不道千景は勇者である   作:幻在

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勇者の葛藤

謎の男子部員が住んでいたと思われる部屋の捜索から、早翌日。

友奈と美森は並んで学校に向かっていた。

しかし、二人の表情は暗く、友奈に至っては、表情があまりにも虚ろだった。

「友奈ちゃん、大丈夫?」

「・・・・」

「友奈ちゃん?」

「あ、何?東郷さん?」

「どうしたの?なんだか、ボーっとしているように見えたけど」

「そうかな、そんな事・・・ないよ?」

友奈は、美森から視線を外して躊躇いがちに答える。

昨日より、さらに元気がなくなっている。

笑い方が、あまりにも、虚過ぎる。

このままでは、その笑顔さえも、失ってしまうかもしれない。

(早くなんとかしないと・・・・)

美森は、心の中で、そう決意を固めた。

 

 

 

その時、全身真っ黒な服装をした少年が、反対の歩道ですれ違った。

 

 

 

二人は、それに気付く事は無く、そのまま去っていく。

その様子を、男はしばし歩いたのち、振り向いて確認する。

「・・・・どうしたんだ?」

『あまりにも元気が無かったわね、結城さんと東郷さん・・・』

少年、不道千景は、かつての仲間たちの変わりように、しばし動揺していた。

そんな彼の顔の横に、白い日本人形のような精霊『雪女郎』こと、伊予島杏が出てくる。

『分かりません。ですが、何かあったのは確実です』

『喧嘩・・・とかじゃないわね』

郡が杏の言葉に応える。

「どっちにしろ。俺の目的はアイツらを守る事だ。東郷は勘が鋭いから、バレない様にしないと・・・」

『一応、他の人たちにも置いてきたけど、貴方一人で大丈夫なの?』

そこへ、頭の上に緑色の猿の精霊『覚』こと白鳥歌野が現れる。

「問題無い。それに、貴方たちがいるんだ。負けねえよ」

『自信満々でよろしい。だけど油断は禁物よ。私でも右腕持っていかれたんだからね?』

「肝に銘じておきます」

フッと笑って、しかしすぐに表情を引き締める。

(幸い、さっきすれ違った時に二人とも俺に気付かなかった。やはり『認識阻害』が組み込まれてるから、()()()()()()()()()()()んだな)

千景は、改めて創代が創ったこのミリタリー服、『隠密』の効力を実感する。

 

この服装には、創代の力の一つである『文字』のうち、『認識阻害』『気配遮断』『迷彩』の三つが付与されており、これを着れば、誰でも暗殺部隊の仲間入りなのだ。

ついでに、『対神』までついているために、神樹の眼も欺ける優れものだ。

ただし、デメリットとして御神刀を発動されればすべて無効化されてしまうため、天鎖刈を使う時は使いどころを見極めないといけない。

 

それはともかく、二人の様子がどうにもおかしかった。

何かあったのか。

「調べる必要があるかもしれないな・・・」

千景はそう思うも、思いとどまり、首を振る。

「いや、それよりもやる事がある」

千景は、ポケットから何かの石を取り出す。

「これを指定の場所に置かねえと」

千景はスマホを取り出して地図を出す。

「この先だな」

そして走り出す。

 

 

今日から起こる、敵の襲撃に備える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日一日、授業の内容は頭に入ってこなかった。

話しかけられても、ちゃんと答えられたかどうかも思い出せない。

それほどまでに、今日一日の事が朧気で、力が入らない一日だった。

やはり、昨日の事がきっかけだろうか?

