不道千景は勇者である   作:幻在

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真解

圧倒的過ぎた。

魔器『強』の力は、千景の予想を遥かに超えていた。

どんなにその体に制限をかけようとも、相手はそのことごとくを打ち破り、そして、千景よりも速く、強く、重い攻撃を仕掛けてくる。

どれほど策を弄しても、まるでどこ吹く風の如く、全てを打ち破って千景を圧倒してきた。

故に、千景は成す術無く、その力の前にひれ伏した。

最後の一撃、上空に打ち上げられてからの地面への叩きつけは、千景の意識を吹き飛ばすのに十分だった。

あまりにも、一方的な戦いだった。

「・・・ちかげ・・・?」

そして、冬樹はその事実に、震えていた。

千景が負けた。

おそらく、相当な強さを有していた筈の千景が、今、この男の前に敗北したのだ。

「アハハハハハッ!!!楽しかったぜ小僧!!あの女よりずっと興奮したぞ」

まさに愉悦とでもいうかのように笑う弦哉。

純粋に戦いを楽しみ、血を見る事が大好きなサイコパスであるこの男。

もはや恐怖以外の何者でもないと言える。

「・・・・ちか・・・げ・・・」

だが、冬樹の視線は、千景に釘付けになっていた。

微動だにしない千景。

その姿は、まるで死んでいる様だった。

「ちかげ・・・・」

呼びかけてみるも、反応は無い。

その事実に、冬樹は、心の底から凍てつくような感覚を覚えた。

 

人が、死んだ。

 

今、目の前で、死んだ。

父と、母と同じように。

あの男に、また、殺された。

「・・・・・ひぐ」

そして、自分は、何も出来なかった。

何も、しなかった。

それが、情けなくて、悔しくて、今にも、胸が押しつぶされて――――

 

 

 

 

 

―――どうした?笑えよ。

 

 

 

 

 

突然、聞こえた声。

 

 

 

 

―――裏切り者の子供が死んだんだ。喜べよ。

 

 

 

 

どこから聞こえてくるのか分からない。

だけど、頭に直接響くのが分かる。

 

 

 

 

―――嫌いだったんだろ?そんな奴が消えたんだ。笑って喜んじまえよ。

 

 

 

 

その声に、冬樹は、()()()()()()()()()()

 

 

「待たせたなぁ」

気付けば、目の前に、弦哉がいた。

その顔は歪み切っており、冬樹を見下ろすその顔は、嗤っていた。

その表情に、冬樹は動けない。

千景は負けた。

もう、自分を守ってくれる者はいない。

 

 

 

 

 

―――――嗤えよ。

 

 

 

 

 

声が聞こえる。

 

 

「さあ、血を見せてくれよ」

 

 

弦哉が、囁く。

 

 

 

 

――――嗤え。嗤って楽になれ。きっと、気持ちいいぞ。

 

 

 

 

ああ、そういえば、私は、彼の事が嫌いだった。

 

 

 

 

弦哉が拳を振り上げるが、それまでの動作が、酷く遅く感じた。

 

 

 

 

――――そうだろ?嗤っちまえよ。

 

 

 

 

心の声が、そう囁いてくる。

 

 

もう、どうせ自分は死ぬ。

 

 

だったら、今のうちに楽な方へ行こう。

 

 

そうすれば、きっと、苦も無く、パパとママに―――――

 

 

 

 

 

 

 

口角が吊り上がりかけた、その時、冬樹の視界に地面に倒れ伏す千景が映った。

ふと、冬樹は、自分が千景が嫌いな理由を考えた。

 

彼は、いつも虐められていた。

 

カッターで体を切られ、火箸で体を叩かれ、殴られ蹴られ、階段から突き落とされて、罵倒を浴びせられて、ゴミを被り、汚れた水に顔面を押し付けられて、縛られ吊られ、金を巻き上げられ、掃除を押し付けられ。

しかし、それでも彼は反発する事なく、受け入れて、反撃せず、ただ耐えていた。

皆、それを良い事に虐めて行った。

自分は、それが当たり前なのだと思い、何もしなかった。

そう、何もしなかった。

彼は、一切の反撃も、反論もせず、何もしなかった。

何もしなかったのだ。

 

 

 

 

 

なんで何もしなかった?

