不道千景は勇者である   作:幻在

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約束

大赦本部。

「―――――先日の戦いにおいての結果を報告させて貰います」

広い会議室にて、春信は、手元の書類を読み上げる。

「まず、勇者の被害から。

 

乃木園子、関節部の断裂間際、内臓にも傷がついており、しばらくの療養が必要。しかし後遺症は残らないとの事です。よほど綺麗に切られたのでしょう。

次いで、犬吠埼姉妹については、姉の犬吠埼風が体中に矢傷を負い、特に脚の損傷が深いようですが、しばらく安静にしていれば後遺症は残らないとの事です。次いで妹の犬吠埼樹は最も軽傷と言えるでしょう。問題は皮膚が酸によって溶けているという事で、体には、その痕が残るとの事です。

次に三ノ輪兄妹。兄の三ノ輪剛は手の損傷が激しく、穴がいくつもあり、縫合が難航したため、完治には数年が必要との事。後遺症も残るとの事です。

妹の三ノ輪銀に関しては、何かしらの原因で意識不明の重体。生命活動に必要な体力が著しく低下しているとの事です。しかし、万全の状態で安静にさせていれば、数日中には起きるとの事です。さらに、()()()()()()()()()()()、数日の間に()()()()()()です。

次に六道翼。彼は満開『金弓箭』の連続使用により、体のほとんどを供物として捧げ、現在、視覚及び聴覚も完全に停止、さらには声も出せないとの事です。

東郷美森も同様に、声は出せますが、六道翼同様、視覚と聴覚の機能を完全に停止、うかつに動かせない身体となっています。

次に三好夏凜。彼女は体中に切り傷をつけられ出血も激しく、現在重度の低血圧と酸欠状態に陥っているとの事で、集中治療室にて、輸血と治療に専念しています。しばらく起きる事はないでしょう。

そして()()に、結城友奈。両腕の完全損壊。ほとんどの内臓破裂。体の一部に凍傷がみられ、体中の骨も砕けており、血管もいくつか破裂。()()()()()と推定されています。今後の生活において、支障が出る事は間違いないでしょう。特に、腕には、これまでにない程に制限がかかりそうかと」

「家族の方には?」

一人の神官がそう聞いてきた。

「すでに連絡済みです。三ノ輪銀の安否と現状についても、この際、三ノ輪家に明かしました」

「そうか、では、今度は襲撃者側について」

「はい。

 

阿室佐奈。体の構造が一部変形しており、外見には表れていませんが、おそらくある程度の行動は制限されてしまうでしょう。多少の打撲もみられます。しかし日常生活においての問題は見られず、このままにしていても大丈夫でしょう。

車田真斗は背中に大きな切り傷がある事以外、大きな傷は見られず、順調に回復していっているとの事。

加賀弘は、顔面の骨が多少変形していますが元に戻ってきているとの事。しかし胴体に方は巨大な圧力にかけられたためか肋骨が何本か折れており、一部肺に刺さっていたとの事です。しかし精神面でどういう訳か少なからずダメージがあるようで、しばらく放心状態が続くとの事です。

針目美紀はこの中で最も軽傷。顔面に打撲の後があるのと、胸に急所を外して何かに刺されたような跡がある程度で、それ以外に気になる外傷はありません。

次に稲成幸奈ですが、こちらも結城友奈同様に全身ボロボロ。しかし損傷はこちらの方が軽く、回復の見込みはこちたの方が高いとの事です。胸の火傷が気にはなりますが、それ以外にこれといった外傷はありません。

八神翔琉は、胴体切断により『死亡』。

そして、襲撃者たちの親玉と思われる人物『倉科(くらなし)愛里(あいり)』―――阿室佐奈の証言から、異世界の『断罪の神』の傘下である『愛を司る天使』『アモル』も、()()()()()()()死亡しています」

「それだけかね?」

「はい、()()()()です」

ここのトップの人間であろう問いかけに、春信はそう答えた。

「では、今度は現実世界への被害を」

「はい。今回の戦いにおいて、現実世界への影響に、あまりにも多い落雷。建物の原因不明の倒壊。強い酸性を持つ酸性雨。交通事故の同時多発。これらの被害により、死者は千人以上に上るとの事です」