例の彼の事について、近付いてきたからか、あの夢の内容が、濃く思い出されるようになった。それ故に、辛い気持ちも大きくなってきて、今にも、胸が張り裂けそうな気分だ。

どうすればいいのか、全く分からない。

そんな気持ちの友奈は美森と翼が見ている間に、他の者たちは、例の少年について議論していた。

「一応、容姿は分かった。問題なのは、名前と声、そして身の上ね」

「何か心あたりはないのか?話から察するに、俺と銀との面識はない」

「すみません、私も、どこか知ってる気はするんですが、どうしても・・・」

「園子は何かわからない?」

「うーん、こればっかりだとなんとも~・・・」

皆、頭をとにかく捻って考えている。

しかし、考えても考えても、何も良い答えは出ない。

「・・・・なあ」

ふと、銀が声をあげた。

「どうしたの銀?」

夏凜が聞き返す。

「その、ちょぉっと言いにくいんだけども・・・・実は大赦では、黒髪で茶色の目の女の子って、大赦じゃ忌み子らしくて・・・」

「ミノさん」

その時、園子から僅かに怒気を孕んだ声がその場に響いた。

「まさか、この子がその忌み子だっていいたいの?」

「ま、まさか!ただ、その時つける名前がまさかなーって思ったってだけで・・・」

「いやいやありえないでしょ?そんな縁起でもない名前なんて」

と、重くなりかけた空気をどうにか持ち直した。

「結局、分からずじまいね・・・」

「そうだね、お姉ちゃん・・・」

結局、話は何も進まず、その日は解散となった。

帰り道、友奈、美森、翼は三人で帰っていた。

「翼君、ついてこなくてもいいのに・・・」

「女の子二人だけで帰るのは危ないでしょ?せめてものボディーガードと思ってくれていいよ」

「本当は東郷さんといたいだけでしょ?」

「バレたか・・・」

たははー、と苦笑する翼。

それはそうと、やはり友奈に元気がない。

やはり、夢の中に出てくる、あの男子が原因なのだろう。

それほどまでに、友奈にとって、大事な人だという事なのだろう。

(情けない・・・)

翼は悔いる。こんなにも、恋人の親友が苦しんでいるというのに、何もしてあげらない事が、今、とても悔しいのだ。

(園子ちゃんは、今、師匠(せんせい)の所に向かってる。何か、有益な情報を聞き出せればいいんだけど・・・)

翼は、今、大赦に向かっている園子の事を心配して、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦本部より、駅を一つ挟んだ山に、足柄辰巳の家がある。

一時期、修行の為に三ヶ月近く泊まった事があるので、家に行くための道のりは知っている。

しばし山道を歩いていると、一つの古ぼけた家を見つける。

師匠(せんせい)ー、いますかー?」

園子がそう声を挙げると、少しして小屋の扉が開き、そこから、一人の筋肉質な体格をした老人のような男が現れた。

「園子か」

彼こそが、勇者訓練指導官にして、西暦最強の勇者、足柄辰巳だ。

「何の用だ?」

「少し、聞きたい事があるんです」

辰巳は、園子を家に招き入れる。

中は昔の日本家屋そのもので、居間の中心には暖炉があり、他には、生活に必要最低限なものばかりだった。

それに、かなりボロボロだ。

「懐かしいな~」

「お前がここに来るのは二年も前になるな。それはともかく、何を聞きたい?」

座布団を用意し、それに園子を座らせ、聞いてくる辰巳に、園子は持っていた鞄から一枚の写真を取り出す。

「この男の子について、知ってる事ありませんか?」

辰巳はそれを受け取り、まじまじと眺める。

「・・・黒髪に、茶色の眼・・・」

「勇者部のもう一人の部員なんです~、なんでもゆーゆが見る夢の中に出てくるんです」

「そうか・・・」

辰巳は、しばし考える素振りを見せて、そして一言。

「・・・・悪いが、知らない」

「そうですか・・・」

園子は、心底残念そうに、返された写真を鞄に入れる。

師匠(せんせい)でも、だめですか・・・」

「すまない、力になれなくて・・・」

「いいえ、師匠(せんせい)は頑張っています。ただ、それを知っていても、理解する事は出来ませんが・・・」

足柄辰巳の体は、竜そのもの。どうにか人の形を保っているが、本来なら、彼は伝説の怪物、竜に変化していても可笑しくはないのだ。

しかし、それは、三百年前に、辰巳の恋人であった上里ひなたが、死の直前に神樹に願った『願い事』によって、今はどうにか人の形を保っているのだ。

そして、その体が竜へと変質した事で、人間の数倍の寿命を持ち、この三百年間、生き続けているのだ。

未だ、死ぬ予兆が見えないが。

「勇者部の状況は春信から聞いている。結城の精神が不安定になっているようだな」

「はい・・・このままじゃ、ゆーゆは、その笑顔を失ってしまいます・・・・」

「・・・」

辰巳は、その園子の様子に、しばし考え、そして答える。

「・・・その男の事だが・・・」

「え?」

「もしかしたら、神樹が絡んでいる可能性がある」

「神樹、ですか・・・」

園子の表情が険しくなる。

「お前の供物が返還される前の、戦いにおいて、神樹が樹海化を発動させる度に、その力の減りが大きくなっている事があった。その為に、大赦では、どういう事なのか調べる事にした。勇者全員の身体能力や、変化など、隅々までな。一方で襲撃者が神樹の力を使って神樹の力を奪っていたのではないかという事もでたが、後になってあいつらと神樹とは何の関係も無い事は、神樹の神託で分かった。だとすれば、必然的に勇者たちの誰か、という事になるのだが、それが誰なのか分からない。結局、この案件は迷宮入りという事で片付けられた。だが、お前の言う、消えた部員というのが存在するなら、ソイツは、何か存在を消されるような事をしでかしたという事がうかがえる」

