不道千景は勇者である   作:幻在

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貴方にだけは負けたくない

「うわぁあああぁぁあ!!」

「ガァァァアァァァア!!」

二人の叫びが響き、剣と雷が降ってくる。

それを千景は鎖を率いて全て弾き飛ばす。

「風遁」

そのまま千景は駆け抜け、左手に集束させた風圧を前方に放つ。

巨大な大気を掌サイズにまで圧縮された空気の戻ろうとする反動は、ミサイルの着弾時の爆発の数倍に匹敵する。

その威力を、まともに喰らう真斗と弘。

だが、二人とも聞いた様子が無い。

「そんなものが効くかよぉぉぉぉおおお!!」

「うがぁあああ!!」

「だろうな」

ふと弘の背後から声が聞こえた。

振り向けばそこには鎌を振りかぶった千景の姿。

だが、千景が鎌を振りかぶる前にその千景に向かって雷が落ちる。

真斗が落としたのだ。

だが、その千景は、雷を喰らった直後に煙となって消滅する。

 

影分身だ。

 

「ハ、そんなもので僕たちを―――」

馬鹿にしようとして前を見た時、弘の言葉は途切れる。

何故なら、目の前に数百にも達する千景がいたのだから。

そのどれもが、炎やら水から、または土や木を使ってこちらを攻撃しようとしていた。

それに対してどう対処すべきか。

「舐めるなぁぁぁああああ!!」

「ウガァァァァァアアァア!!」

弘は体中にある無数の剣を射出。真斗は雷を落としまくって千景たちを殺しまくる。

その中にいる本体を殺すという、当たらぬ鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法を使ってきたのだ。

しかしそれは無駄な行為に他ならない。

何故なら、その中に本体はいないのだから。

「甘いんだよ」

「な!?」

「!?」

気付けば、二人は斬られていた。

地面から、まるで水中に潜水していたかのように、()()()()()()()()()()()()()

片方一撃、計二撃。

その二撃が、二人の体から鮮血を舞い上がらせる。

そして、真斗と弘の二人は狼狽する。

真斗は絶対に傷付かない筈の体の信頼に、弘は剣に纏われている筈の自分の体に。

「な・・・んで・・・!?」

「ドウシテェェェ!?」

しかし、それで千景の攻撃は終わらない。

「おいどうした?その程度か?」

挑発。それに乗らない二人では無い。

「バカにするなぁぁあああ!!」

「ウガァァアア!!」

二人同時に襲い掛かってくる。

「黙れよクズが!こんな世界守ってるクズの分際で、僕をバカにするなぁああ!!」

両手に持っている細剣を振るい、千景を追い詰めようとする弘。

しかし、その言葉は、真斗との猛攻と共に唐突に途切れる事になる。

 

じゃりん、という金属がこすれる音と共に、ガキンッ!という鈍い音が聞こえた。

 

そして、二人は自らの体に鈍色の鎖が纏わりついている事に気付く。

「な!?」

「ん!?」

「言わせて貰うけどさ。ただ相手を下に見る事しか出来ない馬鹿を馬鹿と言って何が悪い」

次の瞬間、真斗と弘の顔面に、とてつも無い衝撃が走る。

それと同時に二人は宙を舞い、地面に落下する。

彼らを吹き飛ばしたのは、変形した土だ。

千景は、足元の地面を変形させて真斗と弘の顔面を殴ったのだ。

吹っ飛んでいった二人を見送る千景。

しかし土煙が舞う中、突如として土煙が吹き飛び、代わりに直線状の雷が千景を襲う。

しかし千景はそれが分かっていたかのように鎖を操作。

四本の鎖を、円状にし、さらにその中心を二本の鎖で交差させ、はみ出た部分を背後へ伸ばす。

そしてその鎖に雷が叩きつけられると、その電気は全て千景の背後へ逃げてしまい、霧散していった。

「ふざけるなよ・・・・」

そして、今度は空中に無数に()()()()()剣。

「お前のような奴が、僕の前に立っちゃいけないんだ・・・・こんなゴミのような世界が、存在しちゃいけないんだ・・・・」

立ち上がるのは、もはや人とは思えない形相の少年。

「こんな世界は、壊れるべきなんだぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁあああぁああああ!!!」

