不道千景は勇者である 作:幻在
「・・・・それで?」
千景は、目の前の机の上にいる三匹の精霊をじろりと睨みつけ、一言。
「なんで貴方達がここにいるんですか?伊予島さん、土居さん、白鳥さん」
その問いに対して、彼らは―――
『今四国に危機が迫っているんです』
『だからお前を呼びに来たんだよ』
『貴方の力が今こそ必要なのよ』
そう答えた。というか、この三匹は全員女性である。正確には、精霊の中身の精神が、だが。
「えーっと、こいつらなんて言ってるんだ?」
「可愛いですね」
「もふもふ、かな・・・」
「この炎、本物なのかな・・・?」
「下手に触らないようにね。火傷するかもしれないから」
「どういう仕組みなんだこれ?」
「知らん。興味ない」
「その割には、メモとってるよな、海路」
「まあまあ、いいじゃないですか」
一方で、千景を除く救導者たちは、この三匹の事について興味津々だった。
ここは育児養護施設『百合籠』。その一室の応接室であり、そこに、千景、信也、優、冬樹、白露、雅、真武郎、海路、椿、奏の九人と、この三匹の精霊の事について議論を始めようとしていた所だった。
そして、どうして、神樹の使い魔のような存在である精霊が、この神樹の加護のない土地にいるのか。
それは今から数時間ほど前に遡る――――
体中の全てが雪のように白くなった千景。
その原因は、千景は知っている。
「これは・・・雪女郎か」
雪女郎。
それは、雪山にて、登山者を凍死させてしまう、死の象徴として謡われる妖怪の一種だ。
俗に雪女とも呼ばれ、主に自然現象と言われる存在だが、事実上、死を招くのは事実であり、冷気を操り対象を凍らせて凍死させるという能力を持つ。
試しに、すぐ横にあった八百屋にあるリンゴを手に取り意識を集中させてみる。
すると、リンゴが一瞬のうちに氷漬けになり、真っ白になった。
「マジか・・・」
「ち、千景・・・?」
ふと、声がした方向を見ると、そこには驚くような、怖がるような顔で千景を見る信也たちがいた。
「い、今のどうやったんだ?御神刀も発動させてないのに・・・・」
「あー、なんというか・・・うん、少し落ち着いてから離そうか」
千景は、とりあえず彼らにそう言っておく。
ただ、問題なのは、千景自身の精神の方だ。
『ちょっ、伊予島さん!分かった!分かったから離して!お願い!以外と苦しいの!』
『私達はどうせ精神体です!だから苦しいって思うのも気のせいです!』
『た、確かにそうだけど・・・・分かった!分かったから!今まだ見られてないからいいけどこれ子孫に見られたら恥ずかしいから!』
正直に簡潔に言ってうるさい。
(うっせーよ。少し黙っててくれ)
『あ、すみません、千景さんの子孫さん』
(不道千景だ。不道で良い)
『分かりました』
『もう仲良くなってる・・・』
(ていうか、なんでアンタがこんな所に・・・・)
『あ、そうでした!』
そこで、千景の中に現れたもう一つの精神体、『伊予島杏』が思い出したかのように声をあげた。
『不道さん!貴方にすぐに香川に戻ってほしいんです!』
(・・・・どういう意味だ)
表情を険しくして、心の中でそう答える。
『それは・・・』
『ちょっと待って。目の前からまた何か来てない?』
「え」
ふと視線を挙げてみると、信也たちの後ろから、改めて二匹の精霊がやってきていた。
一方は緑毛のサル。もう一方は火のついた車輪。
それらが、こちらに向かって猛スピードで迫ってきていた。
『・・・・まさか』
郡が呟くももう遅い。
「土居さんと白鳥さんかぁぁぁぁあああぁぁあああ!?」
絶叫と共に、千景は吹っ飛んだ。
その結果、今、百合籠にて、彼女らと話し合う事になったのだ。
「一応、創代様からこの子たちと会話できる装置を作ってもらったわ」
そう言って、奏は時代錯誤も良い所な近未来型の円盤のような装置を杏たちの下に置いた。
「ありがとうございます。それと、こいつら俺と同年代、下手すると俺たちより三百は上かもしれん」
「てことはババアか?」
瞬間、サルと車輪のダブルアタックを喰らった信也。
「ぐおおお!?」
「自業、自得」
「何してるの・・・」
