不道千景は勇者である   作:幻在

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最近、夏になって暑くなってきましたが、皆さまはどのようにお過ごしか。

最近リアルが忙しくて週二回の投稿がしにくくなってる・・・




罪《Sin》

「戸愚呂新人・・・・」

その名は、奏に向かって告白をした、少年の名だ。

されど、今目の前に立つその少年は、千景たち救導者たちの敵だった。

「こんにちわ、不道千景君」

新人は社交的な笑顔で千景に話しかける。

「お前が、最後の魔器使いか」

「その通り、といいたいところだけど、僕はそれ以前に『復讐者(アヴェンジャー)』だ」

新人の言葉に、千景は首を傾げる。

「僕はね、ずっとこの時を待っていたんだ。この街に復讐する機会を」

「なんだと?」

千景が問いかける。

「どうして・・・・」

そこで、奏が前に出て問う。

「どうして、貴方が、魔器に?魔器に選ばれるのは、十五年前の結界が緩んだ時だけ。だけど、その時は私も貴方も生まれていなかった。だって、私たちが産まれたのは、その一年も後だから・・・・」

「ああ、これの事ね」

新人の手には、あまりにも中途半端な大きさの、剣とも言い難く、かといって小さなナイフとも言い難いサイズの剣が握られていた。

「面白いよね、魔器って。何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それ・・・じゃあ・・・」

奏が青ざめる。

 

「そうだよ。僕は()()()()()()()()()『悪』に選ばれたんだよ」

 

『!?』

その事に、驚愕する一同。

「『悪』・・・『憎悪』の『悪』か・・・・」

「その通りだよ。やはり君は賢い。しかし、君は同時に愚かだ」

「なに・・・?」

「君は考えても良い筈だ。人に仕返しする事をね。君は散々理不尽な暴力を受けてきた。知らない罪で殴られ、金の為に殴られ、人のストレス発散の為のサンドバックとして殴られ、だけどそれでも君は決して反撃しようとしなかった。それは何故だい?君は怨みの一つや二つ抱いても良い筈なのに」

それは最もな事だ。こんな理不尽な事をされれば誰だって怒るし、絶望する。

しかし、千景はそのどれも抱かなかった。

「だからこそ、君は愚かだ。悪感情こそが人間の醜き部分であり、人間らしいところだ」

「・・・・それで、俺に何が言いたい?」

「別に、君はその事について、どう思っているのかと聞いているだけだ」

「別に俺にはあいつらに起こる理由もないし怨む理由も無い。それもこれも道理だと思ってる」

「それは何故だい?」

「俺の親は犯罪者だ。そして俺はその息子。その息子が親と同じように咎められても、仕方のない事だと思っているからだ」

「それ、他の同じ境遇の子たちには言えるのかい?」

「言えない。これは俺だけの持論だからな」

「そうか。でも、だからこそ僕には君が愚者に見えて仕方が無い」

新人は語る。

「人とは、負の感情があってこそ人たりえると僕は思うんだよ。怒りがあるから争い、哀しみがあるから嘆き、苦しみがあるから奪い、憎しみがあるから嫌う。それこそが人間の美点であり、人が最も嫌う部分だ。だけど、それを否定してしまったらこれまでの歴史をどうやって証明していく?苦しいから誰かから奪う事、それが理由で争いあう事、そしてそれはどんどん広がっていく。そういう事から人の歴史は成っていったんだよ」

「それでも、人はそれを乗り越えてきたんだ」

千景がそれを否定するも、新人はそれを肯定する。

「その通りだよ。だからこそ、僕のこの行為は、人の歴史において当たり前の事なんだよ」

突如、新人の手の中にあるナイフが、妖しい光を放つ。

その光は輪を描き、その中心に『悪』の文字を顕現させる。

そして、千景たちの周囲に数人、囲うように現れる。

その手には、金属パイプや本物の刀などの武器を持っていた。

「こいつらは・・・!?」

「彼らはこの街の中でもかなりの実力者たちだよ。学校の部活、大会のトップ入りなどね。ちょっとやそっとじゃ倒されないと思うよ」

ふふ、と新人が嗤う。

「どうして・・・」

そこへ、奏が問いかける。

「どうして、こんな事を・・・するの・・・?貴方は、今までずっと、他人の為に尽くしてきた。笑顔を絶やさず、人への気遣いも忘れず、間違った事は嫌って叱りつけ、そして、誰にでも優しかった貴方が、何故・・・」

