不道千景は勇者である   作:幻在

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アタシの兄貴

アタシ、三ノ輪銀は、須美や翼に会う前は、とても弱虫で泣き虫だった。

いわゆる、女の子らしい性格という奴だ。

そのころの兄貴はやるときはやる性格で、気が強く、とっても格好良くて、喧嘩では負け知らずだった。

元々打たれ強いってのもあるけど、それでも兄貴は強くて、決して泣き言なんて言わなかった。

そんな兄貴の背中を、アタシはいつもとことことついて行ってた。その時のアタシは本当に泣き虫で、その所為で、いつも兄貴はアタシを守るために喧嘩していた。

やがて、兄貴は神樹館では上級生にも勝つガキ大将として君臨していた。

でも、それでもアタシに対する批判は強くなって、その度に兄貴はアタシの為に戦った。

それが嫌で嫌で、兄貴がアタシの為に傷つくのは嫌で、だからアタシは強くなろうって思った。

今すぐ、は出来なくても、とにかく、家の手伝いをして、アタシは一人でも出来るんだってことを知らしめたかった。

流石に喧嘩はしなかったけど、それでも、そうしていたら、だんだんとアタシの周りに人が集まってきてくれて、それがどうしようもなくうれしくて、もっと手伝いを張り切った。

そして、兄貴が出稼ぎに、讃州に行くっていった時は、やっぱりアタシは兄貴がいないとダメなんだなった思った。

だって、アタシは、兄貴がいなくなることを怖がって、小学五年生なのに思いっきりダダをこねた。

今思えばかなりの黒歴史だけど、それでも、アタシがまだ兄離れできない事を十分に思い知った。

結局、兄貴は讃州に行ってしまった。

だから、アタシは、これまで以上に強くなろうって思った。

勇者にも選ばれたから、もっと、頑張ろうって思った。

 

兄貴に、追い付きたかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギロチンが飛んでくる。

「だらっしゃぁあああ!!」

「オラァ!」

それを、銀と剛は悉く弾いて、そのギロチンを飛ばしている張本人のカタロフに接近を試みる。

しかし。

「セアァ!」

「ッ!兄貴!」

「うおっと!?」

地面からギロチンが飛び出て、それによって後退せざるを得ない。

「野郎・・・!」

「なかなか近付けないな」

奴の操るギロチン。それはどこからともなく四方八方から出現して飛んでくる。

さらに、見えるギロチン、見えないギロチン。この二つが、二人の防御に隙を生じさせ、ダメージを与えようと飛んでくる。

どうにか、銀のカバーによって、全て流しきれているが、それでも限界があるのは確かだ。

「どうしましたぁ?先ほどの威勢はもしかして去勢ですかぁ?」

カタロフは、その仮面の奥で笑う。

「ならばさっさと死になさい!目障りです!」

またしても、(ギロチン)が飛んでくる。

それを銀と剛はどうにか防ぎ凌ぐ。

「くそ!どうやったらこの斬撃の嵐を掻い潜れるんだ!」

「・・・・」

「ッ・・・兄貴?」

ふと、剛が防御しながら何かを考えている事にきづく。

その表情は酷く冷静で、まるで全ての物事が俯瞰出来ているかのように、真っ直ぐだった。

(この・・・目は・・・・)

銀は、この眼差しを知っている。

「・・・銀、ちょっと待ってろ」

「え!?兄貴!?」

いきなり、剛が前に向かって走りだす。

「また突撃ですか!もうその手は使えないと言ってるでしょう間抜けがぁ!」

「間抜けはテメェだ仮面野郎!」

カタロフがギロチンを飛ばす。

それを、剛は防がず全て避ける。

しかしカタロフは気にせず見えない刃を飛ばす。しかし、剛はそれすら防ぐ。

「なんで・・・」

そして、銀は気付く。

地面からギロチンが飛び出す。しかし、剛はそれすら避けて見せる。

「な、何故だ!?」

突然、剛の動きが変わったことに動揺するカタロフ。しかし、それで剛が止まる訳じゃない。

その射程に、カタロフをとらえる。そして、ハンマーを振りかぶる。

「ッ!隙だらけですよ!」

「だろうな」

ハンマーを振りかぶる事で、剛に隙が生じる。そこを突こうとしたカタロフの顔面目掛けて、剛はその拳を叩き込む。

「げぼあ!?」

そのまま吹っ飛ぶカタロフ。

「まだまだァ!」

そのカタロフを追撃する剛。しかしカタロフはその追撃をさせないとでも言うように、吹き飛ばされながらギロチンを投げつける。だが、剛はそれをハンマーの一振りで全て弾き飛ばし、一気にカタロフに接近する。

