不道千景は勇者である 作:幻在
無数の金属音が響く。
「うがぁあああ!!」
「オオオオッ!!」
銀と真斗が、互いの得物を振るい、互いに決定打となる一撃を入れようと振り回す。
「だぁああ!コイツ精神年齢ガキの癖にいっちょまえにハンマーの使い方をマスターしやがって!」
予想以上に真斗のハンマーの使い方が卓越しており、なかなか攻めあぐねている銀。
筋力はほぼ互角。
しかし骨格によって強化した膂力で、どうにかという程度で、正面から打ち合う度に、骨が軋み、その身にヒビを入れている。
「うがぁああ!」
「ぐぁ!?」
モロに入り、双戦斧を交差させて防ぐ銀。
「くっそ・・・!」
予想以上に苦戦している事に歯噛みする銀。
「他の皆は・・・」
と、視線を向けた所。
「オラァッ!」
「ぐぅ!」
巨大戦槌で弘を吹き飛ばす剛。
「チィッ!」
弘が地面にレイピアを突き立てる。
その瞬間、空中に複数のレイピアが出現する。
「いけ・・・!」
そして、次の瞬間、それらのレイピアがまるで弾丸の様に射出される。
「うおわ!?」
剛は思わず飛んで回避。しかし、他にセットされていたレイピアが、剛の足を貫く。
「ぐあ!?」
「兄貴!」
「大丈夫だ!致命傷じゃねえ!」
剛はあくまで大事ではないと言い張る。
だが、それでも痛いのは確かな筈だ。
「兄貴・・・」
「俺の事より、自分の事心配しやがれ!」
「!?」
いつの間にか真斗がすぐそばまでやってきていた。
その右手に持つハンマーは―――電気を帯びていた。
「まずッ―――」
「うぅぅうあああああ!!!」
雷撃が銀を襲う。
雷鳴が突き抜け、樹海を吹き飛ばす。
雷撃の突き抜けた先は、何も残っていない。
「や・・った・・・」
「そういうセリフを言う時はなァ――――」
「!?」
「大抵やってねぇんだよッ!」
銀が上空から、ブーストした戦斧を振り下ろしてくる。
真斗はあわててそれを防ぐ。
その瞬間、真斗の足元にクレーターが出来る。
「ぐ・・ぅぅ・・・!」
「へへ、もっとやろうぜ、ガキ!」
「なま・・・いきぃ・・・!」
金属音が、轟く。
閃光が走る。
鮮血が舞う。
「ッ!」
樹は、痛みに顔を歪める。
「アハハ!まだ声上げないんだ?意外と我慢強いんだね?」
「・・・」
樹海の深く。巨大な根が生い茂る、光が僅かにしか差し込まない場所。
戦闘開始いきなりにここに落とされ、樹は防戦一方ともいえる戦闘に陥っていた。
また閃光が走り、今度は右太腿を斬られる。
「ッ――!」
それに、思わず膝を着く。
「・・・・」
「アハハ!」
見えた。だけど、すぐに消えてどこに行ったのか分からない。
さっきから、この繰り返しだ。
斬られたらすぐに隠れられ、また現れ斬られたと思ったら、またすぐに隠れられる。
まさにヒットアンドアウェイ。
さらに、気配が一切なく、殺気も感じないので、この上なくやりにくい。
樹にとっては、あまりにもやりにくい相手だ。
真斗や弘など、姿の見える相手なら縛って拘束する事も可能だろう。
だが、この相手は実体があるはずなのに、捉える事が出来ない。
武術、ましてやスポーツもやっていない樹にとっては、こんな相手に太刀打ちできるわけが無い。
また閃光が走り、樹の右肩を斬る。
それに、また顔を歪める樹。
「アハハ!アハハ!」
笑い声が響く。
だけど、向きがさっぱりわからない。
姿の見えない敵に、しかし樹は怯えなかった。
(お姉ちゃんなら・・・・諦めない・・・!)
なおも強い眼光で、姿の見えない敵を睨み付ける。
「・・・・・その目、気に入らないなぁ」
暗殺者・・・・美紀はにたりと笑う。
一方、樹の姉である風は、幸奈に足止めを喰らっていた。
「ぐぅあ!?」
一撃一撃が重く、さらには速い。
風の剣が剣を振るう前に、幸奈の拳は先に風に到達してしまう。
(春信さんの場合は精霊がいてくれたから助かったけど・・・コイツの場合はそうもいかないのよねッ!)
