不道千景は勇者である 作:幻在
防人、襲撃者からの襲撃から逃れて、早一晩。
千景たち救導者一同は、持参していた野宿セットで山の中で夜を過ごした。
そして、敵の襲撃の前日の昼。千景は―――――
街の中を走っていた。
「くそぉ!どんだけ追いかけてくるんだよあいつら!?」
左手の神奪で位置がばれるのが分かる。
だが、今問題なのは、創代によって作られた体によって超人的な身体能力を発揮している千景に追いすがってくる
千景の体は、あの大決戦の日に神樹によってその身体機能全てを奪われた。
その為、創代に体を作ってもらい、そのお陰でその気になれば御神刀使用時の身体能力の四分の三の身体能力を発揮する事が出来るのだが、どういうわけか千景の背後から追いかけてくる者たちはその千景に追いすがっているらしい。
『そこ、右に曲がってください!』
「ッ!」
杏に誘導され、千景は十字路をほぼ靴底のスリップ無しに直角に曲がる。
『前に三人、待ち伏せがいます!』
『飛べば流星錘の餌食になるわよ。殴り飛ばしなさい!』
「了解ッ!」
体の中にいる者たちの言う通りにして、千景は人混みの中見えた三人の敵を視認。
そのまま真っ直ぐ、突っ込んでいく。
一方の相手は、身構えつつも、
身を低くして、人混みを走り抜ける。
そして、眼前にスーツや作業服、あるいは私服を着て人混みに紛れていた大赦の役員たちと対峙する。
その距離は千景があと三歩踏み込むだけで到達する距離だ。
このまま突っ込んでも、すれ違いざまに当て身をされて終わりだ。ならばどうする?
千景は、突然、自分の前方に両手を突き出した。そしてその手を地面につける。
そのまま彼は逆立ちになって、目の前にいた男に向かってかかと落としを放つ。
男は千景のあまりにも奇天烈な攻撃に驚きつつも、冷静に横に避ける。
空振りに終わった千景のかかと落としだが、すぐにその足を折り曲げて足の裏を地面に叩きつけ、その反動を使って立ち上がる。
それを待っていたと言わんばかりに、男の右手が首に迫る。
だが、その手が千景の首をつかむ前に、千景の腕が蛇のようにその男の右腕に巻き付いた。
その行動に、男は目をむく。
スネイクアーツ『絡み折り』
千景が、その腕を伸ばした瞬間、男の右腕から、バキンッ!という音が鳴り響き、男の右腕の関節が曲がってはいけない方向に曲がる。
「ぐあ・・・」
「悪いな!」
絡めた腕を外して、千景は一気に走り抜け、路地裏に逃げ込む。
その後を男たちは追いかけてくるが、そこに千景はいなく、見失ったと言わざるを得なかった。
一旦、周囲を見渡した男たちはすぐに走り出す。
そうして、誰もいなくなった路地裏のごみ箱から。
「・・・・行ったか?」
『一応わね』
ゴミ箱から出てきた千景の言葉に歌野が答える。
『なんとか撒きましたね・・』
『さっきの絡み折りは良かったわよ。どれ?もう少し伝授してやってもいいわよ?』
「それはまた次の機会で」
どうにか追手を撒いた千景はフードを深く被って、再度、隠密装備の隠密機能を発動させて、大通りに出る。
(あれが六道家・・・大赦の闇を任されている一族か・・・)
『火野が覇権を握ってから、火野自身が作った一族でね、次男に六道の名前を与えて、大赦の闇全てを任せたのよ。あの時、残っていた書物全部を読み漁って、その技術の全てを叩き込んだそうよ』
『その結果が、あの六道式って訳ね』
六道家。
上里家初代当主上里ひなた、本名足柄火野が、自分の二番目に生まれた子供を使って作った、大赦の闇を任された一族。
その活動内容は、まず、上里に反抗する者たちの粛清。クーデターが起こりそうになったらその火種の根絶やし。情報収集。機密事項の管理。上里家当主の護衛など。
主に粛清などの『暗殺』を主に活動する家系であるが故に、その殺してきた数は数知れず。
そんな血塗られた一族の末裔が、翼なのだろう。
即ち・・・・
(一歩間違えれば、俺は翼に殺されていたのか)
下手をすれば、翼は誰よりも残酷な存在になっていたかもしれない。
そう思うと背筋がぞっとするのは否めない。
改めて、あの時は味方で良かったと安堵する。
それはともかく、千景は現在『
歌野のスネイクアーツは、どうやらあの追手たちの技術を勝っていたようだ。
「あいつら・・・上手くやってるかな・・・」
千景は、ただいま別行動中の仲間たちの事を思った。
