不道千景は勇者である   作:幻在

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ゴールデン・ブライト・バリスタ

「オオオオオッ!!!!」

絶叫する翼。

サジタリウス、レオから放たれる矢や炎弾を楯によって防ぎ、ボウガンで攻撃する。

だがその横からスコーピオがその尾針を翼を串刺しにしようと突いてくる。

「喰らうかッ!!」

翼はそれを楯によって逸らし、右拳を握りしめ、そのままスコーピオへ突っ込む。

「ボルトパンチッ!!」

そのまま強力な一撃をスコーピオの顔面らしき部分に叩き付ける。

スコーピオは、その威力に態勢を崩す。

その翼に向かって、今度はキャンサーが反射板を操作して翼を叩き潰そうとする。

「甘いッ!!」

しかし翼はそれを楯によって一度弾いて、飛び上がって回避する。

そしてすぐさま次の敵へ突っ走る。

「ぐぅ!?」

その途端、タウラスが耐えがたい程の怪音波を発して翼を動きを止めようとするも、すぐさま翼の放った矢によって止められる。

「うるさいんだよ・・・!」

そのまま目の前のカプリコーンへ蹴りを入れる。

そして左手のボウガンをカプリコーンへ向け、連続して射出する。

「うおぉおぉおおおおぉぉぉおおおおッッッ!!!」

絶叫して力の限り連射しまくる。

だが、そこへピスケスが海面から現れ、翼へ突撃してくる。

「ッ!!!」

翼は、カプリコーンから離れてその突撃を回避する。

だが、そこへスコーピオの尾が迫り、薙ぎ払うかのように翼を吹き飛ばす。

「ぐぅッ!?」

ギリギリの所で楯で防いだものの、吹き飛ばされた事には変わりはない。

そこへレオがあらかじめ用意していたいくつかの炎球を翼に向かって一斉に放つ。

「『神屋楯比売』ッ!!!」

叫び、翼の目の前に青白い膜のようなものが出現、それが炎球全てを防ぐ。

「ハア・・・ハア・・・・ッ!!!」

翼の満開稼働時間は、他の者と比べて異常に長い。

翼自身の根気の問題か、あるいは彼の特異な勇者システムの所為か。

それは分からない。だが、翼はまだ一回程度の満開で、バーテックス七体を相手取っている。

ボウガンに力を収束させ放ち、バーテックスに一体を吹き飛ばし、されど他のバーテックスが阻止、あるいは道連れにするかのように横から翼へ攻撃をしてくる。

一言で言って攻めあぐねている。

翼の満開は、他の者とは違い、防御に特化している。

攻撃力も多少強化されたとはいえ、敵を一撃で屠るには至らない。

まさに八方塞がりだ。

だが、それでも翼は戦っている。

 

 

 

その事実が、美森をさらに苦しめていた。

「どう・・・して・・・・」

頭が痛い。声がうるさい。胸が苦しい。

さらに、翼の決死の抵抗。

それらが美森を苦しめていた。

「どうしてこんなに苦しいの・・・・どうしてこんなに辛いの・・・・どうして、翼君を見ていると・・・こんなに胸が切ないの・・・・?」

翼の必死さに、美森の心は痛んでいる。

どうしてかは分からない。それでも、美森は今、とても苦しい。

「やめて・・・やめて・・・・もうそれ以上、私の邪魔をしないで・・・」

自分の中が、ぐずぐずに崩れていくのを感じる。頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで可笑しくなるのを感じる。どうしてこうなる?どうしてそうなる?分からない分からない分からな―――

 

 

『なら、消しちゃえばいい』

 

 

頭の中で響いた声に、美森は、頷いてしまう。

「・・・・そう、よね・・・」

美森は、すでに正常な判断が出来なくなってきている。

世界の真実を知った事によるショック。

友奈への暴言による罪悪感。

そして、翼の奮闘による切望感。

それらが、美森を可笑しくしていた。

美森が、翼にその主砲を向ける。

頭は、相変わらず痛い。

胸も痛い。

「・・・・・お願い・・・・消えて・・・・」

蚊の鳴くような声で、呟いた。

 

「・・・・・助けて・・・」

 

 

 

 

 

「ッ!」

突如として感じた新たな殺気。

それに翼は、すぐさま楯を向けて、その殺気が放った攻撃を防いだ。

「ぐぅ・・・この砲撃は・・!?」

そちらに視線を向けると、こちらに主砲を向けてくる美森の姿があった。

「須美ちゃん・・・!?」

「お願い・・・消えて・・・」

「くッ!」

美森が主砲を乱射してくる。

翼はそれを防ぎながら回避行動に出る。

(とうとう須美ちゃんまで出たか・・・!)

