不道千景は勇者である   作:幻在

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失格者の罪滅ぼし

「ガァァァァアアアッ!!!」

「椿さんは正面からッ!俺は側面から攻撃を試みますッ!!」

「承知したッ!!」

新人が大剣を片手で振り上げる。

そこへ、椿が正面から飛び込む。

そして新人は一気に大剣を振り下ろす。

そこで椿の直感が告げる。

(この一撃はまずいッ!!)

すぐさま左手を伸ばす。

そこへ新人の大剣が振り下ろされ、椿の左手を沿って逸れ、椿のすぐ横の地面を抉る。

そして、椿は、引き絞った右拳を、新人の鳩尾に叩き込む。

しかし。

「ッ!?」

「ガァァアアアッ!!」

攻撃は通用していなかった。

拳は、新人の纏う瘴気によってギリギリの所で止められていた。

すぐさま拳を引こうとした椿だったが、瘴気が右手に絡みつき、引けない。

その間に新人が次の攻撃を仕掛けようとする。

単純に、もう一度大剣を振り下ろす気なのだ。

そうして大剣を振り上げた時、横から燃える蛇が新人の顔面を殴り飛ばした。

「ゴガァァァア!?」

あの巨体を押し、尚且つ吹き飛ばすその威力は、目を見張る。

その一撃を放ったのは千景だ。

炎を纏い、自分の手足のように従えるその姿に、周囲は驚きを隠せない。

されど、その攻撃の正体は炎を纏った鎖。

千景の御神刀『天鎖刈』の『撃鎖(うちぐさり)』あらため、『撃焼鎖(うちやきぐさり)』ともいうべき攻撃である。

そこで奏は気付く。

(まさか千景君、椿さんの攻撃が通用しない事を見越して、椿さんをわざと囮に・・・!?)

戦略的に頑丈な椿を囮に使うのは、確かに敵の注意を引くには懸命だ。

しかし、それは流石に椿にとっても重荷と言うものではないだろうかと思った矢先。

「椿さん!今のうちに手刀を打ち込んでください!瘴気であっても所詮は()、実体無いものが実体あるものを捉えられる訳がありませんッ!!」

「なるほどな」

「イメージを強く。貴方の文字は『布』と『呪』。この馬鹿の『憎悪』を、貴方の『呪い』で打ち破って下さい」

「それならば承知したッ!!」

椿が拳を振り上げる。

その手は開かれ、四本の指が真っ直ぐ揃えられていた。

「『四本貫手』ッ!!!」

呪いをその切っ先に込め、一気に突き刺す。

「ガァアアッ!!

されど新人がギリギリの所で左腕を掲げ、その一撃を防ごうとする。

しかし、その一撃は、新人の腕を貫いた。

「グギャァァァアア!?」

「チッ!しくじった!!」

痛みに暴れる新人。

人体そのものにダメージはないが、精神的に痛覚が痛みを訴える為、その痛みが彼の脳を貫いたのだ。

剣を振り回し、どうにか上に覆いかぶさる椿をどけようともがく新人。

「く、この、大人しく・・・・」

「ガァァァァアアアアッ!!!」

新人が絶叫する。しかし、次の瞬間、新人の体が膨れ上がった。

『!?』

「ガァァアアアアッ!!!」

さらに力も増強されたのか、上にのしかかっていた椿を振り落とす。

「ぐぅ!?」

椿を振り落とした新人は立ち上がり、咆哮を放つ。

その殺人的音量に、周囲にいた者たちは耳をふさぐ。

「ぐ・・ぅぅ・・・!?」

「うぁ・・!?」

しかし、その中で、千景と椿はそれをお構いなしに新人に攻撃を仕掛ける。

千景が鎌を横一文字に振る。

新人はそれを飛んで回避し、それを椿が追うように飛び上がる。

新人が剣を振るい、椿がその一撃を防ぎ、脊髄反射でによる反撃が可能な『自動反撃(オートカウンター)』で反撃。

その応酬が続き、圧倒的防御力を誇る椿の体には傷一つつかず、反対に呪いの力によって新人の体には瘴気が払われたようにその体にダメージを蓄積していく。

落下と同時に二人は離れ、下がる新人を、横から千景が追撃。

炎を纏ったその攻撃は瘴気を焼き払い、新人の体に深い一撃を入れる。

それに悶絶した新人だったが、すぐさま反撃に移り、千景の真上から大剣を振り下ろす。

「遅い」

しかし、その瞬間に聞こえた()()()()()()()()()()()()が響き、千景の姿はそこから忽然と消える。

それは、千景が自らの限界を突破した音。

千景は、上段振り下ろしの一撃をかわし、新人の頭上を取ったのだ。

 