そう、叫んで、空中に装填された剣を全て発射する――――事は無かった。

次の瞬間、どこからともなく飛んできた鎖が、空中に装填された数千にも及ぶ剣が全て砕かれた。

「・・・・・・・・・・・・・は?」

「お前のくだらない持論に付き合ってる暇は無い」

そして、今度はあまりにも濃密な殺意。

前を向けば、そこには禍々しい気配を放つ鎌を持った千景の姿。

「そんなにこの世界が嫌なら、さっさと死ねば良かっただろ」

 

―――我呪う、常世全てを。

 

「だけどお前は死ぬ事が出来なかった、いや、結局死にたくなかったんだな」

 

―――全ての生きとし生けるものに、平等なる死を。

 

「それは憎しみじゃない、ただ怖かっただけだ。お前はただ死ぬ事を恐れたんだ。だって―――」

 

―――故に、これは我が唯一にして最後の真実。

 

妹たち(助けられた筈)の命を、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

――――呪い殺され無に帰せ『殺生・大葉刈』

 

 

 

 

その時、二人を呪われた凶刃が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうだ・・・・僕は、二人を―――――()()()にしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千景は、二人を地面に横たわらせる。

その二人からは、規則正しい寝息が聞こえた。

「ふう・・・なんとか()()()()()()()

その横たわる二人というのは、真斗と弘。

何故、二人が死んでいないのか。

理由としては、玉藻の前の化かす力が大きく関係しているが、理由はもっと別にある。

それは――――

 

 

 

突如、遠くで大きな爆発音が聞こえた。

 

 

 

「!?」

それは、海、壁に穴が空いている方向だ。

そこには、黄金の光が輝いていた。

「あれは・・・・」

それを、自ずと自分の仲間が放った光と直感する千景。

ならば、行かなければ。

「間に合ってくれよ・・・・」

千景は、鎖の力を使って、飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ハァァアアァアアッ!!」」

友奈と幸奈が叫ぶ。

そして互いの拳が正面から叩きつけられる。

「ッ!」

幸奈が体を捻って友奈の顔面に右足で蹴りを入れようとする。

しかし友奈はしゃがんでそれを回避。

そして幸奈の右脇腹に左でブローを決める。

「ぐぅ!?」

さらに左膝で膝蹴りを叩き込み吹き飛ばす。

「がは!?」

踏み止まって蹴られた脇腹を抑える。

(もともと強いと分かってたけど、ここまでなんて・・・・)

「ハァアッ!!」

友奈が飛びかかってくる。右拳を振りかぶり、幸奈に向かって振り下ろす。

しかし幸奈はそれを左手で受け止める。

「!?」

「舐めるな」

その直後にカウンターで友奈の顔面に右ストレートを叩きつける。

「ぐぅ!?」

思わずよろける友奈。そこへ幸奈のアッパーが腹に叩きつける。

「げあ・・・!?」

相当重い攻撃の筈であり、腹を抑えて一歩二歩下がる友奈。

そんな友奈にさらに追撃を仕掛けようとする幸奈。

だが、それよりも、友奈の膝蹴りが幸奈の腹に叩き込まれる。

「があ!?」

友奈が耐えきって、反撃に転じたのだ。

さらに顔面に左ブロー。さらに右でもう一度ブローをかます。

だが幸奈はその二撃目のブローを防ぐなり友奈の脇腹に右フックを叩き込んだ。

「あ・・・・!?」

確実に決まった。しかし、友奈はその右手を掴むと無理矢理投げ技に持って行って後方へぶん投げた。

幸奈は空中で態勢を立て直しどうにか着地。

そこへ友奈が右拳を振り上げって迫ってきていた。

だが距離はあった。

その間に幸奈も右拳を振り上げて待ち構える事が出来た。

そして拳が正面衝突する。

鈍い音と共に、互いの腕に衝撃が走る。

やはり互いの力と技量は同等。

ならばなにで差をつける?

