不道千景は勇者である   作:幻在

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蕎麦の救世主!蕎麦仮面、参上!

冬の十月。

その日、千景は見た。

「そ、蕎麦屋・・・・だと・・・・!?」

目の前には、一目の付かない場所で開店している、一軒の蕎麦屋。

「まさか、こんな所で・・・!!」

それに歓喜する千景。まさか、こんな所で、大好物の蕎麦に出会えるとは!

「ふ、ふふふ・・・・」

今、千景は完全にフリー。勇者部の依頼を受けていなければ、なにかしようと思っているわけでもなく、ただそこらを散策していただけだった。

ただ、あまりにも予想外過ぎて、歓喜に震えているのだ。

思わず千景は周囲を見渡す。

他に、人はいない。

部員の仲間もいない。

今なら、入れる・・・!!

「よ、よし・・・」

この、蕎麦が禁忌の場所で、みすぼらしくも堂々と店を構えている人物に興味が沸き、千景は、その戸を開ける。

「お、お邪魔しまーす・・・・」

なかばビクビクとしながらも、入る千景。

中は・・・惨憺としたありさまだった。

まともに掃除しているとは言えず、どこぞのラーメン屋のような造りで、人気が出そうな所とは言えない。

こんな所じゃ客は寄ってこないだろうに。

「い、いらっしゃいませ!」

ふと、なんだか緊張しきった叫び声が聞こえた。慣れていないのか少々響きが足りないが、それでも接客の精神は十分に伝わってくる。

そちらに視線を向ければ、がりがりな体型の男がそこに立っていた。

頭にタオルを巻き、黒いシャツを着ているその姿は、一丁前とも言えるだろう。

「よ、ようこそ。蕎麦屋『水戸』へ。自分、店主の『藤森(ふじもり)水門(みなと)』と申します」

「あ、ああ、俺は不道千景だ・・・今、大丈夫?」

「は、はい!器具は常に手入れしているので!」

「じゃあ、蕎麦を一杯」

「かしこまりました!」

男・・・藤森水門の顔がぱっと明るくなり、早速料理に取り掛かった。

千景はカウンター席に座り、蕎麦が出来るのを待つ。

その間に、千景は水門という男の手際を見る。

(へえ・・・・手順はしっかりしてるし、蕎麦を切る時の幅も均一だ・・・なかなかいい腕をしてる)

お湯が沸騰するのと同時に、切った蕎麦を投入し、茹でている間に、水門は具材を切りに取り掛かる。

ものの数秒で切り終え、今度は汁の準備に取り掛かる。

(かつお節ね・・・出汁の取り方も上手いな・・・)

彼が使っているのはどれも高級とは言えない食材ばかり。それでも、腕には目を見張る物があり、相当卓越していた。

やがて、蕎麦が完成する。

「お待ちどう様、掛け蕎麦です」

出された蕎麦に、千景はしばし見つめ、やがて割り箸を割って一口蕎麦をすすった。

「ん・・・・!」

一口入れた瞬間、千景の目が光る。

そのまま物凄い勢いで蕎麦を食べていく。

「この歯応え、ずる、汁の味わい深さ、ずるる、濃すぎず薄すぎず、ずぞぞ、蕎麦との相性がとてもあっていて、ずばば、その上、具材がそのおいしさを引き立て、ずるぞぞ、そして、何より、美味い・・・!こんなに美味い蕎麦は食ったことが無い・・・!」