燃える刃を掲げ、千景は、戒(Sin)の一撃を叩きつける。

 

「『解戒煉獄(かいかいれんごく)』ッ!!!」

 

強力無慈悲の煉獄の一撃が、新人に叩きつけられる。

「ギャァァァァアアアァアアア!?」

新人が絶叫する。

「新人・・・・」

新人が悶える様子を、ただただ歯を噛み締めて見守る雅。

その視線の先では、あれほどの攻撃を喰らってもなお、戦おうとする新人の姿があった。

その新人に、千景と椿が連携して迎え撃つ。

しかし時が経つにつれ、攻撃を受け続ける度に、その体を大きく、その動きを速く、その攻撃を重く、強化していく。

「ぐぅ!?」

「くあ!?」

その度に、千景は限界を超え対応するも、しかし徐々に椿が遅れ始めていく。

そんな様子を、雅は眺めていた。

「・・・・雅さん・・・」

「・・・・・新人は」

ふと、雅が語り出す。

「新人は、昔は、とても真面目な子だったわ。何事にも素直で、どんな事にも一生懸命取り組んで、いつも、お母さんの役に立とうとしてた。お母さんは、いつも仕事が忙しくて、帰りが遅いから、新人はいつもお母さんの代わりに家事の事をやってた。私は、寂しさのあまり、お母さんの事をいつも避けてた・・・私が、千景の誕生日に、贈り物をしてたのは、そんな、いつもお母さんの為に頑張ってた弟への贖罪のつもりだったの・・・千景のやる事は、いつも、新人と同じだったから・・・・」

いつの間にか、雅は俯いて、泣いていた。

「・・・守っていればよかった。私が新人を見捨てて、百合籠に逃げ込まなければ・・・新人は、あんな風には・・・ならなかった・・・・ならなかったのに・・・・」

崩れ落ちて、嗚咽を漏らす雅。

「雅さん・・・・」

奏は、そんな雅を、背中から抱きしめた。

「ぐあぁあ!?」

「がぁああ!?」

しかし、そこへ千景と椿が吹っ飛んでくる。

「ッ、千景君、椿さん!」

「ぐぅ・・・くそ、どんだけしぶといんだアイツ・・・!?」

千景が起き上がる。

しかし、椿は立ち上がれない。

「椿さん・・・!?」

「ぐぅ・・ぅ・・・」

「いけない、もう限界よ・・・!」

奏がそう叫び終えるのと同時に、椿の真解『呪装滅布』が解除される。

「な・・・!?」

「椿さんの真解は、その文字が『呪』なだけあって、常にその体を呪いに蝕まれるの。だから、その状態を保っていられるのも、時間制限があるの!」

「マジかよ・・・」

立ち上がる千景。

「ガァァアア!!!」

「オオオッ!!!」

千景と新人がぶつかる。

「ぐ・・・・・くそ・・・」

「大丈夫ですか?椿さん」

「すまない・・・私が至らないばかりに・・・」

「いえ、気にしないで下さい・・・・」

「そうも言ってられん・・・奇しくも、あの時と同じだ・・・」

椿の視線の先、そこには炎を纏って新人と戦う千景の姿があった。

どうやら、千景の使うあの罪の力は、天鎖刈の真解である『解限咎乃鎖』の上に上乗せするように発動しているものらしい。

だが、その負担は如何ほどのものか。

「また、私は・・・・」

「椿さん・・・」

千景が鎌を振るい、新人の大剣を弾き飛ばす。

(もっとだ・・・)

スピードが上がり、切り返しの速い新人の攻撃をさらに仕掛けてくる。

しかし、千景はそれを解限咎乃鎖の力で限界を突破し、その連撃を全ていなす。

(もっと・・・もっと・・・・)

拳が飛んでくる。

それを千景はその上にのって転がって回避する。

(もっと・・・もっと・・・限界を超えろ・・・!!)

