不道千景は勇者である 作:幻在
十一月―――――
「今日から、お前らと一緒に勉強する、不道千景君だ。皆、仲良くするように」
その日は、千景が絡久良市立
千景の転校した二年三組には、信也と冬樹の二人が一緒のクラスだった。
「よ、お前と同じクラスだなんてな」
「そうだな」
信也の反応は相変わらず素っ気ない。
「私、には・・・?」
「ああはいはいお前とも一緒のクラスでウレシイヨー」
「棒読み・・・」
千景の薄情な反応に半ばショックを受ける冬樹だった。
屋上にて。
「・・・うん。千景、の、作る、お弁当、は、やっぱり、美味、しい」
「右に同じ~」
「そりゃどうも」
千景の作った弁当を食べる千景、冬樹、白露、海路、信也の五人。
「なんで俺まで・・・」
「おい、俺は良いのか?」
男子二名は女子二名に強制連行だが。
「これまでのわだかまりを解消するためだよ」
白露の言葉に、反論できない海路と信也。
「いや、俺は別に・・・」
「貴方は良くても私たちはダメなの?アーユーアンダースタンド?」
「下手」
「発音がなってない」
「もう少し勉強しろ」
「そこじゃないでしょ!?」
男子三人の辛辣なコンビネーションにダメージを受ける白露。
(それなら白鳥さんの方がいくぶんかマシだっての)
『その意見には賛成ね』
「ううう・・・」
「白露、元気、出して」
屋上の隅でいじける白露を慰める冬樹。
ふと、冬樹はこの学校のグラウンドを見た。
「・・・・」
「どうした?冬樹」
不意に立ち上がった冬樹に声を掛ける千景。
「・・・・・もう、二年なんだね。あの事件から」
その言葉に、他の者達も反応する。
横一列に並んで、屋上からグラウンドを見下ろす五人。
「そうだな」
海路が感傷に浸りながら返事を返す。
「・・・」
信也は辛そうな表情をする。
「あの日は、酷かったね」
白露が、あの日の事を思い出す。
「・・・・ああ、あの日は、本当に酷かった」
千景が、そう呟いた。
それは、二年前のクリスマスの事。
町全体を巻き込んだ、最悪の事件。
そして、千景にとって、人生最悪の
十二月。
本格的に肌寒くなってきたこの時期。
そんな日に限って、雪とかそういう外で楽しめる要素が無いと、誰も外に出たがらない。
しかし、その寒い日なのに、簡易的な防寒具しか身に着けていない少年が、外を歩いていた。
千景だ。
その手には、ビニール袋で、その中にはあまりにも大量の食材が入って来た。
しかも、今回は彼はいつになく上機嫌だった。
「冬のバーゲンセールで、いつもより大量の食材が安く買えたぜ」
「千景、この日、だけは、本気になる、ね」
が、今年に限っては違った。
その千景の隣には、薄水色の髪をした少女、冬樹がいた。
「ただ椿さんたちもバーゲン狙ってたとは思わなかった」
「流石、絡久良市、の、番長・・・・あの、勢い、は、恐ろしかっ、た」
冬樹は、鬼の形相の椿にぶっ飛ばされた時の事を思い出していた。
あの日以来、千景と冬樹の関係は、良好なものになっていた。
別にベタなチョロインのような展開になった訳ではないが、それでも良き友人という関係には成り上がったと冬樹は認識している。
「あと、一つ、何故、か、あの人の、娘、さん?、に、睨まれ、た、んだけ、ど・・・」
「ああ、あれな。俺にも良く分からん」
「そう、なん、だ」
本当に、優のあの視線は訳が分からなかった。
それはともかく、無事に百合籠に戻った千景と冬樹。
「それじゃ、それは貰う」
「あ、でも・・・」
「お前の立場については妥当な判断だ。いいから貸せ」
「あ・・・」
冬樹から奪い取る様に、買い物袋を手に取る千景。
その様子に、冬樹は泣きかけるも堪え、落ち込んで先に歩いていく千景のあとをついていく。
「戻りました」
「ただいま・・・」
千景はいつもの機械的口調になり、冬樹は普段通りに努めようとするも、やはりやや暗そうな声になってしまう。
