不道千景は勇者である   作:幻在

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つ・い・に、勇者の章、始動でございます!

長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

この先、更新ペースはおちてしまうかもしれませんが、気長に待ってくれると嬉しいです。

では、本編をどうぞ!


勇者の章《ブレイブ》
忘却されし少年


―――――暗い、世界があった。

 

そこには何もなく、ただ、無限の闇があるだけだった。

 

いや、何もないわけじゃない。

 

鏡が一つ、そこにあった。

 

その鏡を覗けば、ある場所が映された。

 

そこは街で、そこに生きる、まだ幼い少年少女の姿が見て取れた。

 

そこに移る、まだ、十八を超えぬ子供たちは、楽しそうに暮らしていた。

 

しかし、この鏡に映る彼らは、必ず、とある御役目を受けていた。

 

それは、とても辛く、苦しい事で、毎回、誰かが死ぬのが見えた。

 

その姿は勇敢で、凄惨で、死ぬ度に、わたし、というもはや曖昧な存在は、その精神と言っていいのかというものを擦り減らしていく。

 

そして、毎度想う。

 

わたしがしたことは、一体なんだったのか。

 

そして、わたしは今日も、今回も、新たな御役目につくものたちを見た。

 

前は、一人の少女の命が消えた。その前は、二人の少女の命が消えた。

 

今回は、誰が死ぬのだろうか。そう、思っていた。

 

 

しかし、わたし、という存在は、とある存在に釘付けになる。

 

 

彼女と同じ名前の、少年。

 

 

彼女と同じ髪の毛、彼女と同じ瞳、彼女と同じ趣味。

 

 

仕草は、男でも、彼女と同じ。笑い方も、彼女と同じ。

 

 

ただ、違う事は、明るい事。

 

 

そして思う。ああ、彼女も、こんな顔をするのか、という事を―――

 

 

気になって、彼の事が気になって、彼に魅入った。

 

 

死にかけた時には、息がつまりそうになり、戦っている時は、頑張れと応援して、そして、覚悟を見せた彼の表情に、心が締め付けられる。

 

彼女も、あの時の覚悟を決めた時は、こんな表情をしていたのか、と思って。

 

そして、彼が、仲間から忘れられた時――――わたしは、私という存在は――――

 

 

 

 

―――ちょっとだけ、神に反乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬、十一月。

寒さが街を包み込むなか、高知県絡久良市に存在する育児養護施設『百合籠』にて―――

「―――だから、そこはそうじゃない。こうするんだ」

「おお、流石、千景」

「お前が出来なさすぎるんだよアホ」

「あう」

ぱたん、と頭を叩かいたのは、絶賛勉強会中で教師ポジションにいる『不道千景』、叩かれたのはそんな千景に教えられている絶望的な成績を持っている水色に近い黒髪の少女、『水霜冬樹』。

