不道千景は勇者である   作:幻在

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戦火炎上の戦い

数分前。

 

キャンプ場はパニックに陥っていた。

「火事だぁぁあ!!」

「どこに逃げればいいの!?」

「炎で囲われちゃってるよ!」

「先生助けて!」

誰が言ったのか山火事だと叫び、それを理解した生徒たちが、一斉にパニックに陥って、泣いたり叫んだり暴れたりと、もはや教師たちだけでは収集がつかなくなっているのだ。

しかし、今更大騒ぎしたところで、あまりにも早く火の手が回って逃げ道を塞いでいるのだ。

死を目前にパニックにならない方が可笑しい。

教師陣は、生徒を落ち着かせるためにどうにかなだめようとしているが、教師であってもやはり半ば混乱している。

このままでは、血迷って火に飛び込む生徒も続出するかもしれない。

そんな事態を―――――この少年が許す筈がなかった。

 

 

「落ち着けッ!!!」

 

 

そのあまりにも大きく、響く声が、一瞬にして生徒たちのパニックを止めた。

同時に、竦みあがる。

「わーぎゃー叫ぶなッ!!そんな事をしてても火が広がるのを待つだけだッ!!」

その声の正体は千景だった。

「先生たちはまず消防車を呼べッ!!!生徒はとにかく煙を吸い込まないように口にハンカチを当てろ!燃える物を木に近付けず、なるべくそれから離れるようにしろッ!つねに周りを意識して、火が収まるのを待つんだッ!!火は燃えるものが無ければ自然に消える!!それまで辛抱強く待つしか生き残る方法は無いッ!!!」

千景の言葉に、唖然とする周囲。

それにイラついた千景が、すぐさま次の言葉を叫ぶ。

 

 

「今すぐ動けッ!!!死にたいのかッ!!!!」

 

 

その言葉に、周囲は慌てて動き出す。

それにとりあえず安心したかのようにため息を吐く千景。

そして、千景は踵を返してどこかへ行こうとする。

「どこに行くの!?」

そこで呼び止める声があった。

白露だ。

その声に、千景は止まる。

「・・・・・今回の山火事は、俺でないと解決できない」

「・・・・・そう」

「お前は、皆と一緒にいろ。俺は、どうにかして火の手がまわらないようにする」

「・・・分かった」

白露は、それ以上なにも言わず、生徒が固まっている所に行く。

それを肩越しに見送った千景は、懐から刀を取り出し、その刀身を露わにして叫ぶ。

「―――『天鎖刈』ッ!!!」

叫び、その姿を白い装束に変える。

そして走り出し、ある程度のところまで進んだところで、鎖を出現させる。

「『封印縛鎖』『炎上』『進行不可』」

鎖を、まるでポリステープのように木々に縛り付ける。

炎上の概念を封じ込め、炎があがらない様にしたのだ。

「これで、一応火は行かない・・・次は・・・・」

そこで千景は、一旦戻って、避難がどこまで進んでいるのかを確認しに戻る。

木の上で、避難状況を確認する。

どうやら教師や学級委員が先導したお陰である程度まで完了しているようだ。

このままなら、しばらく持つだろう。

ふと、女子の会話が耳に入った。

「ねえ、冬樹ちゃんはどこ?」

「え?知らないよ」

「そんな・・・どうしよう、まだこの火事に気付いていなかったら・・・・」

それを聞いた千景は、血の気が引くような感覚を覚えた。

(俺の所為だ・・・・!)

あの時、彼女を泣かせていかせてしまったから、彼女は―――

 

魔器の反応は二つ。

 

片方は、一番初めに火の手があがった方向から。

もう片方は、ここからでも見える、峠の方向から。

 

そして、峠の方から来る、鎖の締め付け方は、これまでにない程に強いものだった。

もし、この反応が正しいものなら――――

「ッ!!」

ここは虱潰しに動くしかない。

最悪、彼女が襲われている可能性だってある。

(間に合ってくれ・・・!!)

