不道千景は勇者である 作:幻在
――――身体が、塵と消えていく。
それもそうだろう。それほどの、無茶をしでかしたのだ。
死んでもはや骸と化した躰で、本来、人が行ってはならない領域へ足を踏み入れて、痛覚の無いまま、時間を許すまま、躰が完全に壊れるまで、全ての感覚が狂っていくのにまかせて、戦い続けた代償がこれなのだろう。
だけど、不思議と後悔は無い。
伝える事は伝えた。
守る事は守れた。
戦える事は戦えた。
やれるだけの事は、やった。
もう、十分だ。
だけど―――ああ、だけど、最後に、一言だけ、彼女に伝えたい事が、あった。
「―――――好きだ、友奈」
少年――――千景は、そう、声どころか音にすらならない言葉を告げて、その意識を闇に投じた――――。
二度と抜け出すことのできない、無限の闇へ、温かいぬくもりと一緒に――――
その数時間前―――――
「ぬおおおお!!!」
千景は全速力で街の中を走っていた。
「くそぉ!どんだけ追いかければ気が済むんだあいつらァ!!」
『地の果てまで追いかけてきそうね・・・』
彼の背後からは、六道家の刺客たちが明確な殺意を持って追いかけてきていた。
「ッ―――」
(街中じゃ下手に御神刀は使えない・・・!)
『その上、相手は複数で、常に回り込もうと動いてる』
『あ、前の車に気を付けてください!』
歩道のすぐ近くに、不自然に止まっている車を見つける千景。
中の様子は、窓が反射して伺えない。
だが、その中に敵がいる事は分かり切っている。
ならばどうする?簡単だ。
突然、手を地面についてハンドスプリングをする千景。その着地点は、車のボンネットの上。そのまま車に乗り上げて、飛び越える。
相手の目論見は、千景が車の横を通るのと同時に飛び出て捕まえるという魂胆だったのだろう。だが、それは相手も予測済みのようで――――
『頭ァ!』
「ッ!」
頭の中で響いた歌野のシャウトに身を任せ、頭を思いっきり下げる。次の瞬間、千景の頭上を何かが音速を超えた速度で掠めた。
「っぷねぇ!射線だった!」
そう、狙撃だ。
千景の身体能力はすでに知られている。そして、その動き方も筒抜けだ。
ならば、歌野の精霊である『覚』の能力を使って相手の心理を読み取り、全ての行動において先読みするしかない。
これは、その為の力なのだから。
「伊予島さん!あとどれくらいだ!?」
『あと二十分・・だけど、本当にこの時間なのかはわかりません!あくまで予測ですから・・・』
「だといいんだがなぁ!」
叫び、千景は、なおも走る。
一方で――――
「翼君!」
「須美ちゃん!」
息をあらげ、美森は翼と合流する。
「友奈ちゃんは・・・」
「ごめん、見つけられなかった・・・」
「そんな・・・それじゃあ、一体どこに・・・」
朝、いつも通り友奈の家を訪ねた美森だったのだが、友奈は家におらず、なんでも何かから逃げるかのように家を出て行ったらしい。
電話をかけても応答せず、メールを送っても帰ってこない。
だから、いま、勇者部を総動員して友奈を探しているのだ。
「春信さんも見つけられていないみたいだ」
「春信さんでも見つけられていないの?それじゃあ、どこに行ったの?」
今日は、敵が襲撃してくる当日。いわば開戦日。
そんな日に限って、友奈がいなくなる筈が無い。
きっと、何かあったのだ。
その上、今の友奈の精神状態は非常に危うい。下手をすれば、崩壊してしまうかもしれないのだ。
「友奈ちゃん・・・」
美森は、胸が押しつぶされそうな思いで、その拳を握りしめる。
そんな拳を、翼が優しく包み込み、その額に額を当てる。
「大丈夫、きっと見つかる」
「・・・うん」
翼の言葉に頷き、美森は、出かけた涙を拭き取る。
「今度は南の方を探してみよう」
「ええ!」
二人はまた、走り出す。
そして、件の友奈はというと、実はそんなに遠くない場所でふらふらと歩いていた。
その右手には、包帯がきつく巻かれていた。
背中を丸め、両手を胸の前で握りしめ、ふらふらと覚束ない足取りで歩いている。
そして、地面を俯きながら歩けばどうなるか。
結果は御覧の通り。
「あ」
「うお」
他の通行人と当たる。