「ふん。その程度出来ないとは・・・」

「お前はその上から目線な言動やめろ」

「お前に言われる筋合いはない」

威圧的な言動が目立つこの少年は、『浅羽海路』。

「そういう君は、理科負けてたよね?千景に」

「ぐ、だまれロリ巨乳」

「な!?言ったなこの伊達眼鏡!」

「やめなさい!」

「ぎゃん!?」

「へぶ!?」

余計な一言を言ったのは中学一年茶髪の『新井白露』。そして白露と海路に鉄拳制裁したのは『桐馬雅』だ。

「おー、怖いねー雅ちゃん」

その様子をコーヒー飲みながら見ているのは、ここの職員の『森谷真武郎』。

「あのー信也さん、ここの文章問題がよくわからないのですが・・・」

「ん?ああ、これか。ここはこうやって式作るんだよ」

「ああ、なるほど」

そして、小学生にしては胸の特定部分が異常に成長した少女『安座間優』と、この中で数学がダントツトップな『磯部信也』がいた。

彼らは、この絡久良市という唯一、()()()()()()()()()()街で、そこを収めている土地神『創代』から御役目を受けている神の使い『救導者』。

この中で、千景を除く七人は『七つの大罪』と呼ばれる救導者であり、千景は彼らより前にやっていたため、代は同じだが、七つの大罪には入っていない。

「順調かな?」

ふと、そこでこの育児養護施設『百合籠』の所長である、『氷室雄二』が人数分のココアを持ってやってくる。

「ココア!」

「ありがとう氷室おじちゃん!」

「お、ありがてー」

「なんで貴方が飲もうとしてんのよ!」

「理不尽!?」

「何してるんだか・・・・」

「そうだな」

「ああ」

「そうですね・・・」

パッと明るくなる冬樹と白露、横から飲もうとする真武郎に蹴りを入れようとする雅。そしてそれに呆れる千景、信也、海路、優の四人。

「どうかね?皆の様子は?」

「まず冬樹がほぼダメ、特に英語と国語が絶望的。白露は数学はいいんだが暗記などを必要とする理科と社会が著しくなく、海路はほぼ問題無し。信也に至っては数学は文句ないんですが、英語がダメ。優に至っては数学が絶望的という始末」

千景のあまりにもきっぱりとした物言いに、誰も何も言えない。

「アハハ・・・やっぱ学年総合一位が言うと誰も文句は言えないわね」

「まあ、コイツはガキの頃から色々万能だったからな」

それに、苦笑する雅と真武郎。

そこへ。

「お邪魔しまーす。皆、やってる?」

「あ、奏さん」

ふと、百合籠に入って来たのは、巫女服にある程度の防寒具を来た少女が入って来た。

高校生であり、救導者のサポートを担っている、創代の巫女である『神代奏』だ。

さらに。

「優、勉強は順調か?」

「お、お母さん!?」

「椿さんまで・・・」

優の母親にして、優の使う御神刀『虚像布』、元の名を『陸鎧布』の元所有者である『安座間椿』も、一緒に入ってきている。

「一応、順調ですよ」

千景が答える。

「それは良かったわ。皆、苦手分野が結構危なかったみたいだったから。それじゃあ御役目にも支障が出るから困るわよ?」

「ぐ・・・」

「そういう貴方はどうなんですか?答案こっそり見ましたけど、冬樹ほどじゃないしても酷かったですよ」

「な!?い、何時の間に・・・って、それを中学生の貴方に言われる筋合いはありません!」

「大学レベルの問題を解ける俺に良く言えるなあんた」

それを言われると、奏は何も言えなくなる。

「まあ、勉強が順調だという事は良かったとして・・・いきなりで悪いが、今日は中断してくれないか?」

「え?なん、で?」

冬樹が首を傾げる。それは他の者達も同様。

「御神刀の手入れが終わったのよ。それと、千景の天鎖刈の錬成もね」

そう言って、綺麗な笑顔で千景を見る奏。

その笑顔に、千景はどういう訳か引きつった笑みを浮かべる。

そして、周囲から突き刺すような視線も感じていた。

「次は、勝手に持ち出して一人で無茶なことしないようにね?」

「は・・・はい・・・」

何故、この様な事になっているのかというと・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、数日前の事。

 

「・・・・ん?」

ふと、千景が自室にて窓の外の星空を見ていた時、とある違和感に見舞われた。

『どうかしたの?』

その直後に、彼のもう一つの人格、というよりも、入り込んだ意識であり、千景の御先祖様の『郡千景』が、話しかけてくる。

「いや、なんでもない」

『そう・・・何か、忘れてる事とかは・・・・』

「忘れてる事?・・・・いや、無かったような・・・」

『そう・・そうよね・・・』

郡が、何か考え込む。

「どしたぐんちゃん?」

『その名前で呼ぶのはやめて。呼んでいいのは高嶋さんだけよ』

「手厳しい事で・・・」

その様なやり取りのあと、千景はまた考える。

(何かを忘れている・・・何をだ・・・?)

しかし、千景はその考えを切り、ベッドに倒れ込む。

今はもう就寝時間。寝なければならない。

横向きになって、目を閉じようとする。

ふと、その視線の先にて、軍艦の事について書かれた辞典のようなものと、そのすぐ横にある、『海軍』という題名の本が視界に映り、そのまま眠りにおちた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――『友奈ちゃんと馴れ馴れしくしないで』

 

 

なんだ・・・

 

 

――――『あ、貴方に言われたくないわ!』

 

 

何か、忘れているような・・・・

 

 

――――『送らなくてもいいのに』

 

 

誰だ・・・

 

 

 

――――『だから、きっと大切なもので、手放しちゃいけないものなの』

 

 

 

お前は・・・

 

 

 

――――『どんな!?どんな所が好きなの!?』

 

 

 

お前の・・・

 

 

 

 

