不道千景は勇者である   作:幻在

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東の郷に、道はあら不

初め、私は彼の事は苦手、いや、嫌いだった。

親友を取ってしまう悪い虫。

私よりも高い技能を持って、立場を奪おうとする盗人。

それが、あの頃の私の評価。

 

だけど、あの日以来から、私は彼に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、終わったぞ」

最後の玩具を籠の中に入れ、伸びをする千景。

「おおー!千景君凄い!」

「流石ね。あれだけの量を一日で終わらせちゃうなんて」

勇者部の部室である家庭準備室にて、今日も平常運転に活動をする勇者部一同。

新しく勇者部に入った千景は現在、依頼で送られてきた玩具などの修理に(いそ)しみ、それをものの一時間で全て片付けたのだ。

「さて、暇が出来た事だし、何か手伝う事とかはないか?」

「そうね・・・・それじゃあ、これから友奈と一緒に依頼の女子ソフトボール部の練習に行って来てくれないかしら?」

「分かりました・・・・ていうか何故俺が女子部の手伝いに・・・」

「なんでも、アンタの指示は的確だとか言う噂を聞きつけて、ものの試しに依頼してきたらしいのよ」

「なんすかそれ・・・まあ、他に予定があるわけじゃないし、いいですよ」

「了解です!行こう千景君!」

そんな訳で早速部室を出ていく、友奈と千景。

「大分、アイツも仕事が板についてきたわね。ね、とうご・・・・」

ふと、美森の方を向いた風。

瞬間、その表情が引き攣って固まる。

「ふぅー・・・ふぅー・・・」

そこには、真っ黒いオーラを発しながら、ハイライトの消えた目でパソコンの画面を覗き込み、機械的に、されど一回一回呪詛を込めるかのようにキーボードを打っている美森の姿があった。

さらに、鼻息も荒い。

「あー・・・・わ、私も依頼に行ってくるわねー、アハ、アハハハハハハ・・・・」

風が渇いた笑い声をあげながら部室を出ていく。一刻も早くこの真っ黒く重い空気で満たされた部屋から出ていきたかったからだ。

そんな訳でぴしゃりと閉じられるドア。

その音がした数秒後、美森は突如として机に突っ伏した。

「・・・・風先輩に気を遣わせてしまった・・・・」

先ほどのアレは確実に自分が悪いというのは自覚している。

あの感情の矛先は、風ではないので、風が逃げる必要はないのだが、それでも気を遣わせたことに変わりはない。

そんな、周囲に迷惑をかけるような自分が嫌になる。

 

 

いや、そもそもこんな事になっている理由は、あの不道千景とかいう()()()のせいだ。

 

 

最近、親友であるはずの結城友奈に物凄く気に掛けられ、さらに技能で褒められ、その類稀なる才に引き寄せられていく。

端的に言って友奈を取ってしまう泥棒猫(おんな)ならぬ泥棒犬(おとこ)

あるいは、ずる賢い狐!

早急に排除せねば、友奈をとられてしまう。

そんな使命感が、美森の中に沸くが、同時にそれが実行できない事に歯がゆくなる。

 

彼を勇者部に推薦したのは他でもない友奈だ。

 

それ故に、その彼を勇者部から追い出そうとすれば、少なからず友奈はショックを受ける。

ねちねちと悪い噂を広めて追い出すのもいいが、それでは友奈が失望からのショックを受ける。ついでにその情報の発信源が自分だとバレれば友奈の心は離れてしまうからその案はそもそも除外。

故に、美森は彼を追い出さず、どうにか友奈の気を、千景から自分に向けさせたいのだ。

「どうすればいいのかしら・・・」

起き上がり、車椅子の背もたれに体重をかけ天上を見上げ、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・で?なんでこうなってんの!?」

気付けば千景は美森の家で椅子にくくりつけられていた。

 

ナンデコウナッタ?