千景は、自らの持つ神奪によって場所を特定されている事を視野にいれ、別行動をとっていた。
その為、敵の襲撃に備える為の『仕込み』をしていた雅であったが。
(どうしよう・・・・)
公園にて、雅は・・・・
(こんな所で、結城友奈に会うなんて・・・・)
ベンチに座って、完全に落ち込んでいる結城友奈を見かけてしまったのだ。
あまりにも暗い雰囲気を纏っている様子から、周囲の人たちも彼女に近付こうとしない。
一方の彼女はそれを気にした様子もなく、遠くで遊ぶ子供たちを眺めていた。しかし、その子供たちが笑顔になる度に、重い溜息を吐いていた。
「・・・」
さらに一方の雅は、どういう訳かその場から立ち去る事が出来なかった。
比較的設置に時間が掛からず、昼頃にはすべての『仕込み』を終わらせてしまった為にぶらぶらしていただけだったのだが、どうにもこうにも、雅は彼女に出会ってしまった。
(千景の話じゃ笑顔の絶えない子だって聞いてたけど・・・今の様子じゃ、その面影は全く無いわね)
そんな友奈に対して、雅はしばしの逡巡の後に・・・・
友奈の座るベンチに腰をかけた。
それから少しの沈黙の後に、
「・・・どうかしたの?」
雅は友奈に話しかけた。
一方、白露と冬樹の方では。
「「・・・・・」」
「「・・・・・」」
三好兄妹に出くわしていた。
ファミレスで昼食を済ませようとしただけなのに、なんの偶然か相席になってしまったのだ。
互いに向かい合って無言。あまりにも気まずい空気。
(ど、どうしよう冬樹ちゃん・・・)
(そん、な、事、いわれ、ても・・・)
この状況は完全に予想外。
ただゆっくりと食事をしたかっただけなのに、こんな所で勇者部の面子に会うなんて、悪運が良いにも程がある。
しかも、兄である三好春信はただ無言でその手に持つ手帳をじーっと眺めており、妹の三好夏凜は落ち込んでいるのか机に突っ伏していた。
その空気は、あまりにもどんよりとしていた。
そんな状況で、ゆっくりなんてできるわけが無かった。
さて、この空気をどうすればいいのか。そう思案にくれる二人であったが。
「・・・・ごめんなさいね」
「「え」」
いきなり夏凜が口を開いた。
「こんな辛気臭い空気にしちゃって。ゆっくり食べたかったでしょう?」
「ああいえ。たぶん、そっちの事情が関わっていると思うので、わたくしどもの事はお気になさらず」
「気に、しない、で」
無理に笑顔を作ってどうにか心配させないように取り繕う二人。
「・・・・心拍が妙に早いな」
「へ?」
だが、春信という男だけはどうしても欺けない。
「視線も明後日をむいているうえに声音も僅かに上擦っている。嘘をつくならその点でもう少し努力をし・・・ぬぐ」
瞬間、ガスッ!という鈍い音が響く。
「そういうデリカシーのないこと言わないッ!」
「しかしだな・・・・」
「人の善意を無駄にするなっていってんの!」
「むう・・・」
妹に押し切られ、しぶしぶと言った表情で黙る春信。
これが勇者なのだろうか。
真っ先に思ったのがこれだ。
こんなテンションの奴らが、世界の守護者たる勇者なのだろうか。
そう思って、即座にその疑問を否定する。
こんなテンションなのは自分たちも同じか、と。
と、そう思っている間に、また夏凜が机に突っ伏す。
「・・・何かあったので?」
あえて、聞いてみる事にした。
「んー」
唸るような声。真面目に何かを考えているようだ。
一方の春信は何も言わない。
「・・・・アタシたち、実はある部活やっててね」
そこで、夏凜が語りだす。
「『勇者部』っていうんだけどさ。で、ちょっとした事情で、
「ッ!」
その言葉に、二人は息を呑む。
「そのおかげで、部活の友達が、とても落ち込んでいて。励まそうと思っても、空振りに終わっちゃってね・・・」
自嘲するように笑い始める夏凜。まるで、自分自身を憐れんでいるかのように。
「どうにかしたい、って思ってるんだけど・・・どうにも、アタシ自身も忘れてるから、どうにも出来ないのよね・・・・」
その夏凜の自白に、二人は、何も言えない。
やがて夏凜がフッと笑い、その体を持ち上げ、背もたれに体重をかける。
「ごめん、こんな話をしてもしょうがないわね。でも、話したお陰で少しすっきりしたわ。ありがとね」
「ああ、ううん。こっちこそ、なんだか力になれそうになくて、ごめんね」
「そう・・・そうだ。こうして話し合ってるのも何かの縁だし、奢ってあげるわ」
