不道千景は勇者である 作:幻在
あの戦いから、早くも、三日。
神代奏と安座間椿、そして、百合籠の所長である氷室雄二に加え、桐馬雅、水霜冬樹、磯部信也、新井白露、浅羽海路、森谷真武郎、そして安座間優が、創代神社の居間にて、顔を見合わせていた。
そして、奏は、彼らに、一つの決断を教えた。
「彼の、記憶を消します」
その言葉に、その場にいる全員が一瞬目を見開き、やがて納得するかのように俯いた。
一人、海路を覗いて。
「奴の記憶を消すのは良い。だが、何故俺達まで呼んだ。それを聞くのは所長だけで良いだろう」
「ちょっと海路・・・・」
白露が彼を咎めようとするが、海路は聞く耳を持たない。
「・・・・今日集まって貰ったのは、水霜冬樹ちゃん、桐馬雅さん、新井白露ちゃん、森谷真武郎さん、磯部信也君、浅羽海路君、安座間優ちゃん、貴方達七人に、創代様の御役目を受けて貰いたいからなんです」
「お役目・・・千景が、アイツを倒す時にやってたっていう・・・」
「ええ。千景君が、貴方達に隠れてやっていた、命懸けの御役目の事よ」
その言葉を告げ、奏は、御役目の説明を始める。
やがて、それが終わりに近付く頃、奏はある事を告げた。
「そして椿さんの『陸鎧布』は、優ちゃんに次がせる事にしました」
「え!?」
その事に、驚く優。
「なんで私が、お母さんの・・・・」
それはもっともな事だ。しかし、椿が口を開く。
「・・・・すまない。奴の攻撃を受けた時、どうやら御神刀の使用権に何かやられたみたいでな。変身が出来なくなった」
「そんな・・・・!?」
その事実に、優は驚きを隠せない。
ようはこういう事だ。
椿は、魔器『悪』の持ち主、新人の暴走した状態での攻撃を受けた。
しかし、その時何かしら魔器の能力が発動し、椿自身が何かしらの影響を受け、御神刀『陸鎧布』を発動出来なくなった。
そういう事らしい。
「それに、この間桐馬にやられた薬も関係しているらしい。おそらく、体の硬質化は、もう出来ないだろうな」
「ッ・・・!!」
優は雅を睨み付ける。
その事に、雅は項垂れる。
しかし、椿は優を咎める。
「優、そんなに非難するな」
「だって・・・・」
「お前をそんな子に育てた覚えは無いぞ」
「う・・・」
ごきり、と指を鳴らす椿の威圧感に思わず怖気づく優。
「優、お前はそんなに強くはない。だから、誰かと協力しあわなければならないんだ」
「でも・・・・この人たちとなんて・・・・」
優にとって、この場にいる者達は、千景を傷付けていた悪者。
その事を、彼らは否定しない。
しかし、
「優、それはお前にも言える事だぞ」
「え・・・」
「知っていながら傍観する事も、同じように罪だ」
「・・・!!」
椿の言葉にハッとする。
「つまり、お前も彼らと同罪。どちらにしろ、お前は彼らと同類だ。それは変わらん」
「・・・・」
「だからこそ、お前にこれを託したいんだ」
椿は、その手に持つ陸鎧布を優に差し出す。
「この陸鎧布は、誰かを包むためのものだと私は思っている。だから優。強くなれ。強くなって、誰かを守れるようになれ。アイツは、そういう男だったぞ」
椿の言葉に、優は口籠る。
そして、その刀に、手を伸ばす事を躊躇う。
そこで、ふと冬樹が口を開いた。
「奏さん・・・」
「ん?なに、冬樹ちゃん」
「千景、は、どうして、私、たちを・・・・」
「・・・・そうね」
冬樹の言葉に、奏は答える。
「彼は、言ってたわ。お父さんとお母さんに愛されていたという事を知れただけで、それで良いって。それだけで、誰かを守る理由になるって。どれだけ傷つけられても、それだけが、俺がアイツらを傷付ける理由にはならないって、そう言ってたわ」
奏は、悲しそうにそう言った。
「・・・・そ、っか」
「冬樹・・・?」
白露の問いかけに応えず、しばし考え込んだ冬樹は、やがて顔をあげ、答える。
「やり、ます」
『!』
「私、その、御役目、やり、ます」
冬樹が、そう胸に手を当てて、確かなる眼差しで答えた。
「冬樹・・・!」
「千景、は、いつも、酷い事、言って、た、私、を、命、がけて、守って、くれ、た。だから、今度、は、私が、誰かを、守る、番、だから・・・!」
「そう・・・」
冬樹の言葉を聞き入れる奏。
「私も」
さらに、雅も答える。
「私も、やるわ」
「雅さん」
「千景を弟に重ねて、それでこき使っていたのは事実よ。その上、命まで助けられたとあっちゃ、もう後戻りはできないわ」
雅も覚悟は決まっているようだ。
さらに白露も名乗り出る。