「なんで、なんで当たらない!?」

そう、先ほどから剛にギロチンが全く当たらないのだ。目に見えないものも含めて、全て回避されている。まるで、攻撃を予測できているかのように、それほどまでに、剛はカタロフの攻撃を悉く避けていた。

その答えが出る前に、剛はカタロフの腹を蹴っ飛ばす。

「ぐべ・・・!?」

「オォォオオ!!」

それでは終わらず、剛は、ハンマーを投げ捨ててカタロフをボコボコにする。

「オラオラオラオラオラオラァ!!!」

「げぐがばごべがらぐげらぁ!?」

友奈ほど精密で鋭くはない。しかしその分、重く体にダメージの残る剛の拳の連打は、カタロフの全身を叩きのめす。

「がぼ・・・こんなことが・・・!?」

「っし」

吹っ飛ぶカタロフを見てガッツポーズを取る剛。

「すげえ・・・流石兄貴」

その光景に、銀は簡単せざるを得ない。もともと観察眼だけは優れていた剛は、どんな喧嘩も相手の弱点を見抜いて豪快なパワーでノックアウトさせる程強かった。

即ち、剛は相手の弱点を見抜いたのだ。

「オラ、立てよ」

そして、剛はその弱点を相手に教えるなんて事はしない。だって教えたら相手もそれに対応してしまうからだ。

 

ここでばらすとするなら、カタロフはさっきから剛や銀の『首』しか狙っていないのだ。大抵は一撃で倒せるからか、あるいは彼に与えられた『斬首』の名故の矜持か、とにかくカタロフは首しか狙ってこない。そこを剛は突いているのだ。

 

挑発と言わんばかりに剛は手招きをする。

「き、貴様ぁ・・・!」

カタロフは、歪んだ仮面を抑えつつ、怒りをその目に宿して剛を睨む。

「もう許さん、貴様はもう許さん。もう首を狙うのはやめにしましょう・・・貴様にはこれから今までにないほど惨たらしい方法で、殺してやろう!」

「ッ!」

剛は、戦槌を呼び出す。

そして、それを思いっきり振り回す。

すると、とてつもない衝撃が、戦槌を何度もたたいた。

「ぐっぉ・・・!?」

よろける剛。その衝撃の正体は、先ほどのギロチン。

「野郎、もうプライドとか捨てて俺を確実に仕留めに来やがったか!」

「兄貴!」

「来るな!」

「ッ!?」

援護に入ろうとした銀を、剛は止める。その間にも、無数のギロチンは剛を襲う。

「テメェは自分の心配だけしてりゃあ良い!俺の事は気にすんな!」

「で、でも・・・」

「安心しろ!俺は負けねえ!」

飛んでくる刃、それを剛は、一回のミスもなく、躱し弾く。

確かに、剛は攻撃を全て弾いている。見えないものも含めて、その場で全て弾き飛ばしている。

しかし、見ているだけの銀は、ハラハラした気持ちで見ていた。

(違う・・・そうじゃない・・・)

 

動けない。

 

今、駈け出せば、剛を助けられるかもしれない。でも、逆に足手纏いになって、剛を死なせてしまうかもしれない。

そんな恐怖が、銀を、その場に縛り付ける。

(どうして・・・どうして動かないんだよ・・・どうして兄貴のピンチの時だけ動けないんだよ・・・!)

須美のピンチの時は動けた、園子のピンチの時も動けた、翼の時も同じだった。

だけど、どうして、兄の時だけは、自分は動けない。

兄のピンチに、駆け付けられない。

そんなのはもう嫌だったはずだ。嫌で嫌で仕方がなかったはずだ。

もう、心配をかけないように、強くなったはずだ。

がしゃ髑髏の力も、手に入れたはずだ。

辰巳の竜の力もものにした筈だ。

兄よりも、強くなったはずだ。

なのに、どうして――――

「おいカタロフ!」

「黙れ罪人!」

「テメェ、さっきから同じ攻撃しかしてこねえなぁ!なんだ!?もしかしてこれぐらいしかできないのか!?」

「黙れ」

「もしかして、今まで一撃で仕留めてこられたのに、仕留められないからイライラしてんのか!?」

「黙れと言っている・・・・」

剛が、防ぐのに精いっぱいなはずなのに、カタロフを挑発する。

「そりゃそうか!こんなんじゃ()()()()()()()()()仕方ねえもんなァ!」

「―――貴様ぁぁぁああ!!」

逆鱗に触れたのか、カタロフがギロチンを一斉に剛に向かって飛ばす。

隙間の無い、確実に剛を木端微塵にする、斬撃の嵐。

「―――それを待っていた」

そして、カタロフは思い知る。

 

それが剛の作戦だということを。

 

