不道千景は勇者である   作:幻在

39 / 98
すいません。
先週は季節の変わり目にものの見事に風邪を喰らって投稿できませんでした。
さらに報告として、自分はこれでも学生の身なので投稿が不定期になる可能性があります。
それでも土曜の零時には、つまり週一は投稿できるように頑張っていくつもりです。

それとしばらく『あたゆ』の方の投稿が滞ります。

理由としてはこちら『ふちゆ』が色々とクライマックスなのでストック作るのにこちらに集中しまくってるからです。

なので、『あたゆ』と『ふちゆ』の同時投稿が出来なくなってしまうかもしれませんので、その辺りは悪しからず。

こちらの勝手な都合で楽しみを削ってしまう事をお許しください。

というかよくここまで週二で投稿してきた自分を褒めたいんですがね・・・アハハ・・・

そんな訳で、これからの投稿が色々と変わってきてしまうかもしれないので、覚悟していて下さい。では、本編をどうぞ。


ただ踏み込むだけ

神速。

そう呼ぶしかなかった。

 

「――――ッ!?」

 

まるで暴風雨のような、凶刃の嵐を、金紗の髪の少女が凌いでいた。

その凄まじさは、樹にとっては、まさしく別次元だった。

「アハハハハハッ!!!」

「――――ッ!!」

嗤う少女(さつじんき)、無言の少女(ゆうしゃ)

その二人の戦いに、樹は割って入る事が出来ないでいた。

あまりにも、速すぎる。激しすぎる。

付け入る余地がない程に、その攻防は激しすぎた。

美紀は、攻撃をしかける度に下がり気配を消し、()()()()()()()()再度攻撃。

対して園子は己の直感と動体視力、そして鍛えた反応速度で美紀の速さに対抗していた。

両者譲らぬ接戦。

その恐ろしさに、樹は入れない。

(その判断は正しいよ、イッつん)

槍を振るいながら、園子はそう思う。

事実、今この場に樹が入ってくれば、間違いなく邪魔だ。

彼女の攻撃は、はっきり言って異常。

その理由は、彼女が攻撃する際に見えてしまう、自分の四肢が裂かれてしまう()()()()

否、実際には、体中のどの関節部分が()()()裂かれるのかという()()()()()()()が、何故か見えてしまうのだ。

それが見えてしまうのは、一重に彼女の放つ殺気が原因だろうと、園子は推測する。

かつて、辰巳が言っていた。

相手を攻撃する際に、明確なイメージを持っていて、その通りに動きをトレースすると、相手にそのイメージが幻覚として見える、と。

つまり、美紀はその明確なイメージをいくつも見えており、その幻覚を殺気という形で叩きつけて、動きを鈍らせてきているのだ。

しかし、それならそれでやりようはある。

無意識化で発動する危機察知能力だ。

攻撃が迫る場所。例え幻覚が見えようとも、その中で最も()()()()()()()()場所を感じ取れば、自ずとそこへ攻撃が迫っている事が分かる。

しかし、その為には百戦錬磨経験を積んで勘を鍛えなければならない。

たかだか中学生にそんな経験があるとは思えないだろう。しかし、彼女の師が足柄辰巳であるなら話は別だ。

何せ、人の三倍の寿命は経験しているのだから。

そんな強すぎる師匠に鍛えられていたら、自ずと戦闘センスが極限までに高められない訳が無い。

その上、辰巳は教えるのが上手過ぎる為にもはや彼女をただの中学生と思う馬鹿はいないだろう。

それはともかく、とにかく園子は美紀の攻撃に対応しきっていた。

だが、それでも美紀は攻撃の手を緩めない。

一回一回、どれもこれも角度や威力、速度を変えて全く別の攻撃を繰り出してくる。

否、殺し方を変えてきている。

そのあまりの殺人の暴風雨の中に、樹は入るべきではない。

(それに、コイツの意識を常に私に釘付けにしなくちゃ・・・!)

