不道千景は勇者である   作:幻在

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原点の章《オリジン》
終わった生活 新たな生活 そして過去を思い出す


高知県絡久良(からくら)市。

そこが、千景の故郷の名前である。

そして、千景が香川に行くまでにいた施設の名前は『百合籠(ゆりかご)』。

そこの一室にて、不道千景は目覚めた。

「・・・そうだった」

『おはよう』

「おはようご先祖様」

頭の中に響いた声、千景の先祖である郡千景(以下『郡』)に挨拶し、千景は、自分がどこにいるのかをものの数秒で理解し、起き上がる。

引っ越した時のままの部屋は、意外と綺麗だが、ベッドはつぎはぎだらけで、机は傷だらけだ。

しかし、それでも掃除はしっかりとされていた。

一階にある食堂に出て、すぐそばに繋がっている台所に入る。冷蔵庫を開けて中に入っている食材の量を確認する。

「確か、前よりかは数が減ったな。その代わりちびっこどもが増えたからなるべく食べやすいもの・・・・」

『無難なもので良いんじゃないかしら?ほら、焼き魚とか』

「よし、無難にいくか」

千景は冷蔵庫からある程度の食材を取り出すと、包丁を片手に料理を始める。

『手際良いわね』

「そりゃどうも」

その数分後、食堂に、ここの管理人である氷室雄二が出てきた。

「ああ、そういえば料理当番は君だったね」

「おはようおっちゃん」

「おはよう」

「前まではアイツらがやっててくれたみたいだからな」

「そろそろ起きてくる時間だと思うよ」

そう話し合っていると、食堂の扉が開いた。

「む・・・」

「おはよう、浅羽」

それは眼鏡をかけた目付きの悪い少年だった。

「・・・チッ、そうだったな」

「相変わらずだなお前は・・・」

「別にお前が何をしていようが態度を変える気は無い」

と、冷淡に椅子に座る少年の名前は『浅羽(あさば)海路(かいじ)』。

千景と同い年であり、この施設で友に暮らしていた同僚のようなものだ。

(ま、以前のようにゴミを見るような目じゃないだけマシか・・・)