そこで、杏が装置の上で声を出してみる。
『あ、あー、聞こえますでしょうか?』
「おおー!」
「本当に聞こえたな」
千景がよく知る杏の声が、精霊、雪女郎から発せられる。
『マイクチェック、ワンツー・・・・よし、私、歌野です!』
『どこのネタだよそれ・・・ああ、そうだった。タマ・・というか私は土居球子って言うんだ。よろしくな』
『改めて、伊予島杏です。よろしくお願いします』
「おお、これはご丁寧に。森谷真武郎だ」
「桐間雅よ」
「磯部信也だ」
「安座間優です」
「水霜冬樹」
「新井白露だよ」
「浅羽海路だ」
「安座間椿、優の母だ」
「神代奏です。よろしくお願いしますね」
互いに自己紹介が済んだ所で。
「それで、俺に香川に戻ってほしいってどういう事なんだ?」
「香川に戻る?どういう事だよ?」
信也が、そう聞いてくる。
『それについては、香川で起こった事を、まず話さなければなりません』
「頼む」
『では。先の大戦。不道さん・・・千景さんが、勇者として最後の戦いをしたあの大決戦から数週間後、当代の勇者たちは次々に回復していきました。重傷者も、神樹様の加護のお陰で、多少の後遺症は残ったものの、生活には問題ないほど回復しました。ただ、結城友奈さんに関しては、腕はまだ完治してませんが・・・』
『だけど、東郷美森が大決戦のきっかけとなった壁を破壊した・・・これは把握してるわよね?』
「ああ、一応な」
『周りはついていけてるかしら?』
「それについては、私が創代様を通して話しています。気にしないで続けて下さい」
『OK。それで、東郷が壁を破壊したお陰で、壁の外の神・・・・異世界の神『マギアルクス』に、壁の中の事を知られてしまった。二百年の抵抗の末に、戦力を知られてしまったって訳。そして、その計画も割れてしまった。だから大赦は、猶予を貰おうと、ある儀式をしようとしたのよ』
「ある、儀式、って、なに、それ・・・?」
『『奉火祭』だよ』
「奉火祭・・・・?」
「奏、何か知ってる?」
雅が奏に聞く。
「えっと、なんて言えばいいのかしら・・・・ようは、キャンプファイアーみたいなものなんだけど、火に貢物をくべて、それで天に送るっている儀式って聞いてるけど」
『その貢物は、巫女です。つまりは―――生贄です』
ダンッ!と、強い音が響いた。
千景だ。
「千景・・・・?」
「・・・・その儀式に東郷が・・・・?」
『指名、だそうです。マギアクルス自らが、生贄を指定してきたんです』
「東郷はそれを受け入れたって言うのか?」
『以前より、罪悪感はあったみたいで・・・』
『それに、言う通りにしないと・・・・他の勇者たちが危ないの』
「危ない・・・・?」
一瞬、目を見合わせた精霊たち、否、初代勇者たち。
『――――以前に、別の人を捧げたら、危うく世界が滅びかけたのよ』
「どういう意味だ?」
『以前にね、指名があったのよ。それで、別の人を捧げたら、私と辰巳が、危うく殺されかけた』
「なっ・・・」
それを聞いて、千景は絶句する。
それは、つまり――――
「三百年前に、やったのか・・・・!?」
『その通りです。そして、その儀式で―――――
―――ひなたさんが、犠牲になりました』
何も言えない、とはこのことだった。
『・・・・嘘』
郡が、そう声を漏らした。
『じゃあ、足柄さんは・・・三百年、ずっと・・・』
その苦しみをずっと抱えて生きていたのか
それを聞いた郡は呆然とし、千景は、力が抜けたかのようにソファに座り込み、項垂れる。
「千景・・・・」
「・・・・すまん、もう大丈夫だ」
幾分か悪くなった顔色のまま、顔をあげる千景。
「続けてくれ」
『では・・・・それで、東郷さんは、その身を、外の炎の海へ投げ出しました。だけど、そこで大赦にとって、神にとっても、大きな誤算が起きたんです』
「・・・俺の救出か」
『はい。貴方は、神樹様の記憶操作をいち早く破り、そして、ほんの数時間で東郷さんを助け出してしまいました』
「それじゃあ、千景の行動が、結果的に良い方向に行ったって訳ね」
雅が、そう推測するも、それに首を振る杏。
『そう簡単な話じゃないんです』