でなければ、樹などあっという間にバラバラだ。

と、そんな事を思っていた矢先。

 

 

樹が何を血迷ったのか一歩を踏み出してきた。

 

 

「!?」

思わず、動揺する園子。

しかしそれでも防御はやっている。

(イッつん!?)

しかし、その内心は混乱していた。

何故、このタイミングで踏み込んでくるのか。

樹は、園子の動揺を他所において、一歩一歩、踏みしめるように嵐の中に入ろうとしている。

その表情は、何かしらの算段があるように見えるが、それでも無謀である事には変わりない。

(ダメ、イッつん!)

心の中で叫ぶも、樹は止まらない。

そして、樹が、とうとうある一歩を踏み込んだ途端、美紀の視線が動いた。

「ッ!逃げてイッつんッ!!」

叫ぶ園子、しかしもう遅い。

美紀は標的を樹へ変更、そのまま樹に向かって突っ込む。

(間に合わないッ!)

その速さは、あまりにも速い。

例え『疾風(はやて)』を使っても間に合わない。

このままでは樹は殺される。

刃の軌道は、樹の心臓に狙いを定めている。

樹なら、まともに反撃出来ない上に、園子という強敵がいる事から、先に始末する気なのだ。

槍を伸ばすか?伸びる速さと美紀の速さは同等だ。

なら投げるか?その向こう側に樹がいるから無理。

だが、そう考えている内に、美紀の刃が―――

 

 

―――樹の胸に突き立てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈍い金属音を響かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

それに、美紀は目を見開く。

刃が、皮膚に()()()()()()のだ。

突進による力の増加、突きによる貫通力、さらに体の節々の動きによる、僅かな加速。

それらを重ねた絶対的殺人法が、どういう訳か、いとも容易く阻止されたのだ。

だが、樹は笑っていた。

まるで引っ掛かったなと言わんばかりに。

そこで美紀は気付く。

樹の体に、細長いワイヤーが、無数に巻き付いている事に。

それはいわば、即席の鎧。あるいは鎖帷子(かたびら)

その無数に、そして計算されて編み込まれたワイヤーの鎧が、美紀の刃を阻み、死を回避したのだ。

その証拠に、その一撃は樹の薄皮一枚にも到達していない。

そして、美紀は気付く。

 

彼女は囮だと。

 

「ッ!」

それが分かった瞬間、すぐさま離れようとする美紀。しかし。

「ナイスだよ、イッつんッ!!」

すでに園子が槍の射程に美紀を収めており、すでに攻撃態勢に入っていた。

「対天武術『振打(しんだ)』ッ!!!」

まるでバットをスイングするように振るわれた槍の一撃は、美紀を遠くへぶっ飛ばした。

そのまま美紀は樹海の蔓に叩きつけられ、粉塵が舞い上がる。

「ふう・・・・イッつん」

「ッ!?」

突然、低くなった声に樹の心臓が跳ね上がる。

「今後、あんな危ない事はしない。じゃないと君のお姉さんが泣いちゃうよ?」

「」

それに頷く樹。

確かにそうだ。

自分は、姉のたった一人の血の繋がった家族だ。

自分が死んでしまったら、彼女は一人になってしまう。

そんなのは嫌だ。

「うん、それさえ理解出来ていればいいよ」

安心したかのように樹の頭を撫でる園子。

だが、すぐに園子は美紀が吹っ飛ばされた先を見る。

「構えて」

「ッ」

園子がそう呟いた瞬間、黒い霧を纏った美紀が、砲弾のようなスピードで園子に突っ込んできた。

園子は、それの一撃をまずは防ごうとする。

案の定、美紀はその刃は構えられた園子槍の柄によって防がれる。

 

「―――――私ノ名前ハ切リ裂キジャック」

 

しかし、その刃は右手の刃。

 

「女ノ人ヲ見ツケテハバラバラニスル。女ノ人ノ中身ハ未知ノ巣窟――――」

 

本命は、左手の紅く光るナイフ。

 

