不道千景は勇者である   作:幻在

62 / 98
いろいろと忙しすぎるッ!!

殺戮の天使のアニメが今夜から放送に加え、来月にはヒロアカやBLEACHや七つの大罪の映画があるわ、今年の夏はいいことづくめではないか!

しかしそれでも花結いやる時間がねええ!!

というわけで新章です!どうぞ!


始動の章《アーリー》
ひねくれものを勧誘せよ!


讃州中学。

そこへ入学した千景は、初日は周囲から色々と話しかけられた。

理由としては自己紹介の時に香川から遠い高知からやってきたからだ。

何故ここへ来たのか、前の学校では何をしていたのか、趣味はなんなのか、部活は何に入るのか、と。

こういう反応に慣れてはいなくて戸惑いつつも、どうにか受け答え、凌いで溜息をついたところで、ふと隣から笑い声から聞こえた。

そちらへ視線を向けると、赤髪の少女が笑いを堪えていた。

「ふふ・・・ごめんね。初日からすごい人気だったから」

「・・・・」

「あれ、無視?」

千景は特に応える事はせずに顔を教室正面へ向ける。

一方の隣の少女、名を『結城友奈』というのだが、その少女は少なからずショックを受けていた。

 

と、その時だった。

 

不意に千景の頬を何かかが後ろから掠めた。

「・・・・・」

ゆっくりと振り返ってみると、そこには車椅子に座った黒髪ロングの絶世の美少女(あくまで一般論)が黒い笑みでこちらを見ていた。

その姿を認めた後、改めて投擲物を確認すると、それは先が当然如く尖っている針のあるコンパスだった。

それが今、思いっきり千景の机の端にブッ刺さっており、それには何かしらの紙が結ばれていた。

(矢文がかんかかよ・・・・)

とりあえずコンパスを抜いてその紙を呼んでみる。

 

『結城友奈を構いなさい』

 

中身はあまりにも短く単純明快だった。

しかし、故郷で常軌を逸した虐めにあってきた千景にはさほど効果は無い。

千景は紙を丸め、それと同時にコンパスを先ほどの少女の方へ投げる。

「わっ!?」

見事に少女の机に突き刺さり、少女は驚いた様な声を上げ、その隙に千景は丸めた紙を遠く離れたゴミ箱へ投げ入れる。

「おおー!」

が、その様子を横にいる結城友奈に見られたらしく、拍手された。

(何故拍手する)

疑問に思うも、千景は、気にしない事にした。

 

 

背後からどす黒い殺気を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結城友奈は中学生である。

それもごくごく普通な中学生。

元気があり、活発で、度々空気の読めない行動をする、ありがちなヒロインのような性格をしている。

そんな彼女の親友は、車椅子に座り、その姿はまさしく大和撫子と言うべき少女、東郷美森である。

冬に友奈の家の隣に引っ越してきた少女であり、事故で両足が動かなくなり、ここ二年間の記憶を喪失してしまっているらしいのだが、今はそんな事は関係ない。

「部活何にしようか?」

「友奈ちゃん、チアリーディング部に誘い受けてたよね」

「押し花部からの誘いだったらなぁ」

「そんな部活ないでしょ?」

美森の車椅子を押しながらそんな風に彼女と雑談する友奈。

そんな風に話し合っていると、不意に横から声がかけられた。

「貴方達にとっておすすめの部活は、他にあるわ!」

「「・・・・?」」

横を見てみれば、片手に紙の束、片手にその中から一枚引き抜いたであろう一枚の紙を持っている黄髪のツインテールの少女がいた。

そんな少女が、友奈と美森を見ていた。

「貴方達にとっておすすめの部活は、他にあるわ!」

「何故に二回?」

「どちらの勧誘なんですか?」

そこで相手方の少女が名乗った。

「アタシは二年の犬吠埼風。勇者部の部長よ」

「勇者部?」

「なんですかそれ?とってもわくわくする響きです!」

「え?」

何故か食いつく友奈。

「おお、君フィーリングあうねえ」

そんな訳で彼女、犬吠埼風から説明を受けた所。

 

勇者部とは、猫探しや幼稚園などでの手伝い、老人に手を貸したりなど、世のため人の為になる事を勇んでやる事を中心にやる部活らしい。

いわばボランティア部の事だ。

 

 

 

 

後に、この勧誘が大赦の策略だって事は、友奈と美森の二人は知る由も無かったが、今はそんな事関係ないのですっ飛ばす事にする。

 