「わ、私だって、彼に助けられた。そんな彼に、いっぱい酷い事をした。だから、せめてその罪滅ぼしがしたい。だから、私もやる」
「白露ちゃん・・・・」
そこで、さらに真武郎からも声があがる。
「俺は、アイツに、俺が出来なかった事をやって貰っちまった」
それは、十五年前から続いていた幼女連続誘拐事件。
当時、百合籠で働いていた真武郎は、その誘拐犯に、自分が連れ添っていた子供を攫われた。
その三年後、彼女がみつかり、すでに壊されていたのを見た時は、その事を悔しがった。
「俺は、自分が情けなかった。ずっと探し続けていたものを、壊された事に対して、全てに対してやる気がでなくなっちまった。そんななかで、またアイツが現れた時に、アイツが真っ先に動いた。俺は、その場に佇む事しか出来なかった」
だからこそ、と真武郎は言う。
「そのツケを、これで支払わせて貰う。やらせてくれ、その御役目って奴を」
「真武郎さん・・・」
その真武郎の覚悟に、奏は感じる。
「真武郎君」
「所長、すんません、しばらく・・・」
「いや、君のやりたいようにすればいい。私は止めないよ」
「・・・・ありがとうございます」
真武郎は、氷室に頭を下げる。
「・・・・・なあ」
その中で、信也だけは、奏に問うた。
「なんで・・・俺なんだ・・・・」
信也は、何故自分が選ばれた事に、疑問を抱いていた。
「・・・・創代様が選んだ、ていえれば、どんなに楽だった事でしょうね」
奏は、彼に近付き、彼の頭を撫でた。
「それもあるけど、この中で、貴方が一番自分の罪を自覚しているから。貴方の、『強欲』の罪を」
「強欲・・・・確か、私たちで『七つの大罪』という名義で・・・」
「ええ。お役目を受けるうえで、解放奴らに対抗する為に、まとまりを持つ為に組織名を考えた。それが『七つの大罪』」
大罪を持つからこそ、痛みを知り、弱さを知り、苦しみを知っているからこそ、悪質な悪霊を退治するに値する、からだとか。
「それぞれの罪の名前は後で教えるけど、貴方は、自分がした事の重さを知ってる。だからこそ、貴方は過ちを、もう犯さないって、私が信じたからよ」
「・・・・でも」
「それに、きっと千景君だって気にしない筈よ。それは、貴方にとって苦しい事かもしれないけど、きっと、彼は貴方に笑っていて欲しいと思うわ」
「・・・・・ぐ」
信也の両目から、涙が零れ落ちる。
「・・・・・チッ」
その中で、海路が舌打ちをする。
「どうせ俺も参加しろっていうんだろ。この空気を断れるかっての」
海路も諦めたかのように言う。
これで、六人。
後は――――
「お前だけだぞ、優」
「・・・・・」
椿の言葉に、優は、顔を歪ませる。
他の全員は承諾したのに、自分だけ、承諾が遅れた。
その事が悔しいと思う。
だけど、意地を張っている場合では無さそうだ。
「・・・分かった。やるよ。私」
「うん。それでこそ私の娘だ」
優は、陸鎧布を受け取る。
「それでは、皆さんの返答を受け取りました。改めて、全員参加という事で良いですね」
その奏の問いに、その場にいる者達がうなずいた。
創代が彼ら専用の御神刀が出来るまでの三日、しかし、その前にやらなければならない事がある。
それは、創代の間に寝かせた、一人の少年にあった。
その少年の額を、奏はそっと撫でた。
「千景君・・・・」
新人との戦いから、彼はずっと目覚めない。
傷は塞がっているものの、下手をすれば、彼はこのまま目覚めないかもしれない。
そんなのは嫌だ。だけど、目覚めて事態を把握すれば、きっとまた彼は、人々の為に傷付き、血を流すだろう。
それも嫌だ。
ならばどうすればいいのだろうか。
やる事は、簡単だ。
彼の記憶を消す。
奏に出会った事、椿に出会った事、創代の御役目の事。
彼の御役目に関する記憶全てを創代によって破壊、再構築し、全く別の記憶を書き込む。
それは記憶改竄ともいうべき行為だ。
それは、彼のこの街での思い出も奪ってしまう行為でもある。
そして、彼の代わりに、優たちを駆り出す自分は、果たして人として正しい事をしているのだろうか。
しかし、そう思うも、それよりも千景の事が大切な奏にとって、その決断に迷いは無かった。
彼の記憶は消す。そして御役目から遠ざける。その代わりに、彼らを『七つの大罪』と称して駆り出す。
しかし、それだけでは、彼は御役目に気付いてまた始めてしまうだろう。
だから氷室を呼んだ。
彼に、千景の引っ越し手続きをさせ、ここから最も遠い、香川に行かせる。
それが、奏の決断。
もう二度と、千景が傷付かない様にするための、苦肉の策だ。
それを、奏は、考えはするが迷いはせず、決断したのだ。