「え!?」
「そんな、滅相も、ないこと・・・・」
夏凜の突然の提案に、思わず動揺してしまう二人。
「おい」
「いいじゃない。どうせ兄貴のお金の使い道、無いも同然なんだから」
「お前の場合はサプリの買い過ぎじゃないのか?」
結局の所、押し切られてしまい、白露と冬樹は奢らされてしまった。
ファミレスの前で別れ、冬樹と白露は並んで歩く。
「・・・なんだか、いい奴らだね」
「うん。千景、が、言ってた、とおり・・・・・」
その事実に、二人は寂しそうに笑う。
「ここで過ごしてきた事は、千景にとって、とても大切な事なんだね」
だから、彼は思うのだろう。
ここを守りたい、と。
「・・・・冬樹」
「言わなくて、良い。私も、おんなじ」
「そっか」
二人は頷き合い、仕込みを終わらせる為に、別れる。
一方、夏凜と春信はというと。
「・・・あの二人、何か知っている風だったわよね」
「ああ。お前があれを言ってから、あいつらは目に見えて動揺していた」
「・・・敵、じゃないといいわね」
「さあな。だが、俺の見立てでは、奴らは園子の言っていた明日の敵の侵攻の時に、敵対する事はないだろう」
「そう・・・」
夏凜は、ポケットからスマホを取り出す。
勇者システムの入った、特別な端末だ。
「神樹様の言う、神樹を殺す存在。そして、明日の敵の大規模侵攻・・・・敵の策略で
「ああ。だが、俺たちはその敵の侵攻に備えなければならない。その為に、森に行くぞ」
「ええ、分かったわ。早く極限羅刹を極めなくちゃいけないからね」
「あ、それと今日は芽吹が来るぞ」
「え」
瞬間、夏凜がその場で固まる。
「どうした?」
「・・・芽吹って、もしかして、楠芽吹?」
「そうだが?」
「・・・なんで?」
「園子から聞いていないのか?一応俺は奴の訓練指導官なんだが・・・」
「しばらく休業してなかったっけ?」
「事情が変わった。奴は俺たちと近い体質だからな。どうやら先日の任務で極限羅刹を使えるようになったから、それを極める為に鍛えてほしいとつい今朝連絡が来た」
「ええ」
正直言うと、実は夏凜は芽吹ともう一人の男子が翼にボコボコにされている現場を目撃してしまっているのである。しかも間の悪いことに、その場に居合わせてしまっていたので、余計気まずいのだ。
「どうした?何がそんなに嫌なんだ?」
「い、いや、別に嫌って訳じゃ・・・」
「何を迷っているかは知らないが、どうせ手合わせすればそんな憂いもなくなるだろう。行くぞ」
そういって、なぜか飛び上がって民家の屋根の上に上がる春信。
「ちょ!?」
「ついてこい」
「無茶言うなぁぁあああ!!!」
しかし夏凜も結局の所、屋根に上って春信を追いかけるのだった。
一方、こちらは六道翼が一人、外をあてもなく歩いていた時の事。
「あれは・・・」
ふと目に留まった知り合い。せっかくなので翼は声をかけてみることにした。
「おーい、しずくちゃん」
「ん・・・?」
その知り合いとは、山伏しずくの事である。
しずくは、街道に設置されたベンチに座っていた。
「久しぶりだね。僕の事、覚えてる?」
「・・・翼」
「よかった。どうしたの?こんな所で」
「実は・・・友達と、一緒に・・・・」
「友達?」
と、首を傾げた所で。
「あ、あのぉ!」
「ん?」
ふと、誰かが声をかけてきて振り向いてみると、そこには両手にアイスクリームを持った少年がいた。
「ナンパはやめてください!」
「・・・あー、なるほど」
そういわれて翼は、どうやらナンパと勘違いされているのだと自覚する。
確かに、相手方は翼の事を知らないようだし、その両手を見る限り、
「もしかしてデートだったのかな?」
「違う」
ばっさりとしずくから否定される。
「あれ?」
「べ、別に俺たちは、そんな関係じゃないから!全然違うからね!」
「あー、うん分かった。わかったから一旦落ち着こうか。アイス落ちるよ」
「へ?うおあ!?」
一悶着の後。
ぺろぺろとアイスを舐めるしずくを眺めつつ、翼は、先ほどの少年、羽村昴に話しかける。
「大赦の方で、防人をしてるって聞いてるけど?」
「ああ、うん。俺たち、結界の外での活動が主なんですけど、昨晩、神樹を殺す者を探してここ讃州に来たんです。聞いてますよね?」
「うん。聞いてるよ」
翼は顎に手をあてて、考え込む。
(防人を市内にまで駆り出してまで排除したい存在・・・・そこまで危険な存在なのか・・・?)