「・・・何が、言いたいんですか?」

園子は、表情を険しくして。

 

「結城には悪いが・・・・その男は神樹によって殺されている可能性が高い」

 

「ッ・・・!?」

考えたくもない、最悪の可能性。園子でさえも、思いもよらなかった、最悪の答え。

「そ、んな・・・」

「勿論これは憶測にすぎない。はじめから存在しなかったかもしれないし、もしかしたら、存在したという事実のみを消されて、どこかで生きているかもしれない・・・どっちにしろ、最悪の可能性は考えていても損はない。ただ、すでに決定した事は、覆す事は出来ないがな」

辰巳の辛辣な言葉に、園子は、背中を丸めて、拳を膝の上で握りしめる。

(何をしてるんだ・・・私は・・・)

忘れられる苦しみを知っている筈だ。他人と認識される苦しみを知っている筈だ。なのに、忘れてしまった。その苦しみを、知っている筈なのに。

「・・・師匠(せんせい)

「なんだ?」

「・・・私、どうすればいいかなぁ・・?」

酷く、震えた声で、そう問う園子。

「・・・醜く足掻く、それだけだ」

短くシンプルに、しかし果てしなく険しい答えを、辰巳は述べた。

「・・・はは、やっぱり、師匠(せんせい)は厳しいなぁ」

顔を上げる園子。

「ありがとうございます、師匠(せんせい)、もう少し、足掻いてみます」

「それがいいだろう。ああ、そうだ」

辰巳はふと立ち上がると、部屋の隅にあったアタッシュケースを取ると、園子の前に出す。

「神樹から神託が降りた。『現在、この神樹を殺すに値する力を持つ輩が、讃州に存在する。すみやかに排除せよ』という事らしい」

「神樹様を、殺す・・・?」

「どっちにしろ、神樹が死ねば人類は終わる。それだけは避けなければならない。それともう一つ『おおよそ三日後、敵の本隊が攻めてくる。それに備えよ』、という事らしい」

辰巳は、ケースの留め具を外して、開け、その中身を園子に見せた。

「・・・・勇者システム」

「本隊、すなわち、バーテックスなど比較にならない奴らが攻めてくるという事を考慮し、満開を強化しておいた」

「強化・・・?」

「満開と昇華を組み合わせた。これによって、昇華による肉体破壊を、満開によって抑えるように出来、さらに、力が圧縮されたために、通常の数倍の力で戦えるようになった。通常の威力の攻撃を、半分以下の力で発揮出来るようになったって所だ」

「そうなんですか・・・わ!?」

園子が、自分の勇者システムが搭載された端末を手に取ると、そこから一匹のぬいぐるみのようなものが現れた。

「わあ!鴉天狗!」

鴉天狗は背中の羽をぱたぱたと動かし、園子の頭の上に乗っかった。

「久しぶり~」

園子は嬉しそうに鴉天狗の頭をなでる。

だが、そこで一つ懸念が浮かび上がる。

師匠(せんせい)、散華はどうなったの?」

そう、満開を使うと、体の一部を神樹に供物として持っていかれる。それは記憶や体の機能などランダムでどれか一つ。片足だけかもしれないし、もしかしたら両足同時に失うかもしれない。そんな、恐ろしい機能。

「・・・安心しろ、散華の機能は無くなった」

「そうなんですか?」

「ああ、上手く神樹に取り入る事が出来てな。散華無しに満開を発動させる事が出来るようになった」

辰巳は、園子にそう説明した

「そうですか・・・」

園子は、どうにも心にひっかかる懸念とやらを感じつつも、自分の端末をポケットに入れ、そしてアタッシュケースを持ち上げる。

「では、これを皆に渡してくればいいんですよね」

「ああ、まあ、その場の判断はお前に任せる」

「分かりました」

園子は、一度、頭を下げて、辰巳の家を出る。

「それでは、今日はありがとうございました。さよなら」

「気を付けて帰れ」

辰巳は、園子を見送り、やがて、独り言のように呟いた。

「・・・すまないな、園子」

 