――――『それでもよ。私にとっては、共感が持てる相手がいるだけでも嬉しい事だわ』

 

 

 

 

お前の、名前は・・・

 

 

 

 

 

――――『ありがとう、千景君』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――東郷!!」

跳ね起きる千景。

『やっぱり何か忘れてたわね。うかつだった・・・』

「その口ぶりからしてアンタもか・・・・どういう事だ」

千景は、今起きている事態に混乱を隠せない。

そこで、千景は香川の新聞を広げてみる事にする。

ほとんどの子供や職員が眠っているなか、千景は唯一、起きて新聞を広げていた。

そこには・・・・

「・・・ない」

それは数か月前、とある記者がとった当時五人だけだった勇者部全員の集合写真が載っている記事だ。

しかしそこには、千景は()()()()()()()、勇者部でハイスペックを誇る、東郷美森の姿が無かった。

「どうしてだ・・・」

『貴方はともかく、東郷さんまでもが消えてるなんて・・・・』

 

 

千景が、この写真の中から消えた理由。

それは、『郡千景』の血を引く者に与えられた、『神殺し』の力が原因だった。

その名は、『神奪』。

郡千景の血を引く者、それともう一つ、『一番最初に生まれた子供』にのみ、その力が継承されるその力は、千景の代までずっと受け継がれてきた。

本来、郡の血を引く者は、この高知から出られない。

しかし、当代『神奪』保持者である千景が、何の因果かこの高知を出て、香川へとやってきた。そして、そこで千景は、『神樹』より勇者の御役目を与えられている少女たちと接触してしまったのだ。

彼女たちと共に過ごしていく内に、千景は、知らず知らずのうちに、神でさえも気付かぬうちに、彼女を経由して神樹から力を奪い、その体に、『樹海に入る為の権利』を、その体に刷り込ませてしまった。

その結果、千景はあのはじめの襲撃の日に樹海に入る事が出来、そして、今度は本格的に力を奪って勇者となって、結界外からの襲撃者『バーテックス』と戦った。

しかし、それがいけなかった。

神から力を奪う事。それ即ち、神との敵対行為であり、神の寿命を削っているも同然。故に、彼は神樹を怒らせてしまい、そして、結果としてこの四国から、彼の存在したという事実を消され、また、千景は故郷の地に縛られる事となったのだ。

だから、今、この四国で、彼を覚えているのは、この絡久良市にいる者達だけ。

勇者部も、ましてや大赦までもが、彼の事を覚えていない。

 

 

 

最も、それだけではないのだが。

 

 

 

「だけど、なんで東郷まで消えてるんだ・・・?」

『それが一番の問題ね・・・・』

考える千景と郡。

『・・・ねえ』

「なんだ?」

『あのアプリ、まだあるわよね?』

「ん?ああ、大丈夫だ」

千景は、ポケットからスマホを取り出し、そしてあの勇者に変身する為のアプリ『NARUKO』を起動させる。

『それのマップ機能は・・・』

「だめだな。もう完全に神樹とのリンクが切れてるから、機能の全部使えない」

『そう・・・なら、結界の外にいったらどうかしら?』

「結界の外・・・?」

結界の外。それはおそらく、神樹の作った、『四国大結界』の事だろう。

この四国の外は、全てが焼け野原となっている。

責めてきた神々が、人類再興の可能性を完全に消すために、この結界に守られた四国以外のすべてを破壊した。

今、四国を囲うように出来ている植物性の壁は、神樹が創った、四国を守る為の結界。

神が創った尖兵、『バーテックス』の侵攻を防ぐ為の、大結界。

それが、あの壁。

そして、今映されている空模様は、全て神樹が外の現状を、人々に知られないようにするための幻だ。

『もう、強化は終わっているのでしょう?』

「・・・そうだな」

もはや、千景に出来る事といったらこれしかない。

千景はコートを着て、外に出る。

まだ秋に入ったばかりか、肌寒いものの、コートを着ているのでそれほど気にするほどの事でもない。

百合籠の前の道路に立ち、千景は、手をかざす。

「来い、『天鎖刈』」

瞬間、この街で一番高い山から、光の矢が迸り、その矢が千景の掲げられた手を叩いた。

その光の矢の正体は、一本の脇差。

彼の救導者としての武器『天鎖刈』だ。

その能力は、『鎖』。

鎖の概念を操り、相手を束縛するだけでなく、上限の解放、概念を縛り付けて強化、または弱体化が可能。

御神刀には奥の手である『真解』が存在し、天鎖刈の真解時に解放される文字は『解』。

能力は、通常時では出来ない『自らの限界突破』。

ただし、代償として『突破した限界の分だけ体に制限をかけられる』というものがある。

さらに上限解放として『罪』の文字が存在し、前述の二つの上に、『業火による追加ダメージ』という効果も付与される。

まあ、それが彼の御神刀が『特別性』と言われる由縁でもあるのだが、今の彼の天鎖刈は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

