不道千景は勇者である   作:幻在

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おはこんにちこんばんは、幻在です。
今週のゆゆゆ・・・・友奈に救いはくるんでしょうね!?
話せばその相手が不幸な目にあうとか、天の神鬼畜過ぎ。
ついでに、なんだか神樹の結界がなんだか不穏な事になってきましたね。
そして結城家を訪問してきた大赦の人間たち。
果たして友奈の運命はいかに・・・・そしてその哀れな運命の少女に祝福を!いやこれマジでお願いしますタカヒロ様ァ!

そんな訳で、今回の話をどうぞ。


皆を守る勇気と世界を殺す者たち

壁の向こう。

そこから、三体のバーテックスがやってくる。

「三体同時に来たか・・・もてすぎでしょ・・・」

「あわわ・・・・」

「・・・・」

風の呟きを無視して千景はスマホの画面を見る。

(かに)座、(さそり)座、射手(いて)座か・・・・・ん?」

ふと、千景は、自分たちとは違う点を見つけた。

「この人は・・・・・風先輩!」

「ん?どうしたの千景?」

千景の慌てた様子に訝しむ風。

だが、千景が見せた画面を見て、その表情が一変する。だが、その表情は驚きではなく、苦虫を噛み潰したかのような悔し気な顔だった。

「お姉ちゃん、この人って・・・」

「・・・やっぱり来てたか」

「先輩・・・もしかして・・・この人にも・・・・」

「ええ・・・適正があるわ」

その点は、真っ直ぐにこちらに向かっている。

やがて、その点の正体が、千景たちの前に現れる。

「おい!風!」

「剛・・・・」

良い体格、鋭く悪い目付き、讃州中学の制服。

風の同級生、三ノ輪剛だ。

「これは一体どういう事だ!?」

「ごめんなさい・・・・でも、説明している暇が・・・・」

剛の怒声に、申し訳なさそうに答える風。

「それにその恰好は一体・・・・」

「三ノ輪先輩、落ち着いて下さい。風先輩、説明は俺からします。だから先に行っていてください」

「千景・・・わかったわ。樹、友奈」

「うん」

「分かりました。それじゃあ、行ってくるね、東郷さん!」

「あ、友奈ちゃん・・・・」

「おい!風・・・!」

行ってしまう三人。

その時、風が剛のほうをちらりと見た時、その顔は、悲しみにあふれていた。

「なんなんだ・・・」

「三ノ輪先輩」

「説明はしてくれるんだろうな?」

「ええ。かくかくしかじかなんです」

説明を終える千景。

「バーテックスが神樹にたどり着けば、世界が終わる・・・風は大赦の人間・・・・訳が分からん」

「まあ、そうですよね・・・」

「それで勇者か・・・・つまり、俺も戦えるという事なのか?」

「そのはずです。アプリはインストールしていますか?」

「なんかしらんが入っていたな。風の奴、こっそり入れやがったな・・・」

剛が自分のスマホを取り出し、そうつぶやく。

「だったら・・・・」

「友奈ちゃん!?」

「「ッ!?」」

美森の悲鳴。

見ると、スコーピオ・バーテックスが、その尾の針で友奈を突き上げていた。

そのまま千景たちのすぐそばに落ちる。

遠くでは、サジタリウス・バーテックスが放つ光の矢を反射するキャンサー・バーテックスの猛攻に、逃げる一方の風がいた。

「友奈!」

「あ、おい!?」

走り出す千景。

それと同時にスコーピオの針が友奈に迫る。

「間に合えェ!」

間一髪のところで、千景が針を鎌の持ち手で防ぐ。

「ぐぅ!?」

だが、相当に重いのか、思わず膝をつく。

そのまま連続で針が二人を襲う。

「ぐう、が、!?」

それによってその場を動くことができない千景。

「不道!」

叫ぶ剛。

「友奈ちゃん!」

美森も叫ぶ。

その時、美森の脳裏には、友奈と初めて出会ったときの事が唐突にフラッシュバックした。

 

まだ、事故によって記憶が飛び、不安で一杯だった時の事。

引っ越した日、自分に手を差し伸べ、微笑んでくれた、あの日。

 

