不道千景は勇者である   作:幻在

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負けず嫌い

斬撃が交錯する。

二丁の銃剣につけられた短剣による斬撃に対して、鎌の斬撃が応酬する。

人間離れした身体能力及び反応速度、身のこなしで、ぶつかり合う千景と芽吹。

弾丸もかくやという速度で動きまわり、銃剣から銃弾が放たれ、鎌の斬撃が飛来する。

「『断鎖』ッ!」

鎌の斬撃が鎖となり、芽吹に飛来する。

それに対して芽吹は飛んで体を回しかわし、そのまま銃弾を三発連続で放つ。

それを千景は鎌を回して弾き飛ばす。

一進一退。銃剣を手の上で踊らせて弾丸を放ったり斬撃を繰り出してくる芽吹に対して、千景はリーチの長い大鎌と鎖で反撃している。

突如として芽吹の蹴りが飛んでくる。

「ッ!?」

横薙ぎでくるそれを頭をさげて紙一重でかわす千景。傾きかけた体を片足を下げて支え、そのまま戻る反動を使って鎌を薙ごうとする。だが、それよりも速く、二段構えで芽吹の蹴りが千景の腹に突き刺さる。

「がっ!?」

そのまま吹っ飛び、コンテナに叩きつけられ、いくつか弾き飛ばす。

芽吹はそのまま銃剣を千景が吹っ飛んでいった先に向ける。

警戒したまま、睨み付ける芽吹。

だが――――

「ッ!?」

突如として芽吹がその場でサマーソルトを披露しだした。

いると、先ほどまであった芽吹の足の所に、いつの間にか黒い刀身が突き出ていた。

(これは――――)

芽吹は迷わず()()()()に向かって銃弾を連射する。だが、弾丸はどれも地面を穿つだけで、刃はすぐさま影の中に引っ込んでしまった。

「――――ったくこれかわすかよ普通!?」

しかし、今度はコンテナの影から千景が走り出てきた。その姿は変化しており、白かった装束は、黒く染まり、まるで『影』のように暗かった。さらに千景の皮膚に黒い入れ墨のようなものが体中を駆け巡っていた。その千景に向かって飛んだまま芽吹は銃剣から銃弾を放つ。

それに対して、千景は向かいのコンテナの作る『影』に足を踏み入れた途端、()()()()()()()()()()

「ッ!?」

それに目を見開く芽吹。

だが、それを思考する間もなく、千景が、芽吹の影から躍り出て、その背中に右逆手に持った忍者刀を横一文字に薙ごうとする。

しかし、芽吹はしゃがんでその一閃を躱し、薙がれた事によって反時計回りに捻られた千景の脇腹に蹴りを叩き込もうとする。

「『影身代(かげみがわり)の術』・・・」

しかし、芽吹が千景の脇腹に蹴りを炸裂させた瞬間、千景の姿がシルエットのように真っ黒になり、芽吹の蹴りをすり抜ける。

「ッ・・・!?」

流石に芽吹もこれには驚く。実態あった人間が、突然、真っ黒な『影』となってしまったのだから。

だが、思考する間もなく、千景が影から出てくる。

それに芽吹は驚異的な反射神経で、銃口を千景に向け、五、六発を連射。

それに対して千景は――――――両手の拳銃を向けた。

(刀じゃない・・・・!?)

ついでに装束も変化しており、入れ墨はなくなり黒かった装束は灰色のロングコートへと

「『弾撃(バレットカウンター)』」

芽吹が放った銃弾と同じだけの銃弾を撃ち返し、そして、()()()()()()()。弾丸はどれもてんでバラバラな方向へ、否―――――

「ッ!!」

跳弾して()()芽吹に向かって飛んで行った。

その全てを、芽吹は恐ろしいほどの身のこなしで躱す。全て必中の筈の十二発の弾丸を、全て躱したのだ。

「これも躱すのかよ」

千景は歯噛みする。

ならば―――――

「――――土居さんッ!!」

『おうよ!』

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』――――『焼却砲・解』ッ!」

突如として両手の拳銃が光となり、千景の両腕全体にまとわれ、そこに機械的な腕が出現する。

同時に、彼の周囲の地面が()()()