千景は、刃を引き抜き、その力を解放する。

彼の足元に光の輪が出現、その中心には鎖の文字。

それが砕け散ると共に、彼の姿が変わる。

まるで罪人のような装束に身を包み、その体を拘束具のような軽金属装備に身を包む。

『この感覚も、久しぶりね・・・』

「そうか、この時だけは感覚共有してるんだったな」

『ふふ、そうね。鏡見てると思うけど、貴方、本当に真一さんに似てるわ』

「そうか・・・まあ、あんな日記書くぐらいだからなあアンタは」

『ッ!?あ、あの内容は忘れなさい!』

「そりゃ無理だ」

郡の喚き声を無視して千景は飛ぶ。

海岸まで来ると、千景は鎖を伸ばして壁に飛ぶ。

壁に激突するのと同時に、千景は壁を駆け上がり、壁の上に立つ。

そのまま、結界の外へ――――

「毎度思うが・・・・」

『これは酷いわね』

外に出れば、そこは、地獄。

海はなく、大陸は燃えあがり、そこら中には、白いウジ虫のようなものが無数に飛び交っている。

一面、焼け野原、というのも正しくない。

まさしく、煉獄。

人が、足を踏み入れていいのかというほどに、惨いほどに残酷な世界。

これが、世界の真実――――

「・・・・さて、東郷は・・」

千景は、周囲を探す。だが、そこには何もない。

上空を見上げてみるも――――

「・・・・なんだあれ」

丁度、四国の真上。

そこに、巨大な何かがあった。

面積はおおよそ、かつて関東と呼ばれたとされる地方にあったとされる東京ぐらいか。

その巨大な何かが、高知の上に存在しているのだ。

「・・・・」

これにはさすがに絶句せざる得なかった。

だが。

「・・・・行ってみるか」

『そうね』

という、なんとも間の抜けた理由で、二人はその巨大な何か―――上がってみればそれが城だったのだが――――に侵入して、そして、見つけたのだ。

 

 

その城のとある一室に、東郷美森が囚われていたのを。

 

 

美森は、何か、得体のしれない球体のようなものに囚われており、嫌な予感がして警報が鳴るのもお構いなしに破壊。そのまま気絶した彼女を持って、そのまま逃げかえってきたわけなのだが。

その後、千景はこっそり美森を讃州の病院に置いて行き、そのまま絡久良市へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

その後、奏や他の救導者にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果、千景はしばし自身の御神刀である天鎖刈の使用を制限されているのだ。

そんなこんなで神社に向かう為に歩道を歩いている訳だが。

「全く、今の貴方にはちゃんと頼れる仲間がいるんだから、ちゃんと相談しなさいよね」

「いやこの場合まだ俺の天鎖刈以外の御神刀では神樹の結界外での活動は不可能と聞いていたんでついでにいうとバーテックスとの戦い方をしらないこいつらを同伴させるのははっきり言って足手まといになると思ったから単独行動をしたのであって決してあんまり信頼してなかった訳じゃなくてですね・・・」

「言い訳はよろしい。とにかく黙りなさい」

「はい・・・」

有無を言わせぬとはこの事だ。

『厳しいわね』

(いっとくが、怒られてんのはアンタとて同じなんだからな)

『ふふ、そうね』

一方の郡は面白がっている。

「ちっくしょー」

「なに、が?」

「誰に行ってるの千景?」

そのまま、神社につき、その神社にある、『創代の間』に、八本の脇差が一枚の布の上に綺麗に並べられていた。

それぞれ、色違いで。

ふと

『おっせーよ!』

突如、どこからか声が聞こえた。

すると、八本の御神刀の内の一つが飛び上がったかと思うと、それが煙を出して変身。まるでマスコットキャラクターのような蝙蝠のような羽の生えた小さなドラゴンが出てきた。

