不道千景は勇者である   作:幻在

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勇者になった日

翌日。

 

讃州中学。

千景がいる教室にて。

千景と友奈、そして美森の教室は基本的クラスは別々だ。

まあ、友奈と美森が同じクラスで千景だけが違うクラスという感じだ。

しっかりと授業を聞き、ノートを取っていく。

(文化祭の出し物、結局決まらなかったな・・・・)

ただその内心は昨日、部長たる風から言われた文化祭の出し物について考えていた。

「うーん・・・・」

先ほどノートを取っていると言ったがあれは嘘だ。

ノートには文化祭の出し物についての案が色々と書かれていた。

「ダメだ・・・・良いのが思いつかん・・・」

唸る千景。

 

―――その時だった。

 

突如、千景の携帯が騒がしくブザーを鳴らす。

「なっ!?」

驚く千景。

「どうした不道?授業中は携帯の電源は切っておく決まりだぞ?」

「す、すみません。今すぐに・・・ん?」

ふと鞄からスマホを取り出し、その液晶画面をのぞいた千景は首を傾げた。

その画面には、こう書かれていた。

 

樹海化警報

 

「樹・・・海化?」

訳が分からない。

だが、そんな事を考えるよりも、もっと大きな『異常』に気付いた。

「あれ・・・?」

周囲が、まるで時間が止まったかのように動いていなかった。

鳥も、人も、物も、何もかもが止まっていた。

静止、していた。

「どうなってんだ・・・・」

立ち上がる。

「そうだ、友奈・・・!」

思い出し、走り出す。

だが、それよりも速く、窓の向こう側から差し込んだ光が、行動を阻止する。

「なんだ!?」

眩い、虹色の光。それは壁となり、世界を書き換えるかのように侵食していく。

「く・・・・!?」

その光に思わず腕で顔を庇う。

やがて、その光が収まり、千景は手をどかす。

「な、なんだよ・・・・これ・・・」

そこは、先ほどまでいた教室ではなく、巨大な根が張り巡らされた空間だった。

その色は様々な色をしており、あまりにも巨大で、自らが立っている足場でさえ、根の一部。

とにかく、広大だ。

「どうなってんだ・・・友奈たちは・・・・」

千景は、手に持っていた携帯の液晶画面を取り出す。

「なんだこれ・・・」

その画面は変わっており、アプリはたったの三つ。

試しに、マップらしきアプリを起動してみる。

「あ・・・」

そこには、複数の座標を示す表示が出ていた。

「友奈・・・・!?」

その座標には、結城優奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹の四人の名前があった。

そして、不道千景の名前も。

千景は走り出す。

目的は当然、友奈の元。傍には東郷もいるうえに、風と樹の二人もその二人の元へ向かっているため、おそらく一緒に合流できるだろう。

「友奈!」

「あ、千景君!」

友奈を見つける。

それと同時に風や樹も合流する。

「良かった、皆携帯を手放していたら見つけられなかった・・・って千景!?」

風が安心するようにつぶやいた、が何故か千景を見て驚く風。

「ケイタイ?」

「このマップアプリの事ですか?」

「あ・・・そ、そう、その隠し機能はこの事態に陥った時に自動的に機能するようになってるの」

だが千景と友奈はそれを気にした様子はなく、その問いに風は慌てて対応する。

「このアプリにそんな機能が・・・」

美森がそう呟く。

「これ、風先輩に入れろって言われたアプリですよね?」

「風先輩、何か知ってるんですか?ここがどこなのかも」

美森の言葉に、風はしばし俯き躊躇うと、やがて観念したかのように口を開いた。

「みんな、聞いて。実は私・・・・大赦から派遣された人間なんだ」

 

 

 

 

 

この外の世界は、死のウィルスによって、この四国以外の全ての国や土地の生命体が死んだ。

では、何故この四国だけは無事なのか。

その理由は、三百年前に、神樹と呼ばれる木の加護によって、そのウィルスの侵攻を塞き止め、どうにかこの四国だけは救ったそうだ。

それから三百年。生き残った人類はこの世界で何の不幸もなく暮らしていけている訳なのだ。

つまり、神樹とは信仰すべき絶対的存在であり、大赦とはその神樹を祀っている機関だ。

というか、この四国を治めている最高機関と言っても良い。

 

 

 

 

「樹ちゃんは知ってたの?」

「ううん、はじめて・・・」

「当たらなければずっと黙っているつもりだった・・・・だけど、私の班・・・讃州中学勇者部が当たりだった」

「その班とか当たりっていうのは一体・・・」

「今見えてるこの世界は、神樹様の結界の中なの」

「なら、悪い所じゃないんですね」

友奈が安心するように言うが、風の表情は浮かないままだ。

「ええ・・・でも、神樹様に選ばれた私達はここで敵と戦わなければならない。ここには、私達以外には、()()()()()から」

「敵・・・?」

千景が首を傾げる。

「あの・・・この乙女型っていう点はなんですか?」

美森が、携帯の画面に表示されている、自分達以外の点に気付く。

「・・・来たわね」

風が見据える先に、それはいた。

まるで、映画の怪獣の様な、異形の化物が、こちらに向かっていた。

足はなく、どういう訳か浮遊している。

「敵ってまさか・・・あれ・・・ですか・・・?」

友奈が、震える声でそう聞く。

 