「ああ、それ、全部()()

なんでもないかのように、新人は答えた。

「――――」

「そんなの僕の計画を気付かせない為のブラフに決まっているじゃないか。それに、僕の魔器は従来の魔器の洗脳とは違うからね」

新人は右手のナイフを掲げる。

「この魔器『悪』はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『!?』

その事実に、雅を覗いた全員が驚愕する。

それはつまり、彼は、相手と直接接触しなくても相手をいつでも洗脳出来たという事ではないのか?

「僕は、ずっとこの日を待っていたんだ。父さんを殺したこの街の人間全員にね」

新人は嗤う。

しかし、その眼は、嗤っていなかった。

「新人・・・」

そこで、ふと後ろの雅から声が上がった。

「貴方は・・・あの日お父さんが殺された理由を知っているの?だから、貴方は今まで、ずっとこの事を夢見てきたの?」

「うん、そうだよ姉さん。僕は知っているんだ。父さんが殺された日の事を」

雅の問いに、新人はうなずく。

「雅さん、貴方は・・・」

会話の様子に、千景は、気付く。

「・・・・あの新人って奴は、私の実の弟よ」

『!?』

さらなる衝撃。

「お父さんが死んだあの日、私は孤児院に、当時優秀だった新人は、それなりの名家に引き取られたの。その家では、あと弟一人を養うのが精一杯だったみたいだったみたいだから、仕方のない事だと思ってたわ。だけど、私はその時から・・・・」

「そう、姉さんは僕に洗脳されていたんだ。でもまあ驚いたよ。まさか姉さんが千景君の誕生日を知っていただなんて。ま、そんな事はこの際どうでも良いか」

ここで新人は話を一旦区切った。

「何故、僕がこんな事をする事に至ったのか、教えてあげるよ。事の始まりは六年前。その日までは、僕ら、桐馬家は幸せだったんだ。だけどね、それをある日、壊されたんだよ」

新人は、ありありと話す。

「母さんは、ある日、殺されたんだ。理由は会社の虐め。それに耐えられなくなった母さんは、自殺したんだ。その日からだよ、父さんが可笑しくなったのは。会社への憎悪を滾らせて、母さんへの渇望を求めて。だけどね、可笑しくても父さんは僕らを養ってくれていたんだ。苦しい生活だったよ。家賃はもちろん、家にあるもののほとんどを売り飛ばして金にして、やがて売る者が無くなっても父さんは夜遅くまで働いてお金を稼いでいたんだ。だけど、それでも僕らは幸せだったんだ。例え苦しくても、母さんがいなくても、笑って暮らしていける生活があったんだよ。だけど、奴らはそれすらもぶち壊したんだ」

新人の声が、低くなる。

「たかが気に入らないという理由でデマの情報を流し、父さんは仕事を追われ、僕らは孤立した。そして、とうとう奴らは母さんの事を侮辱したんだ。それで父さんは何をしたと思う?――――創代様に願ったんだよ。奴らに絶望を、奴らに地獄を、死んだほうがマシとさえいえる程の苦しみを味合わせてやってくれと、創代様に願ったんだ」

だけど、と新人の表情が、一層険しくなっていく。

「その願いさえも、ある警察官によって潰されたんだ。心臓を撃ち抜かれ、殺されたんだ。僕はその瞬間を見た。そして、憎んだ、この街の全てを。母さんを殺した会社も、会社の情報に踊らされた町の奴らも、そして、父さんの願いを聞き入れなかった創代も、何もかも、全てをね!」