「やめろ・・・」

美森がつぶやく。

それと同時に、剛の脳裏にも、ある思い出が浮かび上がった。

 

妹失って、自暴自棄になっていた頃。

中学に上がるときに、自分一人で生きるなんて突拍子もない事を言っておきながら、なんでもかんでもがどうでもよくなり、学校に行く気も起らず、ただ、気に入らないやつを殴っては金を巻き上げる日々。

そんな中で、あの風と出会った。

夏の暑い日だった。

その時、風に言われた事はよく覚えている。

『アンタの妹は、アンタにそんな風に生きろって言ったの!?』

強烈な張り手とともに、そんな事を言われた。

ただ、その一撃は、剛を目覚めさせるのには十分だった。

 

 

「・・・俺は勇者部じゃねえ・・・」

針が振り下ろされる。だが、それでも千景はそれ以上を進ませない。

「だけどなぁ・・・・」

スマホを握りしめる。

 

「―――風の大事な後輩を虐めてんじゃねえぞぉぉぉぉぉおお!!」

「―――友奈ちゃんをいじめるなぁぁぁああああ!!」

 

刹那、針が美森を襲う。

だが、その針が、突如()()()()()()

「「!?」」

それに、千景と友奈は目を見はる。

そこには、巨大な戦槌を掲げた男が立っていた。

「三ノ輪先輩・・!?」

「すごい・・・!」

それは剛だった。

剛の装束は、アフェランドラを想起させる黄色だった。

「私・・・いつも友奈ちゃんに守ってもらってた・・・・」

美森が、スマホを手に取る。

「だから、今度は私が勇者になって・・・・友奈ちゃんを守る!」

その瞬間、美森の姿が光に包まれ、大きく変わる。

アサガオを想起させる青を主とした装束、背中から伸びる帯のようなものが、彼女を立たせる。

 

 

 

「・・・綺麗・・」

友奈が、そうつぶやく。

「三ノ輪先輩、先ほどはありがとうございます」

「おう」

美森が、片手に拳銃を出現させる。

「不道!俺は風たちの所へ行く!こいつは任せた!」

「分かりました!気を付けて!」

走り出し、風たちの援護へ向かう剛。

だが、それを阻止するかのように、スコーピオが再生した針で剛を攻撃しようとする。

その時、その針がまたへし折られる。

「もう友奈ちゃんたちには手出しさせない!」

美森は、拳銃からさらに威力の高い二丁拳銃を顕現させる。

それで連続でスコーピオを撃ち抜く。

「すごい、これなら・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、サジタリウスとキャンサーの攻撃から逃げ回っている風と樹は。

「全く、しつこい男は嫌いだっての!」

「もてる人みたいな事を言わないでなんとかしようよお姉ちゃん・・・」

その時だった。

「オラァ!」

突如、キャンサーが操っていた反射板のうち一つが吹き飛ばされ、それに反射させられていた矢はどこかへ飛んで行ってしまう。

「何!?」

「よう風!苦戦しているようだな!」

その正体は剛だった。

「剛、その姿・・・・」

「剛さん・・」

「大切な奴が戦ってんだ。俺がやらなくてどうする」

「た、大切・・・」

赤面してもじもじとしだす風。

その様子に苦笑いを浮かべる樹。

「ん?どうした?」

「な、なんでもない!・・・てわぁ!?」

突然、どこからともなくスコーピオが落ちてくる。

上に上がってみる三人。

「そのエビ持ってきたよー!」

見ると、友奈が手を振り、千景が敵を見据えていた。

「サソリでしょ」

「どっちでもいいから・・・」

風の反論に苦笑いをする樹。

ふと、風は視線の先で飛んでくる人影を見つける。

「あ、東郷先輩!」

樹が歓喜の声をあげる。

「遠くの敵は私が狙撃します」

「東郷・・・戦ってくれるの?」

その風の問いを、しっかりとした頷きをもって肯定する。

それに安心したように笑う。

「援護は任せてください!」

「分かった。手前の二匹はまとめてやるわよ!散開!」

「「「オッケー」」」

「了解」

「不意打ちには気を付けて!」

「「はい!」」

「なんか私のより返事が良い・・・」

「まあ、元気だせ」

走り出す千景。

目指すは敵、バーテックス。

奴らを倒さなければ、世界は終わってしまう。

 