新人は、さらにその憎悪を募らせ、強くなっていく。

千景は、解限の力で限界を突破していくが、いささか、その強化が遅れている。

「ぐぅ!?」

もはやトロルともいうべきサイズに巨大化した新人の強烈な蹴りを諸に受ける千景。

べきぃ、と骨が軋み、地面を転がる。

「千景君!!」

奏が叫ぶ。

それと同時に、別の方向からも声が上がる。

「千景!!」

「千景さん!!」

校門で、冬樹と優がいた。

彼女たちだけじゃない。この街にいるほとんどの人たちが集まってきていた。

「お前ら・・・なんで・・・」

「さっき、炎が見えたから・・・」

「心配、で、来た」

千景の叫びに優と冬樹が答える。

一方で、後ろの者達は浮かない顔で千景と新人の戦いを見ていた。

「ガァァァァアアアアァァァァアアアァァァァアアァアアッッ!!!」

そこで新人の絶叫が迸る。

恐らく、憎き相手が大量に表れた事で、憎悪が膨れ上がって行ってるのだ。

その体はさらに大きくなり、学校の校舎のように大きくなる。

「新人、もうやめて・・・!!」

「魔器の浸食が激しい・・・・このままじゃ・・・・魔器に喰われて、完全に()()()()()()()()()()・・!!」

もう、新人の面影はなく、その姿は完全に怪物のそれだった。

そして、その手に持つ、巨大な大剣を、街の人々に向かって振り下ろす。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」