翼は苦虫を噛み潰したかのように顔を歪める。

出来れば、他の敵全てを倒したうえで話をしたかった。

背後から、キャンサーがその体にある(はさみ)を翼に向かって伸ばす。

「ッ!?」

翼は、上に飛び、その鋏が翼を両断するまえに回避する。

だが、そこへ美森の砲撃が飛んでくる。それを、楯によってどうにか防ぐ。

「須美ちゃん・・・・!」

「お願い・・・消えて・・・消えて・・・」

尚も乱射してくる美森。

翼はバーテックスからの攻撃からも回避しなければならない上に美森まで加わるとなると、相当厳しい事になる。

「消えて・・・・消えてよ・・・・」

「くっそぉ・・・・!」

無数に飛んでくるレオとサジタリウスの炎球と矢。

そして、美森の砲弾。

それら全てを回避するのは、至難の業だ。

だが、翼はその全てを避け切っていた。

「お願い・・・お願いだから・・・」

それが、美森をどんどん追い詰めていく。

「もう、消えてよッ!!!」

翼を睨みつけるように顔をあげる美森。

その時、翼は見た。

 

美森が、泣いている事に。

 

「――――ッッ!!」

それに、翼の中で何かのタガが外れた。

(馬鹿か・・・僕は・・・・!)

理屈なんてもう通じない。

 

だが、それなら、偽りなき自分の心をぶつければ良い。

 

かつて、そうしたように。

翼が、彼女に想いの長けをぶつけた時のように。

突如、レオがいきなり標的を翼から美森へと移行した。

「!?」

レオが放った炎球に、翼に集中していた美森は気付かなかった。

「きゃぁああああ!!」

悲鳴をあげる美森。

「須美ちゃぁぁぁぁああんッッ!!」

その瞬間、翼は美森(すみ)に向かって突撃を開始した。

「ッ・・・!?」

精霊のバリアによって防がれたものの、それに気付く美森(すみ)

「やめて、来ないで・・・」

美森(すみ)は、全ての主砲を、翼に向けて、我武者羅に撃ちまくる。

「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!」

その砲弾が、無意識であるにも関わらずに、翼の楯に全て命中する。

だが、それでも翼の楯は壊れない。どれほど強力無慈悲な砲撃を叩き付けられようとも、翼の楯は、絶対に壊れない。

(僕は、誓ったんだ・・・!)

どれほど傷付いても良い。どれほど辛くたって良い。

(何があっても君を守ると・・・・)

どんなに苦しくても、悲しくても。

(何があっても、君の幸せを願い続けると・・・!)

翼は、彼女を、決して悲しませないと―――誰かを失う事で泣かせないと――――

 

(僕は、君だけを愛し続けるって――――)

 

 

「そう誓ったんだぁぁぁぁぁああああぁああああぁああああああッッ!!!!」

 

 

絶叫、そして、とうとう、美森(すみ)の戦艦に到達する。

「ひっ・・・・」

短く、悲鳴が漏れる。

主砲を、全て楯によって弾き、楯から自らを切り離した。

「須美ちゃんッ!!」

美森(すみ)は、ファンネルもどきを、翼に向かわせる。

だが、翼はそれが放たれる前に、それらを掻い潜り、そして、右手を振りかぶる。

「歯ァ、食いしばれぇぇぇええ!!!」

そして、その拳を須美(みもり)の顔面へと叩き付けた。

「あぐ・・・!?」

戦艦の甲板へとその体を叩き付けられた美森。

「う・・・うう・・・・・」

痛い。まだ頭が痛む。胸が苦しい、声が、うるさい。

立ち上がらないと、彼が来る。

彼が来てしまう。

「須美ちゃん」

(ダメ、来ないで)