とてもではないが敵わない。
ましてや視界の半分が使えないのでは相手の動きがよく見えない。
「ハァッ!」
「ぐぅ!」
幸奈の正拳突きを大剣の腹で受け止め、たたらを踏みながら下がる風。
「・・・・チッ」
短く舌打ちする幸奈。
「あらら、予定よりも時間がかかってるからイライラしちゃってるとか?」
風は苦し紛れの笑みを浮かべて、挑発する。
「別に、私はさっさと千景君の所に行きたいだけよ」
「お生憎様、千景は今はいないわ」
「なら、すぐに貴方たちを殺して千景君の所へ行くわ」
たった一歩で距離を縮める幸奈。
それに慌てて大剣で防御する風。
だが、それでも幸奈の怒涛のラッシュは終わらない。
どうにかその場に踏み止まって、幸奈の連打に耐え続ける風。
「ぐ・・・ぅう・・・!」
流石に、耐えられない。
先の戦闘で戦った春信は、勇者ではない。
だから、それほどの威力は無かった。
だけど、幸奈は違う。
全て、自分たちを殺すために作られた力だ。
だから、一撃一撃が重い。
突如として幸奈が黒い風に包まれる。
「これはッ!?」
「吹き飛べッ!」
黒い風を纏った幸奈の拳が風を吹き飛ばす。
「うわぁあああ!?」
はるか彼方へと飛ばされる風。
やがて、どこかに落下する風。
「ぐ・・・ぅ・・・結構飛ばされた・・・・」
落下の衝撃は全て精霊が防いだが、それでも吹き飛ばされた際の衝撃で体が痛む。
起き上がるのに、時間がかかりそうだ。
「樹・・・・」
しかし、真っ先に心配すべきは妹の事だ。
翼の話では、樹が相手をしている美紀という少女は、相当な実力を持っていると聞く。
樹では、とてもではないが太刀打ちできない。
すぐに、加勢にいかないといけない。
大事な妹を守る為に。
その想いで立ち上がる風。
しかしその時。
「乃木園子ォォォォオオオオ―――――――――ッッ!!!」
「!?」
突然の怒号に、風ははっとその方向へ視線を向ける。
「今のか・・・佐奈・・・?」
確か、佐奈の相手をしていたのは・・・
矢が飛来する。
それを園子は槍によって迎撃する。
矢を弾き飛ばした瞬間、園子はすぐさま地面を蹴って佐奈に一直線に突っ走る。
槍を大きく振りかぶり、目の前の敵―――安室佐奈に向かってバットをスイングするかのように薙ぐ。
それを佐奈は、飛んで回避する。
大きく下がり、佐奈は地面に手を付きながら後退する。
園子は迎撃する事無く、槍を構える。
「・・・何故だ」
佐奈は問う。
「何故、あの男の為に戦う!そんな体になってまで、何故戦うんだ!」
「そんなの決まってるよ。守りたいものがあるから。それだけじゃ不満?」
「その守りたいものから裏切られてもか!」
「裏切らないから大丈夫だよ~」
あっけらかんと返す園子に、佐奈は歯噛みすう。
「それよりもさ」
今度は園子が佐奈を睨み付ける。
「私としては、この間の事を謝って欲しいな、って思ってるんだけどな~」
「この間・・・だと・・・?」
「うん。
殺気が充満する。
それは全て園子から発される、おおよそ中学生が発するようなものでもない殺意。
「・・・・そうか」
だが、佐奈は――――
「・・・・・あれ?」
「どうやら、我々は互いの存在を認められないらしい」
何か、様子が可笑しい。
「―――あの男の意思を継ぐお前を殺さずして、何が
佐奈の手には、何かしらの毛皮が握られている。
「それは―――ッ!?」
園子の表情が驚愕へと変わる。
「何が起きようとも、どんな事になっても、お前を殺すッ!」
――――それは神の怒りを纏った、神罰の獣。
「やめて!そんな事をすれば―――」
――――天の神より解き放たれし、その獣は、人の文明を破壊する。
「もう、遅い―――ッ!」
園子の叫びは、届かない。
――――天の怒りを纏いしその獣は――――人の怠惰を蹂躙する。
「―――討ち滅ぼせ『
瞬間、佐奈に変化が起こる。
毛皮が黒く妖しく発光したかと思うと、佐奈はそれを自分の腹に叩きつけた。
次の瞬間、その毛皮はその形を闇へと変質させ、やがて佐奈の体を覆う。
そして、その闇が収まった時、そこには、『
「グルルル・・・」
「ッ・・・」
本当に獣のように四つん這いになる佐奈。
構える園子。
「・・・殺してやる」
