不道千景は勇者である   作:幻在

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背中の傷

冬、一月。

「「「寒い!!」」」

男子が、そう叫ぶ。

年が明けて、本格的に冬に入って来たこの時期。

早速始まった体育にて、半袖で極寒のグラウンドに投げ出されている男子たちがいた。

「なんでこんな目に!」

「俺たちが一体何をしたんだ!」

「お前らが女子の着替え覗いていたからだろうが!!」

千景の猛烈なツッコミが炸裂する。

事の発端は、もはや恒例と化している『女子の着替え覗き隊』が懲りもせずに女子の着替えを覗き、美森に気付かれ、先に外に出ていた千景をも巻き込んでまとめて制裁され、教師の判断の結果、男子全員半袖+下着無しで低温の外へ投げ出されたのだ。

だから全員震えている。

「くそ、なんで俺までこんなとばっちりを・・・・」

「貴方が男子を止めなかったからでしょう?」

ふと声がしてそちらに視線を向けて見れば、そこには美森を筆頭に冷めた目で男子達を見る女子達の姿があり、唯一友奈だけがおろおろしていた。

「別に見てもいいじゃねーかへるもんじゃねーし!」

ふと男子の一人がそう叫んだ。

その直後に、その男子の額に折り紙で作られた手裏剣がさくっと軽快な音を立てて突き刺さった。

『んな!?』

「それ以上いったら、今度は連帯責任で全員にやりますよ?」

何故だろうか、美森の笑顔が怖い。

『は・・・はい』

「なんでこんな事になるんだよ・・・・ってうおわ!?」

愚痴をこぼした千景に向かって、手裏剣が飛ぶ。

「なんで!?」

「貴方も同罪よ!」

「それはあんまりじゃないから東郷さん・・・・」

と、友奈がそう庇おうとするが・・・・

「甘いわ・・・」

「え?」

「甘いわ!友奈ちゃん!」

「ええ!?」

美森にビシッと指差されてびっくりする友奈。

「貴方は千景君に甘すぎるわ!それじゃあ、千景君がダメ人間になって、勇者部として堕落してしまうわ!」

「えう!?」

「もっと厳しく接しないと!じゃないと千景君の将来が危なくなるわ!」

「ええ!そんなのダメ!」

「でしょう!だからここは心を鬼にして!」

「わ、分かった。よし!結城友奈は鬼になーる!」

といって、ふくれっ面になる友奈。

「・・・・あほらし」

「はうあ!?」

そこで千景の言葉が突き刺さり、ダメージを受ける友奈であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳では始まる授業。授業内容は学校の外を走るマラソン・・・なのだが――――

 

「「「ウォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――!!!!」」」

 

何故か男子全員全力疾走していた。

その理由は、マラソンが始まる前に、体育教諭が言った言葉が原因だった。

 

『ビリから十番目までの奴、罰ゲームな』

 

千景たちの担当をしている体育教諭の罰ゲームは、とにかく洒落にならない。

だから絶対に罰ゲームを受けないように、男子達は抜いて抜かれての大接戦をしているのだ。

後ろの奴らは前の奴らを追い抜かそうと、前の奴らは抜かれまいと、とにかく全力疾走していた。

先頭を走っているのは、陸上部のエースである『鈴木』。

では千景はどこにいるのか。簡単だ。

「どうしてここにいるの千景君?」

「ん?さぼり」

 

女装して女子に紛れているだけ。

 

わざわざこんな事に付き合う気等毛頭ないのだ。

故にこんな事になっているのだが・・・

「バレたら皆に怒られちゃうよ?」

「というか友奈、良く俺だと分かったな」

「え?」

千景は、ただ単純に黒髪ロングのウィッグを被っているだけだ。千景の容姿は比較的女子に近いので、こうしてるとあまりバレないのだ。

以前に、個人で受けた依頼で話を聞く為に女装した事があり、それで大手柄を取った事がある。

この讃州の体操服は基本的に男女同一。ブルマ?ナニソレオイシイノ?

