不道千景は勇者である   作:幻在

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忘却した少女

結城友奈は勇者部に所属する平凡普通趣味は押し花特技は父親から学んだ格闘技の女子中学生である。

両腕全体に包帯を巻いている事を除けば、どこにでもいる普通の中学生であろう。

しかしその実、彼女は神樹より選ばれた正真正銘の『勇者』であり、その勇者のみで構成された讃州中学『勇者部』の部員でもある。

ただ、神樹の勇者として戦うのは裏の顔であり、表、というかこっちが本来の『勇者部』の活動は、『困っている人を勇んで助ける』というスローガンのもと、ボランティアなどの人助けを目的として部活なのだ。

その有名度はただのボランティア部とは比較にならず、ホームページがあるだけでなく新聞に載るほど、その知名度は高い。

そんな勇者部に所属するのは何も友奈だけではない。

「須美ちゃん、ホームページの方どう?」

「新しいのが来てるわよ。隣町だけど、そこの掃除を手伝ってほしいんだって」

勇者部の部室である家庭準備室に置かれたパソコンの前に座るのが、『東郷美森』。勇者部のホームページなどの広報部門などを任せられており、何よりハイスペック。大体の事が出来てしまう。そんな彼女だが、その実、二年前は大橋の方で勇者として戦い、以前の名前は『鷲尾須美』という名前だったらしい。まあ、勇者部の一部の人間にはその以前の名前で呼ばれている。

そんな彼女に声をかけたのは、美森の恋人にして、彼女と同じ大橋の勇者であった『六道翼』だ。彼は、今年入ってきた転入生であり、その正体は大赦で最も高い発言力を持つ『上里家』直系の分家である『六道家』の次男にして次期当主。そして、一部の暗部を使役する権限も持っている。彼の能力は美森以上で、特に肉体関係の仕事は完璧にこなす。さらに顔の事もあって女子からの人気が凄まじく、さらにその性格から男子にも人気がある。ただ、恋人である美森からは、女子に絡まれるたびに黒い笑顔とともに、嫉妬と独占欲の視線を向けられるために、内心びくびくしている・・・と、思われるだろうがどっこいどっこいで互いに互いを溺愛している・・・・という関係になってる。

ちなみに友奈との関係は考慮している。

「樹、ちょっとそこの針、とってくれるかしら?」

「あ、はい。これですね」

その一方で、裁縫をしているのは、『三好夏凜』。端的に言ってツンデレ。つんけんとした雰囲気を出す少女であるが、その実、勇者としては凄まじい力を発揮する。マンションに一人ぐらしをしており、常にトレーニングは欠かさないために力仕事もこなせる。一見、近寄りがたい雰囲気を出しているが、性格はいたって優しく、だれかのために戦える心優しい少女であ「うっさい!」・・・・一応、彼女もこの勇者部の部員である。

その隣で彼女の手伝いをしているのは『犬吠埼樹』。歌手を夢見る未来のスター。その歌の実力は平凡を凌駕し、ありとあらゆる人の心をつかむ。気弱な性格に見えるだろうが、その実、勇気があり、やるときはやる。やればできる子である。

「銀、ちょいとそっち終わったらこっち抑えんの手伝ってくれ」

「あいよ、今終わりましたよっと」

一方、床で何かを組み立てているのは三ノ輪兄妹である。

兄の『三ノ輪剛』は筋肉質な大きな体をしており、学生陣の中では一番の伸長を誇るほど大きい。それが原因で一時期『剛熊』と呼ばれたことがあるがこれは完全に余談なので無視。この讃州市では、不良の頂点に立つ男であり、その実力は年上の大柄な男を拳一つでノックダウンさせられるほど。そんな教師陣には毛嫌いされそうな彼が、なぜここにいるのか。理由は勇者部の()()()が最大の原因だが、とにかく彼も勇者。だからここにいるのだ。元不良ではあるがこれでも恋人持ち。