「おかえり、二人とも。珍しいね。君たちが一緒にいるなんて」
「たまたま出会わせました」
「・・・」
千景がそう答える。
冬樹はなにも言わない。
「食材を冷蔵庫に入れておきます」
「ああ、よろしく頼むよ」
そんな訳で、台所に向かう千景。
そんな様子を見送った冬樹は、ふと広間の掲示板に張られたチラシを見た。
「ああ、もうすぐだったわね。クリスマス」
ふと、冬樹の後ろから、雅が呟いた。
「雅姉・・・」
冬樹が見ていた紙、それは、近頃、子ども会で行われる『クリスマスパーティ』のチラシだった。
対象は小学生以下。
公民館にて、行われるらしい。
「雅姉、は、なにか、予定、ある?」
「友達の家でやるわね、パーティ。結構な所帯でやるみたいだけど、ま、気長に楽しんでくるわ」
雅はそう言って、自室に戻っていく。
その様子を、冬樹は黙って見送った。
食材を冷蔵庫に入れ終え、自室に戻ろうとする千景。
そこでふと、千景は立ち止まった。
「・・・・・今回も、随分と早いですね」
その問いは、千景のすぐ横、曲がり角で壁に寄りかかっている雅に向かって言われた言葉だった。
「・・・・そろそろだったわよね。
そう言って、雅は何かを投げてくる。
それを受け取った千景。
「・・・・例によって、お菓子ですか」
「嫌なら別にいいのよ」
「いえ、ありがたくいただきます」
言っておこう、これが彼らの通年の行事だ。
この街において、実は彼、不道千景の誕生日を知っているのは、雅ただ一人なのだ。
いやありえないだろと思う者も多いかもしれないが、実は、雅だけが、彼の誕生日を覚えていた。
その事実は、無論口外されていない。
そして、千景がいつも彼女の買い物に付き合っている理由がこれなのだ。
毎年、この十二月になると、雅は決まって、隠れて千景に贈り物をする。
それは、毎回買い物に付き合ってくれる千景への報酬なのか、または、毎日虐めを受ける彼への労いなのか、または、餌付けし手懐けるためか。
ただ、千景は、それを黙って受け入れていた。
彼女がどう思っていようと、ただ、一人だけでも祝福してくれる人がいるなら、この好意は受け取っても良いのかもしれないと、千景はそう思っていた。
ただ一つの労い。
それが、彼の一年を生きる為の活力だった。
「部屋で食べなさいよ」
「言われなくてもそうしますよ」
そう言い合い、二人は分かれた。
されど、彼の生誕を祝福する者は、彼女を除いて他にはいなかった。
絡久良市立坂上中学。
そこは、当時奏が通っていた学校である。
そんな奏が廊下を歩いていると。
「かーなでちゃん」
「・・・」
声を掛けられたところで、奏は振り返った。
そこには、活発そうな少女が奏に向かって手を挙げていた。
「悠木・・・」
「やっほー」
「何?」
「呼んでみただけだよ。それより神社の方はどう?」
「別に変わった事はないわよ」
「ふーん・・・」
彼女の名前は『
奏とは、小学校の頃からの幼馴染であり腐れ縁、この方違うクラスになった事が無い。
「奏ちゃん、今日も神社で神事?」
「ええ。町の人たちから集められた貢物をお供えしないといけないから」
「そっかー」
「なんだったら
「ああ、いいよいいよ。別に無理して遊びたいって訳じゃ無いし。ついでに神社つまんないしあの階段上るのいやだし」
「あはは・・・」
廊下にて歩きながら話し合う二人。その様子はまさしく女子中学生のそれ。
「最近、安座間さんも神社に出入りする事多くなったよね」
「ええ。だいぶ暇が出来たからって言ってたわ」
本当は千景の空手の上達が以外と早いから本腰を入れているからなのだが、この街の人間に対して千景の話をするのはタブーだ。
だから、奏は小学校時代を共に過ごした幼馴染に対しても、千景の事は話さない。
「奏はすごいよねー。絡久良の番長安座間椿とまともに話せるのは、後にも先にもアンタだけよー」
「そうでもないわよ。あの人、案外優しいから」
「いやー、私はそうは思わないわね」
