不道千景は勇者である   作:幻在

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慟哭

地面は穿たれ、大地は崩され、そこは、一面更地となっていた。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・・ッ!!」

だが、ボロボロになり、血まみれになろうとも、それでも、犬吠埼風は諦めない。

矢が飛来する。

風は、痛む体に鞭を撃って、防御の構えに移る。

だが、その圧倒的威力に、風はいとも容易く吹き飛ばされる。

「アアアア!?」

そのまま落下し、背中から叩きつけられる。

しかして風は立ち上がる。

「諦めろ」

そんな風に、声をかけるものが一人。

「お前に勝ち目はない。大人しく、そこで倒れていろ」

禍々しい姿で、こちらを見下す佐奈。

だが、風はそんな佐奈に対して、軽く笑い飛ばす。

「ははっ、諦めろ。ですって?そんなの冗談じゃないわよ」

立ち上がる風。

そして、大剣を佐奈に向ける。

「アタシは何があってもこの世界を守る。その為に、そう簡単に諦めてたまるかっての!」

走り出す風。

それに対して、佐奈は矢を複数放つ。

直撃弾を、風は大剣を使ってどうにか弾き、佐奈へ接近する。

もう何度目になるか分からない突撃。

「ハァァアアッ!!」

「ッ!?」

だが、今度は風は大剣を巨大化させて、それを巨大化させると共に佐奈の方向へ突く。

だが、佐奈はそれをいともたやすく躱すと、そのまま大剣の上を走って風に接近すると、風に強烈な蹴りを入れて、吹き飛ばす。

「アァァァァアアッ!!?」

地面を転がり、でっぱりに跳ねられ、地面に伏す。

「ぐ・・・ぅうう・・・!?」

胸に入った一撃で、軽く吐血する風。

その間に、佐奈は歩いてくる。

「・・・・何故だ・・・」

「・・・・?」

「何故、お前たちはこうまでして抗おうとする?この世界は終わってる。どれほど戦おうとも、お前たちに、この世界に未来はないというのに・・・・!」

風は、ここから見える、壁に開けられた穴を見る。

そこから溢れ出てくる小さなバーテックス。そして、その穴の奥に見える、炎。

「・・・・そう、かも・・・しれないわね」

風は、地面に手をつき、ぐぐっと力を入れる。

「けど・・・さ・・・もし、いつかこの戦いを終わらせられたら、それはやっぱ、すごい事なんじゃないのかしら?」

体はボロボロ、だけどまだ動く。

「それに、アタシは怖い。アタシの作った勇者部が、部員たちが、死んじゃうところを見るのが怖い。友奈が死ぬ、東郷が死ぬ、千景が死ぬ、翼が死ぬ、夏凜が死ぬ、銀が死ぬ、乃木が死ぬ・・・そして、樹と剛が、死ぬ。それが堪らなく怖い。だからアタシは・・・・」