瞬間、園子でさえ見切れない程の早業で、園子を吹き飛ばす。
「ぐぅあ!?」
感だけでどうにか防いだものの、速い。
吹き飛ばされる最中にどうにか踏みとどまる。
「この世界を殺すにはお前は邪魔だッ!」
上から声が聞こえた。
見上げれば、そこで佐奈が数本の矢を同時につがえてこちらを狙っていた。
「くッ!」
「この世界に未来はないッ!どれほどあがいても、あの子たちが幸せになれる未来なんてありはしないんだッ!!」
駆け出し、無数の矢から逃れる園子。
立ち止まって、周囲を見渡して佐奈を探そうとする。
だが、それよりも速く、佐奈が、
「ぐあ!?」
「グルルルッ!!」
「ッ・・・ただ世界を壊すために、全てを捨てるっていうの・・・!?」
その目は異様なほどに集束され凝縮された憎しみが込められていた。
それほどまでに、あの日、可愛がっていた子供たちを殺された事が憎かったのか。
だが、彼女にこの世界を殺す事にここまでの執着を見せるように、園子にだって譲れないものがある。
「勇者を舐めるな―――安室佐奈ッ!」
佐奈の髪を掴んで前方に叩きつける。
そのまま何度かバウンドするも、すぐさま四つん這いのまま態勢を立て直す。
「一目連ッ!」
園子のすぐそばに小さな竜が現れる。
その瞬間、園子の足元で小さな空気が爆発し、園子を一気に佐奈へと接近させる。
「ヤァッ!」
「ぐぅ!?」
そのまま横に薙いで吹き飛ばす。
しかし斬撃は佐奈は弓によって防がれている。
「ッ!乃木園子ォォォォオオオオ―――――ッ!!!」
佐奈の絶叫。
それと同時に、つがえた無数の矢が放たれる。
「ハァアアアアッ!!!」
園子は、その矢を直撃弾のみを叩き落し、佐奈に突っ込む。
二つの固い意志が激突する。
「・・・・ん」
目を覚ます夏凜。
体は、それほど痛んではいない。
精霊のお陰で、どうにか落下のダメージは防げたようだ。
「く・・・」
起き上がり、周囲を探す。
そこは、樹海の深く。
どうやら、かなり深い所まで落ちたようだ。
さらに、変身も解除されている。が、端末はある。
「すぐに戻らないと・・・って友奈はどこ?」
ふと、夏凜は自分が抱えていた友奈を探す。
存外、そこまで時間はかからなかった。
大きな根の背をもたれて座っている友奈を見つけ、駆け寄る夏凜。
「友奈!」
呼びかけても返事がない。
「端末は持っているわね。だったらすぐに変身して、翼様の援護に―――」
「むだだよ・・・」
「は・・・?」
「どうせ、なにもできないよ・・・・」
「アンタ、何を言って・・・」
友奈の声が、今までに無い程に弱々しい。
それに困惑するなか、夏凜は、友奈の右手に握られている端末を見た。
「ゆうしゃに・・・・へんしんできないんだ・・・」
『勇者の精神状態が安定しない為、神樹との霊的回路を生成できません』
「な・・・・」
「東郷さんのいった通りだ・・・わたしは、勇者じゃない・・・ゆうしゃにすらなれない・・・・もう、つかれたよ・・・」
誰かを騙し続ける事に。
「友奈・・・」
「夏凜ちゃん・・・わたしの事はいいから・・・さきに・・・いって・・・・」
「何をいってるの!?そんな事できるわけ」
「おねがい・・・もうこれいじょう・・・・・わたしに
「ッ・・・・」
顔をあげた友奈の眼には、生気が抜けていた。
そして、今にも壊れてしまいそうな程に、その目は、ガラスのように、まるで魂が抜かれたかのように透き通っていた。
「無様だな」
「ッ!?」
突然、背後から声が聞こえた。
「・・・最悪」
藍色のロングコートを着て、その両手に一本づつ、西洋長剣が握られていた。
「八神翔琉・・・・」
「何があったが、知らんが、好都合だ。ここで死ね」
剣を向けてくる。
「友奈、逃げなさい」
「やだ」
即答。
「これいじょう、いやなおもいをしたくないよ」
「何馬鹿な事を言ってんのよ」
「まっとうなことだとおもうよ・・・・・だって、わたし、もうゆうしゃじゃないんだから・・・」
まるで生気がない。
本当に魂が抜かれたかのように、友奈の声に覇気が感じられない。
「そんなに死にたいなら、望み通り殺してやる」
翔琉が地面を蹴り、友奈に凶刃を振りかざす。
