不道千景は勇者である   作:幻在

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邪竜の決死戦

雷鳴が、轟く。

樹海の空から、いくつもの落雷が落ちてくる様は、まさしく雷帝。否、雷神の如し。

その落雷の雨の中を、恐ろしい機動力で回避し続ける影が一つ。

竜の鎧をその身に纏った三ノ輪銀だ。

その腰のジェット噴出孔らしき部分から緑色の光を巻き散らし、それによって高速機動を可能にしているのだ。

その落雷の中心にいるのは、大柄な男。

その右手には片手で持つにはあまりにも巨大なハンマー。

男、車田真斗は、銀に向かって雷撃を集中砲火していた。

それを、銀は間一髪で避け続けている。

(チィッ!これじゃあ下手に近付けないッ!!)

あまりにも落雷の嵐が激しすぎる為に、避けるのに精一杯なのだ。

だから、銀は、全力で逃げに徹しているが、これでは埒が明かない。

しかし、焦って勝負を決めにいくのも危ない。

だからこれは相手と自分の根競べ。どちらが先に痺れを切らすかの我慢勝負。

だから銀は避けに徹する。

そして、その賭けは――――――銀が勝った。

落雷が突如として止まり、真斗が絶叫する。

「ウゥワァァアァァァァアアアアァァァァアアァアアアアァ!!!!」

雷槌を振り上げ、それに電気を纏わせ、一気に振り下ろす。

雷槌から極太の雷光が迸り、直線状に放たれる。

(ここだッ!!)

銀は、それを一度深く踏み込んでその雷撃を回避、そして、一気に真斗との距離を詰める。

さらに、戦斧のブーストを加えて、一気に接近する。

「うぅわァ!!!」

真斗は、そんな銀に向かって落雷を落とす。

しかし、銀は地面を蹴り、ブーストの向きを変え、緩急をつける事でその落雷を巧みに回避する。

そして、ついに戦斧の射程に真斗を捉える。

「オゥラッ!!」

右薙ぎに一気に戦斧を振り抜く。

「ゥアッ!」

しかし真斗はそれを雷槌で受け止める。だが銀はそこへブーストを加えて、真斗を浮き上がらせ、そして後退させる。

「ウゥ!?」

「だぁあああッ!!」

そのまま一回転して追撃。ハンマーを弾かれた事で胴ががら空きの真斗にはそれを防ぐ術はない。

しかし、真斗は絶叫して、自らの体から電撃を発した。

「ぐぅ!?」

思わぬ反撃に、銀は思わず吹き飛ばされる。

その銀に向かって、真斗は雷槌を振り上げる。

「ッ!!!」

雷撃によって飛びかけた意識を舌を噛む事で引き戻し、真斗のその一撃を防ぎ、弾き飛ばす。

だが、真斗の攻撃はそこで終わらず、巨大な黄金の雷槌を、その巨体には似合わぬ速度で振り回してきた。

銀は、それを防ぎながら後退し続ける。

(くっそ、威力はともかく、なんでこんなに速く振れるんだ――――ん?)

あまりの攻撃速度に歯噛みする銀の視界に、黄金の雷槌が映る。

その雷槌には、僅かにプラズマが迸っている事に気付く。

(そういう事か・・・!?)

真斗が行っているのは、いわゆる『電磁誘導』というものだ。

 

突然だが『電磁石』というものを知っているだろうか?

電気を流す事で、磁力を帯びる装置だ。

真斗は、それを使って金属である雷槌を強制操作。

さらに発する磁場が強すぎる為か、その速度が、通常の数倍にまで跳ね上がっているのか。

 

(本当に精神年齢幼稚園かよ・・・!?)

否、これは真斗が意図してやっている事だ。

これは無意識化で行われている事だ。

どういった用途でこうなったのか分からないが、それでもこの力は驚異的だ。

だから銀は、諸に入った一撃をどうにか斧で防ぎ、一気に距離を取る。

「ウゥアァァアアアァァアッ!!!」

しかしそれでも真斗は追い縋ってくる。

しかし今度は、銀が仕掛けた。

竜斧と雷槌の正面衝突。

それによって大気がはじけ飛ぶ。

だが、それでは終わらない。銀は、体内で骨を強化、および、骨による擬似筋肉を増設し、通常より数倍の筋力を持って連撃を仕掛け、真斗は電磁誘導によって加速した雷槌で迎撃。