 

 

 

 

 

自分はいつも親から言われてきた筈だ。

 

虐めを許すな。正義であれ。人を嘲笑うな。常に人助けを心掛けろ。困っている人がいれば躊躇わず手を差し出せ。

 

常にそう言われてきた筈だ。

 

 

 

 

―――そんなのただの妄言だ。

 

 

 

何故、私は何もしなかった。

泣き虫だから?

 

 

―――そうだ。それは恥ずべき事じゃない。

 

 

気が弱いから?

 

 

―――お前は間違っていない。

 

 

違う。全部違う。

 

 

 

―――悪は奴だ。悪は憎まれるべき存在だ。

 

 

 

千景は、何もしていない。何かをしたのは、彼の親なのであって、彼じゃない。

 

 

親と子供は違う。それは、いつでも強くあり続けた両親とは真逆に、弱かった冬樹だからこそ分かる事だ。

親と子は、決して同じじゃない。それを誰よりも痛感してきたのは誰だ。

 

 

 

―――お前はそれで良いんだ。

 

 

 

良くない。私は良くない。

絶対に、頷いてはいけない。

 

 

 

―――お前は変わらなくても大丈夫だ。

 

 

 

これじゃあダメなんだ。

 

 

 

―――ダメじゃない。お前は良い子だ。

 

 

 

千景は、何も悪くない。悪いのは――――

 

 

 

―――それを認めるな。

 

 

 

 

 

―――認めるな。

 

 

 

 

―――認めるんじゃない。

 

 

 

 

―――認めてはいけない。

 

 

 

―――認めてしまったら今までの自分を否定する事になってしまうぞ。

 

 

 

 

―――認めるな。認めるな認めるな認めるな認めるな認めるな認めるな認めるな認めるな認めるな―――――――

 

 

 

 

 

うるさいッ!!!悪いのは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!!」

弦哉が拳を振り下ろす。

その瞬間、冬樹は叫んだ。

 

 

「悪いのは、私だぁぁぁぁああぁぁああああッ!!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、冬樹の中で何かが壊れ、それと同時に現実で何かが衝突する音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「――――はは」

弦哉が、嗤う。

「――――」

冬樹は、微笑む。

大粒の涙を、両頬から流して、冬樹は、その名を呼ぶ。

「千景!!」

そこにいたのは、大鎌で弦哉の拳を受け止める千景だった。

「アハハハハ!!!嬉しいぜ!!まだお前がくたばってなかったなんてなぁ!!!」

「黙れ」

冷徹な一言と共に、弦哉の腹に無数の『撃鎖』が叩き込まれ、されど弦哉を僅かに後退させる程度で収まった。

「・・・はっ!だけど惜しいな。もうお前は俺に届く事すらねえ。終わりだ」

そう言って親指を立てて、まるで首をきるかの様な挑発をする弦哉。

「・・・・・お前の魔器は」

「ああ?」

「自分よりも強い奴して、その攻撃を受ける事で、使用者の限界を強制的に突破させて強くする、『条件強化型』だ」

ふらふらな状態で、千景は語る。

「何度も限界を超えた強化は、普通なら体が持つはずが無い。だが、それを可能しちまうのが、魔器であり、御神刀だ」

千景は、鎌を構える。

「ありとあらゆる現象と概念を縛り付ける『縛鎖』と逆に、制限を解除する『解鎖』。その、解鎖の力を、自分に使ったら、もしかしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったんだ」

その言葉に、城谷と冬樹は、首を傾げた。

だが、千景は続ける。

「ずっと疑問に思っていた、どうして俺の装束の『これ』が、()()()()()()()()()()()()を」

突如、千景の足元に輪が出現する。

「なんで、自分の身を守る為の鎧ではなく、拘束具が俺の天鎖刈の装束なのか。それを考察し続けて、今やっとわかったんだ」

その輪の中心には『鎖』の文字があった。

拘束具(これ)は、俺の『限界』。それを突破し、さらなる高みへ『解放』させる為の試練だった。だったら、やる事は同じだ」

文字が変化する。

「限界を突破し続けるお前の魔器があって、良かった。お陰で、俺は、この天鎖刈のその先を見つける事が出来た」

千景は、その天鎖刈の第二の名前を解放する。

 