その凶刃が、友奈の体を切り裂く――――事は無かった。
金属音が響き、衝撃波が空気を震わせる。
「ッ・・・」
「貴様・・・」
「夏凜ちゃん・・・?」
夏凜が、ギリギリの所で変身して、翔琉の一撃を防いだのだ。
刀を友奈の前にかざし、両手で一本の刀を持ち、どうにか翔琉の一撃を防いでいた。
「せ・・・えぇいッ!」
「!?」
片手と両手、力の差は歴然だろう。
夏凜は翔琉の剣を弾き、すぐさま刀から離した片手でもう一本の刀を抜き、翔琉に斬りかかる。
翔琉はその一撃を避け、後退、構えて夏凜を睨み付ける。
「夏凜ちゃん・・・どうして?」
「どうして・・・ですって?」
夏凜は、友奈を見ず、翔琉から目を離さずに言い放つ。
「東郷が泣いていたからよ」
「え・・・」
結界の中へ逃げ帰る瞬間、夏凜は見た。
東郷の頬に、煌く何かを見たのを。
「アタシはね、東郷がアンタに言った事は、全部アンタを自分から遠ざける為の嘘だと思うのよね。だって、親友に酷い事を言う時ってさ、何か理由があって、とても辛い事だと思うの」
これは、ただただ兄を超えたいがために努力してきて、友達というものを知らなかった夏凜の客観的視点。
しかし、勇者部として活動している中で、感じた事を、夏凜は胸に抱いて友奈に言う。
「だって、巻き込みたくないでしょ?その親友が傷付く事が嫌で、その親友の笑顔が消えるのが怖くて。だから、酷い事を言う時は、友達の事を思っていて、そして、辛い思いをさせてしまう事に、心が痛んでしまう。今まで友達のいなかったアタシに言えた義理じゃないけど、断言するわ」
夏凜にとって、初めての友達。
兄に憧れを、そして、今、風前の灯火となっている友達へ、夏凜は、エールを送る。
「東郷は、本心を言ってない」
それに、友奈を目を見開く。
「東郷は、翼様が止める。こんな事言った後で悪いけど、東郷を止める役目は翼様にあると思。だけど、まずは真っ先に謝りに行きなさい。アンタが満開の代償の事に気付いていた事含めて、まとめて謝り倒しなさい!だから立て!生きて謝れ!その為に、立って走れ!」
夏凜は友奈を叱咤する。
誰かが傷付くのは苦しい。
誰かが傷付くのは嫌だ。
それは、分かる。
だって、今、友達が傷付いた姿を見るのは、とても苦しいから。
「わ、わたし・・・は・・・」
「迷っても良い!見つからなくても良い!だけど謝りなさい!東郷に、そして勇者部全員にッ!そして、頼りなさい!アンタが気付かせてくれたように、アンタは一人じゃないんだからッ!」
「喚くな」
翔琉が斬りかかる。
夏凜はそれを防ぎ、叫ぶ。
「だから立て!アンタがそれを望んでるなら走れ!走れぇぇえええ!!」
「ッ!!」
その瞬間、友奈は立ち上がり、走り出す。
「チッ!」
「行かせるか!」
追いかけようとする翔琉を、夏凜が立ち塞がる。
「そうか、なら、お前から殺してやるッ!」
「やれるもんならやってみろォ!」
剣劇が錯綜する。
「ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・!!!」
走る友奈。
夏凜に言われるがままに、走っている訳だが、友奈自身、何がなんだかわからなくなっていた。
「あ・・・」
つまずき、無様に地面に体を投げ出し、転ぶ友奈。
「うう・・・」
倒れた衝撃と擦れた事によって、体のあちこちが痛む。
だが、立ち上がれない程ではない。
しかし友奈は立ち上がらない。
何故なら、分からないからだ。
美森に言われた事。そして、夏凜に言われた事。
この、相対する二つの言葉に、友奈の心はこれまでにない程にぐちゃぐちゃになっていた。
美森によって自分の信念が砕かれた。
確かに、自分は、一度目の満開で自身の心臓が止まり、そして、満開によって失われるものと、勇者は決して死ねない事に気付いてしまった。
そこまで感は鋭くないと思っていたが、今回ばかりは気付いてしまった。
だけど、言えなかった。
話す事によって、余計な心配をかけたくなかった。というのが大きい理由だが、それ以前に、それで美森が負い目を感じてしまう事が、何より嫌だった。
さらに、勇者部を作った風も傷付けてしまうかもしれなかった。
それが嫌で黙っていた。
