不道千景は勇者である   作:幻在

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昇り咲き乱れる華の如く

一方で、こちらは剛と弘の戦い。

「なんでなんだよ!なんでこの世界を守ろうとするんだよ!僕の妹たちを殺したこの世界をどうして守ろうとするんだよこんなろくでもない世界をどうして守ろうとするんだよ!」

「うおぉぁあ!?」

怒涛の剣戟に防戦一方になっている剛。

ついでに何かを言いまくりながら剣を振るってくるので集中できない。

「良いよなお前は妹が生きててさ!だというのにどうして僕の妹は死んだんだ!?どうして妹たちが死ななければならないんだよッ!!お前の妹は生きててどうして僕の妹は死んだんだよ!!」

「だぁああ!うるせえよ!」

剛はハンマーを振るい、弘に距離を取らせる。

「間違ってる!お前は間違ってる!どうして仕返ししないどうしてこんなろくでもない世界を守るんだよ!守っても意味ないのに!どうせこの世界は終わるのにどうして守ろうとするんだよ!」

先ほどから何かを喚いている弘。

それにとてつもないうざさを感じつつ剛は弘を見る。

 

加賀弘。

過去に二人の妹を強盗に殺された過去を持っている。

当時、翼から初めて説明された事では、そう聞いていた。

だが、詳しく調べていくうちに、ある事実が分かった。

 

その強盗は、大赦の役員だったのだ。

 

「大赦がなんで世界を統率してる・・・・あんなろくでなし集団になんで統率されなきゃならない・・・・」

 

当時、大赦は弘にその事を話さなかった。

いつもの秘匿主義だろう。

だが、その情報が、どこから洩れ、弘の耳に入ったのだ。

おそらく、その時からだったのだろうか。

 

彼が、大赦に復讐することを考え始めたのか。

 

「大赦はいっつも僕らを騙してきたじゃないか・・・・まだ幼い子供を幽閉しているのに・・・・どうしてそんな事が許されるんだ・・・・・どうして大赦が絡むと全部許されるんだよ!」

また、斬りかかってくる。

剛は、それを防ぐ。

また、剣の嵐が剛を襲うも、剛はそれすらも防ぐ。

「おかしいんだよ!この世界は!人間は!全部全部おかしいんだよ!神樹が絡めばなんでも許されるなんてありえないんだよ!そんな事が許されて言い訳が無いんだよ!!なんでもかんでも許されるなんてそんな事あって言い訳が無い!言い訳がないんだぁあああ!!」

喚きに喚き散らす弘。

「お前だってそうだろ!妹が死んだ!それも大赦の所為でだ!大赦が勇者なんて奴押し付けなければあんなことにならなかった筈だろ!なのにどうして―――――」

その時、弘の顔面に剛の拳が炸裂した。

「一緒にすんなシスコン野郎」

「ぶべらッ!?」

地面を無様に転がる弘。

「さっきから聞いてればやれ復讐だの仕返しだのおかしいだの。言っておくがな、俺は例え大赦からアンタの妹は勇者のお役目についていて死んじゃいました、なんて言われて怒ったも、わざわざ潰そうなんて思わねえよ」

妹を思うがあまり、周りが見えなくなり、全てを壊そうとしてしまう。

その姿は、風に似ている。

同じ、妹を持つ者。

大切な家族を持つ者。

そう、だからこそ、剛は、弘を止める。

「なんでだよ・・・・・」

「望まねえからだ。道を踏み外す事を、アイツが望む筈がねえ」

「!?」

それに目を見開く弘。

「むしろ、怒りが沸くのは何も出来なかった自分自身だ。アイツは、何も知らない人たちの為に、命を賭して戦ってたのに、俺はのこのこと、その日常を生きてたんだ。妹が痛い思いをして戦ってんのに、俺だけは後ろで何も知らずに生きてたんだ。言い訳なんて聞かねえ。俺は何も出来なかった。妹の為に何もしてやれなかった。それを思うと、大赦なんて二の次なんだよ」