「あのー、翼さん?」
「ああ、ごめん。それにしても、しずくちゃんは大丈夫なのかい?とても戦闘に向いてるとは思えないけど・・・」
ちょうど、しずくがコーンまで食べ終え、ごくりと飲み込んだ数秒後。
「――――へ、問題ねえよ。何せ俺が守ってんだからな」
「・・・・なんだ二重人格か」
「「反応薄ッ!?」」
あまりにも薄い翼の反応に二人して突っ込む。
「なるほどね。どうやら君がしずくちゃんを守ってくれてるんだね」
「ああ。こっちじゃ初めてだっけか?」
「そういう事になるね」
しかし、と翼は思う。
二重人格とはいわば、防衛本能のようなものであり、本人の精神が崩壊したり危険な状態になった時に、本来の人格を守るために、別の人格を作って本来の人格を守ろうとするのだ。
それが二重人格。
この場合、実はしずくの両親は自殺しており、そのショックで第二人格であるシズクが生まれたのだ。
元々、弱い精神であるしずくから強い精神のシズクが作られるのは、仕方のない事だろうと翼は思っている。
まあ、六道家の情報網を使えば、このぐらい調べるのは造作もない。
ただ、防人部隊は上里家が主導権を握っている。
上里家は、大赦に反発するものを片っ端から排除する思想を持っている。その始末に必ず六道家を使うのだが、その歴史において、
暗殺対象には、当時の当主の友人や、部下の恋人などもいた。だというのに、その誰もが、上里家の命令に従っている。
これは、一体どういう事なのだろうか。
いつかの日、翼の祖父である六道陣は言った。
『いずれ、お前も六道の運命に捕らわれる事になるだろう』と。
(結局、どういう意味だったんだろう?)
「・・・・おい、どうかしたのか?」
シズクに声をかけられ、我に返る翼。
「ああ、ごめんシズクちゃん。ちょっと考え事してて・・・・」
「ったく、そんなんで大丈夫なのかよ?明日の侵攻じゃ協力する事になんだから、しっかりしてくれよ?」
「分かってるよ」
「・・・・あれ?俺忘れられてる?」
一人、置いてかれている様子の昴であった。
真昼間。樹は銀と剛と一緒に出掛けており、故に風は一人街の中をぶらぶらと歩いていた。
特にあてがあるわけでもなく、ただ、ひたすらに町中を歩いていた。
その、町をただあてもなく歩いている理由は、昨晩まで分からなかった、写真の少年の事だった。
結局、何も思い出す事もなく、何か手掛かりが見つかることもなく、そのまま解散になってしまい、自宅で個人で調べてみても分からず、そのまま寝落ちしてしまったのが昨日。
なので、風は、町中を歩いていれば、何か見つかるかもしれないと思い、ただいまそれを実践している最中なのだ。
だが、今のところ収穫無しというのが現状。
「はあ・・・・私も剛たちと一緒に手掛かり探しすればよかったかしら・・・」
そうぼやいた矢先、ふと視界に人だかりが出来ている事に気付いた。
何からトラブルが起きたのだろうか。何かの小競り合いにしては人が集まりすぎているように見える。
興味を惹かれ、風はその人だかりへ向かう。
「すいません、通してください・・・」
やがて、その騒動の原因が見える位置まで来たところで―――――
「がっ!?」
「え」
一人の少年が、一人の大人を殴り飛ばしている場面にでくわした。
その殴られた大人は、そのままかなり吹き飛んで、人だかりのあるところへ丁度落ちていった。
だが、それすら気にする暇がない程のタイミングで、別の男が全身黒尽くめの少年に飛びかかる。だが少年はそれを見切って横にかわすとそのまま回転して後ろ回し蹴りをその背中に叩き付ける。すると男はバランスを崩して地面に倒れる・・・前に手を地面について見事に受け身をとって立ち上がる。さらに別の男が少年を殴ろうとするが、少年は今度は態勢を低くしてその右拳をかわし、次いで飛んでくる左拳のブローを右手でいなしつつその手首を掴むと、体を回転させてものの見事な体落としを決める。しかし、喰らった男は上手く受け身をとったのかダメージはそれほど感じられなかった。