だけど、いつか分かってしまう事も、分かっていた。
友奈は、例えそうであっても、誰もが諦めずに一緒に戦ってくれると、そう思っていた。
だけど、現実はそうそう上手くはいかなかった。
風が、現実に耐え切れず暴走してしまった。
それを知った時、友奈は頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
何故、そんな事になったのか。何故、そんな事をしたのか。
幸い、夏凜の兄である春信のお陰で、大事には至らなかった。
だが、それに立て続けて、美森が壁を破壊した。
それを説得によって止めようと思った。だけど、逆に自分の信念を叩き潰されてしまった。
まさか、親友から勇者である自分を否定されるなんて、思ってもみなかったのだ。
だから、友奈は一度壊れた。
そして、何もかもが嫌になった。
自分がここまで心が変わりやすい性格なんて思わなかったが、そんな事よりも、美森に自分を否定された事が、何よりもショックだった。
どうせ世界が壊れるなら、このまま死んだほうがマシだと、本気で思った。
だが、夏凜が言ったことで、その決意さえも揺らいだ。
美森が言ったことは、本心じゃない。
そして、自分を遠ざける為の、ただの演技。
自分は、友奈を撃てないから、遠ざける為に、そんな事を言った。親友を、傷つける事になっても、それを成し遂げたいのか。
本当は、傷付けたくない。
だけど、これ以上苦しめたくもない。
だから、神樹を殺して、全部終わらせる。
死んでしまえば、全て無かった事に出来るのを良い事に、そんな事をしたのか。
だったら止めなければならない。
その為に、友奈は、勇者に変身しようとする。
だが、出来ない。
出てくるメッセージによって、勇者に変身する事を拒否される。
「どうして・・・・」
美森が言ったこと。
夏凜が言ったこと。
この二つが、友奈を苦しめる。
「やだよ・・・・もうやだよぉ・・・・」
苦しい。苦しい。考えたくない。だけど考えてしまう。
「助けて・・・千景君・・・」
友奈は、その場で丸くなり、ただ一人孤独に助けを求めた。
灼熱の大地。
いつ見ても、この光景はおぞましいものだった。
その世界を、我がもので
その正体は、異世界の神より、新世界創造の為に作られた、地上に存在する全ての生を滅ぼす、神の尖兵。
そんなバーテックスたちが狙うのは、唯一残っている人類の生存圏である、四国にある神樹。
その神樹さえ殺せれば、全てが終わり、もう、誰も苦しまなくて済む。
「もう、誰も・・・」
美森は、そう呟くも、突如、彼女の頭を襲った頭痛に顔をしかめ、片手で額を抑える。
「うっ・・・」
その時、美森は、先ほどの友奈の顔を思い出す。
「友奈ちゃん・・・」
全てを否定され、絶望に染まったかのような表情。
それが、美森の心を締め付ける。
「・・・・ごめんね」
本当は、あんな事言いたくはなかった。
だが、友奈はどんな事があっても、自分のする事を全力で止めようとしてくる。
ならば、確実な手段でその心を折る必要があった。
その事に、後悔はない。
そう、その事には、確かに見切りをつけた筈だった。
「なのに・・・なんで、こんなに頭と胸が痛いの・・・!?」
狙撃銃を落とし、両手で、頭と胸を抑える。
それと同時に、美森の頭の中を、いくつもの言葉が反芻される。
『役立たず』『勇者失格』『友達を守れない』『頑固者』『小心者』『結局それしか出来ない』『友達を持つ事なんて許されない』『死んでしまえばいい』『彼の愛を受ける資格なんて無い』『勇者なんてやめてしまえ』『忘れん坊』『薄情者』『何も知らない』『消えろ』――――
「うるさい・・・・うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ!!!」
頭が痛い。頭の中の言葉がうるさい。うるさい。黙れ。語り掛けてくるな。私の問題だ。これは私が決めた事だ。だから話しかけてくるな。消えろ。消えろ消えろ消えろ――――
「須美ちゃんッ!」
「!?」
突如といて聞こえた声に、美森は顔をあげる。
「翼君・・・?」
何故彼がここに?いや、それ以前に、あのヴァルゴはどうした?