剛は、弘に向かって言う。

「だからもうやめようぜ。お前の妹たちってのは、これを望んだのか?」

弘は、答えない。

それに、剛は焦る事なく、待つ。

数秒の沈黙。

そして、弘は口を開いた。

「・・・・いんだよ」

「ん?」

「もう遅いんだよッ!」

「!?」

突如として弘の体に異変が起きる。

「何が望んでるだよ!何が何も出来なかっただよ!?そんなの()()()()()()()!!」

弘の周囲に、何かが無数に出現する。

「あれは・・・剣ッ!?」

それは、大小形様々な剣。

「望んでいるかだって・・・・そんなの、僕が()()()()からに決まってるだろッ!!!」

その剣が、弘の体に纏わりつく。

まるで、鎧のように。

「壊すと言ったら壊す!妹たちのいない世界なんて生きてても無意味なんだよ!あっても無意味なんだよ!だったら殺した方がマシだ!壊した方がマシだ!全部全部、無くなった方がマシじゃないかぁあぁあああ!!!」

「うお・・・・!?」

弘の周りを浮いていた剣が、全て弘に纏われる。

それはまさしく、剣の魔人だった。

 

「『剣だらけの男(デッドマンズ・ソード)』」

 

恐ろしいまでに大量に纏われた、剣、剣、剣。

それら全てが、弘の体に纏われていた。

さらに、全てが鞘から出ている。いわば、刀身が丸出しの状態でくっついていた。

「コイツ・・・!?」

「まずはお前から殺してやるよ!」

弘が、突撃する。

体に付けられた剣を一本引き抜き、それを剛に向かって振り抜く。

それを剛はハンマーで防ぐ。

だが、突如として弘の肩についていた剣が動き出し、まるで表面を滑る様に剛の顔面に向かって突いてくる。

剛はそれを顔を傾ける事で避ける。

「チッ!」

弘が短く舌打ちする。すぐさま肩の鞘から抜かれた剣を空いている手で引き抜き、すぐさま剛に追撃をしかける。

両手だけでなく、両足、否、体中から斬撃が飛んでくる。

「アハハハハハ!!!手も足も出ないだろうなッ!お前のそのハンマーさえ封じてしまえば、お前なんか怖くないんだよッ!!!」

弘の斬撃が、剛の体にどんどん切り傷を作っていく。

「どうしたどうした!さっきの威勢はどうした!その程度か!無様だな!そのまま斬り刻まれて終わって―――」

「うるせぇよッ!!」

その瞬間、剛が左拳を振りかぶる。

それを待っていたとばかりに体中の剣をまるで針山のような状態にする。

このまま殴れば、

殴られた方はともかく殴られた方もただでは済まない。

下手をすれば、殴った方に大きなダメージがいく。

「ハハハ!これで殴れないだろ!手も足も――――」

 

 

だが、剛はそれすらお構いなしに弘の顔に()()()()()()

 

 

「べぎゃぁ!?」

「お前の言い分はよぉく分かった・・・・だから言わせて貰うぜ」

剛の怒りは、すでに頂点に達していた。

「テメェは兄貴失格だ。一度牢屋に入れクズ野郎がッ!!!」

剛は断言した。

妹の言葉に耳を傾けない奴など、兄を語る資格もない、妹と呼ぶ資格もない。

「クズ・・・だと・・?僕がクズだと・・・!?」

弘が立ち上がる。

その顔を怒りに歪めて。

「クズなのは大赦だ!あんなゴミクズの集まりの方がクズだろ!アイツらの方が・・・・!?」

突如として弘の言葉が止まる。

目の前に眩い光が放たれたからだ。

「・・・・・なんでだよ」

弘は、怒りと驚愕にその身を震わせた。

「どうしてそこまでするんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」

 

それは、『満開』。

 

剛は、躊躇なしに満開を発動したのだ。

「翼から聞いたがよ。満開の代償として体の機能の一部を持っていかれるんだったな・・・」

だが、そんな事関係無い。

 

