不道千景は勇者である   作:幻在

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最近、電撃文庫とかに作品応募しようかなと小説書いてる最中でして、それで更新が恐ろしく遅くなるかもしれませんので、そこの所はご了承願います。
ついで、試験も近くてそれが終わるまで投稿できないかもしれませんのであしからず!

では、本編をどうぞ!


処刑衆

「――――うわぁぁあああ!!」

風は、今、全力で走っていた。

それは何故か。簡単だ。

 

炎が襲ってくる。

 

「何よ何よ何よあれ!?炎ってあんな風に襲ってくるっけェ!?」

「そんなわけないでしょお姉ちゃん!どっからどうみても敵の攻撃でしょ!?」

「やっぱそうよね!」

腕に抱える樹にそう怒鳴られつつ、風は背後から襲ってくる火炎から全力疾走で逃走しながら見る。

(これって、やっぱり園子が言ってた敵の大規模侵攻って事よね)

突如として飛び上がる風。その先にはビルの壁があり、それを蹴って、次の角を三角飛びの容量で曲がる。

それでも炎は襲ってくる。

まるで、こちらを呪い殺さんとばかりの悪霊の大群のように。

 

 

突如として、神樹が作った壁を破壊された。それまでは、想定のうちだった。

だが、突如としてビルや道路に出現した重火器や大砲、そして周辺の町から、人が一気に消えた事、挙句の果てには、先ほどまでそこにいた大型バーテックス全てが消し飛ばされる始末。

雑魚どもはまだ残っている物の、それも殲滅されるまで時間の問題だろう。

 

 

しかしながら、後ろから襲ってくる炎は一体なんなのか。

まるで津波のように、そして意思を持っているかのようにこちらをピンポイントで襲ってくる。

止まれば、すぐさま炎に飲まれてしまうだろう。

 

 

 

その様子を、空中で見ている者がいた。

「ふっふっふ・・・この『火刑』のレジーナ様の『魔女狩り』から逃げられるとは思わないことねぇ」

まるで相手を見下すかのようなゴシックドレスに身を包んだその女性、レジーナはその手に持つ鞭を振り上げる。

「さあ、好きなだけ逃げ惑いなさい。逃げられないと悟った時、それが貴方たちの最後(ぜつぼう)よ」

 

 

 

 

 

また、別の場所では。

「オッラァ!」

信也が蹴り上げる。その対象は―――獅子。

それだけではない。

背後からは虎が襲い掛かり、それを蹴り上げた足の勢いをそのままに回転してオーバーヘッドキックをその虎の頭の上に叩きつける。

怯んだ所を飛び上がって距離をとる。

「もー、だめじゃないかきみぃ」

そこへ不満を漏らすような声。

「ちゃんと喰われてくれないと、処刑にならないじゃないか」

「うっせえよ、ガキが」

「ひっどいなぁ。ボク、これでも君より年上なんだよ?」

「知るかそんな事」

信也が睨む先には、シルクハットをかぶった金髪の少年。その手には洒落たステッキ。

「んー、そんな事、聞いていいのかなぁ?」

「あ?」

突如、信也の背後からハイエナが襲い掛かる。

しかし、そのハイエナの横腹を、白露が蹴っ飛ばす。

「なんの事だオラ」

「ちょっと、勝手にしゃべってないで手伝ってよー、優ちゃんが一番噛まれてるんだよ?」

見ると、確かに文字通り複数の肉食獣たちに噛みつかれている優の姿がある。しかし、本人は全く平気そうだ。

「はっ、心配する事ぁねえよ」

信也が態勢を低く構える。

「アイツの強さは、俺が一番よく知ってんだよ」

次の瞬間、信也の姿が掻き消える。

「あ、そう」

白露がそう呟いた直後、周囲にいた肉食獣のほとんどが吹っ飛ぶ。

「『神速蹴(マッハキック)』」

得意顔で、技名を言う信也。

「・・・・なんですかそれ」

そこへ、優の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、優に噛みついていた肉食獣たちが一斉に血を噴き出して、アスファルトの地面の上に沈む。