()()()()()()()()()()()

 

ただ、代償の矛先が、別の人物にむいただけだ。

「後俺は、この先()()()()()()()()()()()()()()からな」

辰巳の寿命は、おおよそ三千年。そして、三百年消費して、残りは二千七百年。

神樹には、辰巳自身の寿命を代償として、満開を使えるように仕込んでおいた。

満開一回につき、十年。猶予、二百七十回。

それだけあれば、問題ないだろう。

「・・・・もう、神樹は力尽きかけている。これ以上、時間はかけられない」

仮令、この身が滅んでも――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜――――

「まっさか、アイツらが俺の部屋を調べてるなんて思わなかった・・・」

格安の宿にて、救導者八人+巫女一人で男女別れての大部屋に泊まっている時の事、千景がそう呟いた。

風呂にも入って浴衣姿になってはいるが、この部屋に千景のジャケットと同じ効果のある結界を張ったために、神樹にはバレない。

「せっかく金使わないで止まれると思ったんだが・・・また来られる可能性があるからな」

「妥当な判断だろう。どっちにしろ、隣にいる三好夏凜とかいう女に感づかれる可能性もあった。ならば、宿をとった方が安全だろう」

海路が本を読みつつ眼鏡のブリッジを押し上げ、そう答える。

「だけど、お前の部屋を調べたって事は、あいつら思い出せてるんじゃいのか?」

信也が、そう千景に問う。

「いや、あの戦いのあと、全員、気絶するほどの大ダメージを負っていた。おそらくその間に神樹が()()()()()()()()俺の事を忘れさせた筈だ。だから、どうあがいても、アイツらは俺の事を思い出さない・・・・筈だ」

「確信ないんかい」

どうにもはっきりしない千景の言葉に、真武郎がつっこみを入れる。

しかし、千景はその間に敷いた布団の上に寝転がり、天井を見上げる。

「・・・まあ、期待してないっていえば、嘘になるかな」

「そうなのか・・・」

「まあな。また、アイツらと一緒にいられるのか、と思うとな」

その千景の言葉に、信也は、どうにも言えない気持ちになる。

「・・・もし、アイツらの記憶が戻ったら、お前は、その、戻るのか・・・・?」

「ん?うーん、今すぐ、とは言えないかな。もう向こうの学校の生徒になっちまった訳だし。でも、そうだな。戻りたいとは、思うよ。出来る事なら、な」

起き上がって、千景は自分の左手を見る。

「この左手さえなかったら、今頃、アイツらと一緒にいられたかもしれない。だけど、この左手が無かったら、今は無い。どれほど考えても、過去は確定してしまう。それを変えるなんて事は、俺には出来ない。だけど、せめて最悪の未来だけは回避できると思うんだ」

ふと、千景は立ち上がる。

すると浴衣を脱いで、黒のミリタリージャケット、前身黒づくめの姿に着替える。

「ん?どっか行くのか?」

「まあな。先に寝ててくれ」

千景は、それだけを告げて、部屋を出る。

そのまま宿を出て、しばらく宿から大きく離れた、廃工場のある場所にやってくる。

すでに廃棄させられた後で、そこに人影はない。

ふと、千景のすぐそばに、杏が姿を現した。

『こんなところに来て、どうかしたんですか?』

「いや、ちょいと()()()()()()

いくつもの、足音が聞こえる。

『え・・・!?』

『・・・来たわね』

気付けば、周囲には、草色の装束を纏った集団に囲まれていた。

『まさか・・・防人!?どうして・・・!?』

「少し誤算だった。この服のお陰で俺の存在は察知されない。だけど、神樹と密接な関係にある精霊だけは別だ。簡単に探知されてしまう」

『それじゃあ・・・』

「ああ、お前らを認識されて居場所を特定された」

認識の対象を、千景から精霊に切り替えれば、認識は可能。その上、千景にはどれほど隠蔽しても隠せない力がある。

 

『神奪』

 

