不道千景は勇者である 作:幻在
最近ゆゆゆいもご無沙汰だし、リアルの事情で全然出来ねえ・・・
とある学校の屋上で、一人の少年が立っていた。
「・・・くくく」
一人、嫌らしく笑う。
「とうとう、とうとうこの街に復讐出来る・・・!憎き父さんの夢を潰したこの街を・・・!!くく・・・・あははははははは!!」
少年は、天に向かって高笑いをした。
一方、商店街の方では――――
「処刑・・・?」
冬樹は、信じられないとでもいうように呟いた。
「どういう事だ・・・?」
千景が問う。
「そういう事だ。不道千景、お前を放火罪で処刑する」
「まずは逮捕じゃないのか。それ以前に、証拠があるのか」
もっともな指摘をする千景。
「黙れ。貴様が森に火を放った事は決定事項だ。即刻処刑する」
一人の警察官が千景に拳銃を向け、他の警察官も千景に銃を向ける。
「ま、待って、くだ、さい・・・!」
そこで冬樹が千景の前に出る。
「そこをどけ」
「千景、は、そんな、こと、しな、い。何か、の、間違、い」
「これは決定事項だ。その男は処刑しなければならない」
「その、前に、証拠、見せ、てよ・・!!」
確かに、逮捕するに値する証拠やネタがなければ、逮捕するには至らない。
否、それ以前に、裁判も通さず独断で処刑するなど、法律以前の問題だ。
「黙れ!」
しかし、警察官はそんな冬樹の言葉を怒鳴って一蹴する。
「決まったのなら異論は許さん!これは決定事項だ!コイツは即刻処刑する!処刑するのだ!処刑なのだ!」
「おか、しい!なんの理由も、無しに、人を、殺す、なんて・・・・貴方が、貴方、達が、犯罪者に、なる、だけ!!」
「黙れ!黙らないと貴様を処刑するぞ!!」
もはや論理が破綻している。
そもそも、この警察官はまともじゃない。
(どういう事だ・・・・!?)
そこで、千景は気付く。
「殺せ」
「殺してしまえ」
「処刑する」
「捕まえろ」
「逃げられない様にしろ」
「今すぐ殺せ」
「逃げる前に」
「このクズを殺せ」
「犯罪者め」
「殺人鬼」
「人殺し」
周囲の人間の様子も何かおかしい。
「これは・・・!?」
その瞬間、かちゃりという音が千景の耳に入った。
それは、拳銃の撃鉄が起こされる音。
その事に気付き、千景は真正面を見る。
そこには、冬樹に拳銃を向ける男たちの姿があった。
「―――ッ!!」
それを見た千景は、すぐさま血の気が引くような感覚を覚えた。
「処刑処刑処刑ィッ!!!」
警察官たちが引金を引く。
轟音と共に、弾丸が撃ち出される。
その銃弾全てが、冬樹に向かって突き進む。
その弾丸が、全て冬樹に叩き込まれる――――その寸前で――――
「――――『天鎖刈』ッ!!!」
千景が、鎖を使って弾丸全てを叩き落とした。
「千景・・・!」
「逃げるぞ」
御神刀発動による物理保護による身体強化で冬樹を抱えて飛び上がる千景。
「逃げるぞッ!」
「追え!追えー!!!」
建物の屋上を走る千景。
「みんな、どうし、ちゃった、の?」
「分からない。とにかく今は創代神社に向かおう」
背後から弾丸が飛んでくる。
しかし、千景はそれをかわしつつ、神社に向かった。
「これは一体・・・!?」
神社に繋がる階段の所で、奏は絶句していた。
そこには、まるでゾンビのように階段を上がってくる、絡久良市の住人がいた。
しかし、その全てが、創代の張った結界に侵攻を阻まれていた。
「これは、まさか、魔器・・・それも精神操作系の、町全域に広がる程の・・・・!?」
その事実に、奏は驚愕する。
一体、いつ、これほどまでの人間を掌握したのか。
精神操作系の魔器の特徴として、まず、相手の洗脳するのは、洗脳する相手に何かしらの接触をしなければならないという事がある。
眼をあわせる、直接触れ合う、所有物を持たせるなど、さまざまだが、その全てが必ずなんらかの直接的なコンタクト行動をとらなければ、相手を洗脳する事は出来ない。