「ハァッ!」

「!?」

突如幸奈の周囲に黒い風が舞ったかと思ったらそれは強力な風圧になって友奈を吹き飛ばす。

「ぐぅ!?」

しかし友奈は、その風に一つの肌寒さを感じていた。

 

幸奈の黒い風の正体は、極寒の吹雪(ブリザード)

全てを氷漬けにする絶対零度の風が、幸奈の力だ。

 

吹き飛ばされた友奈は空中で一回転して着地する。

だがそんな友奈へ追撃しない訳が無い。幸奈はすぐさま友奈に襲い掛かる。

しかし、幸奈が友奈に向かって拳を振るう前に、今度は友奈の周囲に赤い炎が舞い上がった。

「ッ!?」

それは、友奈の精霊『火車』の能力。

「ハァァアアッ!!!」

気合の一声と共に炎の勢いで幸奈を吹き飛ばす友奈。

だが幸奈は踏み止まる。

互いに目が合う。

 

 

 

ムカつく。

 

 

 

そう思った瞬間、二人は同時に地面を蹴る。

「「アァァァアア!!!」」

拳を振るってぶつける。

燃える拳と凍てつく拳。

互いに正反対の性質を持つ、二つの力。

炎は、熱であり、空気を膨張させ、個体を溶かし、液体を蒸発させる。

対して氷は、冷気である、空気を縮小させ、気体を液体に戻し、液体を固まらせる。

これほど、正反対で似通った力があるだろうか。

拳と拳、炎と冷気。

その二つがぶつかり合い、互いの体をどんどん傷付けていく。

友奈の拳が幸奈に当たればその体に火傷を与え、対して幸奈の拳が友奈の当たればその体の凍傷を与えていく。

その傷は、度合いが過ぎれば感覚が無くなる程の傷だ。

それほどまでに、二人は命掛けで殴り合っているのだ。

そして、クロスカウンターで互いの拳が互いの顔面に叩きつけられ、互いに距離を取る。

「「ハア・・・・ハア・・・・ハア・・・・」」

二人の体は、見るも無残な状態になっている。

殴られた箇所は数え切れず、その体に痣や火傷、凍傷の後が残っている。

たった一回殴られた程度でこれだ。

しかし、それで戦いをやめる二人で無い。

だがこのまま行けば平行線である事も間違いない。

ならどうすれば良いのか。

 

生憎と、幸奈なら持っている。

 

「これは、千景君のとの戦いまでにとっておいたかったけど、仕方無いわ・・・・」

突如、幸奈の周囲に黒い風が舞い上がる。

「何・・・!?」

さらに、幸奈の装束が、変化していく。

両腕には、巨大化した手甲。

それはまさしく、()()()()()()()()()()

 

 

「―――『彼の者は霜の巨人の王(スリュム)』」

 

 

彼女から発せられる冷気は、まさしく殺気そのものだった。

「・・・・」

そのあまりの迫力に、友奈はその場に立ち尽くす。

しかし、友奈が呆けている間に、幸奈は体を沈め、そして地面を蹴って一気に友奈に近付く。

「!?」

だが、そこで友奈は我に帰り、幸奈の振るった右拳を一撃をどうにか受け止める。

 

 

 

だが、いささか威力が強すぎた。

 

 

 

直感的にまともに受ければ体が砕けると感じた友奈は後ろに思いっきり飛び、殴られる際のダメージを軽減。しかし吹き飛ばされる際の威力が強すぎて思いっきり吹き飛ばされる。