会場がざわつく。

しかし、それを一人の男が手をあげた事によって一瞬にして静まり返る。

「・・・西暦の『千景災害』ほどじゃないだけマシだろう」

そう、感想は一言だけ呟いただけだった。

「今回の戦いにおいて、東郷美森の処罰はどうする?」

「今回、勇者が誰一人駆ける事なく勝利出来たので、不問にしてもよろしいかと思います。()()()()()()です。通常、このような状況が起これば、確実に死者が出ていたでしょう。故に、勇者が誰一人死ななかった事に、喜ぶべきではないでしょうか?」

勇者は人類最後の希望。どんな時代においても、勇者を務めた者は、必ず()()()()()()()

今回は、それが無かったのだ。

「それもそうか・・・しかし、壁を壊し、神樹様に少なからず力を使わせた事については、やはりそれ相応の処罰をするべきだろう」

「そうですか・・・ならば、彼女を六道家の監視下に置くのがよろしいのではないでしょうか?」

「その真意は?」

「六道家次期当主である六道翼と東郷美森は、二年前の神樹館にいた時において、すでに恋人同士です。ここで婚約を認めてしまえば、彼女は自然と六道家の人間となります。そうなれば、彼女は自然と我々の管理下に置かれる事になります。そうなれば、彼女が勝手な行動を起こす事は無くなるでしょう。常に監視されている訳ですから」

「そうか・・・・」

「それに、過剰な罰を与えれば、六道翼が黙っていないでしょう。彼らは暗部。いつでも我々を皆殺しにする事が出来るのですから」

その、脅しともいえる言葉は、確かな説得力を持っていた。

しかし、長であろう神官はそれに怯える事無く、それを了承した。

「良いだろう。東郷美森の件についてはそれで良しとしよう」

そして、その神官は手をあげる。

「今回の会議はこれまで、各自、それぞれの執務に戻る様に」

 

 

 

 

 

 

春信は廊下を歩いていた。

「春信」

そんな春信に、声をかける者が一人いた。

辰巳だ。

「辰巳師匠・・・」

「会議の結果はどうだった?」

「東郷美森への処罰は、六道翼の婚約によっ六道家の監視下におくという事で纏まりました」

「そうか・・・・」

「今回の戦いにおいて、襲撃者全員の身柄を捉える事に成功しましたが・・・」

「・・・・文化祭には、参加できんだろうな」

彼ら勇者部が最も楽しみにしていたイベントの一つ。

今回の戦いで、彼らはあまりにもダメージを負い過ぎた。

完治までに、文化祭に参加する事は―――――不可能に等しい。

「・・・・何故、俺達は、大事な物しか奪えないのだろうな」

辰巳の懺悔のような言葉に、春信は何も言えない。

体中に刻まれたこの傷は、春信にとっては罪の証。友を守れなかった、自分への罰。

「春信」

辰巳は、春信に向き、告げる。

「お前、確か理科の教免を持っていたな」

「はい」

「ならば、讃州中学へ教師として行け。そこで顧問として、勇者部を守れ」

辰巳の『命令』に、春信は――――

 

「―――御意」

 

確かな頷きを持って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丸亀城の石垣の上で、夕日を見るのが辰巳の日課だ。

かつて、辰巳にとって大切な人と、一度しか見れなかった、その夕日を見る事が。

その夕日を見ながら、辰巳は、呟く。

「・・・必ず世界を取り戻す。それが、お前のとの約束だからな。ひなた」

 

死ねない呪いをその身に受けた、孤独の竜。

 

約束をその身に背負い、誰にも理解出来ぬ苦しみを知る、独りの竜。

 

 

 

それは、彼に課せられた『呪われた約束』。

 

 

 

辰巳は、拳を握りしめ、仮初の夕日を見る。

「必ず・・・この約束を果たして見せる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、一人の少女が眼を開けた。