先ほどは雷撃による体の痺れによって動きが鈍っていたために反撃出来なかったが、今度は違う。

恐ろしいまでの雷撃と斬撃の応酬に、周囲はその余波で亀裂を走らせる。

しかし亀甲というものは長くは続かない。

その拮抗を破ったのはやはり真斗。

「ウガァアアァ!!!」

いきなり銀の頭上から落雷が落ちる。

その落雷が落ちた所には穴が穿たれ、そこには何もいなかった。

しかし。

「雷がいきなり落ちてくるのはさっき見た」

背後から声が聞こえた。

それに気付いた時にはもう遅い。

「だったら後は、周囲に気を配れだッ!!」

背後から一気に戦斧を振り下ろす。

その一撃は、真斗の背中を切り裂いた。

「イダァァアアァアアアイッ!?」

真斗が、あまりの痛さに絶叫。

これによって地面を転がりまわる。かに思われたが、

「ウアワァァアアァッ!!!」

「どわ!?」

それでも真斗は反撃してきた。

一体どうやったこうなる。

「アァァァァァアアアアッ!!」

「だぁもう!しつこいッ!!」

半ば不意打ちだったがそれでも銀は対応してみせる。

だが、振り上げられた雷槌に、とてつもない嫌な予感を感じた。

その雷槌には、明らかに今までとは()()()()が纏われていた。

「まずッ―――――」

 

「――――『怒れる雷神の一撃(ミョルニール)』」

 

万物を原初の塵と化す、雷神の一撃。

それが、銀を飲み込んで、一直線に極太の光線となって樹海を駆け抜ける。

それが収まった頃には、真斗が雷槌を振り下ろした先は、地面が抉られており、何も残っていなかった。

「ウゥウ・・・」

しかし、手応えは無かった。

真斗は背後を向き、そこにいる銀を睨みつける。

銀は、直撃を受けていないどころかどうにか躱し切ったのだ。

(くそ・・・あんなものを乱発されたら樹海がボロボロになっちまう・・・)

ついでに言って、銀の『鎧』の稼働限界時間も近付いてきている。

 

銀の使うファブニールは、実は西暦の時代、現役の辰巳が使っていたものとはある点で大幅なグレードダウンが行われていた。

それは、自動回復機能だ。

あの機能は、実は使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、危険な力を持っている。

それゆえに、辰巳は今日この日、三百年という歳月を生きながらえてきたのだ。

竜の体質というのは、どれほどダメージを受けようとも勝手に治る。体が鋼のように固くなる。身体能力が大幅に強化される。など、様々な恩恵が得られる。

しかし、それは同時に、寿()()()()()()()()という呪いをもその身に請け負ってしまうのだ。

不死を望むからそれは素晴らしい事なのかもしれない。

だが、実際不死になってみれば、それは、とても苦しい事だ。

他人より長生きする、という事は、他人が自分より先に死ぬという事。

いくら愛したものがいようとも、その者でさえ、先に死んでしまい、自分を置いていかれる。

そう、不死とは孤独という事に他ならない。

誰もが生きている世界で、自分だけが、たった一人、不死で有り続ける。

それは、一体どれほど苦しい事なのだろうか。

想像できない。出来る訳が無い。

自分は、それほど生きていないのだからだ。

 

勇者システムそのものの身体機能の強化によって、使用時の体の破壊は起きていない。

だから、それも考えると治癒能力はいらなくなってくる。

だから、銀が竜になる事は無い。

その代わり、死ぬ確率は大幅に上がったと言ってもいいだろう。

ならば、自分は何をするべきだろうか。

「うぅあぁぁあああぁあああ!!!」

「くっ!」

真斗がなおも攻撃をしかけてくる。

今度は、雷撃による遠距離攻撃。

雷撃を連発してくる真斗に、銀は回避に徹する。

攻撃するには、どうにかして真斗に近付かなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近付く?その必要などないだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真斗がハンマーを振り上げる。