鎖によって機動力を確保し、新幹線並みのスピードで、千景は急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、以外と対応が早いな」

この火災の犯人である『阿良々木(あららぎ)城谷(じょうや)』は、あまりにも早い生徒たちの対応に、城谷はつまらなそうに呟いた。

「これじゃあ楽しめねえじゃねえかよ・・・・あ、そうだ」

城谷は、手を振りかざす。

「火の勢い強めちまえばいいんだ」

次の瞬間、生徒たちを囲う火の勢いが急激に強まった。

その炎は瞬く間に生徒たちに迫る。

その様子に気付いたらしい生徒たちが、一斉に悲鳴をあげる。

そのまま、火は生徒たちを襲うが――――

「・・・・は?」

それ以上、火は進まなかった。

火は、おおよそキャンプ場から三十メートルの時点で止まっていた。

「どうなって・・・・!」

そこで、城谷は気付く。

 

この炎の止め方は―――――

 

「『アイツ』は死んだはずだ・・・・!!」

信じられない、と思うが、逆に城谷は想う。

「く、くく・・・いいぜ。なら、その概念、灰一つ残さず、燃やしてやるよぉぉぉぉお!!!」

 

炎が、猛る。

 

まるで火柱のように炎が舞い上がり、千景の結界を燃やし尽くさんと、猛る。

 

鎖は鉄。熱せば、やがてその鉄は溶けていく。

 

その()()の元、城谷は炎の勢いを強め、文字通り鎖を()()()つもりなのだ。

炎が勢いがあまりにも強くなり過ぎた事で、生徒たちが悲鳴を挙げる。

「アハハハハ!!!そうだ、もっと恐れろ!もっと叫べ!俺にその悲鳴を聞かせろッ!!」

まさしく、愉快犯。

その犯行動機は、悲鳴が聞きたいから。

人が燃える時、まるで狂ったように踊り、叫び、それが可笑しくて楽しいからだ。

「燃えろ!燃えて悲鳴を聞かせろ!悲鳴を聞かせてくれよッ!!」

このままでは、鎖が焼き切れる。

そうなったら、キャンプ場にいる生徒や教師たちが一気に燃えてしまう。

「アハハハッ!!」

城谷は笑い声をあげる。

 

だが――――突如として城谷の上から襲い掛かる者がいた。

 

「ッ!?」

それに気付いた城谷は、()()()()()()()()、大きく飛び退く。

その者は、拳を振り上げており、空振ったその拳は地面を殴り砕いた。

それを見て、城谷は悟る。

「ああ、以外と早かったな、安座間椿」

「久しぶりだな。阿良々木城谷」

城谷を睨み付けるのは、バンカラ衣装に身を包んだ、椿だった。

「悪いが邪魔しないでくれよ。今良い所なんだからよ」

「そうはいかない。お前はここで倒す」

「ちぇ、あー嫌だ嫌だ。人の嫌がる事はするもんじゃないぜ?」

「どの口が言う」

構える椿。

「おいおい、もう少し話し合おうぜ?」

「悪いが、そうはいかない。早急にお前を倒す」

「せっかちだな・・・・まあいい」

いきなり、城谷の両腕から火が燃える。

「こいよ。バーサーカー」

「言われなくてもッ!!」

地面を蹴り、椿が城谷に殴りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、近場の木に隠れて見ていた奏は、戦闘の開始と共に、森の方を見る。

炎の急激進行によって、火があまりにも大きくなりすぎている。これでは、まともに避難する事など出来ないだろう。

さらに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ために、早急にあの魔器使いを倒さなければ、間違いなくこの森は焼け野原となってしまうだろう。

今の所、キャンプ場の方へは、おそらく千景が張ったであろう鎖の結界が機能して、火が回らない様になっているが、先ほどの大炎上のせいで、その結界が解けかかっている。

自動的に解除されるのも時間の問題だ。

「椿さんに、任せるしか・・・・」

ここで、『燃』を破壊すれば、火は全て消える。魔器が現在進行形で引き起こしている事象は、魔器使いの任意か、あるいは、魔器その物が破壊されれば、すでに終わった後でなければ、全て消え収まる。

だが、すでに破壊されていた場合は、残念ながら元に戻る事は無い。

「・・・」

奏は、拳を握りしめる。

彼らに情報を提供する事しかできない自分が、今、とても情けないと思っているからだ。

 

 

その時、大きな音が響いた。

 

 

「!?」

そちらに目を向ければ、そこには、峠の崖の上から大きな土煙が舞い上がっていた。

あまりにも遠いので、何が起きているのか分からない。

だが、もし、自分の予想が正しければ。

「千景君・・・・」

奏は、心配そうにその名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千景が、冬樹の所に辿り着いたのは、あまりにもギリギリなタイミングだった。