気付けば丼は空、汁の一滴残らずを飲みつくした千景は、一言。

「美味しかったです、店主」

「ほ、本当ですか!よ、よかったぁ・・・!」

水門は、とても安心したように膝をつく。

「・・・何かあったので?」

「ああ、自分、これでも大赦の方でかなり高い地位にある家系の末っ子でして」

「そうなのか・・・いや、そうなのか」

思い出してみると、そうか、『藤森』

大赦でスリートップにある『上里家』『乃木家』『白鳥家』の内、白鳥家と密接な関係にある家系。それが確か藤森家だった筈だ。

今現在、大赦において最も高い発言力を持つ上里家が乃木家、白鳥家と水面下での対立状態にあると聞いている。

その藤森家から出たとなると、金には困らない筈だが。

「自分、蕎麦が好きで、そのおいしさを、香川民の皆さんに知ってもらいたいと思って、こういう場所ですが、店を構えてみたんですが、どうにも客が来なくて・・・」

「それほどの腕があるのに人気が出ないとは・・・許すまじ」

ゴゴゴと、拳を握りしめ怒気を発する千景。

「いえ、君が来てくれただけで、自分は嬉しいです。出来れば、これからも来てくれると嬉しいのですが」

「是非来ます毎日来させてもらいます!」

「そ、そんなに・・・・まあ、いっか」

目を輝かせて水門の手を取る千景。

しかし、やがて何かに気付いたかのように苦い顔をして姿勢を正す。

「いや、やっぱ無理だ」

「ど、どうして!?」

「部活があるんだ。流石にそれに時間を削られる・・・・さてどうしたものか」

真剣に考え始める千景。

「ハハ・・・週に一度くらい来てくれるだけで充分ですよ」

「そっか・・・でも、流石にこのままじゃアンタの家計的に破綻する」

「い、いや、そこまで考えてくれなくても・・・」

バンッ!と千景は机を思いっきり叩いた。

「よくない!勇者部五箇条第四条『悩んだら相談!』及び、悩める人は助けよ!俺はアンタを助けたい!どうにかしてここを人気のある蕎麦店にして見せる!」

「で、でも、具体的にどうすれば・・・・」

それには流石に千景も止まってしまう。

だが、すぐさま過去の記憶において、ある案が浮かんだ。

「・・・ふっふっふ」

「ん?どうしたの?」

千景の悪い笑みに、水門がビビる。

「掴むなら・・・まずは子どもの心だ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日。

「ふーむ」

美森が、とあるネットの記事をみて、そう唸った。

「どうしたの?東郷さん?」

「ううん、ただ、気になる記事があって・・・」

「何々・・・蕎麦の救世主『蕎麦仮面』?なのそれ?」

両脇から友奈と風が画面を覗き込み、その記事を見た。

「なんでも、最近有名になってる、軽犯罪狩りみたいなのよ」

「軽犯罪狩り?」

「ひったくりや強盗、さらにはスリまでもとらえて警察に突き出す、今香川の子ども達の人気急上昇中の英雄・・・私的には、国防意識の高いから、好感は持てるんだけど・・・」

「・・・・蕎麦の部分ね」

蕎麦、それは、香川民にとっては宿敵ともいえる勢力の好物の一つ。

そのヒーローみたいな奴は、その名前を使っているのだ。

「最近、蕎麦を食べ始める子どもたちが増えて行ってるみたいなのよね」

「え!?香川で育ってるのに!?」

「そう、香川で育ってるのに」

果たして、オウム返しする必要はあっただろうか。

それはともかく。

「まあ、悪いことしてないんなら、問題ないんじゃないかしら?」

「活動目的は、私達とほぼ同じ。ただ違うのは、私達は依頼を受けてからだけど、この人の場合は、突然現れて困ってる人をその場で助けて、あとは風のように去っていくて感じです」

「へえ、私達と同じ、人を勇んで助ける人かぁ。千景君はどう思う?」

そこで、さっきまで会話に入らず黙々とおもちゃの修理をしていた千景に話が振られた。

「そんなに興味ないな」

「ええー、ゲームしてるのに?」

「なんでそこでゲームが関わってくる」

千景は一切振り返らず、そう答えた。

それに何かしらの違和感を感じた友奈だったが、特に気にする事は無かった。

「あ、動画あるのね」

「再生してみましょう」

美森がマウスを動かし、カーソルをスタートボタンに重ね、押した。

再生される動画。そこに映っていたのは、とあるひったくりの現場。

『だ、誰かー!』

鞄を取られた女性は倒れ、上手く立てないのか、手を伸ばすだけ。

一方のひったくった男は、してやったりとほくそ笑み、そのまま走り去ろうとする。

誰も、突然の事に反応できず、男に押しどかれるだけ。

このまま逃げられると思われた、その時、男の前に、とある人影が立ちはだかった。

 

一言で言ってコスプレ。

 

頭全体を覆う仮面。そのマスク部分には『蕎麦』の文字。さらに全身はプラスチックのアーマーで覆われており、マントをなびかせていた。

 

というか、そのマントにはどっかの住所と店の名前だろう名前がくっきり書かれていた。

 

その姿は、さながら『仮面ライダー』。

そんな、変質者としか言いようがない人物がひったくり犯の男の前に現れた。

「ちっ!どけ!」

男が、その人物を押しのける。そのまま横を素通りし、走り去っていく。

その様子に、友奈、美森、風の三人は首を傾げた。

 