 

 

 

 

 

友奈は以前から憧れていた勇者という言葉に、一方の美森はそんな友奈についていくように入部した。

 

 

後々気付くのだが、この勇者部は今年から始まる部活らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、それなりに仕事が板についてきて、帰路についている、友奈、美森の二人。

風とは別々となって、町中を楽しく雑談しながら歩いていた時の事だ。

「あ」

ふと、友奈は視界の先にある公園で、一人の少女が泣いているのをみた。

状況を確認してみると、どうやらボールが木の枝に引っかかって取れないようだ。

「あの高さじゃとれないわね・・・」

「私行ってくるよ」

友奈が、その女の子に駈け寄ろうとした時。

「おい、どうした?」

それよりも早く、一人の少年が女の子の前で屈みこんだ。

「あ」

千景である。

「あれは・・・」

「千景君・・・・?」

思わぬ存在の登場に戸惑う二人。

しかし彼はそれに気づかず泣きじゃくる女の子の話を聞く。

「ボールが・・・」

女の子が指さす先にある、木の枝に引っかかったボールを確認する千景。

「なるほどな・・・」

「ふえぇえ・・・」

「ああ、泣くな泣くな」

千景は女の子の頭をわしゃわしゃと撫で回す。

「とってやるから待ってろ」

と、立ち上がる千景は、そこらに落ちていた小石を拾い上げ、ひと思いに振りかぶって――――

「せいッ!」

見事、ボールに小石をぶつけ、落として見せる。

そのまま落下するボールをキャッチするや否や、そのボールを少女に渡す。

「ほら、次からはもう引っ掛けんなよ」

そのボールを受け取った女の子は、涙を拭くと、無邪気に笑って千景にお礼を言う。

「うん、ありがとう、お兄ちゃん!」

そしてそのまま向こうへ去っていく女の子を見送る千景。

ふう、と息を吐いた千景は、ふと背後から近づいてくる音に気付き、振り返る。

「・・・・見てたのか」

「ごめんね、なんだか予想外で」

「悪かったな予想外で」

「よくボールに当てられたわね」

美森の言葉に、千景は木を見上げる。

「別に、当てようと思えば誰でも当てられる」

「そうだ、千景君、一緒に帰らない?」

「「え」」

いきなりの友奈の言葉に千景のみならず美森まで声を漏らす。

「一人だと、寂しいでしょ?」

その彼女なりの気遣い的な理由に千景はしばし呆然とするが、表情を少し険しくして二人の横を通り、一言。

「別に、一人で帰るのが当たり前だったから問題ない」

「え・・・」

その一言に友奈は思わず振り返り、去っていく千景の後ろ姿を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