「う、うるさいな!(うつろ)くん黙ってて!」

それを見た優が慌てて声を張り上げる。

このぬいぐるみみたいなのは、創代が面白半分で作った実験作で、まだ幼かった優の補助として、彼女の御神刀『虚像布』に実装した人格『(うつろ)』だ。

ちなみに名前は優がつけた。

『うっせぇ!こちとら手入れの間はずっと暇だったんだぞ!あとでプリンおごりやがれ!』

「こっちは君が手入れしている間に楽しみの時間を全部使って勉強してたんだからね!」

『何かしてたんじゃねーか!何も出来ねー苦痛をお前に理解できんのか!?ああ!?』

何故か喧嘩に発展している優と虚の会話。

その様子を面白がりながら、奏が残りの御神刀を拾い、それぞれの御神刀を渡す。

信也の『剛蹴脚』、冬樹の『水誠刀』、白露の『虎之威』、雅の『重華扇』、真武郎の『爆撃槍』、海路の『射堕填』、優の『虚像布』、そして、千景の『天鎖刈』。

それぞれがそれぞれの御神刀を受け取る。

「とりあえず、今回の手入れはこれでおしまい。それと、千景君が持ち帰った『勇者の力』を組み込んでおいたから、今度は、結界外での活動が可能になる筈よ」

「それじゃあ・・・」

「ええ、今度は、皆一緒に戦えるわ」

奏のその言葉に、みな、また一段と覚悟を決めた様な表情になる。

それに、千景は苦笑する。

彼らは強い。それは、この街に戻ってまた創代の御役目を再開して、みたから言える事だ。

仲間が増えるのは、心のどこかで安心するものだ。

『仲間って、いいわよね・・・』

(そうだな・・・)

そして、その仲間の大切さを、郡千景の血を引く彼は、よく知っている。

「あと、千景君の『多重文字解放』に耐えられるように強化、調整しておいたから。ただ、今度は丈夫さ重視だから、前よりは扱いづらくなっている筈よ」

「なるほどな・・・試してみてもいいか?」

「構わないわ」

「あ、それなら俺も」

「私、も」

「私もやります!」

「私もやってみてもいいかしら?」

「なんなら俺も」

「あ、私もやります!」

「・・・・チッ」

千景に乗っかって他の救導者たちも手入れされた御神刀の試運転をする。

 

御神刀は、神樹の力とは違い、刀の中に戦う為の装束が武器が収束されている。

そして、その力を使うには、使用者の精神力、こちらの呼び方で『神力(じんりき)』を使わなければならない。

御神刀は、ちょっとやそっとでは絶対に折れないほど丈夫であり、そう簡単に壊れる事は無い。

だが、たびたび能力を使ったり、武器をぶつけ合わせれば、御神刀は摩耗し、その力を十全に引き出せなくなるのだ。

だから、創代様にお願いして定期的に手入れしなければ、十全に力を発揮できず、魔器使いたちに敗北して命を落とす事があるのだ。

だが、手入れするタイミングも考えなければならない。

手入れしている間は御神刀を手放す訳だから、その間に魔器使いたちに襲われる可能性もあるのだ。

だから、タイミングを見計らって、手入れしなければならないのだ。

 

 

 

鎌を持つ。そのまま振り回す。曲芸のように上空へ投げ飛ばしたり、回転させてピザ回しのように振り回したり、挙句の果てには逆立ちして足で回したりする。

「テメェはピエロか!」

そこで信也からツッコミが入る。

が、千景はこの際無視して鎌の具合を確かめる。

「重いな・・・」

「やっぱりそうかしら・・・」

そこへ奏がやってくる。

「まあ、以前より少し重いって程度なので、慣れれば問題ありません」

「そう、じゃあ私、他の人たちのも見て来るわね」

「分かった」

そのまま別の救導者の所へ向かう奏。

そこで千景は、他の救導者の力を見た。

 

信也の御神刀『剛蹴脚』。

『蹴』の文字を持つ御神刀。

その能力は、『蹴』の概念を操る事。

単純に言って、『蹴り』などの攻撃を主体とした、ブーツ型の御神刀だ。

しかし、その能力はすさまじく、空気を蹴って飛ばす遠距離攻撃が可能で、さらに空中を走る事も出来る。さらに、その蹴りは岩盤を砕くほどで、ひとまず喰らえば、ただ怪我するだけではすまないだろう。