美森は、必死に立ち上がろうとする。

だが、殴られたせいか立ち上がる事が出来ない。

だが、優しく抱き起され、目を開ければ、そこに、翼の顔があった。

その眼は、真っすぐ美森を見ていた。

「だめ・・・見ないで・・・」

『離れろ』『お前に彼に抱かれる資格なんて無いんだ』『振り払え』

「須美ちゃん」

「呼ばないで・・・・」

『お前は須美じゃない』『何よばれている』『拒絶しろ』

翼は、美森を抱きしめた。

「・・・・抱きしめないで・・・こんな・・・あなたの事を忘れてしまった私なんて・・・・」

『離れろ』『離れろ』『離れろ』『拒絶しろ』『拒め』『振り払え』『遠ざけろ』『今なら隙だらけだ』『撃て』『逃げろ』『失格勇者』『お前が彼の愛を受け取る資格なんてない』――――

 

 

「・・・それでも僕は、君を愛してる」

「・・・・どうして?」

「君の事が好きだから」

「でも、貴方も忘れてしまうかもしれないのよ・・・?」

「そうかもしれない」

翼は、美森の顔を見る。

「それでも、僕はきっと君の所にいって、何度だって同じ事を言うと思う」

「どうしてそう言えるの?」

「どうしてかって?」

翼は、自分の胸に手を当てる。

 

「例え頭では忘れても、(ここ)が覚えているからさ」

 

美森は、その答えの意味が分からなかった。

「どんなに忘れても、思い出はいつだってここにある。だって、僕らが会って、過ごした日常は、確かに存在するんだから」

どれほど忘れても、そこに在ったという事実は変わらない。

どれほど苦しくても、楽しくても、悲しくても、それら全ては、大切な日常であり、過ぎて行った時間。

 

そして人は、それを『思い出』と呼ぶ。

 

伝えたという事実は存在しても、その事を覚えてなければ、意味がないのかもしれない。

だけど、その時抱いた想いだけは、どうしようもない、真実であり、大切な、思い出の一つだ。

だから――――

「だから須美ちゃん。僕は忘れられても、何度だって君に言うんだ。そして、忘れても、何度でも君に言う」

「私は―――」

なおも、何かを言おうとする美森の唇に、翼は強引に自分の唇を重ねる。

 

「僕は、君が好きだ。だから、僕の妻になって欲しい」

 

それはあの日、空に火の花が咲いた日。

六道家の男子として生まれた者が、惚れた女子に向かって言う、()()()()()()()告白。

 

爆炎が、舞う。

それが、翼の『神屋楯比売』によって防がれても、その音は通してしまう。しかし、二人の世界に、その音は届かない。

そして、二人の唇が離れた時、美森は言う。

「・・・・私は、忘れたわ」

「知ってる」

「私は、役立たずだわ」

「それも知ってる」

「私は、この世界を壊そうとしたのよ?」

「そんなの関係無い。まだ取り戻せる」

「・・・・友達にも、酷い事を言うのよ?」

「それが、その人の為だと信じてる」

「・・・そんな私でも、良いの?」

それに、翼は笑みを零す。

「そんな君が好きなんだ」

翼の、何の躊躇いも無い言葉に、美森の心は、形容しがたい何かに満たされ、溢れ出る。

 

もう、抑えられない。

 

「翼君!」

美森は翼の胸に飛び込む。

「苦しいよ!辛いよ!もう訳が分からないよ!何が正しくて何が間違いなのか分からないよ!体の中がぐちゃぐちゃになりそうで、胸が引き裂かれそうで、何かがぐずぐずになって崩れそうで怖いよ!大切なものがどんどん消えていきそうで怖いよ!消えるのが怖いよ!友奈ちゃんが私の事を忘れてしまうのが怖いよ!嫌だよ、もう嫌だよ!誰かが傷ついていくのが嫌で嫌で、でも、消えて欲しく無くて、これが正しいと思っても、頭の中に声が響いてうるさくて痛くて、とてもつらいよ!だから、だから――――――