「貴方に言われても、全然嬉しくないんですけど?」

「その割には、嬉しそうだよね」

「そんな事ないですよ?」

そんな余裕そうな彼らに、少年はとても不満そうな顔になる。

「むぅ・・・つまらないなぁ」

少年は、本当につまらなそうに、腰をかけていた瓦礫から立ち上がる。

「じゃあ、面白くしようか」

少年が、そのステッキの先を地面に向かってとん、と叩くと、突如として地面に倒れ伏していた肉食獣たちが起き上がり、その毛皮を赤黒く変質させていく。

「『猛獣刑』のレンリ。今から君たちを処刑する。――――猛獣たちの餌としてね」

「はっ、言ってろよ。第二ラウンドだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

雷鳴が、春信を襲う。

しかし、無意識化での回避を可能とする春信には、その攻撃は当たるどころか掠ることすらない。

「んー、今のは確実に当てたと思ったんですがねぇ?」

「・・・『電気椅子』か」

春信が目の前に立つ巨漢の体の一部が機械の男に向かってそう呟く。

電気椅子というと、囚人をその椅子に括り付けて、電流を流して殺す処刑法の一つである。

「イグザクトリー。わたくしは『感電』のマキム。神官には劣りますが、電撃使いでございます」

オーバーにリアクションをするマキム。

「そうか」

しかし、春信はそれを聞くだけ聞いて――――その首を刈りに行った。

「おおっと!」

だが、マキムは体に電気を纏わせると、一瞬でその場から離れ、まるで電流のように春信の斬撃を躱した。

「危ない危ない。危うく斬られる所でした。しかし、これで確信しましたよ」

マキムは、春信に指を突き付けると、いきなり叫びだす。

「貴方は神の使いである我々『処刑衆』に牙をむいた!これはまさいく法への反発、神への反逆、我等が主、マギアクルス様に逆らうという意思の表示!これ即ち、貴方たちは罪人となったのです!わかりますか!?貴方はこれから、この私によって処刑(だんざい)されるのです!」

喚くように叫び散らすマキム。

しかし春信はなおも冷たい視線を彼に送る。

「無駄話は良い。俺はこれから他の仲間と合流しなければならない。そんな事を喚く時間があるなら、さっさと俺を殺しに来い」

「ほう、この私に対して挑発とは・・・・いいでしょう!その罪の重さ、私の電撃によって思い知るが良い!!」

電気を纏い、マキムは、春信に襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

斬撃が飛ぶ。

それを銀は躱す。すかさず剛が反撃に出るが、それよりも早く、次の斬撃が飛んできて、それを戦槌の柄で受け止める。

「ぐぅっ!?」

吹き飛ばされ、着地する剛。

「手強いな」

「ああ・・・なかなか攻めきれない」

三ノ輪兄妹の目の前にいるのは、カタロフと名乗った仮面の男。

「シェェエイッ!」

男が手を振ると、そこから地面が五本の線状に裂け、銀たちの元へ飛んでくる。

「うおあ!?」

「チィッ!」

それを躱す二人。

「くそ、何なんだあの斬撃!?」

「わからない・・・でも、分かるのはあれが不可視の斬撃ってことぐらいだ!」

飛んでくる無数の斬撃。どういう原理か、それはカタロフが腕を振るのと同時に飛んでくるという事だけしかわからない。

(手に秘密があるのか?それともあれはただのモーションで、本当はもっと別の何か・・・それこそアタシの体質のような骨の無限生成と似た何かか?くそっ!わからない!)

飛んでくる斬撃を躱しながら、そう思案に暮れるも、何もわからない。

「・・・・」

「・・!? 兄貴!?」

だが、突如として剛が避けるのをやめる。

「何をして――――」

「ほう!自らその首を差し出しますか!いいでしょう!お望み通り、その首、斬り落としてあげましょう!」

道路の中央に仁王立ち、攻撃を待ち構える剛。

「兄貴!」

「もう遅い!」

銀が助けに入るも、カタロフはすでに右腕を振り切っていた。

斬撃は飛び、剛の首へ向かって飛ぶ。

「ぉぉぉぉおおおおお!!!」

だが、それに対して剛はあろうことか、戦槌を振りかぶった。

その巨大な槌が変形し、反対側からジェット噴出孔が出現し、熱をためる。

「必殺――――」

斬撃が迫る。

だが、剛は臆することなく、その戦槌を振るう。

「―――ジェットハンマーァァァアア!!!」

正面衝突。押し負けたのは、剛。

押し負けた剛は宙を舞い、やがて地面に落ちる。

「兄貴!」

悲痛な悲鳴を上げて、銀は剛にかけよる。

「いってて・・・」

「大丈夫か!?」

「ああ、安心しろ・・・でも、お陰でアイツの能力の正体が分かったぜ」

「え、本当か!?」

剛は立ち上がり、カタロフを指さす。

「お前の能力の正体。それは、空気中に漂う塵や目には見えない程小せえ小石をかき集めてワイヤーにして、それを何らかの力で結んで強力なワイヤーカッターにしてる。さっきのでかなり近くで見る事が出来たからな」

