不道千景は勇者である   作:幻在

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三本立てだよ!日常の一幕

~『邂逅・部長の妹』~

 

不道千景が勇者部に入って数日―――

 

(気まずい・・・・)

うどんをすすりながら、そう思う千景。

「やっぱりうどんが一番だよねー」

「確かな噛み応えに汁の深い味わい」

「この四国でうどんが嫌いな奴らなんて、『諏訪民』だけよね」

「千景君も、うどんは美味しいって思うよね」

「ソ、ソウデスネー」

言えない。絶対に言えない。

千景は、本当はそば派の人間だという事を。

 

この四国には、二つの勢力が存在する。

 

それは、うどん好きな『香川民』と、そば好きな『諏訪民』である。

 

その理由は、西暦の時代、ウィルスに世界中が覆われた時、どうにか四国に逃げてきた諏訪の人たちが原因で、四国にそばブームが巻き起こってしまったのだ。

それに対抗するようにうどん派の者たちがどうにかそばブームの広がりを抑えようとして、結果、ここ三百年、ずっとうどん派の『香川民』とそば派の『諏訪民』の間で激しい抗争が繰り広げられているのだ。

 

「しっかし、今じゃ()()()()()()()()()()()()()()()()って聞いたけど、安心したわ。アンタがちゃんとうどん派で」

「アハハ、ソレハヨカッタデスネー」

「なんでカタコト?」

この際、彼女たちとの信頼関係を築く為に、自分がそば派である『諏訪民』だという事は言えない。

それはともかく。

「ごちそう、さまでした・・・」

どうにか、うどんという敵意しか感じられない感触の食べ物を食べ終えた千景は、それでも作ってくれた者への感謝の意を忘れず手を合わせて合掌する。

うどん屋かめやを出る勇者部。

「そんじゃ、俺はこっちなんで」

「それじゃーねー」

「また明日ね」

友奈と美森は車で、風は自転車を押して、千景は徒歩で、それぞれの帰路についた。

「・・・・・そば食いてえ・・・」

しかし先ほど夕飯を食べてしまった。

空はすでに暗くなっている。

「・・・明日の夕飯の食材買って帰るか」

横の視界に移ったスーパー。

千景はそこに入っていく。

買い物かごを取り、それなりに食材を手に取っていく千景。

「なあんか向こうより高い気がするな・・・」

そんな事を愚痴りながら、千景は調味料コーナーにやってくる。

「えーっと・・・ん?」

目的のものを探してみると、ふと横で、上の棚に向かって手を伸ばしている少女がいる事に気が付いた。

「うーん!・・・うーん!・・・」

どうやら、届かないらしい。

傍から見ても低身長。ただ、決して極端に小さいという訳ではなく、おそらく小学六年という平均において、低いといったところだろうか。

ただ、その必死さ故に、決して届かない高さに無謀な挑戦をしている少女を見ていられず、千景は迷わず、その少女に近付いた。

「これか?」

「あ・・・」

それを手に取り、少女に手渡す千景。

それに一瞬呆気にとられた少女だったが、気付いてあわてて頭を下げた。

「あ、ありがとうございます!」

そして千景が差し出した調味料を受け取る少女。

ふと、千景は彼女が持っている買い物籠の中身に目を止めた。

「・・・・多すぎねえかそれ」

「あ、うちのお姉ちゃんが沢山食べるので、これぐらいは軽い方なんです」

「その量で軽いってどんだけ食いしん坊なんだお前の姉は」

(まるで風先輩だな)