「オラァ!!」

剛が、戦槌を変化させて、その片方にジェット噴出孔を出現させる。

既に、その噴出孔にはエネルギーがため込まれているために、あとはもう、点火するだけだ。

故に―――――あとはただ振るうだけでいい。

「ジェットハンマーァァアア!!」

剛最大の戦槌の一撃が、全ての(ギロチン)を吹き飛ばす。

「・・・・馬鹿な」

茫然とするカタロフ。しかし、そうしている間に、剛は戦槌の勢いをそのままに、カタロフに接近した。

「終わりだ」

そして、再度貯めたジェットハンマーを放ち、カタロフを叩き潰した。

 

結局の所、銀は一歩も動けなかった。

 

「ふぃー・・・」

剛が戦槌を上げれば、そこにはカタロフの潰れた死体と飛び散った血があった。

その真っ赤な血は、まるでカタロフも人間だとでもいうかのように、残酷なまでに真っ赤だった。

それはつまり、剛は人生初めて、殺人をしたという事に他ならなかった。

最も、相手が()()の人間だったら、剛も多少の罪悪感を抱いていただろうが、あいにくとカタロフを殺した剛にそれはない。

だが、それよりも、銀は、自分が最後まで動けなかったことを、悔やんだ。

(アタシは・・・・結局・・・)

拳を握りしめて、銀は、顔を悔しさにゆがめた。

力を与えられておいて、チャンスをもらっておいて、何もしなかった。何も出来なかった。

(結局、アタシは・・・あの頃と何も・・・)

剛が銀の元に戻ってくる。

そんな時――――――

 

「ほう、カタロフを倒すとは、貴様中々の重罪を犯してくれたな」

 

 

 

絶望の呼び声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数のバーテックス。それらを、たった五人で相手にすることは、どれほど大変か。

そのうち、七体のみならず、自分たちを含めた状態でたった()()で相手にした勇者部がいる事は事実ではあるのだが、今は、その敵を、自分たち襲撃者だけで対処しなければならない。

