不道千景は勇者である   作:幻在

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糾弾

樹海化した世界に、翼、夏凜、友奈、樹、風、剛、銀の七人は立っていた。

真っ先に、夏凜は自らの端末のレーダーで敵の数を確認した。

そして、その顔を蒼白にする。

「何よこの数・・・」

無数の点が、画面を埋め尽くしていた。

「星屑・・・・バーテックスの成り損ないか・・・」

翼は何かを知っているかのように呟く。

「星屑・・・?」

「星屑というのは、いわばバーテックスの素のようなものです。バーテックスは、融合する事で進化を促し、強くなるんです。この間、レオや他のバーテックスが融合したのが良い例です」

「融合する事で進化・・・・」

剛がその言葉を反芻する。

しかし、それよりも友奈は声をあげた。

「そんな事より、東郷さんの所へ行かないと!」

「あ、友奈!?」

友奈が、他の者の制止も効かずに飛んでいく。

「くっ、行きましょう!」

それに全員が頷く。

そして、友奈の後を追おうとした所。

 

「『天上より降り注ぐ裁きの雨(ヘブンズ・カタストロフィ)』ッ!!」

 

『ッ!?』

突如として上空から矢の雨が降り注ぐ。

「避けろォォォォォォオオッ!!!」

翼の絶叫。

全員がすぐさま根の下に回避する。

「これは、佐奈さんの・・・!?」

一定の範囲内を一掃する、佐奈の大技。

これが降り注いできたという事は―――

「もう来たのか・・・・!」

やがて収まる矢の雨。

「今出て行けば、佐奈さんの格好の的・・・」

「東郷さん!」

「あ!友奈!」

「!?」

友奈が、躊躇いも無しに飛び出し、夏凜がその後を追う。

「友奈ちゃん・・・!」

「行け!翼!」

「銀ちゃん!?」

後ろで銀が叫ぶ。

「ここはアタシたちが食い止める!だからお前は須美を止めてこい!」

「銀ちゃん・・・わかった。ここは任せる!」

「おう!任された!」

三郎の力を使い、飛ぶ翼。

「・・・・さて」

銀は、今こちらに向かってきている敵を見据える。

義姉(ねえ)さん、覚悟はいいかい?」

「ええ・・・・ん?待って、義姉さん!?」

「だって、兄貴と結婚するんだろ?」

「待って!なんで結婚を前提しているの!?」

突然の事で動揺している風。

「そうだぞ銀」

「あ、剛・・・・」

「そう呼ぶのは結婚してからだ」

「なんで!?」

おかしな事言い合う三ノ輪兄妹に思わず混乱する風。

それに、樹が笑う。

「樹!アンタも笑わない!」

「」フルフル

「え?どういわれても無理?どういう事よ!」

もはや茶番と化している会話。

だが、それで無駄な緊張は解けた。

「良かった、大丈夫そうで」

銀が、安心したように笑う。

ふと、樹が片手の指を四本立てる。

「ん?アタシたちは四人だけど大丈夫なのかって?ああ、その点についてはもう一人追加で来る筈だから・・・・」

その時、銀の背後に金紗の神をなびかせて降り立つ者がいた。

「・・・随分早い到着じゃん」

「ふっふっふ、こう見えて、体がうずうずしてるんよ~」

「須美を差し向けておいて、よく言えるよな」

「なんのことかな~」

その人物は、実に柔和な話し方で、この緊張した空気をほぐしていく。

包帯だらけの体ではあるが、その少女は、なんでもないように立っている。

「紹介するよ兄貴。アタシの友達の」

「乃木園子です~」

園子は手を振ってそう答える。

「アンタが、東郷の言ってた・・・・」

風は、園子を不思議そうに見る。

「一応味方だから、安心してくださいね」

「まあ、剛の妹の友達だものね」

風は深くは追及はしなかった。

「さぁてっと!」

銀は双戦斧を顕現させる。

それに呼応するように、風は大剣を、剛は巨大戦槌、樹は腕輪、園子は槍を顕現させる。

その先には、五人の敵たち。

加賀弘、車田真斗、針目美紀、阿室佐奈、稲成幸奈、そして、八神翔琉。

「・・・・園子、二人任せられるか?」

「了解。そっちも頑張ってね」

二人は囁き合う。

「五人・・・?」

「あれれ~、他の人たちは~?」

「一人不在、他四人は壁に向かったとみていいな」

弘と美紀は首を傾げ、佐奈は冷静に状況を判断する。

「関係無いな」

だが、翔琉は両手の双剣の柄を握りしめる。

「あれは排除対象だ。やる事は変わらん」

「そうね」

幸奈も、手甲を打ち鳴らす。

「どちらにしろ、殺す」

全員が、それぞれの武器を構える。

双方が対峙する。

そしてどちらともなく、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結城友奈との出会いは、かつての記憶を失い、路頭に迷いに、不安を胸に抱えていた時に、引っ越した先で、隣同士として、彼女が挨拶に来てくれた時だった。