 

 

 

――――翼君の事で、一杯にして!忘れさせないで!せめて、せめて翼君の事だけは忘れさせないで!」

 

 

 

とめどない程の涙が、両目から溢れ出る。

泣き叫び、力の限り悩みを打ち明けた。

泣いて泣いて、泣き叫んだ。

だが、バーテックスはそんな事をお構いなしに攻撃してくる。

船体が揺れる。

「ッ!私、なんて事を・・・」

美森が、改めて自分がした事の重大さに気付く。

だが、翼は立ち上がる。

「翼君・・・」

「何があろうとも、君を悪人なんかにさせないよ」

翼は微笑み、自分の端末を取り出し、端末を操作する。

(これを使えば、僕は確実に人として生活が出来なくなる・・・・)

変身ボタンをスワイプし、そこに、花のマークの何かしらのゲージを確認する。

その下には、『待機』という文字のボタンがあった。

 

これを押せば、もう後戻りはできない。

 

二年前には、この力は使わなかった。その所為で園子は体の機能の殆どを失ってしまった。そんな自分が、今更この力を使う事はおこがましい限りなのかもしれない。

だが、それでも。

(須美ちゃんの為ならば・・・!)

翼がそのボタンを押そうとした、その時、ふと翼の装束の裾を引っ張られる。

「須美ちゃん・・・・?」

「・・・・どうせ、止めても、貴方は戦うのでしょう・・・」

美森は、立ち上がる。

その眼に、確かな決意を込めて。

「私も戦うわ」

「でも・・・」

「妻は、夫を支えるもの。そして、夫の隣に立つものよ」

「え・・・」

「貴方が言ったんでしょう?」

美森は、恥ずかしそうに頬を赤く染める。

「あ・・・・」

そういえばそうだった。

そう思い出すも、しかし、後悔していない。

「・・・後悔、しないね?」

「友奈ちゃんには、悪いけど」

「・・・そっか」

それを聞き、翼は、端末の画面を見る。

「・・・それじゃあ、行こう!」

「ええ、貴方と、一緒に!」

翼は、ボタンを押す。

すると、『待機』が『起動』へと変わる。

その瞬間、翼の体に変化が現れる。

 

第二ゲージ開放。

攻守反転

武装 『楯』から『弩』へ変更、換装。

精霊障壁、障壁レベルを最低レベルへ、その全てを攻撃へ転用。

性質変更『土居球子』から『伊予島杏』へ。

霊力変更『神屋楯比売』から『金弓箭』へと変更。

超攻撃特化型満開『金弓箭』 起動。

 

 

 

 

 

 

 

 

防御の全てを、攻撃へと移譲し、ありとあらゆる全てを屠り撃ち抜き殲滅し尽す、超攻撃特化型の満開。

 

それが――――翼の本当の奥の手。

 

 

 

「―――『岩盤貫く黄金の弓箭(ゴールデン・ブライト・バリスタ)』ッ!!!」

 

 

 

翼の装束は、全て、白金へと変化する。

さらにその髪でさえも、白く、病的なまでに白くなる。

そして、翼と美森を守っていた楯が消え、代わりに、翼の両手に、巨大なまでの弦無しのボウガンが装着されていた。

それは、まさしく神々しいといえる程に、輝いていた。

「・・・・綺麗・・・」

「そう言われると、ちょっと恥ずかしいかな」

翼は照れたように頬をかいた。

 

 

翼の満開には、ある機能が存在する。

それは自らの全てを攻撃へと転化させる、最大最強の火力を誇る、()()()()()()()()超攻撃特化型殲滅兵装を起動させる事だ。

防御に特化した満開『神屋楯比売』は、攻撃を捨てて敵の攻撃から神樹を守る為に作られた、城塞の役目を持っている。

だが、この満開『金弓箭』は、逆に防御を捨てた完全攻撃一点特化の満開だ。

しかし、これの発動には、()()()()()()()()()()()()必要があるのだ。

前腕にある、巨大ボウガンとの連結部分は、回転が可能で、ボウガンの向きを腕の向きによって上下前後左右をすぐさま切り替える事が可能であり、例え背後を取られても、すぐさま反撃が可能だという事だ。