まさか、たった一人で倒してきたと言うのか。
「ヴァルゴなんて格下相手に僕が負ける筈がないだろう?」
翼は見透かしたように美森に言う。
そして、翼は彼女に歩み寄る。
―――『近づけるな』
「こ、こないで!」
美森は、思わず叫ぶ。
それに翼は一瞬立ち止まるも、それでも歩みを止めない。
「・・・・須美ちゃん。もうやめよう。これ以上は、君を苦しめるだけだ」
「だめ・・・・来ないで・・・・来ないで・・・」
そうでなければ、決意が揺らいでしまう。
貴方の声だけは、私の心に響いてしまうから。
「世界を壊せば、確かに、全部終わるだろうね。だけど、それじゃあ、この世界は何の為に今日まで生き続けたんだ?何人もの勇者が戦った。何人もの勇者が死んだ。だけど、どの勇者も、いつか世界を取り戻してくれると信じて戦ってきたんだ。君は忘れてしまったかもしれないけど、僕らの
あとずさる美森に、とうとう翼が追いつき、その手を掴む。
「だから、もうやめよう。まだ、戻れる」
真っ直ぐに、美森を見る。
それに、美森は唖然としてしまう。
どうして、彼はここまで、自分の為に必死になるのか。
真っ直ぐこっちを見てくれるのか。
「・・・つば」
『やめるのか?』
その言葉が、脳内に響き、美森は翼を突き飛ばす。
「!?」
「ごめんなさい・・・・・もう、止まれないの!」
突如として、美森の体を眩い光を覆う。
「これはまさか・・・・!?」
その光が収まる頃には、美森は、巨大な戦艦の上に乗っていた。
『満開』だ。
「須美ちゃん・・・!?」
「ごめんなさい・・・消えて」
美森の乗る戦艦の砲門が全て翼に向けられる。
そして、暴力的なまでの威力の砲撃が放たれる。
それを回避した翼だが、翼が立っていた場所が爆発し、その風圧によって翼は吹き飛ばされる。
「ぐぅあぁああ!?」
三郎の能力でどうにか空中に踏み止まるが、そうとうな距離を吹き飛ばされた。
「須美ちゃん・・・・!?」
そして、翼は目を見張る。
目の前に、復活したバーテックスが、結界内に入って来たからだ。
それも一体ではない。
サジタリウス、スコーピオ、ピスケス、キャンサー、カプリコーン、タウラス、レオ。
計七体のバーテックスがそこに立っていた。
さらには星屑も文字通り無数にいる。
ついでにいって、他の者は全員襲撃者やらの相手をしており、援護に来れない。
「僕一人でやれ・・・てか・・・・」
思わず苦笑いを浮かべる翼。
その中に、翼は満開して戦艦に乗る美森の姿を認める。
「須美ちゃん・・・・」
翼は、その表情が、とても暗い事に気付く。
「・・・・・スゥー、ハァー・・・・」
翼は、一度深呼吸をする。
「・・・腹くくるか」
翼は、自分の満開ゲージが満タンだという事を確認し、そして、叫ぶ。
「『満開』ッ!!!」
その瞬間、翼を眩い光が包み、その姿を変化させる。
それは、全てを守る、不朽の楯。
左右に巨大な楯を背負い、翼は敵を見据える。
「止めるよ・・・須美ちゃんッ!!」
翼は、両手のボウガンを構えて、敵軍に突撃する―――。
その戦いを遠くから傍観する者がいた。
「ふぅん・・・まさか壁を壊すだなんて、盲点だったわ」
女性、そして長身。
黒い装束を身に纏い、頭からは、怪しい光を放つ紫色のリングを浮かべ、空中を浮遊していた。
「でもまあ、これで、
女性の顔に、笑みは無い。
「勝手で悪いけど、この世界は一度滅んでもらうわよ・・・」
女性は、激戦区で戦う仲間を見守る。
次回『ゴールデン・ブライト・バリスタ』
それは黄金に輝く、殲滅の弓。