剣は、先ほど佐奈に蹴とばされた事で手放してしまった。

だけど、剣がなかろうと、まだこの拳がある。

「戦う。どんな事を言われようとも、アタシは戦い続けるッ!!!」

地面を蹴り、佐奈に殴りかかる。

「・・・・・そうか」

拳を振り上げた。その直後。

腹に重い衝撃が走る。

口から、血が吐き出される。

「げほッ!?」

「なら死ね」

吹き飛ばされる事なく、その場で数歩よろよろとする風。

「あ・・・ァ・・・」

「ふん」

「ぐあ!?」

背中にさらに蹴りを入れられ、吹き飛ぶ風。

地面を転がり、さらに血を吐き出す。

「げほッ・・・・ごほッ・・・・」

どうにか立ち上がろうとする風。

だが、そんな風の顔面に容赦無く蹴りを入れる佐奈。

蹴り上げられ、大きく仰け反る風。

さらにその腹にもう一発蹴りを入れられ、体をくの字に折れ、膝が地面から浮く。

「死ね」

今度は拳が―――爪が突き立てられた。

「アァ――――!?」

「死ね」

そこから、拳が風を襲う。

「死ね、死ね死ね死ねシネ死ネシねしねシネシね死ね死ネしネ死ねシネシねしね死ネ死ね――――――」

何度も殴られ、その度に意識が途切れ、鈍痛が体中を襲う。

最後に、顔面に強烈な一撃を入れられ、また吹き飛ばされる。

声をあげる事も出来ず、無様に地面を転がる。

「う・・・ぅあ・・・・」

それでも、風は立ち上がろうとする。

地面を見ている視界の中、流れ落ちる血で血だまりが出来ている中、ばさり、と黒い何かが落ちた。

「あ・・・・・」

それは、紐の部分が千切れた風の眼帯。

「ハハ・・・・結構気に入ってたのに・・・・?」

ふと、そこで、ぎりり、という音がした。

何か顔をあげた瞬間、目の前に黒い矢が飛来してきた。

急激にスローになった視界の中、風はふと、思った。

 

(ああ、これ、走馬灯みたいなものか)

 

人は死に際、視界が物凄く遅くなると聞く。

きっと、これが、そうなのだろう。

 

自分は、死ぬ直前なのだろう。

 

だが、それでも、この矢は確実に自分の頭を貫く。

回避は、間に合わない。

(ハハ・・・・アタシ、死ぬんだ)

その中で、風は少しだけ悔しがった。

 

妹と、せっかく出来た恋人を置いて逝っちゃうなんて、なんて格好悪いんだろう、と。

 

そのまま、その黒い矢が、風を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として、矢の軌道が急激に逸れたのだ。

 

「・・・・え」

その矢は、風の顔面のすぐ横を素通りして、背後の蔓を大きく穿った。

「何・・・!?」

佐奈は、その光景に目を疑った。

そして、風の目の前には、犬神がいた。

「・・・・犬神・・・・?」

風は、茫然とした状態で、その名を呼んだ。

犬神は、一度風を見た。

だが、その直後に黒い矢がまた飛来する。

その矢は、まっすぐ風を狙っていた、

しかし、その矢は犬神が立ち塞がる事で、軌道を変えて風の横を通り過ぎていく。

「・・・・・どこまでもどこまでも・・・・」

佐奈の声に、深い憎悪が込められる。

「そこまで現世に留めたいかッ!!神樹ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううううッッ!!!」

佐奈が、渾身の力を込めて、矢を何度も放つ。

「犬神・・・まさか・・・!?」

 

犬神の姿が、透けてきている。

 

おそらく、犬神自身が、その身を削って風を守っているのだ。

通常よりも、強力な障壁を張って、風を守っているのだ。

 

自分が、どんな事になろうとも、風を全力で守っているのだ。

 

それはきっと、神樹の意思ではない。

「犬神・・・アンタ馬鹿よ・・・」

その姿に、風は思わず笑みを零す。

「消エロ」

「ッ!?」

いつの間にか、佐奈が目の前にいた。

そのまま障壁を突き破って、犬神を蹴り飛ばす気なのだ。

「犬神ッ!!」

それを直感的に感じた風は、思わず犬神に抱き着き、佐奈の蹴りをその身に受ける。

「アァアァアアッ!?」

キツイ鈍痛。そして、蹴られた右の二の腕が、軋む音が響く。

蹴りを喰らって吹き飛び、その身を地面に擦りつけ、伏す。

「いぬ・・・がみ・・・・」

腕の中の犬神が、心配そうにこちらを見上げてくる。

「良かった・・・怪我はないわね・・・・わっ」

犬神が、風の顔を舐める。

「アハハ、くすぐったいっての・・・」

「何故だ・・・・」

佐奈が、こちらに歩み寄ってくる。

「何故守る・・・何故そんなものを守る・・・・」

風は、上半身を起こし、犬神を守る様に抱きしめる。

「アンタには分からないでしょうね。例え、犬神が神樹が差し向けたシステムの一部であろうと、こいつらと過ごした日々は、楽しいものだった。こいつらにも心はあるのよ。そして、大事な、大事なアタシのパートナーなの」

風は、佐奈を睨み付け、叫ぶ。

「それが分からないようなアンタに、何故と言われたくないわねッ!!」

風の言葉に、佐奈はその顔を大きくゆがめる。

「何故だ・・・何故お前たちはソコマでして抗おうとするンダ・・・そこマデして、この未来の無イ世界を守ろウとスルンだ・・・・!」

だんだんと可笑しくなっていってる。

(早急に止めないとまずいわね・・・)