一体、いつ、これほどの人間と会う事が出来るのか。
「く・・・」
「奏!」
「あ、椿さん!」
そこへ、椿が飛んでくる。
「やはり魔器か」
「ええ。結界が彼らを拒んでいる時点で、結界が作用する程に彼らは危険な状態のようです」
創代の結界は、魔器使いの侵入を阻むだけでなく、魔器使いの傀儡となった人間の侵入も拒絶するように作られている。
これによって、巫女は敵の攻撃を受けにくいのだ。
もちろん、四月あたりの『攻』の時のような例外も存在するが、滅多に起きない。
そこへさらに、冬樹を抱えた千景も飛んでくる。
「奏さん、椿さん!」
「千景か・・・それとそっちは水霜の子か」
千景が冬樹を下ろし、奏と椿は二人に駆け寄った。
「奏さん、これは一体・・・!?」
「おそらく、最後の魔器が行動を起こしたみたい。それも、相当厄介なのがね」
「厄介・・・・ですか」
「ええ」
そこで、奏は冬樹に歩み寄り、そして、目線を合わせるようにしゃがんだ。
「ごめんね。こんな事に巻き込んで」
「い、え、私、まだ、どういう、状況、なのか、わから、ない、けど、大変、な、こと、なん、です、よね・・・?」
「・・・ええ。とっても危険よ。だから、貴方はここで大人しくしててね」
奏は、彼女の頭を撫でる。
その間に、千景と椿は街の住人の対応について考えていた。
「さて、千景。こいつらどうする」
「できるだけ傷つけたくありません。どうにかして洗脳を解く事が出来ればいいのですが・・・・」
「別に殴ってもいいんだぞ?」
椿が目を細めながら、そう諭すも、千景は首を振る。
「俺が人を傷つけるのは嫌なのは知っているでしょう」
「お前は理不尽に暴力を受けてきたのだぞ?」
「それでもです」
千景は、頑固として彼らを傷つける気はないようだ。
「物好きめ。本当に千歳に似て来たなお前は」
「母さんに、ですか?」
「ああ、自分の心情については一度決めたら手小でも動かないし、曲げない奴だった。本当に、変な所で似ているなお前たちは」
「そうですか」
それを聞いて、千景は気分が高揚した。
母親と同じという事が、彼にとっては嬉しいのだろう。
それはともかく、千景は考える。
(敵は、この街全体の人間を掌握し、俺達をいきなり襲わせた。何故だ。何故このタイミングで魔器を起動したんだ・・・・?)
そこで、千景は奏に聞く事にした」
「奏さん。精神操作系の魔器の特徴について、教えてくれませんか?」
「魔器自体の武器は、決まった形ではないというのは知っているわね。ゴーグルであったり、首輪であったり、ハンマーであったり。それは分かっているわね?」
「ええ」
「それで、特徴についてだけど、魔器に決まった形がないから、武器ではどんな能力なのか、当然分からないわ。ただ、精神操作系の魔器が相手を操る時に必ずする行為は、相手との直接的
「なるほど」
千景は階段で結界に進行を阻まれている人々を見る。
「・・・・助ける方法は・・・?」
「・・・あるにはあるわ」
奏は、懐から一冊の書物を取り出す。
「それは・・・?」
「『救導御書』・・・代々の救導者たちが、後世の魔器使いたちの為に記した、魔器対策書って言った所ね」
「それに、何かヒントが・・・?」
「ええ。これによれば、精神操作型には、遠隔操作型と自動操作型の二つがあるみたいね。重要なのは、これは、御神刀において、『断ち切る』という概念を想起させる『文字』の持ち主にしか、解除は出来ないって書かれているわ」
「断ち切るの概念を持つ文字・・・・」
椿が繰り返す。
それはいわば、魔器使いと彼らとの間の繋がりを断つという事を意味する。
どうやったらそれが出来るのだろうか。
「なるほど、だいたいわかりました」
千景が階段を降り始める。
「千景?」
「千景君?」
ゆっくりと階段を降りていく千景は、鎌を大きく掲げる。