だから――――
「ごめんね、さよなら」
奏は、彼から離れた。
創代の間から外へ出た途端、戸が勝手に閉まる。
創代が、しめたのだろう。
「・・・・う・・」
そこで、奏は膝をついた。
「うう・・・・うぅ・・・・うわぁぁああ・・・・・!!」
そして、その場にうずくまって、泣いた。
ただただ、哀しくて、悲しくて、泣いた。
声を押し殺して、嗚咽を漏らして、泣いた。
年も明けた、一月五日。
「それで荷物は全部かい?」
「はい」
トラックに、ある程度の荷物が積まれる中、氷室は、千景に話しかける。
「向こうはここより北だからね。寒いだろうから、冬は暖をちゃんと取る様に」
「はい。心配ありがとうございます」
見送りは、彼の他にいない。他の者達は、それぞれの仕事に行ってしまっている。または、遊んでいる。
「荷物積み終わりました」
「ご苦労様。それじゃあ、向こうでも頑張って」
「ありがとうございます」
千景は、淡々と答え、トラックの助手席に乗る。
「それじゃあ、彼をよろしく頼むよ」
「分かっていますよ」
トラックが、出発する。
「・・・・・彼は行ってしまったよ」
「分かっている」
椿が、道角から姿を現す。
遠ざかるトラックを見ながら、椿は、何も言わずに、ただ見守った。
「・・・・今日は、皆の初陣だったね。君は見なくて良いのかい?」
「いいんだ。もう、あいつらに見送りは必要ない。それほどまでに、彼らは弱くは無い。そして、なによりも強い」
椿は、この街にそびえ立つ山を見た。
「皆さん、準備は良いですね」
奏の言葉に、その場にいる七人がうなずく。
「今回が初の戦闘。敵の数は三人。ですか、決して無理はしないように」
「分かってるよ」
「うん、大、丈、夫」
白虎柄の装束を纏った白露が威勢よく答え、水色のだんだらを羽織り、かの新選組のような装束を纏い、その腰に刀を差した冬樹がうなずく。
「まだ真解の使用までには至りませんでしたが、今回は数がいます。しかし、その反面、連携が必要となります。指揮の方は頼むよ、海路君」
「問題無い」
巨大な狙撃銃を肩に担いで、黒い暗殺者のような装束を纏った海路が鼻を鳴らして答える。
「そんなに心配しなさんな巫女さん」
「貴方はお気楽過ぎるのよ真武郎さん」
気楽に笑う、トロイヤの兵士のような装束に、穂先が横に長い鍔と刃を携えた槍を持つ真武郎を、女武将のような装束を纏った雅が咎める。
「いけるか?」
「誰の心配をしてるんですか?問題ありません」
『そうだぜガキ、なにせこの俺様がついてるんだからな!』
赤いロングコートをベースとしたライダーのような装束を来た信也を、腕に包帯を巻き、ジャケットを着込んだ装束をまとう優は笑って返す。
そしてもう一つ聞こえた声の正体は、創代が面白半分にやった実験の結果だ。
「それでは、皆さん、ご武運を」
『応ッ!』
第十九代目救導者『七つの大罪』
『憤怒の罪』御神刀『
『嫉妬の罪』御神刀『
『暴食の罪』御神刀『
『怠惰の罪』御神刀『
『傲慢の罪』御神刀『
『色欲の罪』御神刀『
『強欲の罪』御神刀『
我らは人を傷付けぬ、されど我らはその身に巣くう悪意を斬る。悪意を誘う『魂』を斬る。故に我らは『求道者』。
『救い導く者』――――それこそ我らが存在意義。人の悪意を利用する悪しき『魂』たちに、鉄槌を下し、利用された者達を救い導く者なり。
故に我ら全員『救い屋稼業』
人に知られず、人を救う、見返り求めぬ者である。
我らは罪を知る。
故に我らはその過ちを二度と犯さない。
その過ちを、他人に犯させない。
だからこそ、我らは、戦う。
人々が、二度とその身に『大罪』を起こさせぬように。
時は過ぎて、春。
桜の花びら散る季節、その日の到来は、新たな生活の始まりを意味する。
香川県讃州市にある、讃州中学。
その教室の一室にて、一人の少年が、窓から離れた場所から、窓の外を見ていた。
ふと、彼の隣に、誰かが座る。
「こんにちわ!」
その声に、少年は振り返る。
そこには、一人の少女が、少年に花の様な笑顔で微笑んでいた。
「私、結城友奈って言うんだ。貴方の名前は?」
普段なら、彼は彼女を、結城友奈を無視していただろう。
しかし、彼は、不思議と自分の生来の名前を口に出していた。
「・・・・不道千景」
「千景君か、よろしくね」
手を差し出してくる少女。
その手を、千景は自然と握り返していた。
その手は暖かくて、そして、懐かしく感じた――――――
不道千景は勇者である
次回 不道千景は勇者である
『ひねくれものを勧誘せよ!』
その少年、一癖難あり。