ふと、そこで千景は気付いた。

少女の容姿。肩よりもやや上のところで切りそろえ、顔の左右で一部まとめた髪型はいいのだが、その髪の色は風のものに似ていた。

その上、目の色も同じだ。さらに、その顔立ちも、表情ではわからないが、よく見れば風を思わせるようなパーツをしている。

「あの・・・」

「ん?」

「私の顔になにかついてますか?」

「ああ、すまん。お前がうちの先輩に似ていてな」

「そうなんですか・・・・」

少し疑問に思っているような顔をする少女。

「しっかし、それ持って帰るのキツイんじゃねえの?」

「あ、心配しないでください。いつもお姉ちゃんが持っていますが・・・」

「余計心配だオイ」

どうにか話をつけて、帰宅時千景が代わりに持つ事にした。

「どうもすみません。持ってもらって」

「別に俺が好きでやってるだけだ。気にするな」

「それ、結構重いですよね・・・・?」

「安心しろ。買い物の時はこれの数倍の重さのものは持ってるから」

「え、どういう意味ですかそれ・・・」

暗い夜道、街灯が照らす中で会話をする二人。

「しかし、えらいな。こんな大荷物を一人で持ち帰ろうとするなんて。いつもなのか?」

「いえ、いつもならお姉ちゃんも一緒なんですが、今日は帰りがおそくて」

「そうなのか」

少女の言葉に、千景はそう相槌を打つ。

そのまま、少女が住んでいるという、マンションに辿り着く。

そして、部屋に着くと、少女は躊躇いも無しにドアを開けた。

「ただいま」

少女がそう言うと、奥の方からパタパタと音が聞こえ、千景にとって見覚えのある少女が出てきた。

「おかえり樹・・・・って千景!?」

「風先輩・・・!?」

なんと、勇者部部長の犬吠埼風だった。

そして、その妹らしき少女は、え?なに知り合いなの?とでもいうような表情で千景と風を交互に見ていた。

 

 

 

 

「犬吠埼樹です。紹介が遅れてもうしわけありません」

「不道千景だ。一応、風先輩の後輩をさせてもらっている」

犬吠埼宅にて。

「いやあ、まさか樹と一緒にいるなんてね」

「俺でも驚いている」

何故か御馳走になっている千景。

彼の目の前には、あまりにも大量の料理。

「あの、俺、さっきうどん食いましたけど・・・・というかうどん四杯食っておいてまだ食う気なんすか!?」

「え?あんなのまだまだよ」

「お姉ちゃんにとってはまだ腹二分目です」

「どんな胃袋してんだうちの部長は・・・!?」

改めて風の胃袋の広さに驚愕する千景。

しかし、そう思っている間に目の前にあった大量の料理がどんどん減っていく。

「一体その脂肪はどこに行ってるんだ・・・」

「千景ぇ」

「はい?」

「その話は女性には、厳禁よ?」

にっこりと笑う風。

「あ、はい・・・」

それに思わずビビる千景であった。

 

 

 

 

 

 

「ま、なんというか、ありがとね」

「ん?何故お礼を?」

玄関の前で、風の感謝の言葉に首を傾げる千景。

「なんでもなにも、うちの妹を送り届けてくれた事よ。樹、ドジな所あるからね」

「そうなんですか・・・」

「それに真夜中の街で変なオジサンとかに路地裏に引き込まれないか心配だったのよね」

「過保護か」

そこで、ふと千景はある事を聞いた。

「そういえば、親御さんはどうしたんですか?」

「ん?ああ、いないのよ。去年の秋にね」

「・・・・死んだんですか」

「きっぱりと言うわねアンタ・・・」

デリカシーの無さに苦笑する風。

「大橋の事件、知ってる?」

「あの、いきなり反りあがって崩壊したっている災害じみた事故でしょう。原因は未だに分からず、死者は多数に及んだとか」

「西暦の大災害ほどじゃないにしても、この三百年来の原因不明の災害だからね。うちの親、それに巻き込まれちゃってね」

「そうですか・・・・」

そこで、ふと千景は考え、言う。

「・・・・俺とは違うんですね」

「え?どういうコト?」

風は首を傾げる。

「俺、物心ついた頃から、親はいなかったんです」

「え・・・そうだったの?」

「ええ。なんでも殺人犯した後に二人揃って仲良く心中したみたいで。その結果で俺は虐められるようになったんです」

「そっか・・・だからその耳の傷なのね・・・」

千景の耳には、いくつかの傷がある。髪を切るという建前の元、物の見事にハサミで切られたのだ。

今でも、その痛みはじくじくと痛む。

「気付いてたんですか・・・」

「そりゃ部員の事よ?観察したいと思うじゃない」

「そうですか・・・」

「・・・なんか、悪かったわね」

「なんで先輩が謝る必要があるんですか?」

「アンタは、初めから親がいなかったんでしょ?それに対してアタシたちには、去年まで親がいて、それで、その・・・・家族の温もりとか色々と・・・・」

「ふむ・・・・別に俺はそんな事気にしませんが・・・」

風が首を傾げる。

「どちらにしろ、今の俺たちには親はいない。それでいいじゃないですか」

「・・・」

ぽかーんとする風。

「ああいや、この表現は良くないか・・・ええっと」

しばし考えてから、言い直す千景。

「俺たちには親がいない。だから同じです」

そうきっぱりと言い切る千景。

その答えに、ぷっと風は噴き出す。

「・・・なんか面白い所ありましたか?」

「ああいや、ごめ、なんか、安心してさ」

落ち着いた風が、千景に向かって言う。

「そうね。おんなじね、アタシたち」

二カッと彼女らしく笑う。それにやれやれと笑みを零す千景。

「それでは、俺はこれで失礼します」

「機会があったらまた来なさいよ。御馳走してあげるから」

「流石に量に関してはアンタの五分の一でいいですよ」

そして別れる二人。

辺りはすっかり暗くなり、空には満点の星空が輝いていた。

その空を見上げながら、千景は、帰路を歩く。

「さて、明日の天気はどうなるかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~『讃州中学水泳競技場事件』~

