不道千景は勇者である   作:幻在

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終わらぬ命などなく、それでも世界は廻り続ける

千景は地面を蹴る。

正直、相手の手の内はさっぱり分からない。

どんな攻撃を仕掛けてくるのか、どんな手段を持っているのか、どんな能力を持っているのか。

それらがさっぱり分からない相手に、いきなり突っ込むのは、あまりにも無謀。

しかし、先手を打たなければ、戦いのペースとやらを相手にとられかねない。

ならばどうするか。

「影分身」

千景は、自分の分身を無数に作り出す。

そして、その分身たちに、軽くていい。とにかく様々な属性で相手を攻撃するように指示を下す。

それを聞き入れた分身たちは、それぞれが様々な属性の攻撃をアモルに向かって仕掛ける。

一人は炎を吐き、一人は水を打ち上げ、一人は雷を落とす。土を変形させてそれを棘状のして飛ばす者もいれば、風を圧縮して作った空気爆弾なるものを直接ぶつけようとする者もいた。

とにかく誰もかれもがなんでもかんでも様々な攻撃を繰り出そうとしている。

しかし、アモルはそれに、微笑した。

次の瞬間、無数の光の軌跡が飛ばされた攻撃、そして、分身たちに迸り、全てを無効化する。

その内の一つが、千景に迫る。

「ッ!?」

千景はそれをどうにか鎌で防ぐも、その重さに大きく下がる。

「ぐぅッ!?」

「こんな攻撃で、私を仕留められるとでも?」

アモルは、挑発するように嘲笑う。その周囲には、あの剣状のファンネルのようなもの。

「・・・・ぬかせ」

また、千景は地面を蹴る。

最初の攻撃は失敗に終わった。

分身如きが本物と同じレベルの術を放てるわけが無い。

しかしそれでも、一体だけでも岩盤を壊す事ぐらいは出来る筈だ。

それを、いとも容易く防ぎ、分身のほとんどを倒された。

あの浮遊する剣は厄介だ。だが、それに対する対処法も知らない。

出来るとすれば―――

「ハッ!」

「あら?」

鎌を持って迎撃する事だ。

分身の一体が、高圧の水弾を放つ。

しかし、それは光る浮遊する剣の腹に止められる。

だが、その間に別の一体が砂塵を巻き起こし、アモルの視界を遮る。

「これは・・・・ッ!?」

その間に、千景が背後に回り、鎌を振り上げる。

その鎌の刃は、半透明の三日月型となっていた。

 

「―――『大葉刈』ッ!!!」

 

「くッ!!」

アモルは慌てて三本の剣を重ねて千景の大葉刈を防ぐ。

火花が散り、アモルの剣と千景の鎌が押し合う。

「小癪な手を・・・!」

「それが俺なんでね!」

千景が弾かれ、すぐさま砂塵の中に隠れる。

アモルだけがよく見えるように舞い上がっているために、千景からはアモルの姿がよく見える。

しかしアモルからは千景の姿を捉えられない。

状況的には、千景が有利に見えるだろう。

しかし―――

「そんな魔法を使えるのは、貴方だけじゃないのよ」

手をかざすアモル。

「暴嵐よ、駆け抜けよ」

次の瞬間、アモルの頭上に緑に輝く魔法陣が展開されたかと思えば、いきなりアモルを中心に竜巻が巻き起こる。

「なにッ!?」

風に引っ張られる。千景はそれにどうにか耐えるも、その代わり、砂塵は全て吹き飛んだ。

「雷鳴よ、打ち据えよ」

今度は黄色の魔法陣かと思ったら複数の雷が、的確に分身たちを撃ち貫いていく。

そして、今度は本物の千景に向かって雷が落ちてくる。

「ッ!!―――『天鎖刈(てんさがり)』ッ!!」

突如として千景の周囲に無数の鎖が出現。

その鎖が、千景を守る様に渦巻き、雷を防ぐ。

「へえ。それが貴方の()()()力ね・・・」

アモルが興味深そうに千景が出した鎖を見る。

 

 

『天鎖刈』

その正しい名前は『御神刀・天鎖刈』。

それは、千景の故郷の神、創代が作った()()()()()()()()()()()()()()()()()