しかし、その時、真斗の腹に何かが突き刺さる。

「ぐぅえぇ!?」

それは、銀の戦斧。

それが真斗の腹に食い込んでいるのだ。

「ギィヤァァァァァァアアアァァァア!?」

絶叫し、あまりの痛さに転げまわる。その拍子に、斧が傷口から外れ、地面に落ち、真斗の腹からはとめどない程の血が溢れ出てくくる。

「イダイ・・・イダァイ・・・!!」

痛みに、今度こそ屈した真斗。

しかし、何故いきなり銀の戦斧が真斗の腹に突き刺さっていたのか。

その理由は、至極簡単、銀が斧を投げたのだ。

「どうだ!これぞ師匠(せんせい)直伝!武器投げだ!」

それはあまりにも無謀ともいえる行為。

自分の武器を投げて相手を攻撃する、自身の身を危険に晒す行為だ。

しかし、銀はそれを無視して投げた。

理由は簡単だ。真斗を倒さなければ、他の者に危害が及ぶ事を。

真斗は、おそらく仲間の為なら全てを壊す気でいる。

否、全てを壊す気なのだろう。

神樹を破壊すれば、全てが終わるのだから。

そうなったら、確実に、友達が死ぬ。

翼、園子、美森―――須美だけではない。

兄である剛、義姉である風、義妹である樹、そして、千景と夏凜、友奈。

その全員が死んでしまうかもしれない。

だから、銀は斧を投げる事を躊躇わなかった。

それゆえに――――斧は真斗に直撃した。

真斗はなおも意識を保っている。

ここで意識を刈らなければ、また立ち上がる。

その為に銀は斧を拾い、真斗に近付く。

電撃による反撃を警戒しながら、ゆっくりと近付く。

「ウ・・ゥゥ・・・」

地面にうずくまる真斗。

徐々に近づく銀。

しかし、そこで、真斗の体から電気が走った。

「ッ!!」

銀はすぐさま距離を取る。

そしてその直前。

 

 

 

 

 

 

 

今までとは比べ物にならない程の雷が真斗に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「な・・・・!?」

「ウゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウウゥゥウウアアアアアァァァァァァァァァアアアァアアアアァァアァアァァアアアアアァァァアァアァァァアアアァアアアアァァアアアァアアッッ!!」

おそろしい絶叫が迸り、真斗が光の中で立ち上がった。

そして雷槌を掲げて、その雷槌に、その雷を集束し始める。

それは、まさしく雷神が如し。

あまりにも強大な電気の力に、銀は、思わず茫然とする。

「ゥゥゥゥウ―――コワス・・・ゼンブ、ゼンブゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!!!」

一瞬雷が収まったかと思ったらは、今度は地面から雷が()()()()()

それはさながら光の柱。

莫大な電気量を伴った柱は、まさしく、万物を原初の塵へと変えるだろう。

そして、真斗は、その柱の中で空中に浮く。

「な・・・・!?」

ある程度まで上昇した真斗は、そこで雷を全て雷槌に再度集束させる。

ついに、あの雷を解き放つ気なのだ。

そうなれば、樹海はおろか、神樹さえも吹き飛ぶ。

 

 

 

そんな事はさせない。

 

 

 

「絶対にッ!!」

銀は、戦斧を両手に持ち、正眼に構える。

「剣よ、満ちろ」

その瞬間、斧から止めどない程の緑の輝きが放たれる。

それは、銀の纏う、邪竜の生命力。

放たれるその生命は、この世の全てを喰らい尽くす。

銀は、その力を持って、雷神の本気の一撃に対抗する気なのだ。

 

 

恐怖は、最初(ハナ)から無いッ!!

 

 

「神聖なる神々は邪竜によって失墜するッ――――!!」

 

「雷神の怒りをその身に知れッ――――!!」

 

「混沌の最中、邪竜はなおも天に咆え猛り――――!!

 

「ひれ伏せ、絶対的力の前に、己が無力を思い知り―――!!」

 

 

「世界は今、落陽に至るッ――――!!!!」

 

 

 

「その身を原初の塵へと回帰せよッ――――!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――撃ち墜とすッ!!!『神失墜せしめし邪竜の怒り(バルムンク・グラム)』ッ!!!!」

 

 

 

 

「――――消エ去レッ!!!『原初へ回帰する雷神の雷槌(ソア・ミョルニール)』ッ!!!!」

 

 

 

 

(そら)が、落ちてくる。

 

まるで、巨大な隕石の様に落ちてくる、その雷撃に、銀は竜の息吹を叩きつける。

 

相反する、天と地の衝突は、周囲の根や蔓を一瞬にして消し飛ばし、大気を弾けさせ、慟哭させる。

その二つの力の衝突は一見拮抗しているように見えるが、よくよく見れば、銀の方が押されている。

「ぐ・・・・うぅ・・・・・!!」

雷とは、神の怒りと同義に扱われてきた。

そもそも、過去において、西洋では様々な災害などは、全て神の仕業だと言われてきたのだ。

その怒りを一点に凝縮されたその(いかずち)は、この世の全てを原初の塵と化す。

さらに、かなりの電気量を集束して放っている。

それに対して、銀はたかが一匹の竜の生命力を絞り出しただけ。

それでもなんとか均衡を保てているのはもはや奇跡と言っても良い。

だが、そんなものは長くは続かない。このまま行けば、確実に銀は撃ち負けて全て消し飛ぶ。

 

(ファブニールの・・・・師匠(せんせい)の力は・・・・こんなものじゃないッ・・・・!!!)