 

「知るか!?」

 

ショーガナイジャン、オレデモワカラン。

 

「しょうがなくねーよ!?ナレーターが知らなくてどうするんだよ!?」

「黙りなさい。貴方もナレーターも」

「あ、ハイ」

 

ア、ハイ、トリアエズモドシマス。

 

「よろしい」

「で?なんで俺こうなってんの?」

千景が美森に訊ねる。

「簡単な話よ」

美森がフッと笑う。

それに千景は緊張に顔を強張らせる。

 

「友奈ちゃんと馴れ馴れしくしないで」

 

「・・・・・・え?それだけ?」

「そうだけど・・・・」

「・・・・はあー」

「え?なんでそんな重い溜息つくの?」

「お前、それ直接言えばいいだろ?」

「誰に?」

「友奈に」

「・・・・・」

しばし考え込む美森。そして・・・

「ッ!?」

「いや今更にその手があったかって顔すんな!?馬鹿なの!?お前馬鹿なの!?」

「あ、貴方に言われたくないわ!」

 

イヤ、アナタカレヨリセイセキヒクイデショ?

 

「何か言ったかしら?」

 

イエナンデモアリマセン。

 

「というか一々会話に入ってくるなよな」

そう言いつつ、千景は美森を見る。

「で?そろそろこの拘束をとってくれると嬉しいんだが・・・・」

「ダメよ。友奈ちゃんと別れるっていうまで絶対に解かないわ」

「おい。その言い方だとまるで俺と友奈が付き合ってるみたいじゃねえか」

「もちろんそうは思ってないわよ?」

「じゃあなんでそう言った!?」

「知らないわよ!?」

一向に進まない会話。

「だー、もう。そろそろしねえと、夕飯の時間になるぞ」

「あら?いいじゃない。断食は良い修行になるわよ?」

「友奈が来るんだよ」

「はい!?」

千景の思わぬ返し、というか内容に驚愕する美森。

「この間、ちょっとした依頼で俺の家に近くに来たからそこで夕飯振舞ったら、週一で来るようになってな」

「な、なんでこと・・・すでに友奈ちゃんの胃袋を掌握していたなんて・・・!」

「そこで取引だ。お前家に来るか?」

「え・・・」

千景の突然の提案にたじろぐ美森。

「このままじゃ友奈は夜の中俺の家の前で待ち続ける事になる。それを黙っていられるほど、お前は薄情じゃない。どうする?俺が帰らないと、アイツ、犬のように外で待ち続ける事になるぞ?」

「ぐ・・・」

その千景の言葉に、何も言い返せない美森。

確かにこのままでは友奈は夏とは家、蒸し暑い夜の中、一人で千景の家の前で待ち続ける事になる。その間に質の悪い男たちに掴まってしまったら、それでもし、凌辱の限りを尽くされてしまったら―――

「どうなるんだろうなぁ?」

 

・・・・テ、オマエガイッテタンカイ。

 