 

「―――『真解・解限咎乃鎖(かいげんとがのくさり)』」

 

 

千景を拘束していた拘束具が吹き飛び、その下に白い装束を見せる。

金属の類は全て消滅し、まるで戒めから解き放たれた罪人のような姿になった。

その姿を、冬樹は純粋に思った。

 

「―――綺麗」

 

一方で、弦哉が違った。

「く、くく、アハハハハ!!!なんだよそれ!そんな隠し玉あったんなら早く出してくれよ!お陰で楽しい事逃すところだったじゃねえかよ!!」

弦哉が嗤う。

「来いよ!一発受けてやるぜ!!」

「そうかよ」

千景が呟いた瞬間、何か、()()()()()()()()()()()()()()()()

次の瞬間、弦哉が吹き飛ばされ、崖の壁に叩き付けられる。

「ぐぅお・・・!?」

意識が飛びかけ、ぐったりとする弦哉。

「・・・・すごい!」

冬樹は、それに大きく感嘆する。

千景は、今、弦哉を蹴り飛ばしたのだ。

それも、今までの天鎖刈の力を大きく上回るスピードとパワーで。

「ぐ・・・くく、ハハハ・・・!!」

だが、弦哉は立ち上がった。

「今のは効いたぜ」

嬉しそうに笑う弦哉。

しかし、千景は微塵も油断していなかった。

 

 

 

『天鎖刈』の『真解』である『解限咎乃鎖』。

その能力は、天鎖刈そのものに与えられた『制限』を解放し、使用者の『限界』を解放し、『限界』の無限突破の力を与える。

自身の限界を鎖と断定し、それを引き千切る事で、自分の限界を突破する。

それによって、自らの強化が可能であり、鎖の強度および縛り付ける力も強くなる。

限界がある限り、強くなり続ける、『鎖』と『解』の力。

 

もともと、『文字の概念』の力は、人が扱えるようなものではない。

その本来の力は、万物万象の真理を狂わせ、この世の理を変革してしまうほどの力を有しているのだ。

その力を、『創造』だけでなく『文字』を司る創代は制限した。

 

この『解限咎乃鎖』は、その創代がかけた制限を『解放』してしまう力。

 

千景が、自らの限界を突破し続ければ、彼に与えられた『鎖』と『解』の力は、その本来の力を取り戻してしまう、危険なもの。

 

その為に、彼のこの力にも、『代償』が存在するのだが。

 

 

 

だが、いささか千景は限界だった。

解限咎乃鎖を発動できたとはいえ、体はその使用に耐えられる程大丈夫では無かった。

流石に、弦哉の攻撃を受け過ぎた。

だから、千景は、背後の冬樹に言った。

「冬樹」

「え?」

「次、俺と奴がぶつかったら、なりふり構わず下り道を走れ」

「な、何言ってるの・・・?そんな事・・・」

「俺の目的はお前の安全だ。だから、お前には生きててもらわなくちゃいけないんだ」

千景は、構える。

「大丈夫、()()()()()()()()()()()()

それは、死んでも通さないのと同じだった。

千景は、右拳を引き絞る。

おそらく、次の攻撃で右腕は()()()

こういってはなんだが、少なくとも右腕は無事じゃすまないだろう。

だが、それでも()()()()()()()

出来なくても、()()()()()()()()()

その間に、冬樹が逃げ切ってくれる事を願うだけだ。

そう、冬樹さえ逃げられれば、彼の―――

「嫌だ」

その言葉に、千景は思わず振り返った。

そこには、震える足で無理に立ち上がろうとする冬樹がいた。

「千景、絶対に、死ぬ、つもり、だよね・・・・」

「・・・・・そうだ」

だが、それはお前には関係ないことなのでは?そう千景は思った。

「千景・・・・・」

顔を挙げた冬樹。

そして――――

 

「――――頑張って。信じてる」

 