 

 

 

 

それは、突然起きた、あまりにも奇想天外な事件だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏――――灼熱の日差しと大気が、生きとし生けるものを苦しめる、地獄の季節。

そんな季節。人々、特に学生にとって癒しと言える時間がある。

いや、一部の人間にとってはそうでもないかもしれないが、とにかく癒しである事には変わりないだろう。

その癒しというのは他でもない。

 

プールの時間だ。

 

「「「プールだぁぁああああッ!!」」」

「「「ヒャッハーッ!!」」」

男子達が歓喜の声を挙げてやっと解禁された目の前のプールに今にも飛び込まんといていた。

 

のだが―――

 

「なんだこのエリアの狭さは・・・・」

なんと、男子のエリアはたった一コースだけなのだ。

「なんでこうなった!?」

「俺達が何をしたっていうんだ・・!?」

「お前らが女子の着替えのぞき見してたからだろーがッ!!」

極端な話、今年の女子達はレベルが高いから千景以外の男子が女子の着替えを覗き、それを気付いた美森が無実の千景を巻き込んで全員制裁。結果、教師たちの判断でペナルティとして一コースだけしか使えなくしてしまったのだ。

「自業自得でしょー」

「ほんとサイテー」

「当然の結果ね」

女子たちからの視線が痛いうえに白い。

「女子の着替え覗かずして何が男子だァ!」

「そうだそうだー!」

「俺達はただオアシスを拝みたかっただけだー!」

「もっと罵って下さい我々の業界ではご褒美ですぅ!」

男子達の変なテンションに頭を抑える千景。

その時、どこからともなく高圧で飛んできた水が男子達を直撃した。

「「「ぐおおお!?」」」

美森が持ってきた水鉄砲で撃ち抜いたのだ。

「なんで俺まで・・・・」

「千景君、大丈夫?」

どういう訳か巻き添えを喰らった千景もいる。そんな様子に友奈に心配にされる。

「そういや千景ぇ・・・」

ふと、倒れている男子の一人が千景に聞いた。

「なんだ?」

「なんでラッシュガードなんて着てんだ?」

「ん?ああこれか?気にするな」

千景は今、学校指定の水着に上半身にラッシュガードを着ている。

その理由は読者の方々は知っているだろうから語らないでおく。

それはともかくだ。

「仕方ない。この範囲で泳ぐしかないか」

「ええー」

「くっそぉ」

「覗きしたぐらいで大げさすぎるんだっての」

 

後、転校してきた翼にこの話が伝わり、覗きに加担した者全員が制裁されるのだが、それはまた別の話で―――

 

 

そして、始まった授業なのだが・・・・

 

女子達が広い事を良い事に思いっきり遊んでいた。

一方の男子は狭いのにもくもくとノルマを泳いでいた。

もちろん、そんな温度差があればストレスが溜まるのは必至。そして爆発するのも当たり前の事だ。

「ちくしょおおお!!やってられるかぁああ!!!」

とうとう男子の一人が放棄しだした。

「なんだよ女子ばっかり楽しそうにしやがって!」

「俺達だって遊びたいっつーの!」

「たかが覗きぐらいで大げさ過ぎんだよー!」

「コラァ!言われた事はきちんとやりなさい!」

そんな男子達の様子に体育教諭の男が叫ぶが。

「うるせーんだよ!」

「大人だからってなんでも許されると思うなよ!」

「というかどうせアンタも女子の裸みたいって思ってんだろ!」

「引きずり下ろせー!!」

(とうとう先生にまで反逆し始めやがった・・・・)

もはや混沌(カオス)となり始めている男子たちのテンションに、千景は茫然とする。

「あはは、なんだか元気だねー男子」

そこへ友奈がやってくる。

「いや、あれは元気というよりも怒りで我を忘れてると言った方がいいんじゃねえのか・・・」

やれやれと首を振る千景。

 

しかし、千景は、この日プールにいた者たち全員は予想だにしなかった。

 

 

本当の混沌(カオス)はここからだという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変は、突然だった。

 

 

 