東郷美森にとって、彼女は、未だ記憶を失った状況に慣れていない自分には、まさに救いだった。

屈託なく、自分にその好意を向けてくれる、唯一の親友。

 

中学に上がった時に、美森と友奈は、自分たちの教室で、ある人物に出会った。

友奈の隣の席に座り、いつも素っ気ない態度を取る、不道千景という男だった。

後に、彼は自分の故郷で虐められていたと知るのだが、当時、美森は彼の事が苦手だったと覚えている。

 

部活動をどれにするか悩んでいた時、犬吠埼風という先輩から、勇者部へと勧誘された。

友奈は乗り気で、美森も、そんな彼女についていく事にした。

思いのほか楽しく、他人の困っている事を勇んでする、という事は、なかなかに心地良いものだった。

勇者部五箇条も、この時考えたものだ。

 

そのうち、千景が機械修理に強い事が分かり、さらに、ある事件を通して友奈が彼の入部を強く推し、彼も入部する事になった。機械担当が二人になったお陰で、とても楽になったと思う。

 

その一年後、風の妹である樹が入部してきた。

その時、得意のマジックで歓迎した事を覚えている。

 

色々な事があった。

沢山の人たちが困っているのを助けた。

沢山の人たちの笑顔を見た。

それを見るのが、とても嬉しかった。

 

 

だが、そんな日常は長くは続かず、突如として、神樹の勇者としてバーテックスと戦うハメになった。

 

 

 

それからは、勇者部としての活動をしつつ、バーテックスと戦う事になった。

変わった事もあった。

三ノ輪剛、三好夏凜、六道翼が勇者部に入った。

新たな仲間と共に、強大な敵を倒した。

 

満開を、使ってしまった。

 

もしかしたら、知らなければ、良かったのかもしれなかった。

 

オフィウクスとの戦いの後、乃木園子と対峙した時、園子から告げられた、勇者の真実。

そして、結城友奈が一回目の満開で、失った、心臓の機能。

その時はあまりにもショックだった。

その部分は、人間として失ってはいけないものであり、誰よりも満開の危険性と勇者の真実に気付く事の出来るものだ。

人間は、心臓というエンジンが動く事で生きていられる。

だが、それが動いていないという事は、それはもはや死んでいるも同然と言える。

つまり、友奈は、勇者は死なないという事に気付いているという事になる。

友奈の性格上、その事は決して言わないというのは目に見えている。

だが、それでも、そうであっても、言って欲しかった。

友達と言うなら、少しは相談して欲しかった。

 

 

 

それから数日、美森は、ある事をした。

 

 

 

切腹、首吊り、飛び降り、服毒、溺死・・・・。

ありとあらゆる、()()()()()()

しかし、その全てを、ことごく精霊に阻止された。

端末の電池が切れていようが関係が無い。

否が応でも、勇者を生かす。

どんな事があろうとも、勇者を生かす。

それが、精霊の存在意義。

 

園子が言った、勇者は死ねない。それは、精霊がどんな事があろうとも防ぐという事。

 

千景の使う精霊とは訳が違う。

これは一種の安全装置。

それだけを聞けば、良い事の様に思えるだろう。

しかし、事態は違う。

 

乃木園子が言ったことは、勇者は死ねない。そして、満開の代償は戻らない。

 

その片方が証明されたという事は、もう片方の事も、本当の事だという事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、美森は園子に会いに行った。