そう一人納得して調理を続ける千景。

そのすぐ後、扉が勢い良く開かれる。

「いっちばー・・・・ああ!?もう海路が来てる!?」

次に入って来たのは茶髪のショートカットの活発な少女。

「おはよう、白露」

「ああおはよ・・・・って君に言われるとなんかむず痒い・・・」

新井(あらい)白露(しらつゆ)』。それが彼女の名前だ。

彼女は赤ん坊の頃からここにおり、名前の由来は白露の日に拾ったからだそうだ。

料理が完成し、皿に盛りつけようとしたところで、さらに人がやってくる。

「うぃーっす」

「おはよ」

「グッモーニンッ!!!」

「ぐえぇえ」

「おはよう、皆」

上からここの職員の一人であるやる気なさげなオジサンは『森谷(もりや)真武郎(まぶろう)』。

小柄な電波少女のような可愛らしい薄水色の髪をした少女は『水霜(みなしも)冬樹(ふゆき)』。

そして朝から英語で叫んだのは『浜田(はまだ)徐丹(ジョニー)』という頭を金髪に染めた高校生の男。周りからは『ジョニー』と呼ばれている。

そしてそのジョニーに首根っこを掴まれたまま引っ張られているのは病的なまでに真っ白い肌をした低血圧の少年『冷泉(せいぜん)(みつる)』。

そして最後に来たのは、大学生にもなってここに残っている『桐馬(りきま)(みやび)』だ。

「おはよう」

「おはようっス所長」

氷室が入って来た彼らを出迎えた後、盛り付けをしている千景の元に雅がやってくる。

「手伝いましょうか?」

「じゃあそこの味噌汁頼んだ」

その後も、ここにいる施設の子供たちや職員が続々と食堂に入って来た。

そして、千景や雅、他数名が全員の前に食事を運んだところで、その者達も席に着く。

「ん?信也の奴はまだ来てないのか?」

「あの馬鹿・・・」

千景が気付いて、雅が額に手をあて呆れる。

一応、千景はこの場にいる数名がこちらに向かってきまずそうにしている事に気付いている。

「起こしてくる」

『扉の後ろにいるわね』

「いや、そこの扉の後ろにいる」

「あ、そう・・・」

千景の指さす先に行った雅は、そこへ入っていくと、何度かの鈍い音の後に中に入って来た。

「連れて来たわ」

「わーお強引だねえ雅ちゃん」

真武郎が苦笑し、雅の手には頭にたんこぶを作った一人の少年が引き摺られていた。

「いくらなんでもそれは・・・・」

「この方が良いのよコイツは」

「分かった。分かったから放してくれ・・・」

少年が懇願する。

「あ、そう」

それで雅はあっさりと手を離した。

「おはよう、信也」

「・・・・」

千景の挨拶に、返さずにそっぽを向いて千景の隣の席に座る少年。

 

彼の名前は『磯部(いそべ)信也(しんや)』。

かつて、千景の虐めていた()()()()()()の一人だ。

 

その信也の反応に時に気にした様子も無く、千景は目の前の食事に向く。

「では、食べようか」

『頂きます』

氷室の合図とともに、全員が一斉に食事を開始する。

「そういえば千景。アンタ今日はどうする気なの?」

「今日は椿さんと一緒に神社に行く予定だよ。昨日は奏さんに会えなかったからな」

「昨日は学校で夜遅くまで神事やってたからね。仕方ないでしょ」

ごく普通に話し合う雅と千景。

「・・・」

その様子を遠巻きながら見る白露。

「どしたの?」

「ん?ああ、雅姉はすごいなって思ってね」

「ん・・・それは、同感」

なにせ、()()()()()()()()()に、普通に話しているのだから。

「どうして、雅姉は普通に話せてるんだろ・・・」

「それは、わから、ない」

二人して、不思議がるのだった。

 

 

 

 

「それじゃ、行ってくるよ」

「遅くなるようだったら連絡を入れるように」

「分かってんよ。じゃ」

百合籠を出て、千景はとある人物の家に行く。

『変わってないわね』

「三百年経ってるんじゃないか?」

郡とそのような会話をしながら、千景は目的地へ向かう。

そこは、ごく普通の一軒家。

その玄関前で。

「それじゃあ、優をお願いします」

「分かりました」

「行ってくるねお母さん」

「ああ、いってらっしゃい」

二人の女性と、子供が二人。

二組の親子が向かい合っており、片方の小六ぐらいの子がもう一人の子供の方へと行き、そのまま別れて行ってしまう。

残ったのは子供が行ってしまった女性の方。

白髪で褐色肌の長身でスタイルが物凄くよく、美森以上の胸を兼ね備えた容姿をした女性。

「椿さん」

「ん?ああ、千景か」

そして、千景はその女性をよく知っていた。

「優は友達の家に?」

「ああ。都合よくな。向こうで昼もとるそうだ」

「なら、昼過ぎまで神社にいても大丈夫そうですね」

「そういう訳にはいかないさ」

彼女の名前は『安座間(あざま)椿(つばき)』。

千景と同じ、『救導者』である。

 

 

 

「向こうでの生活はどうだった?」

「大変でしたよ。毎日毎日人助けやら猫探しやら、休みなんて一日もありませんでしたよ」

「でも楽しかったんだろう?」

「まあ、それが俺の()()ですからね」

二人して商店街を歩く千景と椿。

椿は、一児の母ではあるが、夫は、とある事件にて死去しているために今は未亡人だ。

生涯、そのままであり続けるそうだ。本人曰く、『愛する者は一人と決めている』だそうだ。

ふと、目の前に花屋見えた。

千景は、その店の前で花の手入れをしているマッチョの男性に声をかける。

「おはよう吾郎さん」

「ん?ああ、千景か」

花屋の店主、吾郎が千景と椿に気付く。

「最近はどうだ吾郎」

「いやあ、その・・・まあ、ボチボチです」

「む?なんでそんなに緊張しているんだ?」

吾郎の態度に首を傾げる椿。

しかし千景は知っている。

 