かつて、あの人たちが守った、この世界が。

 

そんな事はさせない。絶対に、させる訳にはいかない。

 

 

どんな障害にぶつかろうとも――――――

 

 

 

 

それは、偶然だった。

「!?」

振り返り、友奈の方向を見た時、友奈の背後から、何かが攻撃しようとしている瞬間を捉え―――――

「ッ―――――!!」

千景は方向転換する。

「千景君!?」

後ろへ追随していた友奈が驚く。

だが、そんな事お構いなしに叫ぶ。

「避けろ友奈ぁぁああ!!」

「え・・・・」

間一髪、というのは流石というべきか。

父親の武術を学んでいるからか、その反応速度は、ギリギリの所で、敵の攻撃を防いだ。

だが、空中だったからか、そのまま吹き飛ばされる。

「きゃあ!?」

「友奈先輩!?」

「樹!避けて!」

「え・・・きゃあ!?」

樹も、何者かによって吹き飛ばされる。

「オォオ!」

千景は、樹をふっ飛ばしたその襲撃者に対して、鎌を振りぬく。

金属音が響き、その襲撃者を吹き飛ばす。

「風先輩!樹を拾って東郷と協力して敵を倒してください!俺は三ノ輪先輩と友奈で襲撃者を抑えます!」

「ッ・・・分かったわ、気を付けて!」

「はい!」

「おう任せろ!」

襲撃者は三人。

剛と千景、そして友奈は敵を迎え撃つ。

そして風と樹、美森はバーテックスを倒しに行く。

 

 

 

 

 

「テメェら、一体誰だ!」

剛は、その襲撃者に対してそう怒鳴る。

先ほど千景が吹き飛ばした小柄な影とはもう一つ、背の高い男がいた。

その男の片手には青黒い片手直剣が握られており、その眼光は、濁り切っていた。

「・・・お前らが知る必要はない。俺たちはただ、この世界を殺すだけだ」

襲い掛かってくる、藍色のロングコートの男。

「先輩、奴は俺がッ!」

「おう分かった!」

それを迎え撃つ千景。

刃が激突する。

千景の持つ鎌はリーチも重さも、男の持つ剣より重い。だから当然、千景が押し勝つ。

そのまま自分の体を軸に鎌を回転させ、同方向から連撃を放つ。

だが、敵はかなりの反応速度で剣を引き戻し防御。

そこから目まぐるしいほどの剣戟が巻き起こる。

一方で、剛と小柄な人影のほうでは・・・・

「いいなぁ」

「ああ?」

なんとも子供らしい甲高い声が聞こえた。

だが、剛はその姿を見抜いていた。

 

この子は女だ。

 