木の根には、精霊の障壁によって叩きつけられる衝撃は緩和された。

だが、幸奈の右拳を受け止めた右腕は、その大部分が凍傷によって凍っていた。

「・・・!?」

それに声を失う友奈だが、休んでいる事は出来なかった。

幸奈が襲い掛かり、今度は左拳を振るってきたのだ。

それに対して友奈は体を左に傾けその一撃を回避。だがそれだけでは終わらず幸奈の左の蹴りが叩き込まれ吹き飛ばされ、さらに吹き飛ばされる中で追いつかれて蹴り上げられる。

その時点であまりにも重い幸奈の攻撃で、友奈の体はすでにボロボロだった。

そこへ止めの両手を組んで振り下ろすダブルスレッジハンマーが友奈の背中に叩き込まれ、幸奈の斜め下前方の地面に叩きつけられる。

「ぐ・・・・あ・・・」

重い。あまりにも重い。

そして痛い。

あの状態の幸奈は、相当なパワーアップをしていた。

力だけではなく、速さも段違いに上がっている。

まともに受ければ、ただでは済まない。

いや、すでにもうただでは済まない状態になっている。

こうして地面に倒れ伏している間にも、幸奈は刻一刻と近付いてくる。

このままでは負けてしまう。

(い・・・や・・・だ・・・・)

これが、世界の命運をかけた戦い、というものある。

しかし、例え試合であろうと死者の出ないケンカであろうと――――幸奈にだけは――――この女にだけは、負けたくない。

「ッ・・・」

友奈は、歯を食い縛って、自らの端末を取り出し、操作する。

「おね・・・・がい・・・・・」

今、この状況を打開できる、最後の手段。

今まで、おそらく自分の心情を察していたからこそ出て来てくれなかったのだろう、その存在。

沢山の人たちに隠し事をしてきた自分が今更おこがましいのかもしれない。だけど、それでも、今だけは、絶対に負けたくない。

 

絶対に、勝ちたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして、願いが届いたのかどうかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、そう思うしかない。

 

 

 

 

 

 

 

目の前に、一体の精霊が現れた。

それは、こちらを見下すかのように睨み付けていた。

無様に地面に倒れ伏す、自分を嘲笑うかのように。

ああ、まさしくその通りだ。自分は無様だ。

あれほどの啖呵を切っておいて、こんな様なのだから。

だけど、だからこそ、今、彼の力が欲しいのだ。

友奈は、彼に向かって手を伸ばす。

そして、叫ぶ。

「来い―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――『酒呑童子(しゅてんどうじ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸奈は、すでに拳を振り上げて、友奈を捉えていた。

友奈に、自分に勝つ手段は、無い。

だから、自分の勝ちは揺るがない。

そう、その筈だった。

 

 

なのに友奈は立ち上がり、幸奈の腹にこれまでにないほどの重い打撃を食らわせた。

 

 

「が・・・あ・・・・!?」

それだけで、十分だった。

油断していた。それが、幸奈に多大なるダメージを与えた。

腹への一撃、そして、胸への二撃目。

それだけで、幸奈は一気に友奈と同じ状態にされた。

「げほ!?がは・・・!?」

思わず膝をついて、項垂れる。

あまりにも予想外の反撃に、反応出来なかった。

反撃出来た事。それはどうでも良い。

問題なのは、自分と同等以上の打撃を与えて来た事だ。

見上げれば、そこには、巨大な手甲を持った、友奈の姿。

その頭からは二本の角を生やし、装束は別のものへと変化していた。

 

その姿は、さながら、『鬼』だった。

 

そんな姿に突然変異した友奈に、幸奈は驚きを隠せない。

今の勇者システムには、切り札の機能を搭載されていない。むしろ、排除されている筈だ。

なのに、何故彼女はその()()()()使()()()()()()()