その能力は、主に『鎖』。

主武装は大鎌であるが、特筆すべきは能力である鎖だ。

鎖により多彩な攻撃や防御法によって相手の魔器を破壊する武器だ。

 

 

 

詳しい説明は、後にしておき、とにかくこの天鎖刈の能力は『鎖の()()を自在に操る』事だ。

 

 

 

 

「見た目、弱そうだけど・・・・それが『概念』となると話は別になりそうね」

今、千景の持つ武器は、天鎖刈に大葉刈の霊力を与えた状態の、いわば神樹と創代の力を織り交ぜた状態なのだ。

装束が、以前とものと変わって紅白だというのも、その二つの力を織り交ぜた結果なのだ。

だが、侮る事なかれ。鎖の能力が付与された事で、千景の戦闘能力は大幅に向上している。

千景が地面を蹴り、飛び上がる。

「あら、翼もないのに空中戦を挑むというの?」

アモルは、手をかざす。

「水流よ、叩き流せ」

複数の魔法陣が展開され、そこから高圧の水流が放たれる。

それに対して千景は、鎖を操作して、自らの体に絡みつかせ、その水流を回避する。

「ッ!?」

(鎖を使って、無理矢理・・・!?)

時には引っ張られ、時には乗り、時には押し出され、千景は鎖を使って、身動きの取れない空中だというのに攻撃をかわしていた。

「雷遁―――」

千景が反撃に出る。

空中に、紫に光る玉をいくつか設置する。

「あれは・・・!?」

「紫電よ―――」

紫電が迸り、アモルを撃つ。

「くうッ・・・!?」

そこで一瞬怯んだアモル。

その隙を千景は逃さず、一気に飛びかかる。

しかし。

「引っ掛かったわね」

「何・・・!?」

次の瞬間、千景の体から鮮血がほとばしる。

「な・・・!?」

背中が斬られているのだ。

「あら、浅いわね」

「くッ!!」

自らを鎖で引っ張り、どうにかアモルと距離を取って地面に着地する千景。

「くそ・・・・」

「そろそろ、()()()()()()()()()?」

そう、アモルが呟いた。

それと同時に感じた濃密な殺意が、千景の体中のうぶ毛を逆立たせる。

何か、とてつもなく嫌な予感がする。

「――――()()()()

ただ、一言。

それだけで空中に展開された、直径が大人三人分のサイズの魔法陣。

そこに、何かが集束されていく。

(あれは―――まずい――――ッ!!!)

喰らえば、確実に()()

千景は、そうなる前に行動を起こす。

 

そして、それが解放された。

 

「―――『終焉の砲(ハルマゲドン)』」

 

強大なエネルギーが、樹海の根を焼却する。

その砲撃が、走った場所は、その全てが焼かれ、塵も残さず消滅していた。

「あら、上手く避けたみたいね」

その、大きく消滅した場所のすぐ横に、千景はいた。

「ハア・・・ハア・・・」

焼け焦げた匂いが、鼻腔に突き刺さる。

焼かれた空気を吸い込み、肺が焼けそうになる。

 

先ほど放たれたのは、それはまさしく燃えるエネルギーそのもの。太陽の発するエネルギーそのものだ。

 