その声に、憎悪が込められていた。憎しみが込められていた。怒りが込められていた。

まるで、この世の全てを怨んでいるかのように。

「だから僕は願ったんだ。この街の奴らに復讐出来る力を下さい、てね。そしたら、創代とは違う何かが、その力をくれたんだ。それがこれだよ。この魔器『悪』が、僕に復讐の機会を与えてくれたんだ。だから僕は考えた。どうやったらこの街の人間を絶望させたまま殺す事が出来るのかってね。そして気付いたんだ。洗脳して、その矛先を一人の人間に向け、そして、自分たちが操られていた事を自覚させて、そして、自分たちが虐めていた人間に復讐されるというシナリオをね!」

「その標的が、千景だとでも言いたいの!?」

雅が声を張り上げる。

「その通りだよ。千景君はね、僕の父さんを撃ち殺した男の子なんだよ」

「・・・・まさか」

そこで奏は気付く。

「あの男は・・・貴方のお父さんなの・・・?」

それは、奏でも覚えている。

 

六年前に、突然神社に押しかけて来た男が、当時巫女を務めていた奏の母を脅し、それを拒否された時にはたちまち殺し、あまつさえ父親まで殺した後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「その通りだよ。だけど、これだけは分かって欲しい」

新人は奏に手を伸ばす。

「君に惚れたのは本当だよ。いつも物静かで、だけど本当はお茶目で、あわてんぼうの君が、僕は好きだったよ。だから、君だけは特別に生かしてあげるよ」

新人は千景に言う。

「不道千景君、君が六年前に記憶を失った理由。それは僕の父だ。父が君を生贄として願いを成就しようとした。だけど、生贄をささげたにも関わらず、創代はその願いを叶えなかった。だから、君は『無駄な犠牲』のもと、()()()()()()()()()()()()()。そして、君の両親は、そんな君の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。だからね、千景君」

新人は自分の胸に手を当てた。

 

「―――――僕の父は、君の両親の仇だ」

 