「な・・・!?」

彼から放たれる圧倒的熱量が、おおよそ半径五メートルの空間を焼いているのだ。

その熱量は、おそらく彼の変わってしまった両腕から発せられているのだろう。さらに、熱量だけで何かしらの磁場が発生しており、千景の体が浮く。

そして―――――千景が攻撃を仕掛ける。

両肩のジェット噴出孔から炎が噴き出し、千景を一気に芽吹に接近させる。

その、ジェット機顔負けのスピードで放たれる飛び蹴りは、さながらミサイルの如く。

しかし、芽吹はそれを足を折り曲げ、背中をそらすことで回避する。あまりにも無理な態勢でだ。

「ッ!」

かわされたと悟るや、掌から炎を噴出し、一瞬の減速と体を向きを変え、上空へ飛ぶ。そして、右足を掲げ、ジェット噴出によって高速回転、地面にいる芽吹に向かって隕石の如き踵落としを繰り出す。

それを芽吹はその場から退避する事でかわし、一方空振りに終わった千景の踵落としは地面に巨大なクレーターを作り出した。

回避する際に飛んだ事によって未だ空中にいる芽吹。

舞い上がる土煙の中、その煙が突如として緋色に輝く。

「やばッ・・・・」

「『焼却砲』ッ!」

左手から放たれる、灼熱の砲撃。芽吹は、両手の銃剣をある方向に向けて発砲。反動によって地面に向かって落下することでその砲撃を回避する。

「かはぁー・・・」

焼却砲がそのエネルギーを全て吐き出したところで、千景が口から()()()()()

(くそ、これ、結構体力もってかれる・・・・)

『ひゃっはぁぁあ!!まるでサイボーグみたいだなこれ!』

(お前・・・いくら自分の体力削れないからといって酷使の度合いを考えろッ!!)

『悪い悪い・・・・っと、来るぞ』

球子に促され、構える千景。

視線先、そこには、どうにか焼却砲を回避した芽吹がこちらを睨み付けている姿があった。

「あー、降参してくれると助かるんだけど・・・」

「冗談。こう見えて、私負けず嫌いなのよね」

「だよな・・・・なら、仕方ない」

構える千景。格闘戦特化型の真解『焼却砲』。それの、無限限界突破バージョン。

対して芽吹は、己の身体能力の限界を超えて全自動回避および攻撃を可能とする戦いの境地『鬼気・極限羅刹』。

互いに体に重大な負荷がかかる状態で、先にくたばるのはどっちか。

我慢比べの戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

一方で―———

「やっぁあああ!!!」

「どっせぇええい!!!」

冬樹と明日香が空中で激突する。

が、吹き飛ばされたのは明日香。

「ぐおおあああ!?」

大きく弾き飛ばされるも、まるで翼でも生えてるかのように空中を飛行。そのまま再度冬樹に突撃を仕掛ける。

「どりゃあああ!!」

「せぇええい!!」

明日香の再度の攻撃に、冬樹もその手の刀を振るう。だが、空中で身動きの取れないはずの冬樹と空中で加速できる明日香では、圧倒的に明日香の方が威力が勝っているはずなのに、どういう訳か明日香の方が吹き飛ばされる。

「ぐおああああ!?」

またしても吹き飛ばされ、地面に斜めに叩きつけられコンテナをいくつかふっ飛ばす。

普通、ここまでされたら誰だって突撃を諦める。

だが、この正堂明日香という男は、あまりにも諦めが悪かった。

「まだだぁぁぁああああ!!!」

「ッ!」

再度突撃を敢行する明日香。もはや無謀としかいいようがない。このパターンはもう何十回と繰り返しているのに、明日香はやめるなんて事を一切しない。

「しつ・・こい!!」

先に我慢の限界が来たのは冬樹。刀を左肩より高く構える。そして、渾身の力を込めて、振りおろす。

その瞬間、明日香の表情がこれまでにないくらい不敵な笑みを浮かべた。

(ッ!?しまった、誘われた!)

気付いてももう遅い。

冬樹の繰り出した本気の一撃へ、突撃の軌道をわずかにでもずらした明日香へ直撃する事なく空振りに終わり、そして、冬樹の左側へ抜けた明日香は、冬樹の背中へ右手の大剣を振り下ろす。