「ぐ・・・」

冬樹を襲う男の拳が背中を掠ったが、それでも、その男の拳があまりにも高威力で、携帯が壊れた音がした。

だが、それでも、冬樹を助ける事が出来た。

携帯なんぞ、後でいくらでも買えばいい。

「ち・・・かげ・・・なんで・・・・」

「お前を助けに来た」

千景は、背後でへたり込んでいる冬樹の質問に短く簡潔に即答した。

「ハッハッハー、その装束、誰かに似てるかと思ったら、そうかあの女のか!」

一方で、男が愉快そうに笑っていた。

「母さんの事か・・・?」

「ああ。あの女には随分としてやられたぜぇ。鎖で殴られたり斬られたりしたけどよぉ。なかなか楽しめたぜ?というかお前、あの女の子供か?」

それを認識した男の口角がさらに吊り上がる。

「じゃあ、お前もあの女と同じように楽しめるって事だよなァ!!」

男が動き出す。

その瞬間、千景の直感が告げる。

 

―――今動かないと死ぬ。

 

「ッ―――!!」

「きゃ!?」

すぐさま千景は冬樹を抱えて、脚に力を込める。

次の瞬間、男が、瞬き一つすら長い速さで千景に迫った。

「ッァ―――!!」

同時に、千景は地面を蹴って冬樹を抱えたまま峠の壁に向かってジャンプ。

男の拳が地面を抉る。

そのまま千景は峠の壁を蹴った男の背後に回り込もうとする。

「速さはなかなか――――!!」

「なッ!?」

だが、男は千景にすぐさま追い縋ってきた。

その拳が、千景を捉える。

どうにか、片手で鎌を突き出し、その一撃を防ぐも重く、吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。

冬樹は、どうにか抱えて死守する。

「がは!?」

「ッ・・!?どうして私を・・・わ!?」

千景は、地面に叩きつけられるなり冬樹を自分の後方へ投げた。

「オラオラどんどん行くぞォ!!」

その理由は、すでに男が迫ってきているからだ。

「『封印縛鎖』『作用半作用の法則』『慣性の法則』『筋力制限』『物理的移動』ッ!!!」

四つの概念をまとめて男に縛り付ける。

「おおっと!?」

男が縛られ、派手にすっ転ぶ。

「おお、いいねえ・・・・だけどなァ・・・」

千景が、男に鎌を振り上げる。

だが、その一撃は、何故か動いた男の手によって止められた。

「な・・・!?」

「俺の魔器の前じゃ、無意味なんだよッ!!」

作用半作用の法則は、互いに互いの衝撃によって全く反対の方向に動く法則だ。

手を地面に押し当て、地面に向かって力を加える事で、逆に自分の体を浮かせるための力が働くのだが、その概念を封じられた事で、本当なら男は立ち上がれない。

その上、筋力を極限にまで制限されているため、千景の鎌の一撃は、防ぐどころかつかめない筈なのだ。

だというのに、男は、何事のなかったかのように立ち上がり、あろうことか、千景ごと鎌を片手で持ち上げた。

そして、そのまま千景を地面に叩きつけた。

「がはっ・・・!?」

正面から叩きつけられた。

「ほら、立てよ」

男が、挑発してくる。

 

 

この男、名を『御門(みかど)弦哉(げんや)』と言う。

その犯行動機は、血が見たいから。

血が噴き出す瞬間が、非常に興奮するというサイコパス。

その為に、体を鍛え、殴る事によって噴き出る血が見たいのだ。

 

 