家にて、友奈は風呂上りの湿った髪を乾かしながら、千景のあの言葉を考えていた。

『一人で帰るのが当たり前だった』

「どういう意味なのかな・・・・」

さきほどからそのことが気になる。

そして、彼自身のことがとても気になる。

入学初日から彼を見た時から、思っていたこと。

何故なら、初めに見た彼の顔が、とても悲しそうだったから。

「・・・・よし」

そこで、友奈は一つの決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

「千景君」

「・・・・なんだ」

友奈は早速千景に声を掛けた。

「何の部活入るか決めた?」

「まだだしどこにも入る気はない」

「じゃあ勇者部入ろうよ!」

友奈は彼を勇者部に誘う気なのだ。

「断る」

「即答!?」

「というかなんだその胡散臭い名前の部活は」

「ええ、とても惹かれる響きじゃん!」

「それに惹かれるお前の感性を疑うぞ・・・」

「まあそんな事でも良いから、入ってみない?今なら給料安いよ!」

「バイトかなんかか。それでも入らないぞ」

結局のところ、千景は断固拒否を貫き、その日の勧誘は失敗した。

「はぁ」

「どうしたのよ友奈」

その時のショックが抜けないのか、勇者部部室である理科準備室にて机に突っ伏す友奈。

そんな様子の友奈に疑問を持つ部長の風。

「実は、同じクラスの子を部活に誘おうとしたんですけど、失敗したみたいで」

「え・・・」

「え?」

何故か、気まずそうな声を漏らした風、首を傾げる美森。

「ああいや・・・もう他の部活に入る予定なんじゃないの?その子」

「実はそうでもないんですよね~」

友奈が否定する。

「不道千景君って言う男の子なんですけどね」

「え、男なの」

「はい。その子、この間、女の子が気に引っ掛けたボールをとってあげてたんですよ。だから勇者部に最適だーって思って声かけたんです」

「へ、へえ・・・・」

「でも入らないっていう一点張りで、思いっきり断られてしまったんですよ」

「そうなんだ」

「風先輩からも何か言ってやってくださいよー」

「え・・・うーん・・・」

ここで風は迷った。

勇者部の創立の真の目的は、外から来る怪物『バーテックス』に対抗するため、チームを結成するため。

表向きとしては人を助けるいわばボランティア部なのだが、もしこの勇者部がヒットすれば、間違いなく部外者である彼も、戦い自体には参加しないが、少なくとも巻き込まれるのは必至だ。

だから彼を引き入れるのには少なからず、いやかなり抵抗がある。

「うーん・・・・」

「何か問題でもあるんですか?」

考え込んでいると友奈がそう声を掛けてくる。

「へ・・・ああ、うん。まだアタシってそいつの事知らないじゃない?だから勇者部に引き入れるのにはいささか抵抗があるかなーって」

とりあえず嘘ではない。

実際風は千景の事を知らないし、そんな見ず知らずの存在を勇者部に引き入れるわけにはいかない。

友奈と美森に関しては事前に資料があったから大丈夫だったが、その不道千景の事については本当になにも知らないのだ。

「あれ、私たちの時は・・・」

「そうですよね。そういえば風先輩千景君の事知りませんでしたよね」

「え、ちょっと友奈ちゃん?」

「風先輩に千景君を紹介すれば、勇者部に入れるよね」

「え!?ああっと、その千景ってやつの性格とか性根によって変わるかな・・・」

「こうしちゃいられない!すぐに呼んできます!」

「待って友奈ちゃん!千景君もう帰宅してるよ!」

「あ、そうだった」

それなりに体力のある友奈だったが、こういうところは抜けているのが彼女である。

 

 

 

 