そしてそんな彼の妹である『三ノ輪銀』は、翼や美森と同じ、大橋の方で勇者をやっていた。ただ、ある日の境に死んだとされており、そこから二年、大橋の勇者全員の師である『足柄辰巳』の元で活動していた。豪快でガッツな性格であり、他人は放っておけない。ただ、それが祟って一種の『不幸体質』を患っており、道行く人、何かに困っており、彼女自身放っておけないのでついつい手伝ってしまうのだ。それが原因で小学生のころは遅刻の常習犯だった。

一か月前に、他二人とともにこの勇者部に入ってきたのだ。

「おい、風」

「あ、なんですか春信さん」

「春信先生だ。この書類、記入ミスがあるぞ」

「へ?ああ!?本当だ!?」

そして、ある書類を手渡されて狼狽えているのは、この勇者部の部長である『犬吠埼風』だ。樹の姉であり、剛の恋人。女子力を連呼している女子力の亡者であるが、部員の事を誰よりも考えている。ただ、ミスをすることも多く、部活への依頼が急増したりするが、中二病みたいな発言も多く、胃袋が見た目の数倍の許容量を持ってたり、物事をすぐ女子力につなげようとする事以外は、部長として尊敬される存在だ。何気に料理も得意。ただ、これは前述しなかったが、彼女たち姉妹は二年前親を亡くており、料理も、妹である樹を養うために身に着けたスキルである。

そして、そんな彼女に書類を渡したのはこの勇者部の顧問である『三好春信』である。銀とともに入ってきた教師であるが、その正体は銀たちと同じ大橋の勇者であり、銀たちの先代にあたる勇者。その実力は歴代最強と言われており、剣術においては他の追随を許さず、勇者訓練指導官である足柄辰巳をも圧倒する。現在はその辰巳の指示で讃州中学に教師としてやってきて、勇者部顧問として監視と護衛をしている。ただ、勇者部としての活動はしっかりと務めており、主に書類関係の仕事を担当している。

「やっほー、お待たせ~」

「あ、園ちゃん」

そして、今さっきこの部室に入って来たのが、『乃木園子』。大赦スリートップの『乃木家』の御令嬢であり、春信同様、辰巳に直接師事してもらっていた勇者の一人。その実力はすさまじく、ただでさえ天才的で勘が鋭いのに、それに磨きがかかっているのだ。以前、大橋の方で計十五回の満開を行った事で日常生活が送れなくなって、事実上大赦に隔離されていたが、先の大戦の後に神樹に捧げた筈の供物を全て返上され()()()()、今こうして讃州中学勇者部の部員として活動している。