「私ヲ捨テタオ母サン。サア、オ母サンノ体ヲ開イチャウヨ」

 

 

「しまっ―――」

 

「――――解体スルヨ『我切リ裂クハ母ノ体(ディスマンタル・マザー)』」

 

 

紅い刃は、園子の脇腹を掠める程度でとどまり、美紀は園子の脇をすり抜けていく。

二人はすぐさま振り返り、美紀に向かって構える。

だが――――

 

突如として園子の体から血を噴き出た。

 

「ゴハァ!?」

「!?」

突然の事に驚く樹と園子。

園子は、地面に膝をつき、片手を地面についてしまう。

「こ、これは・・・・!?」

「あれれ?いつもならこれでバラバラになるはずなのに、どうしてかな?」

「バラ・・・バラ・・・・」

よく見てみると、血が噴き出た所は、どれも関節部分。

両肩、肘、手首、指の節、足の付け根に膝、足首に足の指の節。

さらに腹には縦に一本の切り傷に加え、中身からも傷みが伝わってくる。

これは、文字通り―――

「解体・・・・」

 

 

美紀の能力はいわば『解体』の概念を操る事だ。

傷の一つでも加えれば、そこから『解体』の呪いが入り込み、敵を一撃で解体(殺人)する事が出来るのだ。

ただ、その解体の概念を操る能力は、通常時では発動しない。

解体なんぞナイフ一本だけで事足りる事を、何も能力でやる事は無い。それ以前に、概念を操る事自体が()()()()()()()()

だから、その『解体』の概念を、限定発動型の大技として使用する事で、切り札として使用する事にしたのだ。

それが、現在園子を苦しめている力の正体。

呪いに対して相当な耐性を有している園子だからこそ完全にバラバラにされた訳では無いが、それでも四肢が()()()()()()()()()事には変わりはない。さらに、()()()千切れかかっている。

 

「どうもこうも・・・・!」

園子はすぐさま治療にかかる。

だが、傷が治らない。

「これは・・・!?」

「アハハ、オ姉サン、ナンデ()()ヲ治ソウトシテルノ?」

「!?」

美紀の言葉に、園子は理解する。

(『死体』の概念まで植えつけられた・・・・!?)

美紀の能力は、何も『解体』するという概念だけではない。

解体するには死体が必要。だからその為に、相手を死体にしなければならない。

その為に、園子の傷の周囲に死体の概念を与えて、治癒を阻止しているのだ。

園子の精霊の一体である『どうもこうも』という精霊は、もとは二人の天才的外科医『どうも』と『こうも』が、対決の際、互いの首をどちらが早く繋げられるかという対決をした際に、すでに互いの首がないのだから繋げられないので、そのまま命を落としたというなんとも間抜けな死に方をした二人の無念が合わさって出来た妖怪なのだ。

しかし、それでも天才的技術を持つ医者である二人の『外科手術』という能力は、確かに園子の体をものの数秒で治癒できるだろう。

しかし、『死体』の概念を与えられてしまった状態では、生者を治す外科手術では何の意味も無い。

つまりは、園子は自分の傷を治す事が出来ない。

(やられた・・・・)

あまりにも一気に血を流し過ぎた。

それに、こんな状態ではまともに動く事は出来ない。

(情けない・・・・!)

体が動かなかったなんて言い訳にならない。これは鍛錬を怠った自分の責任。

風から妹を守る事を約束しておきながら、なんたる醜態。

「アハハ、アハハ」

その間にも、美紀は掌でナイフを踊らせて歩いてくる。

このままでは樹が―――

「」

「イッつん・・・!?」

そこで、樹が園子の前に出る。

「ダメだよイッつん・・・!あの子は、貴方の手に負えるような奴じゃ・・・・」

そこで、樹が振り向いて、微笑む。

そして、その手に持つスマホの画面を見せる。

 

『倒してきます』

 

たった一言。それだけを書いて。

「・・・!?」

そして樹は美紀を睨みつける。

「アハ、今度ハアナタガ遊ンデクレルンダ?」

美紀は嬉しそうに嗤う。

その笑みに、樹は恐怖を感じる。だけど、そんな、殺される恐怖なんかよりも、誰かが殺される方が怖い。

 

だから、心を鬼にしろ。相手を傷つける事を躊躇うな。

 

でなければ、勝つ事は出来ない。倒す事など――――不可能だッ!!!