「何がだよ」

だが、剛にとってそれはどうでもよく、訝しむように聞く。

「だって貴方、遅そうだもん」

この悪気のなさそうな言葉に、かっちーんと頭にくる剛。

額に青筋を浮かべ、その子供をにらみつける。

「おいガキ。あんまり調子乗ってっと痛い目見るぞ?」

「そうなのかな?そうなんだ。そうする?そうしよう」

「?」

なんだか言動が可笑しい。

まるで、一人で何人もの霊が取り憑いているかのような、そんな一人問答を――――

突如、少女の姿が霞んだ。

「ッ!?」

「遅いよ。お兄さん」

「な!?」

いつの間にか懐に入られていた。

その手に持つのは小さな白いナイフ。しかしその正体は、人体を裂くためだけに作られた、メスだ。

「つぉッ!」

無理矢理腰を引き、回避する。

その瞬間、剛と少女のメスの間で黄色い閃光が走る。

「あれ?」

「ぬあ!?」

見ると、剛がまさにメスを突き立てられようとしていた腹の場所に、胴体が茶釜という摩訶不思議なたぬきがそこにいた。

「なん・・・ッ」

「あー、そっかぁ。そういえばそうだったね。うん」

「・・・なんなのか知らねえが、どうやらこいつは俺を守ってくれる守護霊的存在って訳だな」

なら話が早い。

守ってくれるなら、遠慮なく振りかぶれる。

「うおらァ!」

巨大な戦槌を振りかぶり、それを一気に叩き落とす。

「アハハ!遅いよお兄さん!」

「それはどうだろうなぁ!」

その戦槌は神樹の根に叩きつけられる。

そして着地した少女の体を吹き飛ばす。

「きゃあ!?何!?」

「ハッハッハ!どうだァ!」

戦槌を根に叩きつける事で振動を起こし、それで少女を吹き飛ばしたのだ。

「名付けて遠隔打撃(グランドクラッシャー)!」

ただ、ここで注意してほしいのは・・・敵味方構わず巻き添えを喰う事だ。

「うわ!?」

突然起きた振動によって態勢を崩す千景。

それは敵の男も同じなのだが、どういう訳か早く態勢を立て直し、すぐさま追撃をかける。

「ッ!」

千景は、それを鎌の柄尻を突き出す事で迎撃する。

間一髪のところで剣をそらすことに成功し、距離をとる千景。

「今の振動先輩ですか!?あやうくやられかけたんですけど!?」

「え!?わ、わりぃ・・・!」

「本当・・・」

千景は自分の右脇腹を抑える。

「勘弁してくれ・・・・」

千景は、そう呟き、鎌を構えた。

 

 

 

一方で、友奈の方では。

「ぐう!?」

両手を交差させ、敵の拳を防ぐ。

靴底を擦り減らしながら、後退させられる。

「うう・・・・」

「・・・・」

友奈の目の前にいるのは、黒髪の少女。

年齢、身長は友奈とほぼ同じ。

服装は友奈のそれとほぼ同一だが、色は黒であり、細部が違う。

「どうしてこんな事を・・・・」

友奈は、相手が人間だと認識したうえで問いかけた。

「・・・・この世界が憎いからよ」

「え?」

呟く暇もなく踏み込まれる。

「うあ!?」

どうにか体を引き、敵のアッパーカットを回避する。

「く!」

「ふっ!」

そのまま追撃といわんばかりの正拳突きを放ってくる。

「ううッ!」

回避と防御。

敵が放つ連撃を、一切の反撃無しに回避し続ける。

「・・・・舐めているのかしら?」

「ッ!?」

懐に入られる。

少女の右拳が突き出される。

その拳が、友奈の鳩尾に突き刺さる。その寸前、牛鬼が障壁を張り、その攻撃を受け止め――――

 

 

 

――――られなかった。

 

 

 

「ごほッ!?」

拳が障壁を突き破り、鳩尾に突き刺さり、友奈を吹き飛ばし、樹海の根に叩きつける。

「ごはッ!?」

腹から何かがこみあげ、喉を通過し、口に辿り着き、吐き出す。

「げほッ、ごほっ・・・!?」

(い、痛い・・・苦しい・・・!?)

四つん這いになり、霞む視界を凝らすと、そこには、赤い液体が飛び散っていた。

「あ・・・ああ・・・・」

ここまで大量な血を、友奈は初めて見る。

だから、恐怖が彼女を襲う。

 

殺される

 

「あ・・・あぎ・・・」

立ち上がらないと、早く、立ち上がらなければ・・・・・

後頭部から衝撃、そして、顔面への鈍痛。

「うあ・・・!?」

「どうして攻撃しなかったのかしらね。もしかして、私が人間だから?」

少女の問い掛けに、友奈は答えられない。

それどころではないのだ。

おそらく、内臓がまずい事になっているだろう。

それほどまでに・・・まずい。

「なんて愚かな考えなのかしらね。そんな幼稚な思いで、この世界を守ろうだなんて」

「うう・・・・・」

「何かを守りたいなら、常に何かを壊して生きていく他ない。あなたが、誰かが傷付くことが嫌なら、あなたは、その手を血に染めなさい。世の中、貴方の抱く綺麗事など通用しないのよ」

意識が遠のく。

少女は、友奈を踏みつけていた足を持ち上げる。おそらく、このまま友奈の頭を踏み砕き、殺すつもりなのだろう。

まずい、このままじゃ・・・・

 