「すみません・・・」
「チッ、気をつけろ」
この場合、相手はしっかり友奈の事を避けようとしていた。だが、何故か友奈がその男の方へ向かっていき、結果、ぶつかったのだ。
故に、避けたのにぶつかったという事実が作られ、必然的に友奈が謝らなければならなかった。
しかし、そんな細かい事を気にしてられるほど、双方は器用ではない。というかそんな事を説明しだしたら収集がつかなくなる。
ただ、友奈は、包帯を巻いた右手を、ただひたすらに握りしめていた。
剥がれかけていた皮膚。そこからのぞいた、
それが、どうしようもなく、怖かった。
だから、逃げた。
誰かにみられる前に、誰かに拒絶される前に。
「逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・」
ぼそぼそと呟くのを繰り返し、友奈は終わりの無い絶望を感じていた。
本当に、気が狂いそうだ。
このままでは壊れる・・・このままでは毀れる・・・このままじゃ・・・
その瞬間、友奈の前に、一人の黒尽くめの少年が現れた。
丁度曲がろうとしていた路地の角から、何かから逃げるかのように飛び出してきた、その少年。
その少年の姿を見た友奈。友奈の姿を見た千景。
二人の視線が交わった瞬間―――――
『人間よ。己の罪を悔いるが良い』
戦争が始まった。
反応したのは一瞬。
何かが崩壊する音を聞いた千景は、すぐさま友奈から視線を切って後ろを――――四国大結界のある方向を見た。
そこに見えた、確かな穴。神樹が作り出していた、全ての幻想を壊すように、そこに、確かに穴が開いていた。
神樹が作っていた幻影、嘘、虚偽。その全てを引っぺがすかのように、そこに、穴が開いた。
それを認識したなら、迷う必要は無い。
千景は、腰に手をまわして、御神刀の鍔を弾き飛ばす。
そして、叫ぶ。
「『天鎖刈』ィィ―――――――――!!」
光が、迸る。
千景の足元に鎖の文字を携えた輪が出現し、瞬時に千景の服装を白い戦装束へと換装。ものつくりの神、創代によって作られた、対魔器破壊兵装。今は、神を討つ、対神兵装。
エーデルワイスを想起させる白を身に纏い、千景は飛び上がる。
天高く、街の全てを見渡せる、ほど、高く飛び上がり、そして、敵の侵攻を確認する。
敵が空けたであろう穴から、無数の白いウジのようなもの―――言わずもがな、人類の天敵たる、『バーテックス』だ。
人から空を奪った、張本人。
それらを引き連れるかのように現れるのは、彼らが集合して出来た存在、完成型バーテックス。ご丁寧に、牡羊、牡牛、双子、蟹、獅子、乙女、天秤、蠍、射手、山羊、水瓶、魚、そして蛇遣。
ご丁寧にオールスターが揃っている。
つまり、これからあれらと戦わなくてはならないという事だ。
樹海化の発動は感じられない。想定通り、封じられているようだ。
故に、民間人が巻き込まれてしまう―――――。
(ふざけるな)
千景は、心の中でそう呟き、そして、胸いっぱいに息を吸う。そして――――
「創代様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
思いっきり、叫んだ。
すると、讃州を中心とする広範囲に及ぶ街や都市を囲うように光の輪が出現する。
その中心には――――『脱』の字。即ち――――『
ここにいる、全ての民間人を、ある地点に脱出させる。
その光が、目も開けられないほどに輝くと、やがてその光は収まり、輪が囲っていた場所の人々のほとんどが、その場から消えた。
「奏さん!」
『今確認してる!・・・一般人は全員大赦敷地内へ送り届ける事に成功したわ。だけど・・・防人および襲撃者、そして、勇者部だけは残った』
「く、やっぱりか!」
この『脱』の力は、創代の任意によって対象を特定の場所へ脱出させるのだ。ただし、創代が脱出させる必要はない、あるいは脱出させてはならない者たちを選んで残らせる事が出来ないのだ。
この場合、創代の判断は――――救導者だけでは敵を抑える事は出来ない、だ。
だが。
「その方がどちらにしろ楽でいいか・・・・俺はいくぞ!」
『ええ、第二段階もすぐよ』