色も統一されているので女装して紛れれば大抵の場合はバレない。

 

何故か友奈は一発で見抜いているが。

 

そしてなぜか無自覚なのだが。

 

「だめだよ千景君、ちゃんと授業受けなきゃ」

「あんな馬鹿共と一緒に走れるかっての」

「先生たちにいっちゃうよー?」

「それじゃあこの間、蕎麦屋に行ってた事をこの場で・・」

「ごめんなさい言いません」

「よろしい」

「でも庇わないからね」

「それでも良し」

今現在女子も男子同様マラソン・・・・というよりは、グラウンドをただただ走るだけの持久走をしているだけだった。

その女子だらけの輪の中に女装して一人紛れる千景。

美森は当然の事ながら走れないので、見学だ。

ただ、友奈は千景と並走して走るなか、気になる事があった。

 

千景が頑なに背中だけは隠そうとする。

 

プールの時は教師に言われても頑なにラッシュガードを取ろうとはせず、夏服になれば、なぜか黒い下着を着て汗で透けない様にする。以前水を被った事があったが、それでも誰にも見られないように着替えていた。この体育の着替えの時も、誰かに気付かれる前に着替えをすませていた。

(気になるなぁ・・・・)

ボーっとしながら、そう思ってしまう友奈。

そのまま時間は過ぎていき、男子たちがマラソンから戻ってくる。相も変わらず大接戦が繰り広げられているが、どうにも数が合わない。

「ありゃ全力で走り過ぎて途中でくたばったな」

「あはは・・・」

もはや笑うしかない。

「それじゃ、俺はこれで」

「あ、うん」

男子勢が女子を追い抜かす瞬間、千景は紛れるのと同時にウィッグを外して見事気付かれる事なく男子勢に紛れる。

ウィッグはどういう訳か千景の服の中に入り、外からみてもそこにまさかウィッグがあるなんて誰も思わないだろう。

凄まじい収納術である。

「すごいなぁ・・・」

「あと二分ー!」

美森の声が響く。その間に、千景は男子勢に紛れてゴール。

全ては千景の計算通りにすすんだのだ。

その事に内心苦笑しながらも、友奈は残り二分を走り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の空は、曇り空。

今にも雨が降りそうな天気だ。

そう、雨が降りそうだ――――

「――――って思ってたら本当に雨が降って来たよ!」

「うわわわわわ!?」

偶然にも一緒に帰っていた千景と友奈。

美森は病院の検査の為に入院しており、風とは先ほど別れたばかりだ。

それで下校路を歩いていたのだが、もののまさかと雨が降ってきて、今、千景と友奈は全力で走っていた。

「ど、どこかで雨宿りしないと・・・」

「俺の家が近い!来い!」

「う、うん!」

千景に従い、千景の家に転がり込む友奈。

「ハア・・・ハア・・・くそ、災難だな」

「ふう・・・ふう・・・そうだね」

二人ともびしょ濡れ。

雨に濡れた制服は重く、水が滴り、体温が低下する。

さらに、今は冬。気温がとても低いのだ。

「タオル持ってくるから待ってろ」

「あ、うん・・・」

成り行きで来てしまった千景の家。

今まで何度も来ていた筈だが、どうにも今は気まずい。

「ほら」

「あ、ありがとう」

千景から受け取ったタオルで体を拭く友奈。

「今から風呂沸かすから、それとシャワー浴びとけ」

「あ、千景君先に浴びていいよ?」

「何言ってんだお前は・・・ここは俺の家だ。だから俺がルールだ」

「うわあ何その支配者発言・・・」

「というかこういうやりとりしてないでさっさと風呂入ってこい」

それだけ言って千景はすでに制服を抜いだ黒Tシャツ姿となってリビングへ歩いていった。

 

 

「・・・ふぅ」

ちゃぷん、とお湯の張られた風呂に浸かる友奈。

「千景くん家のお風呂、初めて入ったなぁ」

疲れがとれて熱が戻ってくる感覚を覚えながら、友奈は、大きく伸びをする。

天井を見上げて、友奈は、一人ごちる。

「・・・千景君」

誰に言うでもなく、そう呟いた。

 