ニッと笑う剛。

それに対して、カタロフは。

「・・・・ご名答。まさか、貴方のようなガサツな方に私の『見えざる断頭台(ギロチン・オブ・ダスト)』を見破られるとは・・・」

「お前らは一人一人そんな能力持ってんのか?だとしたら残念だったな。そんなんじゃ俺たちは倒せねえよ」

「・・・不愉快、実に不愉快です・・・あなたたち罪人が、我々断罪者に歯向かうなど、言語道断。あってはならない事なのです!」

カタロフが、腕を振るう。

それによって、見えざる刃が飛来する。

しかし、その一撃は全て銀によって防がれる。

「ネタがわかりゃこっちのもんだ!」

「何・・・!?」

銀が使っているのは辰巳の勇者システム。彼女本来の勇者システムは夏凜が持っているからだ。

しかし、であるならば彼女が辰巳の竜の力を使えないという道理はない。

竜は元来、炎を吹く存在。故に、斬撃の正体が目に見えない塵であるのなら、それを連鎖的に全て燃やしてしまえば良い。

「舐めるなよ・・・お前らが思っている程、俺たち人間は甘くないぞ!」

さらに、剛の力も本質は炎。さらに彼の精霊である分福茶釜は、幸運を呼びこむ妖怪であるのと同時に、茶釜であるがゆえに火にくべられる存在。

故に、剛もカタロフの攻撃を防ぐことが可能。

「ぐ・・・ぎぎ・・・人間風情がぁ・・・!!」

怒り心頭という風に体を震わせるカタロフ。

「いいでしょう・・・お前らがそう来るというなら、私はこうするまでです!」

「「ッ!?」」

カタロフが片手を掲げる。すると、空中に無数の刃――――ギロチンの刃が現れる。

「なぬ・・・!?」

「そっちで来るかよ!?」

それに驚く二人。しかし、そうしている間にカタロフはその腕を振るう。

「『踊る断頭台(パージング・ギロチン)』」

そして、二人に無数の断頭台の刃が襲う―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

炎、風、水、土、四大元素と呼ばれる四つの敵意が、今、防人の八人の襲い掛かる。しかし―――

「だらっしゃぁあああ!!」

明日香の『正す』力で、全て無効化される。

そこへすかさず、優理の矢と将真の石の弾丸が放たれる。

それだけでなく、雀以外の銃剣持ち全員の銃口からも弾丸が発射される。

それを、敵の四人の神官はいとも容易く躱してしまう。

「チッ!あの馬鹿そうなやつが厄介だな」

「ほんと、無能そうな猿の癖に、忌々しいわ」

「ムッキィー!猿を舐めんなよテメェらぁ!」

「明日香、そういう事じゃないと思うわ」

優理が弓弦を引き霊子の矢を無数飛ばす。

「行くぞ!明日香、芽吹!」

「ああ!」

「いつでも行けるわ!

