不道千景は勇者である   作:幻在

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探して見つけて集まって

黒板に、殴り書きされた文字。

それを書いた本人である三好春信は、改めて、黒板の前で座る勇者部一同に向く。

「では、これより、『勇者部のもう一人の部員』についての議論を始める」

その宣言に、一同はうなずく。

「昨日、夏凜の尽力により、結城友奈から、この勇者部に、お前達以外に部員がもう一人いるという事が分かった」

十人、という文字の横に、『+一人』と書き足す。

「その部員は、性別は男、特技は機械修理と料理で、趣味はゲーム。ただし、容姿については朧気。それでいいな?結城」

「はい、間違いありません」

春信の問いにうなずく友奈。

「夢を見始めたのが三週間前だな。最後のバーテックスの襲撃から、おおよそ一ヶ月後だ」

「三週間前・・・」

「・・・あれ?言いましたっけ?そんな事」

思わず聞き返す友奈だったが。

「友奈、兄貴は私達の言動を逐一記録してるし、そこから推理できてもおかしくないわ・・・・」

「あー、ありえる・・・・」

夏凜の呆れた発言に同意する風。

「話を戻すぞ」

だが、春信はそれを否定するでもなく話を進める。

「でだ。結城が夢を見始めるようになったのは、一重にある一件が関わっていると思っている」

「ある一件?春信さん、それは一体・・・・」

翼が聞くと、春信は美森を見た。

その視線に、美森は思い当たる節があるのか表情をこわばらせる。

それによって、他の者たちも気付く。

「・・・・『奉火祭』」

「そうだ。その時はあまり追及しなかったが・・・・東郷、お前、()()()()()()()?」

 

奉火祭。

神樹の四国大結界の外、今は完全に破壊されて火の海へと変貌した世界に、巫女を何人か捧げる事で成立する、生贄を必要とする儀式。

実は三週間前、美森は、勇者と巫女、両方の性質を持つ存在として、その奉火祭に参加、一人火の海へと身を投げ出し、敵の神に願い乞うたのだ。

だが、そこであるイレギュラーが発生。

その数時間後に、どういう訳か美森は病院で保護されたという報告を聞いて、大赦は一時期パニック状態に陥ったのだ。

その際、美森は、『誰かに助けられた』と言っており、大赦では、未だにそれが誰なのかわかっていないのだ。

 

その時、勘の鋭い園子が辰巳に連絡、そしてそのまま勇者部一同に知れ渡った訳だという事だ。

 

「あの時、お前を助けられる存在はいなかった。勇者システムも持たず、炎の世界に足を踏み入れる事など不可能な筈なんだ。だけど、お前を助けた奴がいた。少なくとも俺の『刀』の力じゃ炎の世界に足を踏み入れる事は不可能だ」

「精霊バリアを突き破れるのに何言ってるんだか・・・・」

「ん?」

「な、なんでもないわ・・・・」

春信に一睨みされて黙る夏凜。

ただ、美森はしばし考えて、口を開いた。

「・・・白い、勇者のような装束を着た男だったと覚えてるわ」

「白い装束の男・・・・少なくとも俺たちの誰でもないな」

「紅白、って訳じゃないんだよな?」

「ええ。それに、不思議な武器を使う人で、人より大きい大鎌を振り回してるかと思ったら、いつの間にか二丁の拳銃を持って乱射してたり、また気付いたら刀だったり・・・それに、鎖を操ってたりしてたわ・・・・」

「それは、武器を換装しているんじゃなく~、その形状が変化してるって事でいいのかな~、わっしー」

「ええ・・・あれは精霊というよりも、もっと別のもの・・・・そうだわ、力を使う度に、なんだか、文字が出てきていたわ。それも、漢字。力に合わせて、文字が彼の周囲に出てきていた・・・」

「ふむ・・・文字か・・・」

春信が、黒板に、その部員についての特徴などに、新たに『文字を操る』と書き足した。

「ちなみに、その文字は全部でいくつあった?」

「えっと・・・『鎖』『解』『砲』『刀』『影』『弾』『罪』・・・それと『滅』だったと思います」

「全部で七つか。他にはなかったんだな」

「はい」

美森が言った漢字を、黒板に書いていく春信。

「ここまでの事を纏めると、その男の容姿は不明。ただし、特技としては機械の修理と料理で趣味はゲーム。俺たちのような力を使い、その力は主に文字にちなんだ力を使う事・・・・把握したか?」