『―――助けて、と誰かが叫ぶ』

 

しかし、ひったくり犯は突如として足を止める。

 

『―――返して、と誰かが願う』

 

そして、その手にあるはずの物を確認する。

 

『―――故に、馳せ参じるは正義の味方』

 

その腕の中には何もなく、

 

『―――そして――――』

 

男は慌てて振り返る。

 

 

『―――蕎麦の救世主である!』

 

 

そこには、片手にひったくられた筈の鞄を持ったさっきの変質者の姿があった。

「おおー!」

「うっわ・・・」

「これは・・・」

友奈は目を輝かせて、風はその厨二っぷりに引き(おまえがいうな)、東郷も同様な反応だった。

『テメェ!』

男が、鞄を取り戻そうと、謎の人物に襲い掛かる。

だが、謎の人物は、男の突進をひらりとかわす。

『な!?』

その事実に驚きつつも、男は謎の人物に、今度は殴りかかる。

だが、これも軽い動きでかわされる。

『く、くそ・・・なんだこいつ』

『・・・・』

ふと、狼狽する男を、ただ黙って見つめる謎の自分。

『こらぁ!』

『警察だ!神妙にしろ!』

そこへ警察がやってくる。

『チッ!覚えてろ!』

『いや・・・』

逃げようとする男の肩をがっしりと掴む謎の人物。

『お、おい離せ!』

『殴りたくはないが、少し反省しろ』

振り払おうとする男。だが、謎の人物の握力が強すぎるのか、なかなか逃げる事が出来ない。

そのまま男は掴まり、一方の謎の人物はひったくられた女性に鞄を返していた。

『ほら』

『あ、ありがとうございます』

見た所、謎の人物は中学生くらいの背丈であり、体格からして少年といった所だろう。

そして、彼はそのまま立ち去ろうとする。

『・・・・あやべ名乗るの忘れてた』

が、そこでふと立ち止まりやがて慌てるように振り返り、突如として、高らかに名乗りを上げた。

『俺の名前は、蕎麦の救世主『蕎麦仮面』!』

そして決めポーズと言わんばかりに、右足を折り、しかし左足はのばしてしゃがみ、両手を、十時の方向へ伸ばしてポーズをとった。

『また会おう』

そういって、蕎麦仮面は走り去っていく。

 

『HAHAHA!』という大きな高笑いを残して。

 

 

 

「・・・・なんというか、すごいわね」

「あの一瞬で、鞄を取り返すとは・・・なかなかやりますね」

「うん!かっこよかったよね!」

友奈だけがハイテンションだった。

「これが発端で、他にも、強盗がとっていた人質を救出したり、スリからスリ返したり、あんなド派手な服装なのになぜか思いっきり人に溶け込めてたりと、とにかく神出鬼没で、その先では必ず何か軽い犯罪が起きてるとのことです。その件数、実に十件以上にのぼるとの事です」