 

「友奈ちゃん!」

 

 

「ッ!?」

突然、少女が飛びのく。

それと同時に、先ほどまで彼女が立っていた場所に、光弾が過ぎ去っていく。

「とー・・・ごー・・・さん・・・」

霞む視界の先、美森がこちらにむかって狙撃銃を少女に向かって撃ちまくっていた。

「チッ!」

少女は舌打ちする。

そして、少女は美森の方へ走り出す。

おそらく、彼女の狙撃技術に何かしらの危険性を感じたのだろう。

「く!」

美森は友奈を傷付けられ激怒していたが、頭は至って冷静。

その為、狙撃の精度は落ちていないが、それでも、彼女を捉える事ができない。

「くう・・・!」

間隔を狂わせても、動きを予測しても、その(ことごと)くを打ち払い、ほぼ無理矢理突進してきている。

「神風・・・!?」

その行動に、目を見開く美森。

とにかく撃ちまくる。

脚を狙って動きを止めようとするも、彼女の手甲によって防がれる。

このままでは辿り着かれる。

 

残り、二百メートル。

 

 

 

 

 

 

 

「ダメ・・・・東郷さん・・・・」

友奈は、激痛が走る胸を抑えながら、地べたを這いつくばる様に、あの少女を追いかけようとする。

精霊の障壁を打ち貫く敵の攻撃。

いくら、三体の精霊を持っている美森といえども、そんな相手の攻撃を受ければ、ただでは済まない。

「やらせ・・・ない・・・」

だから、行かなければ。自分がどれほど傷付こうとも、どれほど苦しもうとも、誰かが傷付くことだけは、絶対に許さない。

 

 

 

そう、()()()()()・・・・

 

 

 

 

 

 

ふと、少女の背後が輝く。

「!?」

その突然の出来事に、思わず振り向いてしまう。

その光は、まるで花が咲くかの如く舞い散り、吹き荒れる。

 

次の瞬間、その光から何かが飛び出し、少女を吹き飛ばす。

 

「ぐうあ!?」

障壁を突き抜ける重い一撃。

質量、面積、その全てが違う。

そう、これは、まるで、巨人の拳に吹き飛ばされたかのような一撃。

「ぐう・・・」

痛む体を持ち上げ、その姿を確認する。

「!? 貴方・・・その姿は・・・!?」

そこに立っていたのは、友奈だった。

ただ違うのは、服装が変わり、彼女の左右に、巨大な腕が出現していた。

「・・・・東郷さんはやらせない!」

巨腕を振り上げる。

「くッ!」

少女はそれを地面を転がる事で回避する。

「逃がさないッ!」

友奈が振りかぶる。

その巨体に似合わぬ速さは、少女の体を捉えるのに十分だった。

「ぐうッ!?」

大きく吹き飛ばされる少女。

派手に地面を転がりまわり、粉塵を巻き起こし、沈黙する。

「やった・・・」

「まだだよ、東郷さん」

「ッ!?」

友奈の言葉に、美森は慌てて狙撃銃のスコープをのぞき込む。

そこには、地面に仰向けに倒れるあの少女の姿。

流石にあの一撃を受けては流石に立ち上がる事など―――――

だが、奴は起きた。

「嘘・・・・なんで・・・・」

「わざと吹き飛ばされて、衝撃を緩和したんだ。それに派手に転がったのも、衝撃を地面に逃がすため。相当強いよ。あの人」

武術に精通している友奈ならではの推測。

実際に、その推測は的を射ている。

後ろに飛び、わざと吹き飛ばされる事によって、自分に来るダメージを減らし、吹き飛ばされた際の推進力は自ら進行方向へ飛ぶ事で緩和し、地面を転がる事で着地の際の負荷を減らしたのだ。