佐奈の使っている力の危険性を直感で感じ取り、風は大剣をその手に持ち構える。

だが。

「ドウシテ・・・・ドウシテナンダァァァァアアアァァァァァァアアアアアッ!!!」

 

刹那、目の前に無数の矢が飛来してきた。

 

反応する間も無く、風はその無数の矢を受け、吹き飛ばされる。

 

痛みに叫ぶ暇すらも、無い。

 

 

「―――――ゥ――――ァ――――」

気がつけば、体中は鋭い痛みに覆われていた。

視界には、こちらを心配そうに覗き込んでくる、犬神の姿があった。

「ぃ・・・・ぬ・・・が・・・・みぃ・・・・」

どうにか動く右手で、犬神を撫でる。

犬神は、その手にその体をなすりつけてくる。

そして、体の惨状に目を移す。

思った以上に、体に穴は空いていない。

おそらく、犬神が渾身の力で障壁を張り、だいたいの矢を逸らしたか防いだのだろう。

だが、それでも脇腹や肩をやられており、出血も激しい。

(これ・・・は・・・・)

流石にまずい。

目の前には、不安定な足取りでこちらに歩いてくる佐奈の姿が見えた。

佐奈は、その口から何かを呪詛のように吐き続けている。

まるで、死神のように、こちらに歩いてくる。

(どうしよ・・・・流石に・・・・これじゃあ・・・・)

怖い。

今更ながら、とても怖い。

死ぬ事に対してではない。

樹を一人にしてしまう事。

剛に会えなくなる事。

勇者部が、消えてしまうかもしれない事。

それら全てが怖い。

怖くて怖くて、死にたくない。

離れてしまう事が、怖い。

 

もう、死に体の状態でも、風は、体を動かそうとする。

 

満身創痍だろうが、風は、醜く抗う。

死にたくない。離れたくない。会えなくなるなんて嫌だ。

それだけの執念が、風を突き動かす。

「――――ゥ―――――ァ―――――ァァ―――――」

右腕を、どうにか、動かし、その手にある大剣を握りしめる。

腕と腹筋に力を込め、起き上がろうとする。

だけど、起き上がれない。

必至に力を入れても、起き上がれない。

立てない。

(ア・・タシ・・・は・・・しね・・・ない・・・!)

どうにか動く左手を、天に向かって伸ばす。

 

 

 

ねえ、神様、聞いてる?もし、願いが叶うなら―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――アタシに、戦う力をください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――面白い、その願い、聞き届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、佐奈は、吹き飛ばされた。

「ッ!?」

それに驚愕し、佐奈は、目を見開く。

そこに立っているのは一人の少女。

黄色の髪をなびかせ、その装束を、明らかに別物へと変えていた。

 

犬のような三角耳。柴犬のような犬の尻尾。

 

靴は消え、代わりに犬のような毛むくじゃらの足に変わり、手にも犬のような毛が生えて、爪が伸ばされていた。

 

装束も、変わっている。

 

(これ・・・は・・・・!?)

それに、佐奈は見覚えがあった。

 

かつて、紅い装束を着ていた少年が使った、七人に分身する力。

 

それとは、能力的には違うものだろう。だが、本質的には、全く同じ。

「まさ・・・・か・・・・」

傷は、いつの間にか治っていた。

だが、今はそんな事どうでも良い。

戦える、立ち上がれる。

この剣を振るえる。

身を深く鎮める風。

そして、次の瞬間、佐奈の眼前へと飛び出す。

ほんの一瞬、その間に、佐奈の目の前へと迫ってきていた。

「なッ!?」

「グルァッ!!」

剣を薙ぎ、佐奈を吹き飛ばす。

「グゥッ!?」

「ガァァァァアアアァアアアッッ!!」

風は、さらに佐奈に襲い掛かる。

「チィッ!!」

佐奈は矢を放ち、風を迎撃する。

だが、あろうことが風はそれを()()()

「な!?」

「ガルァッ!」

剣を上段から振り下ろす。

佐奈は、それをあろうことか下がって回避する。

「グルルルル・・・」

まるで獣、詳しくいって犬だ。

その姿は、餓えた犬のようだった。

 