 

だが、銀は信じている。まだ、この力に、先がある事をッ!!

 

(押されている理由は、アタシだ・・・!!)

 

銀は、恐れている。この力が、自分を蝕む事を。既にがしゃ髑髏の因子をその体に受け、人の枠から外れた存在になろうとも、さらに人外の存在になる事を、心のどこかで恐れていたのだ。

だけど、今更そんな()()()()()事よりも、もっと怖い事がある。

 

(これに負ければ、翼が死に、園子も死に、須美も死ぬッ!!)

 

斧を持つ手に力を籠める。あまりの力に、体が仰け反る。だが――――

 

(当たり前の事実からッ、目を逸らすな―――ッ!!!)

 

無理矢理態勢を整え、そして、銀は叫ぶ。

 

 

「神の樹に仕えし眷属が願い奉る――――」

 

 

斧に埋め込まれた青い宝石が輝きを増す。

 

 

 

「アタシに自由なる勝利の輝きを――――――――ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

瞬間、銀の放つ竜の息吹(ドラゴン・ブレス)がその勢いを増し、雷撃を僅かに押し返す。

「うぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉおおおぉぉおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおッッ!!!!!!」

叫び、斧に更なる力を込める。

だが、それでも完全に押し切るには至らなかった。

(これでも・・・・足りないのか・・・・)

神樹への全力祈祷。

巫女では無いが、神樹とは力を受け取るという形で繋がっている状態にある勇者であるならば、神樹に懇願する事でその力の上限を開放してもらう擬似満開なのだが、そのパワーアップは、確かに『神失墜せしめし邪竜の怒り(バルムンク・グラム)』の威力を高めた。

しかし、それでも真斗の放つ『原初へ回帰する雷神の雷槌(ソア・ミョルニール)』に打ち勝てなかった。

徐々に、竜の息吹の勢いが弱まっていき、雷撃がどんどん押し込まれてくる。

(ち・・く・・・・・しょぉ・・・・・!!)

己の全てを注いでまで勝てなかった事を悔やみ、意識が遠のいていく。

(つば・・・・さ・・・・その・・・こ・・・す・・・・み・・・・・)

そこで、諦めかけた時。

 

 

 

 

 

「――――――相殺しろ」

 

 

 

 

 

突如聞こえた声。

それと同時に、銀の体に、いきなり『鎖』が巻き付いた。

「な・・・!?」

それに、眼を見開く銀。

それは、徐々に、銀を締め上げていく。

「ぐ・・ぅ・・・!?」

それが一体何なのか、銀には理解できない。

しかし、それが限界まで締めあがった時――――

 

 

 

「――――『制限解鎖』生存本能、解」

 

 

 

次の瞬間、鎖が弾け飛び、銀の体の中からとてつもない力が溢れかえり、『神失墜せしめし邪竜の怒り(バルムンク・グラム)』の威力が底上げされ、『原初へ回帰する雷神の雷槌(ソア・ミョルニール)』を掻き消し飛ばした。

「―――――」

銀は、自らの身に起こった事に困惑していた。

一体、何が起きたというのだろうか。

しかし、そう考える間もなく、銀の意識は一気に遠のいていく。

それと同時に、銀の体に、弾け飛んだ鎖がまた絡みつき、やがてそれは消滅していく。

体が仰け反り、銀の意識は、とうとう闇に沈む。

その時、声が聞こえた。

「後は俺に任せろ」

その聞き覚えのある声に、銀は、一つの安心感を抱いて、言葉を紡いだ。

「まか・・・せた・・・・ぞ・・・・」

それを最後に、銀の意識は、闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真斗は、何故自分の大技が相殺されたのか分からなかった。