「くッ!」

振った反動を利用して振り向き、冬樹は明日香の渾身の一撃を受け止める。

「あああ!」

今度は冬樹が叩き落されて地面に垂直に墜落する。

土煙が舞い上がる中、冬樹はなんでもないようにがばりと起き上がる。

「舐め、るな!」

「だろうなぁぁああ!!」

立ち上がったばかりの冬樹へダメ押しの追撃を繰り出す明日香。

冬樹は、その突撃の突きを刀で受け止める。

衝撃波が周囲の大気を震わせ、冬樹と明日香は鍔迫り合いとなる。

「どんだけの馬鹿力なんですかぁー!俺の唯一の自慢がなんかとられちゃってるんですがどうしましょうかねこれ!」

「しら、ない!つい、でに、鎌倉、時代の、武士は、皆、ばけ、もの、って聞いた、事が、ある」

「なるほどね。でも、俺は負けん!諦めるのは論外!」

「いって、ろ!」

冬樹が明日香を弾き飛ばす。

「パワー、が、自慢、みたい、だけど、私には、敵わ、ない」

「へへ、行ってくれますねぇ。そんなのやってみなきゃわかんねえだろうが!」

「ッ!?」

押し返される冬樹。

「嘘・・・!?」

「まだまだぁ!」

明日香が両手の剣を交互にふるう。その合間は無いに等しく、あまりにも細かく速い。

とにかく洗練されているのは確かだ。

左手の剣が下から斬り上げられ、それを受けた冬樹の体が大きく仰け反る。そこへすかさず右手に持った剣を掲げ、垂直に叩き落す。

 

――――対天剣術『滝打』

 

振り下ろされるその一撃を、冬樹は、どうにか地面につけた足を蹴って横に転がるように避ける。一方の躱されたその一撃は、地面を砕いて、土煙を巻き起こす。だが、冬樹が避けたのは明日香の左側。故に、明日香は横に構えた剣を左側から一気に薙ぐ。

「『水圧操作』ッ!!」

逆さまの状態のままつま先から水を噴出。その勢いを利用して体を垂直にしてその横薙ぎをかわす。地面に足をついて、そして、その猛烈に無理な態勢から剣を薙ぐ冬樹。

「ぬあ!?」

それをギリギリのところでかわす明日香。

「逃がさない・・・!!」

態勢を立て直し、右手に持った刀を体の左側に構え、その刀身の鍔元を左手でぎゅうっと握りしめて、腰を限界まで落とす。

「居合―――『抜影(ぬきかげ)』ッ!」

そして、その状態で抜刀術を放つ冬樹。強く握られた左手によって制動がかかり、デコピンの原理と同じように放たれたその一撃は、空気を切り裂いて真空の刃として飛ぶ。

「なろっ――――!?」

それをすぐさま剣で切り払おうとした明日香だったが、やめ、避けに行動を変更して上空へ逃げる。

「よけた・・・!?」

その判断は正しく、あれは冬樹の持つ圧倒的膂力によって生み出された()()()()。故に、明日香の剣では正す(無効化する)事はできず、逆に弾かれてしまうのだ。

「どりゃぁあああ!!」

すかさず明日香は反撃の突撃を敢行する。

「くっ!」

それに苦い顔をして冬樹はその攻撃を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

「・・・げほっ!げほっ!・・・ああ、酷い目にあった」

真武郎が、何もかも()()()()()()()()工場のコンテナ置き場で起き上がる。

「ふう・・・『物体破壊』解除しておいて正解だったな」

御神刀には、ある機能があり、それを使えば相手の人体を傷つけることなく精神のみを刈り取って倒すことができる。それの機能さらに強化して人間だけでなく物さえも傷つけないようにすることが可能なのだ。故に、真武郎が吹き飛ばしたのは防人の意識だけで、あとは何もかも無事なのだ。それなら別に真解を使ってもよかったのではないのかと言いたいところだろうが、いくら御神刀といっても敵味方を区別することはできない。故に、巻き込む可能があったから使わなかったのだ。

真武郎を周囲を見渡し、すぐそばに土のドームがあることに気付く。

それに警戒しながら近づいて、壊してみると、そこには気絶している三人の防人がいる事に気付く。

「よっし、ちゃんと気絶しているな」

真武郎は安堵の息を吐いて、真武郎は周囲を見る。

すると、向こうの方で大きな爆発が連続で起きていた。千景のいる方だ。

「うわぁ、やってるねぇ・・・と、いけねえいけねえ」

真武郎は何かを思い出すかのように、すぐさま何かを探すかのように周囲を見渡した。そして、ある一点を見て、呟く。

「さぁて、一番初めに終わった俺が奏ちゃんを迎えに行かないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・さむ」

オフィスの受付の机の陰に隠れて、佐奈はそうつぶやいた。

「幸奈の奴がスリュムを使ったな・・・・」

佐奈は、懐からある黒い毛皮を取り出す。

「・・・」

それは、あの決戦の日に、園子を殺すために使った、呪いの毛皮。

 