『ようは取り返しに来そうなんだよ』
球子の言葉で、納得がいった千景。
「つまり・・・あいつらがまた東郷を取り戻しに来るから、俺を讃州に呼び戻して、守ってやって欲しいと・・・」
「だけどよ。あいつ等だってその勇者の力って奴持ってんだろ?大丈夫なんじゃないのか?」
『今、その為の端末を持っていないんです。貴方たちの刀と同じようなものです』
つまりは、今の勇者部は、完全に無防備だという事だというのか・・・・
「一応聞くが、大赦はこの事把握してるのか?」
『してない』
予想外の返しに思わず黙ってしまう千景。
『これは、若葉がその事を感知して、タマたちに千景に伝えるように言ってきたんだよ』
「乃木さんが!?」
思わず身を乗り出す千景。
『若葉はね、三百年前の十天将との戦いで、勇者の力を失ったわ。だけど、魔王の力だけは失わなかった。だから若葉は、自分の魂を刀に転写したのよ。そして、三百年間、ずっとその刀の中で、一人生きていた』
「乃木さんが・・・・」
千景はもう一度呟き、やがて力抜けてソファにまた座り込む。
『でも、三百年間ずっと一人でいたから自分が何者か忘れちゃったみたいでして。もう自我はほとんど残っていないんです。というか、あれはある意味一種の地縛霊ですね』
「その乃木さんが教えてくれたんだろう。だったら、信じる価値は十分にあるさ」
『そうですか・・・では・・・・』
「ああ、いく――――」
「待って!」
ふと、そこで突然の制止の声。
「・・・・また、千景に、つらい、思い、を、させるの?」
冬樹が、彼女たちを睨み付けてそう言った。
『それは・・・・』
「千景の、事、は、皆、忘れ、てる。それは、きっと、千景、に、とって、とっても、苦しい、こと・・・・それなのに、貴方、たち、は、そんな千景を、また・・・」
それは、千景を思うが故の怒り。
「・・・・私も、千景さんが讃州に行くのは反対です」
さらに、優までが反対し始める。
「だって、千景さんが行く必要なんてないじゃないですか。貴方たちが、神樹様に報告して、それで対処させればいいだけの話。それなのに、何故、千景さんに助けを求めるんですか?どこにも、千景さんに助けを求める必要なんてありませんじゃないですか」
『そ、それは・・・』
「私、正直に言って貴方たちが信用できません。貴方たちが、神樹が差し向けた刺客だという事もありえます。それで隙をついて、千景さんを抹殺しようとしているって事も考えられるんです。悪いですが、他の当たって下さい」
『・・・・』
杏の反論に耳を貸さず、そう突き放す優。
他の者たちも、同様だった。
千景は、向こうで精一杯頑張っていた。それなのに、神や大赦の都合で、仲間たちから記憶を消されて、その上、その地から出る事を禁止された。
そんな仕打ちを与えておいて、今更助けを求めてくるなんて、甚だしいにも、程がある。
だから、彼らは、千景の讃州への救援は認めない。
「・・・・それでも」
だけど、千景は、そんな彼らの想いを無視してでも、助けに行きたかった。
「俺は行くよ」
『不道さん・・・』
その言葉に、真っ先に反論したのは優だった。
「どうしてですか!?貴方が行く必要なんてどこにも・・・」
「あるんだよ。理由も必要もある」
千景の即答に、思わず動揺する優。
「ど、どこに・・・!?」
「俺が、仲間を助けたいって思ってるから。そして、
千景の一族は罪の一族。初代の名を受け継いでいる千景だからこそ、彼は、行く事を選んだのだ。
「罠だろうとかまわないし、この人たちが言ってる事は嘘なんかじゃないさ。刺客でもなんでもない。十分に、信じられる」
「どうして・・・そう・・・・」
それでも納得がいかないかのように、優は言いつのろうとするが。
「俺が、この人たちを信じたいと思ってるからだ」
千景の言葉に、曇りは無く、それが、優の心を締め付ける。
「・・・・勝手にしてください」
その言葉をかわぎりに、優は駆け足でその部屋を出て行った。その時、彼女の顔から、煌く何かが零れるのを、千景たちは見逃さない。
その様子を、その場にいた者達は、ただ黙って見ていた。
「ごめん椿さん」