ゾンビのようにうめき声をあげる市民は千景の姿を視認すると、さらにそのうめき声を張り上げて千景に襲い掛かろうとする。
「――――『束縛解鎖』ッ!!」
千景が、鎌を一閃し、最前列の人々を横一文字に斬った。
「「「!?」」」
その光景に、驚愕する椿、奏、冬樹の三人。
しかし、それを受けた
それはすなわち、結界内に入った事を意味する。
「え・・・!?」
それにさらに驚く三人。
しかし、倒れた人々が、起き上がった時、その様子は先ほどとは一変していた。
「お、俺は一体・・・・」
「私、何を・・・」
「正気に戻っているだと・・・・?」
なんと、洗脳が解けたのである。
「精神を束縛している、という事にして洗脳を解きました。縛っているものを鎖と想定すれば、断つ事は容易いです」
千景が、そうなんでもないように答える。
「さて、次の奴らも・・・」
「ち、千景・・・!?」
「ん?」
ふと、千景の名を呼ぶ人物がいた。
それは、魚屋の店主だった。
「・・・・」
「・・・何か?」
どうやら、何かを言いたかったようだが、やがて耐えるように俯いた。
「・・・・なんでも、ない」
「そうですか・・・・?」
その様子に、千景は思わず首を傾げる。
その時、また結界に洗脳された人々がぶつかる。
「り、梨花・・・!」
「ッ!」
魚屋の店主が向ける視線の先、そこには一人の女性がいた。
「処刑、処刑、処刑・・・」
「正気を取り戻してくれ梨花、俺達は・・・」
「あの人は貴方の妻ですか?」
千景が、視線を向けずに聞く。
「・・・・そうだ」
その質問に、魚屋の店主は答え、やがて、悔しそうに顔を歪めながら俯いた。
「俺は、いままで何をやってたんだ・・・!!」
血が滲む程に手を握りしめている。
それほど、悔しいのだろうか。
今まで、自分らしくない事をしていた事について。
「・・・・・そういう事か」
魚屋、そして、周囲の千景が洗脳を解いた者達の反応から、千景は、ある推測を立てた。
そして、
千景は歩き出す。
「ふざけるなよ・・・・」
千景は、体内に煮えたぎるマグマのような怒りの蓋を、静かに開けた。
「この街の人たちは、お前の道具じゃないぞ・・・!!」
瞬間、千景が集団の中に飛び込み、一気に階段を駆け下りた。
そして、すれ違いざまに、階段に群がっていた人々全ての洗脳を斬った。
それによって、人々は正気を取り戻す。
「椿さんッ!!」
千景が階段の下から叫ぶ。
「『布』は『縄』にもなりますッ!!それなら洗脳を『断ち切る』事が可能でしょう!!」
「ッ!その手があったか!」
千景の言葉に椿も気付き、そして飛んで千景の隣に降り立つ。
「全員の洗脳を解いて、こんな事をしたくそッタレをぶん殴る!それでいいですね!!」
「珍しくキレているなお前。だが、その案には賛成だッ!!」
街の人々が襲い掛かってくる。しかし、二人はそれを一気に迎え撃つ。
千景は鎌で、椿は
一方で、とある学校の屋上で、例の少年が一人笑っていた。
「いいぞ、こっちに来い。復讐の為に、さっさとここに来い、不道千景君・・・!!」
少年は、高笑いをしていた。
「ハアッ!!」
一旦、椿と別れつつ、洗脳された人々を斬り、洗脳を解いていく千景。
「ガァアアッ!!」
「ッ!」
そこへ、信也が千景に向かって金属バットを振り下ろしてくる。
「信也・・・!」
「死ねぇ、千景ぇ・・・!!」
再度金属バットを振り下ろそうとする信也。だが、この数ヶ月鍛錬を重ねてきた千景には、そんな攻撃は泊まって見える。
すぐさまかわしてその胴に一閃を入れる。
「が・・・!?」
やがて地面に膝をついて、震えた。
「お、俺は・・・・」
「信也、大丈夫か?」
千景が、他の人々の洗脳を解きながらそう聞いてくる。
「千景・・・俺は・・・」
「何も言うな。話はあとにしよう」
千景は走り出す。
その様子を、信也は茫然と見るしかなかった。
「ハアッ!!」
一方の椿は、操られていた自分の娘、優を助けていた。