「ま、そいつの事はまた明日ってことで、今日はうどん食べて帰りましょうか!」

と、町中を歩きながら風がそう言い、

「おお、良いですねうどん!」

「賛成です」

「よーっし!それじゃあかめやに行くわよー!」

「おー!」

手を振り上げて叫ぶ風と友奈、そしてそれに微笑む美森。

ふと、美森は視界の片隅で、見慣れた制服を見かけた。

それは塀にかけられており、そのすぐ近くにはボンネットが開けられた車の前で何かしらの作業をしているワイシャツ姿の少年がそこにいた。

「ん?どうしたの東郷さん」

「友奈ちゃん、あれ」

「ん?」

「何々?」

美森が指さした先を見る友奈と風。

そこにいる少年が、ボンネットから顔をあげた時、友奈は思わず彼の名を呼んだ。

「あ、千景君!」

「え、あれが!?意外と美男子じゃない!」

なんか風が変な事を言っているが、問題はそこではない。

問題は、彼が何をしているのか、だ。

「何をしてるんだろう・・・・」

「見たところ、車の修理かしら?」

「みたいね」

彼の傍らには工具箱が置いてあり、レンチを持ち上げて、さらに何かしら手を加える千景。

ある程度の作業を終えたのか、ボンネットを閉じた千景は、運転席にいる車の持ち主に声をかけた。

「エンジン、掛けて見て下さい」

すると、車が軽快な音を発してエンジンが入った。

「おお!ありがとう君!」

「別に、それなりに知っていれば、簡単な事です」

千景は工具を片付けつつ、車の持ち主の男性の言葉に答える。

「ありがとう。あ、そうだ。これはお礼だ」

そこで男性は財布から一万円を取り出して差し出してきた。

「・・・・せめて出すなら千円とか・・・」

「値下がりしてるけど・・・まあいいじゃないか、受け取っておきなさい」

「はあ・・・まあ、そこまで言うなら」

油で汚れた手を洗い、大人しくその差し出された一万円を受け取る千景。

その後、彼らは分かれたが、千景は受け取った一万円を眺めながら、渋柿でも食ったかのような表情になっていた。

「あれが不道・・・」

「はい」

「なるほどね・・・技量はそこそこ。その上美男子と来るとは・・・・」

「え?風先輩?」

美森は何か嫌な予感がしてならない。

「採用ですか?」

「うぅむ・・・」

やはり考え込む風。

「・・・・直に話し合ってみないと・・・」

「それじゃあ呼んできますね。おー・・・むぐ!?」

「待った待った!いきなり呼ぶな!?」

慌てて友奈の口を塞ぐ風。

「むぐぐ・・・なんでですか?」

「まだ心の準備が出来てないのよ!勝手に話しを進めるな!」

いきなりやられても困るのは当然。

だから風は友奈を止めたのだ。

「とりあえず、明日!明日話し合いましょう!」

「分かりました!」

友奈は特に気にする事もなくその提案を受け入れる。

「大丈夫かしら・・・?」

美森は、そう疑問に思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日――――

「断る!」

やはり千景は拒否の一点張りだった。

「そこをなんとか!」

「だからそんな胡散臭い部活には入らないっつーの!」

「千景君、人助けの才能あるよ!」

「それは俺が好きでやってる訳であって決してお前らにアピールしたい訳じゃない!」

「好きならやろうよ勇者部!」

「なんでそうなる!?」

グラウンドの一点にて壮絶な口論を繰り広げる千景と友奈。

千景はどうにか友奈を追い返そうと、友奈はどうにか千景を勇者部に引き入れようと。

両者一歩も引かぬせめぎあい。

「今回ばかりは私も粘らせて貰うよ!」

「ざけんな!人の都合を少しは考えろ!」

「千景君どうせ暇なんでしょ!?」

「そうだが入る気は無いッ!」

「どうして入らないの!?」

「単純に部活に縛られたくないだけだ!」

「縛らないよ!」

「俺が気分的にそう感じてしまうんだよ!?」

その様子を、傍で見ている風と美森。

「凄いわね・・・」

「友奈ちゃんの誘いをこうも頑なに断るとは・・・・・許すまじ」

「東郷?」

ふと、彼らの口論が唐突に止まった。

「あら?」

「どうしたの?友奈ちゃん?」

「いや、猫の声が聞こえて・・・」

「あそこだな」

上を見上げると、近場の木の上、そこに一匹の子猫がいた。

「あ、いつの間に」

「首輪・・・・誰かの飼い猫か?」

よく見ればたしかに首輪をしている。

「あのネコ・・・やっぱり依頼の写真と同じだ」

風が携帯を確認しつつ答えた。

「降りられないのかしら?」

「じゃあ私が下ろしてくるよ。木登り得意だし!」

友奈が木に登り始める。

「あ、おい!?」

千景の声に止まらず、すいすいと昇る友奈。

そして、丈夫そうな木の枝に乗って、手を伸ばす。

子猫は警戒して友奈を威嚇する。

「大丈夫だよ。こっちにおいで」

友奈は、優しく語り掛ける。

その様子を、緊迫した空気で見守る三人。

「大丈夫か・・・・」

「それはアタシにも分からないわ」

まず、子猫の依頼はこれが初めてである。

そして、風は友奈の子猫に対する対応の仕方を知らない。

だから心配なのだ。

「ほら、大丈夫、おいで」

友奈は、徐々に子猫との距離を縮める。

ふと、千景は気付いた。

(あの枝、やばくないか?)

友奈が乗っている枝は、傍から見れば確かに丈夫そうな枝だ。

しかし、千景の高い視力は、その木の枝の異常を見抜いていた。

「まずいぞ・・・」

めき、と音がした。

「え・・・」

「あの枝・・・・というかあの木、()()()()()()()()!?」

「なッ!?」

「え?」

気付いた時にはもう遅い。

友奈が足をかけていた、中身がほぼ空洞な太い枝が、ばきりと折れ、友奈は地面に向かって落下する。

「あ・・・・!?」

落下していく。

このままいけば、背中から地面に叩きつけられ、運が悪ければ頭から落下して、最悪怪我じゃ済まないかもしれない。

しかし、車椅子に乗っている美森は動けないのは勿論、風は反応が遅れ間に合わない。

万事休す、と思うかもしれない。

しかし、友奈は自然と慌てていなかった。

 

何故なら、この木の異常をいち早く見抜いて、そして誰よりも早く動いた者がいるのだから。

 

 

故に、千景は友奈を受け止める事が出来た。

 

 