それが()()()ながらも放たれればどうなるか。

空気は焼かれ、大地は溶け、そこあるもの全てを塵一つ残さず消滅させる。

「やれやれ、人間の体だから、威力が小さくなってしまったわ。まあ良いわ」

アモルは、千景を見下す。

「もう少し遊んであげる」

アモルは、近くに浮遊する光る剣のうち、四本を千景に向かわせる。

「くッ!」

千景はその最初の一撃を防ぎ、その衝撃を利用して後ろに吹っ飛び二撃目を回避する。

しかし三撃目は避け切れず右肩を掠ってしまう。

そのまま後ろに倒れ込み、地面から垂直に落ちてくる剣を地面を転がって回避する。

剣はそのまま地面に突き刺さるも、他の剣が、千景を襲う。

千景は、その度に鎌を振るい、弾き飛ばす。

「ふふ・・・」

しかし、どういう訳か早く終わらせたいのか、アモルはさらに無数に魔法陣を展開する。

「な・・・!?」

「くたばりなさい」

アモルが手を振り下ろせば、ありとあらゆる属性を纏った巨大な矢が降ってくる。

炎の矢、雷の矢、風の矢、氷の矢、ありとあらゆる属性の矢が降り注いでくる。

それが地面に着弾する度に爆発を巻き起こし、地面を吹き飛ばす。

さらに、その中にはあの砲撃の劣化版を放って、千景をさらに追い詰める。

やがて攻撃の嵐が収まる頃には、千景はすでに満身創痍で地面にひれ伏していた。

「無様ね。あれほどの啖呵を切っておいて、この様なんて」

アモルは声を挙げずに嘲笑う。

(ち・・・く・・・しょう・・・)

玉藻の前と、天鎖刈の力を率いても、アモルに圧倒されている。

このままでは、敗北してしまう。

そうなれば――――この世界が終わる。

(そんな、事は・・・させない・・・・!)

千景は、動かない身体に鞭を打って立ち上がろうとする。

「あら、まだやる気なの?」

アモルが、そう言ってくる。

当たり前だ。こんなところで、寝てなんていられない。

皆、頑張ったのだ。

風は佐奈を倒し、剛は弘を否定し、樹は美紀を殴り、園子は命懸けでその手助けをし、銀は己の全てをかけて真斗の天撃を相殺し、翼と美森は全てのバーテックスを倒し、夏凜は強敵である翔琉を討ち取った。

そして友奈は、幸奈に勝った。

全員が、それぞれ頑張ったのだ。

ならば、自分もやらなければならない。自分だけノコノコと後から来ておいて、何も出来なかったなんて、そんな恥晒しな事、死んでも出来ない。

 

だから―――――

 

 

 

 

 

『本当に良いの?』

 

郡千景(かのじょ)が聞いてくる。

 

―――ああ、構わない。

 

不道千景(かれ)は頷きを持って答える。

 

『もう、皆に会えなくなるかもしれないわよ』

 

誰かが消えるよりはマシだ。

 

『怒られるかもしれないわよ』

 

その時はその時だ。殴られる覚悟もある。

 

『泣いてしまうかもしれないわよ』

 

その時は・・・・いや、どちらにしろ泣かせるのは決まっている。

 

『そう・・・・戦いは、終わらないわ』

 

その点については、貴方にすまないと思っている。俺の勝手な都合で、貴方の願いを断ち切ってしまう。

 

『いえ。貴方は間違っていないわ。友達よりも世界を優先するなんて事は、私が許さないもの』

 

それは、手伝ってくれるって事で良いのか?

 

『そうなるわね。もともと、貴方を止められるとは思っていなかったから』

 

随分と気前が良い事で。

 

『そうね。私は『失格勇者』。誰かを止める権利も、咎める権利すらもない、()()()()()()()だもの。でも、それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から』

 

なら、決まりだ。

 

 

『ええ、()()()の全てをかけて、奴を倒しましょう―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして、覚悟は決まった。

 

 

 

神から、力を奪い取れ。

 

怒りを買おうが、恨まれようが関係無い。

 

(わたし)にとって、神樹(おまえ)の事なんざどうでも良い。

 

ただ、皆が笑顔でいられるこの世界を守りたいだけなのだから。

 

 

その為に、千景は左手を神樹の根に押し当てる。

 

 

 

さあ、怒り狂え。

 

お前が最も嫌っている人間風情に力を奪われる事に屈辱を感じろ。

 

俺の願いのため、俺の守りたいものの為、俺はどんな悪意も受けよう、罪を受け入れよう、罰を刻もう。

 

ただ、たった刹那の時だけは、俺に猶予をよこせ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――玉藻の前、完全同調」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海が、震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・・!?」

アモルは、その震動に、目を見開く。

樹海の全てが震え、大気が震え、()()()()()()

それはさながら、怒り狂うかの様に。

そして、その怒りの矛先は、アモルに向けられていない。

 