「・・・・・」

その千景の言葉に、美森は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ」

千景の住むマンションにて、突っ立って待っていた友奈。

しかし、足音が聞こえ、そちらを向くと、そこに彼女が待っていた人物がいた。

「もう、待っちゃったよ千景君・・・それと、東郷さん?」

友奈は以外なものでも見るかのように、千景に車椅子を押される美森を見た。

「実は偶然会ってな」

「そうなんだ!」

「え、ええ、そうなのよ」

その誤魔化しがどうにか通用し、千景は二人を家に入れた。

「殺風景で悪いな東郷」

入ってみれば、内装はかなり質素。

気になるものと言えばゲームやそのソフトやカセットのみで、他に特に気になるものは何もない。

確かに殺風景と言われても仕方が無い。

「適当に、と、友奈、東郷を床に座らせてやってくれ。机低いからな」

「分かった!」

千景の指示にうなずき、美森を床に座らせる友奈。その間に千景はエプロンを着用し、料理に取り掛かる。

「そんじゃあ、テレビでも見ながら待っててくれ」

「うん!」

パチッとテレビをつけると、最近話題のバラエティ番組がやっており、しばしそれを見て待つ友奈と美森。

「ねえ、友奈ちゃん」

ふと、美森は気になった事を友奈に聞いた。

「何?東郷さん」

「週一でここに来てるみたいだけど・・・そんなに美味しいの?」

本当は千景と一緒にいる頻度を聞きたかっただけなのだ。

「うん!すっごく美味しいよ!」

屈託のない笑顔で答える友奈。

「そ、そう・・・・」

そのあまりにも輝かしい純粋さに、思わず引いてしまう美森。

「あ、でもお菓子なら東郷さんの方が美味しいよ」

「そうなの?そうよね。うん、そう」

「?」

意外な所で褒められ、気分が高揚する美森。

ふと、美森は千景の方を見る。

巧みに包丁を使い、食材を切っていくその姿は、熟練の料理人を想起させてしまうほどすさまじいものだった。

そう思っているうちに、料理は完成し、目の前に出される。

それは、肉じゃが。

「わあ!肉じゃがだぁ。頂きまーす!」

友奈は嬉しそうにはしゃぎ、両手を合わせ、早速その肉じゃがに食いつく。

一方の美森は、出された料理の以外な簡単さに驚いていた。

「悪いな、ちょいと買い物する時間がなくて。でもごはんと一緒に食えばそれなりに美味しい筈だぞ?」

「あ、ううん。私、一応客人で、それなりに張り切った料理が出てくると思ってたから」

「俺は基本こんなものしか作らないぞ?」

千景は、肉じゃがを口に運びつつ、そう答える。

「・・・・そう」

美森はそう小さく呟き、肉じゃがを箸で掴み、試しに一口、口に入れた。

「・・・・美味しい・・・・!」

その、意外なおいしさに、感嘆するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「送らなくてもいいのに」

「今回は東郷がいるからな。夜道二人、片方一人が車椅子なんて、危ないだろ?」

千景の最もな言葉に、頷く友奈。

現在、美森は友奈に押されて帰り道を歩いていた。

時間としては夜の七時。

「とりあえず、美味しかったと言っておくわ」

「そりゃどうも。そういや、気になったんだけどさ」

「何かしら?」

「お前、そのリボンいつもつけてるよな。誰に貰ったんだ?」

それは、美森の髪を結ぶのに使われている、緑色のリボン。

美森は、その問いに、そのリボンを握りしめながら、切なそうに答える。

「・・・・分からないの」

「分からない?」

「私が事故にあって、足の機能と、記憶を失ったのは、知ってるわよね?」

「まあな」

「その時、目覚めた時に、手首に結ばれてたの。きっと、事故の時に誰かが結んでくれたんだと思う。だから、きっと大切なもので、手放しちゃいけないものなの」

「だから、ずっとつけてるのか・・・・」

「そうだったんだ・・・」

美森の、悲しそうに応える様子を見て、千景は空を見上げ、友奈は静かに呟いた。

「だから、これが本当は、他の誰かの物であっても、ずっと持っていなくちゃいけないものだと思うの。だから、こうしてるの」

「そっか。それならそれ以上何かいう必要はないな。ほら、ついたぞ」

気付けば、三人は、友奈と美森の家の前にいた。

「送ってくれてありがとね、千景君」

「わざわざ夜遅くにごめんね」

「いいよ。俺もお前たちも勇者部の一員だ。部員を助ける事も、俺達の目的の一つだろ?」

「それもそうね」

「うん!その通りだよ!」

その言葉は、夜の空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、友奈ちゃんに千景君との事を言うの忘れた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の日。時間はしばし飛ぶが夏休み。

