不道千景は勇者である 作:幻在
「おい千景!」
「なんだ山田」
「今朝のニュース見たか?」
「今朝?」
「昨日、隣町で事故があってな。二、三人が怪我したんだと」
「へ、へえ・・・」
後ろの席の山田からそのような話を吹っ掛けられ、内心ぎくりとなる千景。
それもそうだろう。
その事に心当たりがあるからだ。
昨日、千景は、神樹に選ばれ、勇者となった。
まるで『彼岸花』のように赤い服装となった彼は、人類の敵、バーテックスを倒し、一度は世界を救った。
「アレで終わりなわけがないんだよなぁ・・・・」
放課後となり、部室に向かっていた千景。
ぼやきながらも、今朝みた夢の内容を思い出していた。
親の関係が原因でいじめられる
そんな中に、彼女だけが手を差し伸べてくれた。
まるで、お日様のような人。
そんな彼女になら、
そう、最後の一瞬まで。
夢はそこまで。
簡潔にまとめてみたが、実際はなんとも辛く悲しい思い出なのだろうか。親のいない自分には到底理解できないものだ。
ふと目の前に、ガタイのデカい男子が出てきた。
「ぬあ!?」
完全に上の空だった千景にとっては、完全に不意を突かれる登場。思わず飛び退く。
「おい、なんだその反応は?」
それが相手の気に障ってしまったようだ。
ただ、千景はその相手を知っていた。
「今日は来てたんですね、三ノ輪先輩・・・」
「仕方無くだ。風の奴がうるさくてな」
「納得です」
その男の名前は『
俗に言う不良で、あまり学校に来てはいないらしい。
ただ出席日数はギリギリらしい。
「・・・」
「? どうかしたんですか?」
「いや・・・」
ふと、剛は千景を訝しむ様に見つめており、千景はクビを傾げた。
「・・なあ、一つ聞きてえんだけどよ」
「なんでしょう?」
「お前、変な所に行かなかったか?」
「え・・・?」
思わず更に首を傾げてしまう千景。
「なんか、スゲぇデケェ木の根っこが張り巡らされているような、樹海みてえなところなんだけどよ・・・・」
「え・・・」
今度は絶句。
「いえ・・・知りませんよ。変な事聞くんですね」
しかしどうにか誤魔化す事に成功する。
「そうか。なんか悪いな、風には言っておいてくれ」
「分かりました」
と、去っていく剛。
「・・・・なんでその事を・・・」
千景は、拭えない疑問を持ちながら、去っていく剛の背中を見つめた。
勇者部部室にて。
友奈の頭に、角の生えた牛が乗っかっていた。
「その子なついてるんですね」
「えへへ、『
「牛なのに!?」
「おい友奈」
「何?千景君」
「ビーフジャーキーが好きなのはわかった。だけどなんで俺の頭を喰ってるんだこの糞ビーフは!?」
「へ?・・・あぁああ!?ダメだよ!それ食べちゃだめだよォ!」
いつの間にか友奈の頭を離れ、千景の頭をムッシャムッシャと喰っている牛鬼。
それをどうにか引き離した所で、黒板に何かを書き込んでいた風が振り返る。
「さてと、まずは皆無事でよかったわね」
「その後ろの・・・・もしかして昨日の事について説明してくれるんですか?」
「そ、話しが早くて助かるわ」
風曰く。
バーテックス。
外から来る、人類の天敵。現代兵器は通用せず、全部で十二体いるらしい。
その目的は、神樹を破壊し、人類を滅亡させる事。
以前は追い返すのが精一杯だったらしいが、大赦が、神樹様の力を借りて特定の人物を勇者へと変身させるシステムを作り上げた。それが『勇者システム』。
勇者は、バーテックスに対抗する唯一の手段。
その為、大赦は勇者を全面的にバックアップするらしい。
注意事項として、樹海が何かしらのダメージを受けると、現実にも何かの災いとして影響する事がある。
その為に、千景たち勇者部が頑張らないといけないのだが。
「その面子も、先輩が意図的に集めた面子だったという事なんですよね」