 

「アハ」

「ッ」

美紀が地面を蹴る。

地面すれすれから左のナイフが迫る。

それが樹の左脇腹へ迫る。

樹は、それを左上腕で防ぐ。鈍い金属音が響き、美紀のナイフから、肉ではなく、何か硬い物にあたる感触を覚える。

それは、先ほど美紀の攻撃を防いだワイヤーの即席の鎧。

美紀の攻撃に、切れ味はあっても、重さは一切ない。ならば、ナイフが通らない程に硬質なものを用意して、それを楯に応戦すれば良い。

(結構才能あるかもね・・・)

その樹の隠れた才能に園子は畏怖を覚える。

しかし、それでも樹が対人戦の素人である事には変わりはない。

美紀はナイフを振りぬいた勢いのまま樹の左脇に右の後ろ回し蹴りを叩き込む。

「ッ」

吹き飛ばされ、地面を転がるも、すぐに態勢を立て直す樹。

そこへ追撃と言わんばかりに美紀が突撃する。

樹はすぐさま腕のワイヤーをほどき、それを網状にしてまるで壁のように設置する。

「!?」

それに一瞬目を見開いた美紀だったが、次の行動にすぐさま移る。

右手のナイフを、網の目に向かって投擲、そのナイフは網目を通って樹の肩に当たる。

「ッ」

ナイフは通り過ぎ、皮が裂かれ、そこから血が流れ、樹は痛みに苦悶の表情になり、その傷を抑える。

それに美紀はニィッと嗤うが、そこで右太腿に鋭い痛みを感じた。

まるで細い棒を貫通されたかのような、そんな痛みに、美紀はそこへ視線を移す。

そこには、緑色に光るワイヤーが、突き刺さって、後ろへ貫かれていた。

「エ・・・!?」

気付いた時には、美紀はすでに空中に投げ出されていた。

「ッ!!」

そして、樹は上げた右腕を振り下ろし、美紀を地面に叩き付ける。

「ウア・・・!?」

くぐもった声が聞こえ、背中から叩き付けられた事で肺から空気が吐き出される。

ワイヤーで作った網の壁は単なる囮。本命はワイヤーを打ち出して美紀の足を貫く針金撃ち(ワイヤーショット)

もともと美紀の動きを網で防いだ後に撃ち込むつもりだったのだが、美紀がナイフを投げた事で()()()ワイヤーを撃ち込んだのだ。

ただ結果オーライとしてワイヤーは美紀の足を貫く事になったのだが。

樹はワイヤーを戻し、それを左腕に巻き付け、次の攻撃に備える。

舞い上がる粉塵の中、立ち上がる影を見つける。

それに身構える樹。

しかし、その影は、突如として消滅した。

「!?」

それに驚き、周囲を探す樹。だが、そこで園子が叫ぶ。

「目を逸らさないでッ!!!」

「ッ!?」

樹は慌てて目の前を見る。

美紀は、いつの間にか、樹の目の前まで来ていた。

その刃は、紅く光っていた。

 

「――――『我切リ裂クハ母ノ体(ディスマンタル・マザー)

 

その刃が、樹の腹に突き立てられる。

「イッつんッ!?」

園子は思わず叫ぶ。

美紀は嗤う。勝った、と。

樹に、園子程の耐性は存在しない。

そこへ、一撃必殺の刃が突き立てられたのだ。

死は確実、樹の体は、四肢が裂かれバラバラに―――――

 

 

 

――――ならなかった。

 

 

 

 

「・・・・エ?」

ナイフは、樹が左掌に巻いたワイヤーによって、肉に食い込む事を防いでいた。

そのまま樹は、右手を美紀の胸に当てる。

そして、口を動かした。

 