その日、美森は千景と二人きりで、依頼に行っていた。

依頼内容については割愛させてもらうが、季節な夏な今、喉が渇いたために、公園の日陰にて、休んでいた。

「暑い・・・」

「大丈夫か東郷?」

暑さにやられてぐったりしている美森。それを心配しつつ自分のジュースを飲む千景。

「貴方に・・・心配されるほどじゃない・・・わ・・・・」

「んな苦しそうに言われたってさほど説得力ねーよ。落ち着くまで日陰にいろ」

「ん・・・・」

千景の言葉にとりあえず頷く美森。

一応、依頼は終わらせている。

その帰り道において、あまりの暑さに休む事になったのだ。

「友奈ちゃん・・・今頃何してるのかしら・・・?」

「風先輩が一緒とはいえ・・・・何かやらかしていないといいが」

二人して、他の仲間二人の心配をする。

「・・・・暇だな」

「・・・・暇ね」

「・・・・なんか面白い話ないか?」

「面白い話・・・・ふむ・・・」

千景の質問に、しばし考え込み、美森は答える。

「軍艦について興味はないかしら?」

「軍艦だったら俺は暁型、特Ⅲ型駆逐艦が好きだぞ。特に『雷』」

「ッ!」

千景の予想外な答えに、美森の眼が光る。

「どんな!?どんな所が好きなの!?」

「うお!?お前この話にはすぐ食いつくのな・・・」

「どんな所が好きなの?」

「だぁぁぁあ!近いわ!」

一旦落ち着いて。

「まあ、好きな所といえば、そいつら自体の性能じゃなくて、その戦歴。例えば、一番艦の暁は、その最後は、味方に敵の位置を教えるため、夜の中、己の危険を顧みず、探照灯で照らした所とかな。それで、俺がなんで雷が好きなのかというと・・・」

「敵国の船の乗組員を救助した事ね」

「そう。その時の工藤俊作艦長の心情については、感動した」

「敵も味方も助ける、それまさしく武士の道!あれこそ、本物の武士よね!」

いつの間にか盛り上がっている、会話。

「まさか、千景君が軍艦の事について詳しかったなんて」

「いや、俺がよくしってるのは暁型だけなのであって、お前ほどの知識はないぞ?」

「それでもよ。私にとっては、共感が持てる相手がいるだけでも嬉しい事だわ」

「あ、そうですか・・・」

なんとも珍しい反応に戸惑う千景。

以前までだったら、ここまで話し込む事は無かった筈なのに。

 

ふと。

 

「にゃあ」

「ん?」

「あら?」

ふと、彼らに向かって、猫がやってきた。

「猫か」

子猫ではなく、一般的に誰でも見かけるような大きさの猫。

その猫は、じっと美森の方を見ており、微動だにしなかった。

「・・・何かしら?」

気になり、声をかけた、その瞬間。

 

いきなり猫が美森に飛びかかった。

 

「きゃ!?」

「東郷!?」

思わぬ事態に驚き、美森は顔を守る様に腕を掲げ、千景は思わず立ち上がる。

しかし猫は、美森の肩に引っ付いたかと思うと、すぐさま()()()()()()()どこかに行ってしまう。

「なんだったんだ・・・・」

「ええ」

その猫の行方を気にしつつも、ふと千景は美森の方を見た。

そこで、違和感に気付く。

「あれ・・・・」

「ん?千景君、どうかしたの?」

「お前・・・リボンどうした?」

千景が指摘する。

美森は、それに己の髪に触る。

 

いつの間にか、束ねられていた髪が解かれていた。

 

その理由は、美森がいつもつけていたリボンがないから。

その事実に、美森は―――――

「―――――――ぁ」

その表情を蒼白とした。

「ま・・・・ま・・・て・・・・」

弱々しく、逃げ去る猫に向かって手を伸ばす美森。

「かえ・・・して・・・・おねが・・・・」

記憶に無い、ものの筈なのに。

それが、過ぎ去っていく様子を、実感する度に、美森は、自分の何かがどんどん瓦解していくような感覚に陥っていた。

それは、美森という人間を一気に不安定にさせてゆき――――――

 

 

 

「――――お前はここで待ってろ」

 

 

 

ふと、そんな頼もしい声が聞こえた。

気付けば、隣にいた彼が、いなかった。

「待てッ!そのリボン返せッ!!」

声がした方を見れば、千景がありえない速さで猫を追いかけていた。

美森は、その様子を、ただ茫然と見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、どれくらいの時間がたったのか、わからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば周囲は夕焼け色に染まり、美森は、ただ茫然と虚空を見ていた。