しかし、千景が間一髪のところで大量の鎖を大剣に巻き付かせて、その攻撃を防ぐ。

「『鉄鎖甲』ッ!!」

そして、燃える鎖を右手に巻き付けて、無数の限界を超えて新人の顔面を殴り飛ばし、グラウンドに倒す。

「馬鹿野郎!!なんで()()()()()()んだッ!?」

そこで千景が街の人々に向かって叱咤した。

「ここは危険だッ!!!早くここから離れてくれ!!」

千景が叫ぶ。

だが、その声に、誰一人として答えようとしない。

「・・・・・なんで」

ふと、一人の年老いた老人の男が、口を開いた。

「わしらは今まで、お前に酷い事をしてきた・・・」

「それは操られたからであって、決して、貴方達が悪い訳じゃない」

「お前にとってはそうなのだろうな。だが、この街の者にとって、誰かを傷つける事は赦されない行為なのじゃ。わしらは、その報いを受けなければならんのだ」

「報いなんて俺は望んでいない」

「お前が望んでいなくとも、わしらは、そう望んでいるのだ」

「ふざけないでくれ・・・」

「ふざけとらんよ。わしらは、いつだって、真面目に、誰かの幸せを願い続けながら生きてきたのじゃ」

まるで話が通らない。

しかし、どういう事だ。

誰かの幸せを願い続けながら生きていた、というのは一体・・・

「ガァァァアァアアッ!!」

「!?」

新人が起き上がる。

その両目を怒りに血走らせ、千景たちを見下ろす。

「くそ・・・!!」

『それじゃあダメよ』

「!?」

突然、頭の中に直接響くように、声が聞こえた。

『心に迷いがある状態じゃ、まだ天鎖刈の真価を発揮できない』

「じゃあ、どうすれば・・・」

『一つ、少し昔の話をしましょうか』

「そんな暇ないでしょう!?」

『すぐに済むわ』

新人が、剣を振り上げようとするが、どうやら顔面を、それも顎を殴られた時の衝撃でまだ脳にダメージが残っているようだ。

『この街は、貴方が記憶を失う前は、とっても楽しくて、笑顔で溢れていたわ。だけど、それをある日、一人の少年によって壊されてしまった』

「楽しくて、笑顔で・・・・」

『そう。貴方も、その輪の中に入っていた。この街は、誰かの為に頑張る街だった。貴方もそうだった。その中で、貴方のお母さんとお父さんは、一番感謝されていた』

「え・・・」

『その理由は、貴方のお母さんが、人の為に勇んでやらないような事をして、貴方のお父さんが、危険を冒してまで人を守ろうとしたからよ。いつも、誰かを笑顔にするために頑張っていた。例え、相手がどれほどの極悪人であろうと、しっかりと改心させて、牢に入れていたわ。どんな辛い目にあっても、人は必ず立ち上がれる、と、いつもそう言っていたわ』

「・・・・」

『貴方は、街を守りたい。だけど、まだ貴方は、心の中で、不信を抱いている。本当に、()()()()()()()ってね』

「・・・・・」

『安心して。これは一族の、私たちの想いを込めた武器。ありとあらゆる罰を受け、怒りを受け、怨みを受け、憎悪を受け・・・・そして、全てを失って、また得て、その私の人生の結果が込められたのが、こぶ武器よ』

「これなら、アイツを倒せるとでもいいたいのか・・・?」

『ええ。紡いだのは『勇気』と『大切な思い出』。忘れてはいけない思い出と、どんな困難にも立ち向かう勇気。その二つが、これには込められている。いわば、これはバトンよ』

「バトン・・・」

『さあ、お話はこれまで。でも、貴方に聞くわ。貴方のお父さんとお母さんは、この街を全力で守る為に戦った。その想いを、貴方はどうしたい?』

新人が、大剣を振り上げる。

それだけで大陸な割れそうな一撃を、人々は恐れながらも、決してその場を動かず、その時を待った。

 

 

 

その、想いをどうしたいかって?

 

 

 

 

そんなの決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――分かり切った事を聞くな馬鹿が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、新人の大剣が大きく弾かれた。

 

 

 

 

 

 

『!?』

その光景に、その場にいた全員が驚愕する。

「ゴガァァアアア!?」

また態勢を崩し、盛大に倒れる新人。

そして、空中に佇むのは、なおも炎を蛇のように操って空中に立つ、一人の少年。

その炎は、気のせいか、否、確かに勢いが強くなっていた。

 

「『戒業罪乃鎖』――――」

 

一方で、新人はすぐさま立ち上がって、少年に再度の攻撃を仕掛ける。

 

「我が罪は未来永劫消える事は無く、永久に不滅する事の無い、戒め」

 

しかし、その攻撃はいとも容易く弾かれ、その顔面に拳を一撃を喰らう。

 

「嫉妬で友を傷付け、友情を忘れ、仲間を失い、人権をも剥奪された我に、人を傷つける事は赦されない」

 

しかし新人は踏み止まり、その拳を振るう。

 

「されど、我は罪人。故に、我は過ちを知っている」

 

拳が燃える鎖に巻き付かれる。その炎に、腕が焼かれる。

 

「全ての『喪失』。及び、全ての『剥奪』。そして全ての『清算』。その身に受けた罰は数知れず、故に我は痛みを知り、苦痛を知る」

 

千景の鎌に、炎が集まる。その炎は光り輝き、焼けた鉄色へと変わる。

 

「故に我は人の痛みを理解できる。故に我は人の苦しみを理解できる。故に我は人の過ちを理解できる。故に我は、人が死ぬ瞬間を知っている」

 

新人が再度攻撃をしかけるも、千景はそれをあっさりと()()()()()

 

「理解できるからこそ、私は貴方を倒す」

 

そして、儚くも、雪の中に一輪だけ咲き誇る、白い花びらが舞った。

 

「―――悔い改めよう『失格者の罪滅ぼし(エーデルワイス)』」

炎が白く輝き、その白炎を纏った大鎌の一撃が、新人の体を肩から脇腹にかけて断ち斬る。

「ガァァアアアアアァァア!」

しかし、それでも新人は倒れない。

とてつもない執念である。彼は、全てを殺すまで、諦める気など無いなのだろう。

しかし、彼にもう誰かを殺す力は無い。

 