自分が大好きな少女が消えてしまうなんて、何よりも怖いから。

 

その為なら、自分の体の機能なんて、()()()()だ。

 

「こいよ、失格兄貴。本物の兄貴って奴を見せてやるぜ」

剛はハンマーを構える。

分服茶釜によるブースト。狒々による腕力強化。

そして満開による戦闘能力の大幅アップ。

それに対して弘は剣に対する特別な才能。

体中を様々な剣で覆った、剣山のような鎧。

「ふざ・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁあああぁああああ!!!」

 

剣と力。双方、共に、激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その姿は銀にも見えていた。

「ハハ・・・やっぱ兄貴はすげえなぁ・・・・」

その体は、所々が焦げており、装束も色んな箇所が焦げている。

あまりにも電撃を浴び過ぎた。

「なん・・・で・・・!?」

だが、真斗は驚いていた。

「ハハ、驚いたか?アタシ、これでもウザイ程に体が丈夫だという事に定評のある女だぜ?」

片膝の状態から立ち上がる銀。

落雷を三発、放電を八発、直接電撃を五発、地面伝導電気を十二発、静電気数十回。

数えたらキリがないが、それでも銀は、立ち上がっていた。

「ただまあ、なんだ、お前がまだ全力を出していない、っていうのが原因かな?」

「ッ!?」

「え、まさか図星?それはそれでマジでヤバい気がするんだが・・・」

事実、真斗は自らの力を制限している。

真斗は自らの力の加減の仕方を知らない。故の安全装置だ。

だが、その安全装置が外されれば、まずここら一帯が吹き飛ばされる。

それほどまでに、真斗の力は強すぎるのだ。

しかし制限されているとはいえ、その一撃はビルを一撃で倒壊させる事が可能だ。

だが、そうであっても目の前の少女はものともせずに突っ込んでくる。

そう――――

「オラァッ!!!」

銀の振るった斧が、真斗の肩に、喰い込む。

「ぎゃぁぁぁぁあああああぁああ!!!!」

――――銀は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それも、深く。

「なん・・・で・・・どうしてぇぇええ・・・・!?」

銀は、それに応えるように、片方の斧を真斗に突きつける。

「アタシの使っている勇者システムは、西暦の時代、初代勇者の中で最強の勇者が使っていたものだ。その力が、この勇者システムの中に今も残ってる。その力は、お前の硬い体に傷をつける事が可能だ」

「う・・・・うう・・・・」

「どうする?このまま降参するか?アタシはそれでも良いけどさ」

真斗は、銀に睨まれ、動けなくなる。

精神年齢は、まだ幼い子供のまま。

動けなくなるのは当然の事だ。

(ひとまずコイツはこれぐらいで良いか。あとは兄貴の援護に・・・)

「お・・・」

「?」

ふと、真斗が何かを呟いた。

その後、真斗の体から小さなプラズマが弾ける。

「!?」

銀は反射的に構える。

「お・・・・おがぁざぁぁぁぁぁぁぁぁああんッッ!!!!!」

「うおわ!?」

突如として上空から雷が落ちた。

「ら、落雷・・・・!?それも自分を撃ったァ!?」

突然の事に、困惑する銀。

だが、何か猛烈に嫌な予感がする。

雷によって舞い上がった土煙が収まっていくなか、銀は、空中で何か光が弾けるのを見た。

そして、中に見えたシルエットが、何かを振りかぶっている事も。

「やばッ!?」

「みょるにぃぃぃるぅぅぅぅ!!!」

 

雷鳴が、轟いた。

 