真っ直ぐに、そう言って来た。

生まれて初めての、声援。

その事実に、千景は、頭をハンマーで殴られたような感覚に陥った。

何故、いきなり、突然。

どうして、自分とは無縁の筈の言葉が、聞く事が出来た。

そんな疑問が、千景を葛藤させる。

「・・・千景」

だが、その疑問は、冬樹の呼ぶ声に引き戻され、再度、彼女の目を見た時に消えた。

 

真っ直ぐだった。

 

あれほど泣いていた筈の冬樹の目が、今は一点の曇りもない瞳で、千景を見ていた。

それは、まさしく信頼しているという証明。

その事実に、千景は内心苦笑する。

(まさか、こんな日が来るなんてな・・・)

初めて、誰かから応援された。

椿でもない、奏からでもない、優からでもない、今まで自分を助けなかった少女からの声援。

そして、初めてかけられた言葉。

その事が、千景にどうしようもない勇気を与えた。

「・・・・ああ」

そして、千景は股を開いて地面を踏みしめる。

「任せろ」

千景は、天鎖刈の大鎌(デス・サイス)を脇差、収納形態に戻す。

これほどまでに巨大な武器を持っての移動は、とてもではないが目立つ。

だから、力を保持したまま武器のみを元に戻す機能が、これだ。

これによって、千景は拳での一撃で弦哉を倒す事を選んだ。

その事に、弦哉はニタァっと笑った。

「良いぜ。受けて立ってやるよッ!!」

瞬間、弦哉の放つ気迫が千景に叩き付けられる。

「・・・ッ!!」

冬樹は、その気迫に圧倒される。

それは、弦哉の力の高さのあらわれ。

そして、意思そのものだった。

確実にお前を倒すという、有言実行の意思だ。

勝負は、たった一撃で決まる。

だから、二人は同時に出た。

右拳を振り上げ、千景は正拳突きを、弦哉はただ無造作なストレートを。

否、弦哉のそれは、ボクシングで言う、最も威力の高い『コークスクリュー』だ。

その二つの拳が、互いに正面から叩き付けられた。

衝撃波が撒き散らされ、二人のぶつかり合った拳を中心にクレーターが発生、轟音が撒き散らされる。

「ぐ・・・ぅ・・・・!!!」

「くく・・・・はは・・・・!!!」

鎖が引き千切れ続ける音が、何度も何度も、耳が痛くなるほどに響く。

千景が、何度も限界を突破しているのだ。

しかし、それと同時に、弦哉も魔器『強』の力でどんどん強くなってきているのだ。

このまま二人が限界を超え続けたら、天変地異にまで到達してしまうのではないか?

「アハ、アハハハハハハハ!!!いいぜいいぜぇ!サイッコウだねッ!!!ここまで強え奴に会えるなんて、俺はつくづく運が言いなッ!!でもなッ!!」

徐々に、千景の拳が押し返される。

「俺とお前の唯一違いッ!!それは体格だッ!!!お前の体は小さい!!だからその分、重力に抗わなければならねえんだよッ!!」

このままでは、負ける。

拮抗しているのなら、一度押し込まれてしまったらそれを持ち直すのは厳しい。

押し戻すには、相手よりも強い力で押し返さなければならないのだ。

だが、互いに相手を超えようと限界を突破し続け、その強さが拮抗しているのだ。

押し返す事など、不可能に近い。

だが、そうであっても、千景には、負けられない理由があるのだ。

「・・・・けるな」

冬樹が、叫ぶ。

「負けるな!千景!!」

 

冬樹を、守らなければならないのだ。

 

だから――――!!

 

「う―――ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおッ!!!」

 

絶叫し、千景は、さらなる限界突破に挑む。

「ッ―――!?」

(なんだ!?急に押し戻され――――)

右腕の骨が、バキバキと折れていく。

だが、それでいい。

今まで受けてきたダメージ、圧力、衝撃、その全てを()()()()()()()()()、それを一点に集めて、まとめて解き放つ、『反撃技』。

 

「――――『雪辱解鎖(アンロックリベンジ)』ッ!!!」

 