 

つ か ま え た

 

 

ご め ん ね

 

 

 

そう、呟いた。

次の瞬間、美紀の背中から、四本のワイヤーが突き出た。

それは、樹が右手のリングから伸ばしたワイヤー。

至近距離での針金撃ち(ワイヤーショット)

その一撃は、美紀を吹き飛ばし、そして、数メートル離れた所で落ちた。

「・・・・」

樹は、地面に倒れ伏す美紀を、悲し気に見つめる。

彼女は、確かに強かった。

だが、彼女は幼かった。

その子供らしい慢心が、彼女より年上である樹に敗北した。

いや、それ以前に美紀は苛立っていた。

自分はお前なんて簡単に殺せる。ナイフを一回突き立てるだけで簡単に死ぬ。一回ぐらい防いだだけで調子に乗るな。

それらの苛立ちが、美紀の動きを単調にした。だから樹でも対応できたのだ。

その結果、彼女は、樹に負けた。

確実に勝てる相手に、彼女は傲慢と慢心によって敗北したのだ。

樹は、息を上げてワイヤーを納める。

とにかく、これで彼女は動けない。

後は園子の元へ行かなければ――――

 

 

 

 

その時、美紀の体から真っ黒い霧が立ち上った。

 

 

 

 

 

「!?」

それに目を見開く樹。

「マ・・ダ・・・・マダ・・・終ワッテナイ・・・!!」

その中で、美紀が立ち上がる。手も使わず、まるで何かに引っ張られるように。

「私・・・ハ・・・マケナイ・・・・絶タイ・・・・ニ・・・負ケナイ・・・・!」

その霧は、あまりにも濃すぎる。

しかしそれでも、美紀の姿だけがどういう訳かくっきりと見える。

まるで、自分の存在を主張するかのように。

「私ハ・・・認メラレタイ・・・誰カニ・・・覚エテテモライタイ・・・・・ソノタメナラ・・・私ハ・・・誰ダッテ解体スル・・・・!!」

美紀の持つナイフが、紅く光る。

この世の全てを殺さんと、バラバラにして、全て終わらせると、その意思が、明確に理解させられた。

「・・・・」

ただ、誰かに自分の存在を認められたい。

その理由は、分からない。

だけど、それを理由に誰かを殺すなんて事は、認められない。

「イッつん」

ふと、後ろから声がかけられ、振り向く樹。

そこには、槍を杖代わりにしてこちらに向かって歩いてくる園子の姿があった。

樹は、それに驚いて慌てて園子の元へ向かう。

その最中、園子は膝をついた。

「ハア・・・ハア・・・」

「」

樹は、心配そうに園子の前で膝をつく。

「イッつん」

園子は、左手を樹の前に出すと、目の前に一体の精霊を顕現させる。その精霊は、風の犬神とは違う、犬らしい犬の精霊だった。

「・・・?」

「この精霊は『狛犬』。これなら、あの霧の中を突っ込めると思う」

あの霧は、いわば酸そのもの。

一呼吸でもすえば一瞬で肺が溶かされてしまうだろう。

だが、美紀の扱う力が『呪い』であるなら、狛犬はその霧を打ち払い、美紀へ攻撃できるだろう。

「突っ込むんでしょ・・・?」

「・・・」

その問いに、樹は力強くうなずく。

「ナイフは、どうにかするから・・・」

園子の言葉に、樹は立ち上がって、美紀の方を見る。

美紀は、真っ黒い霧を体から吐き出し続けている。

それだけ見れば、とても恐ろしい光景だ。

だけど、樹にだって譲れないものがあるのだ。

 

 

だからこそ、樹は、恐怖へ立ち向かうッ!!