「すごいわね・・・」

「うん。この人はあれだね。勇者だね!」

友奈の発現は、この際無視。

「ひどい!」

「誰に言ってるの友奈ちゃん?」

「それはともかく、この蕎麦仮面・・・なんか裏がありそうなのよね・・・・」

考え込む風。

「確かに・・・うどんの本場である香川で、蕎麦を名乗るとは・・・それに、背中のマントにある住所・・・・」

美森が、何かを調べ始める。

「・・・・やっぱり、なんだかこのごと子ども達に人気の蕎麦店がある所よ」

「それじゃあ、蕎麦仮面は・・・・」

「ええ・・・この讃州に、蕎麦文化を広めようとしてる!」

瞬間、三人の間に落雷が落ちた。

「・・・・この香川で、蕎麦の布教するとは・・・良い度胸してるじゃない」

「ふふふ、これは少し、思い知らせないといけませんね」

「よーっし、この人に負けないように頑張るぞー!」

何故か、友奈だけがずれた視点にいた。

ふと、そこで千景が立ち上がり、荷物を手に取る。

「あれ?千景君今日も?」

「ああ、悪いな」

「いいわよ。個人的に受けた依頼でしょ。頑張ってきなさい」

風はそのまま千景を送っていく。

「・・・・・さて東郷」

「千景君が依頼を受け始めた時期と蕎麦仮面が現れた時期が合致します。これは、何かしら関係があるものと推測されます」

「何かの偶然じゃないかな?それといつ調べたの?」

何故か、どこぞの刑事のように会議を始める友奈、風、美森の三人。

「これは、尾行する必要がありそうね・・・」

「無理じゃないかな?」

「なんでそう思うの友奈ちゃん?」

「だって、千景君もう校門でちゃったし」

友奈が指さす先、窓の向こうで、瞬間移動でもしたのか全力疾走する千景の姿がった。

「「はや!?」」

流石にその足の速さには絶句するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で。

「えーっと、この辺りなのよね?」

「ええ。あのマントに書かれていた住所は、この辺りを示しています」

車椅子に座ってノートパソコンを操作する美森が今開いているページを見てそう答える。

「にしても、住宅街の中とは・・・・」

「この先に一体、何があるのかしら・・・」

「楽しみだなぁ。蕎麦仮面!」

もはや、友奈の意識は完全に蕎麦仮面に会う事に集中していた。

「アイツの正体・・・もし千景だったら・・・・」

「矯正する必要がありますね」

「蕎麦仮面!」

「って!目的はそれだけどそうじゃなーい!」

そんなこんなで歩いていると、目的の場所にやってくる。

そこには、とある一軒の蕎麦屋があるだけだった。

ただ、それだけならいい。その店の前で、件の変質者『蕎麦仮面』が、子ども達と楽しく遊んでいるという事実さえなければ、特に気にはしなかっただろう。

「サインちょーだい!」

「私もー!」

「ぼくもー!」

「オーケーオーケー、ちゃんと並んで順番にね」

子ども達の手には、色紙。

蕎麦仮面は、右手に持ったペンでカッコよく『蕎麦仮面、参上!』とすらすらっと書いていく。

「あ、あの!」

「ん?」

蕎麦仮面がサインを書きながら女の子の言葉を聞く。

「こ、このまえは、おかあさんを助けていただいて、ありがとうございます!」

「いや、お安い御用さ。なにせ、俺はこの街を平和を守る為に戦ってるんだからな」

蕎麦仮面は、その女の子の頭をなでる。

それで女の子の顔がとてもほころぶ。

「あー!ずるーい!」

「蕎麦仮面!俺、この前ゴミ拾いしたんだー!俺もなでて!」

「おお、偉い偉い」

「わたしもなでてー!」

「ぼくもー!」

「おおう!?HAHAHA!ちゃんと順番ずつなー!HAHAHAHA!」

アメリカンに笑う蕎麦仮面に頭を撫でられて喜ぶ子供たち。

その様子を、遠目から呆然と見る事しかできない風と美森。

「なんというか、大人気ね」

「はい。まさか子ども達にこれほどまでに人気があるとは・・・おそるべし蕎麦仮面・・・・」

そう呆然としているなか、向こうで何か変化があった。

 

くぅ

 

「ん?」

「あ」

一人の男の子が恥ずかしそうにお腹を隠す。

「あう・・・・」

それを見て、蕎麦仮面が笑い声をあげる。

「HAHAHA、腹が減ったのかい?」

「ううー」

「ならば店に入ると良い。美味しい蕎麦が食べられるよ。大丈夫、きっと君たちの口に合うハズさ!」

それに、と蕎麦仮面は続ける。

「ここの蕎麦が、俺の強さの秘訣だ」

キラリーンと決め台詞を吐く蕎麦仮面。

それが子供たちに受け、蕎麦仮面はその子供たちと一緒に店の中に入っていく。

 

一人、あまりにも身長が違う女子一人交えて。

 