そう、話し合っていた時だ。
「やあ、お二人さん」
「あ」
「げ」
ふと、後ろから声をかけられ、振り向くと、そこには一人の少年がいた。
人の良さそうな顔立ちに立ち姿。その人物の出現に、何故か悠木は嫌そうな顔をする。
「いきなり、げ、はないんじゃないかな悠木」
「うっさい。それもこれもあんたが奏ちゃんをストーカーしてるのが悪いんでしょうが」
「酷いなぁ。僕はただ単純に奏さんと話がしたいだけなのに・・・」
「一度振られたんだからいい加減諦めろっての」
「奏さんは考えさせてくださいって保留にしただけだよ?」
「同じよ同じ、さっさと帰れー!」
「ま、まあまあ悠木、別に
彼の名前は『
クラス一の優男と言われる少年である。
しかし、先ほどの会話にあったように、実は新人は奏に向かって告白をしているのだ。
しかし奏は彼の告白を保留にし、ここ一年ずっと先延ばしにしているのだが・・・
「アンタもアンタで、こんな奴、しつこいならしつこいっていえばいいのに」
「ええ、でもなあ・・」
「僕はいつでも良いよ。ちゃんと返事してくれるまで、僕はいつまでも待つつもりだから」
そう言う新人に、奏は、思わず赤面してしまう。
「こらこら純粋な奏ちゃんをたぶらかすなこのチャラ男。いくよ奏」
「ああ・・・!?」
「行っちゃった・・・・」
悠木に引っ張られる形でさっさと行ってしまう奏。
「あんたも物好きよねえ。あんな男、さっさとばっさり振っちゃえばいいのに」
「うーん、それもそうなんだけさあ」
奏が彼を正面切って振れない理由。
まず一つ。
彼が奏にとってタイプな人間だから。
容姿はもちろん、性格もばっちりだ。
常に他人を気遣い、誰にでも優しく、色んな事を率先してやる。
そんなベタな設定男のような人間なのだが、それがどういう訳か奏の好みにぴったりとハマってしまっているのだ。
そう、それなら普通にOKしても良いんじゃないかと思う者も多いだろう。
問題なのは、何故か奏自身の直感が、彼を受け入れてはいけないといってくるのだ。
その理由は分からない。しかし、彼のあまりにも完璧すぎる性格が、奏には不自然に見えて、そして、彼もまた、千景を嫌う存在だという事が、返事に歯止めをかけているのだ。
故に、奏は彼の告白を受け入れられず、しかし、かといって退く事も出来ないのだ。
「あ、私こっちだから」
「おおそうだったそうだった。それじゃあまた明日ね」
「ええ、また明日」
そうして別れた二人。
ふと、奏は夕焼け色に染まった空を見上げた。
「・・・・もう、十二月、か・・・・」
もうすぐ、彼の誕生日だった筈。
もう、随分前の事だから、詳しい日時を忘れてしまった。
誰も、彼の誕生日など覚えているどころか、知りたくも無いだろう。
だって、この街は、そうなのだから――――
「ん?」
「あ」
神社に上る階段にて、何故か千景とばったりと鉢合わせになった奏。
「こんにちわ、奏さん」
「・・・・あ、ええ、こんばんわ、千景君。今日は何しに・・・?」
「少し、文献を見に来たんですよ」
その千景の返答に、思わず奏は表情を強張らせる。
「・・・な、なんで?」
「俺はまだ『天鎖刈』の事について知らない部分があります。最後の魔器使いを打倒する為にも、知識を頭に叩き込んだ方が良いかと思いまして」
「そう・・・・」
「・・・・・あまりに乗り気ではありませんね」
「そ、そんな事は・・・」
「いいんです」
千景は当然のように答える。
「もともと貴方は俺がこの戦いに参加する事も、貴方は乗り気では無かった。しかし、それは仕方のない事です。何せ、俺は、貴方たちにとって恩人ともいえる母さんの子供です。戦いに巻き込みたくないのは当たり前です。ですが」
千景は否定する。
「俺は既に戦いに参加している。この先、俺を生かしたいなら、俺を強くする方法を教えてくれ」
強い眼差しで、まっすぐに、そう言ってくる千景に、奏は、思わず息詰まる。