アモルの目の前で今まさに起き上がろうとしている少年に向けられていた。

 

「どうして・・・・」

アモルは、困惑する。

この世界の敵であるアモルにその怒りを向けず、何故、一人の少年にのみ、その怒りを向けるのか。

しかし、それはすぐに分かった。

 

千景の髪の毛が、急激に伸びる。

 

「!?」

さらに、白く、金色に染まっていく。まるで、激情が駆け抜けていくかのように、想いを全身に行き渡らせるように、黄金に染まっていく。

それだけではない。装束が大きく変化し、腰から生える九本の尻尾はその大きさをさらに大きくし、頭に生える三角耳はさらに獣らしくなる。装束は中に白い勇者装束と羽織と袴へと変化し、その姿はならがら――――

 

 

――――妖美な狐娘のようだった。

 

 

「・・・・」

その美しさに、アモルは思わず絶句してしまう。

それもそうだろう。何せその美しさは、ありとあらゆる男を魅了し虜にする妖狐のものなのだから。

しかし、その絶世の美女に変化した千景が眼を開ければ、その呆けは一瞬にして吹き飛んだ。

その目は、こちらを射抜き、今にでも殺すとでもいうかのような殺意を向けていた。

アモルは、それに対して、身構えた。

 

一体何が来る・・・?

 