「きゃぁぁあああぁあああ!?」

「「「!?」」」

女子の悲鳴が響き渡る。

「どうしたの!?」

「み、水着がぁ・・・」

見ればその女子の水着が破れ、一糸纏わぬ姿になっていた。

「えええ!?」

「何が起きたの!?」

女子たちが困惑していると、今度は二人の女子の悲鳴が轟いた。

「きゃああぁぁあああ!?」

「何よこれぇ!?」

見ればその女子の水着も跡形も無く破られており、先ほどの女子同様素っ裸だった。

そのまま連続して次々と女子達の水着が破られていく。

女子達の黄色い悲鳴。そして突如さらされた裸体。そしてレベルの高い体つきに、男子達の脳はオーバーヒートした。

「「「ぶほあ!?」」」

大体の男子がその鼻から鼻血を出す。

「ちょっと男子!見ないでよ!」

「変態!へんたーい!」

「なんなのよもー!」

「買ったばかりなのに~!」

女子達が泣き喚く。

「アハハハハ!天国だぁああ!!」

「何が起きてるのかしらんが、俺生まれてきてよかったー!」

「やべえ起ってきた・・・」

「我が生涯に一変の喰いなーし!!」

一方で男子達は歓喜の悲鳴を挙げていた。

「んな事言ってる場合か!?」

が、千景はそんな事に興味はなく、むしろツッコむのだった。

「くそ、一体何が起きてるんだ!?」

「分からない。でも、良くない事なのは確かだよ!」

友奈と千景が周囲を探す。

その間にどんどん女子達の水着が破かれていく。

その時、高い視力を誇る千景の眼は捉えた。

 

水中を走る筒状の何かを。

 

「ぎょ、魚雷!?」

それはまさしく魚雷と言うべき形のものだった。

その本来なら爆薬が詰まっている部分には、向きを安定させるための翼のようなものがついており、おそらくそれが、女子達の水着を引き裂いたのだ。

そして、今現在、それが友奈に向かって進行している事に、千景は声を挙げる。

「逃げろ友奈――――ッ!!」

「え・・・?」

だが、遅かった。

友奈が着ていた水着が、一瞬にして破れ、そのまだ幼さの残る裸体がさらされて――――

「ぶほぁ!?」

「いやなんでお前が鼻血噴き出すんだよ!?」

それを見た美森が鼻から鼻血を盛大に噴いた。

「みみみ見ないでぇ!!」

友奈が水面から首から下まで潜る。

「くっそ、とうとう友奈にまで手を出しやがったなあの魚雷・・・・ん?」

千景が過ぎ去っていった仮称『魚雷』を見ると、その行先に、ふと気づいた。

「・・・・・やばい」

その進路に気付いた千景は、慌てて()()()()()()()

 

次の瞬間、魚雷が男子達のコースに入り、男子の水着を()()()()()()()()いった。

 

それを理解するまで、三秒。

「「「ぎゃぁぁぁああああぁぁあぁああ!?」」」

「「「きゃぁぁぁああぁぁぁぁあああぁ!?」」」

男子と女子の悲鳴の大合唱が巻き起こる。

「あ、危なかった・・・」

「おいコラ千景てめえ!!」

「自分だけ逃げるなんてずりぃぞッ!!」

「知るかお前らが女子たちに見惚れていたからだろうがッ!!!」

とりあえず男子達を黙らせた後、千景はプールサイドの上からプールを見下ろす。

魚雷はなおも生徒たちの水着を引き裂かんとしている。

「なんでこんな事に!?」

「あんた達の所為じゃないの!?」

「知るか俺達は何も知らねえよッ!!」

「でも女子達の裸体を拝めたのは・・・・ぐへへ」

「気持ち悪いッ!!」

まさしく混沌(カオス)

その状況に千景は頭痛に頭を抑える。

プールサイドに上がって休憩していた美森は友奈の裸を見て鼻血拭いてノックアウト。

友奈は水着を破かれた事でまともに動けない。

そして他の生徒のほとんどが水着を破られている為、行動不能。

そして、今無事なのは千景ただ一人。

「やるしかないか・・・・」

すでに魚雷の位置は分かっている。今もなお移動し続けているが、見切れない程ではない。

「ち、千景くぅん・・・」

友奈が涙目+上目遣いで見上げてくる。

(やめろ友奈それは流石に破壊力がヤバい)

「ぶほぁ!?」

「だからなんでテメエが噴いてんだゴラァ!!」

美森が鼻血を噴いた。

しかしそうこうしている間に千景はすでに臨戦態勢に入っていた。

チャンスは一度、失敗すれば自分の水着が引き裂かれるかもしれない。

もしそうなれば、『背中の秘密』がバレてしまう。

だから、細心の注意を払って、あの魚雷をどうにかしなければならない。

最悪()()が犠牲になっても良いからどうにかしなければならない。

だから、千景は――――

「セェイッ!!」

水の中に飛び込んだ。

そして、その目の前から魚雷が迫ってくる。

その距離、およそ十メートル。

速さはおそらく秒速三メートル。

残りおおよそ三.五秒で到達。

それを考えて、構える。

 