だが、そんな疑問に答える前に、友奈は言った。

「来い」

友奈は構えて幸奈を睨み付ける。

それを聞いた幸奈は、一瞬呆け、そしてすぐに表情を引き締め立ち上がる。

「上等よ」

幸奈も、構えた。

巨人と鬼。

互いに、力の象徴とさえ言われる存在。

そんな二人が、今まさに衝突する。

「「ハァァアアアッ!!!」」

絶叫、そして、拳がぶつかり合う。

それだけで大気が震え、地面がへこむ。

「「ッ!!」」

互いの腕に返ってくる衝撃に顔を歪めつつも、二撃目を放つ二人。

今度の攻撃は、すれ違って互いの胸に叩きつけられる。

「がほ・・・!?」

「げお・・・!?」

あまりにも強力な一撃に、互いの口から血が飛び散る。

だが、それでもやめない。

互いの殴られた腹から酷い鈍痛が響く。意識が持っていかれそうになる。

それでも、それでも――――

 

 

 

 

この女にだけは負けたくない。

 

 

 

 

 

 

そこから先は、誰が見ても無残な、泥仕合。

 

しかし両者倒れぬ、激しい殴り合い。

 

拳がぶつかり合い、脚がぶつかり合い、互いの打撃が互いに叩き込まれるたびに血が飛び散り、痣が深くなり、骨が砕ける。

 

しかし、殴られる度、()()()()()()

 

二人の使う、『スリュム』と『酒呑童子』。

 

互いに、力の権化とされる存在ではあるが、そんな()()()の力を身に纏って、果たして体に負荷はかからないのだろうか?

 

答えは、否。

 

勇者の力は、どれも『殻』の力。

力を身に纏うという事は、力の全てを外側に纏うという事。中身は()()()()()()()()のだ。

つまり、身に纏う力によって、外側は強化される。だが、それによって体は強制的に動く為に、自分の許容限度を超えた力に耐えられず、おのずと自滅してしまうのだ。

その点、千景の使う『玉藻の前』は、肉体破壊という点ではその心配はほとんどない。

何せ、妖術を使う事において必要なのは集中力であり、筋力そのものでは無い。

とにかく、そんな規格外な力を振るい続けて、無事では済まないのだ。

友奈はともかく、力を使う事において()()()()()()()()()幸奈であっても、その力には耐えられない。

 

 

「「ご、おえぇえ・・・・!?」」

突如として、二人は大量の血を口かあ吐き出す。

胃の中に溜まった血が吐き出されたのだ。

その血によって至近距離にいた互いにかかり、その装束をさらに赤く染める。

それでも、二人は拳を振るう事をやめない。

とうに体の限界は超えている。

しかしそれでも戦えているのは、一重に彼女たちの精神力の賜物だろう。

「「アァァァアアァァァァァアアァアアアアアアァアッッ!!!!」」

血を巻き散らして、二人は殴り合う。

殴られる度に意識が飛ぶ。しかしすぐに引き戻して反撃する。

骨が砕ける音がする。血管が破裂する音がする。しかしそれでも二人はやめない。

ただただ目の前の女に勝ちたいという、くだらない、しかし絶対に譲れない大きなプライドをかけて。

 

 

「「貴方にだけは、絶対に負けるものかぁぁあああぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁあああぁぁぁあああああああああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあああああああああぁああああッッッ!!!!」」

 

 

その叫びは樹海中に届き、二人を更に血の色に染める。

拳が錯綜する。血が舞い上がる。

しかし戦える。痛みなど涙が出る程度。足が動く。腕も動く。しっかりと地面にその足を踏みしめていれば、何の問題も無い。

 

だから殴り合え。

 

その場から一歩も引かず、ただただ目の前の女を殴れ。

無様に、激しく、苛烈に殴り合え。

前に進め。決して物怖じするな。

体が壊れるならなんだ。相手を壊す事だけ考えろ。他の事は何も考えるな。

欲しいものがあるなら奪え。己が感情に従え。拒絶するな。受け入れろ。欲のままに。傷害を壊していけ。

さあ拳を振るえ。避ける事もするな。負けて後退するなどありえない。ただ前に進め。どれほどの相手だろうと、奪う事に一切の躊躇いを捨てろ。

 