「お、遅いぞ園子」

「ごめんね~ミノさん。ちょっとトラブルにあっちゃって~」

「トラブル?一体何があったんだい園子ちゃん?」

「実は~、水道の水が溢れちゃって~」

「なるほど、妙に廊下の方が騒がしいと思ったら」

「そういう事だったのね・・・」

「・・・・え?何か聞こえたの?」

どうやら廊下の水道から何の拍子か水が溢れ出て、その対応に見舞われていたらしい。

「でもそのっち、その前は確か先生に職員室に書類を届けに行ってたんじゃ・・・・」

「その途中でね~」

「なるほど」

その答えに、美森は納得する。

ふと、春信が園子の頭に手をおいた。

「ん?」

「今は寒い時期だ。水を被らなくてよかったが、風邪は引かない様にな」

「は~い。・・・えへへ」

気長な返事の次に、園子は耐えきれないかのように顔を溶けた飴のように綻ばせて体をうねらせる。

「うお!?園子が溶けた飴みたいな顔になりやがった!?」

「はわわ・・・」

「ふふ、相変わらず春信先生には弱いわね、そのっちは」

「園子をここまでデレさせるなんて・・・一体どんな口説き方したのよ!?」

「何故、俺が責められている?」

そんな皆の生暖かい視線に気づいた園子は、次の瞬間、いつもの雰囲気からは考えられないような表情と慌てようで弁明をしはじめる。

「ち、ちちち違うんよ~!こ、これは、そ、そう!猫!猫と同じだよ!」

「園子ちゃん、言ってること滅茶苦茶だよ?」

「いいのよそのっち。私は応援するから」

「ああ、大橋組の中でアタシだけが遅れてる・・・そろそろアタシも相手探そうかな?」

「だから違うんだって~」

耳まで真っ赤になってそう言い訳しようとする園子だったが、三人の生暖かい目からは逃れられず、全て空を切るだけだった。

「銀を嫁に取る男だと・・・・・清い交際以外認めないぞ!」

「そうよ!銀も立派なアタシの妹(仮)なんだから!変な男とは絶対に交際させないわよ!」

「剛さん、お姉ちゃん・・・」

ただ銀の彼氏探そう宣言に真っ先に食いついたのは剛と風だった。もう既に結婚が確定しているみたい(風はヤケクソ)なので、銀はすでに風の事を『義姉さん』と呼んでいる。

ただ、樹はまだ恥ずかしいのか剛の事は未だ『さん付け』である。が、それも()()()()()なのだが。

「じょ、冗談だって兄貴、義姉さん」

「だから違うんだって~」

「園子、その話は終わったわ・・・」

兄姉の二人をなだめる銀と、恥ずかしさのあまりとうとう部屋の片隅で丸くなる園子と、それに呆れる夏凜。

その光景に、友奈は呆れてしまう。

「もう、皆ったら」

「さて、茶番もここまでにして、今日はここでお開きにしてかめやいくわよー!」

「お!いいっすね義姉さん!」

「行こうぜ行こうぜ!」

「やれやれ、しょうがないわね」

「そう言ってお前も食いたいんだろう?」

「う、うるさい!」

「何食べようか須美ちゃん」

「私はなんでもいいわ。貴方がいてくれるから」

「はわわ・・・二人とも熱い・・・」

「そこー、ナチュラルにいちゃつかない」

「なんだかタガが外れたよねー、二人とも~」

「園ちゃん復活早いね」

「でも本当はいますぐにでも布団にくるまっていたい・・・・」

そんな、みなの反応に、友奈は、いつも通りだと思う。

 

犬吠埼風、犬吠埼樹、三ノ輪剛、三ノ輪銀、乃木園子、六道翼、東郷美森、三好夏凜、三好春信、そして、結城友奈。

 

勇者部部員と顧問、総勢十名。

 

つい最近まで、世界を守る為に、命懸けの戦いをしていた筈なのに、今は、こんなにも笑顔で溢れている。そんな、平和な日常に、自分はいる。

「友奈ちゃん、何してるの?」

「あ、ごめんね、すぐ行くよ」

置いて行かれている事に気付いて、友奈は慌てて部室を出ていく。

そして、これから、いきつけのうどん屋に行くのだ。

その後は、解散して、恋人を持って毎度自分が悲しくなるような色気話を親友から聞かさせる。

そして、家に帰って、シャワーを浴びて、ベッドに入って、寝る。

そんな、いつも通りの日常を送っている。

 

 

 