千景に、その事実を突きつけた。

「・・・・あ、そう」

しかし、千景は、あまりに感心はしなかった。

「・・・・あれ?そんなに驚かないんだね」

「そいつはもう死んでるし、かと言ってお前を殺す気にもなれない。そもそも俺は人を殺したくないんだ。例え、親の仇であろうと」

千景は、そう斬り捨てた。

「・・・・なるほど、どれほど君の憎悪を煽ろうとも、君はそもそも、憎悪そのものを持っていないみたいだね」

新人は、やれやれと首を振る。

「仕方が無い――――無理矢理にでもその憎悪生み出させて貰うよ」

その言葉を発した瞬間、一斉に周囲の武装した者たちが襲い掛かってくる。

「椿さん!」

千景が叫ぶ。だが、椿から返事は無い。

「椿さん・・・!?」

千景は封印縛鎖で結界を張り、椿の方を見る。

そこには、息苦しそうにうずくまる椿がいた。

「椿さん!?」

「ごめんなさい・・・・さっき私が安座間さんに打ち込んだのは、筋弛緩薬というもので、筋肉を動かなくする薬で、それで・・・・」

「―――心臓の筋肉が止まるって事かッ!?畜生!!」

千景は鎌を振るう。

「『封印解鎖』『解毒』『鼓動』ッ!!『封印縛鎖』『心臓停止』ッ!!!」

千景は、すぐさま二つの能力を同時発動する。

「―――ッハア」

「椿さん!大丈夫ですか!?」

奏が駆け寄る。

「ハア・・・すま・・・ない・・・まだ、体の筋肉が・・・」

「っ、『筋弛緩』入れるのを忘れた・・・!」

「余所見をしている場合かい?」

『ッ!?』

気付けば、新人が千景が張った結界の目の前に立っていた。

「『悪意開錠』」

新人のナイフが、千景の鎖に触れる。

すると、まるで錠が外れるように結界が解かれた。

「ッ!!」

その途端、周りにいた武装した人たちが一斉に襲い掛かってくる。

それを、千景は一人で凌いでいく。

新人は下がって、安全地帯からその様子を見ていた。

敵の数は、全部で六。

新人を加えれば七だが、今襲い掛かってくる者たちは全員で六人だ。

しかし、そのどれもが、武器を扱う事に関しては長けた武道家。

千景の攻撃をものの見事に躱していた。

「くッ・・・!!」

さらに、千景は背後にいる奏、椿、雅の三人を守らなければならず、完全に防戦一方だった。

そこで、ボクシングで仕掛けてくる男が、千景の腹に強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

「ぐぅ!?」

千景の体重は平均より軽い。ここで粗食が祟り、高く打ち上げられる。

そこへ、弓を持った女の一矢が迫る。

それを千景はどうにか鎌で弾く。

しかしそれで落下する事には変わらず、その下には木刀を構えた男が下段に刀を構えていた。

(ここだッ!!)

そこへ千景は鎌を一閃。

するとその斬撃が鎖となり飛び、下にいた男に直撃する。

「『封印解鎖・飛』ッ!!」

解鎖の力を斬撃に乗せて男を叩き斬ったのだ。

そのまま着地、すぐさま槍を持った女が千景を襲う。

しかし、千景はその一撃を見切って懐に飛び込むと、女の鳩尾に掌底を叩き込む。

金属が砕ける音が響き、女の洗脳が解除される。

「これで・・・」

「千景、後ろよ!」

雅の叫び声に、千景は背後を向く。だが、向いた瞬間、いきなり顔面を何者かに掴まれる。

「捕まえた」

「―――ッ!?」

なんと新人だった。

先ほどまで後ろで高みの見物をしていた少年が、何故今になって前に出てきたのか―――

「僕の洗脳能力は、フィールド単位で集団を洗脳できる。でもね、より強い洗脳をかけるには、()()()()()()()()()()んだよ」

「まさか――――」

その新人の言葉に、奏はその表情を蒼白にさせる。

「君は、他人からの攻撃じゃ決して憎しみを抱かない。だから、僕が直接植えつけてあげるよ!!最高の憎悪をッ!!」

「やめて新人く――――」

奏が叫ぼうとするも、それよりも早く、新人は、千景に洗脳を開始した。

妖しい光が発せられ、その光が蛇のように唸り、直接千景の頭の中へ入っていく。

「がぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁああ!?」

そして、千景は絶叫する。

「ふふ、ハハハ、アハハハハハハハハ!!!委ねろ千景君!!その憎悪に、怒りに、憎しみに、その全てに身を委ねろ!!そうすれば、君は楽になれるさ!!そう、きっと、爽快だぞ!!!」

千景の中に、ありとあらゆる負の感情が流れ込んでくる。

 

 

『憎い』『殺す』『ぐちゃぐちゃにしてやる』『苦しめてやる』『殺してやる』『ムカつく』『死ね』『憎い』『全てが憎い』『よくも虐めてくれたな』『仕返ししてやる』『復讐してやる』『壊してやる』『跡形も無く殺し尽くしてやる』『消えてしまえ』『消してやる』『殺したい』

 

 

溢れ出てくる憎悪。

それは、本来なら千景自身が自ら抱くべき感情だ。

その圧倒的奔流に、千景の意識は、どんどん流されていく。

「ガァ・・・ァ・・・・」

心が、真っ暗な何かに塗り潰されていく。

精神が、最悪な方向へ堕ちていく。

何かの歯止めが外れていく。

頭の中で、声がささやいてくる。

 

『もう終わりだ』『全部壊してやる』『何もかも跡形も無く』『全て消してやる』『殺して殺して殺し尽くて』『一人残らず殺して』『血を舞い上がらせて怖がらせて』『絶望させて』『苦しみを味わせて』『全部消して』『何もかも、ひとつ残らず』