直線状に、雷が走り、その全てを吹き飛ばした。

「デタラメ過ぎんだろ・・・!?」

銀が、その惨状に顔を引き攣らせる。

いくらなんでも桁外れすぎる。

その証拠に銀の骨の右腕が丸焦げになって、その形を崩されている。

「うがぁぁあぁあああぁああああ!!!」

「ッ!?」

さらに、真斗の追撃。

二度目の雷撃。

銀は足に骨を纏わせ、それによって生み出された脚力によって雷撃を回避する。

だが、その一撃も直線状に根や蔓などを吹き飛ばした。

「うがぁあああ!!」

さらに乱射してくる。

「やっべッ!?」

銀は、その猛攻を間一髪で避け続ける。

「うぅぅ・・・」

「やれやれ、それがお前の本気って訳あ。兄貴の時は完全に手加減してやがったなこんちくしょう」

右腕を再構築し、ぐっぱと握ったり開いたりする。

「・・・・しゃあない」

銀は、右手に出した戦斧を地面に突き立てる。

師匠(せんせい)からは使うなって言われてたけど、使わせて貰うぜ」

銀は、目を閉じる。

そして、一度深呼吸をして、再度、覚悟を決め、叫ぶ。

 

 

 

それは天に逆らいし、幻想の魔獣。

 

空を制し、炎を選んだ、力の象徴の一体。

 

神々に牙を剥きし、邪悪なる竜。

 

討たれてもなお、その憎悪を抱き続ける、その竜の名は――――

 

 

「来やがれ、ファブニールッ!!」

 

 

その瞬間、銀の背後に巨大な竜が出現する。

「!?」

真斗は、それに目を見開く。

その竜が、突如その体をバラバラにして、銀の体に纏われていく。

 

それは、初代勇者である足柄辰巳の切り札。

 

邪竜『ファブニール』をその身に鎧として纏い、竜の力を纏って戦う、力。

 

結ばれていた髪がほどけ、長い髪が風になびく。

装束の一部が消え、代わりに鎧が体に纏われる。言っておくが露出の度合いは、二の腕、腹回り、臀部、と、なかなかな露出具合である。他意はない。

二つあった戦斧は、その形を一つにまとめ、一本の武骨な戦斧へと形を変える。

頭部には、竜を模したデザインの鎧が纏われ、顔部分は露出されており、その口元が吊り上がる。

 

 

 

「さあ、やろうぜ」

銀は、戦斧を構えて、真斗を睨み付ける。

「ううぅぅぅがぁぁああぁあああああ!!」

真斗が絶叫し、そのハンマーを振り下ろす。

強力な電撃が放たれる。

銀はあろうことかそれを真正面から迎撃する。

その斧に、竜の生命力を纏わせ、その電撃を霧散させる。

「ッ!?」

「見ときな。これが大橋の勇者、三ノ輪銀様の実力だぁぁぁぁぁあああぁああ!!!」

腰のスラスターから、竜の生命力を放出し、一気に加速する。

そして、銀と真斗が激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁああ!?」

背中から叩きつけられ、悶絶する夏凜。

だが、休んでいる暇は無い。

翔琉が、双剣を振るい、夏凜をさらに追撃する。

「うっあぁぁあああ!!!」

肉眼では捉えられないほどのスピードで振るわれる翔琉の剣技。

その一撃一撃は、速いだけでなく重く、夏凜の刀をどんどんへし折っていく。

その度に、夏凜の体には無数の切り傷が出来ていく。

「こっのォ!!」

そこで夏凜は刀の一本を地面に突き刺す。

次の瞬間、刀が爆発し、夏凜を後方へ吹き飛ばす。

「これで・・・!?」

距離を取る為に爆発された刀。オマケとして翔琉を爆風で吹き飛ばそうとしたのだが、翔琉は()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!?」

「甘いんだよ」

怒涛の連撃。

それを夏凜は後退しながら防御し続ける。

まさに防戦一方。

(つよ・・・・い・・・・!?)

おおよそ一秒五連といった所か。

一秒の間に、計五回の斬撃を翔琉は放っている。

さらに、その一撃一撃が、夏凜の両手による一撃と同等。否、速さも重さもそれ以上。

(どんな鍛え方してんのよコイツは・・・・!?)