「ゆ、友奈ちゃーん!?」

「何してんのアイツ!?」

慌てて追いかける風と美森。

がらら、と入れば、そこにはカウンター席に順番に並んでいる子ども達と蕎麦仮面、そしてその蕎麦仮面から丁度サインをもらっていた友奈がいた。

「ん?新しいお客さんか」

「ど、どうも、いらっしゃいませ」

「こっちだよー!」

「・・・・何してんの?」

「え?蕎麦食べに」

「そうじゃなくて!私達の目的は、蕎麦仮面の正体を探る事でしょ!」

「え!?そうだったの!?」

「話聞いてたの?」

「HAHAHA!」

茶番劇のような会話に、蕎麦仮面が笑う。

「この俺の正体を探りにくるとは、予想はしていた。だが、俺という正義の味方というものは、その性質上、その正体をバレてはいけないのだよ」

蕎麦仮面が得意げに何かを話し始め、やがて風と美森に向かって指を差す。

「故に、俺はお前達に正体を晒さない!」

ズバァァンッ!という効果音が出てきそうな決め台詞を吐く蕎麦仮面。

「というか、こんな所でなにしてるの?千景君」

と、美森がいきなり爆弾発言する。

「え!?千景君なの!?」

と、友奈が驚く。

「その仮面を脱ぎなさい千景。もうネタはあがってんのよ!」

どーん!と風が決まったとばかりに指を差す。

その、いきなりの事に、蕎麦仮面は・・・・

「・・・・何をいってるんだお前たちは?」

と、すっとぼけた。

「東郷さん?違うみたいだよ?」

「そんな簡単に信じないで友奈ちゃん!」

「とぼけても無駄よ!ここ最近、アンタは個人で依頼を引き受けてたみたいだけど、その依頼を受け始めてからと、蕎麦仮面が現れた時期は一致するのよ!」

「ふむ・・・・仮に俺とその千景、という奴がその依頼とやらを引き受けた時期が一致するとして・・・・俺がその千景という奴が同一人物だという決定的証拠はないのだろう?」

「うぐ・・・・」

その返しに思わず唸る風。

「確かに・・・」

流石の美森も証拠が足りない事でうまく言い返せない。

「うーん・・・私は、違うと思うなー」

「え?どういう意味よ友奈?」

何故か、友奈だけは違う意見を出していた。

「だって・・・」

 

その時だった。

 

「こんな所に蕎麦屋あったんだなー」

 

()()()()()()()()

 

「「・・・・・え?」」

全く持って予想外。

まさか、千景が、後ろから、扉を、開けて、入って、来るなんて、誰が予想できただろうか。

「え?え?」

「なんで?どうして?」

風と美森は訳が分からず、友奈はやっぱりと、一方後ろの子ども達は「あ、ちかげにいちゃんだー」と手を振って、この店の店主であろう男はいらっしゃいとだけいい、一方の蕎麦仮面は、なぜかほっとしていた。

「・・・なんでいるんだ?」

 

 

 

 

 

「「すいませんでした・・・」」

「HAHAHA!何!間違いを犯してこそ、人間というものだからな!」

完全に予想が外れて、その上相手方に迷惑をかけてしまった事に、迷惑をかけてしまった事をうしろめたく思ってしまっている風と美森が隣に座り、そのさらに横に友奈。向かいには蕎麦仮面と千景が座っているというこの状況。

「まさか、千景が近所の家でベビーシッターをしていただけだなんて・・・」

「完全に予想外だったわ」

「私もびっくりだよー」

完全に落ち込んでいる風と美森、そして苦笑いしている友奈。

千景も苦笑いしており、蕎麦仮面に至っては気にしてないかのように笑っていた。

「それにしても、どうして千景こっちに来たの?」

「え?まあたまには気分切り替えて蕎麦屋にお邪魔でもしようかなと・・・・」

「うどん派の香川民なのに蕎麦を食べるとは・・・・やはり貴方は敵!」

「なんでそうなる!?」

「HAHAHAHA!」

「ハハハハ!」

せめてもの謝罪の意思として蕎麦を食べる事になる。

「どうぞ・・・」

「ここの蕎麦は絶品だぞー!俺が保証しよう!」

「んじゃ頂きまーす」

「頂きまーす!」

「い、いただきます・・・」

とりあえず蕎麦を一口入れる千景、友奈、風、美森、蕎麦仮面の五人。

感想は・・・

「う、美味い!?蕎麦なのに美味い!?」

「塩辛くも無く、出汁が濃すぎる事も無く・・・ここまで心を動かされるなんて・・・屈辱!」

「それはあんまりじゃないか東郷?」

「美味しい!今まで食べた蕎麦のどれよりもおいしいよ!これがSINSHU=SOBA!」

「うむ!やはりここの蕎麦は美味い!」

三者三様の驚き方で、それぞれが興奮に身を震わせる。

風はただただ美味いとだけ言って蕎麦を感触し、美森は苦い顔をしながらもその味の凄さに屈し、千景はものの数秒で平らげ、友奈はなぜか外国風に叫び、蕎麦仮面は相変わらずアメリカンに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、また明日ね、千景」