だいたいの読者の方々が気付いていると思うが、これは以前、千景が使っていた『切り札』そのものだ。

 

一見、犬神というものはそれほど恐ろしい妖怪には見えないだろうが、実は妖怪ではなく呪い。

 

『犬神憑き』と呼ばれるものだ。

 

飢餓状態の犬の首を斬り落とし、それを辻道に埋め、その上を行き来する人々を利用して怨念を強くしていき、そしてその亡骸を利用して行うものだ。

 

だがしかし、それが精霊として現れた訳だが、今、風が行った『犬神憑き』は、犬の嗅覚、聴覚、身体能力を大幅に向上させるものだ。

 

しかし、如何せん、その特筆すべき『速さ』は、風の()()()動体視力ではその速さについていけない。

 

だが、風はその速さについてきていた。

 

 

 

 

そこで佐奈は、風の顔を見た。

その両目から、涙が流れていた。

それに首を傾げる佐奈。

だが、風はその左手を胸にあてた。

 

 

 

 

 

溢れてくる。

 

 

 

 

 

犬神が見てきたもの。

 

犬神が感じてきたのも。

 

犬神の想いが、気持ちが、初めから、今この瞬間まで。

 

 

全部全部溢れてくる。

 

 

 

「・・・・知らなかった」

温かい。とても、温かい。

まるで、心が満たされていくように、そして、まだ足りないあのように。

犬神が感じ、抱いた気持ちが、風の心に流れ込んできていた。

「犬神・・・アンタ・・・・今まで・・・・・」

精霊は喋る事が出来ない。だから、その心意を知らなかった。

だが、犬神を憑依させた風だからこそ、犬神の心を知れた。

 

犬神は風が好きだった。

 

普段とは異質なものである事による不安。だけど風は、そんな自分にいつも優しくしてくれた。毛並みを褒めてくれた。そんな、母のような優しさを持つ風が好きだった。

 

だからこそ、悲しかった。

 

風の暴走。それの原因の中に、自分がいること。

道を踏み外してしまう事。

大事なものを、失わせてしまう事。

直接的な干渉を、神樹から禁じられ、止める事が出来なかった。

それが、たまらなく悔しかった。

人の暴走は、人にしか止められない。

その事実が、とても悔しかった。

「・・・・ごめんね、アンタの事、何も分かってやれなくて」

自分の体の中にいる犬神に、そう優しく語り掛け、風は、『眼』の調子を確認する。

(すごいわね・・・・)

 

 

見える。

 

 

佐奈が矢を取り出し、それをつがえ、放つまでの一動作。

そのたった0().()5()()()で行われているその動作を正確に見極められ、かつ、どこを狙っているのか、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()

風は、頭の位置を動かし、その矢を軽く避ける。

それに佐奈が眼を見開いている事も、見える。

 

これが、与えられた眼。

 

異常なほどに強化された、動体視力。それが、今の風の()()だ。

風は、その口角を吊り上げ、姿勢を低くし、左手を地面について、犬のような姿勢になる。

「・・・・行くわよ、犬神」

心の中で、力強く返事してくれたのを感じた。

風は、その双眸を()()()()()()、地面を蹴る。

その速度は、おおよそ人間のそれを超えている。

それに、佐奈も反応し、迎撃に突撃してくる。

 

その速度は、互角。

 

佐奈が矢を放ち、風がそれを弾く。

それのすぐ後、風が剣を横に薙ぐ。

佐奈はそれを飛んで回避、風の上空で矢を放つ、風はそれを体の向きを変えて下がって回避、飛び上がって佐奈を追撃、佐奈は迎撃にさらに矢を放つ、風はそれを全てを弾き佐奈の上を取り、剣を振り下ろす、佐奈はそれを両足を使いその一撃を受け、地面に向かって斜めに落下、地面に直撃、しかし転がって衝撃を逃がし、着地、佐奈は矢を放たず飛んで風に飛びかかる、右手で手刀を作り、風に向かって突く、風はそれを左手で掴み阻止、右手の大剣を縮小、小刀サイズにして佐奈に突き刺そうとするが佐奈の左手によって阻止、二人は佐奈が突進の際の威力によって一瞬浮くも、そのまま落下していく。