それを考えると、問題は、ない。

「ハァアア!!」

幸奈の剛腕がアリエスの腹をぶん殴ってその体をくの字に曲げらせる。

「弘!」

万海灼き祓うう暁の水平(シュルシャガナ)ァ!!」

権限した灼熱の大剣を薙ぎ払い、アリエスの体半分を灰塵にする。

そこへサジタリウスの矢が飛んでくる。しかし――――

飛んでいけ(ボラーレ・ヴィーア)!!」

その矢を自ら迎撃し、叩き落す幸奈。

「ミョルニールゥ!!」

そのサジタリウスに向かって、今度は雷が叩き落される。

「くたばれ」

すかさず、装甲がもろくなったサジタリウスに向かって佐奈が矢を放つ。

その矢はサジタリウスの装甲を突き破り、中にある御霊に突き刺さる。が、砕くことは敵わない。

「チッ!」

その佐奈に向かって、今度はスコーピオの針が迫る。

「舐めるな!」

その針を躱したかとおもうと、その上に乗っかって、佐奈はその長い尾の上を駆け抜ける。

彼女の宿す『アタランテ』という女狩人は、その瞬足で知られる。

曰く、その足に追い付けた者は誰もおらず、競争で負ければ殺され、また、彼女を娶った男でさも、彼女の好物を使って気を逸らさなければ負けていたという。

そして、彼女の性格上、アタランテと佐奈は相性は非常に良い。故に、その走力は極限にまで再現され、肉眼ではとらえらない程のスピードでスコーピオの本体に到達する。

「ハア!」

そして、その脚力を利用してスコーピオを蹴っ飛ばす。

「喰らいやがれ!」

そこへ弘が、剣の雨を降らせてスコーピオを滅多打ちにする。

弘が降ろすギルガメッシュは、いわば王の中の王であり、彼が持つ財宝はまさしく千差万別を言われるほど大量の宝具を有している。

剣から弓まで、また、薬から防具まで、ありとあらゆる世界中の宝の原点をその宝物庫に持ち、それゆえに、その武器を射出する戦法を取る。

「弘さん!右から来ます!」

「ッ!」

この中で最も攻撃力の小さい美紀が、バーテックスの体の上を走りながらそう叫ぶ。

その叫びのとおり、弘の右から、カプリコーンの足が迫ってきていた。

「させ・・・ないぃぃいい!!」

その一撃を、真斗が真正面から受け止める。

「真斗君!?」

「うぅぅぅああぁぁあああ!!」

高速回転するカプリコーンの足攻撃。それを真斗は体を張って受け止め、その回転を止める。

そして、そのまま振り回して、海面に叩きつける。

凄まじい怪力である。

それもそのはず。真斗が宿すのは神。それも北欧神話最強と言わしめる雷神トールである。

その怪力は神々の終末・ラグナロクにおいて、大蛇ヨルムンガンドと死闘を繰り広げ勝利する程。

たかが神の尖兵風情であるバーテックス如きがその怪力に勝てるはずもない。

しかし、高い知能を有するのもバーテックス。

カプリコーンが叩きつけられた海面から、今度はピスケスが飛び上がって、真斗に体当たりをかます。

「ごふ・・・」

ただ神を宿した程度、その体はまだ人間の範疇を超えず。

その衝撃が体を叩き、たちまち吹き飛ばす。

「真斗!」

幸奈が悲鳴のように叫ぶ。だが、すぐにその目に怒りを宿し、ピスケスに殴りかかる。

「こいつッ!」

「幸奈ちゃん!上!」

「ッ!?」

だが、それを阻止するかのように、ヴァルゴが幸奈の頭上からその長い布のような触覚を叩きつける。

しかし、幸奈は逆にそれを掴む。

「舐めるな、化け物風情が」

幸奈が宿すのは、トールのミョルニル奪い、トールと同等の力を持つ、霜の巨人の王『スリュム』。

その息は空気を凍てつかせ、振れればそれは氷塊と化す。

しかし、そんな伝承は存在しない。だが、幸奈にとってみれば、ミョルニルを盗むことに成功した唯一の存在。その怪力は、トールと大差ないだろうという、確信がある。

故に――――幸奈は、その巨人の力を信じる事にした。

幸奈が掴んだ布のような触覚、それが一瞬のうちに凍りつき、ヴァルゴの体を半分凍らせる。

「私たちは、勇者のように戦えない。だけどねぇ・・・」

幸奈は、凍った触覚の上に乗り、飛び上がる。

「勇者より弱いと思ったら、大間違いよぉぉぉおおお!!」

ヴァルゴの体に拳を叩きつけ、その体が半分砕け散る。

「くたばれ」

そして、露出した御霊に向かって、その拳を叩きつける。

御霊が粉砕され、ヴァルゴの体が砂を消える。

それを見届けた佐奈は、すぐさま指示を飛ばせる。

「このまま行くぞ!」

『はい!』

その声に、体当たりから復活した真斗も含めて、応える。

 

 

 

 

 

 

 

「ゼアァア!!」

信也の蹴りが、ライオンの腹を貫く。

「ゴア・・・」

血を吐いて地面に倒れ伏すライオン。しかしすかさず横からハイエナが迫る。

「失せろ!」

そのハイエナを白露が爪で切り裂いて殺す。

「だぁもう!これじゃあ切りがない!」

白露が喚きつつも、無制限に溢れ出す猛獣たちを次々と倒す。

「やっぱ、あの野郎を倒さねえと終わらねえみてえだな!」

そう言いつつ、信也は向こうで高見の見物をしている子供―――『猛獣刑』のレンリを睨みつける。

「んー、なかなかくたばらないなぁ」

その様子を、レンリは建物の屋上で退屈そうに見ていた。

たしかに、先ほどから大量の猛獣を()()してはいるが、それをもってしても、中々彼らは倒れない。

疲弊もしない。むしろ召喚するスピードよりも速いように見える。このままでは確実に召喚が間に合わず全滅してしまうかもしれない。

「うーん。あ、そうだ!」

ふと、レンリはその見た目通りの笑顔を作ると、その手のステッキを振るった。

その直後――――

「ん?」

突然、猛獣たちが呻きだしたかと思うと、いきなり興奮して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ぬあ!?」