「バーテックス。世界を殺す為に攻めてくる、人類の敵よ」

 

風が、そう言う。

その間にも敵、バーテックスはこちらに真っすぐ突き進んでくる。

頂点(バーテックス)・・・・」

「世界をコロスって・・・」

千景がバーテックス、『ヴァルゴ・バーテックス』を睨みつけ、友奈はそんなまさかと言った表情でそう呟いた。

しかし、突如、千景の頭に鋭い痛みが走る。

「ツッ!?」

それと同時に、脳裏にどこかの風景が映し出される(フラッシュバックする)

「お姉ちゃん、今までずっと一緒だったのにそんな事聞いた事ないよ・・・」

「今初めて話したからね」

泣きそうな樹をなだめるように微笑む風だったが、すぐに表情を引き締め、ヴァルゴを睨みつける。

「バーテックスの目的は、この世界の恵みである神樹様に辿り着く事。そうなった時、世界は、死ぬ」

ごくり、と誰かがつばを飲み込んだ。

「そんな・・・あんなのと戦えるわけ・・・・」

「でも、やらなければならない。ですよね、先輩」

「ええ。大赦の調査で、私達がもっとも適性がある事が分かったんだ。戦う意思を示せば、このアプリの機能がアンロックされて、()()()()()()()()()

その時、敵が尾の部分から何か小さな球体が吐き出される。

「な!?何か来るぞ!」

千景が叫ぶが遅い。

その球体は彼らの近くに着弾すると、爆発を巻き起こす。

だが、被弾した者はいない。

「友奈!東郷を連れて早く逃げて!ここは私がどうにかする!」

「わ、分かりました!」

「樹も一緒に!」

だが、樹は姉から離れようとしない。

「ダメ!お姉ちゃんを残していけない!」

その行動に目を見張る風。

「ついていくよ。何があっても」

樹が、真っすぐに風を見つめる。

「樹・・・」

「どうすればいいの?」

真っ直ぐこちらに視線を向ける樹。

それに諦めたかのように微笑む。

「・・・私たちは神樹様に守られているから、大丈夫。樹、続いて!」

「う、うん!」

スマホの画面に表示されているボタンを押す二人。

その姿は、大きく変わり、服装が変化していた。

 

風の姿はオキザリスを想起させる黄色の装束、

樹の姿は鳴子百合を想起させる緑の装束へと変化する。

 

風の手には自らの身長もありそうな無骨で巨大な大剣が握られており、樹の片手首には、わっか状の飾りがあった。

なんとも勇者らしい服装の風に対し、樹は賢者のような恰好になっている。

ふと、彼女たちの目の前に、謎の生物が出現する。

「わ、ナニコレ?」

「この世界を守ってきた力、『精霊』よ。神樹様の導きで、私たちに力を貸してくれる攻撃の力!」

駆け出す風。

「戦い方はアプリが教えてくれるわ!」

「わー、待ってよお姉ちゃーん!」

 

 

 

 

 

 

一方で、遠い場所へ退避した千景たち。

「本当にここには私たちしかいないみたい・・・」

「・・・・」

美森がそうつぶやくなか、千景は周囲の光景を見つめていた。

(・・・・俺は・・・この場所を知っている・・・?)

まるで、かつてこの場所で戦っていたような、そんな懐かしい感覚。

だが、千景にそのような記憶はない。

生まれてこの方、親の顔も知らず、施設で暮らし、こんな場所に来たなんて記憶はない。

ましてや美森のように記憶喪失なわけでもない。

もしそうなら、その空白の部分に何かあるのではないかと思うが、生憎と千景にその様な事はない。

だが、確かに千景はこの場所を知っているし、どういう訳か、あの怪物のことを知っている。

何故、その様に思うのか。

千景には分からなかった。

「風先輩!そっちは大丈夫ですか?バーナントカってのと戦っているんですか?」

『こっちは樹と二人でなんとかする。そっちこそ、東郷と千景は大丈夫?できるだけ離れてて!』

風の叫び声が、友奈の携帯越しに聞こえる。

「・・・ごめんなさい・・・私・・・・怖くて・・・できない・・・」

「・・・・」

美森が俯きながらそう言う。

「東郷・・・」

「東郷さん、いいよそんなの。誰だって怖いからね?さあ、早く安全な場所に行こう!」

友奈がそう元気付けるように言う。

『友奈・・・東郷・・・千景・・・黙っていて・・・ごめん・・・』

風からの謝罪。

『三人は必ず、アタシが助ける!』

そんな威勢の良い声が聞こえた。

「・・・・風先輩は、皆の為にと思って、ずっと黙っていたんですよね。こんな大変な事、一人でずっと抱え込んで・・・それって・・・勇者部の活動目的通りじゃないですか!風先輩は悪くない!」