欲しいと思うなら、勝ち取れ。

 

友奈と幸奈が、咆哮し、拳を振るう。そして、それが相手に叩き込まれる度に、血が舞い上がる。

そこからは、二人とも避ける事を放棄し、ただただ相手を捻じ伏せる為に、力のみでの真っ向勝負に出た。

互いに一歩も引かず、倒れる事はせず、ただただ目の前の相手に打ち勝つ事しか考えず。

 

 

いつしか、二人は相手しか見えなくなっていた。

 

 

もし、出会い方が違っていたら、二人は友達になれただろうか。

 

もし、敵同士でなければ、二人はこんな戦いをしなくてよかったのではないのだろうか。

 

しかし、二人の思考に、もはやそんな事は片隅にも無かった。

 

 

 

 

幸奈の拳が、友奈の顔面を捉える。

 

「ァ、――――」

友奈は、それだけを漏らした。

確実に入った会心の一撃(クリーンヒット)

後ろに向かって、ゆっくり倒れ込む。

しかし――――――友奈は踏み止まった。

「ぎ・・・ぁ・・・・」

「そん・・・な・・・・!?」

幸奈は驚愕に、そして友奈は拳を振るうべき敵に狙いを定める為に、目を見開いた。

「ぁぁぁぁぁあああああああああッッ!!!」

そして、友奈の右拳が、幸奈の顔面に叩き込まれ、そして、吹き飛ばした。

幸奈は地面に倒れ伏し、そして、友奈も地面に倒れた。

それと同時に、友奈の変身が解除され、酒呑童子も解除された。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

体中が、痛みを通り越して何も感じない。動かない。

血が物凄い勢いで体中から流れ出ている。

立ち上がる事も出来ない。

「う・・ぼぇえ・・・」

さらには血を大量に吐き出す。

しかし、それでも、友奈は、幸奈を殴り飛ばした。

「・・・・か・・・・・た・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、呟いた時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ァァァァァァアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアァアアアァアァアァァアアァァアアアアァァァァアアァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶叫が響き渡り、突如として巨大な黒い竜巻が巻き起こった。