次の瞬間、町の各所が光りだし、そこから巨大な
それら全てが、創代によって作られた、対神兵器。
だが、生憎と砲手がいない。しかし、雅が真解を発動させなければの話だ。
「雅さん!」
「任せなさい!」
雅が、その鉄扇を開き、高らかに叫ぶ。
「真解―――『
雅の装束が、一瞬霞と消え、すぐさまその体に、赤い鮮血色の振袖の着物を身に纏う。
それは、まるで、高貴なる存在と自らを誇張するかのように。
「『皇帝権限』」
雅が鉄扇を振るう。
「聞け!意思なき鉄くずどもよ!」
そして、高らかに声を上げる。
「今、何の役にも立てないお前たちに、意思と役目をくれてやろう!その体に目があるならば見据えよ、耳があるなら聞き届けよ!あれは我らが領土を蹂躙せしめし憎き蛮族である!奴等が貴様らの敵であるならその銃身を持ち上げよ!熱を帯びよ!意思を示せ!お前たちは兵器!血を浴びてこそその真価が理解される鉄くずだ!ならば鉄くずらしく、この我に使え、敵を討ってみよ!これは、皇帝命令である!!」
雅の叫びは、やがて、物言わぬ鉄であった兵器たちに息を吹き込んだ。
その体を輝かせ、熱を帯び、やがて雄叫びのように、その銃口から火を噴いた。
放たれた弾丸は、全てバーテックスを屠るに値する威力を誇り、瞬く間に侵攻してきていたバーテックスの大群の進撃を止めた。
「名演説です」
「ありがとう」
これが、雅の重皇無尽の能力である『皇帝権限』。
雅の第二の文字は『皇』。支配を意味する文字である。
その力を使い、創代が作った銃器たちを支配して今、迎撃にあたらせているのだ。
今、バーテックスたちがいる方向では、凄まじいほどにバーテックス、星屑たちが墜ちて行っている筈だ。
機関砲、カノン砲、艦砲、迫撃砲、対空砲などなど、数えたらキリがないほどの大量殺戮兵器が、数々の建物の屋上や壁に出現していた。
それら全てが目の前からやってくる敵を撃ちぬいていく。
これが、作戦の第二段階。雑魚の全部を、雅の能力と創代の力によって封殺する。
これによって、救導者は、星屑を気にする事なく戦える・・・筈なのだが。
「やはり完成型は無理があったか」
レオが放った火炎弾。サジタリウスの放った矢。ヴァルゴの卵型爆弾。キャンサーの反射板。アクエリアスの水。それらが反撃して創代が作った兵器たちを破壊していっていた。
そのほかのバーテックスも、あまり効いている様子が無い。
「奏さん、敵に核は?」
『あるわ。だけど、視覚化は可能よ』
「分かった。真武郎さんにやってくれ」
『分かったわ。任せて』
千景との通信を切り、奏は真武郎に連絡を送る。
「真武郎さん!」
『オーケーだぜ奏ちゃん』
奏の声に答え、真武郎はその手の上で槍を躍らせる。
イメージするは、かつて日本を恐怖に陥れた、人類最凶の爆弾兵器。
「あん時はかなり手加減したからな・・・今度は、容赦しねえぜ」
御神刀に与えられた、人体を切らない機能、物を破壊しない機能全てをカットした状態で、その兵器を打ち込んだらどうなるか。
「喰らいな、化け物ども」
真武郎は、槍を大きく振りかぶる。
「標的確認、方位角固定―――我は全てを吹き飛ばし、全てを消し去る者、故に我は不滅也
―――『
真武郎が放つのは、全てを吹き飛ばす核兵器の一撃。
その一撃に、神の力が込められていれば、いくらバーテックスでも、防ぐことは出来ない。
故に、核が彼らに炸裂する。
光が奴等を飲み込み、音が全て消え去り、全てを奪い去っていく。それが、核という兵器の恐ろしさ。光が収まれば、全てが消えているというその兵器は、人類の歴史上、最も忌むべき代物である。
故に、それは人類が犯した大罪の一つでもある。
その大罪の一撃を、完成型バーテックス全てが受けた。
防ぐ暇もなく。
光が収まれば、そこには何もいなかった。
「終わったぜ。これでいいのか?」
真武郎は、千景に連絡を送る。
『ええ。これで出鼻は挫けた。だけど、こっからが正念場です』
千景は、鎖による立体起動で街の中を飛び回っている。
それを確認している奏は、町全体を見渡せ、かつ、戦場から離れた場所から、その様子を見ていた。