「ぐ・・ぅぅ・・・」

立ち上がる千景。

その千景に向かって、弦哉が蹴りを放つ。

千景は、あろうことか前に跳び、その蹴りを回避、避けた所で受け身を取りつつ転がり、また弦哉の方を見る。

「おせぇ!!」

だが、いつの間にか、()()()()()()()蹴りが千景の顔面を捉えた。

「が・・・!?」

あまりにも速過ぎて予想外な攻撃に、千景は対応しきれずその一撃を貰う。

吹き飛ばされるも、持ち前の精神力で千景は意識が吹き飛ぶのをこらえ、どうにか弦哉を視界に捉える。

弦哉は、まだまだ千景に攻撃をしかける。

「オラオラオラァ!!」

「ぐッ・・・!」

拳の乱舞に千景は防戦一方になる。

鎌のリーチ上、懐に入られれば弱い。

「どうしたどうしたァ!?その程度かぁ!?」

「ぐッ・・・!!」

恐ろしいまでのラッシュに、千景は、僅かに出来た隙を縫って弦哉の懐に飛び込んだ。

「ああ!?」

それに目を見開く弦哉。しかし、一方の千景も、この距離では鎌を思うように振れない筈。

だが、千景が振りかぶっているのは、鎌ではない。

「『鉄鎖甲』」

千景の右拳に、鎖が巻き付いていた。

鎖を使い、腕を強制的に動かす事によって、強力無慈悲な()()()()叩き込むつもりなのだ。

「椿さん直伝、正拳突きッ!!!」

恐ろしい程に綺麗に決まった、千景の正拳突き。

その一撃は、弦哉の鳩尾に決まり、その衝撃は、背中へ突き抜ける。

(どうだ・・・!?)

千景は、確かな手応えを感じる。

だが。

「ハハ・・・ハハハ・・・・アハハハハハハハハッ!!!」

弦哉が、高笑いをする。

(効いて・・・ない・・・!?)

その事実に、驚愕する千景。

次の瞬間、千景の腹に弦哉の拳が叩き込まれていた。

「が・・・ぁ・・・・」

それは、あまりにも重く、重く、何よりも重く、そして、速過ぎた。

男のアッパーカットが、千景を天高く突き上げる。

そして、そのまま千景は冬樹の後ろに落下する。

「千景・・・!?」

「が・・・ぁ・・・・」

口から僅かばかりの血を吐き出す千景。

「ほう、ギリギリの所で鎖で威力弱めたのか。いいねえ、その方が面白い」

弦哉が笑う。

「もっと、もっと来い。それで血を俺に見せろよ。なあ、もっとだ。俺は血が見るのが好きなんだよ」

(くっそ、以外と重くて、すぐに動けない・・・・!?)

千景は、あまりにも重い一撃に、体が動かなかった。

弦哉が近付いてくる。

「ほらほらぁ、まだまだやれるだろ?」

にたりと笑って歩み寄ってくる。

千景は、どうにか立ち上がろうとするが、あまりにもダメージに腕に上手く力を入れられない。

その時、弦哉の額に、小石が当たる。

「ああ?」

そこにいたのは、冬樹だった。

「ふゆ・・・き・・・・?」

「そうやって・・・・」

冬樹は、震えていた。それでもなお、冬樹は、叫んだ。

「そうやって、パパとママを殺したのか!?」

「ッ!!」

それで千景は気付く。

この弦哉は、冬樹の親の仇なのだ。

「ああ・・・・・?」

その問いに、弦哉は一瞬怪訝そうな顔をするが、すぐに、ある事を思いいたったようだった。

「お前・・・まさかあのポリ公どもの子供か!?」

その顔が、歓喜に歪む。

「おいおいおい子供がいるなんて聞いてねえぞ!そうかそうかお前が俺の眼を獲りやがったあのポリ公のガキか!アハハハハ!!!」

弦哉は、天に向かって高笑いを上げる。

「嬉しいぜえ。初めて俺に手傷を負わせた人間はお前の親が初めてだったよ!だけどなぁ、いささか力が足りなかった。だが血を巻き散らして死んだと思ったらいきなり銃を向けて目を撃たれた時は流石に焦ったぜ。思わず止め刺しちまったぜ」

愉快そうに語り出す弦哉。

その様子に、冬樹は唖然とする。

「驚いたぜぇ。泣き言どころか悲鳴の一つもあげなかったんだからよぉ」

楽しそうに、

「あれはすげえ。腕もがれても内臓壊されても、それでも向かってくるんだからよ」

愉しそうに、

「それが面白くて面白くて、ついつい本気でやっちまったよ」

本当に、面白そうに、

 

弦哉は、嘲笑(わら)っていた。

 

その表情に、冬樹は――――

「・・・ひぐ・・・」

泣いた。

 

冬樹は、周囲が思っている以上に、泣き虫だ。

普段は無口で、強気にふるまっているが、それは、ありがちな弱い自分を隠すためのフェイク。

本当の彼女は、自身が認める、泣き虫。

今まで、親に守ってもらってきた反動か、彼女は、弱かった。

 