 

壊したい、と叫ぶ自分(だれか)がいる。

殺したい、と咆える自分(だれか)がいる。

消したい、と囁く自分(だれか)がいる。

 

そう思う度に、心がぐずぐずに崩れていく。いけない方向へ堕ちていく。

自分が自分で無くなっていく気がする。己の全てを捨ててでも、壊したいと思ってしまう。

だから思ってしまう。

 

もう、疲れた――――と。

 

殴られ続ける日々、罵声を浴びせられ続ける日々、大切な物を、どんどん失っていく日々。

もう、嫌だ。

こんな人生、生きていても良い事なんて何一つない。

ただ損な事を続けるだけだ。

自分はこんなに傷付いて、守ってやっているのに、周りの奴らは感謝の一つも述べない。

助けてやっても、何も言わない。

もう、疲れた。

人を助けるのも、虐められ続ける日々も、何もかも、全部。

だったら、全部壊しても、誰も咎めないだろう。

だって、咎める人は誰もいないのだから。

全部壊してしまえば、誰も自分を咎める人なんていないのだから。

もう、このまま―――

 

 

御神刀は、その心に敵意を、相手を傷つける気になれば、それは、他の凶器と変わらない、武器となる。

そうなれば、御神刀は、人を傷付ける兵器となる。

今まで、人を守る為に使ってきた武器を、今度は、人を殺すために振るおうとする。

 

 

そう、想い始めた時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、目の前に、一人の少女がいた。

千景よりは年上で、奏と同じくらいの、長い黒髪の少女。

その少女が、両手で千景の頬を包み込んでいた。

しかし、その表情は険しく。

その顔をぐいっと眼前まで引き寄せ、千景に、告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――我らは罪を背負う一族」

 

 

 

「――――人を傷つける事を許されず、人を守る事を義務とする一族」

 

 

 

「――――背中の刻印の元に、それは永久不滅の我らの誓約であり、未来永劫消える事の無い罪科」

 

 

 

「――――貴方の行為は、私たちの誓いを蔑ろにする行為」

 

 

 

「――――それは赦されない行為。私たちに、その資格などないわ」

 

 

 

「――――その身を炎で焼きなさい。そして罪を自覚しなさい」

 

 

 

「――――我らは罪の一族。故に人としての権利を剥奪された一族」

 

 

 

「――――これは私の罪。私で終わるはずだった罪。だけど、私はやはり諦めきれなかった」

 

 

 

「――――だから私はこの(ねがい)を未来に託した。いつか世界を取り戻す事を願って」

 

 

 

「――――だから手始めに、この街を救いなさい」

 

 

 

「――――救い、胸を張りなさい。私たちにその行為しか赦されていないから」

 

 

 

「――――仮令(たとえ)、この身を灰にしようとも、人を救いなさい」

 

 

 

「――――それが、私たちの誓いにして呪いにして罪にして、願い」

 

 

 

「――――私の名を受け継ぐ子。今こそその忌み名を知り、その身を業火で焼き、誓いを果たしなさい」

 

 

 

 

 

 

 

「――――勇者は永久に不滅。私は千の景色を殺した失格勇者。故に私は消えず、永久に消える事などない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さあ、立ち上がりなさい――――罪を力に変えて、立ち上がりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

「―――――救い導く者、それが私たち――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救導者(つみをせおうもの)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、千景の背中から、紅い炎が舞い上がった。

 

 

 

 

 

『!?』

その炎は、千景を包み込み、火柱となって天を貫く。

新人は慌てて下がり、その炎の範囲内から逃れるも、その熱波に思わず顔を隠す。

 

「――――これは、全て我が罪、我が咎、我が戒めにして、願いの証」

 

千景の姿が、変わる。

上半身の装束は全て焼け、かつてつけられた背中の火傷を晒す。

 

「――――それは永久に不滅であり、失格者としての証でもあり」

 