 

 

「ウワァァァァアアァアアァァァアァアァアァァアアアァアアアア!!!!」

美紀が絶叫すると同時に、樹も走り出す。

凶刃が迫る。

その紅い光に、樹は思わず足を止めそうになる。

だが、それでも樹は、彼女を救いたい。

誰かを殺さなくても、誰かが貴方を認めてくれる。

それを伝える為に、樹は、その足を止めない。

美紀の持つ紅い刃は掠りでもしただけでも即死する。

ならばどうするか。

「鴉天狗」

突然、美紀の両手のナイフが弾き飛ばされた。

それに驚く美紀。

気付けば、美紀のすぐそばに、伸ばされた槍の穂先が見えた。

「対天武術『牙貫(きばぬき)』二連」

それは、園子の神速ともいうべき刺突の二連撃。

鴉天狗によって伸ばされた槍で、素早く二回、刺突を繰り出して美紀のナイフを弾き飛ばしたのだ。

「後は、任せたよ・・・・イッつん・・・」

園子は、そのまま仰向けに倒れ、意識が遠のいていく。

(わっしーを・・・よろしくね・・・・つばくん・・・・ミノさん・・・)

そのまま、意識を闇に沈めた園子。

これによって、美紀は完全に丸腰。

しかし、それでも美紀の周りには高濃度の酸の霧。

触れば一瞬にして皮膚が解ける程に濃い。

とてもではないが踏み込めるものではない。

だが、樹には園子から与えられた狛犬がいる。

狛犬は、魔除けの象徴。

それ故に、美紀の呪いの霧を打ち払う事が出来るのだ。

 

樹が、霧へ一歩踏み出した途端、樹の周囲の霧が僅かに消失、浄化された。

「!?」

それに目を見開く美紀。

だが、完全とまではいかず、樹の体の所々を酸によってやかれる。

それに顔を歪めるも、樹は止まらない。

右腕を振りかぶる。

そして、ワイヤーを右腕に巻き付かせる。

防御ではない。攻撃をする為に。

ワイヤーによって動きを補助し、さらに擬似筋肉として稼働。それによって右腕を強制的に動かし、通常では発揮できない威力のパンチを繰り出す。

そう、樹は、美紀に向かって拳骨(パンチ)を繰り出すのだ。

だから、樹は叫ぶ。

 

 

 

 

勇 者 パ ン チ

 

 

 

 

樹の右拳が、美紀の顔面に叩き付けられ、そしてぶっ飛ばした。

美紀は、そのまま数メートル飛び、やがて樹海の根に倒れ伏す。

霧は霧散し、美紀は、今度こそ、気絶した。

しかし、樹も全くの無傷という訳ではない。

先ほどまで効いていたアドレナリンが切れかかっており、酸による痛みが体中に走って、意識が飛びそうになっているのだ。

さらに、緊張による糸が切れ、体に力が入らない。

どうにか意識を保とうとしたが、迫る睡魔に抗えず、その場に倒れ込み、そのまま意識を闇に落とす。

ただ、その中で、樹は一つの満足感を感じていた。

 

(お姉ちゃん・・・私、頑張ったよ・・・頑張ったよね・・・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣が、迫る。