常時、空気中を漂う神気を吸い続け、エネルギーに変え続ける、第二種永久機関じみた力。

それについて、力を完全に抑える為の手袋も作ってもらうべきだっただろうが、こうなっては後の祭りだ。

敵は全員、なんらかのバイザーを装備している。おそらく、あれで創代の作った隠蔽装備を破って千景を認識しているんだろう。

相手が攻撃してくるなら、反撃するまでだが、それでもどうにか話し合いで解決できないか。

そう思い、千景は彼らに話しかける。

「よお、真夜中にこんな大人数で出かけてるとは何かのパーティか?だったら俺も混ぜてくれると嬉しいんだけど」

普段の口調からは考えられない様なふざけた口調。ただ、この緊迫した空気をどうにか解きたいという本心は垣間見える。

「・・・貴方は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて、大人しく捕まりなさい」

ふと、一人の少女が前に出て、お決まりのセリフを吐いてきた。

「アンタがリーダーか。見た所十八歳以下で構成されてるようだな、この集団」

「御託は良い。捕まるのかそれとも反抗するのか。決めなさい」

「取り付く島なしかよ・・・」

(なんだか夏凜みたいな奴だな・・・)

苦笑しつつ、さらに説得を試みる。

「しっかし大袈裟すぎやしないか?たかがこんな男一人のために、こんな数揃えるなんてさあ?」

「打倒な判断だと思うわ。貴方、神から力を奪えるみたいだから」

その発言から、千景は理解する。

なるほど、こいつらは神奪の事を知ってるって事か。

見た所、武器は銃剣と楯。それぞれの適性に合わせて、武器を持たせているらしい。

ただ気になるのは、女子と男子の比率が三対二という状況の中で、たった三人だけ、大小二つの片手で振り回すには大きすぎる双大剣、あまりにも巨大な大槍、自らの二倍の身長はあるであろう大弓を装備した者たちがいる。

そのどれもが男。その三人が、どうにも気になる。

(あいつらは警戒すべきか・・・)

「無駄な抵抗はやめろー!」

「ん?」

いきなり、二振りの大剣を持った少年が声をあげる。

「お前は完全に包囲されてるー!反抗してもむだだぞー!」

「・・・・ねえ、そういうと私たちが完全に雑魚の集団に見えるからやめて」

何故か周囲から落胆の雰囲気が漏れだしていた。

「なぬ・・・・」

「あー。そろそろいいか?」

「ああ、ごめんなさい」

呆れてる様子の千景に対して、リーダーらしい少女は向き直る。

「それで、どうする?『降伏』か『抵抗』か」

「悪いがまたお前らに捕まる訳にはいかないんだ。第三の選択肢としてお前らの『撤退』を望みたい所なんだが・・・」

「悪いけど、そうもいかないわ。上から貴方を必ず捕まえろっていう指令が下ってるの」

少女は、とても不服そうにそう告げる。

「そうだよなぁ・・・」

「貴方は、この世界を終わらせる力を持ってる。それは、私達としても見過ごす事は出来ない。もし反抗するというのなら、実力を行使させてもらうわ」

少女が銃剣を持っていない方の手を挙げる。

すると周囲の防人たちが、一斉に銃剣を構える。

 

交渉は決裂。即ち――――

 

「仕方がないか」

『ごめんなさい・・・私達のせいで・・・』

「気にすんなよ・・・元はと言えば、俺の自業自得だ」

千景は、ジャケットの下に隠しておいた脇差を手に取り、その鍔を弾き飛ばす。

「―――『天鎖刈』」

光が迸り、千景の姿を変化させる。

その身を白い装束に身を包ませ、その上を拘束具のような金属装備で固める。

「さあ、来いよ。防人」

身をかがめ、構える千景。

「・・・・いいわ」

少女、楠芽吹が、一言呟いて、その手を振り下ろす。

無数の銃声が鳴り響き、実体無き弾丸が銃剣から放たれる。

そのどれもが勇者のそれには劣るが、確実にバーテックスを屠る事を可能とする一撃。まともに受ければ、いくら御神刀を発動させていようともただでは済まない。

「『鎖撃結界(カウンターシールド)』ッ!!」

左手を地面に置き、その瞬間千景の足元に『鎖』の文字と環が出現し、その環にそって鎖が渦を巻く様に出現する。

その鎖は、襲い掛かる銃弾の嵐を全て弾き飛ばす。

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』、『鎖』『砲』、『解放(リリース)』、『連鎖砲』ッ!!」