「危なっかしいな、お前」

「・・・・えへ」

「・・・なんで笑ってるんだ?不謹慎な奴だな」

「ごめんね。ただ、きっと助けてくれるって、なんとなくだけど分かってたから」

「そうかよ・・・」

とりあえず、友奈が助かった事に安堵の息を吐く千景。

「あー、おほん。ちょっとお二人さん」

「ん?」

「なんですか?風先輩」

「お取込み中の所申し訳無いんだけども、そろそろ降りたら?」

「「・・・・」」

風が指摘してるのは千景の友奈の持ち方、いや、この場合は抱き方だろうか。

 

お姫様抱っこなのだ。

 

それも、受け止めた筈の千景の首に、とっさに友奈がしがみ付くような形で。

その事に気付いた友奈は顔を真っ赤にし、千景はいたたまれないような表情になる。

美森に至ってはとてつもない真っ黒なオーラを放ちながら懐から短刀を抜き始めている。

「よし東郷美森、その刀納めようか銃刀法違反で捕まりたくないなら」

とにかく命の危険を感じた千景はすぐさま友奈を下した。

「あ、えっと、ありがとうね。千景君」

「・・・・別に」

どこかぎこちない二人の会話。

「うぐぐ・・・・」

「東郷?アンタどうしたの?」

美森が眼から血の涙を流しながら血が滲みそうな程手を握りしめている様子を風がドン引きしたような表情で見る。

しかし、この状況から、風はある一つの決断を決めた。

「ねえアンタ」

「なんでしょう?」

「千景って呼んでもいいかしら?」

「まあ構いませんが・・・」

「じゃあ千景、改めてアンタ、勇者部に入らない?」

「・・・」

そう、これだ。

先ほどの千景の行動で確信した。

彼は、困った人、特に、危ない状況に陥った人を見過ごせるほど薄情な人間ではない事を。

そして、その人が助かる為に、何をすれば良いのかを状況を見てすぐに思いつき、すぐに実行する事が出来る人間だと。

それだけの要素が揃っているなら、問題は無い。むしろ、知らない誰かの為に役に立とうとする彼の姿勢は、褒められて当然であり、風にとっては大歓迎な人材だ。

その上に、友奈からの推薦がある。

(まあ、どうせアタシの班が当たらなければ入れても入れなくてもどっちでもいいからね)