「では・・・そいや!」

将真が踊り、それによって地面が盛り上がって明日香と芽吹を投げ飛ばす。

「アハ」

ふと、緑の装束を着込んだ少女がその口角を吊り上げる。

次の瞬間、その姿が()()()()()掻き消えると芽吹の目の前に現れる。

「な!?」

「私は操る元素は風。知ってる?雷の元素はね、風なんだよ」

掌から、雷が放たれる。

しかし――――

「発動が遅い!」

「え!?」

芽吹がその手首をつかんで引っ張り、少女の頭上へ飛び上がる。寸前で手を離した事で、電撃は直撃せず、そのままあらぬ方向へ飛んでいく。

「ハアッ!」

「うあ!?」

そのまま背中を蹴り飛ばし、さらに飛ぶ。

「ヴェント!」

赤い装束の少女が叫ぶ。しかし、

「フォイア!」

「ッ!?」

「隙だらけだぜ!」

赤い装束の少女―――フォイアの背後へ飛んできていた明日香が、右手の大剣を振り下ろす。

振り下ろされた大剣は、フォイアの持つ槍のような錫杖、否、錫杖のような槍によって受け止められるも地面に向かって落ちる。

だが―――

「舐めるな!」

「うおあ!?」

フォイアが放ったのは、炎の鞭。それが明日香の足に巻き付き、無理矢理道連れにしようとする。

「くっそ・・!」

すぐさま切り落とすも、それが炎なうえにすでに上に行くための力が無くなった為に、明日香も地面に向かって落ちていく。

建物の屋上に着地した芽吹はその明日香の姿を見て叫ぶ。

「明日香!」

「心配すんな芽吹!俺はそう簡単にやられねえよ!」

「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!」

フォイアが、炎の矢を乱射してくる。

「俺は勇者の素質はねえ・・・だが、それでも俺は――――」

明日香は、両手の剣を振り回す。

「―――勇者になぁぁああある!!」

「なッ!?」

一見、がむしゃらに振り回していると思うが、その剣が振るった剣は、明日香に直撃する矢のみ、全て叩き落していた。

そのまま二人して地面に落下。

土煙が舞う中、明日香は悠然と剣を突き付け言い放つ。

「さあ、かかってこいやァ!」

「人間風情が・・・ッ!」

フォイアがその顔を激怒に変える中、芽吹は屋上でその様子を見て呆れていた。

「あの馬鹿・・・ま、それがアイツらしいっちゃアイツらしいけど・・・」

いつもの事にふっと微笑み、後ろに向かって銃剣の引き金を引いた。

何か、ガラスが砕けるような音が響き、振り向けば、そこには青い装束の少女―――ヴァッサーが、無数の氷の矢を生成して佇んでいた。

「貴方が遊んでくれるのかしら?」

「遊ぶ・・・?いいえ、違うわ。これは断罪。罪深き貴方たち人間への粛清よ」

「冗談。私、今まで裁かれるような罪をした事ないのだけれど?」

「何をいうかと思えば、貴方たち人間は今まで数多くの罪を犯してきたでしょう?戦争、紛争、麻薬の売買、殺人、窃盗・・・挙句、この神世紀という時代になっても、数多くの勇者を使い潰し、尊厳を踏み躙り、都合の良い道具と解釈してきた・・・さらに、人々を騙してまで自らの体裁を守ろうとする大赦の行いは見過ごす訳にはいかないのよ」

「それについては大いに同感。危うく私たちの大切な仲間を死なせる所だったわ。だけど―――」

芽吹は、銃剣をヴァッサーに向ける。

「――――私、神って奴がすっごく嫌いなのよ。神樹も異世界の神も、全部が思い通りになってるって思ってるような連中の思惑通りに動く事が、心底屈辱的で、私の最も嫌いなものの一つなのよ。神風情が人間を断罪する?ふざけんな私の罪は私のもの。この世界も人間のものだ。神如きに壊される程、柔なものじゃないのよ」

芽吹は、断言する。

「神に断罪されるぐらいならその神って奴を殺す。異論は言わせないし、もちろんこっちの損害はゼロでいかせてもらう。そう簡単にやられるとは思わないでよね」

勇者の歴史において、代ごとに犠牲にならなかった勇者はいなかった。

防人は総勢五十人。元々、犠牲を覚悟したうえで編成させた、勇者に選ばれなかった勇者候補者たちの集まりのようなものだ。

そんな、勇者よりもあるかに多いチームを、誰一人として死なせない芽吹は、まさしく、勇者の歴史において、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言えるだろう。