また刀がへし折られる。

「くッ・・・!」

あまりにも翔琉の攻撃が激しすぎて、反撃が出来ない。

刀を何度もへし折られ、その度に次の刀を抜くも、その刀もすぐさま折られる。

いくら無限に取り出せるからと言っても、こうも易々とへし折られては、防げるものも防げない。

(何か・・・・丈夫な刀・・・)

出血によって、意識が朦朧としてくる。

「ハアッ!」

「うわ!?」

最後の一撃で吹き飛ばされる夏凜。

たたらを踏んでどうにか踏みとどまり、猛攻が止まったが夏凜は翔琉を睨み付ける。

「・・・・何?もう終わり?大した事ないのね?」

挑発する夏凜。

少なくとも、一分一秒でも、翔琉の意識を友奈から逸らす必要がある。

だから、自らの命を危険に晒しても、その意識を全力で反らさなければならない。

その為に――――

「いや」

 

「―――――え?」

 

「もう終わりだ」

気がついたら、鮮血が宙を舞っていた。

夏凜の体には、いつの間にか深い斬り傷がいくつも出来ており、そこから血が飛び散っていた。

(いつの・・・・まに・・・・)

夏凜の体から力が抜ける。

数歩よろめき、やがて、前のめりに倒れていく。

「貴様のようなザコに、時間を費やした」

翔琉が、夏凜をゴミを見るような眼で一瞥した後、歩き出す。

一方で、夏凜は、ゆっくりと倒れていく。

(こんな・・・・ところ・・・・で・・・・)

ばたり、と夏凜は倒れた。

薄れゆく意識の中、目の前を血だまりが出来ていく。

(つばさ・・・・さま・・・・ゆう・・・・な・・・・・・)

そこで、夏凜の意識は地面に落ちた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兄、三好春信が初めて泣いているのを見たのは、春信が十四歳、アタシが七歳の頃だった。

その日は、兄貴の友人の葬式の日だった。

三好家は、大赦でも下の方に位置する家系であったが、兄貴の才は、他のどの大赦の役員なんかよりも、ずっとずっと優れていた。

どんな事があっても、兄貴は泣き言を言う事は無かったし、涙を流す事も無かった。

本当に、強い人だった。

それに比べて、アタシの才能は、平凡だった。

どれほど頑張っても、天上の存在のような兄に、追いつく事は無かった。

そして弱かった。

犬に咆えられて竦みあがる。

気が弱くて高い所だと泣く。

周囲の視線が怖い。

周囲は、皆、兄貴の事を豪語してくる。兄貴を褒めてくる。兄貴を称えてくる。

その為、アタシはいつも兄貴と比べられてきた。

『お前のお兄さんはすごいんだ』『お前とは違う』『どうしてこんな春信君と同じ事が出来ないんだ』『お前は春信の妹だろ?』『出来損ない』『どうしてこの子は』『劣化コピー』『本当に春信さんの妹なの?』『こんな事も出来ないの?』『春信君には出来たんだぞ』『お前にも出来る筈だ』『血繋がってないんじゃねえの?』

正直に言って、耳を塞ぎたかった。

そして叫びたかった。

アタシは兄貴じゃない。アタシはアタシ、三好夏凜だ、と。

だけど、アタシは弱かった。

まだ幼い子供にとっては、周囲の目は恐怖以外の何者でも無い。

そして、その原因となっていた兄貴も嫌いだった。

だから、いつも自分の部屋に閉じこもっていた。

閉じこもっていれば、何の声も聞こえない。

兄貴を賞賛する声も、自分を蔑む声も。

 

何も、何も、何も―――――

 

 

突如として、扉が蹴破られた。

その時、アタシは恐怖で竦みあがった。

強盗?泥棒?殺人鬼?逃亡犯?