そして、風からの誘いの上にさっきの状況を見られた事に、流石に千景も黙り込む。

横を見れば友奈が期待たっぷりにこちらを見つめており、一方千景の入部に反対してそうな美森の方を見れば、そっぽを向かれて無視された。

周囲からの助け船が出ない以上、千景は、苦し紛れにこういうしかなかった。

「・・・・少し考えさせてください」

そういって、その場を去って行ってしまった。

その返事に、三人はしばし、茫然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下校路。

「うーん、すんなりといかないまでもオーケーしてくれるとは思ったんだけどね~」

風が頭を掻きながらそう唸った。

「千景君、どうして頑なに勇者部に入りたくないんでしょう?」

「それは私にも分からないわよ」

友奈の言葉に、風も頭を掻く。

「あれほどの技巧には、私も認めざるを得ません。しかし、性格に一つ難があると私は思うのですが・・・」

「そうよねえ。でも、人を助けたいって思いは伝わったわ」

そこは美森も認める所だ。

彼には、人を助けたいと思う心がある。

どうにかできないものか。

そんな事を思っていた時。

「だぁかぁらぁ、慰謝料払えって言ってんだよ!」

「「「!?」」」

その声は、すぐ横の路地裏から聞こえた。

偶然、その路地は一本続きとなっており、すぐに、その声を発した者、否、者達の姿が見えた。

それは、質の悪そうな不良と、一人の気弱そうながり勉の、なんとも定番な組み合わせ。

「お前が肩に当たったお陰で、俺の肩が痛んじまったんだよなぁ」

「だから、それに対する慰謝料十万円を払えって言ってんだよ?分からねえの?アタマイカれてんの?」

「そ、そんなお金、持ってな・・・・」

「そんな事知らねえんだよッ!!!」

「ヒィッ!?」

すぐそばにあるごみ箱を蹴っ飛ばす不良A。

それによって竦みあがるガリ勉眼鏡。

「いいからお金払えって言ってんの。もし払えないようなら、その体で支払って貰おうかな~?」

ごきり、と指を鳴らす不良B。

そこへ。

「やめなよ」

友奈が横から割って入った。

「ああ?」

「人からお金を巻き上げるなんて、そんな事しちゃいけないんだよ」

友奈のその指摘に、呆気にとられた不良たちだったが、すぐに声を挙げて笑った。

「おいおいお嬢さん、俺達は金を巻き上げてる訳じゃねえんだよ。コイツはな、俺にぶつかって、肩を痛めたの。だから慰謝料を請求してんの?」

不良Cがそう誇示する。

「それにしては、あまりにも高額過ぎるんじゃないかしら?」

しかし、そこへ後ろにいた風と美森がやってくる。

「風先輩、東郷さん・・・」

「ああ、なんだお前ら」

「彼女の友達って所かしら。そんな事より、たかが肩に当たったぐらいで、十万円なんて、いささか高すぎるんじゃないかしら?」

風が指摘する。

「はあ、相場だろ相場」

「別に今後の生活に支障をきたす程でもない程度の打撲で、たかが慰謝料十万円。それ、貴方たちが単純にお金に困って、人からお金を巻き上げるなんていうくだらない方法をとっただけなんじゃないんですか?」

「なんだと!?」

美森の言葉に、喰いかかる不良B。

「そんな選択しか出来ないとは、貴方達の今後が危ぶまれますね」

「おいアマ、舐めた事ぬかしてると、痛い目をみるぞ?」

額に青筋を浮かべて脅す不良A。

しかし美森は毅然としたままだ。

その態度が、彼らの気に障る。

「やめろ!」

そこへ友奈が立ちはだかる。

「東郷さんに手を出すな!」

しかし、その友奈の行動が、不良たちの行動の歯止めを吹き飛ばす。

「ああ?うっせえんだよ。正義の味方きどりかテメエ。そんな下らねえ肩書かざしているぐらいなら――――」

不良Cが、拳を振り上げる。

「ッ!?」

「友奈ちゃん!」

「友奈!」

不良たちの次の行動に気付いた三人。

「病院のベッドで寝てろ!」

「くッ!」

不良の殴る事バレバレなテレフォンパンチが友奈を襲う。

しかし、友奈はその攻撃を軽々と避ける。

「な・・・!?」

拳を振り抜いた事による完全な隙。

しかし、友奈は相手を攻撃しない。

「チィッ!」

攻撃が当たらなかった事に苛立った不良Cは再度友奈に殴りかかる。

それも連続で。

しかし友奈はそれを軽々とかわし、時には逸らし、かわしていく。

「くっそ!なんで当たらねえ!?」

「お父さんから武術を学んだからね!」

友奈は得意げに答える。

友奈の父親はそれなりに名の知れた武道家だ。が、友奈の母親との結婚を気に引退。

しかし友奈に、()()()()()()強く生きて欲しい願い為に、友奈に武術を教えていたのだ。

それが功を奏し、友奈は不良Cの攻撃をかわせるのだ。

しかし、友奈は反撃しない。

理由は彼女の性格、人を傷つける事の出来ない事にある。

仮令、人からお金を巻き上げる不良であろうとも、友奈に相手を殴るという度胸は無い。

 

それ故に、足元をすくわれやすい。

 

「調子に乗るなよ!」

不良Aが、近くにあったゴミ箱を蹴っ飛ばす。

実はこの不良A、周囲の状況を冷静に分析し、どうすれば友奈の動きを止められるのかを考えていたのだ。

だから、倒れて転がる円柱状のゴミ箱が、友奈の脚に当たり、友奈を転倒させる。

「あ!?」

ものの見事に転んだ友奈。

「いたた・・・あ!?」

「くたばりやがれ!この糞女がァ!!」

そして、不良Cが友奈の胸倉を掴んで地面に押し付け、拳を振り上げる。

「友奈ちゃん!」

「友奈!」

今度こそ、絶体絶命。

友奈の腕力では、男の伸ばされた腕を振りほどく事は出来ない。

そのまま、不良Cの振り上げられた拳が、友奈の顔面を打ち砕――――

 

「―――本当に、あぶなかっしいな、お前は」

 