「やっぱり来てくれた~」

包帯だらけで、微笑んでくる少女、乃木園子。

その傍らには、どういう訳か何の変哲もない刀を携えた、大赦の装束を来た、仮面の男。

「分かってたよ~。この前は、嬉しすぎて話が飛び飛びだったけど、今度はちゃんとまとめてきたよ、わっしー・・・あ、東郷さんか」

「わっしーでも良いわ。記憶は飛んでるけど、その間、二年間は、私は鷲尾という名字だったのだから」

そこで、美森は傍らの男へ視線を向ける。

「あ、この人は三好春信さんって言って、私の御世話係みたいな人だよ。信用出来る人だよ」

「そう・・・でも、ごめんなさい。今回は貴方と二人きりで話がしたいの」

それを聞いた園子が春信へ視線を向けた。

春信は、溜息を一つ吐き、出口に向かって歩き出す。

「・・・・人祓いはしといてやる」

おおよそぶっきらぼうともいうべき口調。

「ありがとうございます~」

そうして園子の病室から出ていく春信。

「それじゃあ、今回はたっぷりと時間あるから、好きなだけ話し合おうか~」

「ええ」

そして、美森は自らが調べたありとあらゆる事を述べた。

 

 

自分が、勇者としての適性が高かった事。

 

それが原因で、大赦の中で力のある『鷲尾家』に養女として入る事になった事。

 

美森の両親がそれに同意した事。

 

大橋の方で、六道翼、三ノ輪銀、乃木園子と共に、勇者の御役目についた事。

 

そして――――満開によって、両足の機能と、記憶の一部を失った事。

 

 

「敵を殲滅できる力の代償として、体の一部を神樹様に供物として捧げる、勇者システム」

「うん。私はもっと派手にやって、今はこんな体になっちゃったけどね。つばくんの勇者システムは特殊で、満開の持続時間が私たちよりずっと長くて、それと、満開の形態が二つある仕様になってるんだ」

「翼君の勇者システムが・・・?」

「初代勇者のうち、二人の勇者と性質が似てるから、っていう理由で、一人の勇者システムにもう一人の勇者システムを組み込んだものを使ってるからかな。そのせいで、大赦にも想像できない程ほどの力になっちゃったんだよね」

「そう・・・」

「それでね、大赦は身内だけじゃやっていけなくなったから、全国で勇者の素質を持ってる子を調べたんだよ」

「東郷の家に戻されて、両親も事実を知ってて、黙っていた」

美森の表情は険しい。

「事故で記憶喪失だと嘘までついて、引越しした先が、友奈ちゃんの家の隣だったのも、仕組まれたもの・・・」

「彼女、検査で勇者の適性が一番高かったんだって。大赦側も、彼女が神樹様に選ばれるって分かってたんだろうね」

どれもこれも、仕組まれた事。

満開した後、料理の質があがったのも、労う為でもなく、ただ、祀っていただけ。

 

そう、全ては大赦の思惑通り――――()()()()()()

 

 

「だけど、たった一つだけ、()()()()()があった」

美森は、告げる。

 

「『災厄の名前を授かりし子』・・・だね」

「・・・・そう」

 

『千景』。

その名を与えられる事は、大赦では『忌み子』を意味する。

その理由は、西暦の時代に起きた、四国の香川県丸亀市を中心として、その周辺の街をも襲った未曽有の大災害。

何の前触れもなく、丸亀の街にある建物のほとんどが崩れ、木が腐り、多くの命が失われた、未だ解明されていない、大災害。

 

その災害の名前は、『千景(せんけい)災害』。

 

千の景色を殺す災害、という意味で与えられたらしい。

 

「だけど、実際は違う」

美森は、首を横に振り、断言する。

 

その災害は、樹海の損傷によって引き起こされたものだという事を。

 

「これは、師匠(せんせい)から聞いた話なんだけどね、とある勇者が、傷付いた友達を守る為に、神樹様から力を奪って、バーテックスを殲滅した時に、樹海も一緒に攻撃しちゃったらしいんだ。それが、結果的に多くに人たちの命を奪う事になっちゃってね」

「そして、その人の名前も、『千景』」

だから、『千景災害』。

千景という名前の人物が引き起こした災害だから、そう呼ばれるようになった。

 

それが、真実。

 

「たぶん、ふーくんの親は知らなかったんだろうね。その名前が、災厄の名前だった事を」

「そして、千景君は、その張本人の血を引く」

「うん。神の力を奪える体質を持っているんだって」

だからこそ、千景は勇者に変身する事が出来た。神樹から力を奪い、自らの体の中にある先祖の記録を呼び起こす事で、それを可能にした。

だけど、それがいけなかった。

「神樹様の怒りは、そろそろ限界らしくてね。大赦では、早急にでもふーくんを排除したいんだよ」

「そんな・・・・」

「今は、師匠(せんせい)や、私が抑えてるから、大きな行動には移ってないけど、これ以上、ふーくんが勇者として戦うなら、大赦は確実に実力行使に出てくる」

「―――ッ!」

美森は、携帯を取り出すと、すぐさま千景に電話をかける。

 