見知らぬ天井。体中にまかれた包帯。いくつもの機械に、何本ものチューブ。

体を動かそうとしても動かない。

手を伸ばそうとしても、伸ばせない。

体は拘束され、ただただ、縛り付けられていた。

どうしてこうなっているのか、彼女には分からなかった。

しかし、次第に思い出していく。

一人の少女と、全力で殴り合った。

体がどれほど壊れようと、己の全身全霊を込めて戦った。

その結果、勝った。

しかし代償が大きかったようだ。

おそらく両腕は使い物になっていない。治るどうかもわからない。

体の中も、なんだかぐちゃぐちゃなような気がする。

もはや、自分が生きているのかどうかも分からない。

しかし、一つだけ気になる事がある。

 

皆は無事だろうか。

 

勇者部の皆は生きているだろうか。

痛い思いをしていないだろうか。

大丈夫なのだろうか。

いつも他人の事しか考えなかった彼女は、ただの一度も自分の心配をせずに、他人の心配ををする。

東郷美森、六道翼、犬吠埼風、犬吠埼樹、三ノ輪剛、三ノ輪銀、三好夏凜、名前の知らない金髪の子。そして―――

 

(――――あれ?もう一人、誰かいたっけ・・・・?)

 

いや、()()()()()。勇者部は、三ノ輪銀と金髪の子を除いて全員で七人だ。

そう、七人だ。

(うん。ちゃんと、()()()()()()()

少女は、そう想い老け、襲ってきた睡魔に身を任せ、闇に意識を沈める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――なんで、忘れられるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い、(くら)い、声を聞きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、数日後の別の場所で。

「・・・・・」

少年は、神社のとある間で目を覚ました。

しばし天井を見上げた後、起き上がり、そして額に手をあて、呟く。

「『・・・そうか、戻れたのか(戻れたのね)」』

声が混じっている事に気付き、慌てて確認を取る。

「気分はどうだ?」

『どうにか。貴方の方は?』

「俺も問題はないな」

一つの体に二つの精神。

そんな感じで互いに会話をしている。

『というか、一々声に出さなくても、心の中で話せばいいじゃない』

「それもそうか・・・・」

『寝起きで寝ぼけてるのかしら?』

(かもしれない)

少年は立ち上がり、いつの間にか開かれている戸から外に出る。

そして、鳥居に立ち、少年は、日の出を見る。

「・・・・」

『もう、皆忘れてるでしょうね』

(そうだな。だけど、これで良い。これで良いんだ)

彼がそこにいるだけで、彼女たちに更なる不幸が降りかかるだろう。

だから、そこにいてはいけない。

いれば、きっと、迷惑をかけてしまうから。

 

日常を壊してしまうから。

 

「だから、ここでお別れだ」

『もう、会う事も、無いでしょうね』

少年と少女は、これから目覚めていくであろう仲間たちに、最後の言葉を送る。

 

 

 

 

「『ありがとう、さよなら」』

 

 

 

 

 

 

ふと、背後から足音が聞こえた。

振り向けば、そこには見知った顔がいた。

「・・・・おかえりなさい」

「・・・ただいま」

そして、彼は、もう一つの居場所に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、悲願の物語。

 

人類の世界を取り戻す勇気(ねがい)の物語。

 

人知れず死んでいった者達への鎮魂歌(ねがい)の物語。

 

終わる事なき戦いに終止符を打つ(ねが)いの物語。

 

 

 

これは、救われるべき物語。

 

 

 

()()()()()物語。

 

 

 

決して、人間以下の失格勇者を救う物語ではない。

 

 

 

 

 

しかし、それでも――――

 

 

 

 

 

郡千景(かのじょ)不道千景(かれ)は、確かに誰かを守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、悲願の物語。

 

 

 

 

そして、人間以下の烙印を押された一族が、人知れず人を救い続ける――――

 

 

 

 

 

――――人の未来を悲願(ねが)う物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不道千景は勇者である――『彼岸花の章(リコリス)』完

 




次回

不道千景は勇者である 原点の章(オリジン)

『終わった生活 新たな生活 そして過去を思い出す』

一つの物語が終わり、新たな物語が幕を開ける。
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