神話に曰く、とある国の王が神々へと生贄を捧げる際に、たった一柱にのみ捧げず、その神の怒りをかってしまい、その神から神罰のための魔獣を送られた。その魔獣によって国は被害を受けたために、国中から優れた狩人を集め、これの討伐に向かわせた。

しかし、無事に討伐することはできたが、その毛皮をどうするかでもめてしまい、争いは殺し合いに発展。ゆえに、その毛皮は神の怒りと殺し合いをした狩人たちの憎悪と血を一身に受けてしまい、呪われた。

 

これを纏えば、猪は魔獣に、人は凶悪な魔人へと変貌してしまう。

だが、それで確かな強化を促せるのは確かなのだが。

「・・・だめだ。これは使わない」

佐奈はそれをしまい、弓を握りしめる。

「・・・・行くか」

短く呟き、佐奈は受付の机の壁の方に向かって矢を放つ。矢は壁を砕き、佐奈はその砕かれた壁の穴を通って、廊下に出て走る。

そして――――

 

 

 

「・・・・チッ」

舌打ちをする海路。

「仕留めきれなかったか」

伏せていた状態から立ち上がり狙撃銃を構える。

そして、狙っていたビルのある窓から、窓を割って飛び出る、一人の女性が姿を現す。

そして・・・

「・・・目標を補足、これより追跡を開始するッ!」

空中に飛び出したまま、佐奈は弓を引き絞って、そして放った。

 

 

 

 

 

拳と脚がぶつかり合う。

「ドッラァ!」

「あう!?」

信也の蹴りが、幸奈の顔面を捉え、蹴り飛ばす。大きくのけ反った幸奈の体だが、どうにか踏みこらえて、身を屈めてボディーブローを叩き込もうとする。

しかし、信也は幸奈を蹴った右足を引き戻し、その拳に足を叩きつけ、その際の衝撃全てを殺して大きく飛び上がる。

「あ・・・・」

空襲脚(スカイウォーク)ッ!!」

信也の脚は今や人知を超えた脚力を有している、ゆえに、信也は、()()()()()()()()()()()()事が出来る。

空を蹴り、加速し、そのまま落下の威力さえもプラスしてライダーキックよろしくの飛び蹴りを放つ。

「ッ!」

あまりの速さに、幸奈は防御を選択。ほぼ垂直から来る攻撃を受け止める。

「ぐっぅっぁ・・・・!?」

「ドララララァッ!!!!」

さらにダメ押しの乱打。

最後の一撃で飛び上がり、幸奈の真正面のアスファルトに着地した信也。その前傾姿勢のまま、地面を蹴って、幸奈に突撃をする。

「くっ・・・・!?」

避けようとするが、先ほどの一撃によって脚が地面にめり込んで動けない。

一方の信也は、右足に炎を纏う。それはまるで地獄の業火のような勢いで信也を包み、巨大な火球へと変化する。

「―――――日輪(ひのわ)

信也が、自らの射程に、幸奈をとらえる。

「―――『火爪穿(ひづめうがち)』ッ!!」

全てを焼き尽くす、炎の一撃が、幸奈の腹に直撃し、吹き飛ばし、ビルに叩きつける。

ビルのコンクリートの壁が砕かれ、煙が舞う。

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・やったか?」

信也の真解『炎帝之蹴馬』の代償は、体の体温調節機能の()()