飛び掛かってきた大型犬の噛みつきを回避する信也。その空ぶった噛みつきが目の前で凄まじい音を立てて通過する。

「なんだ!?」

「いきなり速さが上がったと思ったら、力も上がってる・・・!?」

その事実に、二人は驚愕を隠せない。

「ついで皮膚も硬くなってきてるな・・・まあ蹴り殺せない程じゃないが・・・セイッ!」

それでも余裕な姿勢を崩さず、信也は目の前に飛び掛かってきた猫をサッカーボールを蹴飛ばすような感覚で蹴っ飛ばす。

「でも、どうしたんだろうこの動物たち」

背中合わせに相談する二人。

「ドーピングか何かじゃねえか?」

「まあそれが妥当だよね」

が、それも一瞬の事。すぐさま襲い掛かってきた猛獣たちを足と爪で一蹴しつつ、入れ替わるように互いが攻撃した猛獣たちに止めを刺す。

「ま、そろそろ面倒になってきた所だ」

「うん、もう我慢する必要もないよね」

白露が、突如その場に四つん這いになる。

それは陸上で言う所のクラウチングスタートの姿勢ではなく、虎のように獲物に狙いを定める時のような恰好だ。

「『虎疾駆』」

次の瞬間、白露の姿が掻き消えたかと思った瞬間、すぐさま周囲にいた獣たちの半分が切り裂かれる。

これが白露の速度と力に特化した『虎之威』の能力。

虎に関する事ならなんでもできる。ついでその身体能力も数倍にまで跳ね上がる。

一方の信也は地面を踏み砕いてアスファルトを空中に飛びだたせる。

「『小石蹴(ストーンシュート)』」

そして、浮かした小石を全て蹴り飛ばし、それらすべてを残りの獣に命中させる。

「あーらら、全部倒しちゃったか。これじゃあ『魔獣化液(ドーピング)』使っても意味ないじゃないか」

いかにもつまらなそうにぼやくレンリ。

「あ、そうだ」

しかしまた何かを思い出したかと思ったら、ステッキの先で立っていた建物の屋上の床を叩く。

すると、二人を挟み込むかのように、巨大な魔方陣が二つ現れる。

「今度はなんだぁ?」

「別に、もう一度倒すだけだよ」

しかし、そのような状況に陥っても二人は余裕を崩さない。

「ふふ、恐怖するがいいよ。その二匹は僕の持つ猛獣の中で、最強の猛獣だからね」

魔方陣から、何かが出てくる。

まず、片方から現れたのは、とてつもなく巨大な腕。まるで大黒柱のように太く長い腕が現れたかと思うと、次に現れたのは、巨大な角―――それも肩から生えた。さらにはまるまると太った胴体が現れ、そして、牙の生えた口を持った頭部もでてくる。足は腕よりは短いものの、それでも人間からすればかなり巨大。

腕と足、そして丸い耳は黒く、胴は白い。というかこれは――――

「パンダだな・・・」

「うん、それもすっごく大きな」

さらに一方で、化け物パンダと同様のサイズで、同じように巨大な大黒柱のように太く長い腕に巨大な胴体。パンダのように牙は生えていないが、額からはこれまた立派な角が生えている。

が、それを除けばそれは完全な―――

「クマだね」

「ああ、ちっとばっかしでかいクマだな」

だが、その巨大さは、二人からしてみてもかなり圧巻だ。

だが、それでも二人とも恐怖をおくびにも出さない。

「どっちがどっちをやる?」

「じゃあ俺がパンダをやるからお前はクマやれ」

「オーケー。死なないでよ」

「分かってんよ」

そうして、二人して身構えた所で、クマとパンダが同時に仕掛けてくる。

 

そして、ほんの一瞬で二人をその拳の射程に収めた。

 

「「!?」」

その巨体に反する、驚異的なスピード。

その二体の拳が、二人を挟みつぶすように叩きつけられる。

しかし、飛び散るはずの血が出ない。

「あっぶねぇ」

「回避が遅れてたら危なかったね」

どうにか上に飛ぶことで回避したのだ。

それを確認した二体は、すぐさま飛び上がって二人を迎撃する。

「やべッ・・・!?」

「反応もはやっ・・・!?」

拳がまたもや叩きつけられる。しかし今度は二人とも迎撃して弾き飛ばす。

(おもい・・・!?)

(長く受けてられないかも・・・!?)

そのまま、クマとパンダのラッシュが二人に殺到する。

「くぉあぁああ!!」

「ぎっぁぁぁああ!!」

ラッシュが殺到し、二人は背中合わせでそのラッシュを凌ぐ。

(このままじゃやられる!だったら!)

ここで信也は後ろにいる白露の襟首を引っ掴むと、空気を蹴って、空中に逃げる。

「「ッ!?」」

「流石に二段ジャンプなんて事は出来ねえだろ!」

そのまま白露を下にすると、足を折りたたんで白露に向ける。

「行くぜ・・・・」

「いつでもオッケーだよ!」

「そんじゃあ・・・『虎蹴(タイガーシュート)』ォ!!」

そのまま白露の足裏を蹴り飛ばす。白露は地面とクマとパンダに向かって一気に落下する。

「範囲拡張―――『虎之爪(トラノツメ)』!」

そして、二体が反応する前に、その胴を爪で切り裂く。が、その前に二体は互いに押し飛ばして、その爪の直撃を回避した。

(薄皮一枚・・・くそ!)