しかし、千景は電話に出ない。

 

「く・・・!」

その事に、美森は悔し気に顔を歪める。

そして、項垂れる。

「どうして・・・こんな・・・」

美森の体は震えている。

それに園子は、少しの間、逡巡する。

そして、意を決したかのように、園子は、美森に告げる。

「しっかり聞いてね」

「え・・・?」

「・・・この世界の成り立ちを教えてあげる」

 

(ごめんね、師匠(せんせい)・・・・)

 

 

 

園子は、告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・東郷・・・鷲尾は行ったぞ」

「うん。分かってる」

 

園子が美森に話した事。

 

それは、壁の外が、すでに炎の海に呑まれている事。

 

世界を破壊したのは、ウィルスではなく、()()()()()だという事。

 

そして、異世界の神の襲撃を受けたこの世界の神は、生き残った神たちだけであつまり、神樹となり、四国に結界を作った事。

 

外は、地獄だという事を。

 

「・・・・一応、これを渡しておく」

春信は、管理していた端末を、園子の手に置く。

「それがあれば、鷲尾を止められるだろう」

「大赦としての建前として、では、ね?」

「・・・・・それがあれば、いつでも逃げられるぞ」

春信は、仮面に隠れた顔で、園子を見る。

「う~ん、確かに逃げられるけど・・・・」

園子は、全十六体の精霊を一気に顕現させる。

そのどれもが、園子に懐くように体中にその体を摺り寄せる。

「ふふ・・・でも私は、やっぱり逃げないよ。貴方のように・・・・最後まで戦った、貴方の様に」

「・・・・そうか」

春信は、それだけを返す。

「ねえ、春信さん」

「なんだ?」

「もし、世界が終わるとして・・・・その仮面を取ってくれないかな?」

「何故だ?」

真っ先に聞かれた。

「見たいから。それだけじゃダメ?」

「・・・・・・なら、一つだけ言う事を聞け」

「内容によるかな?」

「・・・・」

春信は、仮面越しにでも分かる様な不機嫌な溜息を吐き、言う。

「・・・・もし、鷲尾が壁を破壊して、襲撃者たちが勇者たちを襲おうとしたら・・・勇者たちを守ってやってくれ」

それは、仲間を守る事の出来なかった、春信の唯一の、願い。

これ以上、誰かが死に、それで悲しむ誰かを見たくない。

何も出来なかったと、言い訳をしたくないから。

「・・・・分かりました」

それに、園子は承諾した。

それを聞いた春信は、仮面を外す。

「・・・・・その方が、格好良いと思うな」

「・・・・あまり、好きじゃない」

春信は、照れたように仮面を付け直す。

それと同時に、病室の部屋が開け放たれる。

「・・・・・さて」

春信は、入って来た者達を睨み付ける。

 

「・・・・どれほどこいつらに辛い思いを押し付ければ、気が済む?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在。

 

壁の外の真実を知った美森は、壁を破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生贄が・・・・私だけならよかった・・・・」

今思えば、何故、過去の自分はこうなる事を知っていながら戦ったのか、分からなかった。

だが、もうどうでも良い。

狙うは、こうなる事になった元凶、神樹。

そして、友奈を、心臓が止まった事で、きっと思い悩み、苦しめる事になった事に対する、怒りもあった。

 

だから、美森は、神樹を殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東郷さん!」

友奈が、美森の立つ壁に降り立つ。

「なに・・・してるの・・・・?」

星屑が襲ってくる。

しかし美森は、川蛍の遠隔型浮遊小型砲台―――いわゆる、某機動戦士のファンネルというものを使って襲ってきた星屑を撃ち殺す。

しかしそれ以前に、他の星屑が友奈を襲う。

「セェエイッ!!」

「ボルトパンチッ!」

しかし、その星屑は夏凜と翼によって倒される。

そして、友奈の傍に降り立つ。

「・・・・東郷さん・・・いや、この際、須美ちゃんと呼ばせて貰うよ。壁を壊したのは、君だね?」

翼は、あくまで、穏やかに聞いた。

「・・・・ええ」

それを、美森は振り返って肯定した。

「壁を壊したのは・・・・私・・・・」

「どういう事よ東郷・・・・アンタ、自分が何をしたか分かってるの!?」

それに真っ先に食いついたのは、夏凜。

「分かってるわ。分かってるからこそ、やらなければならないの!」

美森は、突然壁の外に向かって飛ぶ。

「東郷さん!?」

友奈と夏凜は、すぐさまその後を追う。

だが、美森の姿が突然、空中で忽然と消えた。

「え!?」

それに驚く間もなく、友奈と夏凜も壁の()()を通った。

「え・・・・」

「なに・・・・これ・・・」

 