残り、二秒。

 

周囲が一瞬にして緊迫する。

ある者は唾を飲みこみ、ある者はその光景を目に焼き付けんと目を見開く。

 

残り、一秒。

 

美森の出血は止まらず、友奈は心配そうにその結果を待つ。

 

そして、魚雷が、千景に到達する。

 

 

 

残り――――零秒。

 

 

 

千景が、手を振り抜く。

形は手刀。下から、救い上げるのではなく、居合切りの要領で、左手を振り抜いた。

魚雷の頭に千景の手刀が衝突し、一気に跳ね上げられる。

手が、魚雷の羽によって傷つく。

しかし、その結果、魚雷は水中からはじき出され、プールサイドに叩きつけられる。

フィンはなおも回り続けているが、空気では進む為の推進力とはならず、虚しく回り続けるだけだった。

そして、その数秒後、千景が水面から顔を出した。

「いってぇ、流石にこれには慣れてなかった」

千景は切れた左手を抑えながらそう言う。

それに、一同は茫然とし、やがて、それは喝采へと変わった。

「うおおおおおお!!!」

「すげえ!」

「あんなに速かったアレを一発で仕留めちゃうなんて!」

「千景君凄いわ!」

周囲が彼を賞賛する中、ただ一人、彼に焦った様子で駆け寄る少女がいた。

「千景君、その手大丈夫!?」

友奈である。彼女は千景の左手の様子を慌てた様子で見る。

「問題ねえよ。その内、塞がる」

「だめだよ、急いで保健室にいかないと・・・・!」

「いや、その前に・・・」

「今すぐ、保健室行って!」

「いや、そのだな・・・」

「何?」

友奈が頬を膨らませて聞いてくる。

「・・・・お前、今自分が裸なの気付いてる」

「え・・・・?」

千景の指摘に、友奈は自分の体を見下ろす。

そう、友奈は先ほど、あの魚雷によって水着を引き裂かれているのだ。

そんな訳なので・・・・・

「ひやぁぁあああぁああ!!!」

当然、悲鳴を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは災難だったわね」

風が受けて笑う。

「笑わないで下さいよ」

千景が玩具の車を修理しながらそう言い返す。

「ごめんごめん。だから友奈はずっと隅っこで縮こまっているのね」

見れば部室の隅で三角座りでうずくまっている友奈の姿があった。

「うう・・・・もうお嫁にイケナイ・・・」

「嫁にいけないって・・・・友奈それなりに可愛いんだからきっと嫁に貰ってくれる奴いるだろ」

千景がマジレスで言い返す。

「うう・・・・」

「・・・なんで俺を睨む?」

「アハハ・・・ま、東郷は友奈の裸を見て現在保健室で寝てるのよね」

「後で迎えに行かないとなぁ」

どうにか復活した友奈。

ふと、そこで友奈は彼の背中に目を向けた。

(それにしても、どうして千景君、ラッシュガードなんて着てたんだろう・・・?)

それが、友奈にとっての心残りだった。

 

 

 

 

余談だが、この事件は後に『讃州中学水泳競技場事件』と呼ばれるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~『讃州一の不良、三ノ輪剛』~

 

 

 

 

 

 

「なあ千景、こんな噂知ってるか?」

「なんだいきなり」

なんでもないある日の事、千景は学級委員としての仕事の最中に、同じクラスの鈴木に声をかけられていた。

「この讃州には、この讃州最強の不良がいるんだってよ」

「ふーん、で?」

「その強さはまさしく熊が如し。その拳はどんな屈強な男を一撃で沈め、その讃州の不良界の頂点に立つ男!」

「その名は?」

「いやそこまでは分からない」

「なんで分からないんだよ?」

「だって名前は秘匿されてるからな」

「自信満々で答えるな」

そうツッコミをいれつつ、千景は鈴木に聞いた。

「それで、なんで俺にその話を?」

「いやだってお前なら勝てそうだから」

「俺とそいつを決闘させる気だったのか・・・」

驚くを通り越して呆れる千景。

「そんなのダメだよ!」

そこへ別の方向から声があがる。

「喧嘩なんてしちゃダメ!」

友奈である。

「友奈・・・」

「ああ、わりぃわりぃ。単なる興味本位だからよ」

それじゃあなー、と言い残して去っていく鈴木。

「やれやれ」

「本当にやらないよね?」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ・・・・」

軽く友奈の額を小突く千景。

「あう!?」

「しねえよそんな事」

そう言い、千景は担任から頼まれていた仕事を済ませ、席に戻る。

それと同時に、次の授業の担当がやってきた。

 