 

 

 

 

「・・・」

一方の千景は着替えてテレビを見ていた。キリっと。

「今夜ずっと降り続けるのか・・・」

天気予報を見て、頭を抱える千景。

「友奈の親に来てもらうか・・・いやさっき帰り遅くなるとかなんとか言ってたな・・・それじゃあ友奈はここに止まる事になるのか・・・ぐっ!?」

突然、背中に焼けるような痛みが滲みあがってくる。

「くそ、またか・・・」

千景は、耐えるように、歯を食い縛る。

そこへ。

「千景君、上がったよ」

「ッ!?」

友奈が風呂場から出てきた。

「えっとね、このシャツ、ちょっと大きすぎるかなとも思うんだけど・・・」

見ればそこには千景が希に切るワイシャツを上半身にのみ着ている友奈の姿があった。

見た所、下着も来ているのはパンツだけで、ブラはつけていない様子。

「なんッ・・・ちょッ、おまっ、ズボンはどうした!?」

「あ、えっと、サイズ合わなくて、着れなかったんだ・・・」

確かに友奈の来ているワイシャツは大きくて、友奈の腰まで覆い、袖は指がどうにか出ている程度。その姿だけでも煽情的な上に、本人の容姿が類稀なる可愛さを誇っているためにその破壊力はすさまじい。

さらに仕草も相まって千景の理性(HP)はかなりまずい事になっている。

「そ、そうか・・・・じゃあ、ちょっと待ってろ。ついでに、親にも連絡しとけ。心配かけさせちゃいけないからな」

「う、うん。分かった」

そのまますれ違う千景と友奈。

ふとそこで、千景はどうにも歩きにくい事に気付く。

その原因は主に下半身から。なにか嫌な予感がしてゆっくりと見下ろしてみると―――

「・・・・oh」

思わず、そんな声が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(すごかったなすごかったなすごかったな・・・・って何考えてるの私!?)