友奈や風に連絡する事も忘れ、ただ、その場で、石像のように、その場に佇んでいた。

ふと、そんな彼女の元へ、走ってくる者が、一人。

「はー・・・はー・・・・良かった。まだここにいた」

「・・・・千景君・・・?」

「よっす」

顔を向ければ、そこには、かなりボロボロな状態の千景がいた。

制服はどこもかしこも泥や煤がついており、顔や手にはひっかき傷ばかりで、髪も幾分か荒れていた。

「どうして・・・・」

「どうしてって、これ私に来たんだよ」

差し出されたその手には、先ほど、あの猫に奪われた緑色のリボンが握られていた。

「あ・・・」

「全く、あの猫には色々とやられたぜ。すばっしこいわ、塀の上に乗るわ、小便かけられるわ、捕まえたかと思ったら思いっきり引っかかれるわ。それなのにリボンだけは頑なに手放そうとしねえわ取ったら取ったらで、全力で奪い返しにくるわ。それで格闘になった結果、どうにか取り返せたよ」

千景が疲労困憊の様子で事の顛末を話し、茫然とする美森を見て、笑う。

「どうした?取り返してくれた事がそんなに予想外だったか?」

「・・・・なんで、なんで、こんなものの為に・・・」

他人にとっては、それほど気にするものではない。その上、彼にとってもそれほど重要なものでもない筈だ。失くしたなら、代わりのものを用意すればいいのに、何故、彼はそこまでして取り返してくれたのか。美森にはそれが理解できなかった。

「いやお前、これ取られた時かなり動揺してただろ?」

しかし、千景はさぞ不思議そうに首を傾げていた。

「え・・・」

「お前にとっては大切なものであって、絶対に無くしちゃいけないもの。そして、それを取られて困ってたお前を見捨てておけなかった。勇者部の活動目的にもあるだろ。人が困っている事を勇んでやる。その困ってる人っていうのは、部員も含まれるのは当然だろ?」

「・・・・」

「それにさ」

千景は美森に近付いて、そのリボンを結び始める。

「俺は、お前らと一緒にいるのが楽しいんだ。友奈がいて、風先輩がいて、お前がいる。その中で、お前だけが笑ってなかったら、気になって楽しめねえだろ。だからさ」

結び終わり、千景は半歩下がって言う。

「これぐらいの事はさせてくれよ。他でもない。お前の為にさ」

美森は、結ばれたリボンに触れる。

そして、千景の言葉を、心の中で反芻し、俯きながら笑う。

「・・・・ん?」

「貴方、それ、口説きに来てるの?」

「え?何言ってんだお前?」

「ふふ・・・・そうね。貴方はそういう人だものね」

くすりと笑い、顔をあげる。

 

「ありがとう、千景君」

 

そして、満面の笑みで、そう感謝の言葉を告げた。

それに、千景は笑って返す。

「ああ、どういたしまして」

そう、言葉を交わした時、向こうで声がした。

「おーい!東郷さーん!千景くーん!」

「アンタ達ー!いくらなんでも帰りが遅いわよー!」

それに、二人は顔を見合わせる。

「あー、やっぱ心配してくるか」

「そうね。行きましょう」

「だな」

千景が車椅子を押し、迎えに来た彼女たちの元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の日。

「千景君、これの処理お願いできないかしら?」

「ん?ああ、いいぞ。それと東郷、ホームページのアップデートの件だが、この間パソコンに新しく画像いれといたから見ておいてくれ」

「分かったわ」

美森から渡された書類の束を受け取り、それに早速とりかかる千景。

「ふーむ・・・」

「ん?どうしたのよ友奈?」

「最近、千景君と東郷さんの仲が良いなぁ、って思ったので」

「ああ、確かに、前より結構話すようになったわね。あの二人」

二人の視線の先にて、息の合った動きで、仕事を進めていく黒髪組がせっせと働いていた。




次回『蕎麦の救世主!蕎麦仮面、登場!』

それは突如、嵐の如く現れた。
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