「・・・・神の臣下である私の前で、神を愚弄するか、人間」

どす黒い威圧が、場を支配する。

その威圧に、芽吹は冷や汗を流す。しかし、その表情は笑ったままだ。

「いいでしょう。この四神官が一人、『水』のヴァッサー。今から貴方を断罪してあげましょう。そう簡単に死ねるとは思わないでください」

「はっ、だったらこっちは一瞬で片付けてやるわ。せいぜい、死んだ事に気付かない事を祈るわ」

銃剣を構え、芽吹は、飛来する氷の槍に向かって突撃する。

その一方で、アスファルトの上、将真たちの方では。

「ふんぬ!」

将真が、土の拳を、同じように向かってくる土の拳と正面衝突させる。

「チッ、よりにもよって私と同じ『土』とは、忌々しいな。人間は」

「ハッハッハー!俺はこれでも農家出身でな!大地の事ならなんでも分かるぞ!」

「ぬかせ。無知な人間どもが」

茶色の装束を着た少女――――エーアデが忌々し気に舌打ちする。

一方の将真は豪快に笑うのみ。

「おい将真、油断してんじゃねーぞ」

しかし、シズクがその足を蹴る。

が、蹴ったはずのシズクが足を抑えてうずくまる。

「うむ、すまんな!」

「くっそ、かてぇ・・・」

「じゃあ蹴らなければいいのに・・・」

「ああ?」

「いえなんでもないです!」

シズクの眼光にビビる昴。

「うむ、これは、俺が奴の攻撃を受けるからお前たち二人はその隙をついて攻撃してくれ、だな!」

「なんでそんな堂々と公言してんだ馬鹿か!?」

「それが将真君だよシズク・・・・」

「ああ!?」

「なんでもありません!」

尻にしかれてるとはこの事である。

「ふん、何を考えているのか知らんが、どうあっても貴様らに勝ち目はないぞ」

「言ってくれるな!だが俺たちは負けん!なぜなら、俺たちは絶対に諦めないからだ!」

「ぬかせ、そんな言葉一つで全てが片付くものか」

「悪いが、俺たちはその言葉を体現する男を知っている!」

「何・・・?」

そう、知っている。

どれほど傷ついても、どれほど絶望的な状況に立たされても、くじけず、折れず、倒れない、何度やられても立ち上がる、男の存在を。

その男のお陰で、防人たちは今の今まで、諦めた事などなかった。

一度は絶望しかけた。だが、彼が『まだだ』と叫ぶ度に、自然と勇気をもらえた。

「俺たちにとっては、奴こそが『勇者』!諦めない事こそが奴の『勇者道』であり、俺たちの『勇者道』!故に、お前がどれほどの絶望を与えようと、俺たちは決して諦めん!」

堂々と言い張る将真。

それには、シズクも昴も頷く。

「ぬかせ」

しかし、エーアデはくだらないと一蹴する。

「そんなものなど、我々の前では無力だ。どんな事があろうとも、戦場では、勝った者こそが正義だ。そして、正義は常に我々にある」

その手には、錫杖のような槌。

それを振り回し、土を盛り上がらせる。

「故に、お前たちはここで負けて死ぬ」

襲い掛かる土の拳に対して、三人は、臆する事なく、突撃を開始する。

さらに一方で。

「アハハ、アハハ、遅いよぉ!」

電撃をまき散らすまま、暴風を巻き上げるまま、まさしく嵐とでも言うべき戦い方をするヴェントに翻弄される優理、夕海子、雀の三人。

「速いですわね!」

「ひぃぃいい!終わった終わった絶対終わった!こんな奴に勝つなんて無理無理絶対にむりぃぃ!!」

「黙っていろ!集中できん!」

優理と夕海子が矢と銃弾を乱発しても一向に弾丸が当たる気配がない。

それほどまでに敵は速く、とらえられないのだ。

「アハ、無駄だよ。私は風。風は自由気ままで絶対に捉えられない。空中にある全ての空気は私のものであり、力。貴方たちにはどうあがいても私の姿をとらえる事は出来ない!」

