不道千景は勇者である 作:幻在
炎が迫る。しかし、その一撃を、左の剣で斬り払う。
「だらっしゃぁあああ!!!」
そして、右の大剣で目の前の女に―――フォイアに叩き落す。
しかし、その一撃は容易に交わされて、再度追撃の火炎弾が飛ぶ。
空中にまき散らされた火球が、フォイアの指示によって動き、それぞれが意思を持っているかのように、襲い掛かってくる。それも明日香の周囲に散布されているために、四方八方から襲い掛かってくる。
「こんにゃろ!」
それに対し、明日香は両手の剣で迎撃を敢行する。
明日香の剣は、己が契約する『正』の悪魔の力によって、二つの使い用途がある。
一つは断って正す。
剣刃による斬撃で、相手の異能系の攻撃を全て無効化する。
二つ目は返して元の場所へ正す。
剣の腹で叩くことによって、その攻撃を全て元の発射主へ弾き飛ばす事が出来る。
まあ、この場合は『正す』というより『返す』というのが正しいのだが。
それはともかく。
「ドララララララッ!!」
襲い掛かる火球全てを、驚異的な身体能力をもって全て弾き飛ばす。
明日香は、その子供時代を、ほぼ森の中で過ごしてきた。
故に、気配の察知にはすさまじい程の獣ぶりを発揮する。
弾かれた火球全てがフォイアに返っていく。
「あめぇんだよ」
だが、その攻撃全てが突如現れた炎の壁によって防がれる。
そこへ明日香がすかさず大剣を叩き落して、炎の壁を破壊。さらに左の剣を突き出して突き刺そうとする。
「ウラァ!」
しかし、その一撃はフォイアの放った後ろ回し蹴りによって、右に逸らされる。
そのまま回転したフォイアは、錫杖のような槍を突き出す。
その突きを、明日香は顔を傾けて顔面への直撃を回避、頬を掠め、斬れる。
しかし、それで終わらない。前に進む体を足で無理矢理止めて、左の剣を薙ぐ。
フォイアはそれをしゃがんで躱し、そのしゃがんだ所へ右の大剣が振り下ろされる。
それすらも躱され、アスファルトを砕く。
「なんで馬鹿力だよ・・・!」
「くぉらぁあ!!!逃げんなぁー!!」
「黙れ人間!お前なんかに逃げるなんて言われたくないわ!」
槍が突き出される。明日香が迎撃する。されど正面衝突、鍔迫り合いに持ち込まれる。
「チィッ!忌々しい・・・まさか人間如きにアタシの炎が封じられるなんて・・・!」
「ハッハッハ!ソイツいいなザマミロ!さんざん俺の事を猿と言ってくれた罰だワッハッハー!」
「ああ!?確かにテメェらは猿だがそれ言ったのはアタシじゃねーよ!」
「否定しないんかーい!?」
「だぁああ!うっせぇ!黙ってアタシに殺されろぉぉおおお!!!」
「やぁなこったぁああ!!」
互いを弾き合い、距離を取る明日香とフォイア。
「うぉぁああ!!」
「だらぁああ!!」
そのまま、二人は激しく打ち合う。
優理が無数の霊子の矢を放つ。
それをヴェントはその隙間を縫うように躱す。
反撃にヴェントは風の槍を放つも、それは全て雀の持つ盾によって防がれ、その盾の影から夕海子が銃剣から弾丸を放っての反撃をし返す。しかしそれすらも躱される。
「当たりませんわね!」
「うう!速く仕留めてよー!」
「分かっている!」
再度、無数の矢を放つ優理。しかし、やはり躱される。
「チッ、無駄にすばしっこい奴め」
「アハハ、さっきは驚いたけど、分かっちゃうとそうでもないねー?」
「ッ!?」