次の瞬間、左腕に『鎖』の文字が現れ、それに重なるように『砲』の文字が出現。それが重なると、鎌が形を変えて、その姿を二丁の拳銃(ハンドガン)に変える。

「武器が!?」

「変わった!?」

防人の中から声があがる。

「『魔砲』『銃弾舞踏(バレットダンス)』」

千景は、彼らが驚いている間に、銃を構える。

「ッ!護盾隊!前に出て!構えて!」

しかし、千景の思惑を悟った芽吹がすぐさま防人たちに指示を飛ばす。すると大楯を持った者たちが銃剣隊と入れ替わるように前に出て、楯を構える。

その直後に、今度は千景の方から銃弾の嵐が飛んでくる。

銃弾全てが楯に直撃し、甲高い金属音を響かせる。

「ぎゃぁあああ!!今!今すごい音したよ!?大丈夫だよね!?この楯壊れないよね!?」

一人、とんでもなく情けない悲鳴をあげている者がいる。

「そこか―――!!」

千景はそこを綻びを判断して声がした方向を集中砲火する。だが、その方向にいた護楯隊の内、一人だけがどういう訳か予想と反して全ての弾丸を僅かな角度操作で弾き飛ばした。

「なぬッ!?」

「うわぁあああ!?こっち!こっちに集中してきたよー!殺される―!助けてー!メブぅぅぅう!!!」

相変わらず情けない声をあげている筈なのに、その防御は的確、否、的確なんてものじゃない。本能のままに盾が痛まないように、かつ、完璧に千景の銃撃を弾いていた。

(うっそだろ!?バケモンかよ!?)

「ハッハッハー!情けない声を挙げているからって甘く見たな!彼女こそが、我が防人部隊の守護神、加賀城雀だ!」

ふと槍を持った大男がそう高笑いをしながら言ってくる。

「なるほどな!そいつは認識を改めないといけないな!?」

「いや違うから!私そんなんじゃないから!?私弱いから!!」

雀と呼ばれた少女はどうにも否定したいようだが、あんな防御を見せられたら流石に納得せざる得ない。

だが、それでも千景の銃撃は止まらない。

弾詰まり(ジャム)どころか弾切れさえも起こさないな。おそらくあの銃、弾数に上限ないんだろうな」

ふと、大弓を持った少年『亜門(あもん)優理(ゆうり)』がそう冷静に分析する。

「反撃しようにも、あの鎖の結界が邪魔ですわね」

その隣で、『弥勒(みろく)夕海子(ゆみこ)』が含みある笑みを浮かべながらそう付け足す。

そして、芽吹に向き、聞く。

「どうしますの?隊長さん?」

「どうするのかって?決まってるでしょ」

芽吹は、大剣を持つ少年、正道明日香の方を向く。

「行けるわね?明日香」

その問いに、明日香はニィッと笑って。

「ああ!」

次の瞬間、明日香が、包囲網を一人、弾丸のようなスピードで飛び出す。

(一人出てきた―――)

『予想通りね』

千景はすぐさま迎撃に銃弾を放つ。

それを明日香は小振りな方の剣を持って全て叩き落す。

だが、それは予想通り、だが、この結界は流石に突破できな――――

「うおりやぁあああ!!」

「なッ!?」

だが、明日香の大剣は、あろうことか()()()()()()()()()()()()()

「馬鹿な・・・!?」

「もういっちょぉぉお!!」

叩き付けた剣をそのままもう一振りの剣で千景を追撃。その攻撃は突き、狙いは左肩。

それを千景は体を捻って回避。

しかし無理にかわしたからかバランスを崩して地面を転がり、すぐさま立ち上がる。

「・・・・おい、その剣どうなってやがる・・・?」

千景は、認識を改める。

 

目の前にいる敵は、そんな甘い敵じゃない事を。

 

「へへ、どうだ、驚いたか!」

明日香は、得意げに笑って、千景を見下ろす。

だが、千景は不敵に笑っている。

「ああ、驚いたよ。だから、ちょいと助っ人頼んどいた」

千景は人差し指を立てた。

次の瞬間――――

 

「標的確認、方位角固定――――『大砲爆槍(キャノンランス)』、吹き飛びなァ!!」

「集まれ 水よ 激流となりて 打ち砕け―――『龍水激流撃(リヴァイアサンストリーム)』、打ち砕けッ!!」

 