友奈がそう言い放つ。

だがその直後、向こう側で爆発が巻き起こる。

「風先輩・・・・樹ちゃん・・・!?」

それを見た友奈の表情が強張る。

(助けないと・・・)

そう心の中で呟く千景。

だが、体が動かない。

「くそ・・・なんで・・・」

あの怪物が、怖いのではない。

そう、これは、もっと別の――――――。

「お願い逃げて!友奈ちゃんが死んじゃう!」

「ッ!?」

美森の悲鳴によって現実に引き戻される千景。

そこには、今まさにヴァルゴが放った爆弾が友奈に直撃するところだった。

「友奈ちゃん!」

「友奈ァア!」

爆弾が、友奈に直撃する。

爆風と土煙が舞い、視界が遮られる。

思わず、腕で顔を守る二人。

やがて風が収まり、目を開けてみると、そこには、拳を突き出し、佇む友奈の姿があった。

その拳には、桜色の籠手(プロテクター)が装着されていた。

「・・・友奈ちゃん?」

「友奈・・・」

「・・・嫌なんだ・・」

友奈の姿が変わる。

爆弾が迫る。

「誰かがが傷つく事。辛い思いをする事」

それを拳、脚を使って迎撃し、すべて撃ち落とす。

「みんながそんな思いをするくらいなら・・・・」

髪の色が、赤から、鮮やかなピンク色になる。

「私ががんばる!」

 

友奈の姿が、山桜を想起させる桃色の装束へと変化する。

 

その姿は、まさしく勇者を名乗るに相応しい。

「ッ――――――!」

その友奈の姿を見たとき、千景の脳裏で、懐かしい情景が映し出される。

 

(わたし)の大事な――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何をしている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈が飛び上がる。

その拳を振り上げる。

「勇者―――――パァァァァァンチ!」

そして、その拳をヴァルゴに叩きつける。

その瞬間、ヴァルゴの体の一部が吹き飛んだ。

「友奈ちゃん・・・・」

「・・・・あれじゃダメだ」

「え?」

ふと、千景がつぶやく。

 

 

戦え

 

 

まるで、自分の血に刻まれた記憶が駆り立てるように。

 

 

戦え

 

 

細胞に書かれた想いが背中を押すかのように。

 

 

戦え

 

 

いくつもの世代を渡って、受け継がれてきた遺伝子が、鼓舞するかのように。

 

 

 

戦え

 

 

 

そう、これは、ずっと昔、(不道千景)が生まれるずっと前、成し遂げる事の出来なかった悲願。

 

 

 

戦え

 

 

 

悲しい思い出がどうした。一度諦めたからってなんだ。情熱を燃やせ。ただ一人思う者のために前へ進め。

 

 

 

 

 

戦え

 

 

 

 

 

武器を取れ。(わたし)は、その為だけに、ここにいるのだから!

 

 

 

 

 

 

戦え、友達を、仲間を、彼女の幸せを守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて自分を愛してくれた者たちが守ったこの世界を壊す者たちを、すべて刈り尽せッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千景・・・・くん・・・?」

美森がそう、震える声で呟いた。

千景の姿は、いつの間にか変わっていた。

紅黒いジャケット、黒いアンダーウェア、紅黒い長ズボン、紅の指ぬき手袋。

そして、その肩には、まるで死神の鎌のような、赤い大鎌が担がれていた。

 

その姿は、彼岸花を想起させる。

 

「千景・・・・くん・・・・」

「・・・・下がってろ」

千景は歩き出す。

「みんな、下がっていてくれ」

『千景くん?』

『千景?』

『千景先輩?』

返答、待たずに跳躍。

とても手に馴染む。まるで以前にもこの鎌を持っていたかのように、落ち着くし、そして、懐かしい。

これならば、いける。

そして、(過去)の鎌ではなく、()のこの鎌でできる事をやる。

それは―――――。

 

鎌が、変形する。

それは刃に沿って割れ、そこから、半透明の光の刃が出現、膨張する。

その刃は、反対方向にも伸び、両刃の鎌へと変形する。

「ハァァァアアアアアッッ!!!」

そして、その刃をバーテックスへ振り下ろす。

その一撃は、バーテックスを斜めに両断する。

「すっごぉ・・・!」

「すごい・・・・!」

「千景くん・・・!」

友奈、風、樹の三人が歓喜の声をあげる。

無事に着地した千景は、鎌を肩にかつぎ、そしてヴァルゴを見据える。

「―――世界は壊させない。()()()()たちが守ったこの世界を、壊させないッ!」

 

(過去)に出来なかった事を、()が成し遂げる為に、

 

 

 

 

 

 

 

 

不道千景(おれ/わたし)は、勇者になる。

 

 

 




次回予告

『彼岸花の勇者』

紅く咲き誇る花の勇者。

キャラ紹介
勇者として

不道千景

武器は大鎌

強力な一撃やゴリ押しなどのインファイターっぷりを見せる戦い方をするが、連携を第一とする戦い方を好む。

精霊はいない。

■■■として『■■■■』が使える。

鎌の変形によって、光の刃を出現させ、強力な一撃を放つ『大葉刈』を必殺技として使う。
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