それもそのはず、ヴェントが操るのは風の元素。そしてその派生は雷が含まれており、その力によってヴェントはすさまじい速度で空中をかけていた。
だから、そう簡単に矢は当たらない。
「今度はこっちから行くよ!」
宣言、その後、ヴェントが乱射される矢の雨を掻い潜って優理たちに接近する。
その狙いは、当然優理だ。
その足に風を纏い、そのまま薙いで優理を攻撃する。雀の防御は己に向けられる害意にのみ反応するもの。他者への害意も当然察知できるが、それでも反応は一拍遅れる。
「優理さん!」
「優理様・・・!」
間に合わない。しかし―――
「心配するな」
優理が腰から抜いた薄い長方形のケースのようなものを取り出すと、その片方の穴から、光の刃が現れ、その一撃を防ぐ。
「え・・・!?」
「霊子によって構成された刃だ。構成された霊子は振動している為、まるでチェーンソーでそぎ落とすように、お前の体を切り裂く」
その言葉通り、光の刃は叩きつけられた風の一撃を全て掻き切って、相殺する。
「そんな・・・」
「ハッ!」
振るわれる光の刃。それをヴェントは軽い身のこなしで躱す。
しかし、脛を僅かに掠める。
「逃がすか!」
しかし、すかさずその剣を矢に番え、放つ。
それすらも躱すが、その刃はヴェントの頬を掠める。
「う・・・わ・・・!?」
「チッ、仕留めそこなったか」
さらなる矢を番える優理。
だが、突如としてヴェントが笑いだす。
「ふふ・・・アハハ・・・!」
「・・・何が可笑しい?」
「何が・・・?どうして私が怪我を負ってるのかなぁ?」
「・・・?」
顔を上げたヴェントの頬には、一閃した傷口からたらりと血が流れ出ている。その表情はあまりにもその見た目相応のものとはかけ離れており、あまりにも、何かが欠落していた。
「これは間違いだね。うん、だって私が人間如きに傷つけられる訳ないもん」
「ふん、どうやらプライドが傷つけられて、おかしくなったか」
「アハアハ、そう、これは間違い。こんな事あっちゃいけないんだ」
ヴェントの周囲の風の流れが、何か、おかしくなる。
「うん。こんな事あっちゃいけない。だから消さないとね。アハアハ――――」
「・・・雀」
「分かってるよぉぉぉぉおおお!!」
次の瞬間、間髪入れず、
なんの前触れもなく、いきなり、優理達の所に竜巻が落とされた。
全てを巻き込んで壊していく、破壊の風。
その威力は、巻き込む物が多ければ多いほど強くなる。
あまりにも激しい暴風が、三人のいた場所を、跡形もなく消し飛ばす―――
「と、思ったか?」
「え!?」
しかし、その暴風の中、三人は生きていた。
雀の持つ盾を霊子によって強化し、その暴風の槍を受け止めているのだ。
「な、なん・・・!?」
「なんで、と思う前に、貴方は防御に徹した方がいいと思いますわよ」
「!?」
そして、『
それを間一髪でかわし、ヴェントは反撃に電撃を飛ばそうと右手を突き出す。
だが、それよりも速く、ヴェントの肩の背中側に、霊子の矢が突き刺さる。
「やっと
竜巻を雀に任せ、優理は、その矢の一発をヴェントに叩き込んだ。
「う・・・あ・・・!?」
「これで、トドメですわ!」
そして、夕海子がヴェントにその銃剣の刃を叩きつける。――――その直前。
「うわぁあぁぁあああ!!!」
ヴェントを守るように、竜巻が発生した。
「な!?」
「これは・・・!?」
「ひぃやぁぁあああ!?」
あまりにも突然な事で、反応が遅れる。
だが、すぐさま優理は気付く。