さらに矢射出部分とは反対側にある推進力装置によって、超高速起動が可能となっている。

威力も当然、全てを滅する破壊力を持っている。

 

 

 

 

 

「すごい・・・・」

「全てを攻撃に回しているからね・・・逆に、防御は全然ないから、用心しないと」

感嘆する美森。

これほどの力があれば、おそらく、敵の殲滅にそれほど時間はかからないだろう。

だけど、それでも美森には譲れないものがある。

(これは、消えてしまった記憶の中の私のものかもしれない。だけど、この想いは、誰がなんといおうと・・・本物よ!)

戦艦の状態を確認し、美森は、敵を見据える。

「・・・・いくよ。須美ちゃん」

「・・・・ええ」

そして、二人は敵バーテックスへと突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の矢が飛来する。

それを槍の一閃で弾き飛ばす。

そのまま園子は根の上を走り、佐奈へと迫る。

だが、佐奈はなおも無数の矢を放つ。

全てが直撃弾であるそれを園子は『縄張』によって全て叩き落し、そのまま佐奈へ上段から槍を振り下ろす。

しかしその一撃はあろうことか躱され、粉塵を巻き起こす。

その一瞬、視界が封じられる中で、殺気を感じた園子は飛び上がる。

その直後に数本の黒い矢が飛来、先ほどまで園子が立っていた場所を抉り、さらなる粉塵を巻き起こす。

だが、園子は上から殺気を感じて顔をあげた。目の前に、佐奈が園子の顔面めがけて左手を開いていた。

「しまッ・・・!?」

そのまま頭を掴まれ、そのまま地面に落ちる。

頭を抑えつけられ、身動きを封じられる。

「あの、男のせいで何人の子どもが死んだァ・・・」

頬になにかが落ちる。

それは涙。

まさに佐奈は、今泣いているのだ。

「あの、男のせいで・・・!」

その表情は憎しみに歪み、目からは涙を流していた。

だが、園子とて、負けられないのだ。

「ぅ・・あ!!」

「!?」

佐奈の胴体を蹴り上げ、自身の頭上へと投げ飛ばしたあと立ち上がり、佐奈に向かって槍の穂先を向ける。

「鴉天狗ッ!!!」

槍の柄が伸び、佐奈に向かって一直線に突き進む。

だが、佐奈はそれを飛んで回避し、槍の上に乗ると恐ろしい速さで園子に接近する。

その左手に、恐ろしい程までに尖った爪を作って。

槍が振れない園子。万事休すか?答えは否。

「ガァアアッ!!」

爪が園子へせまる。

「ハァアッ!!」

だが、園子はあろうこと槍を離し、カウンターで佐奈の腹に逆に蹴りを入れて吹き飛ばす。

「ぐぅあ!?」

吹き飛ばされ、地面を転がる佐奈。

その佐奈へ、元の長さに戻した槍を振りぬく。

「ヤァッ!」

「ぐぅ!?」

追撃の一撃によってさらに吹き飛ばされ、地面に叩付けられて粉塵巻き起こす。

「ハア・・・ハア・・・・」

体力が落ちているが故に、やはり二年前のようにいかない。

精霊十六体を持っているとはいえ、体力の無さはどうしようもない。

「もし供物戻ったら、鍛えなおそうかな・・・」

そうぼやけた時、突如として煙が上に向かって伸びた。

「!?」

それに目を見開く園子。

その、立ち上った煙の中から出てきたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

「まさか・・・・()()()()()()()()()()()()()っていうの!?」

そんな自身の体を壊すような事をすれば、少なくともただでは済まない。

さらに、変形させる度に、恐ろしいまでの激痛が走るはずだ。

彼女は、それすらもいとわないというのか。

 

天上より降り注ぐ裁きの雨(ヘブンズ・カタストロフィ)ッ!!!」

 