「では、これより『四大総力作戦』を開始します!他の者たちと協力し、敵幹部の打倒にあたってください!」
『諒解!』
そして、その返事と共に、開けられた穴から、黒い流星が讃州の街に落ちた。
「何が起きた・・・!?」
三ノ輪剛と三ノ輪銀は、突如、あまりにも早い展開で起こったバーテックスの出現と消滅に困惑していた。
「兄貴・・・これって・・・」
「敵が来たって事なんだろうな・・・たぶん、俺たちじゃない誰かがやってくれたんだろうけど・・・・」
「でも、アイツらやってくれたって事は味方って事だよな!ならいいじゃねえか!」
銀はポジティブにそう述べる。
「・・・そうだな」
その銀の言葉に、剛も頷く。
「とりあえず、今は風たちと合流しよう」
「ああ!」
そうして走り出そうとした所で、彼らの前に、黒い流星が墜ちた。
「「!?」」
それに、彼らは思わず足を止める。
粉塵を巻き上げ、その黒い何かから現れたのは、仮面をつけたひょろりとした男だった。
「・・・・ふむ、どうやら先手を打たれたようですねぇ」
「・・・誰だお前」
剛が男に向かって問いかける。
「おや、どうやらまだ残っている人間がまたいたとは、これは探す手間が省けて助かりました」
男は、剛たちを見つけると、本当にうれしそうに明るい口調で喋る。
しかし、そんな明るい声が、すぐに恐ろしいものだと理解するまで、二人はすぐに理解した。
「では早速死んでください」
「兄貴ィ!!」
瞬間、剛の視界が空を向いた。
「・・・は!?」
のちに、背中に衝撃を受ける。
「が!?」
「あっぶな・・・」
剛は何が起きたのかはわからなかったが、どうやら銀に助けられた事だけは分かった。
理由は足に来る鈍痛。
おそらく銀が剛に足払いをして後ろ向きに倒したのだ。
「おやぁ?確実に首を跳ねたつもりですが、どうやら外してしまったようですね」
「お生憎様、アタシらはそう簡単にやられる訳にはいかないんでね」
「ああ、お前のお陰で俺らのやることが分かったぜ」
剛と銀が、ポケットからスマホを取り出す。
「はて?何のことでしょう?」
「簡単な話だ」
「「テメェをぶっ飛ばすッ!!」」
その言葉と共に、剛と銀は勇者システムを起動する。
剛はアフェランドラを想起させる黄。
銀は竜胆と牡丹を想起させる紅白。
剛は巨大な戦槌を、銀は巨大な双戦斧を持ち、敵に向ける。
「この世界は終わらせねえぞ、糞ったれども!」
「そう簡単にアタシら三ノ輪兄妹を倒せると思うなよ!」
高らかに叫ぶ二人。
一方の仮面男の方はというと。
「・・・不愉快」
明らかな怒気を孕んだ声でそう呟いた。
「不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快不愉快―――――不愉快!!」
まるで壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返し、最後の一言だけを大声をあげて大げさにリアクションする。
「実に不愉快!あなた方がこの私を吹っ飛ばす?傲慢で無知で無能で不愉快です!この『断罪者』である我々を侮辱しているも同ッ然!実に不愉快です!」
ひとしきり言い終えたのか、しばし息を整え、やがてこちらを血走った眼球で睨みつけ、指を突き付ける。
「いいでしょう!この『斬首』のカタロフ。貴方たち罪人の相手になってあげましょう!」
また一方で。
「何が起きたの・・・?」
芽吹たちは、突如消えた住民たちの事で動揺していた。
「ええええ!?なんでなんで!?街の人みんな消えちゃったよメブぅぅうう!?」
「おい加賀城!こんな時にまでその情けない声を出すんじゃない!」
「しかし街の人たちが消えたのは、驚かざるを得ませんね・・・」
「神樹が何かしてくれたんじゃいのか?樹海化というものもあるのだろう?」
そこには、襲撃者たちの姿もあり。
「いえ、それは無いわね」
幸奈が真っ先に否定した。
「そうなの?」
「ええ・・・樹海化の際は、まず時間が止まる。宙を待っていた木の葉は止まり、それどころか風すらも吹かなくなる。そこから壁の方向から光の壁が現れ、それが迫ってから、樹海に誘われる。私たちのシステムでは、その光の壁の中に無理矢理入るように出来ていたけど、そもそもからして貴方たちじゃ樹海の中に入ることは出来ないわ」