「!?」

それに、友奈は驚き、そして、見上げる。

その竜巻の中心に、空中に、幸奈がいる方向へ。

「アァァァァアアアァァァァァァアアアアアァアァァァアアアアッ!!!」

咆哮を巻き散らし、周囲にあるもの全てを凍らし砕いていく。

それはさながら、死の竜巻。

振れれば凍らされ、吹き飛ばされる、死の風。

それに、友奈は呆気に取られる他なかった。

そしてその竜巻は、徐々に友奈に近付いていき、そして友奈に到達する。

「あぁぁあああぁああぁぁあぁぁあぁああ!?」

振れた友奈の肘が、凍り、全く別の痛みを伴い、友奈を絶叫させた。

このままでは凍る。風に吹き飛ばされるよりも速く、凍らされてしまう。

しかし体が動かない。死ぬ。死んでしまう。嫌だ。死にたくない。逃げよう。どこに。どうやって。

友奈の体は動かない。その間に友奈の左肘は凍っていく。

しかし突如として友奈の体が何かに引っ張られ、竜巻から引き離される。

浮遊感。その後に、背中を叩きつけられる。

「あぐっ!?」

叩きつけられた衝撃で、友奈は一瞬視界を明滅させる。

だが、今度は左肘を温められるような感覚を感じ、そちらに目を向ければ、火車が友奈の凍った肘を溶かそうとしていた。

「火車・・・」

さらに、友奈の頬を何かが舐める。

「牛鬼・・・」

牛鬼だ。まるで、彼女を慰めるかのように、顔についた血を舐めとっていた。

そして、ふと首をあげれば、目の前には、こちらに背を向ける酒呑童子の姿があった。

「酒呑童子・・・・」

彼の見る方向。そこには、あの黒い竜巻を巻き起こす幸奈の姿が。

そこで、友奈の視界が急激に狭まる。否、遠視を発動させられる。

「・・・・!?」

そこで、友奈は見た。幸奈の体に霜が降り、さらには、その体に亀裂が入ってきている事を。

あの竜巻は、幸奈の体さえも傷付けて引き起こしているのだ。

あのままでは、いずれ体中が凍り、砕けてしまう。

そうなったら、彼女は死んでしまう。

 

そんなのは、嫌だ。

 

例え、負けたくない相手だとしても、死んでしまうのは、嫌だ。

誰かが死ぬなんて、そんなの、認められない。

それに、彼女が死ぬ事を―――――千景が、望むはずが無い。

 

友奈は、体を無理矢理動かし、うつ伏せになり、酒呑童子の方へ這いずる。

「牛・・・鬼・・・・火・・・・・車・・・・」

そして、手を伸ばす。

「酒・・・・呑・・・・童・・・・子ぃ・・・・!」

歯を食い縛って、友奈は、もう一度、言う。

「おね・・・がい・・・・・もう、一度・・・・・力を・・・・」

 

 

 

 

私の全てを代償にして、力を貸して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして、願いは聞き届けられた。

酒呑童子が振り向き、友奈を見下す。

しかし、友奈は笑う。

「・・・・ありがとう」

一度、深呼吸をして、友奈は黒い竜巻を見つめ、叫ぶ。

「うぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁあぁああぁぁああぁあぁあぁぁああぁぁぁぁぁああああぁあぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁあああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁあ」

その絶叫に、答えるかのように、友奈の体が炎に包まれ、その姿を、勇者装束へと変える。さらに、その背後に、見るも巨大な、剛腕が出現し、友奈の装束をさらに変化させる。

そして極めつけに、友奈の頭部に二本の角が生え、その歯は恐ろしい程に尖りだす。

 

それは、紛れも無い『鬼』。

 

この世の全てを力と暴力で奪ってきた、暴虐の化身。

おおよそ友奈の性格上、合わないと思うだろう。

 

しかしそれは否、断じて―――否ッ!!!

 

彼女は傲慢である。

 

己の力で他人を笑顔に出来るという傲慢を持っている。

 

彼女は強欲である。

 

他人の笑顔を勝ち取る為になんでもする強欲さを持っている。

 

彼女は横暴である。

 

勇者部という立場を利用し、他人の笑顔を横取る横暴さを持っている。

 

 

 

 

 

彼女は、鬼である。

 

 

自らの障害には、一切の容赦を問わない鬼である。

 

 

 

 

 

 

 

 

即ち―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――彼女は目の前の竜巻を叩きのめし、幸奈を助ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

満開の力で、飛翔し、友奈は、その剛腕を竜巻に叩きつける。

物凄い力が反発してくる。

その重さに、友奈は思わず顔をしかめる。

既に自身の体はボロボロ。満開によって力を強化し自らを強化したとはいえ、体の傷が治る訳ではない。

これが長引けば長引くほど、友奈の体はどんどん傷付いていく。

このままいけば、取り返しのつかない事になるかもしれない。

(かまわ・・・ない・・・・・!)