 

 

 

そこは、まさしく、地獄だった。

 

 

 

 

無数の星屑が飛び交い、大地は炎に包まれ、それ以外、何も無かった。

それにあっけに取られる、友奈と夏凜。

「これが・・・世界の真実だよ」

遅れて、翼がやってくる。

「翼君・・・・?」

「翼様・・・これは・・・・」

「バーテックスは、十二体じゃ終わりじゃないんだ」

翼は、申し訳無さそうな表情で、二人を見た。

「壁の中以外は滅んだ」

「そして、世界にも、私たちにも未来はない。私たちは満開をし続けて、体の機能を失い続けて―――」

背後には、いつのまにか美森がいた。

「いつか、大切な友達や、楽しかった日々の記憶も忘れて―――」

美森の声は、とても震えていた。

「ボロボロになって、それでも戦い続けて、だからもうこれ以上、大切な友達を犠牲にさせないッ!」

その手に、二丁拳銃を顕現させる美森。

「勇者という生贄から解放されるためには、もうこれしか方法がないのッ!」

美森は、その銃の矛先を神樹の壁に向ける。

「ま、待って・・・!」

夏凜は、そんな美森を止める。だが、その声はどこか弱々しい。

「夏凜ちゃん、どうして止めるの・・・?」

「だ、だって、私は、大赦の勇者だから・・・・」

「大赦は真実を隠し、貴方を道具として使ったのに・・・・!?」

「どう・・・ぐ・・・」

それに、夏凜はよろめく。

「で、でも・・・!」

「分かって友奈ちゃん。もうこれ以上、友奈ちゃんや勇者部の皆が傷付いていくのを、もう見たくないの・・・・!」

そう、美森が涙を流しす。

「でも、そんな事したら、世界が壊れちゃうんだよ?沢山、人が死んじゃうんだよ?」

友奈は、なおも美森を止めようとする。

「そんなのどうでも良いよ―――」

「良くないよ!まだ何も知らない人たちが暮らしてるんだよ?こんなところで諦めちゃったら駄目だよ・・・だってそれが―――」

「勇者、だっていうの?」

突然、美森の声が物凄く低くなる。

その声は、夏凜はともかく、友奈でさえも聞いた事もない程に、怒りに満ちた声だった。そして、翼はその怒りの原因を知っていた。

「友奈ちゃんは、いつもそう。自分の事は何も考えないで、他人の事ばかり優先する。自分が傷付いても、それを良いって思ってしまう」

「と、東郷さん・・・?」

「その癖に、他人の事なんて何も考えてない。自分さえ良ければ良いって思ってる。誰かの気持ちも考えないで、勝手に自己満足に浸ってる」

「そ、そんな事・・・」

「今だって、()()()()()()()()()()()()()を棚に上げて私を止めてるんでしょ?」

「ッッ!?」

その瞬間、友奈の顔が蒼白になる。

「え・・・・」

夏凜の表情も、驚愕に染まる。

「ど、どう・・・して・・・・」

「心臓・・・人として生きていくために最も失ってはいけない部分を失って、満開の可能性に気付かない訳が無い。勇者の真実に気付かない訳が無い。友奈ちゃんの事だから、周りにその事を知られたくなかったんだと思うけど、それでも、誰よりも早く、その事実に辿り着けたのは、千景君を覗いて、友奈ちゃんだけ」

友奈が、後ずさる。その表情を、驚愕と恐怖に染めて、血の気を失ったかのように、口を開けたまま、美森を見る。

振り返る美森、その表情は、とてもではないが、親友に向けるものではない。

 

否、親友だからこそ――――この気持ちを抑える事は出来ない。

 

「友奈ちゃんだけは気付けた。だけど友奈ちゃんはそれを話さなかった。満開の代償が、体の機能だという事も、勇者は決して死ねないという事も、全部、全部分かってた」

「あ・・・あ・・・」

どんどん友奈の表情が蒼白になっていく。

その理由は――――()()