今まで受けてきた攻撃を、全て、右腕にかき集めて、一気に解放する。

その爆発的威力は、全て、千景の拳をブーストし、殺人的ブーストとなって、一瞬にして弦哉の拳を弾き飛ばした。

「なァ――――!?」

「終わりだァァァァアアッ!!!」

骨が砕ける音がする。肉が断裂する音が聞こえる。もう腕を動かす力は無い。

だが、『雪辱解鎖(アンロックリベンジ)』によるブーストはまだ続いている。

そのまま鎖で補強した右拳を、弦哉の顔面に叩き込む。

鎖がメリケンサックとなり、一気に吹き飛ばす。

壁に叩き付けられ、そこへ大きなクレーターを作って、弦哉は、今度こそ、気絶した。

それと同時に魔器が排出され、なんの変哲も無いコインが地面に落ちた。

「ハア・・・ハア・・・」

それが転がって、千景の足に当たって倒れる。

千景は、それを無造作に鎖で破壊する。

「魔器・・・『強』・・・破壊・・・完・・りょ・・・・う・・・・」

後ろに向かって倒れる千景。

緊張の糸が切れた事によって、安心しきって気絶したからだ。

 

その時、

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああぁああぁあああぁあぁぁぁぁぁぁあッッ!!??」

 

突然、体を仰け反らせて絶叫した千景。

さらに、彼の体に無数の鎖が巻き付き、一気に締め上げるかのようにありとあらゆる方向に引っ張り上げた。

その様子に、冬樹は思わず彼の名を呼んだ。

「ち、千景・・・!?」

悶絶する千景。困惑する冬樹。

しかし、やがて、鎖が消滅し、千景はゆっくりと後ろに倒れていく。

それを、冬樹が後ろから支える。

どうにか膝の上に千景の頭を置き、寝かせる。

服装はいつの間にか元に戻っており、その表情は、激戦を終えた後とあってか、ぐっすりと眠っていた。

右腕は、それはもう酷いありさまとなっていた。

骨は粉砕しており、血管の破裂によって皮膚が破裂し、そこから血が流れ出ていた。

その全部が痣だらけとなり、黒ずみ、見るも無残な状態となっていた。

こうなった全ては、冬樹を守るため。

その事実に、冬樹は、少し悔しそうに顔を歪め、涙を流しながら、千景に一言、告げた。

「・・・・ありが、とう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木が薙ぎ倒される。

それは、一重に椿の手刀の強さを示していた。

どれほどの障害物を容易しようと、そのことごとくは椿の前では無意味。

全て、真正面から砕かれ、斬られる。

まさに、一本の刀。

「本当に反則だろ・・・!!!」

城谷がそう呟く。

さらに、今の椿は『真解・呪装滅布』による『炎を呪いによって打ち消す』能力で城谷の炎を無効化していた。

椿の拳が城谷を襲う。

「でも」

しかし、城谷はその攻撃を掻い潜り、椿の懐に飛び込む。

そして、密着した状態から椿の腹に掌を当てる。

「重ね当てには弱かったな。お前の皮膚は」

「ッ!?」

次の瞬間、城谷の掌から炎が炸裂。

「『爆破燃焼』」

「ぐは!?」

空気を圧縮したまま燃やし、エネルギーそのものである炎をそのまま炸裂させたのだ。

実は人間の体は衝撃を受けた直後は脱力するという欠点を持つ。それは一重に人間の体は卵と同じように大部分が水。条件次第ではコンクリート並みの硬さを発揮するが、人体である以上、体を構成する筋肉には全て反射が存在する。それ故に触られた瞬間は脱力が発生するのだ。