「丁度良い」

弦哉が、拳を振り上げる。

「お前も、血ぃ見せろよ」

ニヤァ、と弦哉の口角が吊り上げる。

そして――――

「あのポリ公と同じようになァッ!!!」

「ひっ・・・!!」

拳が、冬樹に振り下ろされた。

 

粉塵が舞う。

 

冬樹は、目を閉じたまま。しかし、すぐに来るであろう、衝撃は来なかった。

眼を開けば、そこには―――――

「ッ――――無茶・・・するな・・・・!!」

鎌で拳を防ぎ、鎖で弦哉の体を縛り付けた、千景がいた。

「ちか・・・げ・・・・」

冬樹は、その名を呼ぶ。

「そして・・・・泣くな・・・!!」

千景は、鎌を押し出し、弦哉を下がらせる。

「おおっと!?」

たたらを踏んで後退する弦哉。

それに、にぃっと笑う。

「そうこなくっちゃな」

弦哉が笑う。

「ちかげ・・・」

「お前の親、泣き言言わなかったんだろ」

「え・・・・?」

「だったら、お前も泣くな」

千景は、振り向いて冬樹の頭を撫でる。

「どれほど辛くても、お前の親は、最後まで泣かなかった。お前も、そんな親の娘なら、その涙拭いて、勇気を出せ」

冬樹の頭から手を離し、鎌を構える。

「来いよ」

「へ、言ってくれるじゃねえかッ!!」

弦哉が襲い掛かり、千景が、それを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城谷が拳を椿に突き出す。

椿はそれを僅かに体をずらす事で回避。

すかさず城谷の蹴りが顔面に迫り、それも回避。

そこから、城谷のラッシュが続くが、椿は、それを受けもしなければ触れもせずに回避に徹した。

それはなぜか?

 

燃えているからだ。

 

城谷の文字の概念は『燃』。

ありとあらゆるものを燃やす、燃焼の力。

その力は、たとえ椿の鋼の肌でも防ぐ事は不可能だ。

その力は、外側から焼くのではなく、内側から焼くのだから。

その所為で、椿は城谷の攻撃を避けざるを得ないのだ。

「オラオラどうした?その程度か?」

城谷がラッシュを繰り出しつつそう言ってくる。

それに対して、椿は至って冷静に回避に徹している。

「早く俺を倒さねえと、あの鎖、切れちまうぜ?」

「言われなくとも・・・・」

そこで椿が動いた。

「ッ――――!!」

「そうするさ」

ここで椿が反撃に出る。

城谷のラッシュを掻い潜り、懐に潜り込んで拳を引き絞る。

だが、その瞬間、城谷は自らを()()()()

「ッ!?」

「―――っぷねぇ!!」

椿は驚き、突き出した拳をギリギリのところで引っ込める。

「ふぅ、あぶねえあぶねえ。危うく殴り飛ばされるところだったぜ」

城谷がそう言う。

一旦距離をとった椿は、再度構える。

「お前対策に開発した『炎状鎧(えんじょうがい)』っていう技でな、接近できねえように()()()()()()()仕組みになってる」

その言葉に、椿は僅かに眉を寄せる。

「へへっ、どうした?これじゃあ手も足も出ないだろ?」

嘲笑うかのように、顎をあげて椿を見下す城谷。

なるほど、確かに、近付かれた瞬間に自動で発動するなら、近接攻撃しか出来ない、ましてや武器ではなく、徒手空拳でとなると、拳を振り抜いた際に拳を焼かれるのは必至。

これでは、攻撃は出来ない。

 

 

そう、攻撃は――――

 

 

「・・・なるほどな」

椿は、口を開く。

「ん?」

「確かに、いくら私の自動反撃(オートカウンター)の速度をもってしても、その炎に焼かれてしまうだろう。それに私の文字の概念は『布』お前とはあまりにも相性が悪いともいえるだろう。だが・・・」

椿は、両拳を腰に当てる。

「お前は知らないだろうな。魔器と違い、御神刀には、()()()()()()()()()()()