「いや、優には、私からフォローを入れておくよ」
そう言って、椿は百合籠を出ていく。
あの後、千景の意思が固い事を示して、解散という事になった。
皆、不満がっていたが、そもそも千景を説得できるはずもなく、諦め気味だった。
施設内に戻り、千景はいつも通りの事をする。
夕飯づくりに洗濯、そして、自室でしばしの休学届け。
中学にそのような機能があるとは思っていないが、とりあえず書いておこうと思ったのだ。
『ごめんなさい』
ふと、そんな声が聞こえ、振り向けば、そこには日本人形姿の杏がいた。
「別に、気にしてないよ」
『ですが、あの子を泣かせるような事をしてしまいました・・・・・』
しばし考えて、千景は、杏の額にデコピンを叩き込んだ。
『痛い!?』
「アンタは別に何も悪くねーよ。というか泣かせたの俺だし。それに――――」
突然、千景の表情が変わる。
それはまるで、母のような慈愛に満ちた表情だった。
「―――伊予島さんが、気弱で優しい性格だって事を、
その口調に、杏は一つの納得がいき、やがて嬉しそうに。
『はい、そうですね。
ベランダにて。
信也は、月を見ていた。
「よっす」
ふと声が聞こえて、振り向けばそこには千景いた。
「・・・なんだお前か」
「月を見てるなんて珍しいな」
「・・・別に、なんかもやもやした時はここに来てるだけだ」
素っ気なく答えつつ、また月を眺める信也。
その隣に、千景が立つ。
「・・・・やっぱ行くのか」
「ああ、いくよ、俺」
「・・・どうしても、なのか?」
「まあな」
「・・・・本当に、信じられるのか?」
「まあ、俺がやっちまったっていう所もあるからな。それに、あの人たちが嘘吐くわけ無いし。ていうか、あの人たちも命懸けでここに来てるんだよ」
「・・・・どういう事だ?」
千景の言葉に、思わず食いつく信也。
「精霊ってのは本来、神樹様の監視下にいなくちゃいけない。理由は神樹からの力の供給、ようは、顕現していられるための力を、常に神樹様から供給されなきゃいけないんだよ。その効果範囲は神樹の支配下にある土地だけ。つまり、
「・・・・それじゃああいつら」
「案の定、消える寸前だった。今は俺の神力使ってどうにか現界してる」
千景が手を掲げると、鎖が三本、千景の手に出現する。それは、一定の方向を向いており、それら全てが途中で透明になるかのように消えていた。
「・・・『回路結鎖』」
「今は俺の部屋で休ませてる。当然あの人たちも連れていくつもりだ。早くても明日の早朝。どんな手段使ってでも俺は行くぞ」
あくまで、いく事前提。その決意は、生半可なものじゃない。
その姿に、信也は、ただ、黙って見るだけだった。
「・・・・でだ、お前たちにも一緒に来てもらいたいんだよ」
そこで、千景が、なんかとんでもない事を言い出した。
「・・・・何言ってんだお前?」
「正直、俺一人であいつらとやりあうのは無理。勝てる気しねえし守り抜けられる気がしない。だからお前らに手伝って欲しいんだ」
千景は、自分の左胸に手をあてて。
「・・・もう、
その言葉の真意を、信也は知っている。否、この街の人たち全員が知っている。
しばし沈黙してると、千景がふっと笑って歩き出す。
「ま、無理なら無理でいいさ。とにかく、俺はいくからな」
そう言って、千景はベランダから出ようとする。
「・・・待てよ」
だが、そこで信也から声がかかる。
「・・・誰がいかないっていった?」
「・・・・ありがとな」
振り向いて、嬉しそうに言う千景だった。
一方で、安座間家。
「優、いるか?」
優の部屋の前で、扉をノックする椿。
だが、返事がない。
玄関の靴の有無、僅かな涙の痕、そして、その涙の痕の行き先。
「・・・・優」
優が部屋にいると仮定して、椿は彼女を慰めにかかる。