「グゥ・・・!!」

「ウゥ・・・!!」

落下していくなか、完全に拮抗した力の中でどうにか相手に刃を突き立てようともがく二人。

だが、そのまま落下する。

土埃を舞い上がらせ、その中で距離を取り合う二人。

「「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」」

互いに息をあげている。

だが、すぐさま二人はまた突撃を再開。

恐ろしい速度で繰り広げられる攻防戦。

風は、剣という間合いで圧倒的不利の武器を持っている中で、どうにか佐奈に追いすがり、その大剣をあり得ない速度で振るう。

対して佐奈は近付かれてしまえば不利になってしまう武器である弓をひきいても、持ち前の格闘技術によって近接戦を克服している。

一見、互角のように見えるが、僅かにでも、佐奈が押している。

大剣というリーチも長く、小回りの利かない武器では、佐奈の俊敏な動きについていけないのだ。

さらに、懐に踏み込まれれば、大剣を上手く振れない。

そうこうしている内に、佐奈が風の懐に入ってくる。

これでは剣を振るえない。だが、それでも反撃手段が無い訳では無い。

 

 

 

剣が振るえないなら拳を振るえば良い。

 

 

 

そう思った瞬間、佐奈の顔面に風の拳が突き刺さる。

「がは・・・!?」

「ガァァァアッ!!!」

さらに大剣を放り投げ、右手でさらに佐奈を殴り飛ばす風。

「グゥアッ!?」

「グルァッ!!」

まだ風の追撃は続く。だが、それで佐奈が黙る訳が無い。

すぐさま佐奈が拳を振るい、風の顔面を捉える。

「グア・・・!?」

「グルゥッ!!」

さらにもう片方の拳が風の顔面を追撃する。

しかし()()()殴られた。

「ゴハッ!?」

「ゲフッ!?」

クロスカウンターのように、互いの顔面を殴り飛ばす。

しかし、二人は踏み止まり、もう我武者羅に互いを殴りまくる。

「「ガァァァァァァアアアアアァアアアアァアアァアアアアァアアアアッッ!!!!」」

もはやルールもアドバンテージも糞も無い。

待った無しの拳の応酬。

互いの体にどれほどの痣が出来ようとも、二人は拳を振るうのをやめない。

やがて、もう何度目になるか分からないクロスカウンターが入ったところで、佐奈が、飛び上がって高台に上る。

「!?」

 

「天上に住まう神々に願い奉る―――」

 

その矢には、禍々しい程の力が込められている。

 

「地上の全ての罪を打ち払い、鉄槌を下すため――――」

 

風は、すぐさまその手に大剣を掴む。

 

「裁きの雨を降らせ給え――――ッッ!!!」

 

そして、佐奈は天に向かってその矢を放つ。

 

 

天上より降り注ぐ裁きの雨(ヘブンズ・カタストロフィ)ッ!!!」

 

その瞬間、空から、無数の矢の雨が降り注ぐ。

その中を、風はあろうことか佐奈に向かって走り出した。

「オォォォォォォォォォオオオオオオォォォォォォオオオォォオオオォオオオオオオオッッッ!!!!」

叫び、空から文字通り振ってくる矢を、黄金の双眸をもって見切る。

全ては防げない。

だが、あそこにいる奴に届けば、それで良い。

ただ、一撃を入れる。

降り注ぐ矢を、弾き叩き落す。

防ぎきれず体を穿つものもある。だが、それでも風は獰猛に、貪欲に、目の前の獲物に向かって、飛び上がる。

体にいくつもの矢が突き刺さるも、関係無い。

「佐奈ァァァァアアアアァアアアァアアアアァアアアアアァアアアアアアァァアァァァァァアアアアッッ!!!!!!!!」

そして、風は、佐奈に届いた。

そのまま二人は、地面に向かって落ち、風は佐奈を地面に叩きつけた。

地面に倒れ伏す佐奈を抱き起す風。

それと同時に、二人の纏っていた力が解ける。

「・・・・・私は、どうすればよかったんだ・・・・」

ふと、佐奈が呟いた。

「知っていたさ・・・・足柄辰巳が、三百年生きていて、長生きしている分、大切な誰かに置いて逝かれ続けている事に・・・・そして、彼自身が、勇者だった事も。だけど、それでも、赦せなかったんだ・・・・」