「それもそうか・・・」
芽吹はしばし考え込む。他の者たちも同様だった。
だが――――。
「なあ?何をそんなに考えてるんだ?」
この明日香という天性の馬鹿は違った。
「街の人たちが消えたっていっても、どっか安全な場所に行ったって事だろ?だったらそれでいいじゃねえか」
明日香が、背中の大きいほうの大剣を抜き放つ。
「だったら俺たちのする事は変わらねえ。敵を倒して倒して倒しまくる!そうだろ!」
自信満々に言い切るその勇ましい姿は、いつもの彼らしくて、芽吹はしばし茫然とした後に、すぐに噴出した。
「ぷっあははは!」
「なんだよ・・・」
「ごめんごめん・・・でも、そうね・・・・」
一度頷いてから、芽吹は、自分の仲間である防人たちの方をむいて、叫ぶ。
「これより私たちは壁の向こうから攻め込んできたくそったれ共を迎え撃つ!私たちが勇者に劣らない存在だって事を、大赦の馬鹿どもに分からせてやりましょう!!」
『オオ――――ッ!!』
雄叫びが、仮初の空に轟く。
この人望、これは、芽吹自身が己の行動で勝ち取ってきたものだ。
芽吹が、あの選抜での挫折からの今日までの努力の全ての集大成が、これなのだ。
故に――――
「―――立派になったね。
「ッ!?」
突然、聞こえた聞き覚えのある声。
その声に、芽吹の表情が僅かに強張る。
だが、自然と恐ろしい感じはしなかった。
「・・・六道・・・翼・・」
「久しぶりだね」
そこには、ブルースターを想起させる青い装束に身を包んだ、六道翼がそこにいた。
「六道翼!?」
「えええ!?六道様ぁ!?」
「翼様がどうしてここに・・・・!?」
「・・・え?だれ?」
優理はともかく、一度顔を合わせた事のある雀や面識のある夕海子はとても驚いている。
ただし、明日香だけが知らずにボケている。
「あらあら、翼君の名声は、どうやら防人の人たちにまで広がってるのね」
「当たり前でしょ東郷・・・翼様を一体なんだと思ってるのよ・・・?」
「未来の私の旦那さん♪」
「はいはい御馳走様ぁ・・・ったく甘すぎるっつの」
その後ろからは、東郷美森と三好夏凜まで来ていた。
「東郷様や三好様までぇええ!?」
「え?いやだから誰なんですかあの人たち?」
「おまっ、現役勇者の事を知らないのか!?」
「へえ、現役勇者・・・・・なにぃぃぃぃいいい!?」
そこで事の重大さを理解した明日香が絶叫する。その直後、なぜか高速連続前転で翼の前に出ると、いつ取り出したのか、否、どこにしまっていたのか色紙とサインペンを差し出してきた。
「サイン下さぁぁぁぁぁい!!」
「違うでしょ!?」
見事なドロップキックを芽吹から食らって吹っ飛ぶ明日香。
「あはは・・・ず、ずいぶんと個性的な子だね」
「あいつが天性の馬鹿ってだけです・・・・それにしても、どうして・・・・」
「いや、何やら威勢の良い声が聞こえたからね。誰かと思ってきてみたんだけど・・・・あの時の言葉の意味、分かってくれたみたいだね」
「ええ・・・まあ・・・・」
芽吹は恥ずかしそうに頭を掻く。
そんな芽吹の頭にぽん、と手を置く翼。
「それが聞けただけでも十分だよ。さてと・・・・」
ふと翼は、防人たちと一緒にいた襲撃者たちを見る。
「・・・頼りにしてるよ」
頬を緩め、翼はスマホを取り出す。
そして、何やらのメッセージを送ったあと、それを仕舞う。
「それじゃあ、皆、聞いてくれ。これより僕らは、合同で敵の迎撃に当たる。既に、僕らの他に動いている勢力がいるみたいだから、彼らとも出来る限り協力していこうと思う。防人の指揮は芽吹ちゃん、襲撃者の動かし方は佐奈さんに任せる。各自、それぞれが最善だと思う行動をとり、
翼のその言葉に、皆が頷き。
「行動開始!速やかに、敵を迎撃せよッ!!」
『オオ―――――!!』
再度、雄叫びが轟き、その場にいたもの達が一斉に動きだす。
「芽吹ちゃん!防人の中で勇者と同等ぐらいに戦えるのはどれくらい!?」
「私を含めて四人・・・いえ、八人よ!」