一撃目、『剥奪』を実行。

 

彼から、憎悪によって強化された力が、一瞬にして消え去る。

「グアァァァアアァァアッ!!」

それでも新人は手を伸ばして、千景を握り潰そうとする。

しかし、鎖を伸ばしてその手を避け、もう一度、新人の体に斬撃を叩き込む。

 

二撃目、『喪失』を実行。

 

その瞬間、新人の中から、ありとあらゆる負の感情が抜ける。

それによって、彼の思考が止まり、暴走していた野性が消え、理性が表に出てくる。

(あれ・・・僕は・・・・)

だが、()()()()

彼がしでかした事は、気付いてからではもう遅い。

 

だからこそ、今までの『清算(ツケ)』が返ってくる。

 

地面に着地した千景が、思いっきり右拳を振りかぶる。

その手に鎖を巻きつけ、威力を底上げする。

 

ふと、千景は、見知らぬ景色をその脳裏にフラッシュバックさせた。

 

桜の木の元、一人の赤髪の少女が、こちらを向いて微笑んでいた。

 

その少女が、呟いた言葉。

 

それは、呼び名。

 

その瞬間(とき)、千景の脳裏に、一つの言葉が思い浮かんだ。

 

「・・・・一発入魂――――」

 

その言葉を、千景は叫びながら、新人を殴り飛ばした。

 

 

「――――勇者パンチッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、一人の少年が、地面に倒れ伏している年上の少年を見下ろしていた。

その姿は、もう元に戻っており、規則正しい寝息を立てている。

しかし、見下ろしている方の少年はボロボロで、血を流している。

その姿は見るも無残で、上半身の装束が焼け落ちたその背中にある、背中の火傷のみならず、体中に打撲や切り傷などが刻まれていた。

そして彼は微動だにせず、ただそこに佇んでいた。

「千景君・・・・」

そこへ、奏が歩み寄る。

しかし少年は答えず、その場に立っていた。

それだけで、彼女は気付いた。

「・・・・ッぅ・・」

奏は、膝を着いて、涙を流した。

怯えもせず、決して気にもせず、敵に立ち向かうその姿は、とても高貴で、勇ましかった。

そして、今も、彼は、倒れる事無く、その場に立っていた。

 

気高く、立っていた。

 

「勇者・・・」

それは、一体だれが言ったのかは分からない。

しかし、彼はまさしく、そうだったであろう。

 

 

 

 

想起するは、高山に咲き誇る、純潔なる白の花。

『大切な思い出』を抱え、

『尊い思い出』を守り、

『忍耐』強く、

そして、どんな恐怖にも立ち向かう、『勇気』を持っている。

それはまさしく『高貴なる白(エーデルワイス)』。

白い、勇者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として新人の体から黒い瘴気が現れる。

『!?』

その場にいる全員が目を見張った。

『オ・・・ノ・・・レェ・・・・!!!』

その瘴気の中心、おそらく魔器『悪』の魂そのものだろうか。それが呪詛を呟きながら、上り出す。

『オノレェ・・・コオリチカゲ・・・・マタ・・・・オレノマエニタチフサガリ・・・・ヤガッテ・・・・!!』

その瘴気は、だんだんとその密度を濃くしていく。

『カクナルウエハ・・・・・フウインヲトイテヤルッ!!』

突如として瘴気が黒い矢となり創代神社のある山の方へ飛んでいく。

「何を、しに・・・」

その行動に、首を傾げる冬樹。

「さっき、封印を解くって・・・」

優も、先ほどあの魂が呟いた言葉を反芻する。

「・・・・まさか」

その中で、奏だけが理解していた。

その間に、黒い瘴気は山に近付き――――そして障壁にぶつかった。

『ギギ・・・ギィ・・・・!!』

弾かれる事は無く、瘴気は創代が創った結界に引っ付いて離れない。

だが、結界の押し返す力も強く、少しでも気を抜けば弾かれてしまうだろう。

『ギギ・・・『アクイカイジョウ』・・・ッ!!』

 

突如、結界に穴が空いた。

 