そのまま虎のようにしなやかに体を反転させると、地面を踏み砕いて着地する。

その横に信也が着地する。

「野郎、パンダの癖してなかなか戦いなれてやがる」

「あっちもクマもね。どっちもすごいよ」

「こりゃあ気合入れないとな」

「そうだね」

白露が虎伏の構えを取り、信也も構えを取る。

その様子を、レンリはにやにやとした様子で眺めていた。

「んー、実にいい眺めだ。罪人が苦しむ様は、見ていて飽きないものだからねぇ」

事実、レンリは猛獣を調教する上で、その悲鳴を聞くのが大好きだ。

故に、罪人が生きたまま猛獣に食われる時に上げる悲鳴も彼を高揚させるのに十分。

「さあ、悲鳴を聞かせてくれ。お前たちの奏でる悲鳴(メロディ)を聞かせておくれ。安心してくれ。観客は沢山いるから」

故に、レンリは決して危険を冒さない。

だが、その一方で、傍観者に徹していたレンリだから気付いた事がある。

「あれ?あの女の子は一体・・・?」

その呟いた時――――背後から殺気を感じたレンリはすぐさまそこから横に飛び退く。すると先までレンリがいた床がスッパリを斬られる。

「なに・・・!?」

『おい!最後の最後で感づかれちまったじゃねえか!お前やっぱ暗殺向かねえだろ!』

「うるさいな!外したなら外したでこっちの独壇場なんだからいいでしょ!」

その犯人は、優だった。

ジャケットを着込んで腕に包帯を巻いたその姿はさながら不良のようだ。

「おっかしいなぁ。さっきまであそこにいたよね」

「お前の目を欺いてここまで接近した。大人しく私に殺られろ」

優は手刀をもって、レンリを睨みつける。

「ええー、やだよー。まだアイツらの悲鳴を聞いてないし、まだまだ生きていたいもん」

「残念だけど、もうお前が悲鳴なんてものを聞くことはない。なぜなら、私がお前を殺すからだ」

「んー、殺せるのかなぁ?君のようなガキに」

「お前もガキだろうが」

実を言うと、この汚い言葉遣いの優が本来の優だ。

どうにも椿の血を濃く継いでいるからか、まさに不良のような性格になってしまっているのだ。

「さっさとかかってこい。ザコ」

「んー・・・」

単純な挑発。それでレンリは乗ってくるか。そう思っていた優だが。

「やだ。逃げるが勝ち!」

「な!?」

レンリは逃走を選んだ。

そのまま隣の建物へ飛んでいってしまう。

「逃がすか!」

だが、優がたちまち追い縋って、レンリの無防備な背中に向かって拳を掲げる。

「引っかかったな」

「な!?」

しかし、レンリの脇から、一本の刃が伸びて、それが優の腹に直撃する。

「ぐぅ・・・!?」

「甘いんだよ罪人がぁ。お前如き、この僕に勝とうなんざ、百万年早いんだよぉ!」

そのまま吹き飛ぶ優。それと同時に、血が飛び散る。

優は床に落ちて倒れ伏す。

「ハハハハ!上手く後ろを取ったみたいだけど、残念だったね!お前はここで終わるんだよ!見ろよ。この血を・・・・あれ?」

レンリは、自分のステッキに仕込んでおいた刃を見る。

だが、優を突き刺したその剣には血が一切ついていない。地面には、ちゃんと血が飛び散って―――

ふと気付けば、優の右手には血が垂れ流れていた。

「はっ、誰が終わるって?」

優が鼻で笑う。

「これは、お前の血だぞ?」

「は・・・」

気付けば、レンリの服の脇腹のあたりが血で赤く染まっていた。

そして、それに気付いたと同時に、痛みが遅れてやってくる。

「な、なぁぁああ!?」

「『自動反撃(オートカウンター)』。我が琉球空手の極意、『化身刀(タケミカヅチ)』によって生み出される、骨の髄にまで鍛えられた鋼の体と条件反射の反応速度によって生み出される絶対反撃能力。今はまだ虚君の手助けがなければ使いこなせないけど、それでも私のそれはお母さんのそれと同じ。お前は、私にダメージを与えることもできないし、攻撃すればするほど、反撃を喰らう事になるぞ!」

脇腹から血を流すレンリを見下すかのように、優は得意気に自らの力を明かす。

そう、優には母、椿によって鍛え上げられた体と空手の技術、そして受け継いだ御神刀の力を有する。故に、優は物理攻撃に対してなら全て無効化したうえで反撃ができるのだ。

だから、レンリに勝機は無い。のだが―――

「・・・うざい」

レンリは、子供とは思えない程顔を歪めて突然頭を掻きむしりだす。

「うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい!!」

頭を掻きむしり過ぎて血が流れ出る。

「なんで僕が悲鳴をあげなくちゃならない悲鳴をあげるのはアイツらだろなんで僕が悲鳴をうざいうざい殺してやる今すぐ殺してやるこれまでにないほど惨たらしく殺してやるそう簡単に死なせてやるものかこれまでにないほどの苦痛を味合わせて殺してやる」