「それじゃあ、また明日ね、友奈ちゃん」

「うん。おやすみ、東郷さん」

家の前で別れ、友奈は自宅に帰る。

そのままシャワーを浴びて、パジャマに着替え、いざベッドに入って寝ようとした所で、不意にその表情が曇る。

「・・・・」

視線を、ベッドから自分の勉強机の方へ向け、その上にある、一冊のノートを見つめる。

それをしばし見つめてから、友奈は電気を消してベッドに潜る。

「・・・今日も、見るのかな・・・あの夢」

それだけを呟いて、友奈は目を閉じて、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん、んぅ・・?」

目が覚めると、そこは部室だった。

どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。

「ん、起きたか」

「あ・・・」

顔をあげると、そこには、はんだこてを持った一人の少年がいた。

男にしてはさらさらな黒髪に、茶色の目。耳にある傷跡が目立つものの、その顔立ちは良く、健康な人間そのものである。

「あれ・・・私、寝ちゃってた・・・?」

「まあな」

気付けば、自分には毛布が掛けられており、これのお陰で安眠出来ていたようだ。

「ごめんね、これ、かけてもらって」

「今は寒いからな。ちゃんと羽織っておけ」

「はぁい」

ヤニ入りのはんだの匂いが鼻の奥をつく。

少年は、友奈が見ているのを気にせず、目の前にある車のおもちゃの修理をしていた。

「・・・・」

「どうした?そんなにニヤニヤして」

「んー、こうして部室で二人だけっていうのも、なんだか慣れちゃったなーって思って」

「そうだっけか?」

「うん、そうだよ」

少年の問いかけにうなずき、友奈は、少年の手際のよう修理を眺める。

「よし、終わり」

「お疲れ様」

おもちゃを籠に入れ、立ち上がる少年。

「どうする?帰るか?」

「東郷さんがまだ帰って来てないから、もう少しだけここで待ってる」

「そうか」

少年はかばんを持ち、部室を出ようとしてスライドドアに手をかけて立ち止まる。

そして振り返り、友奈に一言。

「それじゃ、明日な。友奈」

「うん、明日ね、――――」

そこで、口が動かなくなる。

 

(―――あれ、この人の名前、なんだっけ?)

 

いつも一緒にいた筈なのに。

いつも一緒に話していたのに。

いつもここにいたのに。

どうして、彼の名前が()()()()()()()()()()

どうして、思い出せないんだろう?どうして、彼の名前が分からないのだろう。

いや、それ以前に、彼は一体誰だ?

勇者部に、彼のような人はいなかった筈。機械の修理を担当するような人間は、()()()()()()()()。誰だ?彼は一体、誰なんだ?

思い出せない。大切な人の名前の筈なのに。

気付けば、周囲の景色は霞み、どんどん真っ白になって消えていく。

「やだ・・・・」

霞む景色の中で、友奈は少年に手を伸ばす。

「盗らないで・・・」

すぐそこにいた筈の少年は、いつの間にか、遠い所に立っていた。

手を伸ばす程、遠のいていく。

「お願い・・・・」

どれほど走っても、どれほど急いでも、どれほど手を伸ばしても、追いつけない。

 

結城友奈には、追いつけない。

 

 

「私から、彼を、奪わないで!」

 

 

 

 

 

 

そして、友奈は朝日差し込む天井に向かって手を伸ばし、目覚めた。

「・・・・・あ」

目尻から流れる冷たい感触を感じて、触れてみれば濡れていて。

そしてまた。

 

 

 

大事な事を忘れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、何か、大切なものを思い出せそうで思い出せない夢を見始めてから、数日。

 

「今日はなんだか調子悪かったね」

「え?」

向かいの席でうどんをすする翼にその様に指摘される友奈。

現在、かめやにて友奈は翼と銀の三人でうどんを食べていた。

「あー、なんか友奈にしてはやけに打たれまくってたよな」

友奈と銀は、女子ソフトボール部の試合服を着ており、いわずもがな、三人は女子ソフトボール部の助っ人をしていたのだ。

「そうかな?」

銀の言葉に首をかしげる友奈。

「まあ、調子悪かったといっても、ただ投球に力が籠っていないかな、て僕が思っただけだけどね」

「そうかぁ?アタシからしたら、かなり力が入ってなかったように見えたけど?」

「銀ちゃんから見たらそうなんだろうね」

「あはは・・・・そっかぁ」

二人の指摘に、友奈は苦笑せざるを得なかった。

力が籠っていなかった。たしかに、そうだったかもしれない。

最近、あの夢を見るようになってから、だんだんと気分が沈んで行っているような気がしているのだ。

「大丈夫だよ。そんなに調子悪いわけじゃないから」

「だと、いいんだけど・・・」

翼は、どうにも煮え切らないような表情だった。

 