実は、優の様子が昨夜から変だったのだ。
「優、しっかりしろ!」
「げほっ・・・おか・・・・さん・・・・?」
どうやら意識が朦朧としているようだ。
「どういう事だ・・・他の者は全員・・・」
「おかあ・・・さん・・・・わたし・・・まけ・・・ちゃ・・・った・・・」
「負けた・・・?どういう事だ?優」
そこへ、奏がやってくる。
「椿さん!優ちゃんは大丈夫ですか!?」
「ああ、どうにか・・・・でも、どういう事だ?何故、優だけこんなに意識が朦朧と・・・」
「おそらく、洗脳の深度が深すぎているようです」
「どういう事だ?」
「魔器の洗脳には、その度合いがあって、その度合いが高いほど、その相手はより精神に影響を及ぼすようです。おそらく、優ちゃんは・・・」
「魔器使いに、かなり重い洗脳をされたのか・・・・!?」
「おそらく、今優ちゃんは危険な状態です。まずは安全な所に・・・」
「私、が、やり、ます」
「冬樹ちゃん・・・・」
そこへ冬樹が優を抱える。
「私、なら、大丈夫、です、ですから、千景を、助けに、いって、くだ、さい」
「水霜・・・分かった、優を頼んだぞ」
椿は冬樹の頭を撫でて、立ち上がる。
そして走り出し、奏もその後を追っていく。
逆に、冬樹は振り返って神社の方へ走る。
今安全なのは、あそこ以外にない。
だから、冬樹は走った。
そして。
「ここが魔器使いの居場所か・・・・」
「だがここは・・・」
千景、椿、奏の三人は、御神刀の探知機能を使って見つけ出した魔器使いの居場所に辿り着いた。
しかし、ここは――――
「・・・坂上中学」
奏の通う、坂上中学校だった。
「でも、どうしてこんなところに・・・」
「坂上の生徒、という可能性があるのかもしれません」
「魔器使いに選ばれるのは、十五年前に結界から悪霊たちが出てきた時だけです。生まれたばかりならば、可能性もあるかもしれませんね・・・・」
奏の説明を聞き入れ、千景は見上げる。
「だが、どちらにしろここにいるのは確かだ」
椿の言葉に二人は頷き、坂上中学のグラウンドに足を踏み入れる。
その時、奏を前後で挟む様に後ろにいた千景は、首筋にちりり、という悪寒のようなものが走った。
「・・・・ッ!?」
(いつの間に背後にッ!?)
それに気付いた時、そこには、一人の女性が立っていた。
その右手は、すでに千景の胸に向かって振り下ろされていた。
そして――――
「千景ッ!!!」
椿が奏を押しのけて千景を背後から抱きしめるように、首あたりに左手を回していた。
そして、女性の右手は、その椿の左腕に振り下ろされた。
その手には、何か小さな拳銃のようなもの。
その引金が引かれ、プシュッ、という炭酸飲料の缶を開けるかのような音が聞こえた。
すぐさま千景がその女性を鎌で斬る。
そして、千景はその女性の正体を知った。
「雅さんッ!?」
そう、桐馬雅だ。
「・・・・あ」
やがて、雅は自分がしでかした事に気付きつつ、地面に膝をついた。
「ああ―――」
「椿さん!大丈夫ですか!?」
奏が椿にかけよる。
「ああ、私は、なんてことを・・・・」
「ご苦労様、
『!?』
突如、どこからか聞こえた声に、千景が身構える。
「信じていたよ安座間さん。貴方なら必ずその子を守ろうと体を張るって」
だが、奏は、その声を震わせていた。
「・・・嘘、嘘よ・・・」
その人物は、千景たちの前に現れる。
黒い装束を身に纏い、こちらに恐ろし気な笑みを向ける、その少年。
「だって、貴方は・・・・」
「ごめんね、奏さん。でも、お陰で復讐の準備は整ったよ」
そこに立っていたのは――――
「・・・・戸愚呂新人」
「こんにちわ、不道千景君」
始まりは、六年前。
あの日、千景が全ての記憶を失った日。
そして、千景の両親、不道千歳と不道景矢が、死んだ日。
その日から、この復讐は始まっていた。
次回『罪《Sin》』
業火で身を焼け、罪を自覚し、その名の意味を知れ。