 

友奈は、初めから()()()()()()

 

友奈は嘘をつけないからこそ、表情で丸分かりだった。

「やっぱり、そうなんだね・・・」

「と、東郷さん・・・私は・・・」

「友奈、それ、本当なの・・・?」

「ッ!?」

友奈の振り向く先。

そこには、まるで信じられないとでもいうような表情の夏凜がいた。

「満開の代償が体の機能だっていうのも・・・・風や樹が、体の機能を失う事も、知ってたの・・・・」

「ち、違うの夏凜ちゃん・・・・私は・・・私は・・・・」

「友奈ちゃんは、いつもそう・・・・・」

美森が、まるで断罪人のように、口を開く。

「自分だけが傷付いて、他人の事なんか何にも考えないで、そして、自分の事を棚に上げて」

「と、東郷さ・・・」

「呼ばないで」

「ッ・・・!?」

初めての、拒絶。

それに、さらに友奈は茫然とする。

「友奈ちゃんはいつもそう。他の人の苦しみを見ないようにしない。しっかりと、向き合ってもくれもしない。そんな人に、勇者だなんて語る事も資格すらもない」

そして、美森は言い放つ。

 

そんな、そんな誰かの気持ちをくみ取らない、利己主義者(エゴイスト)を――――

 

「―――友奈ちゃんは、勇者じゃない」

 

――――『勇者』と呼べるわけが無かった。

 

「―――――――ァ、」

その瞬間、友奈の中で何かが崩壊した。

膝から崩れ落ち、がっくりとうなだれる。

「ゆ、友奈・・・・?」

夏凜が呼びかけても、友奈は反応しない。

まるで、糸が切れた操り人形のように、動かない。

「・・・わ・・・たし・・・・は・・・・・ゆうしゃ・・・・じゃ・・・」

何かをブツブツと呟きだす友奈。非常に、精神が危うい方向へ現在進行形で向かって言っている。

「それは違う」

その時は、翼が、口を開く。

「翼君・・・?」

「・・・何が違うっていうの・・・?」

「友奈ちゃんは、確かに勇者じゃないかもしれない。名前の上でそうであっても、確かに須美ちゃんにとっては友奈ちゃんは、勇者じゃないのかもしれない」

翼は、美森にボウガンを向けた。

「だけど、それでも友奈ちゃんは誰かの為に頑張った。誰かの笑顔が見たい、知らない人の笑顔を守りたい。そう思い、頑張った事は、賞賛されない事なのか?その人を褒める事は、間違いなのか?少なくとも僕はそうは思わない。だって、誰かのために頑張る事は、決して間違いじゃないんのだから」

翼は、続ける。

「人が困っている事を勇んで助ける。それが、勇者部の五箇条以外のスローガンの筈だ。そして、そんな人たちの事を、君は、君たちは、『勇者』と呼んだんじゃないのか?」

「・・・・それでも、友奈ちゃんは勇者じゃないわ」

「そうかもしれない。だけど、僕は違うと思う」

「ならなに?」

問いかける美森。

翼はあくまで、冷静に答える。

「・・・・・少なくとも、友奈ちゃんは夏凜ちゃんを道具と思った事は無い」

「え・・・」

「出来る事なら、僕―――――」

その時、背後で爆発が巻き起こった。

いつの間にか、背後で構成されていたバーテックス―――ヴァルゴ・バーテックスが卵型の爆弾を吐き出してきたのだ。

「くッ・・・夏凜ちゃんッ!友奈ちゃんをッ!」

「分かりました!

友奈が言い終える前に、結界の中へ逃げる夏凜と友奈と翼。

「まずは避難を―――」

その時、執拗なまでに追撃してきたヴァルゴが卵型の爆弾を吐き出し、夏凜と友奈を撃つ。

「きゃあぁあ!?」

精霊によって防いだものの、その威力はやはりすさまじく、落下していく。

「夏凜ちゃん!友奈ちゃん!」

翼はそんな二人を助けようとするも、ヴァルゴが邪魔をしていけない。

「く・・・!」

翼は悔しそうに歯噛みするも、両手にボウガンを顕現させ、ヴァルゴを睨み付ける。

そして、その先にいるであろう、美森を見る。

「・・・・須美ちゃん・・・・」

翼は、ボウガンを構える。

 




次回『スカビオサとマリーゴールド』

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