」

「これで晴れて恋人同士ですね」

「流石兄貴、カッコいい事言う!」

「やぁめぇてぇぇぇぇぇええぇええ!皆そんな目でアタシを見ないでぇぇぇぇええぇえええええ!!!」

風は顔を真っ赤にしてうずくまる。

剛も半ばながらに赤くしている。

しばらく風を弄り倒したあと、翼が春信に近付く。

「それで、どうして貴方がここに」

「・・・」

春信は、刀を回収して鞘に戻す。

すると、春信の来ていた装束が、突如として消滅し、その下からは、大赦の男性職員がいつも来ている装束が現れた。

「・・・・俺の勝手な判断だ。犬吠埼風は止めるべきだと、そう判断した」

「ちなみに、園子ちゃんへの出撃命令は?」

「一応、出されたが、本人の拒否と辰巳さんの権限で追い払った」

「そっか、師匠(せんせい)が・・・」

「あ、あの・・・・」

ふと、そこで風が春信に申し訳なさそうに歩み寄ってきた。

「その、さっきは暴走してたとはいえ、殴ってすいませんでした・・・・」

「やめろ」

頭を下げようとする風を止める春信。

「お前は全うに怒って全うに俺を殴った。俺には、お前の拳を受ける権利があり、お前は俺を殴る権利があった。それだけの事だ」

春信は、風の肩に手を置く。

「そして、自分を責めるな。お前は決して、間違った事をしていないんだからな」

風の肩から手を離し、そして、今度は夏凜の方を見る。

「・・・・久しぶりだな」

「え、ええ、そうね・・・・」

春信はともかくとして、夏凜の方は歯切れが悪い。

「最近はどうだ?」

「別に、特に困った事は何も無いわ」

「毎日コンビニ弁当を食っているようだな」

「そうだけ・・・ちょっと待ってなんでそれ知ってるの?」

「翼から聞いた」

「翼様ぁぁああ!?」

「ああ、ごめん」

思わず絶叫する夏凜。

しかし気を取り直して、話をある方向へもって行く夏凜。

「それよりも兄貴、さっき、先々代勇者って・・・・」

「あ、そういえば」

友奈が思い出したかのように呟く。

「・・・・・ああ、確かに俺は勇者だった」

春信の言葉に、一同は驚愕する。

「だが、今となってはそれはもう関係無い事だ。今の俺は大赦役人の三好晴信だ」

「・・・・そう」

「ただ、一つだけ言わせてもらうとすれば」

春信は、夏凜を指さす。

「お前の使う勇者システムは、元々は俺のものだ」

「は・・・・はぁぁああぁあああ!?」

思わず夏凜は自身の端末を取り出す。

「俺から始まり、三ノ輪に行き、そして最後がお前だ」

「そうだったのか、知らなかった」

銀はあっけらかんとした様子で興味深そうに夏凜の持つ端末を覗く。

「これが・・・兄貴の・・・!?」

一方で夏凜はわなわなと震えていた。

「・・・・・・・冗談よね?」

「嘘を言ってどうする?」

「・・・・」

もはや何も言えない夏凜。

しかし、春信はそんな夏凜をおいて翼の方を見る。

「・・・・」

「? なんですか?晴信さん?」

翼は、春信がじっとこちらを見てくることに、思わず首を傾げる。

「壁の上に東郷美森が・・・鷲尾須美がいる」

「え・・・」

翼だけでなく、その場にいる全ての者が呆気にとられる。

「翼、もしお前が、鷲尾の事を愛しているというのなら、お前は、行くべきだ」

「・・・・・・須美ちゃんが、何かをしようとしていると言いたいんですか?」

「そうだ。おそらく、最悪の形で――――」

突如として、その場にいる全員の携帯から、けたたましい程のブザー音が響く。

「な、何!?」

「これは・・・!?」

夏凜は思わず画面を見る。

「・・・何よこれ」

そこには、こう書かれていた。

 

『特別警戒警報』

 

「・・・・ついにやりやがったか」

何故か、おそらくは止まっている筈の世界で動いている春信が呟く。

「兄貴!?何か知ってるの!?」

「・・・・東郷美森が壁を破壊しやがった」

「な・・・・!?」

それに一同が絶句する。

「須美ちゃん・・・・」

「須美の奴・・・!」

翼と銀は、悔しそうに顔を歪める。

きっと、それは想定したくもなかった事だから。

「どうして東郷が・・・・」

「東郷は、昨日、園子と面会していた。おそらく、その時に何か教えられたのだろう」

光が迫る。

「そんな、どうして・・・・」

友奈が、信じられないとでも言うような表情をしていた。

光が迫る中、春信が叫ぶ。

「夏凜ッ!」

「!?」

「その勇者システムには、満開以外に、もう一つの機能がある!」

「もう一つの機能!?」

「その力は、きっとお前の仲間を守るのに役立つはずだ!」

春信は、言う。

 

「俺を超えたいなら、仲間を守り通せ。それが、俺が唯一()()()()()()()だ」

 

そして、勇者たちは光に包まれた。

 

 




次回『糾弾』


少女は気付いていた、初めから。
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