風の刃が迫る。

「うわぁああ!!」

それを未来視にも匹敵する危機察知能力を持つ雀によって防がれるも、その一撃だけで全てが終わる訳がない。

四方八方、ありとあらゆる方向から飛んでくる風の刃は、たちまち休む間もなく優理たちに襲い掛かる。

「ぎゃあぁあああ!」

「悲鳴を上げてるのに、流石雀さんですわね・・・」

「だが、長くはもたんぞ!」

そのほとんどを雀の盾によって防がれるも、長くはもたないのは目に見えている。

「・・・雀、あとどれくらい耐えられる?」

ふと、優理は雀に聞く。

「あ、あと、一分!」

「十分だ。道を作ってやる。それまで時間を稼げ」

悲鳴交じりに答える雀に優理はうなずく。

「何を言ってるのかしらないけど、そんなに耐えられる訳ないでしょ?なんでかって?それはこれから本気を出すからだよ!」

ヴェントがそう言った直後、先ほどよりもはるかに多い刃が無数に飛んでくる。

流石に雀も、それを全て防ぐ事は不可能――――だが、

「甘いですわね、神の神官とやらも」

「え?」

次の瞬間、雀の姿がかすんだかと思ったら、残像まで残して風の刃を全て防いでいた。

「え!?」

「加賀城雀さんの恐ろしい所は、その死にたくない思いから来る()()()()()()()()()()()()ですわ。彼女がわたくしたち防人の守護神と呼ばれる所以(ゆえん)は、その未来視にも等しい危機察知能力によって予測した相手の攻撃を完璧に防いで見せるという事。先ほど、彼女が一分といったのは、貴方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()という意味ですのよ?」

加賀城雀、その神がかった防御は、あの三好春信でも突破する事は出来ない。故に無敵。

防御する事しかできない、無勝無敗の力を有する、ある意味での『人外』。

それが、加賀城雀という人間(バケモノ)だった。

「ぎゃぁああああ!!早く!早くしてよ優理様ぁぁああ!!」

「く、そんな泣き言言ってるのに、なんで全部防ぐことが出来るの!?」

「そんなもの、至極簡単だ」

優理が、眼鏡のブリッジを押し上げる。

次の瞬間、三人姿が掻き消えた。

(え・・・消え・・・!?)

「こっちだ」

「!?」

声がして、振り向けば、そこには弓を構え矢をつがえた亜門優理の姿があった。

「なん・・・!?」

「俺の契約した悪魔の力は『霊子』。周囲にばらまかれた目には見えない『霊子』で道を作り、高速移動を可能とする。それが俺の絶技の一つ『霊子滑走(インビジブルロード)』だ。そして、今つがえている矢は矢であって矢では無い!霊子によって作られた刃、即ち()!無数の霊子による振動で、まるで高周波ブレードのようにお前の体を、豆腐のようにスパッと斬るだろう!」

叫び、放たれる矢。優理曰く『霊波刀(ゴーストブレード)』と呼ばれる剣は、真っ直ぐヴェントを襲う。だが。

「それでも遅いよ!」

その体に雷を纏わせ、発生する磁場によって促される磁力によって移動し、回避するヴェント。

「そんなのろい攻撃なんて当たらないよ」

「だろうな。だが、予言しておこう」

優理は、ビシィッとヴェントを指さす。

「貴様は、その体にある力という力を根こそぎ奪われて死ぬだろう」

「アハ、生意気だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――――

血の刃が、夏凜と美森を襲う。

「チィ!」

その刃全てを夏凜が叩き落し、反撃に美森が狙撃銃をぶっ放す。

「無駄よ」

その一撃は、中世風のドレスを纏った女性に向かって飛んでいくが、形成された血の壁によって防がれる。

さらに、二人の足元から、無数の杭が飛び出る。

「東郷!」

「きゃ」

夏凜が美森を抱きかかえ、飛び上がってそれを回避する。

「これを避けるか、娘」

「チッ、なんて面倒な」

そこには蒼白として肌と長い髪を揺らす男が一人。

その手には槍を持ち、赤い眼光を二人に向けていた。

「もう、先の一撃で仕留めなさいよ」

「ふむ。あの赤い装束の娘の反応速度があまりにも早すぎる故、な」

「肝心な所で役に立たないんだから」

「辛辣だな」

男と女の会話に耳を傾けつつ、夏凜は思考する。

 

二人の能力で分かっているのは、血を操る事と杭を出現させる事。

一方のこちらはそんな特殊能力は持っていないし、あるとすれば自分の『鬼気・極限羅刹』のみだ。

さらに、美森は不意打ちを受けて左肩を負傷。狙撃銃をまともに構えられない状況だ。

ここでとる選択肢は何か。

 

「東郷、行きなさい」

「え!?何言ってるの夏凜ちゃん!?」

「まともに撃てないアンタがいた所で足手纏いよ。それに、まだ友奈だって見つかってないんでしょ?その上、勇者システムも持っていないんじゃ、もし敵に見つかったら、死ぬかもしれないでしょ」