沢山の子供が死んでいく現実。子供しかなれない勇者。そしてその子供を選定する神樹。その子供たちを死地へ向かわせる、辰巳。

その全てが赦せなかった。

だから抗おうとした。

全ての子供たちを救う為に、神樹を殺し、全ての子供たちが救われる世界を作ろうと思った。

だが。

「それでは、この世界の子供たちが死んでしまう。だから、分からなかった。何が正しくて、何が間違いなのか。もし、子供たちを戦わせる事が正しくて、戦わせない事が間違いだったのなら・・・私は、どうすれば良かったんだ・・・?」

佐奈の眼から、涙が零れ落ちる。

それを、風は拭い、言う。

「・・・結局、何が正しいかなんて、誰にも分からないわよ。だけど、誰かを見捨てる事が正義なんて、そんなもの糞喰らえだわ。それに、世界を壊す事だって、繋いできた何かを断ち切ってしまう。だから結局、正しい事なんて何もない。だけどさ、それでも、その願いを掲げる事は、決して間違いじゃない。ただ、やり方が、誰かを傷付けてしまうものだっただけ」

「・・・・・私は、あの人の期待さえも裏切ってしまった。いつも邪険にしていたのに、めげずに話しかけてくるあの人を、私は裏切ってしまった。私は、もう、あの人の前には・・・・」

「謝ればいいじゃない。その人の事が好きなら、謝って、一からまたやり直せばいいわよ」

「・・・・士道は、赦してくれるだろうか・・・・?」

「きっと・・・赦してくれるわ・・・」

それを聞いた佐奈は、ほっと安心した様に息を吐き、やがて、目を閉じる。

「そう・・・か・・・・・そう・・・だと・・・いい・・・・な・・・・・・」

佐奈の体から力が抜ける。

口からは、規則正しい呼吸が感じられる。

どうやら、気絶しているだけのようだ。

風は、そんな佐奈を寝転がらせ、立ち上がる。

「・・・・しっかり休んでなさい」

そう告げ、飛ぼうとした時、不意に足から力が抜ける。

「あれ・・・?」

そのままばたりと地面に倒れてしまった。

(ま・・・ず・・・・安心したら、力が・・・・)

そのまま、風の意識は闇に堕ちた。

 

 

 

 

 

ひとまず、風と佐奈の戦いは、風が勝利を修めた。

 

 

 

しかし、その間にも、他の場所での戦いは続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血が、滴る。

体中には、決して浅くない切り傷がつけられており、そこから血が流れ出る。

「アハハ!アハハ!まだ声上げないんだ?結構頑固だね?」

方向の分からない声。

それに樹は思わず周囲を探してしまう。

だが、その間に、全く別の方向から美紀は襲い掛かり、その華奢な体に新たな傷を増やす。

「ッ―――!!」

痛みに声をあげたいが、すでに声を満開の代償によって失っているために、上げる事は出来ない。

それに、失血も激しい。

意識を、保つのも難しい。

助けを呼ぼうにも、声を出せないなら無理だ。

だが、そんな助けを呼べない、絶望的状況の中であっても、樹は諦めない。

ついてしまった膝を懸命に伸ばし、立ち上がろうとする。

「まだアソンデくれるの?嬉しいな~」

キャッキャッと嬉しがる声が聞こえる。

どうにかしなければ。

しかしそう思うも、失血によって脳が回らず、まともな考えが出来ない。

視界がくらむ、バランスが取れない、力が入らない。

(お・・ねえ・・・ちゃ・・・)

「でもそろそろ飽きちゃった」

ふと美紀がそのように呟いた。

「―――もう良いよ、オネエサン」

瞬間、美紀が()()()()首を狙いにきた。

そのまま一直線に、愚直なまでに一直線なその一撃は、確実に樹の首を狙っていた。

樹は、それに気付かない。

そのまま、美紀の持つナイフが、樹の首を斬る―――――

 

 

「そうはさせないよ」

 

 