「ッ!?まずい・・・離れろ弥勒――――」
しかし、その叫びは一足遅かった。
その竜巻は、風を引き寄せ、それによって周囲の物をなんでもかんでも引き寄せていく。
その餌食に―――――夕海子がなってしまった。
「きゃぁあああああ!!!」
夕海子の『戦衣』が砕け散り、風に巻き上げられていく。
「弥勒さ―――」
「チィッ!!」
優理が、『
「うう・・・」
「ああ!弥勒さん・・・!」
「直撃を受けた。たが致命傷にはなっていないが・・・・これでは戦えんだろうな・・・!?」
突然、横の建物が崩れる。
「ぎゃぁあああ!?崩れたぁぁぁああ!!!」
「チッ!ここまでの威力があるのか!」
「どどどどうするんですかぁぁああ!?」
「ええい!黙れ!今考えている!」
ヴェントが引き起こした巨大な竜巻。それは周囲を引き寄せ、跡形もなく粉々にする暴嵐そのもの。
(何か攻略法があるはずだ・・・あの竜巻をどうにかする方法が・・・)
そこで優理は自分の弓を見る。
「・・・・・」
「あ、あのー、優理様?わたくしはいったいどれくらいこうしていればいいのでしょうか?」
「・・・あの竜巻がなくなるまでだ」
「じゃあ私の命が終わるまで永遠に終わらないじゃないですかぁ!!うわぁぁあん!!!」
とうとう泣き始める雀。その頭をぶん殴る優理。
「酷い!」
「喚くな。俺がどうにかしてやる」
「へ?」
間抜けな声を発して、優理は霊子を足に纏い、地面にしっかりと固定させる。
それを繰り返しながら、優理は盾の防御範囲を出る。
「弥勒を頼んだぞ」
「は、はい・・・」
優理は、弓を握りしめ、目の前に荒れ狂う竜巻を睨みつける。
「さて・・・始めようか」
優理は、矢をその弓につがえ、そう呟いた。
地面が割れに割れまくる。
「うぉぉおおお!?」
「わぁぁあああ!?」
その惨事に対して、シズクと昴はとにかく逃げていた。
「くそがぁ!やり過ぎだアイツらァ!!」
「そうはいっても仕方がないよ!互いに似たような能力なんだから!」
「くそったれがぁぁあ!!」
しかし、叫ばずにいられないのもまた事実。
将真が、槍を振るいつつ地面を踏みしめ踊る。
それによって地面が盛り上がり、巨大な手となって、エーアデを襲う。
だが、その両手の、まるで蚊を叩くかのような手を合わせる攻撃を、エーアデは土で作った柱状の棒を挟んで防ぐ。そして、地面を両手で叩いて、土の波を起こす。その波は将真に向かって飛んでいき、それを将真は地面を踏みしめて、波が起きる事、それ事態を防ぐ。
そして、巻き上がった土煙をまとめ上げて礫とし、それをエーアデに打ち返す。
それをエーアデは土の壁を作って防ぐ。すかさず、その土の壁を叩いてその壁から土の杭を伸ばして将真を攻撃、しかしそれを将真は槍の一撃をもって粉砕する。
「チッ!どこまで追い縋ってくるんだ!?」
「ハッハッハー!追い縋っているのは果たしてどっちかなぁー!」
「ほざけ!」
エーアデがにやりを笑い、その手を真上に掲げる。そのまま指を鳴らす。
すると、突然、どこからともなく巨大な岩石が二つも出現する。
「なんとぉー!?」
「つぶれろ」
落とされる巨大岩石。
だが、始めこそは驚いた将真ではあったが、すぐさま槍を振り回して独特な動きを完了した後、自らの左右に先ほどと同じような巨大な手を出現させる。
「無駄だ。いくらその手をもってしても、その岩石を受け止める事は出来んぞ」
「ハッハッハー!受け止めるのではない!