自分がとんでもない事を考えてる事を自覚しつつ、友奈は親に電話をかけていた。

今日は帰りが遅くなるといっていた。だから、携帯に直接電話をかけなければならない。

「・・・もしもし、お母さん?」

『あら友奈、どうしたの?』

「実は、今日雨降っちゃってね。それで今、友達の家に泊まってるんだ」

『あら、そうなのね。大丈夫かしら・・・』

「うん、大丈夫だよ」

『ご飯はどうするの?』

「作ってくれるから大丈夫だよ」

『なら安心ね。・・・あ、そうだ、友奈』

「なに、お母さん?」

『その友達って・・・男の子よね?』

「・・・・」

沈黙。後に。

「ソ、ソンナコトナイヨー」

『ふふ、誤魔化さなくてもいいわ。この間、家の前まで来てたあの男の子でしょ?』

「ふえ!?み、見てたの!?」

『実は買い物してる時に会ってねー。とても誠実そうな子で、貴方にぴったりなんじゃないかしら?』

「ど、どういう意味なの・・・?」

『そりゃ未来のだん―――』

「アーアー聞こえない聞こてない聞いてなーい!!」

『ふふ、かーわいー』

「こ、これ以上の話し合いは無駄のようだね!お父さんによろしくいっといて!」

『ああ!ごめんごめん悪かったわ。だからまだ切らないで?』

「・・・何?」

『せめて間違いは起こさないようにね』

「それ、千景君にいうべきなんじゃ・・・」

『あら、千景君っていうのね?』

「―――ッ!!!」

容赦なく通話終了ボタンを押す友奈。

「ハー、ハー・・・もう、お母さんのばか」

火照る体を必死に鎮めるように、そう一人呟いた。

「・・・・あ」

そこで気付く。

これじゃあ、ここに泊まるような言い回しになってしまった。

だが、もう一度電話をかけようにもあの母がまたからかってこないとは限らない。

あのからかい上手のあの人の事だ。きっと隅々までいじくってくる筈だ。

「・・・・まあ、いっか」

もう、泊まる事にしよう。その旨を伝える為に、友奈は洗面所へ行く。

「千景くーん、さっきお母さんと話して泊まる事にしたからー」

そう言って、洗面所のスライド式のドアを開けた。

普通、誰かが入っているのを分かっているのに、ドアを開ける事は、本来ならありえない事だ。

しかし、友奈はさきほど母親にからかわれてしまい、そんな思考はどこかに行ってしまっていたのだ。

だから、見てしまった。

 

彼の背中にある、大きな火傷を。

 

「――――あ」

まだ、風呂から上がったばかりなのか、体や髪の毛は濡れていて、タオルも取っているために、ほぼ全裸といってもいい。

その体には、以前から分かっていたが、体中傷だらけで、殴られた痕もあれば、何かで切られたような痕もあった。見るからに、異常な程の傷の数々。虐待、または、イジメ。しかし、そんな生半可なもので形容できるようなほど、傷は少なくなかった。

とにかく、惨い。そして、何より、目にとどまったのは――――背中の六割ほどを占める、大きな火傷。

互いに硬直。友奈は、口元に手をあて、千景は、タオルを頭にかぶせたまま、止まっていた。

しかし、やがて千景が苦い顔をして、俯き、一言。

「・・・・リビングで、待っててくれ」

それだけ、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に、暖かいココアが出される。

しかし、互いに無言のまま。

気まずい沈黙が、友奈と千景の間に流れていた。

「・・・え・・っと」

そこで、友奈が、切り出した。

「ごめんね。勝手に、洗面所に入っちゃって・・・・」

千景は、答えず。

それに、友奈は、また、落ち込む様に顔を俯かせる。

「・・・・友奈」

すると、今度は千景が口を開いた。

「この傷は、俺が以前いた高知でつけられた傷だ」

「そ、そうなの・・・?」

「ああ」

千景は、友奈に言った。

両親が犯罪を犯したこと。自分に、小学校にあがる以前の記憶がない事。両親の所業のせいで自分が虐められていた事。そして、背中の火傷を、隠す理由を―――

「結局、俺は同情されたくなかったんだ。そして、気を使われる事が。だから、この傷だけは隠してきたんだ」

千景は、自虐するように、そう語った。

が、そこで友奈の様子が変な事になっている事に気付いた。

「う・・・ふえ・・・」

「なぬ・・・!?」

なんと泣いていた。

「な、なんで泣く!?」

「だ、だって・・・・千景君・・・何も悪くないのに・・・そんな・・そんな、イジメられるなんて・・・間違ってる・・・・間違ってるよぉ・・・・」

両目からボロボロと涙を流し、嗚咽を漏らす友奈。

その様子に何故か慌てだす千景。

「おいおいおい!?わざわざお前が泣く必要なんてないんだぞ!?」

「でも、私・・・そんなにひどかったなんて・・・・思わなかった・・・」

もちろん、友奈だって、千景の耳や手などの傷の事は気付いていた。

それを聞かなかったのも、せめてもの気遣いからだった。

だが、背中の傷だけは、友奈も知らなかった。

そんな様子の友奈に、千景は、なんとも言えない気分になった。

(まさか、俺の為に泣いてくれる奴がいるなんてな・・・)

千景は、思わず友奈の頭を撫でた。

「・・・千景君?」

「もういい。それくらい泣いてくれれば、もう大丈夫だ」

「で、でも・・・」

「お前の場合は笑ってる顔が一番だ。人間、笑ってる時が一番だからな」

「・・・・うん」

友奈は、涙を拭う。

「それに、お前の可愛い顔が台無しだぞ?」

「かわいッ!?」

ぼんッ!という効果音が出てきそうなほどに顔が真っ赤になる友奈。

それに、千景は笑う。

そして友奈は、からかわれた事に気付いて、顔を真っ赤にして怒る。

「も、もう!」

「はは、悪い悪い」

「うう~」

顔を真っ赤にして、膝を抱える友奈。

「・・・・千景君」

「ん?」

「悩んだら相談、だよ?」

まだ赤い顔で、そう言う友奈。

(ほんと、コイツは・・・)