そして、その背中に、光る輪を背負っていた。その輪の中心には――――

 

「――――我ら、千の景色を殺す一族の誓いの象徴である」

 

 

――――――『罪』の文字が描かれていた。

 

 

 

 

 

「――――『戒業罪乃鎖(かいごうつみのくさり)』」

 

 

 

 

 

炎が蛇のようにうなり、千景の周囲を飛び回る。

それはまるで、魔女狩りの炎のようだった。

「・・・『罪』・・・?」

奏は、彼の背中に現れた『罪』の文字に、戸惑いを隠せなかった。

何故、彼の背中に、文字の概念があるのか。

それ以前に、あの炎は一体何なのだろうか。

何故、彼の背中から、()()()()()()()()()()()()()()燃え上がっていた。

「ッ・・・」

一方で新人は後ずさっていた。

(なんだよあれ。あんなの聞いてないぞ・・・天鎖刈の真解はただの限界突破の筈だ。なのに、なんで炎なんかを・・・!?)

新人が葛藤している間に、千景は鎌を振り上げる。

「戸愚呂新人」

そしてその鎌を新人にむかって叫ぶ。

「お前は許さない」

ただ一言、それだけを告げ、鎌を振り上げると、その柄頭を地面に叩きつけた。

すると炎が波状に広がり、周囲にいた洗脳された人たちを包み込む。

すると、彼らに掛けられていた洗脳が()()()、正気を取り戻していく。

それだけでは収まらず、炎は広がり、やがてこの絡久良市全体を包み込む。

それだけで、町中にいた洗脳者たちの洗脳が一斉に解かれていく。

「・・・・!?」

その現状に、新人は立ち尽くすしかない。

「終わりだ。これでお前の目論見は全て潰えたぞ」

鎌を向ける千景。

一方の新人は、まだ茫然としていた。

「ぐ・・・ぅ・・・」

「椿さん!大丈夫ですか?」

「あ、ああ。あの炎を受けたら、いきなり調子が良くなった」

「そうですか・・・良かった・・・・」

奏が心底ほっとする。

その間に、雅が千景の隣に立つ。

「新人、もうやめましょう。貴方の計画は、失敗したわ」

雅も、そう諭すように、新人に言った。

しばし、茫然としていた新人だったが、やがて、その体をわなわなと震わせて、口を開いた。

「ふざけるなよ・・・・ふざけるなよッ!!!」

怒りに顔を歪め、その周囲に黒い瘴気を巻き散らす。

「無駄になんかさせない。無駄になんかさせるものか。僕は、今日この時の為に頑張って来たんだ。この街を全て壊して、ここに住むゴミ共を全部殺してやるってあの日誓ったんだ。それを、それを、こんな簡単に終わらせてたまるものかッ!!!」

突如、新人の体が膨れ上がる。

『!?』

同時に、その手に持つナイフまでも肥大化し、巨大な幅広の大剣に成り変わる。

「椿さんッ!!」

「真解―――『呪装滅布』ッ!!」

椿が真解を発動し、その姿を変える。真っ黒な包帯を体中に巻きつけ、その口元さえも覆う。

「お前が殺さないなら僕が殺す、殺して殺して殺し尽くしてやるッ!!!」

「やめなさい新人!」

「危険です、下がって下さい!」

新人を止めようとする雅を、奏が抱き着いてでも阻止する。

その間にも新人の体は肥大化し、おおよそ三メートルの大男になる。

「『憎悪強化』ァ・・・!!!」

黒い瘴気を巻き散らして、醜い怪物に成り果てる新人。

「戸愚呂・・・!!」

椿は、そんな新人の様子を憐れみ。

「そんなに壊したいか」

千景は、彼に怒りを向ける。

「だったら俺が止めてやるよ・・・!!!」

炎を纏って、千景は憎悪に立ち向かう。

 

千景と椿は、悪意に立ち向かう。

 




次回『失格者の罪滅ぼし』

それは失格の烙印を押された者の力。
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