突如として、上空から二つのミサイルが落ちてきた。それが大きな爆発を伴って、防人たちを吹き飛ばす。

「「「うわぁああああ!?」」」

「「「きゃぁああああ!?」」」

突然なことに加え、大量の防人たちが吹き飛ばされる。

「な!?」

「安心しろ、派手だが死人は出ない。だが、しばらく動けなくはなる」

爆発と水流が収まるころには、そこには大量の防人たちが転がっていた。

そのどれもが気絶していた。

「嘘だろ・・・・!?」

「嘘じゃない。お前が俺の結界を切ったように、今、お前達の大半が倒れた」

千景の傍に、二人の男女が降り立つ。

中年で、自身より大きい槍を持った男、森谷真武郎と、刀を携えた少女、水霜冬樹だ。

「千景、あれ、じゃあ、わかり、にくい」

「そう思ってるのはお前だけだよ冬樹ちゃん」

「悪いな。でも、信じてたよ」

千景は、銃を鎌に戻し、構える。

「芽吹!被害は・・・」

「三分の二がやられた!幸いどういう訳か死人はいないし重傷者もいない」

「そうか、なら良かった・・・」

「そう思ってるのはお前だけだ」

明日香を叱咤するかのように、優理が弓を構えて叫ぶ。

「あんな攻撃、他の奴らじゃ防げねえ!俺たちがやるしかないぞ!」

「うむ、そうだな!」

優理の言葉にうなずく様に、大槍を構えた『前田(まえだ)将真(しょうま)』が、真剣な表情で千景たちを睨みつけていた。

「ああもう、どうしてこうなるかなぁ!?」

そして、他の防人と同じ銃剣を持つ少年『羽村(はむら)(すばる)』が泣きごとを叫びながら、しかし誰よりも状況を理解しながら銃剣を構える。

「弥勒夕海子、加賀城雀、山伏しずく、正道明日香、前田将真、亜門優理、羽村昴以外の防人は、倒れた防人をすぐに安全な場所に移動させて!名前を呼ばれた人たちは奴らを迎え撃つ!いいわね!」

芽吹は防人部隊の隊長として指示を飛ばしている。

「えええ!?ちょ、ちょっと待って!どうして私が入ってるの!?死ぬって!さっきの見たでしょ絶対に死ぬって絶対!!!」

雀はなおも泣き言を叫んでいるが、それでもその場から逃げるような事をしない。

「待ってましたわ!ここで武勲を挙げて、我が弥勒家の名を世に知らしめて見せますわ!」

一方の夕海子は、やる気を出していた。どうやら、何かの野望を抱えている様だ。

「へっ、やっと俺の出番か、あの首かっ切ってやるぜ!」

先ほどまで大人しくしていた筈の『山伏しずく』が、いきなり豹変して荒い口調で銃剣を構える。

「行くわよ!明日香!」

「よっしゃぁあ!目に物みせてやらぁあああ!!!」

芽吹の言葉に、明日香は気合と共に、二振りの大剣を構えた。

 

戦いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

そして、その様子を、ビルの屋上から見るのは、五人の影。

「始まったな」

阿室佐奈が、開戦を告げる。

「そうですか・・・」

「んー、なんで私たちここで待機なんですかー?」

幸奈の呟きに続いて、美紀が退屈そうに足をパタパタさせる。

「仕方無いよ美紀ちゃん、僕ら、この世界を破壊しようとしたんだから」

「うう、美紀、我慢・・・」

「はぁい」

弘と真斗に諭され、不服そうに返事を返す。

「かなり被害を被っているな」

「なら・・・」

「ああ、助太刀した方がいいだろう」

暫定リーダーである佐奈が、そう答える。

それを待っていたといわんばかりに美紀が立ち上がり、弘と真斗もうなずく。

「行くぞ」

「はい」

 

「悪いが、行かせねえぞ。幸奈」

 