 

優の御神刀『虚像布』

『布』の文字を持つ御神刀。

文字通り布の御神刀なのだが、優は先代にして母である椿と同じように腕に巻いて格闘で戦う。

母直伝の空手を使用するも、その体は椿の鋼の体とは違い、もろい。さらに実力は完全に隔絶している。

その為に、椿の使っていた時の記録を御神刀を通して、優にトレースさせ、そして御神刀を使っている間は椿の鋼の体の正体である『化身刀(タケミカヅチ)』を発動させる事が出来るようにしてある。

まさしく虚像、故に虚像布。その御神刀を使っている間は、優は、椿の力を振るう事が出来るのだ。

当然、御神刀本来の使い方も出来る。

 

冬樹の御神刀『水誠刀』。

文献において最強の文字とされる四大元素が一つ『水』の文字を持つ御神刀。

武器としての形は『刀』。剣道を習っている冬樹にとっては扱いやすい武器である。

能力は『水』に由来し、高圧流水による物体の切断。水泡を作り出してそれを使った対象の治療など、用途は幅広い。

が、使用者本人の頭はある意味お釈迦なので、千景やまわりにアドバイスされないとまともに扱えない。

ただ、どういう訳か医療に関する事においてはダントツで、どういう訳か治療に関してはかなり頼れる。

 

雅の御神刀『重華扇』

『重』の文字を持つ扇形の御神刀。

ただ、雅はこの御神刀の能力を『重力』という概念を中心に使用している。

その為、重力を使ったサポートなどを担当している。

まあ、理由としては彼女の発想が仲間を巻き込んだとてつもなく危険なものである為に、戦闘は滅多にしたくないというだけなのだが。

その気になればブラックホールを作り出す事が出来る。

 

真武郎の御神刀『爆撃槍』

『爆』の文字を持つ槍型の御神刀。

そのまま、爆発する槍。爆発を率いた投擲をしてもよし。叩き付けて爆発させるのも良し、投げて着地点を一面更地にするのもよし、とにかく破壊に特化した御神刀。

小さな爆発する玉を作って相手に叩き付ける事も出来る。爆発の規模、方向は自由自在に変えられる。

 

白露の御神刀『虎之威』。

『虎』の文字を持つ変身型の御神刀。

おおよそ虎に関する事ならなんでも出来る。隠密、強襲などなど。

特筆すべきはその速さで、カメラの認識を追い抜く程の速さで動ける。

隠密能力においても、相手にその一切を悟らせない事が出来る。

戦闘面でも爪で相手を切り裂いたり、速さを生かした打撃で相手を叩きのめる事が出来る。

 

海路の御神刀『射堕填』。

『射』の文字を持つ、狙撃銃(スナイパーライフル)型の御神刀。

その能力は()()()()()()()()()()()()事。

視界に映っている、イメージした場所、座標、および空中、壁、床、水面など、さまざまな場所から好きなタイミング、場所から狙撃が出来る。

簡単にいえば任意の場所に『銃口』を設置して、そのから神力の弾丸をぶっ放す事が出来る。

ただし、弾道変化は出来ない。『銃口』を重ねて威力を底上げする事は出来る。

 

 

 

この様に、それぞれがそれぞれの御神刀を使いこなしている。

その様子を、千景は微笑まし気に見つつ、自らの鍛錬に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絡久良市近隣の森にて。

一匹の猿が、枝から枝へ飛んでいた。

 

が、

 

ここに猿がいるというのも既に一つの問題なのだが、重要な問題はそこではない。

 

毛皮が緑色なのだ。

 