それに、千景は、ふっと笑い。

「ああ」

そう一言だけ、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、火傷の事は、千景と友奈の二人だけの秘密となり、誰にも公言しない事にした。

まだ、心の準備ができていないから。それだけではないのだが、それでも、秘密にすることにした。

 

 

ただ今まで感じていた背中の焼けるような痛みは、いつの間にか、消えていた。

 

 

 

 

 

 

それから時がたって――――

「うう、友奈ちゃん・・・」

「も、もう、東郷さん。そんなに泣かなくても・・・・」

「だってぇ、友奈ちゃんが、こんなに綺麗になって・・・・」

「大袈裟だなぁ」

「そんな事ないわ!今まで一番綺麗よ!ああ、これから、千景君と愛を誓いあってしまうのね・・・」

「えへへ・・・ってちょっと待って東郷さん!?」

「何かしら?友奈ちゃん?」

 

「これ、ただの撮影だよ?」

 

今現在、友奈は、白と桜のウェディングドレスに身を包んでいた。

白い手袋に、ノースリーブのドレス。いくつもの薄い桜色の装飾に純白の生地を使ったそのドレスは、友奈の可愛らしさをさらに引き立てていた。

しかもそれだけでなく、友奈の顔に施された化粧によって友奈の魅力が一層引き立てられているのだ。

「それにしても、中学生の私達に、被写体になって欲しいだなんて、私達も結構に有名になったよね」

「取られるのは、友奈ちゃんと千景君だけだけどね」

「あはは・・・」

友奈は恥ずかしそうに笑う。

ここはとあるドレス店で、宣伝の為に誰か被写体になってほしいと依頼が来たのだ。

中学生にそんな事をさせるなんてどういう事なのかと言いたくなるが、依頼されたからには受けなければならない。

店側は、友奈達の顔を知らないので、出来れば全員で来てほしいと言われており、丁度全員相手いたので全員出来た所、本当なら女子の中から選ぶはずだったものを、千景を見た途端に雷が落ちたのか、千景に新郎役を申し付けたのだ。