とにかく、怖いものを連想し続けた。

そして、その扉を蹴破った犯人が、兄と気付くまでは、時間はかからなかった。

兄は、部屋の隅で縮こまっているアタシを見つけると、ずかずかと近寄ってきた。

その時、アタシには、兄貴が怖い鬼のように見えた。

もともと、父親譲りか目付きが悪く、口も悪かった兄貴。

兄貴は、アタシの目の前に立った。

怖くて、口が動かなかったのを覚えていた。

そして、兄貴はアタシの前に、何かの袋を突き出した。

 

『まともに食事してねえだろ、喰え』

 

中に入っていたのは――――にぼし。

兄貴は、別ににぼしが大好きという訳じゃなかった。むしろ好きなのはプリンだ。

ただ、あまり大量には食べないアタシを見て、少ない量で充分な栄養を取れるものを持ってきてくれたらしかった。

その時は、ただ茫然としていた。

だが、毎日を過ごしていく中で、兄貴はいつも自分を気にかけてくれた。

『ここ分かんねえのか?』『俺これいらねえからやるわ』『プリンくれてやる』『怪我したのか?来い、手当してやる』『また虐められたのか?どこのどいつだ?』『降りられねえのか?仕方がねえな』『夏凜に咆えてんじゃねえよ犬公がッ!!』『夏凜と俺を一緒にすんな馬鹿』『お前はお前だろうが』『胸張れ胸を』『お前は俺の妹だろうが。自信持て』『見世物じゃねえよ!』

口は悪くても、いつも優しくしてくれた。いつも守ってくれた。

だから思った。

 

どうしてここまでしてくれるのか。

 

どうしてアタシに優しくしてくれるのか。

 

いつまでこうしているのか。

 

これに兄貴はこう答えた。

 

『お前が情けなくて見ていらねえからだ』

 

『俺は他にも同じだぞ?』

 

『お前が一人でも大丈夫になるまで、だな』

 

兄貴は、そう言ってのけた。

だから、強くなろうと思った。

兄貴に心配されように、強くなろうと思った。

犬に咆えられても大丈夫なように、高い所でも泣かない様に、周囲の視線を怖がらない様に。

たくさん頑張った。沢山努力した。

そしていつか、兄貴を超えられるような強い人間になると誓った。

 

 

 

そして、あの日、兄貴の泣き顔を見た。

 

 

 

兄貴は、大赦で何かの御役目についていた事は、知っていた。

それが、どんな内容なのかは知らなかった。

だけど、その御役目の最中に、兄貴と同じ御役目についていた二人の友人が、死んだ。

アタシは、その葬儀に、同席していた。

同じ御役目についていた者の家族として、参加したのだ。

私は、正直言って実感が沸かなかった。

誰かが死んだ。それは分かる。

だが、それで何か想う訳じゃなかった。

ただ、淡々と葬儀を眺めているだけだった。

 

だが、突如として兄貴が泣き崩れた。

 

どうして、何故、俺だけを残して逝ってしまった。

アタシは、ただ茫然とするだけだった。

あの、どんな時でも泣く事の無かった兄貴が、その場で、声を挙げて泣いていた。

うずくまり、泣くだけ泣いて、想いの長けを吐き出し続けていた。

その後の事は、あまり覚えていなかった。

アタシは、兄貴が泣き叫ぶ姿が、あまりにもショックで、茫然とし過ぎていたからなのかもしれない。

 

そして翌年、兄貴は高校にあがるのと同時に、家を出て行った。

 

それからも、アタシは努力し続けた。

兄貴を超える努力をし続けた。

 

そして、その三年と七ヶ月後。

 

大赦から、『勇者』の御役目の為の選抜をすると聞かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――

「アタシは、勇者になった」

葬儀の場にて、夏凜は、春信と対峙していた。

「兄貴は、当然反対していた。だけどアタシはそれを知らずに、勇者の御役目の為に頑張り続けた。兄貴は、先代の勇者して、止める事が出来なかった」

夏凜は、目の前の兄に、そう言い続ける。

「兄貴は知っていた。勇者の御役目の危なさ、満開の代償、勇者の真実。兄貴は、大赦の人間として知っていた」

ただ、それでも、そうであっても。

「・・・知らなかった」

夏凜は、悔しかった。

「兄貴は、いつも完璧だった。テストだって、運動だって、剣術だって、何もかも完璧だった。だけど、それはアタシの勝手な妄想だった。この世に、完璧な人間はいない。だって、そんな奴がいたら、ソイツはもはや人間じゃない。アタシは、心のどこかで、兄貴を人じゃないと思ってた。どんなに手を伸ばしても、届かないと諦めてた。でも、そうじゃない。兄貴だって悲しむし辛い。アタシは、それを知らなかった。知っていれば、兄貴を支える事が出来た。精一杯応援する事が出来た。例え、目標であっても、その人が辛いなら、支えたいと、そう思う筈なの」