そんな息を持つかせぬ攻防を繰り広げている少年と男たちの戦いは、もはや一般人の目には理解出来ない速度で展開していた。
そう、今この状況で、唯一その動きの全てを見切ることの出来る風を除いて、は。
風の両目は、あの決戦の日、名も知らない神から、『瞬動の魔眼』を貰っているのだ。その魔眼は、発動させれば即座に演算を開始し、風の目に映る全ての事象や動きなどを逐一見えるようにしているのだ。単純に、風の意識を加速させて、風自身が、周囲の時間の流れが遅くなっていると勘違いしているだけなのだが。それでも、見えないよりはマシだ。
そんなわけで、風にはこの攻防全部が見えている訳なのだが。
あの黒づくめの少年は、数の不利をものともしない様子で戦っていた。まるで蛇のようにしなやかな動きで、相手の攻撃をかわし、関節を決めて骨を折ったりと、中々にえぐい戦い方をしている。
折られた相手が可哀そうだ、が、同情はしない。
何せ多勢に無勢だ。自業自得である。
さて、と風は呟く。
どうやって加勢しようか、と考えていると・・・
不意に、少年のフードが脱げる。
そこから現れたのは――――黒髪に茶色の目をした少年だった。
「―――――」
心臓が、跳ねる。
その少年の顔は、あの、写真に写っていた、少年の顔と、全く同じ顔だったから。
「やべっ」
フードが脱げた事に気付く少年であったが、その隙をついて、背後から男が一人、殴りかかってくる。しっかりと地面を踏みしめた、明らかに鍛錬をした者の正拳突き。決まれば、背中からの衝撃で肺から空気が全て吐き出される事だろう。
少年は、それに気付いて、すぐさま迎撃の態勢に入ろうとした、その直後。
風がその男に向かってタックルをかました。
『は・・!?』
あまりにも突然な事に、当事者及び野次馬までもがそんな間抜けな声を出してしまう。
とにかく、風にタックルされた男はバランスを崩し、どうにか転ぶまいとたたらを踏む。
その間に、風は少年の手をつかんで、走り出す。
「こっち!」
「ふうせんぱ・・・うおあ!?」
少年が何かを言いかけたが、それすら無視して風は少年の手を引っ張って走り出す。
「く・・・なんて事だ」
「よりにもよって犬吠埼様が・・・応援を呼べ。追いかけるぞ!」
ここでの風の誤算は二つ。一つは相手が手練れの六道家である事。もう一つは――――今一緒に逃走している男が、とある事情によってどこに逃げても見つかってしまう体質の人間だという事だ。
少年――――千景は後ろを見る。
案の定、六道家の人間が、陸上選手もかくやという速度で追いかけてくる。
風ではとてもではないが逃げきれない。
(よりにもよって、ここで風先輩に出くわすかよ!?)
最も、千景にとっての最大の懸念の一つである、勇者部に遭遇してしまうという事が今起こっている訳なのだが。
しかし、このままでは追い付かれてしまって自分どころか風まで捕まってしまう可能性がある。
流石にそこまで迷惑はかけられない。
(仕方ない――――!)
千景は、腰に手を回す。
それと同時に、風に握られている右手を引っ張る。
「きゃあ!?」
いきなり引っ張られて後ろに倒れる風。その風を右手で抱え、空いた左手で、腰の脇差の鍔を弾いて刀身を曝け出す。
「天鎖刈ッ!!」
「え―――」
叫ぶのと同時に、千景にエーデルワイスを想起させる白い装束と拘束具のような鎧が纏われる。
「え、なん――――」
「黙っててください。舌噛みますよ!」
「え、ちょ、待って―――きゃぁあああぁああああ!!」
風の制止を無視して、千景は高く飛ぶ。
ちなみに千景は風を横抱きにしている。
(剛先輩、すみません!)
心の中で剛に謝りつつ、千景は上空千メートルまで飛び上がり、鎖で移動していった。
次回『邂逅する者たち』
彼らは、思惑など関係なしに知り合う。