しかもそのサイズも可笑しく、まるでぬいぐるみのマスコットキャラクターのように小さいのだ。

しかも、群れる事を習性とする猿が、何故こんなところを一匹、堂々と動き回っているのか。

ふと、その猿がとある枝に飛び乗ったところで止まり、振り返る。

そこには、浮遊する二匹の何か。

片や、白い着物を来た人形のように綺麗なぬいぐるみ・・・のようなもの。

片や、車輪の中心が燃えている妖怪のぬいぐるみ・・・いや、実際燃えてる。

そんな、普通じゃ驚いて一目散に逃げる様な存在を前にしても、緑色の猿は逃げるどころかまじまじと見ていた。

と、何故か白い着物を来た人形のようなものがなぜか疲れている表情をしていた。

猿は、何故そんな疲れているのか分からないようで首を傾げていた。

が、それにどういう訳か人形はお前が速いという事を伝えるかのような素振りを見せる。

それに対して猿はそうか?という感じで首を傾げた。

それに車輪は、その炎の中にある目でジトっと睨み付ける。

しかしその視線に猿はやれやれと小馬鹿にしたような素振りを見せ、それにキレた様子の車輪は、そのまま猿に襲い掛かる。当然、猿は逃げる。

その様子に人形はおろおろと慌てだす。

ふと、人形は、ある方向に顔を向けた。

そして、とある山の頂上で、光の線が迸るのが見えた。

それを見た人形は、鬼ごっこをしている二匹をほっぽって、そちらに向かった。

まるで、導かれるように――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言って、この三匹の存在は、千景のこれからの運命を左右するに至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――すっげぇ」

『ソレ』を見た信也の開口一番の言葉がそれだった。

「・・・・うん」

そして、『ソレ』を放った千景は、その手にある()()の様子を確かめつつ、満足気に頷く。

「上手く出来たわね、『文字連鎖(イディオムチェイン)』」

奏が、その様子を遠目で見ながらその完成度に感嘆を漏らす。

 

文字連鎖(イディオムチェイン)

それは、千景の天鎖刈に与えられた、新たな力。

その概要は、『真解』状態での二文字同時使用時の文字を変える事。

 

ここで新たに説明すると、第一の文字、天鎖刈の場合は『鎖』であるが、この第一の文字は武器の形に直結している。

 

当初、変換するのは、能力を追加する『第二の文字』を変換するだけにとどめる筈だったのだが、千景の血筋が血筋で、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()ものだから、その為の文字全て使えるのだ。

おさらいするが、御神刀の継承は血統に完全依存する。

そうして、三つの御神刀を結合させた、この『真・天鎖刈』は、三百年前の救導者、『久我真一』の『連双砲(れんそうほう)』と、『笹木野(ささきの)(あきら)』の『無形刀(むぎょうとう)』を扱える。即ち――――

 

文字連鎖(イディオムチェイン)』は、御神刀の形そのものを変えるまでに至ってしまったのだ。

 

 

現在、千景が使える武器の形は三つ。

 

一つ目は天鎖刈の鎖を操る『鎌』。

 

二つ目は連双砲の弾切れも弾詰まりも起こさない『二丁拳銃』。

 

三つ目は深影刀の変幻自在の『刀』。

 

それぞれの文字がそれぞれの形の原点となっているため、その為に、変換するごとに形を変化させてしまうのだ。

 

そして、今現在、彼が使った組み合わせは、『砲』と『解』を組み合わせて、一発の限界を解放した一撃を放たせたのだ。

 

「ぐッ!?」

千景が苦悶に顔を歪める。

真解の一つである『解』は、その解放の代償として、解放した分だけ、体に一時的な制限をかけるのだ。

その際に痛みを生じる為、事実『解』の解放は他の御神刀の真解より危険を伴うのだ。

「それに他の文字も使えばその分の代償も重なるから、考えものね・・・」

「そうですねぇ・・・」

最も、今の千景にとっては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「皆、そろそろ終わりにしましょう」

奏が手を叩いて、そう全員にいう。

それに、皆が頷き、御神刀を解除して、階段を降りて街に出る。

「まだ自動反撃(オートカウンター)が上手くできないなぁ・・・」

「あれは脊髄反射から促すものだ。徐々に習得していくといい」

『けっ、椿ならあんな攻撃、しっかり踏ん張ってたぜ。なんだよあの様は』

「う、うるさいな!」

優は、椿の体術の特性の一つである『自動反撃(オートカウンター)』について頭を悩ませ、椿が助言をし、虚が鼻で笑う。

「今日も一発も当てれんかった・・・」

「ふっふっふ、速さでは一番だからね!私!」

「白露は、調子、乗り過ぎ」

「う、うるさいな!」

ボロボロな状態でつぶやく信也に、自慢するように胸を張る白露と、そんな白露を冬樹はジト目で見ていた。

「設置の方法はあれでいいとして問題は他の奴らのタイミングにあわせなければならない所だだが最近の奴は俺の攻撃について情報を得てきているためにそのタイミングをうまくつかませなければならないうまく信也や白露を使い敵を誘き出しここぞというタイミングで・・・・」