その時、声が聞こえた。

そして、幸奈は驚愕に目を見開く。

向かいのビル。その屋上に、五人の人影があった。

「誰だ!?」

佐奈が弓を構え、弘が西洋剣(レイピア)を構え、真斗がワンハンドハンマーを取り出し、美紀がナイフをその手に持ち身を沈める。

だが、幸奈だけが、構えなかった。

それどころか、その胸に手を当てて、激しい動悸を鎮めようと必死だった。

「・・・どう、して・・・」

目の前には、信じられない光景。

「どうして・・・貴方が、いるの・・・・信也・・・」

そこにいたのは、幼馴染の磯部信也、新井白露、浅羽海路、姉のように慕っていた桐間雅、そして、幸奈の知らない少女、安座間優。

「幸奈、知ってるのか?」

「・・・・前に私がいた、孤児院の幼馴染・・・」

「なに!?」

佐奈は思わず引き絞っていた弓の弦を緩めてしまう。

「幸奈ちゃん・・・・本当なんだね・・・・」

「まさか、幸奈が敵になってたなんて・・・」

どうして、ここにいるのか。どうして、こんな所にいるのか。

何故、私の前にいるのか。その全てが、幸奈には分からなかった。

何より、信也が立ちはだかっているという事実が、幸奈に大きな衝撃を与えていた。

「どうして・・・皆・・・・だって・・・・」

「幸奈、お前は知らないだろうけどな、あの街には秘密の御役目があるんだ。俺たちは、その御役目って奴をやってる。そして、お前達が狙っている奴を守る為に、ここにいる」

「待て、そいつはこの世界を殺す事が出来る力を所有していると聞いた。そんな奴を、お前達は守るっていうのか?」

佐奈が、信じられないとでもいうように、そう聞いてくる。

「何も知らないくせに・・・!!」

そんな佐奈の質問に、優は怒りの形相を持って睨みつけた。

そんな優をなだめるように、雅が優の肩に手を置く。

「確かにアイツは神を殺す力を持ってるよ。だけどな、あいつは、この世界を守る為にここに来たんだよ!アイツ自身、自業自得って言ってるけどな・・・それでもあの仕打ちはないだろ!」

今、千景たちは、防人たちと戦っている。何故、世界を救おうとしているのに、襲われなければならない。

「なんで、世界を守った筈のアイツが悪役にされなきゃなんねえんだ。なんで世界を守ろうとしているアイツがあんな目に合わなきゃなんねえんだ。おかしいだろ・・・なんでアイツだけがあんな辛い目に合わなきゃいけないんだよ・・・・俺たちが言えた事じゃねえけどよ。アイツは何も間違った事しちゃいないだろうが!!」

信也の怒号に、襲撃者たちは、呆気にとられる。

何を言っているのか分からないからだ。

世界を守った?それは一体いつの話だ?そんな突拍子もない話を出されても、理解できない。

だが、不思議と幸奈は理解していた。

「・・・・そう、私が知らない間に、そんな事があったのね・・・」

「・・・このまま引いてくれれば、俺たちは戦わなくて済む。頼む、引いてくれ」

信也は、幸奈にそう頼む。

確かに、ここで戦って、利益なんてないかもしれない。

だけど―――

「・・・ごめんなさい。それは、出来ないわ」

首にある、毒薬入りの首輪が、それを許さない。否、それ以前に、幸奈は、自分の罪を償う為に、ここに立っているのだ。

アモルによって洗脳されていた事で、正気に戻って、第一に自分がした事を思い出した。

そして、決めたのだ。この力を、この、『黒百合』の力を、世界を守る為に使うと。

「たとえ、世界を守る為といっても、彼が神樹から力を奪える事には変わりない。何かの手違いで、神樹の力を全て奪い取って、神樹を殺しかねない。そうなれば、この世界は終わってしまう。だから、ごめんなさい」

幸奈は、構える。

「ここは、引けない」

幸奈は、真っ直ぐに、信也たちに向かって、そう言い切った。

その言葉に、応えるように、他の襲撃者たちももう一度構えなおす。

「何言ってるんですか、千景さんがそんな事・・・」

「しないとは言い切れない、でしょ?優ちゃん」

「え・・・・」

『ちったぁ落ち着けよ馬鹿。どっちにしろ、切羽詰まったらアイツが神樹から力を奪う事には変わりねえんだからよ』

虚が、そう諭すように優に言う。

優は、その言葉に、激しく歯噛みするも、渋々と了承する。

「どうする?信也」

白露が聞く。

「・・・・幸奈は俺がやる」

「そっか・・・わかった。出来るだけ集中できるようにするよ」

白露は、手の先から鋭い爪を露出させ、構える。

海路は狙撃銃の引金に手をかける。

雅は鉄扇を閉じ、能力発動の為に構える。

優は空手の構えを取り、信也は、深く身を沈めて、突撃の構えを取る。

 

 

 

 

千景、真武郎、冬樹は防人と、信也、優、白露、雅、海路は幸奈たち襲撃者と。

 

 

 

 

それぞれ、激突する。




次回『救導者VS防人&襲撃者』

激突する、力。
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