「お前が、千景が讃州に行くのが反対のは分かる。私だって、千景に、これ以上辛い思いをしてほしくないからな。だけど、それでも、千景は行く事を選んだ。私は、その時、彼に彼の母親の面影を見てしまったんだ。説得になるか、分からないが・・・彼の母親、千歳は、誰よりも仲間を大切にする奴だった。どんな状況に立たされても、アイツは、仲間を見捨てる事はなかった。私も、助けられた者の一人だ。私は、そんな千歳の生き方を、アイツが継いでくれている事に、心のどこかでホッとしているんだ。どんな事になろうとも、仲間を助ける。私は、そんな生き方を出来るアイツを応援したい。もう、アイツを守れる立場にはいないが・・・・それでも、背中を押す事は出来ると思うんだ。アイツが、助けたいって思う者達を助けるという意思を、尊重してやりたいんだ・・・・お前はどうしたい?」
椿が、扉の向こう側にいるであろう、優に語り掛ける。
「千景の手伝いをするか・・・このままうずくまるか・・・または、止めるか。選択肢は三つある。お前が、決めろ」
椿は、それを告げて、扉の前から離れる。
「夕飯時には呼ぶ」
最後にそう言って、椿は一階におりていく。
部屋の中、優は、ベッドにうつ伏せになって、その言葉を聞いていた。
「・・・・」
目尻に涙を浮かべ、やがて、窓の外の月を見た―――――
翌日。
荷物をまとめ、背負う。
「信也たちはともかく、貴方まで来る必要はないんですよ、奏さん」
「私は貴方たちの指導官です。それに、声は離れていても届きますので、創代様からの神託も必要になってくるでしょう?」
駅の前にて、そう言い合う千景と奏。
「ていうか、悪いですね。こういうの作ってもらって」
見ると、千景の服装は、黒一色に染められていた。
ぶかぶかなある意味戦闘服ともいうべきミリタリージャケット&パンツを、千景は身に着けていた。
手袋やインナーに至るまで、全て黒一色だった。
「創代様が創った、ステルス装備よ。結界を通り抜けられるうえに、神樹様の感知を完璧に誤魔化す事が出来るわ。ただし、御神刀を発動させれば、その効果はなくなりますので、気を付けてね」
『すごいなー、創代様って』
車輪姿の球子が、そう感嘆する。
「まあ、創る事に関しては神樹以上だからな、創代様は」
『もしかして、勇者装束も強化できるのかしら?』
「出来るんじゃないか?やった事がないから分からないから」
「おい、勝手に一人で話し合うんじゃねえよ」
そこで信也から突っ込みが入る。
『それにしてもすみません。私たちの為に、このような事をしてくれるなんて・・・』
杏がそう謝罪してくるのには理由がある。
創代の力で、千景の御神刀『天鎖刈』の『
ちなみに、雪女郎である杏は『凍』、輪入道である球子は『焼』、そしてこの中で強力な能力を持ち合わせている歌野は『蛇』と『覚』。合計四つの文字が、千景の『
これで、合計十二文字。
「また千景が強くなったね」
「ていうかこいつに限界はないのか・・・」
白露がうらやみ、真武郎が呆れたような表情をしている。
「ははは・・・・それにしても、お前も来てくれるなんて嬉しいよ、優」
見れば、そこには未だ不満そうな表情の優がいた。
「勘違いしないでください。今だって私は反対してるんですからね」
「はいはい・・・」
「だけど・・・」
優が、顔を赤くして、そっぽを向きつつ答える。
「貴方が心配だから、ついていくんです」
それに微笑し、千景は、リュックを背負う。
「それじゃあ椿さん、いってきます」
千景は、見送りに来た椿にそう告げた。
「ああ。出来れば、勇者部の者達も連れてくると良い。もちろん、全て終わった後で良いがな」
「わかりました」
頷き、彼らは、電車に乗る。
『敵の数は分かりません。しかし、相当な数が攻めてくると思います』
「対して俺達は八人で対処しなくちゃいけないのか・・・・甘くはないな」
「まあ、大丈夫だろ」
横から、信也が自信ありげに言ってくる。
「信也・・・」
「俺達は『救導者』。人を助けてなんぼな役目を担ってる大馬鹿の集団だ。神だろうが化物だろうが、恐れるものなんかねえよ」
「・・・そうだな」
信也の言葉にうなずき、千景は、窓の外を見る。
(待ってろよ・・・友奈)
心の中で、そう呟いた。
香川県讃州市。
その街の片隅にある家にて、赤毛の少女は、今日も起きる。
天井に手を伸ばし、誰かを探すかのように。
「―――まただ」
そして、その言葉と共に、泣いている事に気が付く。
次回『忘却した少女』
少女は忘れた。大切な人の名前を。