それに対し、風は申し訳なさそうに答える。
「・・・そうだよ。適正値が高い人は分かってたから。神樹様をお祀りしている大赦から指令を受けてきたの。この地区の担当として」
「知らなかった・・・」
「黙っててごめんね」
樹の事に、謝罪する風。
「一応、次はいつ来るんですか?」
「明日かもしれないし、一週間後かもしれない。もしかしたら一か月後かもしれない。だけど、そう遠くはないはずよ」
「そうですか・・・」
千景は背もたれに大きくもたれかかり、天井を仰ぎ見る。
「・・・なんでもっと早く、勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか?」
ふと、美森が、低い声でそう呟いた。
「友奈ちゃんも樹ちゃんも、千景君も死ぬかもしれなかったんですよ」
震える、怒りを込めた声で、そう言う美森。
「・・・ごめん。でも、勇者としての適性が高くても、どのチームが神樹様に選ばれるか、敵がいつ来るのか分からないのよ。むしろ変身しない確率の方がよっぽど高い」
「そっか、同じような勇者候補が・・・いるんですね・・・」
「人類存亡の一大事だからね」
そう、無理に笑おうとする風。
だが、それでも、美森は納得しなかった。
「こんな大事な事、ずっと黙ってたんですか・・・・」
そう言い、美森は出て行ってしまった。
「東郷・・・」
「私、行きます」
友奈がそれを追いかけるように出ていく。
部室には、風と樹、千景だけが残った。
「・・・別に、先輩が全部悪い訳じゃありませんよ」
「でも、アタシ・・・」
「・・・・黙っていたのは思いやりから、でしょう?友奈もそう言ってたじゃないですか」
「・・・・そうね・・でも、謝らなくちゃね」
「それは自分でやってください」
「手伝ってくれるんじゃないの!?」
ショックを受ける風をよそに、千景は懐からゲーム機を取り出す。
「アンタは相変わらずねぇ・・・」
「趣味ですから」
「それが趣味ってアンタはゲーマーか」
「ゲーマーです」
ぬぐっ、と唸る風を他所に、千景はゲームを続ける。
だが、そんな千景を風は先ほどの表情とは一変した様子で千景を見る。
「お姉ちゃん?」
「ん?ああ、なんでもないわよ」
その視線に気づいた樹からどうにか誤魔化す風。
「そう・・・」
「それよりも、どうにか謝る方法を考えなきゃね・・・・」
「あ、そういえば風先輩」
「何?千景」
「男の勇者って珍しいんですか?」
千景がなんとなく問うた。
「んー、別にそういう訳じゃないらしいわよ。私たちの前にも勇者はいたみたいだし、その時のグループにも必ず一人はいたらしいわね。まあ、数は女よりも少なかったらしいわよ」
「へえ・・・・」
あの微かな記憶の中にも、確かに男の勇者はいた。
「一人だけじゃないって事は、俺以外にも勇者候補はいたんですか?」
その時、風の表情が強張るのを見た。
「ん?」
「お姉ちゃん?」
「えっと・・・それは・・・」
何か様子が可笑しい。
その瞬間、千景のイヤホンから音が聞こえなくなった。
「これは・・・・!?」
画面も動かない。
風たちも異変に気が付いたようだ。
「まさか・・・二日連続・・!?」
その風の呟きに答えるように、光が三人を包み込んだ。
次回『皆を守る勇気と世界を殺す者たち』
双方、交わる時、反逆譚は動き出す。
キャラ紹介
三ノ輪剛
所属
讃州中学三年
概要
御察しの通り、三ノ輪銀の兄。
体格が良く、運動神経も良い。
中学生に上がる時に、出稼ぎに出ると言い、家を出る。
しかし銀の死によって、ぐれて一気に学校不登校の不良に成り下がるも、風によって再起するが、それでも不登校生活はやめていない。
ただし勉強は出来る方。
銀同様、他人を放って置けない性格だが、不良生活を送っていたこともあり、勇者部には入っていない。