結果、千景が新郎、友奈が新婦となって、撮影する事になったのだ。

「千景君と撮影かー・・・嬉しいなぁ・・・」

えへへ、と笑う友奈に、美森も思わず微笑む。

「おーいアンタら、準備できた?」

「あ、風先輩!」

「はい、ばっちりです」

ふと友奈達のいる更衣室に、風が入ってくる。

「どれどれ・・・・え!?天使!?」

と、突然に思わず叫ぶ風。

「――っとぉ、友奈だった。びっくりした。なんかいつもと違うしかなり綺麗だったからどこぞの女神様かと思ったわ」

「位が上がってますよ」

しかしそれは美森も否定しない。

「ええー、そんな事ないですよ」

友奈はもちろん謙遜する。

「あ、そうだ、千景はもう撮影室に行ってるから、行って上げなさい」

「分かりました」

そうして、千景の待つ撮影室に向かえば、そこには、今回撮影を担当してくれるカメラマンと話している千景がいた。

「千景君」

友奈が声をかければ、千景が振り返る。

そして、自分の姿を見られて顔を赤らめる友奈を見て、千景がフリーズする。

「どう・・・かな・・・・?」

「・・・・」

しばし沈黙。だが、以前よりかなりの精神力を持つ千景は、すぐさまその意識を引き戻す。

「うえ!?あ、ああ・・・き、綺麗・・・だ・・・」

一方の千景も、着なれない筈の白いタキシードを着て、黒いダービーネクタイを首に着用していた。

こっちは友奈と違ってあまり化粧はしていないが、それでも新鮮さという点では、友奈は見惚れていた。

「そ、その・・千景君も・・・かっこいい・・・よ・・・」

「そ、そうか・・・」

互いに顔を赤くして、どもる。

その様子に、いの一番にツッコミを入れたのは風だった。

「まだ結婚したての夫婦か!」

「うぇえ!?」

「なぬ!?」

さらに、周囲もなにやらニヤニヤとこちらを見ていた。

その様子から、二人は羞恥のあまり、顔を真っ赤にする。

「まあまあ、そろそろ撮影を始めましょう?」

結局、美森に促されて、撮影をする事になる。

二人並んで、友奈はその手にブーケを持って、千景は友奈の斜め後ろから密着するように立つ。

まだ、カメラの方の準備は出来ておらず、少しの間時間がかかる。

その時、友奈が、千景に声をかけた。

「千景君」

「ん?なんだ?」

「もし、さ、私が結婚するとしたらね。私、このドレスを着て式をあげたいな」

「おいおい・・・それ俺にいうか?」

「えへへ。でも、もし、そうなったら嬉しいな」

無自覚にも、友奈は、そう呟く。

「・・・・その隣に、俺はいるのか」

「ん?何かいった?」

「いや、なんでも」

そこで、カメラマンから声がかかる。

「はい、準備オッケーでーす」

「こっちもいつでもいけます」

「私も大丈夫です」

そう返答を返し、今度は、千景が友奈に話しかける。

「友奈」

「なに?」

「・・・・・これからも、よろしく頼む」

その言葉に、友奈は、驚いたような表情になるが、すぐに顔を綻ばせ、花のような笑顔で返事を返した。

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、いつかの約束。

 

 

 

 

 

 

勇気と希望と願いのバトンは、確かに紡がれていき。

 

 

 

 

大罪と悲願と想いのバトンは、静かに紡がれていき。

 

 

 

 

 

 

 

 

願いは―――今、一人の少年に――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ああ、くっそ。なんでこの状況で思い出すかね」

一人の、白い彼岸花とエーデルワイスを想起させる装束を纏った少年が、そう呟いた。

後ろには、一人の少女。

 

ここは、地上では無い。

 

少年の目の前には、人知を超えた存在がいた。

 

それぞれの四大元素を武器に持つ、四人の神官。

 

黒い顔全体を覆う仮面を被り、黒い浮遊する憎悪の剣を持つ、金髪の女性。

 

巨大な(からだ)に、獣のようにこちらを見据える、男。

 

白いローブを纏った、いかにも弱そうであるものの、並々ならぬオーラを感じさせる、男。

 

全身真っ黒な装束に身を包み、漆黒の槍を持つ、いかにも先ほど述べた奴らより別格な強さを感じさせる、男。

 

 

その背後には、あまりにも大きな存在。

 

 

 

人ではなく、ましてや、()()()()()()()

 

 

 

形容しようにも、それは機械的としか言えず、全身金属のようで、金属なのだろう硬質な肌は、歯車のようなもので動き、それら一つ一つが『秩序』を象徴しているようにも見えた。

顔は無く、頭はあって、腕は二つではなく、無数にあって、足はなくても腰はある。

まさしく曖昧にして、確固たる存在。

人は、その存在を、まさしくこう呼ぶのだろう。

 

 

 

 

『神』と。

 

 

 

 

そんな相手に、少年は、もはや笑う事しか出来ない。

「諦めろ」

ふと、黒い装束の男が話しかける。

「お前達に、もはや()()()()という手段は残されていないぞ」

「さて、それはどうかね。人間諦めなければなんでも出来るんだぜ?」

「はっ」

ふと、炎を司る神官が鼻で笑う。

「バカじゃねーのか?たかが人間如きに、アタシらに勝てると思ってんのか?」

「勝てるとは思ってねーよ。だけど、()()()()()()()()()