「分かった!僕はこれから他の勇者部の皆と合流するつもりだから、指揮は任せたよ!」
「ええ、防人の力を見せてあげるわ!」
芽吹の自信たっぷりな言葉に頷き、翼は、飛ぶ。
背中に装備されたスラスターによって、勇者で唯一の飛行能力を有する翼ならではの利点だ。
青き流星となりて、翼は天高く飛ぶ。
「さあ!事前に説明した通り!各自、それぞれのグループに分かれてそれぞれで敵の迎撃に当たって!いいわね!」
『了解!』
「様になってるじゃない」
芽吹の姿に、夏凜が素直に称賛を送る。
「当然よ」
芽吹は得意げに答える。
その直後、芽吹たちの目の前の広場に、複数の黒い流星が落ちる。
『!?』
そこへ、視線が集中する。
舞う粉塵、そこから四つのシルエットが移される。
「・・・・んだぁ?誰もいねえじゃねえか」
「何を言っているの?あそこにいるじゃない。愚かな人間どもが」
「アハ、アハ、いたよいたよ。断罪するべき罪人がいっぱい」
「ふふ、そうだな」
赤、青、緑、茶。それぞれ別々の色をした衣装に身を包んだ、四人の女性。
「・・・・あれ、どう思う?」
芽吹の言葉に一同は・・・
「敵だな」
「とりあえず倒す奴」
「打ち抜く対象」
「畑の肥料」
「なんか知らないがぶっ飛ばす相手!」
「なんでそんなあっさり!?」
雀の懇親のツッコミの無視し、一同は襲来してきた敵を見据える。
「よし、全会一致という事で」
「待って私は―――――」
「あれは私たちがやるわ!いいわね!」
「話聞いてぇぇえええ!!」
高いビルの屋上から躍り出る、芽吹、明日香、夕海子、優理、雀、将真、しずくもといシズク、昴の八人が躍り出る。
「頼んだわよ、
「ッ!ええ、そこで指をくわえてみてなさい!
夏凜の激励に答え、芽吹たちは目の前の四人の敵と対峙する。
「へえ、自ら断罪されに来るとは、良い心掛けじゃねえか」
「誰が断罪されに来たですって?私たちは貴方たちを倒しに来たのよ」
「あらあら、罪人の分際でよくもまあそんな身の程を弁えない発言が出来るものね」
「身の程ってなんだお前ら一体何様ざクラァ!」
「はいはい明日香落ち着け、見苦しい」
「アハ、アハ、もうやってもいい?いいかな?いいよね?」
「ほざくなその姿で餓鬼が貴様」
「ひぃぃい!だめだよ優理様!こういう手合いは必ず強敵って相場が決まって・・・」
「ハッハッハ!心配するな雀!俺たちは負けん!」
「ずいぶんと自信ありげに言うな、罪人共。これから断罪されるのはどちらか、しっかりと分からせてやる必要があるようだな」
「残念ですがわたくしたち、断罪されるような事は一つもしておりませんわ。それに、貴方たちに断罪される筋合いもありません」
防人たちが武器を向ける。一方の相手も、その手に持つ武器を構える。
戦いの火ぶたは切られる――――
各所で、戦いが始まる。
「まさか、こうして一晩でまた再開できるなんて嬉しいんよ~」
「そんな呑気な事を言ってる場合か」
彼らの前にいるのは、憎悪のまみれた感情を纏い、空中を浮遊する一人の女性・・・否、少女。
その、殺意の圧に、二人は、今にでも膝をつきそうだった。
「ふふ、私の相手は貴方たちですか?」
「ああ。
「ここは壊させないよ。絶対に」
二人は、それぞれの力を解放する。
水蓮を想起させる紫の装束を園子は纏い、エーデルワイスを想起させる白の装束を千景は纏う。
彼らの前に立つのは、『憎悪』のヒュアツィンテ。
その周囲に、八つの剣を操る、憎悪の化身である。
「ふふ、では、裁判を始めましょう。断罪されるのは、もちろん貴方たちだけですけどね」
そのヒュアツィンテの言葉に、二人はこう答えた。
「「言ってろ」」
戦いの火蓋は、斬って落とされる―――――
そして、戦場に、一人の男も向かっていた。
「―――――どういう事だ」
その手には、一枚の紙。
とても老体とは思えない、否、人とは思えない脚力で森を突っ切って讃州へ向かうこの男。
その表情は切羽詰まっており、まるで、何かを探し求めるかのように焦っていた。
「どういうことなんだ・・・・一体・・・・!?」
足柄辰巳は、その紙に書かれている事を確かめる為に、戦場へ向かう。
次回『処刑衆』
冠するは、処刑方法名。