めちゃくちゃな事を言い出したかと思うと、そのまま剣の切っ先を優に向ける。

しかし、優の目は酷く冷めていた。

「黙れ――――お前の言葉なんて聞く耳を持たない。お前の体を掻っ捌いてその中身ぶちまけて死ぬのはお前の方だ」

左手を前に、右手を腰に、左足を前に、右足を後ろに。

そのような構えを取り、優は、言い放つ。

「来いよド三流、格の違いを見せてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凄まじい程に、刃と刃が交錯する。

ヒュアツィンテの操る二つの剣と、園子の千本の剣。

その全てが、亀甲していた。

「こ・・・のぉ・・・!」

「ふふ、どうしました?その程度ですか?」

激しい攻防に園子は苦しさに顔を歪め、一方のヒュアツィンテは汗一つかいていない。

「こ・・・の・・・こっちは千本なのに・・・あっちは、二本だけなのに・・・どうして・・・」

「あまりにも大量の剣を操るのに集中力を使い過ぎですよ?そんなんじゃあ私の攻撃を上回る事なんでできませんよ?まあ、二本の時点で、貴方に私を超える手段は、ありませんがね」

「オォォオオ!!」

そのヒュアツィンテに、辰巳が剣を振り下ろす。しかし、その一撃はヒュアツィンテの操る八本ある内の一本に防がれる。

「ははっ、不意打ちのつもりですかぁ?丸見えなんですよ・・・・『紅蓮の魔女(ジャンヌ・ダルク)』!」

「ッ!?ぐおあぁああ!?」

突如、辰巳の剣を受け止めていた剣が燃え上がったかと思うと、その炎が辰巳を襲い、吹き飛ばす。

「ッ!?師匠(せんせい)!」

「余所見すんな!」

「ッ!?」

千景の叫び。しかし、それに気付いても、すでにヒュアツィンテの迎撃に向かわせた二対の剣の内、一本が園子に襲い掛かる。

「うっぁ!?」

その一撃を、その手に持つ槍の柄で弾き飛ばすも、もう一本の剣が園子の脇腹に突き刺さる。

「が・・・・!?」

「『人喰らう女王(ジンガ)』」

剣が突き刺さる、その直後に、園子は、体の血の気が一気に失せるような気がした。

「いや、これは・・・本当に血がなくなってきてる・・・というか、これ・・・()()()()()!?」

なんと、剣が園子の体を()()()()()のだ。まるで、剣の表面に無数の口が突いているかのように、少しずつ、しかし確実に園子の体を喰っていた。

「ぬ、抜かないと・・・」

「天鎖刈!」

園子がその剣を抜こうとする前に、千景がその剣の柄に鎖を巻き付かせて、力任せに引き抜く。

「ぐ・・・ぅう・・・」

そのまま園子は地面に降りて座り込む。

「大丈夫か?」

「な、なんとか・・・」

「止血しておくぞ」

「あ、ありがとう・・・」

『封印縛鎖』で体外に出る血を止めると、千景はヒュアツィンテを睨みつける。

「魔女と呼ばれ、炎に焼かれた聖女『ジャンヌ・ダルク』、国を守った英雄的存在はあるもののその反面、人の肉を喰らうサディスト『ジンガ』・・・・どれもこの世界の人間じゃねえか」

「ええ、そうですよ。一本を除いた七本の剣たちには大罪を犯した女たちの名前が刻んであります」

ヒュアツィンテは、一本の剣を彼らに向ける。

「丁度良い位置にいますね」

にこりと笑ったヒュアツィンテの笑顔にぞっとした直後に、剣が炎を纏い、やがて一匹の龍へと変化する。

「炎を纏った龍・・・・まさか!?」

「『嘘殺しの龍女(キヨヒメ)』」

愛する人に嘘を吐かれてその身を龍へと変えた悲しい女性『清姫』。それがヒュアツィンテが向けた剣の正体だった。

炎の龍が襲い掛かる。

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』―――『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』ッ!!」