――――なかった。

「え・・・」

「な!?」

不良Cの振り下ろされた手は、友奈の眼前で、なんとどこからともなく現れた千景に受け止められていた。

「な、なんだお前!?」

「ん?俺か?」

千景は、ぐぐぐ、と不良Cの拳を友奈から遠ざけると、空いた手で不良Cの胸を押し飛ばす。

「うお!?」

「気にするな。ただの知り合いだ」

そう答える千景に、他の不良二人に支えられた不良Cは茫然とする。

「ち、千景君・・・」

「大丈夫か?」

「な、なんとか・・・」

友奈に手を貸す千景。

千景は腕を回す。

一方の不良Cは完全にブチ切れていた。

「テメエ、何勝手に邪魔してくれてんだ・・・・!!」

「知らないな。人を平気で傷つけるような奴に言われたくはない。ましてや、こんな女一人にむきになるような輩に、かける情けは無い」

「ほざけェ!!」

不良Cが飛びかかる。

しかし、彼らは知らない。

 

 

 

記憶は失っていても、その体に叩き込まれた空手の技術を、千景は使えるという事を。

いや、この表現は正しくない。

 

千景が空手を使える事を、その場にいる者達は《全員》知らない。

 

 

 

「ハッ!」

基礎中の基礎である、単純に手を回して相手の攻撃を逸らす受けの型。それで不良Cの拳を、少しアレンジを加え、弾き、態勢を崩させると、そのどてっぱらに一発、ややアッパー気味な一撃を叩き込んだ。

「ぐえっ」

短くそう漏らし、アスファルトの地面の上に沈む不良C。

「安心しろ。痕は残らないし、その上痛みも残らない。今後の生活に何も問題はないだろう」

「て、テメエッ!!」

そこで不良Bが懐からナイフを取り出す。

「・・・」

「よくもやってくれたな・・・・だけど、ここまでだ。これでぶっすり刺されたくなかったら、すぐに慰謝料十万・・・いや、二十万払え!今すぐにだ!」

不良Bの言葉に、千景は動じない。

否。

「こいつ、ナイフ突きつければなんでも言う事聞くとか思ってますよ」

「千景、そいつはぶん殴ってもいいわ」

許可が下りた。

ならばやる事は決まっている。

だから千景はゆっくりと歩み寄る。

「く、来るな!」

この男の行動は、決して恐怖からくるものもあるだろうが、それ以前に、ナイフを突きつければ大抵の相手は怯え竦み上がり、言う事を聞くから、という経験談から来るものだ。

が、彼はもう少し考えるべきだった。

 

千景がそんな平気で人を傷つける事の出来る者に、一切の容赦をしないという事を。

 

「ふざけるなッ!」

「べぎゃぁ!?」

ものの見事に顔面を殴り飛ばされ、完全に沈黙する不良B。

「ヒィィッ!?」

一人になってしまったこの状況に竦みあがる不良A。

だから、Aは必至になって考える。

だが、それよりも先に、千景は不良Aに声をかける。

「おい」

「は、はいッ!」

「こいつら連れてさっさと失せろ。そして、二度とこんな事をするな。まともに生きたいならな」

「わ、分かりましたァー!!」

不良AはBとCを担いで、すたこらさっさと逃げていく。

「ふう・・・」

どうにか終わらせた事に安堵の息を吐いて、振り返る千景。

「ありがとう、千景君」

友奈が感謝の言葉を述べる。

「お前が危なっかしすぎるからな」

「えへへ・・・」

「笑い事か」

「あう!?」

軽く友奈の拳を小突く千景。

そこへ風と美森が寄ってくる。

「ありがとう。助かったわ」

「買い物の帰りに偶然見かけただけですよ」

千景は淡々と答える。

「何かお礼させてくれないかしら?」

「別にいいですよ。そこまでの事はしてない」

「人の善意は素直に受け取っておくものよ?」

風の言葉に千景はうなる。

どうすれば引き下がってくれるのだろうか?

そこでふと、友奈が千景に言った。

「ねえ、千景君。本当に勇者部に入る気はないの?」

「またその話か。何度も言ってるだろう。俺は入らない」

「で、でも、千景君、力強いし、機械の修理も得意だから、それなりに人の役に立てると思うな」

「機械の修理は確かにできるが、あれはあくまで俺がそうせざるを得なかった技術の産物でだな」

「え?そうせざるを得なかった?」

「あ」

そこで千景は自分が口を滑らしたことに気付く。

しかし、すぐに表情を引き締めると、逃げるようにその場から立ち去ろうとする。

「別にいいだろ。ほっといてくれ」

「ま、待って!」

「いい加減にしろッ!」

「ッ・・・!?」

そこで千景が怒鳴った。

「なんなんだよお前。しつこいにもほどがあるぞ。今回はただの俺の気まぐれだし、前だって俺がやりたくてやっただけだ。ただ、それだけなんだ。勇者部なんてまとまりの中にいたくはないし、強制されたくもないんだ」