そうでなくても水の硬度の(もと)となる慣性と粘性、筋肉でいう弾性は、押さえつける事で無効化できる。

例として、心臓マッサージと同じ要領だ。

つまり、密着した状態での打撃攻撃に椿は弱い。

それが、椿の持つ鋼の皮膚の最大の弱点。

手が腹に当てられた状態での攻撃は、椿にとっては唯一通用する攻撃と言えるだろう。

「ぐ・・・ぅ・・・・」

「やっぱ炎は防げても衝撃自体は効くんだな」

「それが・・・どうした・・・」

口の端から血を流す椿は、苦し紛れに城谷の言葉に反応する。

城谷はニタリと笑う。

「『爆破燃焼弾』」

城谷の掌からピンボールのような炎の玉が無数に出現し、空気中をシャボン玉のように漂う。

「これは・・・・」

「下手に触らない方がいいぜ?なにせそれは・・・」

ふと、火の玉の一つが椿の肩に当たる。

それに僅かながらに感触を感じた瞬間―――爆発した。

「ぐぅあ!?」

「爆弾なんだからな」

おおよそ、手榴弾並みの威力に、思わずよろける椿。

「ついでに、それ、連鎖的に爆発するぜ」

「!?」

次の瞬間、無数の爆発が巻き起こる。

黒い煙が舞い上がり、焦げ臭いにおいが鼻の奥に突き刺さる。

「椿さん・・・!!!」

思わず名を呼ぶ奏。

だが、椿はそれほどダメージを受けていなかった。

「へえ、手刀(てがたな)で空気を引き裂いて、衝撃を全て逸らしたか」

その指摘は間違ってはいない。

事実、椿は持ち前の反応速度で全ての爆発に対応しきって見せたのだから。

だが。

「その無理な動きが、かえって傷を悪化させたな」

「・・・・」

腹と肩に受けたダメージは、常人が受ければ尋常じゃない程の激痛をともなう。

だが、椿はそれに耐えている。

耐えてはいるが、それでも表情出てしまうほどの痛みだ。

かなり、きつい筈だ。

しかし、今や椿は『真解』を発動させている。その能力は『布』と『呪』。

呪いを纏った布で体を覆う事で、これまでにない防御力を兼ね備えている。

主に現象系の攻撃は全てこの皮膚の前では防がれる。

それ故に、打撃などの物理的攻撃には弱いが、エネルギーそのものである炎に対しては完全遮断する。

だから、椿は――――突撃する事にした。

「うお!?」

地面を蹴り、一気に城谷に接近する椿。

そして、一気に連打を繰り出す。

「うおお!?」

「オオオオオッ!!」

その連打を、どうにか避ける城谷だが、その全ての攻撃が浅くも当たっていた。

「ぐ、この破廉恥女が!!」

「悪かったな破廉恥で!!」

「げぼあ!?」

ついに椿の拳が城谷を捉える。

その一撃が城谷をよろつかせる。

(ここだ・・・!)

そのまま畳み掛けようとした椿だが、それで黙っている城谷ではない。

「『爆破燃焼弾』ッ!!」

「な・・・!?」

また爆発する火の玉だ。

それに触れてしまう椿。直後に、火の玉は爆発し、さらに連鎖的に他の玉が爆発する。

黒煙が巻き散らされる中、城谷は地面を蹴る。

(これであの女がくたばる訳がねえ!ここで終わらせてやるッ!!)

城谷は、ここで椿を仕留めるつもりなのだ。

呪いの届かない内部から、一気に燃やして、椿に止めを刺す気なのだ。

「死ねッ!!」

拳を突き出す城谷。視界の先に見えるシルエットに向かって。

しかし、それで黙っている椿では無い。

腕を前方に突き出し、拳を逸らすかのように回す。

空手で言う、『回し受け』という防御の技だ。

しかし城谷は突き出した片方の拳を一気に引き戻した。

椿の手が、通過する。

だが、城谷の片手は僅かに切れていた。

それと同時に、椿はこれで完全な隙を作った。

そこへ、城谷はもう片方の手を一気に突き出す。

(これでチェックメイト―――!!)

「受けるだけが能じゃないぞ」

「ッ!?」

だが、椿は、あろうことか()()()

(まじかよ・・・!?)

狙いが外れ、空ぶる。

そこへ、椿が城谷の装束の襟首を押さえつけ、動きを封じる。

これは、空手道の技の一つ―――

 

「『押さえ突き』」

 

次の瞬間、連続四回の貫手が城谷に叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・やれやれ」

城谷は、星が輝く夜空を見上げていた。

「大人になっても成長するもんなのかねえ」

「それが私たち人間だ。例え大人になり、子を授かっても、私たちは成長し続けるんだ」

城谷の魔器であるライターを手に持つ椿。

「はあ、これで俺の逃亡生活も終わりか」

「そうだ。刑務所に入って、罰を受けろ」

「わーってるよ」

椿が拳を振り合げ、ライターを破壊する。

ガラスが割れる音と共に、『燃』の文字は消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎が消えて、子供たちが無事に救助されて数日。