腰を落とし、椿は、力んだ。

「なんだと・・・!?」

「お前たちを取り逃がした時には出来なかった。そして、千歳も救えなかった。だが、今は、違う」

椿の足元に輪が現れる。

そこに描かれているのは、『布』。

「今を生きる者達のため、そして、千歳と景矢が残した千景を守る為に、私は今、『呪い』をその身に受けよう」

輪から、黒い煙が―――瘴気が巻き散らされる。

「覚悟しろ。これが私の『真解』だ」

椿の『布』が黒く染まる。

 

『真解』

それは、御神刀に秘められた、『第二の文字』を解放した力。

二重に重ねられた文字は、意味を明確にし、その力を強くする。

 

椿に与えられた『第二の文字』は『呪』。

 

その文字を与えられた『陸鎧布』は、その名を、別のものへと変えた。

 

その名は――――

 

 

「――――『呪装滅布(じゅそうめつふ)』」

バンカラ衣装は消え、巻かれていた布は深淵の如く真っ黒になり、それが、肩の除いた上半身の殆どに巻かれ、顔半分にまで巻かれ、下半身には道着のような黒いズボンが履かれ、足にも包帯が巻かれていた。

その姿は、まるで呪われた存在のようだった。

「・・・・」

その姿に、城谷は絶句する。

しかし、そうしている間に椿は腰を落とす。

そして拳を引き絞り、地面を蹴り、一気に城谷に接近する。

「ッ!?」

そのあまりの速さに、城谷は一瞬、目を剥き、すかさず『炎状鎧(えんじょうがい)』を()()()()()

この高温の炎の中に拳を突っ込めば、骨まで焼かれてしまう。

しかし、椿はそれすらもお構いなしにその炎の中に右拳を突っ込んだ。

次の瞬間、椿の拳は――――城谷に腹に突き刺さった。

「げぼあ!?」

城谷は、体を曲げて吹き飛ばされる。

木に叩きつけれられ、腰を地面に降ろしてしまう。

「げほっ、ごほっ・・・て、てめ、何考えて――――」

顔を上げたところで、絶句する。

 

そこには、今もなお健在な椿の姿があった。

 

右手は、焼け落ちていなかった。

 

「なん・・・!?」

「この程度の炎、私にかけられた呪いに比べれば、どうってことない」

椿は、なんでもないかのように、拳を持ち上げた。

 

椿の『呪装滅布』は、()()()()()使()()()()()として、『使用している間は呪いに体を苛まれ続ける』という効果を及ぼしている。

その痛みは、常人が受ければ必ず発狂してしまうほどの痛みだが、椿はその痛みに耐えていた。

さらに、呪いによって瘴気が体の内に急激に溜まり込み、負の感情の奔流に精神も振り回されてしまう。

だが、椿はそれすらも抑え込んでいた。

そして、その見返りとして、椿は、通常の数倍の身体強化に加えて、布の強度があがり、もはや『燃』の能力では椿は燃やせなくなっていた。

「・・・・く」

その事実に、城谷は、笑った。

「アハハハハハハハッ!!!なるほどそう来るか!アハハハハハ!!!」

体を反らして、夜空に向かって嗤った。

「呪いの力で自らを強化する。なるほどな、自己犠牲の精神を持ってるお前らしい能力だよ!!」

「知った風な口を聞くな」

「いいや、お前はそういう奴だ。他人の為なら、その体を喜んで投げうつ。それがお前だ」

城谷は、立ち上がって指を指してそう指摘した。

「そのせいで、勝てるはずだった俺との戦いにも負けた」

「・・・・」

「でも、今は違う。今なら邪魔する奴らはいねえ。お前は存分にその力を振るえる。そうだろ?」

城谷は面白げに言う。

「だったら捻じ伏せてやるよ。それでお前を今度こそ泣き喚させてやる」

「ほざけ。その前に地面に這いつくばるのはお前だ」

空気が張り詰める。

互いの殺気が衝突しあい、今にも弾けそうになる。

その硬直はしばらく続き、やがて、一つの轟音と共に二人は同時に地面を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲は、衝撃によるクレーターだらけとなり、岩の破片が辺りを飛び散っていた。

そして、冬樹は、今目の前で、血まみれで倒れ伏す少年を見下ろしていた。

「アハハハハハハハッ!!!」

その頭部の方向で高笑いをする、弦哉。

冬樹は、震える手を伸ばして、その名を呼んだ。

「・・・・ちかげ?」

少年、千景は、地面に倒れ伏していた。




次回『真解』

それは救導者に与えられた、もう一つの力。
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