少年が立ち上がる。

「ふん、やはり人間は傲慢で愚かしいですね。この状況を覆せるとお思いとは・・・」

氷を司る神官が、冷笑を浮かべて嘲る。

「アハハ、ねえねえ、やっちゃっていい?やっちゃっていい?もう断罪しちゃっていい?」

「少し待ちなさい。我が主の指示を待ちなさい」

風を司る神官が、その見た目に反して子どものようなテンションを見せ、土を司る神官に止められる。

そこで、神が動いた。

『――――人間よ。お前は何故、そうまでして運命に抗う』

その問いに、少年は答える。

「そんなの決まってんだろ。()()()()()()()()()()。お前らが勝手に決めた運命なんざ、くそくらえだ」

その返答に、『神』は明らかに呆れた。

『やはり人間にこのような質問を投げかけても無駄か。この世界の人間は、やはり愚かで醜い。故に、全て粛清する必要がある』

「させねえよ。そんな事」

『人間如き、何が出来る?それも、お前のようなちっぽけな存在に、一体何が出来ると言う?』

「確かに俺一人じゃ何も出来ない。だけどな、俺には仲間がいる」

『お前の事を忘れた者たちを頼ってどうする?』

「関係ないねそんな事」

『なんだと?』

少年の返答に、神は思わず聞き返す。

「例え、忘れてても、あいつらはきっと、戦う事を選ぶさ。ぶつかる事もある、泣く事もある、絶望する事もある。それでも、俺たちは、前を向いてきた。立ち止まる事もあっても、また、歩き出せるんだ。人間は決して弱くない。失敗から学べる、そんな存在だ。だから、俺は諦めない」

少年は、鎌の力を開放する。

『―――愚か』

その直前に、神は、少年の左胸に何かを打ち込んだ。

「ぐッ!?」

「ああ!?」

後ろの少女が叫ぶ。

『実に、愚か。やはり、この世界の人間は傲慢で愚か。故に、滅ぼすべきである』

「だから、そんな事、させねえと言ってんだろうが―――!!」

少年は咆える。

『貴様に、何が出来る?』

また、神が問う。

それに、今度は少年はニヤリと笑って―――

「これだよ―――」

 

その時、少年の周囲に、いくつかの輪が出現する。

 

その中心には、文字が描かれていた。

 

『何を―――』

 

「真解――――」

 

その文字は、『鎖』『解』『罪』『砲』『弾』『刀』『影』そして『滅』

 

 

「――――『滅砲(めつほう)解業罪乃鎖刀之弾影(かいごうつみのくさりがたなのたまかげ)』」

 

 

鎌は形を変えて、一本の刀に。

 

 

少年の装束は、紅くなり、一つの戦装束へ。

 

 

刀と装束は、ある花を想起させるもの。

 

 

刀の名は―――『沈丁花(ジンチョウゲ)

 

『不滅』と『永遠』の花言葉を持つ花。

 

装束の名は―――『天竺葵(ゼラニウム)

 

『君ありて幸福』の花言葉を持つ花。

 

 

少年は、左手に持った刀を振り上げる。

 

 

覚えとけよ(覚えておきなさい)人間は(人間は)必ずお前たちに勝つ(必ず貴方たちに勝つ)

 

 

そう一言呟いた瞬間、少年はその刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて一つの爆発が轟き、宇宙に浮かぶ要塞から、一つの光が、神樹の作った結界の中に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は、まだ終わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

それは、三百年の悲願の物語。

 

人類の悲願の物語。

 

人知れずに死んでいった者たちへの鎮魂歌。

 

終わる事なき戦いに終止符を打つ、命懸けの戦記。

 

 

これは、救われるべき物語。

 

 

一輪の花咲き誇る時、物語はまた始まる。

 

 

 

 

 

これは、時を超えた物語。

 

願いの物語。

 

友情の物語。

 

紡がれる、バトンの物語。

 

 

 

 

たった一輪の花は、悲願の為に咲き誇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不道千景は勇者である―――『始動の章(アーリー)』完

 

 

 

 




次回 不道千景は勇者である 最終章『勇者の章(ブレイブ)

『忘却されし少年』

忘れられた少年は、それでも日常を謳歌する。
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