千景の装束が変化する。

その装束を金糸梅を想起させる装束へと変化させて、その体に蛇の痣を浮かび上がらせる。

そして、自ら生み出した水を壁のように展開させる。

その壁に炎の龍が激突する。

「ぐ・・ぉあ・・・」

水の壁が蒸発していく。しかし、次から次へと溢れ出る水の勢いに勝る事は出来ず、その進行は阻まれる。

「――――ッ!!園子ォ!」

「『千剣八咫烏・一角』―――――ッ!!」

園子が掲げた槍の穂先に刃が集まり、やがて鋭いドリルの形となって、水の壁に突撃、その先の龍―――の中にある剣に直撃し、弾き飛ばす。

それと同時に龍も掻き消える。

「チッ、凌いだか」

「『文字連鎖(イディオムチェイン)』」

「ッ!?」

千景が影の中に沈む。

すると、園子がヒュアツィンテの後ろに浮かべておいた刃の一片の影から千景が現れる。

「『影移動』」

そのまま、その手に持つ刀を鎌へと変化させてヒュアツィンテに背後から奇襲する。

「甘いんですよ」

しかし、その動きを読んでいたのか、ヒュアツィンテが振り向いて剣を一本、千景に向かって放つ。

だが―――

「ひぃなぁたぁぁあああ!!」

「!?」

そのヒュアツィンテの背後から、辰巳が剣を掲げて突貫してくる。

その構えはまさしく突きの構え。自身を砲弾として、園子に撃ち出してもらい、その背後を攻撃する気なのだろう。

 

それも殺す気で。

 

二方向からの同時攻撃。それにヒュアツィンテは避ける事は出来ない。

このまま行けば、ヒュアツィンテは双方片方の攻撃を受けてしまうかもしれない。

しかし、それでもヒュアツィンテはさらなる手を用意していた。

「だから甘いんですよ――『毒の女帝(セミラミス)』」

その途端―――

「ごぼ・・・!?」

「がぁ・・・!?」

二人が急に苦しみだす。

アッシリアという国を支配した女帝『セミラミス』の名を冠する剣。その能力はありとあらゆる毒を生成する。

今、その剣は、空気中に皮膚をも溶かす酸性の毒を空中に散布したのだ。

これを喰らえば、間違いなく常人なら死ぬ。

辰巳はその体質故に、一時体は解け、そのまま態勢を崩してヒュアツィンテの下を通過。

しかし、千景は―――むしろ耐えきって鎌を振った。

しかし、その一撃はヒュアツィンテの操る一本の剣によって防がれる。

「あら、耐えたのですか」

「痛みには強くてなぁ・・・!!」

「ふふ、そうですが。ですが、やはり一手足りない」

「ッ!?」

「『残虐なる魔女(ラ・ヴォアサン)』」

剣が千景の鎌を弾き飛ばし、その胴に一閃の傷を入れる。

「づっ!?体が・・・」

すると突然、体が動かしづらくなり、そのまま受け身を取れないまま地面に落ちる。

「ぐ・・・ぁ・・・!?」

「希代の悪女にして魔女『ラ・ヴォアサン』。その所業は、毒薬などの売買にだけにとどまらず、黒ミサと呼ばれる神を冒涜する儀式をやっていた最低な女・・・この剣の能力は相手に呪いをかけてその動きを制限するものです」

「そう・・・かよ・・・『封印解鎖』!!」

「ッ!?」

鎖が砕けるような音とともに、千景を縛っていた呪いとやらが消え、体が自由になる。

「まさか、呪いをこうも簡単に解くとは・・・」

「解くだけなら簡単なんだよ」

「そうですか・・・・ふむ、そっちはそっちですでに適応してしまいましたか」

ヒュアツィンテが後ろを見れば、そこには何事もないかのように立ち上がった辰巳の姿があった。

「俺の体は異常な再生能力を持っているからな。体を治しながら抗体を作ったぞ」

「適応力も凄まじい・・・ああ、本当に憎い。今も生きているお前たちが憎い・・・」

あまりにも深い憎悪。彼女の操る八つの剣が、その憎悪を具現化しているかのようだ。

「ひなた・・・」

「ひなたさん・・・」

決め手は見つからず、相手はすさまじく強く、勝機が見えない。

さらに相手は見知った顔。それも、愛する者であり、自身が敬愛する者の愛する者であり、そして、友人。

(やはり手加減してしまう・・・)

相手はすさまじい程に強い。

三人で戦っているのに、まるでこちらが押されている。

(使うしかないのか・・・・『アレ』を・・・)

しかし、それを使えば、手加減できずに相手を殺してしまう可能性がある。

それだけは、避けなければならない。

そう、思った、直後――――

 

「まだ仕留めていなかったのか、ヒュアツィンテ」

 

あまりにも、重い、殺気だった声が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

どんどん、崩れていく。

自分の体が、自分の、皮膚が。

中身が、どんどん曝け出されていく。赤い皮膚が、どんどんその姿を見せる。

怖い、怖い、怖い。

これが、怖い。自分を、知るのが怖い。逃げたい。だけど、逃げられない。

「やだ・・・やだ・・・まだ・・・まだ・・・私は・・・」

思い出したくない。気付きたくない。何か、自分の正体が何かを、思い出したくない。

助けて、誰か、これを止めて、お願い、助けて。

 

 

「だれか・・・たすけて・・・」

 

 

 

 

 

 




次回『四神官VS防人最強組』

熾烈を極める四元素の神官VS悪魔契約者と相棒の少女たちの戦い。

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