 

 

 

 

 

昼休み。

どうにか購買で焼きそばパンを手に入れた千景は、そのまま教室に戻ろうと歩いていると、目の前に廊下を歩く風の後ろ姿が見えた。

「あれは・・・」

が、しかし、どこか妙に足取りが弾んでいるように見える。さらにその両手には、弁当箱が二つ。

風自体の胃袋の大きさなら、まだ足りないと思うが、それにしては何か様子が変だ。

 

と、ここで千景の好奇心は風の後を付けるに至った。

 

風の行く先は屋上。

その後を千景はこっそりと付いていく。

(何しに行くんだ・・・?)

扉から、屋上の様子を見る。

すると、そこには―――

「お待たせ」

「ん、来たか」

一人の屈強な体をした男子だった。それも眼つきは悪く、男らしい顔立ちの男だった。

髪の色は麹塵色。短くさっぱりとした髪型。その風格は、普通の中学生にはないものを醸し出していた。

(へえ、何かと思えばだれかと弁当食うつもりだったのか。それも男・・・ん?)

そこで風は、その男子に向かって、弁当の片方を差し出した。

「はい。アンタの分の弁当」

「悪いな」

「いいのよ」

(な、なにぃぃいい!?)

風が、まさか自分の弁当を他人に渡すなど、誰が想像したか。

いや、むしろあの会話の内容は以前からもその様な事をしているようだ。

つまり、風はあの男子の為に毎度弁当を作っている事になる。

それ即ち―――

(風先輩の愛妻弁当・・・!?)

というのは考えすぎなのかもしれないが、風が他人、それも男性に対して弁当を渡すなんて、これは何か裏があるように思えて気になる。

「それとアンタ、またどっかで喧嘩してきたでしょ?」

「う・・・なんで分かった・・・?」

「手、怪我してるでしょ?全く、これぐらいでアタシを誤魔化せるとでも?」

「わりぃ・・・」

(随分と観察し()ているようで・・・)

内心にやける千景。

そう思っている間に、二人並んで座り、弁当を開ける。

そして、男子の方が、具材の一つを掴み、口の中に放り入れる。

「ん・・・やっぱうめえな、風の弁当は」

「そんな事はないわよ。(ごう)の腕には劣るわ」

「何を言ってんだよお前は。十分美味いっての」

「ふふ・・・ありがと」

嬉しそうに笑う風。

(あんな顔も出来るのか・・・)

「わあ、風先輩あんな顔出来るんだねー」

「あら珍しい、風先輩が殿方と一緒にいるなんて」

「ああ、そうだな・・・・てんんん!?」

いつの間にか友奈と美森が千景の横にいた。

「お、お前ら!?」

「千景君、焼きそばパン買いに行ったっきり帰ってこないから心配して見に来ちゃったよ」

「す、すまん・・・」

「でも、風先輩にあんな殿方がいたなんて意外ね」

美森はこっそりと風とその傍らに座る男子の様子を覗く。

「本当だよねー。あんな素敵な人と一緒にご飯食べられてるんだから」

「お前、恋愛には疎そうなのにこういう事には色々と言うよな」

「でも、あの男子、一体だれなのかしら?」

美森の言葉に、千景も同じように思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはきっと、三ノ輪(みのわ)(ごう)さんですね」

「三ノ輪?」

そんな訳なので、犬吠埼風の妹である犬吠埼樹に公園でその事を話した結果、意外な事に、樹はその男子の事を知っていた。

「はい。お姉ちゃんが初めて家に呼んだ人で、初めは流石に怖かったですが、話してみると案外面白い人ですよ」

「なるほどな・・・」

「剛さん、なんでも大赦の方では偉い地位にある家系の次期当主みたいなんですが、出稼ぎという理由でここ讃州にやってきたみたいなんです」

「そうなのか・・・」

「お姉ちゃん、その人の話になるととても嬉しそうに話すんです」

「一応聞いておくが、付き合ってるのか?」

「聞いた話だとまだだそうです」

「あれでまだなのか・・・」

千景は意外そうにつぶやいた。

「ただ・・・・」

「ただ?」

「剛さん。あまり学校には行ってないみたいでして・・・」

樹の言葉に、千景は首を傾げる。

(じゃあ昨日は稀に来る日だったって事か・・・?)