かつてヤクザの一員だった吾郎をフルボッコにしたのは、椿だという事を。

 

『末恐ろしい人ね・・・』

(ある意味、東郷以上にな)

「まあ、とりあえず、真琴は元気ですか?」

「あ、ああ。この上なく元気だよ。風邪にはかかりやすいがな」

吾郎の言葉に、千景は安心した様に笑う。

そうして吾郎と別れ、千景と椿は、神社へと続く階段を昇る。

その先にある、神社につけば、一人の少女が、巫女装束を着て、神社に落ちている落ち葉を箒ではいていた。

「奏さん」

千景が声をかければ、その少女は振り向き、そして表情を綻ばせる。

「久しぶりね。といっても、三日ぶりか」

少女、神代奏は、笑顔で千景を出迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、早速膝枕ですか・・・」

「ご無沙汰だったからね~」

出会って早々、神社の縁側で奏の膝に頭をのせている千景。

「こうしてみると、あの頃を思い出すな」

椿が懐かしそうに呟く。

「まあ、この態勢からここの庭を見るのも、随分と久しぶりに感じますから、分からなくは無いです」

千景も思う。

この景色を見るのも、一体何年振りなのだろうか。

「本当に、懐かしいわね。貴方がまだ小学生だった頃を」

「あの一年は本当に忙しかった・・・」

「はは、違いない」

三人して笑い合う。

本当に、あの一年は大変だった。

そう思うほどに、あの一年は刺激的で、危険で、命懸けで、そして、千景が命を賭してでも守りたいと思った、この街での、ごく普通に過ぎていく、当たり前の日常を――――

「どうしたの?」

「いや、思い出してただけ。友奈たちと出会う前まで、俺がやってきた事を、全部」

「そう・・・」

記憶を取り戻した今、千景は鮮明に思い出せる。

 

 

終わった日常の事を、そして、自分がこの街でやってきた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、一人孤高に戦い続けた、少年の物語。

 

彼は救いと報いを感じる事は無く、ただ一人、他人の幸せだけを願って、ただ一人傷付き続けた。

 

彼に平穏など無く、安らぎなどなく、束の間の安息すらも無い。

 

彼に向けられるのは、明確な悪意のみ。

 

しかしそれでも彼は戦い続けた。

 

孤高に戦い続けるその姿に、何も知らない人々は、こう呼ぶだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『哀しい勇者』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、二年前。神世紀二九八年。

その日、街には雨が降っていた。

ありとあらゆる音は、その激しく降り注ぐ雨の音にかき消され、誰も、()()()に気付かない。

否、気付いていながら無視をする。

そこは空き地。

そこに一人の少年がボロ雑巾のように寝ていた。

傷口からは血が流れ、青い痣がその肌によく目立っていた。

しばしして、少年は起き上がる。

雨に打たれ、体温が低下しているものの、それは少年にとっては()()()()()()()()()

問題は()()()()()()()

歩けなければ、施設に帰る事などできないし、また、雨宿りも出来ない。

 

最も、()宿()()()()()()()()が。

 

そこで、ふと少年は空き地の片隅に、光る何かを見つけた。

少年は気になり、それに歩み寄って拾う。

それは、何かの柄。

刀身を根元の少しだけ残した状態で、とてもではないが、これでは使い物にならないだろう。

「・・・・」

しかし、少年はそれに不思議と惹かれ、そこらに落ちていたボロボロのランドセルの中に入れた。

そして少年は、帰路につく。

 

 

 

 

 

のちに、彼は、この街で『勇者』と呼ばれる事になるのだが、それは、まだあとの話だ。




次回『怨まない少年』

少年は、誰も憎まない。狂っているかのように。
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