だが、やがて千景の言葉の正しさに、いつの間にか頷いていた。
「・・・分かったわ。ついてきて」
そうして、奏は千景を神社の書庫に案内していく。
その様子を、遠目から誰かが見ている事に気付かずに。
「・・・・『久我楔』・・・それが俺の御先祖様なのか・・・」
千景は一人、書庫にて文献やら書物やらを一つ一つ漁っていた。
「この『久我真一』って人も、かなり凄い救導者だったのか・・・ええっと、二丁拳銃の御神刀『
読めば読む程、天鎖刈や、初代の周囲の事が分かってくる。
天鎖刈についての詳しい使い方や概要。
当時魔器『鎖』の頃の力。
そして、久我楔が、救導者として戦った戦歴。
そして、なんとも幸せたっぷりな日記。
「ええっと・・・やめよう」
流石に千景も見てて恥ずかしくなったらしい。
というこれは日記というよりも、その形式の
あまりにも書いてて恥ずかしくないのかといえるほどにとんでもない内容の話が詳細に書かれている。
これは確かに『封印』の御札が張られた箱に厳重に隠しておきたい筈だ。
その封印を『封印解鎖』で解く千景も大概だが。
「・・・・あ」
そこで、千景は時間がギリギリな事に気付く。
「そろそろ帰らないと」
千景は、急いで書庫で引っ張り出した書物を全てしまい、書庫を出る。
「あら、もう帰るの?」
鳥居の前で箒を掃いていた奏がそう聞いてくる。
「飯当番なので、また明日来ます」
「そう、気を付けてね」
そう言って階段を降りてくる千景を見送る奏。
しかし、その表情を悲しげで、心配そうな表情だった。
「・・・・千景君・・」
奏は、そう、彼の名を呼んだ。
翌日―――――
千景はいつも通り、通学路を歩いていた。
その横には、何故か冬樹がいた。
「・・・・なんでいるんだお前」
「別、に、いい、でしょ」
なんだか、この頃彼女の我儘に拍車がかかって来たような気がする。
気のせいであって欲しい所だ。
「最近、虐め、の、方、は・・・」
「ん?ああ、ヒートアップしてきてるよ。あの一件が原因だろ」
一件とは、あの山火事事件である。
あの時、千景はパニックに陥っていたクラスメイトたちを一喝した後、すぐさま冬樹の救援に向かったために、指示して自分だけ逃げたという濡れ衣を着せられ、さらに自分一人で逃げたから大怪我を負ったなどと理不尽な理由で、評価がた落ちに加え虐めがヒートアップしてきたのだ。
「ひど、い・・・」
「そう言うなや。あの状況からそう言われても仕方が無い」
「・・・・千景、は、少し、他人が悪い、という事も、肯定、すべき、だと、思う」
「・・・・どういう事だ?」
そう、首を傾げた時。
千景は、首が思いっきり首を締め上げられるような感覚を感じた。
「ッ!?」
(ここで魔器だと!?)
そう驚愕しつつ、千景は、首を絞められるのと同時に感じる引っ張られる感覚の方向を探ろうと意識を集中させる。
「千景・・・どう、した、の?」
「ん、ああ、別になんとも・・・」
そう言いかけた時、千景たちの真正面から、複数のあまりにも音の大きい足音が聞こえた。
「「!?」」
そちらに気付き、視線を向ける二人。
それは、数名の警察官。
どれも、千景に向かって険しい表情で睨み付けており、あまり良い予感がしない。
「冬樹、下がってろ」
冬樹を言葉で下がらせ、身構える千景。
「・・・不道千景だな」
警察官の一人が、そう質問してくる。
「そうですが・・・・」
そう、答えた瞬間――――
「ッ!?」
千景が思いっきり顔を傾け、その頬を弾丸が掠めた。
「ひっ・・・!?」
それに、冬樹が驚き尻もちをつく。
「チッ」
その発砲を行ったのは、先ほど質問してきた警察官だった。
「いきなり何を・・・・」
千景がそう言いかけた時、警察官は言った。
「不道千景、貴様を放火罪で、
「「―――――――は?」」
その言葉に、千景のみならず、冬樹までが間抜けが声を発した。
次回『悪意の鬼ごっこ』
逃走する。手が届かない所まで。