そう推測を立てつつ、千景は昨日の剛と風の様子を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、千景と友奈と美森は依頼で街を歩いていた時の事。

「それでね、東郷さんの牡丹餅を食べててね、そしたら猫が食べようとしてたんだよ」

「なんでそのタイミングで出てきたんだその猫は」

「ふふ、友奈ちゃんが止めたからやめたけど、本当なら縛り上げて・・・」

「東郷、それはやめようか」

そんな事を言い合いつつ、三人は住宅地の中を歩いていた。

ふと、友奈はその歩みを止めた。

その視線はすぐ横の空地に向けられている。つられて千景と美森も前を見ると、そこには複数の男子学生たちがいた。

しかし、どうやらそのグループは二つに別れているようで、どういう訳かいがみ合っていた。

「なんか、嫌な予感がするな」

「うん・・・」

「ええ・・・」

ふと、片方のリーダーらしき男が口を開く。

「ここは俺たちが先に陣取ってた場所だ。さっさと立ち去れ」

それでもう片方のグループのリーダーも言い返す。

「何言ってんだ。ここは元々俺たちももんだ。お前らがどっかいきやがれ」

互いに譲らぬ様子で睨みあう双方。

「どうしよう・・・・止めに行った方が・・・」

「ここで喧嘩に発展して警察沙汰になれば、そばにいた俺たちも重要参考人として警察署に出頭、それによって友奈と東郷の両親に迷惑がかかるからなぁ・・・」

「あの・・・私の事はいいんだけど・・・」

三人が止めに入ろうとする。しかし、その前に、一人の男がその間に割って入った。

「何してんだお前ら」

『!?』

「「?」」

その声を聞いた集団は、その顔を青ざめさせ、一方で千景と友奈には何が何だから分からなかった。

しかし、そこへ歩いてきた男を見て、驚く。

「あ!?」

「あの人は!?」

その男というのは、

『み、三ノ輪の兄貴!?』

 

件の三ノ輪剛だった。

 

「三ノ輪先輩・・・!?何故ここに・・・」

「あれ、千景と友奈と東郷じゃない」

「あ、風先輩!」

驚いている千景と友奈の元に、何故か風がやってきた。

「何故ここに?」

「え、あーえっと・・・た、偶々よ!偶々!」

どうにか誤魔化そうとする風。

一方で。

「な、何故貴方がここに・・・!?」

「ん?そんなのお前らがなんか言い争ってるからだろ?なんだ?喧嘩か?」

剛の言葉に、息詰まる男子たち。

それにやれやれと息を吐きつつ、剛は言葉を続ける。

「お前らがどうしてそんなにいがみ合ってるのかは知らねえ。だけどな。()()()()()()()()()()()()だけはするな」

剛は男たちに言う。

「お前らがこんな所で喧嘩して、もし家族に迷惑がかかってみろ。親は相手に謝りに行き、そして慰謝料で家計が厳しくなる。生活も苦しくなって小遣いが減る。飯もまずくなる。いいか?お前らが喧嘩一つするだけで、こんだけの事が起こるんだ。そんなものバレなきゃいいって思ってるかもしれないけどなあ、見ろ」

剛はある方向を指さす。

その先には千景たちがいる。

「なんでこっち指差してるんだ・・・」

「あそこに()()()()見物人がいる。つまりだ。アイツらが電話一本するだけで警察が飛んでくるんだよ。いいか?ここで喧嘩を始めればすぐさま警察が飛んでくる。それで、お前達の生活は変わるんだ。もしそんな事になりたくなかったら、いがみ合って喧嘩すんな。なるなら仲良くなれ。無理ならどっちもさっさとここから立ち去れよ」

そう言い残して、立ち去ろうとする剛。と、そこでふと立ち止まり、剛は最後の最後で釘を指してきた。

「あ、そうそうお前ら。これでもまだやるっていうなら――――」

 

 

 

 

 

「俺が直々に相手になってやる」

 

 

 

 

その一言だけで十分であり、彼らを竦み上げさせるには十分であり、彼らの心を一つにするには十分だった。

そのまま剛は風たちの所へ歩いていく。

「わりいな風。待たせちまって」

「あ!?剛!」

「ん?なんだよ?」

慌てて風が剛の発言を止めようとするが―――

「先輩、樹から三ノ輪先輩の事は聞いてますよ?」

「ちなみに屋上でお弁当食べている所も見ちゃいました」

「とてもいい笑顔でしたよ」

「はうあ!?」

その事実に、風は開いた口がふさがらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、そんな訳でコイツがアタシの友達の三ノ輪剛よ」