すなわち発汗が出来ずに、ただひたすらに体温が上昇し続けるのだ。

ただ、使用者の負担を減らすために、炎や外部からによる気温の変化では体の温度は変化しないように出来ている。だが、体を動かす際に生まれる熱だけは別だ。

運動すれば体は温まる。その言葉通り、信也の体温は、激しい戦闘による運動によって上昇し続けている。

人が耐えられる体内温の限界は四十から五十まで、それを過ぎればたちまち脳が解けて死んでしまう。

それほどまでに、信也の真解は危ないものなのだ。下手をすれば、千景の『限界を開放した分だけの衝撃が一度に返ってくる』のような代償よりも危険なものなのかもしれない。

幸い、幸奈が吹雪を起こしているために体温は一定に保てているが、このまま続ければ、体温以前に体が真解に耐えられない。

「耐えてくれよ・・・ッ!」

突然、身構える信也。その理由は、巻き起こる煙の中から幸奈が現れたからだ。

その体はボロボロ。信也の足は炎を纏っているために、幸奈の体には火傷の後が多く残っていた。

ここまで、一方的ともいえる戦いとなっていたが、幸奈の拳は、大きく、重く、受ければ一撃で体を砕かれ戦闘不能(リタイア)に陥る可能性があった。

しかし――――

「ハア・・・ハア・・・・しん・・や・・・くん・・・・」

「・・・・」

やはり、幸奈の目がとてつもなく怖い。

何かを求めているのが目に見えてわかる。だが、その求めているものが、どうにもおかしなものな気がしてならない。その、並々ならぬ雰囲気に思わず後ずさる信也。

だが、ここで幸奈を叩かなければいけない。だから信也は身を屈めて突撃の姿勢をとった。

その時―――――

 

『――――全救導者に通達!敵幹部『ヒュアツィンテ』の検査に成功及び終了!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっとか!」

白露が真斗の攻撃を避けながらそう声をあげる。

「わかりました。今すぐ撤退します」

優が冷静に応答し、その場から離脱を始める。

「ここまでようだな。おい、他で終わらせたやつはいるか?」

海路が他の者たちに連絡を取る。

「おう。今、行ってるぜ」

それに真武郎が応答し、

「じゃあ任せたわよ。逃げ道は任せて」

雅が高く飛び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに連絡していたんですか?」

ヒュアツィンテが、奏に問う。

「何の話かしら?」

瞬間、奏のすぐそばで衝撃が爆ぜる。

「質問をしているのは私ですよ?連絡をしていたでしょう?」

その声に苛立ちは感じられない。

だが、明らかに苛立っているのは確かだ。

「・・・・撤退の命令をしていただけよ」

「あらつまらない。このまま殺し合ってくれれば、手間が省けるのに」

「お生憎様。貴方たちの思い通りにそう簡単にさせてたまるもんですか」

と、言ってはいるが、幸奈は、創代から教えられた検査結果に衝撃を受けていた。

(それってマジ・・・?)

にわかに、信じられない。だけど、あの神が、間違えるはずがない。

なんていったって、自身が信じる神様なのだから。

「では、そろそろこれを解いていただけないでしょうか。今回の事をあの方にご報告しなければならないので」

「あ、そう・・・いいわ」

奏がそう呟くのと同時に、ヒュアツィンテを囲っていた結界が消滅する。

「随分と気前がいいですね。まあ、今回はこの気前の良さに免じて問答はしないであげましょう。では、私はこれで、ごきげんよう」

その言葉と共に、ヒュアツィンテはその場から飛び上がる。黒い流星を想起させるように飛んでいき、やがてまやかしの夜空に消えていく。

「・・・・っぁ」

次の瞬間、奏の足から力が抜け、体中から脂汗が流れ出る。

(こ・・・こわかったぁ・・・・)

あまりにも張り詰められた空気から解放され、四肢が弛緩してしまったのか。立つことが出来ない。

重圧な殺意と憎悪に塗れた空間で気丈に振る舞うなんて、あまりにも無理があった。

それも、創代に精神を保っていてもらわなければ、すぐに失神してしまうかもしれない程だった。

それほどまでに、彼女は強大だった。

「これが・・・かの・・・英雄の・・・・・の・・・・憎悪・・・・」

掠れた声で言葉を紡ぎ、そして次に聞こえた声で、奏は、()()()()()()()()()()()()()()()()

何を血迷ったのか。しかし、彼女が地面に叩きつけられて、血をまき散らして肉片になることはなかった。

「はい落下一名様ご案内~」

真武郎が落下中に受け止めたのだ。

「ありがとうございます真武郎さん」

「どういたしまして。そろそろ他の奴らも来るぜ」

次の瞬間、轟音と共に、全てを飲み込む闇の砲撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 

そして―――――

あまりにも激しい高速戦闘の中、ふと千景が芽吹から距離をとる。

「!?」

「悪いな。そろそろ退散しなくちゃらならくなった」

「な!?逃げる気!?」

「そういうことだ」

千景の姿が光る。

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』―――『鎖』『解』―――『解限咎乃鎖(かいげんとがのくさり)』」