さらに、佐奈は上空に向かって矢を放った。

「やばッ・・・・!?」

佐奈を背にして走り出す園子。

それは、真っ黒い矢の雨となって、地上にあるもの全てを破壊するかの如く、降り注ぐ。

樹海の根を屠り、破壊し、砕いていく。

やがてその雨が収まった頃。

その中で、どうにか逃げ切った園子の姿があった。

しかし、避け切れなかったのか、右肩甲骨あたりから血を流し、頬は切れ、体の各所から血によって装束が紅く汚れていく。

「ハア・・・ハア・・・」

さらに息もあがっている。

このまま押し切れれば勝てる。

佐奈は、そう思い、翼を操作して一気に園子へと接近する。

バキバキと骨が折れる音がするが関係無い。

 

 

佐奈の使用している毛皮。

それは、自身の身体能力を強化するだけでなく、自らの体を状況・環境に応じて形態変化させる事が出来るのだ。

だが、その代わりに理性を奪い、凶暴性を増すという欠点も存在する。

さらに、形態変化の際には、まるで無理矢理自らの体を動かしてはいけない方向に動かすような行為をするのと同義であり、変化の際は、全身に激痛がともなう。

 

だが、もはや佐奈の園子の師匠、辰巳に対する憎悪は頂点に達している為に、その自己破壊行動などおかまいなしにやっている。

 

 

 

だからこそ、佐奈は園子を殺す事に全力を注いでいた。

自ら、子供の未来を願う事に矛盾している事に気付いていながら、それに矛盾した行動に乗り出している。

園子は、その突撃を一撃目をバク転で回避。さらに、弓を使わず両手の爪のみで園子を追撃する佐奈。

園子は、片目だけという不利な状況にあっても、決して冷静さを失わずに、回避する。

「ガァアアッ!!」

「ッ!?」

爪の間合いから離れた所で、佐奈が弓を使用。

一気に四本つがえ、放つ。

それを園子は、槍を使って弾き、佐奈を槍の射程にいる事を確認すると、反撃と言わんばかりに槍を振るう。

だが、佐奈はあろうことかその槍の()()()()()()()()、そして左手を振りかぶる。

「―――!?」

射程から離れている。

なのになぜ振りかぶった?

園子の疑問に答えはすぐに出た。

 

振りぬいた佐奈の左腕が()()()

 

「わあ!?」

園子は顔を傾けて、その一撃をかわす。

佐奈は、まさか左腕を形態変化によって伸ばしてきたのだ。

「そんなことまで・・・!?」

「殺す・・・絶対に殺す!」

自らの全てを捨ててまで、自分を殺したいか。

ならば結構。

それならば、こちらも全力で――――叩き潰す。

「ガァアアッ!!」

「対天武術――――」

二度目の伸縮攻撃。

 

それが園子の顔に直撃する瞬間、園子の姿が霞に消えた。

 

「なに・・・!?」

「―――『陽炎』」

突如として佐奈の顎が突き上げられる。

いつのまにか園子が懐に入り込み、蹴り上げたのだ。

さらに。

「『熊倒』」

強烈な張り手が佐奈の腹に入る。

「ぐふ・・・!?」

「ヤァァアッ!!」

佐奈の体に、連続で園子の拳打がつきささる。

計七撃、そして最後の八撃目で、園子は大きく振りかぶる。

「対天武術『正拳』」

文字通りの正拳突きが顔面に入り、吹き飛ばされる佐奈。

だが、そのさなかに矢を放ち、園子の足を貫く。

「ぐぅ!?」

思わず片膝をつく園子。

(やっぱり感が鈍ってる・・・)

足の痛みを我慢して、園子は立ち上がる。

「死ね、乃木園子・・・・!」

「ッ!?」

いつの間にか高台に上がっていたのか。佐奈がすでに切り札の使用準備を終えていた。

「くッ!!」

園子はすぐさま迎撃態勢に入る為に槍を構える。

だが、足が痛い。

「ッゥ―――!?」

まともに踏ん張れない。

すぐに治療を―――

 

「『天上より降り注ぐ裁きの雨(ヘブンズ・カタストロフィ)』」

 

空から、漆黒の死の雨が降り注いでくる。

「くっ・・・!」

園子は全ての精霊を呼び出して、迎撃態勢に入る。

(防ぎきれるか・・・・!)