「それは・・・」

美森は下手に反論できない。

「ここで時間を喰わせるよりも、私がこいつらを倒して、その間にアンタが友奈に勇者システムを渡して戦力を増強する方が何よりも確実よ。いい。私がこいつらを倒す。その間に、アンタは友奈を探し出す!理解した!?」

「夏凜ちゃん・・・・武運を祈るわ」

「あんたもね」

一通り、作戦を立て、夏凜は敵を睨みつける。

そして、刀を向け、堂々と名乗りを上げる。

「さあさあ今宵はどうぞ我が目の前にお越し下さりましたァ!ここからが今日一番の大見せ場!剣鬼にして剣聖、三好春信が妹、三好夏凜がお相手仕りましょう!!」

その夏凜の行動に、ふと男がその口角を大いに吊り上げる。

「ふっ、これはこれはご丁寧に、自己紹介恐縮の至り。名乗られたからには名乗らざるをえまい。我が名は誉れある処刑衆が一人、『串刺し刑』のダーナ!汝、三好夏凜に敬意を表し、本気でお相手致そう!」

一方で、女の方はやれやれと呆れた様子ではあるものの、乗ってくる。

「『辱刑』のラミア」

そう短く、簡潔に述べた。

「・・・参る」

そう短く、夏凜が呟いた直後、夏凜が足をあげたかと思ったら、突然、美森を後方に向かって蹴り飛ばす。

「「!?」」

その行動に目を見開くも、その間に美森は態勢を整え、その勢いのまま一気に戦線を離脱。

「ダーナ」

「あの一蹴りで、我が『領地』を抜けた。追いかけるにはこやつを倒さなければならないようだ」

「チッ、面倒な事を・・・」

舌打ち一つ。しかし、夏凜は表情を崩さず、先の発言通り、二人に突っ込む。

「一人で向かってくるとは、大いに結構!ならばその自信、おおいに叩き潰してくれよう!」

「それには賛成ね!」

杭と血の刃が夏凜に襲い掛かる。

「喰らうかァ!!」

しかし、夏凜はその悉くを打ち払う。

そのまま、三人は激突する――――

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――

「やぁああ!!」

襲い掛かる黒い剣を、園子は槍で弾き飛ばす。

しかしその剣はまるで誰かが降っているかのように戻ってきて、巧みな剣術で園子を翻弄する。

その全てを、園子は槍と体術で全てを弾き飛ばす。

(きりがない!)

たった一本、それも使い手がいないものを、園子は一人で相手にしていた。

(あの子は、三本も相手にしているのに!)

園子の視線の先では、白い装束の少年―――不道千景が鎌や剣を使い、三振りの黒い剣を全ていなしていた。その表情は、園子と違って、かなり涼し気だった。

「なかなか粘りますね」

その剣を操っている主、ヒュアツィンテは心底つまらなそうにその戦いを傍観していた。

「あー、忌々しい忌々しい。何故こうも人間は醜く抗うのでしょうか」

「醜くても抗う、それが俺たち人間だ」

剣をいなしながらそう答える千景。

「というか、()()()()()()()()()()()?」

剣を鎖で絡めとり、次の瞬間、不意打ち気味で襲ってくる鋭い一撃を弾丸の一発で弾き飛ばす千景。

「はて、なんのことでしょうか?」

「とぼけるなよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、()()()()()()()()っていう事実が心底腹立たしいが、それも仕方のない事だと分かっている」

鎖に絡めとられた剣が鎖を振り払い、再度千景を襲うも、今度は影によって地面に縫い付けられる。

「ちょ、ちょっと待って!」

そこで園子が声をあげる。

「さっきから一体なんの話をしてるの!?なんだか、君があの人の事を知ってるみたいだけど・・・・!?」

園子が、剣をいなしながらそう質問する。

「ふう・・・お前、足柄辰巳が持っている写真を見た事あるか?」

「え!?」

「その写真の中に一枚、集合写真のようなものがあるはずだ。九人の俺たちと同じくらいの中学生たちが映る写真がな」

「それが、なんだっていうの!?」

「その写真を見た事があるなら、一人一人よーく覚えているなら、これから見るものは、お前にとって、そしてお前にとって一番尊敬している人にとっては、信じたくもない事のはずだからよ」