「・・・・」

病院のベッドで仰向けに寝ている千景。

そんな状況で、千景は、あまりにも退屈感を感じていた。

 

 

これは、奏から聞いた事だが、千景が気絶した後、椿が無事に山火事を引き起こしていた『燃』の魔器使いを撃破。お陰で森で燃え盛っていた炎はその()()()()()、消防隊が到着した事によって事なきを得た。

一方で、千景と冬樹は、駆け付けた椿と奏と遭遇。千景の惨状を見て、椿がすぐさま『癒しの布切れ』を発動して千景の腕をある程度まで治した。

その後、椿が千景を抱え、奏は冬樹の手をとってクラスの元へ戻った。

その時は、椿が脅s――――説得した事によって千景は病院へ搬送。

今回の事件を引き起こした城谷と弦哉も捕まり、事件は終結した。

 

 

 

千景が弦哉逮捕に最も貢献した事実は、面倒事にならないように奏が隠し、事実を知るのは、椿と奏、そして、冬樹だけ。

 

千景は、病院に搬送されてから丸一日は寝ていたという。

 

「・・・・暇だな」

医者からは最低一週間は安静にしろと言われている。

正しい事を言ってくれと椿が脅――――説得したようだが、確かに右腕がボロボロというのはいなめない。

さらに奏からもある事を言われていた。

「『解限咎乃鎖』を使ったみたいね」

「ええ、まあ・・・・はい」

「・・・・・」

千景の返答を聞いた奏の口から、あまりにも重い溜息が漏れた。

「・・・・?」

「『真解』、その概要は御神刀に込められた第二の文字を引き出す事にあるわ。だけど、貴方の使う『天鎖刈』は、実は違うわ」

「え?違う?」

奏は、言う。

「御神刀『天鎖刈』はね、本当はね。『魔器』なのよ」

「・・・・・はい?」

いきなり予想もしなかった事が出てきた。

「初代『天鎖刈』所有者だった『久我楔』。その人は、元々魔器使いでね。その人が使っていた魔器が『鎖』の魔器なのよ」

「そうだったんですか」

「ええ。経緯自体は分からないけど、なんだか色々とあって、その『鎖』の力を、当時創代様が当代の救導者たちの為に作った()()()()()()『解限』に合成させて作ったのが、『天鎖刈』よ」

「なるほど、だから『解限咎乃鎖』なのか・・・」

「解限の力は、御神刀に込められた文字の概念の強化に使うつもりだったみたいだけど、その前に彼女の力を押さえつける為に使ったと文献には書かれているわ」

「そうですか・・・・それで、俺の体が動かない事については・・・」

「貴方の真解の反動は、解放した限界の分だけ体にその分の反動が帰ってきて、突破した限界を全部元に戻される、ていう複雑なものになってるわ。ま、そうでもしないと貴方が天変地異を引き起こす程の力を手に入れかねないからという正しい措置といったところね」

「・・・・」

確かに、こんな力は、使い方を間違えれば、星そのものを破壊しかねない兵器になりかねない。

(これは本当にいざという時以外は使わない方が良さそうだな)

千景は、そう決めた。

 

 

 

が、それで体が動くようになるわけがなく、しばらくまともに動く事は出来なさそうだ。

 

つい昨日の会話を思い出し、溜息を吐く千景。

そこで。

「・・・・ため息、つくと、幸せ、逃げる、よ」

変な所で区切る、この独特な喋り方。

そんな喋り方をするのは、千景は一人しか知らない。

「・・・・冬樹か?」

「ひさし、ぶり」

三日ぶりの、冬樹だった。

 

 