しかし剛はそれを戦槌を振るう事でそれを迎撃する。

「どうしてだよ!どうしてそこまでするんだよ!どうしてどうしてどうしてだぁぁあぁあああ!!!」

なおも喚き続ける弘。

それに剛は苛立ちを募らせる。

「どうせこの世界は終わるのになん―――」

「だからうっせぇんだよッ!!!」

「げぶらッ!?」

拳を顔面に叩きつける。

それだけで軽い弘は吹き飛ぶ。

地面に叩きつけられる弘。

「っちくしょぉぉぉぉぉおおお!!」

しかし弘は立ち上がり、地面に手を叩きつける。

その行動に首を傾げる剛。しかし、その意図をすぐさま察し、上を見上げる。

そこには、みるも巨大なギロチンの刃があった。

「こんなものまでッ!?」

「両断されて死ねッ!!」

それも一つではない。

全部で十個、そのどれもがバラバラな向きに置かれている上に落下するスピードはまるで何かから射出されたかのようにいきなり最高速で突っ込んでくる。

「チィッ!」

回避が不可能と判断した剛は戦槌を振りかぶる。

戦槌の片方が変形し、そこからジェット噴出孔が露出。

そこからエネルギーを貯めるかのように赤く発光し、熱量を帯びる。

「ジェットハンマーッ!!!!」

そして思いっきり振り抜き、ギロチンを真正面から衝突させる。

自由落下と急激加速によって十分な破壊力を有しているギロチンよりも、剛の戦槌の威力の方が上回り、ギロチンを吹き飛ばす。

だが、振りかぶり隙だらけの状態の剛に向かって弘が懐に入りこみ、そのがら空きの脇腹に長い細剣を突き立てる。

「ぐぅッ!?」

その剣は剛の体の反対側まで突き抜け、貫通する。

「ヒヒ、どうだぁ?この世界を守ろうとするからこうなるんだ・・・死ぬのは確定だなぁ?」

弘は醜悪な笑みを浮かべる。

剣が体を貫いている。まず致命傷なのは間違いない。

だが、それがどうしたというのだろうか?

剛は、その突き立てられている剣をそのままに、弘のその剣を握っている手を掴む。

「なッ!?」

そして戦槌を捨てたと思ったら、そのままもう片方の手で弘の顔面を殴りにかかってきた。

「チィッ!?」

弘は、体中にある剣をすぐさま集束、まるでハリネズミのように顔面を守る様に展開する。

これなら、普通は誰もが攻撃を躊躇う。

しかし、剛はこれを無視。そのまま突き刺さった剣を砕きながら、力任せに弘の顔面にその拳を叩きつける。

「ぎやぁぁああ!?」

地面に叩きつけられる弘。

その間に剛は自分の体に突き刺さった剣を引き抜く。

「ぐっぅっ・・!」

引き抜く際に感じた痛みに顔を歪めながらも耐えきる剛。

そして、剛は地面に倒れ伏す弘を見下す。

「どうした?その程度かよ。案外強くねえんだな」

あからさまな挑発。

「・・・・まれ・・」

「ああ?」

「黙れぇえええぇぇえええぇえええぇええ!!!」

弘が立ち上がりと共に剛へ刃を下段から斬り上げる。

だが剛はすでに剣の射程外におり、その一撃は空振りに終わる。

「うるさいんだよ・・・ろくでなしどもに加担しているお前なんかに、どうこう言われる筋合いはないんだよぉぉぉぉぉぉぉおおおぉおおお!!!」

次の瞬間、弘の体中にある剣が、一斉に剛に向かって射出された。

 

 

 

弘の能力。

それは『剣』の無限召喚だ。

ありとあらゆる『剣』を顕現させ、それによって相手を斬り刻むいかにも単純な能力。

しかしその剣のバリエーションはあまりにも豊富。

長剣、短剣、片手剣、細剣、脇差、打刀、太刀、両手剣、斬馬刀、突剣、仕込み杖など。

とにかく剣であるならなんでもありなのだ。

その上、投擲したものを空中で自由自在に操る事が可能だ。

さらに何もない空間から通常じゃ扱えないような巨大なものを顕現させる事が可能。

まさに某聖杯戦争の傲慢王の宝物庫もどきだ。

 

 

 