 

 

「それじゃあ、また明日ね」

「うん、よく寝るんだよ」

「寝不足にならないようになー」

そうして三人は別れた。去っていく友奈の後ろ姿を見ながら、翼と銀は、互いに顔を見合わせる。

「・・・・やっぱり、須美の言った通りだったな」

「うん。友奈ちゃん、最近元気が明らかになくなって来てる」

いつも元気はつらつな友奈が、最近になって、落ち込んで行っているように見えるのを、美森は見逃していなかった。

その事を、美森は翼に話していた。

だから、今回の部活の助っ人に翼は参加して、友奈の様子を見ていたのだ。

「春信さんも気付いてたみたいだし、こりゃいよいよって感じだな」

「春信さん、観察眼凄いからね」

「たぶん、皆も気付いてだろうな。特に園子なんかもうとっくに気付いてるだろうぜ」

「うん。とりあえず、この話はまた明日って事にしよう」

「おう、それじゃ、また明日な翼」

「銀ちゃんも、帰り気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

春信は、自宅にて目の前の机の上に置かれたノートを眺め、思考を巡らせていた。

 

そのノートには、勇者部全員の健康状態や行動の全てが逐一事細かに書かれていた。

 

顔色から身体の動き、呼吸、眼球の動き、髪の毛の状態、肌、歯、爪、挙句の果てには言動まで。

 

もはややりすぎと言っても過言では無い程に勇者部の健康状態を全て書き記していた。

完璧超人と揶揄されるほどの超人っぷりをみせる春信にしか出来ない芸当だ。

さて、そんな彼がみているのは友奈の健康観察帳。

そこには、友奈のこれまでの言動および行動、体調などが事細やかに書かれている。

「・・・・」

それを見て、春信は、友奈の精神状態が低下の傾向にある事を理解していた。

最初に見た友奈の状態は、いわゆる『正常』。

しかし、それが最近になって徐々に『不安定』になってきているのだ。

まだ友奈の事はそこまで知らないために、確認の為に美森に見せた所、確かにおかしいと言われた(その後、高値でこれを売ってくれとねだられたが)。

それから考えて、やはり結城友奈の精神は何か、悪い方向に傾いてきている。

「早急になんとかしないとな・・・」

しかしどうする?

まだそれほど親交を深めていない自分が言っても、彼女は認めはしないだろう。

ならば親友の東郷美森か?否、彼女は変に暴走しかねない。

ならば部長である犬吠埼風か?否、彼女も下手に最悪な方向で暴走しかねない。

他の部員も、無理だろうか・・・

「・・・」

しばし、考えたすえ、春信は――――

 

 

――――電話を一本、かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日――――

「今日の依頼は簡単だったね、夏凜ちゃん」

「そうね・・・」

依頼を済ませ、帰路につく友奈と夏凜。

笑顔で話しかける友奈に対して、夏凜の表情は、あまり浮かない。

「この後どうしよっか」

やや前を歩く友奈の後ろ姿を見て、夏凜は、手に持つスマホの液晶画面を見た。

画面の電源は切っており、暗いまま。

「・・・・・ねえ、友奈」

「ん?何?」

「行きたい所が、あるんだけど・・・・」

その夏凜の表情は、どこか、覚悟を決めたかのようだった。

 

 

 