取り返しのつかない。それならそれでも構わない。

だって、誰かが死ぬのなんて、そんなの嫌だから。

傲慢と言われようとも構わない。偽善だと言われようと構わない。

それでも、友奈は、諦めない。

だって、彼女は、鬼であり、一人の少女であり――――

 

 

 

 

 

 

勇者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉおおおおおおおおおおッッ!!!!」

竜巻を突き破る。それと同時に剛腕が砕け散る。

しかし、その中にも()()()()()()()()

それを、今度は酒呑童子によって巨大化した拳を叩きつけ、それさえも突き破る。

そして、突き破ると同時に、酒呑童子の力さえも砕け散り、勇者装束が元に戻る。

だが、さらに一枚、また逆回転する風の壁があった。

しかし、友奈はそれさえも拳を叩きつけ、突き破る。

何かが砕ける音と共に、友奈の勇者装束が消える。

だが、それで、十分だ。

幸奈に到達すれば、それで、良い。

友奈の指先が、幸奈の胸に触れる。

 

 

そこで、目があった。

 

 

幸奈は、友奈が来た事で、先ほどまで無かった正気を取り戻した様だった。

 

 

しかし、幸奈は、友奈の姿を認めると、やがて、眠る様に目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、幸奈の胸を、友奈の炎が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い竜巻が消え、幸奈と友奈が落下していく。

二人に意識は無く、成す術も無く、落下していく。

しかし、どこからか金属同士が擦れる音が響いたかと思うと、友奈と幸奈の二人を、一つの影が捕まえ、地面に着地する。

幸奈はすぐに地面に降ろされたが、友奈は、どういう訳か躊躇われた。

「・・・・・お疲れ様」

友奈を支える人物、千景はそう呟くと、すぐに幸奈の横に降ろされた。

立ち上がる千景。

そして、周囲を見渡す。

既にバーテックスは翼と美森の奮闘によって全て消滅している。

だが、まだ樹海化が解除されていない。

その理由は、バーテックスがまだ残っているか、あるいは、まだ壁が修復されていないか。

「・・・・・ここで最後にするか、か」

千景は、振り向く。そして、見上げた。

そこには、頭に妖しく光るリングを頭に、ピンクの髪を靡かせ、腰から純白の翼を生やし、ノースリーブのシャツのようなものと丈の長いスカートを履いた、美しい女性がいた。

「お前が黒幕か」

「まあ、ボス的な立場で言ったらそういう事になるのかしら?」

「天の神の使いとは、随分と派手な装いに身を包むんだな」

「それは、貴方も同じではなくて?」

「そうかもな・・・まあ、その理由も、()()()()()()()()()()()()()()()

そう、彼女はこの世界の存在ではない。

 

 

事の始まりは三百年前。西暦の時代。

この世界に、異世界の神々が侵攻してきた。

そして異世界の神はこの世界の神々にこう宣言した。

 

『この世界にいる生命を全て消し、新しい世界を創る』と。

 

当然、この世界の神々はそれに憤り、戦いが始まり、―――――そして呆気も無く敗れた。

しかし、異世界の神々は、この世界の神々との戦いで大きく消耗し、自ら手を下す事が出来なくなったために、異世界の神は生物の頂点である、『バーテックス』を作り出して、地上に解き放った。

それによって地上は蹂躙され、この世界の生命は絶滅の危機を迎えた。

生き残った神々は、せめて最後の抵抗として、自ら集まり、今の神樹となったという。

 

 

これが、千景が()()()()()()()()()()()()()()()

「なんでこの世界を狙った」

千景はそう聞いた。

「別に、貴方達に話す義理は無いわ。どうせ死ぬんですもの。話したところで無駄に終わるだけよ」

しかし女性はその質問を蹴っ飛ばした。

「そんな事はさせねえよ。絶対にな」

「いいえ、成し遂げるわ。我らが主の()()の為に、貴方達『勇者』には死んでもらうわ」

彼女の周囲に、八つの浮遊する剣の様なものが現れる。

「そうかよ。だったら俺はこの世界を守る為に、お前を倒させて貰う」

千景は構え、九つの尾の毛を逆立たせる。

 

 

 

 

 

今、ここに、天と地の代表同士の戦いが始まる。




次回『終わらぬ命などなく、それでも世界は廻り続ける』

それは、世界の理。

絶対不変のこの世の絶対法則。

天と地、神の使いと神の眷属の正面衝突。
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