そう、疑問に思った時、千景が鎌を持ち上げ、構える。

そうして、地面を蹴った時、一瞬にしてアモルの後方に迫った。

「!?」

それに驚く間もなく、千景は飛び上がり、アモルの眼前へと迫り、鎌を振るう。

アモルは、それを慌てて二本の剣によって防ぐも、鎌の進行方向より反対側から爆炎が舞いブースト。そのまま一気に吹き飛ばされる。

「ぐぅ!?」

吹き飛ばされるなか、千景はさらなる攻撃を仕掛ける。

鎌を振り切った状態から術を発動。

目の前に、何かの力を集束させた黒い玉を出現させ、それに左手をかざせば、それからどす黒い流れの砲撃が放たれる。

「これは・・・!?」

その砲撃はアモルを直撃し、爆発を巻き起こす。

しかし、煙が晴れれば、そこには何かのバリアを展開したアモルの姿があった。

「・・・・まさか、反物質を作り出すなんてね」

それはある物質に対して、全く逆の性質を持つ物質の事だ。

そのエネルギーは強大で、小さなものでも強大な爆発を引き起こす事の出来るエネルギーであり危険なもの。

千景はそれをいとも容易く作り出したのだ。

「その力・・・まさか、神から力を奪って私と同等以上の力を手に入れるなんて、貴方は神の敵になりたいようね」

その皮肉に対して、千景は、

「・・・もとからそのつもりだ」

否定しなかった。

「そう、でも、貴方はここで殺して、神樹を殺すわ」

「そんな事させないって言ってるだろ」

睨み合う二人。

しかし、すぐさま二人は動く。

アモルは樹海を焼いた砲撃の魔法陣を複数展開。

対して千景は反物質を生成し、さらにそれらを分身に任せる。

そして同時にその強大な力を真正面からぶつけ合わせる。

大気が焼かれ、激しい衝撃波を巻き散らす。

その衝撃波が収まったところで千景が飛び出す。

「オオオッ!!」

鎌を振り上げ、アモルに斬りかかる。

「ハッ!!」

アモルはそれを剣の一本を持って迎撃。

千景はそれを天鎖刈の鎖を持ってしばりつけ、それを足場にしてさらに加速。

それに対してアモルは拳を振り上げる。

「『巨人の腕(ジャイアント・ブロウ)』」

アモルの目の前に現れた魔法陣。

それに向かってアモルが拳を振るった瞬間、その魔法陣から巨大な腕が出現。

「なッ!?」

その巨大さは、友奈の満開の剛腕よりも大きく、電車の車両三台分はあるほどに長く大きい。

しかし千景は体を回転させ直撃を回避。スレスレの所で、新幹線のように迫ってくる剛腕を回避し、千景はその腕に鎖を打ち込み、その腕を伝ってアモルに接近する。

「暴嵐よ!」

しかし、後一歩のところで風に吹き飛ばされ距離を取らされる。

だが、それでも千景は諦めない。

地面に降り、脚から地面にアクセス。妖力を流し込んで地面を変形させ、その土を一気にアモルへ向かわせる。

アモルは、それを爆炎を持って破壊。

お返しとしてアモルは氷のナイフを雨のように降らせる。

それを鎖によって初めの数発を弾き飛ばし、その隙を使って火焔で全て溶かす。

さらに鎌を振りかぶって、カマイタチを引き起こしてアモルへ飛ばす。

アモルはそれを回避し、その間に千景は飛び上がる。

そして紫電の球体を出現させ、それを一斉にアモルへ放つ。

それらがアモルに直撃する。

「ぐぅ・・・!?」

苦悶の声をあげるアモル。

その隙に、千景は一気に距離を詰める。

そして鎌を振り上げ、一気に振り下ろそうとした。

しかいその時、頭上から巨大な足が出現し、千景を叩き落す。

「ぐぅあ!?」

その質量に思わず悲鳴をあげる千景。

地面に叩きつけられる前に鎖でどうにかその足から逃れ、踏みつぶされるのを回避する。

「『巨人の脚(ジャイアント・スタンプ)』」

アモルがギリギリの所で発動した魔法のようだ。

だが、アモルの攻撃はそこで終わらない。

また魔法陣を展開するアモル。

「打ち据えよ、その身果てるまで」

次の瞬間、まるで多段ミサイルのような砲撃が、千景に向かって放たれる。

「ッ!?」

千景は慌てて飛び、その砲撃を回避しようとするが、その砲撃のほとんどが千景を追尾してくる。

「チッ!」

千景は鎖を持ってその砲撃から逃げる。

その際に爆発が巻き起こされるも、千景は逃げ続ける。

しかし、これでは埒が明かない。そのために千景は、その無数のレーザーのような砲撃に対して電撃を巻き散らした。

するとそれに反応したレーザーミサイルが一斉に爆発、相殺される。

そして千景はアモルに向かって反撃を仕掛ける。

両手を広げ、左右に一つずつ、力を集束させる。

それは圧倒的熱量を持った砲撃。

「喰らえ・・・!」

二つの極太の熱線が、アモルに迫る。

これに対し、アモルも同じような砲撃で対抗。

双方真正面からぶつかり合い、大きな衝撃を巻き起こし、相殺する。

その激しい攻防の中で、二人とも、一進一退で戦った。

「・・・・見事だわ」

そんな中、アモルが感嘆の声を漏らす。

「この私にここまで互角に戦える人間がいたなんてね」

アモルは、自分と対峙する千景を心から賞賛する。

「だから、最大の敬意を持って、私の最大の一撃で貴方を葬ってあげるわ」

アモルの目の前に、巨大な魔法陣が展開される。

それは、天上の存在のみが放てる、絶対的殲滅攻撃。

「そうか。それは光栄な事だな」

しかし、千景はそれを前にしても動じない。

「だけど、葬られる訳にはいかない」

大きく振りかぶって、千景は、自らの持つ鎌に、死の概念を圧縮する。

「守りたいものがあるんだ」

そのために、千景は己の持つ最大の攻撃を放つ。

 

「――――恐れよ人間、あがき苦しみ、本心を晒せ」

 

「――――恐怖に身を委ねよ、終わりをその身に受け入れよ」

 

「――――終焉をここに、守護する神無き今、等しく死に晒せ」

 

 

 

 

 

「―――――『災厄・大陸終焉(ディザスター・ロストランド)』」

 

 

 

 

 

 

 

大陸を焼き尽くす破壊の一撃が、千景に向かって、放たれた。

それは全てを焼き尽くし、全てを薙ぎ払い、地面を焼き、跡形も無く、灰も残さずに消し飛ばす。

その直撃を、千景は諸に喰らった。

(終わったわね・・・・)

アモルは、そう確信した。

自身の最大の攻撃であり、大陸をも滅ぼすこの攻撃を受けて、無事でいる者などいないだろう。

それこそ、神でもなければ防ぐ事など不可能だ。

そう、目をつむり、哀悼の意を表した時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――咲き乱れるは紅い花、染め()くは死した生命」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