それゆえに。

「うぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉおおッ!!!!」

剛は、全力で迎撃するも、その無数の剣を防ぎきれず、体のあちこちに突き刺さる。

「ぐぅ・・・!?」

体中に剣が突き刺さり、膝をつく剛。

しかし、その全てが致命傷ではない。

「アハ、アハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

弘が背中を仰け反らせ高笑いをする。

「どうだぁ!ザマァないなァ!そんな無様な姿をさらす事になったのは全部大赦のせいだ!お前が大赦に加担したからこうなったんだァ!!」

弘は、すでに勝利の快感に浸っている。

自分の勝ちは揺るがない。そう確信している。

そしてそれこそが―――――命取りだ。

「だから・・・・」

「ん?」

「うるせえんだよッ!!」

いつの間にかジェット噴射で弘の懐に入っていた剛は、そのまま戦槌を振り抜いて弘をぶっ飛ばす。

「ぎゃぁああぁああああ!?」

空中へ吹き飛ばされ、そのまま落下する。

「ハア・・・・ハア・・・・俺が大赦に加担したからこうなっただぁ・・・・?馬鹿な事言ってんじゃねえよ・・・・俺が戦ってんのは、俺が望んだからだッ!!」

剛は叫び、戦槌を構える。

戦いを選んだからには、傷付く覚悟は出来ている。

痛いと感じる覚悟は出来ている。

物事に非情になる覚悟も出来ている。

ならば、あとは敵に突っ込むだけだ。

「ぐ・・・ぅ・・・・・望んだ・・・だとぉ・・・?」

しかし、それでも弘は理解できないと激怒する。

「そんなのは間違ってるんだよぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおおおおおぉおおおおお!!!!」

弘が、剣を空中に無数に顕現させる。

それを見た剛は、満開によって得た飛行能力によって飛び上がる。

「逃げても無駄だァアァァアッ!!!」

弘は、その剛に向かって一斉に剣を射出させる。

その剣の嵐は、今度喰らえば確実に剛の体を斬り刻み、死に至らせる。

だが、それがどうしたと言うのか。

もとより死ぬ気は無い。

死ぬつもりなんて毛頭無い。

そして、弘が言った事は、全て否定する。

「勇者部五箇条――――ひとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉつッ!!」

剛は、空中で急遽反転、そのまま自分から剣の嵐へ突っ込んで行く。

「為せば大抵、なんとかなぁぁぁぁあぁあああぁあぁあぁあぁああぁぁるッ!!!!」

戦槌によるジェット噴射。

それによって、加速する剛。

空を裂く音と共に、剣の嵐に向かってその戦槌を思いっきり振り抜く。

分服茶釜による、ブースト。

狒々による、筋力強化。

それによって生み出される、山をも砕く一撃。

 

剣の嵐は、剛のたった一振りの一撃によって全て吹き飛んだ。

 

「そ、そんな馬鹿な・・・・!?」

それに驚愕する弘。

だが、それでは剛は止まらない。

「うおぉぉぉぉおおおおぉおぉおおぉぉおおおお!!!!」

剛は、戦槌を反転させ、一気に弘に突っ込む。

弘は慌てて幅広の剣を無数に顕現し、それを重ねて楯にする。

「無駄だぁぁぁぁあああぁあぁぁぁぁぁあぁぁああああ!!!」

剛はそのまま剣に激突。

剣は脆くも全て砕かれ、剛は弘の眼前に迫る。

「ひっ・・・・」

くぐもった悲鳴が弘の口から発せられるが、もう遅い。

「終わりだ、失格兄貴ッ!!!」

 

そして剛は、文字通り正義の鉄槌を振り下ろした。

 

「ぐげあッ!?」

弘は戦槌によって地面に叩き潰され、そのまま沈黙。

剛は弘に迫る際についた勢いが殺しきれず、そのまま弘を通り過ぎて地面に激突。ゴロゴロと転がり、やっとの事で仰向けになって止まる。

「ゼエ・・・ゼエ・・・」

剛は、樹海化した事によって色の変わった空を見上げる。

「・・・・・やったぜ、風・・・」

そのまま、意識を遠ざけ、さらに、満開も解除される。

「後は・・・・任せたぜ・・・・銀・・・」

剛の意識は、そのまま闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、任された」

そして、銀は、雷雲を呼び落雷を落としまくっている真斗を睨み付ける。

「ウゥゥウウ・・・・」

「さあ、やろうぜ・・・・ガキ」

銀は、邪竜の力をもって、幼い雷神に挑む。

 




次回『邪竜の決死戦』

邪竜の意思を継ぎし少女は、蒼穹(そら)に向かって咆える。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。