一同はうなずく。

「それにしても、文字を操る能力、ですか・・・」

樹が、黒板に書かれた事を見て、そう呟く。

「それが一体どのような力を持つのか分からない。だが、敵陣に単体で乗り込むような馬鹿だ。それほどの力を有しているのだろう」

「末恐ろしいな。東郷助けてくれたから味方だろうが・・・出来れば敵に回したくねえな・・・」

「同感ね・・・」

剛の言葉に同意する風。

「そうか、なら続けよう。今度は、結城が見た夢の内容についてだ」

「分かりました」

春信にうながされ、友奈は、ぽつりぽつり、と覚えている限りで夢の内容を話した。

「・・・以上、です」

「・・・・ご苦労」

短く労い、春信は、もっていた手帳を閉じる。

「友奈ちゃん・・・」

暗い表情になっている友奈を、心配そうに見る美森。

その横で、翼がふと口を開く。

「友奈ちゃんが話しているのは、勇者部創設初期の一年間の事・・・僕や夏凜ちゃんたちが出ていないうえに、須美ちゃんがまだ車椅子に乗っている事から、その事が分かる・・・その全部に友奈ちゃんが関わっているし、風先輩や、樹ちゃんとも、関わりがある・・・・」

しばし考え込むかのように、口に手をあてる翼。

しかし、翼が何かを思いつく前に、春信が言葉を発する。

「結城、お前のいうその男の家の場所は分かるか?」

「え、一応・・・」

「そうか」

春信は、得心が言ったのか、彼らに向かって言う。

「行く場所が決まったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるアパートにて。

「友奈、本当にここであってるの?」

「うん・・・その筈だけど・・・」

「まさか、夏凜ちゃんの家の隣だなんて・・・」

そこは夏凜の部屋の隣にある、五○五号室。

「一応、大赦の名目を使って鍵は借りてきた」

「だったら後は入るだけね」

「大家の話では、ここには誰も住んで無いみたいだが・・・・」

全員の同意を持って、扉の鍵を捻った。

がちゃり、という音と共に鍵が開き、扉も開く。

扉が、開いた時―――

 

 

『――――待ってたよ』

 

 

そんな声が聞こえた気がして、友奈の鼻の奥を、懐かしい匂いがついた。

扉を開ければそこは、夏凜の家と変わらぬ廊下。

だが、他の者たちが警戒するなか、友奈だけは迷わずその部屋に駆け込んだ。

「あ、友奈ちゃん!」

それに驚きつつも追いかける美森、それに続く勇者部一同。

友奈が駆け込んだ先である、リビングで、友奈は立ち止まり、その後ろから、皆がやってくる。

「え・・・」

「これは・・・!?」

そこは、まだ人が生活していたかのような、机や本の入った棚。写真たてに、料理器具まで、生活に必要なものが、つい最近まで手入れされていたかのようにそこにあった。

まるで、人が住んでいたかのように。

「これは・・・」

「状態から見て早くても二ヶ月かそれ以上だな」

「そんな事も分かるなんて、春信さんマジで何者・・・」

「ゆーゆ?大丈夫~?」

そんな中で、友奈だけは、呆然とその部屋を眺めていた。

「・・・・ない」

「ん?」

「・・・思い、出せない・・」

振り向いた友奈の顔は、泣いていた。

とても辛そうに、その顔をくしゃくしゃにしていた。

「知ってるはずなのに・・・何も、思い出せない・・・ここを知ってるはずなのに・・・思い出せない・・・・彼の事を・・・思い出せない・・・思い出せないよ・・・」

その場に膝をついて蹲る友奈。嗚咽を漏らし、床のカーペットを濡らす。

その友奈の状態に、一同は呆然とする。

「・・・須美ちゃん、友奈ちゃんを」

「分かったわ」

「僕らは、この部屋を探索してみよう。何か見つかるかもしれない」

翼の言葉には、全員が同意し、この部屋を探す事となる。

美森は、泣いている友奈の背中をさすり、風と樹は台所を、剛と銀は寝室。その他はリビングや風呂場などを捜索していた。

「ん?これは・・・」

ふと、翼は、棚の上にあるアルバムらしき本に目を止めた。

それを手に取り、翼は開いてみる。そうして、中の写真を見ていくと、その表情を強張らせて、翼は一同に声をかけた。

「皆!これを見て!」

「どうした翼?」

「何?」

友奈の目の前でそのアルバムを開いて、中の写真を皆に見せた。

「あれ、これって、勇者部を始めて作った時の写真じゃない、これがどうかし・・・」

風の言葉が唐突に途切れる。

「こっちは、猫を捕まえた時のもの、です・・ね・・・」

「これは夏凜たちや俺が来てから取った写真だな・・・」

樹や剛の表情も曇る。

それもそうだろう。

「・・・この男は、誰・・?」

 