「お邪魔しました」

「じゃあね、千景君!」

店の前で友奈、風、美森の三人と別れる千景。

「・・・・・はぁぁぁぁあ」

見えなくなった所で、思いっきり疲労からくるため息を吐いた。

「ど、どうにか切り抜けた」

「あれがお前の部活の仲間たちか」

店の中から蕎麦仮面が出てくる。

「ええ。それにしても、まさか貴方のような人が来てくれるなんて、思いも寄りませんでした。『白鳥(しらとり)()()』さん」

蕎麦仮面が、その仮面を外す。

その仮面の下は――――女性。

それも、友奈そっくりな顔立ちだった。

年齢は、おおよそ二十代後半。なんでも、この蕎麦屋の店主である水門の幼馴染であり、()()()らしい。

「いやぁ、この仮面凄いな!声がまんま男のものに変声させる機能がついてるなんてな!これ作ったお前はすごいよ」

正直、物凄い違和感がある。

性格は男勝り、一人称は『俺』で、笑い方も、千景の知る友奈のもとは全く違う。

一言でいうなら『中身が男の友奈』だ。

「しかし、本当に貴方は二十代なんですか?とてもそうとは思えないんだが・・・」

「ああ、それは俺の体にちょっとした異変が怒っちまってな。ここで成長止まっちまったんだ」

曰く、ある病気にかかったせいで体の成長が止まり、ずっとこのままらしい。

ただ、生殖器官は無事なので、問題はないらしい。

「それにしても、あれが今の世代の友奈か・・・」

「?」

「いや、こっちの話だ。気にするな。おーい水門!蕎麦食わせろー!」

「分かってるよ!ちょっと待ってて!」

さっさと店の中に入っていく白鳥友奈。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始末はこうだ。

 

当初、蕎麦仮面になるのは千景だった。

しかし、そこへ偶然にも、白鳥友奈がやってきて、学業もある千景の代わりに白鳥が蕎麦仮面となって数々の事件を解決していったのだ。

白鳥は、かの白鳥家の次女。当主とはなれないため、とりあえず藤森家の末っ子を結婚させる事になったのだが、一方の相手の水門が、今のままでは幸せに出来ないからと、婚約は決定したまま、結婚はせず勝手に家出。そんな水門を追いかけた白鳥が、結果、店を繁盛させるための計画に巻き込まれてしまったのだ。

まあ、本人は乗り気だったが。

そして、千景の方は、偶然にも近くでベビーシッターを欲しがっていた家族と鉢合わせとなり、蕎麦屋に通いつつも、ベビーシッターの仕事をしていたという訳だ。

勇者部が蕎麦屋を訪ねた時、会話を聞いた千景は聞き耳を立てて、何故か蕎麦仮面が自分という事になっている事に気付いて、慌てて起点を利かせる為に店に入ったのだ。

どうにか、自分が蕎麦好きの諏訪民だという事は誤魔化せたので、問題はないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、俺もこれで」

「分かった」

「じゃーなー!」

そのまま、店を出ていく千景。

そうして二人だけになった店の中。

「・・・なあ、水門」

「なんだい?友奈ちゃん」

「お前、こんな事してるけど・・・・本当に俺でいいのか?」

「・・・・え?」

白鳥は、カウンターにつっぷしながら、そう吐露するかのように、何かを呟き始める。

「女として、あまり体つき良くないし、性格も男っぽいし、自分の事も、俺っていう・・・そんな、女らしくない俺を、嫁にして、お前はいいのか?」

その言葉に、水門は一瞬いいづまり、やがて、その質問に答える。

「・・・・覚えてるかな。君が、初めて泣いた日の事」

「う・・・あの時か」

「君が大事にしていた犬が死んで、わんわんと泣いていたよね」

「ううー、恥ずかしいな・・・」

白鳥は顔を赤くして顔をうずめる。

「その時、からかな。僕が君を絶対に幸せにするって言ったの」

「え・・・」

「僕さ、君のように強くないけどさ。せめて、君が不自由しないように頑張る事は出来る。だから、その為の土台を作る為に、今こうして店を開いてるんだ」

水門は振り返る。

「全部、君の為だよ。君が好きだから、僕はこうして、頑張っていられるんだ」

「・・・・うぅ」

その言葉に、白鳥は思わず顔を伏せる。

「お、おま・・・そんな、恥ずかしいこと、いうなよ・・・」

「え!?あ、っと・・・ごめん・・・」

何故か二人して顔を赤くする。

 

 

クチカラサトウガー

 

 

「おいナレーター!!」

最終的に千景の突っ込みがとんできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『背中の傷』

それは知られたくない、彼と彼女の秘密。
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