「珍しいな、お前が見舞いに来るなんて」

「助けて、貰った、お礼、しかたかった、から」

「別にしなくてもいいのに」

「ダメ」

冬樹が、切った林檎を突き出してくる。

「恩は溜めるな、て、うちの、お母さん、が、いって、た」

「・・・・・あ、そう」

流石にこれは追い返せる雰囲気じゃない。

とりあえず林檎は食べる。

「んむ・・・・これはなかなか」

「みかんも、あるよ。愛媛県で、作られ、た」

「ふ~ん・・・」

シャクシャクと林檎を食べる千景。

ふと、冬樹がうつむく。

「・・・・どうした?」

「・・・・・・ごめんなさい」

冬樹が、服の裾を握りしめて、突然謝罪してきた。

「・・・いきなりどうした?」

噛み砕いた林檎を飲み込んで、そう聞く千景。

「私、貴方の、こと、誤解、して、た。お父さん、と、お母さんのこと、見捨てた男の、息子だから、って、貴方に、酷い事、言っちゃった」

「・・・・」

「親、と、子供は、違う。決して、性格、が、全く同じで、生まれてくる、わけじゃ、ない。罪も、子供に、引き継がれる訳が、ない。のに、私は、貴方、を、傷付けて、しまった・・・」

とても、苦しそうな声で、冬樹は言った。

「だから・・・・ごめん、なさい・・・・」

その後、涙を流して泣き始める冬樹。

その様子を、しばらく黙って見ていた千景だったが、上体を屈めて、右腕を伸ばした。

そして、その右手で、冬樹の頭を撫でる。

「別に、謝らなくていい。どちらにしろ、俺の父さんと母さんは殺人を犯してるんだ。お前が、謝る事じゃない」

「・・・・でも・・・」

「今の生活についても、俺はこれから変えるつもりはない」

「え!?ど、どうし、て・・・!?」

「お前さ、いきなり俺が反抗して、それで俺とあいつらの立場が逆転したらどうよ?そうなったらさらに俺への怨念溜め込んでまた逆転される。まさしく不幸のループだろ。それで逆転されないように立ち回る事は出来るだろうさ。だけど、それであいつらに心の平穏は訪れるのか?」

千景は淡々と告げる。

「来るわけが無いし、俺はそれをしたくない。ようはそういう事。単純に俺がやりたくないだけなんだよ。そんな()()()()事を」

「で、でも・・・」

「でもま」

ふと、言葉を切った千景は、冬樹に視線だけを向けて笑った。

「お前が謝ってくれた事だけは、予想外だった。でも、なんか嬉しかった」

「・・・・・」

千景の言葉に、冬樹は、目元が熱くなるような感覚を覚え、そして泣いた。

「ふぇえ・・・・」

「ああ、泣くな泣くな。泣くんじゃない」

その日は、見舞いに来たはずの冬樹を、千景が慰める事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創代神社。

そこの縁側にて、お茶をすすりながら空を眺める奏の姿があった。

「やあ」

そこへ、椿がやってくる。

「椿さん、仕事はもう良いんですか?」

「ああ、今日は早めに終わってな」

そこまで会話したところで、ふと椿は、奏にある事を聞いた。

「・・・千景には言ったのか?」

「・・・・・いえ」

「そうか・・・」

 

 

本来、御神刀は他人へ継承する事は出来ない。

その全てがその者の為に作られたものであるからであり、その本人しか使用する事が出来ないからだ。

 

 

しかし、

 

 

継承する相手が、()()()()()()()()()()()

それも、()()()()()()()()()()()()()()()()

しかし、そいう事は大体なく、大抵はその当時の者で役目を終えてしまう。

さらに、大抵の御神刀は役目を終えた所で、()()()()()のが鉄則だ。

その血統を、役目に縛り付けない為だ。

しかし、唯一、三百年経っても破壊されない御神刀があった。

唯一、ただ唯一、初代の想いが込められ、決して破壊される事無く残され続けている御神刀にして魔器。

 

 

 

 

 

 

奏は、膝の上に置いた文献のページをめくる。

「『久我楔』・・・・またの名を『郡千景』・・・・かつて、香川を崩壊させた『千景災害』を引き起こした、災厄の勇者にして、当代救導者が一人、『久我真一』の妻・・・・」

それが、初代『天鎖刈』所有者。

「・・・・せめて、彼が、幸せでありますように・・・・」

奏は、そう、すがるような気持ちで空に呟いた。




次回『十二月のある日』

彼に祝福はあるのか。
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