かなりの判断力と冷静さがなければなせない技だ。

「どうすれば・・・・!」

そういえば、前回の時は彼らと遭遇しなかった。

もし、近くに彼らがいたとしたなら、自分たちがバーテックスを倒した瞬間に、神樹は、彼らを危険とみなさず、樹海化が解除したとしたなら。

『東郷!』

突然、スマホから声が響く。風だ。

『最後の奴の封印が出来たわ!だけどあんなに速くちゃ私たちじゃ捉えられない!お願い!どうにかして!』

「分かりました」

もし、自分の仮説が正しければ、この戦いは終わる。

美森は、その確信をもって、銃口を、最後のバーテックスの御霊に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハア・・・ハア・・・ハア・・・・!」

「アハハ!やっぱり遅ーい!」

「うる、せぇ!」

戦槌を振り回す。

だが、それでも小柄な敵を捕らえるには至らない。

「くそッ!これじゃあ埒が明かねえ!」

剛の体からは、ところどころから血が流れていた。

その原因は、敵の攻撃。

数十発に一度、障壁を突き抜けてくる攻撃。

それが何度も掠って、いくつもの切り傷を作っているのだ。

文字通り、苦戦している。

 

 

 

「くあッ!?」

弾かれる。

大きく下がらされ、どうにか踏みとどまる。

そして、千景は男を睨み付ける。

ここまで、千景はまともに反撃出来てない。

敵は片手剣。

武器の重さでは、千景の鎌の方が上だ。だが機動力と小回りでは、あの男の方が上だ。

そこまでは良い。問題は、技術の問題だ。千景は鎌を振るうのは初めてだ。が、どういうわけか手にものすごく馴染む。どういうわけか振り回すのは大分楽であり、扱いやすい。

だが、それを凌駕するかの様に、男の剣劇はすさまじい。どうにか防御するのがやっとだ。

このままでは勝ち目がない。

そう思った時だ。

「・・・何故だ」

「?」

「何故お前たちはこの世界を守ろうとする?何故神樹を守ろうとする?この世界に()()()()()()のに、何故この世界を守ろうとする?こんなクソみたいな世界を、何故守ろうとする。こんな世界など、終わった方が良い。こんな世界など、消えた方が良いのに、何故だ」

男の見下すような視線に、千景は、歯を食いしばって吠える。

「ふざけんな!絶対に終わらせたりなんかしない。(わたし)の大切な仲間たちが守ったこの世界を絶対に壊させたりなんてさせない!」

そこで千景は気付く。

 

今、誰の事を言った?

 

彼の記憶には無い、別の誰かの記憶。

それが、混ざっている。

「こんな世界、守る価値などない」

だが、男はその言葉を一蹴し、長剣に切っ先を突きつける。

「お前がこの世界を壊す理由はなんなのか知らない。だけど、この世界を壊すというのなら、(わたし)はお前を殺すッ!」

先ほどから記憶が混乱してきている。

だが、それは関係無い。

今は関係無い。

 

ただ、(わたし)はあの人たちが守ったこの世界を壊す者をすべて殺すッ!

 

鎌が変形する。

「なんだ!?」

目を見開く男。

半透明の光の刃が肥大化し、巨大な両刀身鎌へと変貌する。

 

それは、死者をも冒涜する呪われし刃。

 

「『大葉刈(おおはがり)』―――――ッ!」

そして、その鎌を一気に振りぬく。

「ぐぅ!?」

その一撃は、男の迎撃の一撃をいともたやすく弾き飛ばし、右肩から左脇腹にかけて、斬り落とす。

「ぐぅ!?」

だが、浅い。敵の命を刈り取るのには、まだほど遠い。

しかし、攻撃はまだ終わっていない。

「う、おぉぉぉおお!」

返す刃で、追撃。

剣も弾かれ、無事とはいえないダメージを受けている男にとっては絶対絶命。

もはや、直撃はまぬがれない。

 

だが、どこからともなく矢が飛んできて、千景の鎌を弾く。

 

「な!?」

思わず態勢を崩す千景。

「下がれ!八神!」

「ッ!」

低い女性の声。その声に反応し、下がる男。

同時、千景に向かって、数本の矢が飛んでくる。

「うわ!?」

千景はそれをどうにか回避する。

「バーテックスが倒された。今回も失敗だ」

「そうか・・・・」

遠くで土煙が上がる。

それと同時に、黒髪の少女が飛んできて、うまく着地する。友奈と戦っていた少女だ。

そして、その少女の顔を見て、千景は絶句する。

「お前は・・・・!?」

その人物は、随分と見知った顔だった。

「おい待ちやがれ!テメェら・・・一体何もんだァ!」

剛が怒声を浴びせる。

だが、彼らは動じない。

そこには、ほかにも、もう一人、仲間がいた。

全部で、六人。

 