確かに聞こえた、千景の声。

「馬鹿な、一体どこに・・・・!?」

アモルは、慌てて探す。

砲撃は今なお続いている。

そして、千景は確かに飲み込まれた筈だ。なのに、どうして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――花は時と共に散り、それ故に世界は廻る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに・・・!?」

アモルは、必死に探す。

もしこれで見つけられなければ、間違いなく自分が()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――故にこれは世界の真実、我が唯一にして最後の真実」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼は姿を現した。

 

 

 

 

 

 

アモルの放った()()()()()()()()()()()()()()()()()()、魔法陣を突き破って。

 

 

 

 

 

「・・・・・・嘘」

アモルは、その千景の行動に目を見開いた。

あまりにも、千景の無謀な行動に、唖然としているのだ。

装束のほとんどが焼け消え、残っているのは下半身の装束のみ。

さらに体の所々も火傷しており、決して無傷で来たわけでは無いようだ。

だけど、それでも、あまりにも()()()()()

こんな自らの体を灰にしてしまうかもしれない砲撃を前にして、まさか、自分から突っ込むなど。

一歩間違えれば、消し炭になって死んでしまうかもしれないのに、何故自ら真正面から突っ込んだのか。

(ああ、そうか・・・・)

しかし、アモルは、千景の目を見て悟った。

その目に、諦めは無かった。

もし、この戦いに負ければ、大切なものが消えてしまう確信の恐怖が彼の背中を押し、そして、その恐怖が彼を前に進ませているのだ。そして、必ず勝つという、勝利への執着が、彼を砲撃の中を突っ走らせるという行動を引き起こしたのだ。

だから彼は迷わず飛び込むことが出来た。

それに、アモルは最大の敬意を持って、その一撃を受け入れた。

 

 

 

それは、この世の理。

 

生きとし生ける全ての生命(いのち)に与えられた、回避不可能な運命。

 

鳥も、犬も、猫も、狼も、獅子も、木も、花も、草も、人も、――――――そして星も。

 

この世にあるもの全てが持つ、終わり。

 

 

これは、その終わりの力

 

 

 

「―――――『終わらぬ命など無く、そ(ヒガンバナセ)れでも世界は廻り続ける(ッショウセキ)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に降り立ち、千景は周囲を見渡す。

そこには、激戦によって悲惨な事になっている、樹海。

「・・・・・終わった」

そう、確かに、戦いは終わったのだ。

そして、守り切った。

この世界を、この世に生きる人々を。

それに、千景は安堵の息を漏らす。

先ほどの砲撃を受けて、上半身の装束は全焼。下半身の方も決して無傷という訳ではなく、いくつか焼け落ち、体の節々にある火傷も目立つ。見るも無残とはこの事だろう。

しかし、生きている。

皆生きている。

まずはそれでよしとしよう。

そう思い、千景が友奈の元へ向かおうと歩き出す。

 

 

 

 

 

次の瞬間、千景の体を、根が背後から貫いた。

 

 

 

 

 

 

「な・・・・!?」

それに目を見開く千景。

胸を貫かれ、しかし血の一切が撒き散らされない。

それはまるで、()()()()()()が目的であるかのように。

意識だけが、何かに引きずり込まれるように、薄れていく。

(そう・・・だった・・・)

そこで千景は、アモルとの戦いによって忘れていた事を思い出す。

自分は今、神から怒りを買っている。そこへさらに()()()()()()ような事をすれば、こうなるのは当然。

千景は、もはや抵抗も忘れてそれを受け入れる。

もともと自分は神から嫌われている存在。

こうなる事は分かっていたのだ。

ならば、その運命を受け入れよう。

(ご・・・めん・・・・みん・・・な・・・・)

そして、千景の意識は、完全に闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに、一つの戦いが終わった。

誰にも語られぬ事のない、小さな聖戦が、幕を閉じた。

 

 

 

これは悲願の物語。人が世界を取り戻す物語だ。

 

 

しかし今は、一時の安らぎを・・・・




次回『約束』

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