「コイツってなんだコイツって。ま、よろしく。風の後輩ども」

近場の公園にて、ジュースを飲みながら、剛の紹介が行われていた。

「不道千景です。一応部長代理の権限を持ってます」

「結城友奈です!元気担当です!」

「東郷美森と言います。部のホームぺージの更新などを担当させてもらってます。東郷と呼んでください」

挨拶を返す千景、友奈、美森の三人。

「しかし、三ノ輪先輩が讃州の不良たちをまとめている噂の不良だったとは。

「まあこっちに来た時に色々とやらかしてな。風とはそんな中で会ったんだよ」

「ほう・・・・不良に絡まれていた所を三ノ輪先輩が救出したとか?」

「いやいや東郷、剛とは単にクラスが同じだったってだけよ。まあ、剛が不良になるまで交流が無かったのは事実だけど・・・」

「ま、あんときは色々と荒れてたからな。ムカついたらとりあえず喧嘩吹っ掛けてボコってたし」

「壮絶・・・」

「それで、どんな風に会ったんですか?その点を詳しく教えて下さい!」

友奈が面白そうに聞いてくる。

「そんなの秘密に決まってんでしょ!」

「ええ~いいじゃないですか!教えてくれたって!」

「だーめー!」

問い詰める友奈と断固拒否する風。

「おいおい友奈、それくらいにしとけって」

とりあえず友奈と止めておく千景。

「あ、そうだ!剛先輩って風先輩とよく一緒にいるから、勇者部に入ってしまえば、いつも一緒にいられますよね」

「ちょ!?」

友奈の発言に思わず赤面する風だったが。

「悪いが俺は入らねえぞ?」

と、ばっさりと断った。

「そんな~」

それにショックを受ける友奈。

「剛先輩ほどの威圧があれば先ほどのように喧嘩とか止められて結構役に立つと思うのですが・・・」

「それについては否定しねえよ。まあ、俺が入らない理由としては、難しい話、俺のこの街での立場にあるんだよな」

「立場・・・・この街で一番強いから、不良たちにカリスマ的存在として扱われてるって事からですか?」

「そ。その上学校での俺の評価は最悪。そんな俺が現在人気急上昇中の勇者部に入ったら、なんか支障きたすだろ?」

「別に、評価については勇者部で活動していれば改善できると思うのですが・・・」

「んー、それもそうなんだけどな」

剛は頭を掻きつつ、ある決定的な問題を提示した。

「俺はこの街()()最強と言われてる」

「まあ、そうですね」

「だけど他の街では?」

「?」

その剛の言葉に風以外の全員が首を傾げる。

「他の街から、俺の噂を聞いて喧嘩をしにくる奴がやってくる。その時、俺が勇者部の活動をしていたらどうだ?俺の性格上、当然喧嘩を受ける。そうでなくても、あいつらは俺を引き込む為に周囲を巻き込む筈だ。そうなると勇者部に迷惑がかかるし、俺が喧嘩おっぱじめれば、止めれなかった事で学校側から指導される。そうなったら」

「勇者部の評価が下がる・・・・そういう事ですか、三ノ輪先輩」

千景が、剛の言葉に続いた。

「そうだ。だから俺は入れない。今すぐ降りようと思っても、この街にはまだタチの悪い奴らがいる」

「つまり、自分が名をはせる事で、自ら抑止力になると、そういう事なのですか?」

「そうだ東郷。俺の名と顔が知られていれば、俺がその場に居合わせるだけでそいつは悪事をやめる。そういう事をしなきゃなんないのさ」

「ずいぶんと、深く考えてますね」

千景が関心する。

「これでも、とある大家の次期当主だからな。これぐらいは考えとかねえと、これからが大変になりそうだからな」

「なるほど・・・・」

千景はうなずきを持って納得する。

後々知る事になるのだが、剛は大赦で発言力を持つ『三ノ輪家』の次期当主なのだ。

「えーっと、つまりどういうコト?」

しかし、この中で唯一、友奈だけが取り残されいた。

それに一同は苦笑しつつ、美森が上手く噛み砕いて説明した。

「そういう事だ。だから俺は勇者部には入らねえ」

「それなら仕方がないですね。わかりました。剛先輩の勧誘は、しばらくやめます」

「やめるってお前、いつかまた再開するって事かよ」

「え?そのつもりだけど?」

友奈のきょとんとし、それに笑い声をあげる一同。

「風」

「ん?何?」

「良い後輩をもったな」

「・・・・ありがと」

二人は、別れ際に、そう言い合った。




次回『東の郷に、道はあら()

動けぬ郷に、道はあらずとも、示しはする。
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