自分の胸に手を当てる。

「でも、だからこそ、アタシは兄貴を超えたい。兄貴に出来なかった事を、アタシが成し遂げたい。兄貴がやりたかった事を、アタシは受け継ぎたい。兄貴の想いを、未来へ繋げたい!」

夏凜は、真っ直ぐに春信を見る。

それに春信は、ひとつ溜息を零し、口を開いた。

「・・・・俺は、友達を守れなかった」

「知ってるわ」

「だが、お前なら出来る。俺は、そう信じてる。何せ」

春信は、初めて、自分の妹に笑みを向けた。いつも仏頂面な彼が。

 

「俺の、自慢の妹なんだからな」

 

その瞬間、春信の目の前に、一本の日本刀が出現する。

春信は、鞘に納められているそれを掴み、夏凜の前に差し出す。

「抜けるだろ?」

その問い、夏凜は笑って、当然と返す。

 

「当たり前でしょ。だってアタシは、アンタの自慢の妹なんだから!」

 

それを春信から受け取り、そして、その柄に手をかける。

 

「聞け、夏凜。その力の名前を―――」

 

そして夏凜は、有らん限りの力で、刀を抜き放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、翔琉の背後で、何かが爆発した。

「!?」

それに驚いて振り向き、そして驚愕する。

そこには、煤だらけの白い羽織を、赤い勇者装束の上に着て、立っている夏凜の姿があった。

(馬鹿な・・・!?)

先の連撃で確実に命を絶った筈だ。

だが、夏凜は、立っていた。

 

 

 

 

 

勇者の歴史において、その力を自在に使えたのは、三好春信ただ一人。

 

 

だが、今ここに、その力の担い手が再び現れた。

 

 

 

 

その名は―――――『昇華』。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

翔琉は、ただ夏凜を睨み付けていた。

夏凜の右手には、暴力的なまでに美しい日本刀が握られている。

そして、その身に纏う装束も、上から羽織を着ていた。

何か変わったのか。何が変わったのか。

しかし翔琉にはそこは()()()()()()のだ。

ただ、倒した筈の敵をまた倒さなければならないという面倒くささしかなかった。

翔琉は、戦闘を楽しむ気はさらさらない。

一刻も早く、神樹を殺し、世界を終わらせたいのだ。

 

――――こんな無意味な世界は。

 

 

 

 

 

ふと、そこで夏凜が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「!?」

避けれたのは、もはや奇跡に等しいだろう。

前方へ飛び、夏凜の振るった強靭な一撃を躱す。

しかしその瞬間、翔琉の立っていた地面が一撃で両断された。

「なッ!?」

その威力は、あまりにも()()だった。

刀の力―――()()()()

「昇華――――言葉の意味としては、ある状態から遥か彼方の可能性まで飛躍する事を指すみたいだけど、この力を使用する点で、その意味は、少し違ってくる」

夏凜は言う。

「これは、アタシの使う『鬼気・修羅領域』に似ているわ。だけど、全く持って違う。これは()()。莫大な勇者の力を、一本の刀と体に押し込めて圧縮し、その力を限定的に開放する事で通常の数倍の力を発揮させる力よ」

 

力の圧縮。

 

自身にある神の力の全てを圧縮し、それを限定的に開放する。

言葉だけを聞けば、それほどすごくはないように聞こえるが、実は違う。

水鉄砲の穴が、小さければ小さいほど、水がよく飛ぶのと同じ。

つまり、発揮させる力の穴を小さくすれば、その力は穴以外の所で圧縮され、その穴から爆発的なエネルギーとなって放出される。

 

しかし、体の中に莫大な力を圧縮するという事は、その器が無事で済む話なのだろうか?