その写真のほとんどに、知らない男子の姿が映っていたのだ。

 

黒髪で、茶色の目。やや女性っぽい容姿をしており、その体格はやや筋肉がついている程度だ。

夏服では、腕などについた傷が目立つものの、本人は気にしていない様子だった。

そのどれもが、勇者部との写真であり、依頼の時のもの、かめやでの事、カラオケ店の事、取られている写真全てが、勇者部全員に覚えのあるものだった。否、園子、銀、春信の三人を除いて。

「友奈ちゃん」

翼が、友奈に問う。

「この、男に、見覚えは?」

その問いに、友奈は・・・

「・・・・ある」

掠れた声で、肯定した。

「この、男の子だ・・・夢に出てくるのは、この男の子だ・・・この・・・」

辛そうな表情で、集合写真に映る男の顔に触れる。

「でも・・・思い出せない・・・・」

それは、まるで神に懺悔するかのような声だった。

「声も、名前も・・・何も思い出せない・・・こんなに、こんなに胸が苦しいのに、何も思い出せない・・・・どうしてかな・・・・どうして、何も、思い出せないの・・・?」

涙が零れ落ちて、写真を覆う透明フィルタの上に落ちる。

友奈の嗚咽がその部屋に響いて、黄昏色の光が、窓から差し込む。

夏凜は、そんな友奈を見る事しか出来なくて、ふと台所を見た。

その時、かすかに、誰かがそこで料理をしている姿が、頭をよぎった。

「ッ!?」

しかし、それはすぐに消えて、そこには何もなかった。

「・・・」

それを呆然と見つめて、夏凜は、目を瞬かせる。だけど、もうその姿は見えなかった。

 

 

 

結局、手掛かりらしいものは、写真以外に見つからず、その日は、それで解散となった。

 

 

 

皆、浮かない顔であったものの、それでも次を見て、帰路についていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は、また、別の場所でも――――

 

 

 

 

 

 

 

冷たい廊下を、歩く一人の少女は、首のついた金属製の首輪を慣れたとでも言わんばかりに裸足で歩く。

服装は、病衣。セミロングの黒髪をなびかせて、少女、『稲成幸奈』は廊下を歩く。

とある部屋の前で立ち止まり、その横にある開閉スイッチを押せば、その扉が横に開いて、幸奈は中に入った。

「ふう・・・」

「幸奈おねーさん!」

「わっと・・・美紀・・・」

そんな彼女に抱き着くのは、同じように病衣を纏ったまだ小学生の年頃の少女『針目美紀』。

「どうだったか?幸奈」

幸奈に声をかけるのは、この中で一番の年長者である『阿室佐奈』だ。

「はい。腕の調子も、大分戻ってきているようで」

「なら良かった。だが無理は禁物だぞ」

「分かってるわ」

ふと、佐奈の後ろに視線を向ければ、そこではトランプをしている二人の男子を見つけた。

熊のような体格をしている少年は、精神障害で精神年齢が幼稚園あたりで止まっている『車田真斗』。

一方で、少し痩せた体をしているのは、そんな真斗のお目付け役である『加賀弘』。

彼ら全員にも、幸奈と同じような首輪がつけられている。

 

彼女たちは『襲撃者』。

 

かつて、この世界を殺そうとバーテックス側についた、人類に叛逆した人間たち。

しかし、その野望も、勇者たちによって阻止され、その力も剥奪されてしまったのだが。

ただ、彼らに指示を下していた異世界の神の使いである愛の天使『アモル』によって精神に異常をきたしていたが、今はそれも落ち着いているようで、大人しくここ、大赦が用意した()()()()の収容施設で暮らしていた。

「来年、佐奈さんはここを出られるのね・・・・」

「まあ、私はお前達より年長者だからな・・・・美紀が心配だが」

「大丈夫だよ!わたし、がまんするから!」

「そっか、偉いな」

美紀の頭を撫でる佐奈。しかし、その表情は浮かない。

その様子には、幸奈は気付いていた。

その時、施設内の放送が流れた。

『―――稲成幸奈、阿室佐奈、針目美紀、車田真斗、加賀弘の五名は、至急、広間へ集合してください。繰り返します――――』

「広間に・・・?」

「なんの様だろうね」

「うう、勝てなかった・・・」

その放送に、真斗以外の者たちが首を傾げる。

「とりあえず行こう。私達に、それ以外の選択肢はないんだからな」

「代償、て奴かしらね・・・・」

幸奈が、片手でもう片方の腕の二の腕を掴む。

「・・・・今、何してるのかしら、友奈は・・・・」

天井を見上げながら、そう呟いた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、一方にて。

 