「海路は相変わらずね」

「まあ、あんなこと言ってるが、俺達の事を一番考えてるのは海路だからな」

何やらブツブツと呟いている海路を、雅と真武郎は苦笑いで見ていた。

「変わらないな。皆」

「ふふ、そうね」

寒い中、千景と奏は、そう言い合う。

「二年前までは、こうして大勢で歩く事なんて出来なかったわね」

「そうですね」

「向こうでは、こんなに賑やかだった?」

奏が、千景の方を向いて、そう聞いてくる。

それを聞いた千景は、空を見上げて、ふと思う。

(・・・あいつら、何してるかな)

目を閉じて、あの家庭科準備室を思い出す。

そこに、食いしん坊な部長、ハイスペックな大和撫子、頼りない歌姫、ツンデレな剣士や、頼れる番長、心優しき優男、そして、元気溌剌な少女が、楽しくミーティングしているのを、瞼の裏で見る。

しかし、その中に、自分はいない。

そう、()()()()()()()

だけど、自分は、確かに、そこにいた。

「ええ」

そして、千景は答える。

「楽しかったです」

千景は笑って答える。

「そう」

それに、奏は、安心したように微笑む。

「ん、なんだろあれ」

ふと、白露が立ち止まって、目の前のやや上を見た。

それに、他の者達も立ち止まる。

「ん?どうした白露?」

「白露ちゃん?」

「見えませんか?あれ」

白露が指差す先、そこに、確かに何か浮かんでいた。

というか、動いていた。

全身真っ白い、人形のような何かが、飛んできていた。

「本当ですね」

「なんなんだあれ?」

「ブツブツブツ・・・・」

「って、アンタは気付きなさいよ!」

皆、その浮遊物体に注目する。

「なんだろう、あれ」

「さあ・・・・ん?」

思わず千景も首を傾げかけたが、ふとあのぬいぐるみのようなものに既視感を感じた。

いや、感じたのではない。実際にあれは見た事がある。

(あれはまさか・・・)

いや、しかし、ありえない。

ここは神樹に支配されていない土地。そして、神樹が絶対に干渉しない街。

それなのに、何故、『アレ』がここにいる。

そう、あれの総称は―――

「―――精霊!?」

その名前を叫ぶのと同時に、浮遊する白い人形のようなものは、一直線に千景たちの方へ飛んできていた。

「あ、こっち、来る」

そう、ぼやく冬樹。

だが、物凄い速さで飛んでくるそれに、何か良からぬ者を感じ取った一同が身構える。

だが、その人形は、冬樹たちを無視し、そのまま真っ直ぐ――――千景の胸に飛び込んだ。

「な―――ッ!?」

そして、その人形は――――千景の体の中に入った。

 

一瞬、視界が揺れる。

 

情報が頭の中に入ってくる。何か、水面に叩きつけられたかのような感覚に叩き落される。

体が重い。ドロドロな液体の中にいるような、そんな、重い感覚。

これは一体なんだ?何がおきて―――

「ち、千景・・・?」

白露が呼ぶ声に、千景は、途端に視界がクリアになるのを感じた。

「・・・・あれ?」

「だ、大丈夫か!?」

信也が慌ててそう聞いてくる。

「あ、ああ、別に、気持ち悪いとかそんな事はないんだが・・・」

「ええっと、それじゃあ・・・貴方、髪の毛の事、気付いてる?」

「へ?髪の毛?」

そうして、千景は自分の髪の毛を一房掴まえて自分の目の前に持ってくる。

「・・・・は?」

そして、そんな間抜けな声を出した。

 

()()()()。真っ白いのだ。

 

まるで雪のように真っ白なのだ。

「な、なんだこれ・・・・!?」

それに、狼狽する千景。

真っ白なのだ。

千景の髪も、肌も、爪も、何もかもが、真っ白なのだ。

『な、なんで・・・・』

そして、郡の、狼狽する声が聞こえた。

「ご先祖様・・・・?」

『どうして・・・貴方が・・・ここに・・・!?』

そして、千景も、その声を聞いて、悟った。

 

『―――やっと、会えました』

 

「・・・マジかよ」

その人物を、千景は、否、郡千景は、良く知っていた。

 

 

『―――伊予島さん・・・!?』

 

『やっと会えました!千景さん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は、また、香川(せんじょう)へ。

 




次回『再開、そして、出立』

その再会は、はたして、幸か不幸か。


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