千景は友奈をにらみつける。友奈は後ずさる。

「俺の自由を取ろうとするな」

千景の言葉(やいば)は、確かに友奈の心に突き刺さった。

決定的な部分に、突き刺さった気がした。

 

だけど、それでも――――

 

「だからもう――――」

 

「――――だって、君が、不安そうだったから・・・・」

 

今度は友奈の言葉(やいば)が千景の心に突き刺さった。

「ッ・・・!?」

それは決定的な衝撃となって、千景を撃ち抜いた。

そして、千景はそれを否定できない。

事実、千景は、不安だったのだ。

故郷での仕打ちを、ここでも受けるかもしれないという恐怖があり、自分の体の『秘密』が知られるかもしれない恐怖があり、そして、褒められる事に慣れていない事への疑心感があった。

要は、怖かったのだ。

ここでの生活が、まだ知らぬ、別の場所での生活が。

「だから、勇者部に入れれば、その不安も和らぐかなって思って・・・・」

友奈は、申し訳なさそうにそう呟く。

その発言に意図はない。何か手の込んだ事を考えることのできるほど、友奈は器用ではないから。

完全に、彼女の善意だ。

 

それは、まさしく致命的だった。

 

同情などされた事はなく、相手は自分の過去(じじょう)をしらず、ただただ、自分を心配された事がない。

だからこそ、その言葉は、千景にとっての致命傷だった。

 

 

「・・・・なんだよそれ」

「あ、気に障ったならごめんね。本当に迷惑だったら、もう、誘わないから・・・・」

それっきり黙りあってしまう二人。

ふと、そこへ、風が突拍子もなくある事を言い放った。

「勇者部五箇条一つ!『悩んだら相談』!」

それに、思わず反応する千景。

「なんだそれ・・・」

「勇者部五箇条、私たちが活動する上でのスローガンみたいなものよ」

簡潔に説明を終えた後、風は千景にいう。

「あんたの勧誘は、とりあえずやめるわ。その代わり、何か困ったことや、不安があったら、すぐに相談しに来なさい。いつでもいいわ」

「な・・・・」

その風の言葉に目を見開く千景。

「人が困ってる事は勇んで助ける。それが勇者部の活動目的であり、勇者部設立の理由よ。だから、アンタが何か困ってるなら、必ず力になるわ。それが、勇者部だから」

風は千景に向かってそう告げた。

それに千景はしばし呆然とする。

「それに、助けられぱなしってのも、勇者部の名折れだからね。ま、それほど無理なお願いじゃなきゃ、全部相談に乗ってあげるわ。それに一応アタシ先輩だし」

自慢げに自分に向かって指さす風。

しかし、その言葉にその場にいる者たちは何も言えない。

だが、やがて千景が頭を掻き始め、考え込み、一つの結論に至って、やがて諦めたかのようにため息をついた。

「分かりました」

「ん?」

「入る。勇者部に」

本当に、突拍子もなく、千景がさらりと言って。

沈黙すること二秒。

「「「ええええええ!?」」」

「いきなり大声出すなよ・・・」

「いいの!?千景君!?」

友奈は驚き半分、喜び半分で聞いてくる。

「さっきの犬吠埼先輩の提案だと、俺ばっかり借り作る事になるだろ。それは性に合わない。だからそうならないように入るんだよ」

「いいの?」

「お前らが先に言い出し始めたんだろうが・・・」

「いやあ、いきなり意見変えるから帰って驚いちゃって」

「嫌なら別に取り下げるが・・・・」

「いやいや嬉しい、嬉しいよ!むしろこちらからお願いしたいくらい!」

友奈が慌てた様子で言う。

「本当にいいのね?」

「まあ、仕方ないですから」

風が、安心したように笑う。

「そっか」

「むぅ・・・」

一方、蚊帳の外になっていた美森は、その事に頬を膨らませていた。

「・・・・なんだよ」

「別に、私も歓迎するわ。不道千景君」

「淡々としすぎてる気がするが・・・・まあいい」

「千景君」

そこへ、友奈が千景に歩み寄り、一言。

 

「ようこそ、勇者部へ」

 

そして、花のような笑顔で笑った。

 




次回『三本立てだよ!日常の一幕!』


ギャグなのかシリアスなのか、それは読むものに委ねましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。