藍色の装束の男。

黒い装束の黒髪の少女。

灰色の装束の小さな少女。

緑の装束の冷たい眼差しの少女。

毛皮の様な焦げ茶色の装束の熊の様に大柄な男。

薄汚れた白色の装束の少年。

 

 

樹海化が解除されるなか、彼らのリーダー格らしき青コートの男がいう。

「俺たちは、この神樹の世界を壊す者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海化が解除され、千景たちは学校の屋上にいた。

「なんだったのかしら、奴ら・・・・」

「お前が知らねえなら俺が知る事かよ」

風の疑問に、頭を掻きながら答える剛。

「あの人たち、どうして神樹様の世界を壊すなんて言ってるんでしょうか?」

「・・・・分からないわ」

樹の質問に、美森はきっぱりと答える。

だが、そこで何かが倒れるような音が聞こえた。

「え?」

そちらに視線を向けると、そこには、地面に倒れ伏す友奈の姿があった。

胸を抑え、その顔を苦痛に歪めていた。

「友奈ちゃん!?」

「「「!?」」」

剛、風、樹の三人がその声に反応する。

「友奈!?」

「どうした結城!?」

「友奈先輩!?」

そのすぐあと、今度は千景が床に膝をつく。

「千景先輩!?」

それに気付いた樹が慌てて駆け寄る。

「ぐ・・・」

「どうしたんですか!?」

「・・・脇腹をやられた」

見ると、千景が抑えている右脇腹から赤い液体が滲み出ていた。

「そんな・・・・」

「友奈ちゃん!しっかりして、友奈ちゃん!友奈ちゃん!」

その日、屋上に美森の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦のとある一室にて。

一人の少年が、ベッドに横たわる少女と会話していた。

少女の姿は、病院のローブを纏い、体中を包帯で包まれていた。

どうやら、かろうじて眼球と口、そして左手は動かせるようだ。

一方で、少年の方は、黒髪で優しい顔付きで、その顔に笑顔を浮かべている。

ただ、右目は眼帯に覆われており、彼の動きを見る限り、左腕が全く動かしていない。

「やっぱり行くの〜?」

「うん。行かなくちゃいけないんだ。僕の役目は、まだ終わっていないから」

「別にもう戦わなくていいんだよ?今は、別の子たちが戦っているみたいなんだし」

「でも、戦ってるんだ。あの子が。なのに、まだ戦える僕が行かなくて誰が行くっていうんだい?」

「大赦の方から、一人派遣される、って分かってても?」

「それこそ、愚問ていうものじゃないかな?彼女も知らないんだ。勇者システムの本当の恐ろしさってものをさ」

「そっか〜。覚悟はもう決まってるんだね〜。これは止められないなぁ」

少女は、諦めたかのように笑う。

「分かった。ちゃんとわっしーを助けてあげて。そして守ってあげて」

「うん。銀ちゃんとの約束だからね」

少年は立ち上がる。

「言ってくるよ」

「いってらっしゃい~、つばくん」

少女に背を向け、歩き出す少年。

「まだ少し調整に時間がかかるけど、待っていてくれ、須美ちゃん」

確かな決意と共に。




次回『新戦力二人』

蓮華(れんげ)の少女と眼帯の少年。


キャラ紹介

三ノ輪剛

勇者として

武器 両手戦鎚(ツーハンドハンマー)

巨大なハンマーを振り回して戦う。完全なパワーファイター。
大雑把な分破壊力がある。
勇者の中では最大の打撃力を誇る。ただし、風のように巨大化する事はない。
その代わり、片方が開いて、ジェットエンジンの噴出口(スラスター)を露出させて、その推進力を利用した『ジェットハンマー』を使える。

精霊は『分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)

満開は可能。

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