千景は、鎌を構える。

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』―――『戒業罪乃鎖』」

炎が燃え上がり、彼の上半身の装束を全て焼き払い、その背中に罪の文字を表す。

「焼き打ち――――」

腰を低く、鎌を大振りに構えて、千景はそれをぶっ放す。

「―――『断鎖』ッ!」

「ッ!?」

振るわれた鎌の刃から業炎の刃が放たれ、周囲一帯を薙ぎ払う。

それを、浮遊能力を有するヒュアツィンテは飛び上がる事で回避する。

その一撃によって建物が崩れ、粉塵が舞い上がる。

「粉塵を自ら撒いて、視界を断ちますか・・・無駄な事を・・・・!?」

呆れる間もなく、その煙の中から、無数の光弾が飛んでくる。

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』―――『無想砲弾』」

その手に鎌は無く、背中に火は無く、その姿はコートを纏った軍人のような姿の千景。

その手から放たれたのは、ヒュアツィンテを自動追尾する『追尾砲弾(ホーミングキャノン)』。

襲い掛かる無数のミサイルにも匹敵する威力を持つその弾丸たちを、ヒュアツィンテは、己の手元にある四振りの剣で迎え撃つ。

凄まじい速度で振るわれる四振りの剣は、たちまち弾丸を全て叩き落して爆発させていく。

「爆発させる機能もありましたか・・・・」

だが、そう呟いた直後には千景は次の攻撃に移っていた。

投げたのは、瓦礫。それもかなり大きなサイズの瓦礫をいくつも。

「これが一体なんだっていうんです?」

ヒュアツィンテは嘲笑う。

やはり人間の考える事は低能だ、と。

しかし、彼女は気付かない。

瓦礫が彼女の頭上にあり、彼女と瓦礫の向こう側には、太陽があり、それが光であるなら、その光の当たる反対側、いわゆる『影』が出来る場所があるのなら―――

 

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』――――『妖刀影宗(ようとうかげむね)』」

 

―――影移動で、その影へ移動する事が出来る。

その瓦礫へ移動した千景は、そのままヒュアツィンテへ襲い掛かる。

「ッ!?しまっ―――」

「――――もう、やめてくれ―――」

逆手に持った妖刀を振り下ろす。

その一撃は、ヒュアツィンテの仮面を叩き、やがて、砕く。

「やった・・・!」

初めて、一撃を入れることができた。

その事に、園子は思わず歓喜しそうになる。

だが、その、頭全体を覆う仮面が砕かれ、その下の素顔を見た時、園子の表情は、凍った。

「以前、お前が俺と防人たちとの戦闘を傍観しにきていた事があったよな」

千景は、地面に降りる。

「その時に、お前はうちの巫女と神によって、その体を調べさせてもらった」

ゆっくりと振り返り、千景は、彼女を睨みつける。

「――――本当に胸糞がわりぃよ」

砕かれた仮面の下。

まるで麦畑のように輝く金髪。その若さではあまりにも発達し、熟れた体。そして、やや色付いた肌。

そこまででは、その人を特定する事は、不可能に近い。しかし――――顔さえ見えれば、識別する事は可能だ。

「――――な・・・んで・・・」

園子は、その場に立ち尽くす。

身の毛のよだつような恐怖を感じ、ふと、息をするのを忘れてしまう。

いつか、師の昔の写真を見せてもらったことがある。

同年代の勇者たちとの集合写真を、恋人と並んで映っている写真を見た。

 

―――忘れるはずがない。

 

それは、その人にとって大切な人。決して忘れちゃいけない人。そして、()()()()()()()

 

その名は―――――

 

「なんで、あんたがそこにいるんだ――――」

『どうして、貴方がそこにいるの―――』

 

 

「『――――上里ひなたァ!!!」』

 

 

ヒュアツィンテ―――上里ひなたが、そこにいた。

「・・・何を言ってるんですか?」

彼女は、憎悪にまみれた視線を、彼らに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れていく、崩れていく。

どんどん化けの皮が剥がれていく。

怖い怖い―――自分の正体を知るのが怖い――――

「やだ・・・やだ・・・・」

誰もいなくなった街の路地裏の奥で、友奈は一人、崩れていく自分の皮を、眺める事しかできなかった。




次回『お前がどうしてここにいる』


相対するわ、三百年前の人間。
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