 

 

 

答えは、否。

 

 

今まで、この機能を使用して()()()()()()()()()()()()()()()()

 

唯一、春信だけが()()で使えたのだ。

 

 

それは、かつて春信の師であった辰巳が推測するに、三好の家系の持つ、ある特性が関係していた。

 

 

それは――――

 

「覚悟しなさい、八神翔琉。今アンタの目の前にいるのは、正真正銘の『鬼』と呼ばれた三好春信が妹、三好夏凜よ。そう簡単に友奈の所に行けるとは想わない事ね」

夏凜は、笑わずに告げる。

「そうか」

だが、翔琉はくだらなそうに吐き捨て、()()の力で斬りかかる。

その速度は、恐ろしい程に速かった。

コンマ一秒に迫る程のスピード、肉眼では捉えられない程の速さで、夏凜と距離を詰めたのだ。

夏凜は、反応していない。

左の剣による水平斬り。直撃は必至。

(どんなにパワーアップしようが、俺には勝てない)

そう、その自信は確かにあった。

 

だが、次の瞬間、夏凜はその場で後ろ宙返りをして回避した。

 

()()()()()()

 

「なッ!?」

「・・・・遅い」

瞬間、翔琉は猛烈に嫌な予感を感じて、左脇に右手の剣を掲げた。

その直後に重い衝撃が走った。

「ぐぅあ!?」

翔琉は思いっきり吹き飛ばされ、樹海の根に叩きつけられる。

「がは・・・!?」

あり得ない程の反応速度、そして、自分を吹き飛ばす程の膂力。

それは、もう人間の領域を超えていた。

「三好家、というか、アタシたち三好兄妹の特性かしら?とある極限状態に落ちた時、全ての全神経、全感覚が異常なほどに研ぎ澄まされるらしいけど、なるほどね。そういう事」

夏凜は、脱力した。

完全な無防備な状態。

まるで、相手を挑発しているかのように。

「・・・チッ」

翔琉は、そのあからさまな誘いに乗っかった。

肉眼では捉えられない程のスピード。

地面を踏み砕き、夏凜に一瞬で迫る。

確実に直撃する距離と速度と角度。

夏凜は反応していない。

直撃は必至。

そう、その筈だ。

(なのになぜ―――――()()()()()!?)

 

夏凜は、翔琉の背後に立っていた。

 

夏凜の蹴りが翔琉の背中に叩き込まれる。

「グハァ!?」

「これが・・・私の、三好兄妹(私たち)の力よ」

全神経の極限突破、それによって引き起こされる、()()()()

感覚神経のみならず、運動神経でさえも強化された状態。

それが、彼女の体質。

 

無意識化でありとあらゆる行動を起こせるようになる状態。

 

 

その名は、『鬼気・極限羅刹』

 

 

 

 

翔琉が立ち上がる。

「貴様・・・!」

翔琉は、その両手の剣を握りしめる。

夏凜は、その手に持つ刀を両手で握りしめる。

 

 

 

「我が名は三好夏凜。先々代勇者、三好春信が妹。いざ尋常に勝負ッ!!!」

 

かくして、各々の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして、そこに一人の少女はいた。

 

『風が暴走・・・?」

『急がないと!』

 

信頼する、先輩の暴走。

 

『え?勇者システムの正体と満開の代償?』

『この際だから言わせて貰うよ』

 

勇者システムの本当の姿、そして、満開の代償。

 

『友奈ちゃんは、勇者じゃない』

 

そして、世界の真実と、友からの辛辣な言葉。

 

「・・・・もう、嫌だ」

 

 

少女は、全てから目を逸らし、耳を塞いでいた。




次回『慟哭』

獣は泣く。一人は憎しみに、一人は知らない優しさに。
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