――――ということは起こらず、何者かが美紀のナイフを弾き、突進を阻止した。

「きゃあ!?」

突然の事に驚きながらも、すぐさま影に隠れる美紀。

次の瞬間、樹の傷が急激に治っていく。

「・・・!?」

「よく頑張ったね。偉い偉い」

それに驚く樹を他所に、樹の頭を撫でるその人物。

樹がその人物の方を見ると、そこには金紗の髪をなびかせ、体に包帯を巻いた少女が立っていた。

「!」

樹は、その少女に驚く。

何故ここに彼女・・・乃木園子がいるのか。

「貴方のお姉さんに頼まれて、貴方を助けに来たんだ」

(お姉ちゃんが・・・)

それにも驚く樹。

「さて、そろそろ戦いを再開しようか」

園子は、槍を構える。

「背中合わせに。そうすれば貴方でも対応できる筈だよ」

樹は、慌てて園子と背中合わせになる。

「大丈夫。貴方ならきっと対応できる。音を聞くのは得意でしょ?」

そう言われ、樹は耳を澄ましてみる。

「眼を閉じないで、だけど、意識は耳に。聞くのは、足音じゃない。空気が揺れる時に聞こえる音を感じて。心を落ち着かせて。静かに、静かに聞くの」

そう言われ、樹は言われた通り、足音ではなく、空気の流れを感じる事に専念する。

静寂の中、敵の気配は全くしない。

だけど、樹は耳を澄ませる。

目の前の景色から目を逸らさず、ただ音を拾う事に専念する。

 

 

 

 

その時、僅かに聞こえた『空気の音』を聞き取った。

 

 

 

 

「ッ!!」

その瞬間、樹はワイヤーを伸ばし、敵の突っ込んでくる軌道上にワイヤーを張る。

「えッ!?」

そして、見えた。

目の前から、ナイフを振りかぶる、小さな女の子の姿を。

その女の子、美紀は目を見開き、目の前に展開されたワイヤーのバリケードに突っ込んで行く。

このまま突っ込めば、斬撃も可能な樹のワイヤーが美紀の体を八つ裂きにする。

しかし、そこからの美紀の対応は速かった。

片方のナイフを投げ捨て、そのワイヤーを掴んであろうことか樹のワイヤーを利用して三次元移動してきたのだ。

「!?」

「えいッ!」

軌道を急激に変えてきた美紀が、樹の懐に入った。

そして、その右手のナイフを、樹の首へ振るう。

そのまま刃は樹の首へ迫り、あっさりと園子が後ろに回した槍によって弾かれた。

「あ!?」

そのまま弾き飛ばし、美紀を下がらせ、その後を園子が追いかける。

「上出来だよ、イッつん!」

園子は、美紀よりも速く、その懐に潜り込み、そのまま救い上げるように美紀を上空へ弾き飛ばす。

「きゃあ!?」

そのまま、深い樹海の中から追い出され、根の上に着地する美紀。

その後、園子と樹が追いかける。

「く・・・!」

ここまで見晴らしが良いと、得意の隠密(ステルス)は使えない。

「さて、おいたはここまでだよ、美紀ちゃん。言っておくけど、私はそこまで子供に優しく出来ないよ?」

園子の放つ殺意。

それに思わず、怖気づく樹。

だが、美紀は園子を睨み付けたまま。

「・・・・佐奈さんはどうしたの?」

「少し仲間に任せただけだよ。まあ、どうなってるかは、ご想像にお任せするよ」

「そう・・・・でも、貴方はここで死んでもらうから」

「出来るかな?」

「出来るもん」

拗ねたように言う美紀。

「だって・・・」

ふと、美紀が俯く。

だが、すぐに顔をあげる。

 

その眼は、異様に紅くなり、その顔は狂喜していた。

 

「「ッ!?」」

「これがあるからねえッ!!」

その瞬間、美紀の体から真っ黒い霧が発せられる。

 

 

「――――大都市脅かす切り裂きの殺人鬼(ジャック・ザ・リッパー)

 

 

霧は、彼女の体に纏わりつく。

「イヒヒ・・・」

その顔は、おぞましいまでに(ワラ)っており、その紅く輝く眼からは、とてつもない殺意が発せられていた。

「構えて、イッつん」

「・・・」

園子の言葉に、樹は従う。

「アハハ・・・・サア、解体スルヨ」

少女(さつじんき)は、霧の中で(わら)う。




次回『ただ踏み込むだけ』

圧倒的殺意に踏み込む勇気を。
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