その穴の中に、瘴気はどうにか入り込んだ。

そしてそのまま神社の後ろの森へ向かう。そこの地面に辿り着くと、瘴気は一層その濃さを強めて―――

 

『アクイカイジョウ・・・!!』

 

 

創代の封印を解除した。

 

 

 

その瞬間、ありとあらゆる悪霊の魂が解放され、溢れ出す。

「そんな・・・・」

奏は絶望したような表情となり、空を見上げた。

空を舞う魂は、数えるのも億劫なぐらい、大量にいた。

すぐさま、その勢いは止まったが、解放された魂は幾数百。

「ふり・・・だし・・・だ・・・・」

その光景に、奏はただただ、絶望した。

 

彼が守ったこの街は、また、黒い何かに塗り潰されていく――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下校路を歩く、千景、冬樹、白露、信也、海路。

「・・・でま、東郷の奴から日本史の素晴らしさを耳にたこができまで聞かされたって訳」

「どん、だけ、好き、なん、だろう・・・・・」

「なんか面倒くさいを通り越して尊敬するわね」

「なんで一緒に帰ってんだ俺達・・・」

「文句、いわ、ない・・・!」

「いでぇ!?」

信也の脚を踏む冬樹。

「おーいて」

「大丈夫か?」

「ふ、普段からサッカーで鍛えている俺の脚力舐めんな」

「じゃあ、これ、で、殴って、みる?」

「やめろそれはマジで洒落にならん」

冬樹は肩に担いでいた竹刀を取り出す。

「面倒くさい奴らだ」

「まあまあ」

あきれ果てる海路に、それをなだめる白露。

しかし、こうしてみると、以前よりも、大分良くなっていると思う。

彼らは、二年前まではこんな風に会話する事は無かったからだ。

だから、この変化は、千景本人としても素直に嬉しい。

ふと、彼らは吾郎の花屋の前を通った。

「ん?おお、お前ら」

「吾郎さん?」

「ちょっと雅に届けて欲しいものがあってな」

「花ですか。別に良いですよ」

「悪いな」

吾郎から花束を受け取る千景。

「ん?これ、ウスユキソウ、だ」

ふと冬樹がある花に目を止めた。

そこには、小さな植木鉢に一輪しか咲いていない花があった。

「これ・・・高山にしか咲かない筈じゃ・・・・」

千景がそう聞く。

「ああ、真琴が山から種を取ってきてな。別に問題じゃねえし、真琴が育てたいって言ったから植木鉢やってみたら、ものの見事に咲きやがったよ」

「へえ、これ真琴君が作ったんですか」

白露がかがんで花を物色する。

「別命『エーデルワイス』。西暦の時代存在したヨーロッパていうところで人気のあった花だな」

「おお、千景詳しい」

千景の説明に周囲が関心する。

「花言葉は『大切な思い出』『尊い思い出』『勇気』『忍耐』。どれも+な言葉ばかりな上に、普段咲いてる場所が場所で、登山家にも人気のある花だ」

「ほう・・・」

そのウスユキソウ、エーデルワイスの花言葉を聞いて、ふとその場にいた全員が千景を見た。

「・・・・ん、何?」

「勇者部との思い出が『大切な思い出』」

「俺達との思い出が『尊い思い出』ってお前は思ってる」

「あの時と同じように『勇気』があって」

「無駄に『忍耐』がある馬鹿」

「・・・・・確かに俺にあってるかもな」

頭を掻いて苦笑する千景。

しかし、彼らにとっては、あの頃の思い出は、今もなお、彼と自分たちを繋ぎとめている思い出だと思っている。

だって、彼は、この街にとっては、唯一無二の『勇者』なのだから。

「・・・・罪を知ってるから、気高くあれる、って奴なのかしらね」

遠くで、奏がその様子を見ていた。

もうすぐ十二月。

あれから、もう二年が経とうとする中で、物語は、やがて終盤へ。




次回 不道千景は勇者である 原点の章(オリジン) 最終話

『七つの大罪』

集うは七人の大罪人。七つの想いを持って、彼の者の歩みを見送り給え。
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