そこは、海・・・の、港。

そこで友奈は座り、夏凜は立って、夕焼けに煌めく海を眺めていた。

「この景色を二人で見るのって、初めてだよね」

「そうね。よくあの浜辺でトレーニングしてるけど、こうして二人で見るのは、初めてね」

「翼君といつも見てるの?」

「まあ、そうね。よく、翼様に指導してもらってる時に、よくね」

「いいなぁ。東郷さん羨ましいだろうなぁ」

「流石に東郷は敵に回したくないわね。特に恋愛関係になると。翼様の事になると、アイツかなり可笑しくなるから」

その時の美森の顔を想像すると、思わず身震いしてしまう。

しばしの談笑。

それらをして、夏凜は、昨日の兄の電話を思い出す。

 

『どうにかして結城友奈から原因を聞きだしてほしい』

 

友奈に元気がなくなってきている事には、もう気付いていた。

だが、まだ確証はなく、そんな事ないと言いきられてしまったら、それ以上聞ける気がしなかったのだ。

だが、昨日、突然、兄の春信から電話がかかってきた。

そして、先ほどの事を言われた。

兄が、自分を頼った事は、初めてだった。なんでも出来た兄が、初めて、自分を頼ってくれた。

それが堪らなく嬉しくて、そして、友達の事を大切に思うから、夏凜は、今、ここにいるのだ。

だから――――

「・・・・ねえ、友奈」

「ん?なに?夏凜ちゃん」

夏凜の言葉に、友奈は夏凜の方を見た。

「・・・私達って、友達、よね・・・?」

「そうだよ?」

「だったらさ、その・・・話して、くれない、かしら・・・・?」

「何を?」

「・・・・・何か、隠してるんじゃないの?」

「・・・・」

夏凜のその言葉に、友奈は、答えず、また、海の方を見る。

しばし、気まずい沈黙が、二人の間に流れた。

「・・・・あ、ゆ・・・」

「最近ね、夢を見るんだ」

「え・・・」

突然、話し出す友奈。

「その夢の中ではね、勇者部は夏凜ちゃんたちが来る前のでね。そこに、知らない男の子がいるんだ」

「知らない・・・男・・・」

「彼はね、おもちゃを修理するのが担当で、いつも、すごい速さで沢山のおもちゃを直しちゃうんだ。うん、東郷さんよりも速く。それでね、私は、いつもその彼と話すんだ。部室で、教室で、花壇の前で、帰り道で、彼の家で。彼と話せば話す程、心が軽くなって、嬉しい気持ちになるんだ。でも、思い出せない・・・」

「・・・・」

その時、夏凜は見た。友奈の頬を伝う、夕日に煌めく、涙を。

「思い、出せないの・・・顔も、名前も、声も・・・全部、思い出せないの・・・まるで、誰かに取られちゃったように、思い出せないの・・・・思い出せないの・・・」

友奈は、嗚咽を必死にこらえて、胸に手をあてて、蹲るように身をかがめる。

「ねえ、夏凜ちゃん・・・」

友奈は、涙でくしゃくしゃになった顔を夏凜に向けた。

「私・・・どうすれば良いかな・・・?」

その一言が、止めだった。

「ッ!」

「あ」

夏凜が、友奈を抱きしめる。

「・・・夏凜ちゃん・・?」

「・・・・勇者部五箇条『悩んだら相談』」

「え・・・」

「悩んでるなら、相談すればいいじゃない。困ってるなら、求めればいいじゃない。アンタは一人じゃない。勇者部がいる、皆がいる、東郷もいる、アタシがいる。アンタの悩みを聞いてあげられる人は沢山いる。だから頼りなさい。一人でくよくよ悩まないで、全部ぶちまけなさい。大丈夫、アタシが、いるから」

「か、りん、ちゃん・・・」

「話しましょう。皆、聞いてくれるから」

「うん、うん・・・うわぁぁあああぁああああああん!!!」

耐えきれずに、子供のように泣き出す友奈は、夏凜に抱き着いて、大声をあげて泣いた。

それを、夏凜は、手放さない様に、しっかりと抱きしめた。

 

慟哭が夕焼け空に響いていく――――

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『探して見つけて集まって』

彼らは探す、どこまでも。
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