それは、先ほどの、エーデルワイスを想起させる白い装束。

「そんじゃ、逃げるが勝ちって事で」

「待ちなさ――――!?」

逃げる千景を追いかけようとするが、突然体から力が抜けて、無様に地面に倒れる芽吹。

「こ・・・これは・・・・!?」

「流石に無理があったか。『鬼気・極限羅刹』てのは、武の境地なだけあって、体力的にかなり負荷かけてたんだろ」

千景が立ち上がれない芽吹を見下ろしながら、そう告げる。

事実、芽吹は今日初めて『鬼気・極限羅刹』を使ったのだ。夏凜も例外なく、数日ぶっ通しで寝ていたのだ。

「ぐ・・・くそ・・・・」

「悪いな。今度会うときは、味方同士である事を祈ってるよ」

ふと、千景は芽吹に歩み寄り、一枚の紙を彼女の前に落とした。

そして、鎖を出して、飛び上がり、そのままどこかへ立ち去って行った。

「・・・・」

その様子を茫然と見ながら、芽吹は仰向けになって、仮初の夜空を見上げた。

「・・・・なんなのよ」

悔しそうにそう呟きながら、芽吹は、千景が置いて行った紙を見る。

「・・・・これは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、明日香も同様に夜空を見上げていた。

「・・・・だぁー!逃げられたぁぁぁああ!!!」

叫び、地面を転げまわる明日香。

実は先ほど、冬樹に地面に叩き落された際に、水によって体を拘束され、そのままの状態で逃げられたのだ。

なので、拘束が解かれた後でもこうして地面に寝転がっていたのだ。

「はあ・・・まあ、剣交えてみて分かったけど、()()()悪い奴らじゃなかったんだな・・・」

冬樹と剣を交えて、明日香は冬樹の剣から感じたひたむきさを感じていた。

一介の剣士にしか分からない境地なのだろうが、それでも明日香は、冬樹の心情を察していた。

起き上がる明日香。

「芽吹と相談してみようか・・・」

(できる事なら、防人の皆とも、相談すべきだよな)

明日香は、心の中でひそかにそう決め、立ち上がる。

「へへ、次会う時は、味方だといいな」

明日香は、冬樹が去っていった方向を見ながら、そう笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな」

「え・・・」

ふと信也が幸奈に背を向ける。

「信也君・・・?」

「どうやらこっちの目的が達成したみたいだからよ。ここで退散させてもらう」

「ま、まって・・・!」

幸奈は思わず信也を引き留めようとする。

「い、いかないで・・・・」

掠れるような声で、そう、引き留めた。だが、

「・・・・お前が、置いて行ったのにか?」

その言葉に、幸奈は、その体をびくりと震わせる。

そして、その手を、力なく下ろした。

そうして、信也は、振り返ることなく飛ぶ。

その様子を、幸奈は力なく見送り、スリュムの解除と同時に、その場に膝をつく。

「う・・・うう・・・・うあぁぁあああ・・・・!!」

そして、その場に蹲って、泣き叫んだ。

 

 

 

だが、幸奈は気付かない。

 

 

 

 

「・・・・くそ、なんであんな事言うんだよ・・・・」

信也が、ずきずきと痛む胸を押さえながら、苦しそうな表情を浮かべていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事前に指定していた集合地点にて。

「・・・・お」

千景が信也に気付く。

「信也、が、最後、だね」

「ぷぷぷー、おっそーい」

「よぅしいい度胸だ白露。今その顔面蹴り飛ばしてやるッ!」

「はいはい喧嘩しない喧嘩しない」

今にも喧嘩に発展しそうだった信也と白露を雅が止める。

と、そこで。

「あー、そんな訳で・・・」

千景が頬を掻きつつ、皆が頷いた事を確認したところで―――――

 

絶叫が夜の街に鳴り響いた。

 

「ハア・・・ハア・・・」

「千景さん、大丈夫ですか?」

「悪いな優・・・」

「い、いえ、これぐらい・・・」

地面に力無く倒れ伏す千景を優が担ぎつつ、一同は奏の方を見る。

「それ・・・で・・・奏・・・さん・・・・例の・・・結果は・・・・」

「ええ、ばっちりよ」

『どうだったんですか!?』

杏が千景の脇差から現れ、奏に詰め寄る。

「落ち着いて杏さん。そうね・・・なんて言えばいいのかしら・・・貴方の懸念通りだったと言っておきましょうか」

「そう・・・ですか・・・・」

千景は、辛そうに顔を俯かせる。

『そんな・・・・それじゃあ・・・・』

杏の狼狽に、奏は、頷きをもって肯定するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、少女は今日も、夢の中で涙を流す。

 

 

 

 

 

 

戦いの日は近い。




次回『束の間の休息』

その土曜日は、とても重くて。


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