放てばありとあらゆるものを塵に変える雷神の一撃を放って、それを相殺されたまでが良い。

問題は、その行程だ。

最初は、確実に押していた。その後、何をしたのか、威力があがったが、それでも真斗の一撃を退けるには至らなかった。しかし、その後に、さらにその威力が爆発的に上がったのだ。

それが、一体どういう事なのか、真斗には分からなかった。

だが、そんな事はどうでも良い。

 

 

敵がもう一人増えた。ただそれだけだ。

 

 

自分は強い。誰にも負けない。

この世界を殺す事が出来る。

敵が一人増えただけでなんだというのだろうか。

 

 

しかし、その敵は、目の前にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は変わって――――

「ハア・・・ハア・・・」

倒れる剛の傍に、立つ者が一人。

「ハア・・・うざ・・いん・・・だよ・・・・!」

弘だ。

剛の本気の一撃を受けて、それでもなお立ち上がったのだ。

恐ろしい執念である。

そんな弘の手には、一本の剣。

「ハア・・・ハア・・・・死ねよ・・・このろくでなしがッ!!」

剣を振り上げ、それを剛の首に突き立てようとした、その瞬間。

 

 

 

 

「誰がろくでなしだ。この失格兄貴」

 

 

 

 

濃密な殺意。

それを乗せた一撃が、弘の剣を弾き飛ばす。

「なッ!?」

弘の懐には、いつの間にか、一人の少年が入り込んでいた。

「―――『撃鎖(うちくさり)』」

次の瞬間、弘の腹に、一本の鎖が撃ち込まれる。

「ぐげあ!?」

それは弘を吹き飛ばし、地面に叩きつける。

「う・・・げぇぇえ!?」

胃に諸に入ったのか、中の吐瀉物を吐き出す弘。

しかし、その原因を作った本人は、それを気にも止めずに剛を抱きかかえ、どこかへ飛んでいく。

その先は、銀のいる場所。

その少年は、銀の横に剛を横たわらせる。

その時。

「死ィねぇぇぇぇええぇえええええぇえぇぇええ!!!」

弘が追いかけてきて、剣を無数に放ってきた。

だが。

「ぬるい」

しかし、その剣は全て、どこからともなく現れた一本の『鎖』によって全て弾かれる。

「バカな・・・ぐあ!?」

さらに、その鎖は鞭のようにしなり、弘に向かって振るわれ、地面に叩き落す。

「な・・・なんで・・・!?」

弘は、訳が分からないとでも言うように起き上がる。

しかし、少年は彼に向かってこう言った。

「この程度、『玉藻の前』を使うまでも無い」

纏うは、白と紅の彼岸花を想起させる装束。

その手に持つは、見るも大きな大鎌(デス・サイス)

そして彼の周囲で浮遊するのは、一本の『鎖』。

突如、横から巨大な雷撃が迫る。

しかしその一撃は鎖によって防がれる。

「ウゥゥ・・・・」

真斗だ。

しかし、今の一撃は、当たれば確実に戦闘不能させる事が出来る程の威力だった。

だが、それをいとも容易く防がれた。

あの鎖は一体なんだ?

何故自分の雷を防げる。

ありえないありえない。そんな事あってはならない。

「うぅぅぅぁぁぁあああぁぁあぁあぁあああ!!!!」

真斗は、絶叫し、それだけで電気を発動させる。

しかし、少年は動じない。

「なんだよその表情・・・ひょっとして僕たちを見下してんのか・・・?」

その態度が気に障ったのは、何も真斗だけではない。

「うざいんだよ・・・・大赦に加担しているクズの分際で・・・・僕たちを見下すなぁぁぁぁぁああああ!!!」

弘の体から無数の剣が出現する。

それはまさしく針の(むしろ)

近付くもの全て斬り刻むという意思表示。

しかしそれでも、彼は、動じない。

「別に、見下してなんていないさ」

少年は、地面に左手を置く。

「お前らもお前らで、ギリギリの戦いしてる。それに、俺も、()()()()()()って覚悟してるんだ」

左手から、何かが流れ込んでくる。

「だから、お前らはここで倒して、その後、()()()()()全部終わらせる。だから――――」

 

 

 

 

少年――――不道千景は、戦う事を選んだ。

 

 

 

 

 

「――――出番だ『玉藻の前』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切なものを、捧げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいよ。俺が相手だ」

千景は、襲い掛かってくる脅威二つを迎え撃つ。

 




次回『星を穿つ』

二人の少年少女は星に抗う。

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