死の雨が、そのまま降り注ごうとした、その瞬間。

 

 

 

 

どこからともなく()()()()()が降りぬかれ、矢のほとんどを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「なんだと・・!?」

「あれは・・・!?」

それに、驚愕する二人。

「お取込み中のところごめん。そいつアタシにやらせて」

そして、予想外過ぎる乱入者が、二人の間に入る。

「フーミン先輩・・・!?」

「なんとも可笑しなあだ名付けてくれたわね・・・・まあ良いけど」

それは、大剣をかついだ、犬吠埼風だった。

「どうしてここに・・・・」

「あの千景大好きっ子に吹き飛ばされたのよ。そんな事より」

風は、園子と佐奈の間に入り、佐奈に向かって剣を向ける。

「アイツはアタシにやらせて欲しい」

「な・・・・」

その言葉に、園子は動揺を隠せない。

「待ってフーミン先輩、あの人の狙いは・・・!」

「ごめん、やらせて。その代わりに、アンタは樹の所に行ってほしいの。樹が相手してるのは、いくらなんでも相性が悪すぎるから」

本当は今すぐにでも助けに行きたい。

だけど、暗殺者相手に、素人である自分が果たして助けられるのだろうか?

おそらく、無理だろう。

相手は殺す事においてプロの領域にいるだろう。

そんな相手に、自分のような大雑把な者が勝てる訳がない。

だからこそ、風は園子に頼んでいるのだ。

まだ、会って間もない相手なのに、だ。

だが、自分が好きな人の妹の幼馴染であるというのなら、信じるに値する。

翼の話が本当なら、きっと彼女が一番頼れる。

「お願い、いって。こいつはアタシが仕留めるから」

腰を落とす風に、園子は、彼女の覚悟をくみ取る。

「・・・・わかったよ。フーミン先輩」

背を向ける園子。

「・・・ありがと」

「だけど約束して」

園子は、肩越しに、風の背中を見る。

「絶対に、生きて」

「りょーかい。任せなさい!」

当然だ。

せっかくできた恋人と、妹を、置いて逝ける訳がない。

返事を聞いた園子は、安心したかのように笑うと、端末のマップを見ながら飛ぶ。

「待てェ!」

当然、佐奈はその園子を追いかける。

だが、その佐奈の前に風が立ち塞がる。

「行かせないわよ。佐奈」

風は、隻眼で佐奈を睨みつける。

「そこをどけェ!」

「いいえ、どかないわ」

風は、剣を構える。

(佐奈、アンタはどっかで進まずに、戻るべきだったのよ)

一度、暴走した風だからこそ、分かる。

大切な者を奪われた苦しみを、そして、奪った者への憎しみを。

風は、剛や春信によって止められる事によって、正気を取り戻し、戻る事が出来た。

「邪魔をするというなら、お前も―――」

だが、佐奈は違った。

止める人はいた。だけどその人の制止を振り切って、彼女は復讐の道に走った。

彼女は、自分の正義を信じるが故に、進んだのだ。

例え、どれほど堕ちようとも、どれほど捨てようとも、彼女は止まらなかったのだ。

だからこそ、風はそんな彼女を止めたかった。

 

これ以上、堕ちて欲しくないから。

 

(アタシは、樹を思うあまり、周りが見えなくなってた。周りには、ちゃんと相談に乗ってくれる皆がいてくれたのに、アタシは、それすらも忘れて暴走してしまった・・・・だけど、もう踏み外さない)

勝てるかどうかわからない。

生きてるかどうかわからない。

だが、全力で、必死に、醜く、死に抗おう。

(アンタにも、気付かせてあげるわ)

「――――悪いわね」

「――――ッッ!!」

その瞬間、佐奈の弓から、憎悪のこもった矢が放たれた。

それを風は回避し、駆け出す。

「行くわよ、犬神ッ!!鎌鼬ッ!!」

二匹の精霊が、答えるように頷く。

そして、風は強大な敵に突っ込む。

 




次回『昇り咲き乱れる華の如く』


継いだ想いを未来へつなげる為に。
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