 

香川にそびえたつ巨大な塔、『ゴールドタワー』。

そこにある、訓練場にて――――

「うぉぉぉぉおおおぉぉおおお!!」

一人の少年が絶叫しながら物凄い速さで腹筋をしていた。

そんな様子を、眺めるのは、ジャージ姿で銃剣を模した木の模型を持った少女。

「相変わらず、なんでそんなに早くやれんのかしら?」

「ぜえ、ぜえ、ぜえ・・・なーにこれぐらい!勇者になる為には、これぐらいの努力はお茶の子さいさぁぁああい!?」

と、突然、床に転がってたペットボトルを踏んづけて派手にサマーソルトキックを披露する少年。

そのまま後頭部を強打。

「やれやれ・・・」

「・・・まだだァ!!」

だが、すぐさま起き上がる少年。

「よーっし次はこの訓練場を百周だァ!」

「私もいいかしら?」

「お、良いぜ芽吹!」

「負けないわよ?」

「望むところだぜコンニャロ!」

少女、『(くすのき)芽吹(めぶき)』が、少年、『正道(せいどう)明日香(あすか)』を挑発し、明日香がそれに乗る。

いざ二人して走り出そう、とした所で・・・

「メブぅぅうう!明日香さぁぁぁん!!」

「ん?雀?」

訓練場に飛び込んでくる少女が一人。

「どうした雀?」

「ハア・・・ハア・・・し、神官さんが、今すぐ広間に集合しろって・・・・」

「広間に?新しいお役目かしら?」

「たぶん、そうだと思う・・・・」

芽吹の質問に、『加賀城(かがじょう)(すずめ)』はおどおどしながら答える。

「お!新しい任務か!腕が鳴るぜ!」

一方の明日香は楽しみとでもいわんばかりにガッツポーズをとる。そんな明日香の背中を叩く芽吹。

「うお!?」

「頼りにしてるわよ」

「へへ、おう!」

芽吹の信頼が最も信頼している存在である明日香。

 

 

 

彼らは『防人(さきもり)』。勇者に代わり、四国の外で活動をする、別の形で神樹に選ばれた者たちである。

 

 

 

 

 

 

深夜――――

「・・・・どうして、こんなに、遅く、なった、んだっけ・・・?」

「だいたいは白露の所為だな」

「な!?わ、私の所為なの!?」

「ごめん、流石に私も弁護できないわ」

「こいつに地図を任せたのが間違いだった・・・・」

「もういいじゃないですか。どうせせめても時間の無駄です」

「それもそうだな」

「道案内は任せられるわね?――――千景君?」

駅前にて、八人の人影があった。

「ああ、任せてくれ」

『戻って来たわね』

『行きましょう、敵はすぐそこまできています』

一人の少年が、仮初の夜空を見上げた。

 

 

 

 

救い導く者、『救導者』

 

世界を守る者、『勇者』

 

世界を殺す筈だった者、『襲撃者』

 

活路を見つける者、『防人』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その四つの勢力が、今、香川に集結していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は、誤算だった。

 

まさか、人間風情に奪い返されるとは。

 

罪深き(むのうな)人間どもが捧げる生贄を、()()()()()()()()()()()()()()()とするまえに、あの忌々しき人間にいとも容易く取り返されてしまった。

 

だが、それは()()()()()()

 

三百年前の時点では、人間どもを滅ぼす事は根絶するのは不可能だった。

 

神樹だけだったのならまだよかった。だが創る事において、自分よりも強い力を持つ神がいなければ、今頃、この世界を滅ぼせていた。

 

あの神なら、今の自分の力を超える力で強力な結界を作り、こちらの干渉を完全に遮断してしまうだろう。

 

それだけではなく、この自分を殺す武器を作って反撃してくるだろう。

 

だから待った。なるべくその神を刺激しないように、神樹のみを攻撃し、摩耗させつつ、力を蓄える。

 

そして、今、時は満ちた。

 

『――――時は満ちた』

 

故に、今こそ、この世界の人間を断絶する。

 

我は、その為に、ここにいるのだから。

 

『今こそ、この世界の人間を断罪する時だ』

 

異世界の断罪の神『マギアルクス』は、自分達の配下の者たちに命令を下す。

 

そして、配下たちは、膝をついて、承諾する。

 

「「「御身の御心のままに」」」

 

最大の敬意を持って、彼らは、神樹の張った四国大結界を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

決戦は、近い―――




次回『勇者の葛藤』

頭をめぐるは一人の少年。
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