そう言って、将真は手を操作する。
その手は、巨大な岩石の片方を掴むと、そのまま横に――――もう一つの岩石にぶつける。
「な!?」
「そいやっさぁぁああああ!!」
巨大な岩石はそのまま進路を変えられ、将真の横を通過し、地面を砕いていく。
「チッ、二個だったのが仇になったか・・・!」
「今度はこちらの番だ!」
すぐさま将真が反撃に出る。
突如として片足をあげ、まるで相撲のしこを踏むかのように、地面に叩き落す。
だが、それだけで何も起きず、将真は、そのまま低い姿勢のまま、両手を地面につく。
それは、さながら相撲を取るときの格好そのままだった。
「なんだ・・・?」
それを、シズクと昴も見ていた。
「あれは・・・!」
「でるぞ・・・」
そして、エーアデが何か理解する前に、将真が前に出た。
「はっけよい」
瞬間、将真の頭突きが、エーアデに炸裂した。
「ぐあぁああ!?」
「ぬッ!?」
否、直撃はせず、ギリギリの所で土による鎧を作って防御していた。
「距離があったのが仇となったか・・・!?」
しかし、威力は殺しきれず、そのまま後ろに吹っ飛んでいくエーアデ。しかし、どうにか踏みとどまって転倒だけは防ぐ。
「ぐ、なんで殺人的な体当たりなんだ・・・!?」
これでも将真は相撲をたしなんでいる。
故に足腰は丈夫だし、ちょっとやそっとでは絶対に倒れない。
いや、例えどんなトラックが突っ込んできても倒れる事はないだろう。
これは流石に言いすぎか。
「ハッハッハー!このまま押し切ってやるぞ!」
「やれるものならやってみろ!」
さらに一方で。
無数の氷の刃が降り注ぐ。
しかし、その氷の刃を、芽吹は、まるで予知でもしているかのように全て避ける。
時には、躱せないものもあるが、それはその手に持つ銃剣によってことごとく弾かれてしまう。
「く、なんてすばしっこいの・・・!?」
その避けられているという事実に、ヴァッサーは苛立つ。
だが、それでも芽吹に攻撃が当たらないのは事実。
そこでヴァッサーは芽吹の動きを封じる事にした。
芽吹の立つ、建物の屋上の床に、氷を張る。
氷は摩擦性が極端にない。故に、足を滑らせやすいのだが、芽吹はまるで苦にもせず氷の上を走っていた。
「なんッ・・・!?」
「甘いのよ・・・・!」
引き金を引く。放たれる弾丸は真っ直ぐヴァッサーに飛んでいく。
だが、それをヴァッサーはドーム状の氷を作って滑らせて、芽吹にそのまま返す。
「チッ!」
舌打ち一つ後にかわして、そのままヴァッサーに近付こうとする。
それに対してヴァッサーは氷の刃を大量に、まるで隙の無い程に展開すると、そのまま、まとめて芽吹にぶっ放す。
それに対して、芽吹はその隙間無い無数の氷の雨に向かって止まらず、むしろ加速して突進する。
そして、銃剣を右手の上で踊らせる。襲い掛かる氷の雨を、直撃するもの全てを銃剣の剣と弾丸、そして体術をもって弾き飛ばす。
そのまま突破。ヴァッサーに接近する。
「なんッ・・・!?」
「ウラァッ!!」
振り下ろされる銃剣。
それを生成した氷の剣で防ぐ。ヴァッサーはもう片方の手の錫杖を捨てると、その手で冷気を収束した球体を生成すると、それを芽吹にぶつけるべく振るおうとしたが、それよりも速く芽吹の蹴りがその手首を叩き、阻止する。
だが、本命はそれではない。ヴァッサーの足はすでに建物の屋上の床に触れている。ならば、そこに張られた氷を使って攻撃する。すぐさまヴァッサーの足元から氷刃が出現し、芽吹を襲う。
だが、それを芽吹はヴァッサーを蹴り飛ばす事で紙一重で躱す。
そのまま空中に飛び出たまま引き金を引き絞り、銃弾を連発する。
その全てをヴァッサーはまたドーム状の氷を作ってそのまま返す。
それを芽吹は体を捻って空中であっても躱す。
そのまま着地する芽吹に、ヴァッサーは忌々し気に呟く。
「罪人のくせに、よくもそこまで動けるものね」
「罪人罪人うるさいわよ。罪人だからってなんでもやっていいって思ってたら大間違いよ」
「はあ、うるさいわ。罪人がきゃんきゃんとうるさいわ」
「人を小うるさい小動物みたくいうな」
「だから、奥の手を使うわ」
そう、ヴァッサーが呟いた直後――――
パキッ
「ッ!?」
耳に届いた、何か割れるような音と共に、芽吹は一気にヴァッサーから距離を取った。
そのまま屋上から落ちる。
そのさなかで、芽吹は自分の頬に触れる。
(こ、凍ってる・・・!?)
そう、芽吹の頬が凍っているのだ。
芽吹の『鬼気・極限羅刹』をもってしても、この氷結を回避できなかったのだ。
(何が起きたの・・・!?)
そのまま地面に着地し、見上げればそこからヴァッサーが接近してきていた。
「このまま奴を近づけるのはやばい―――」
「うおぁぁぁああ!?」
「ッ!?きゃぁああ!?」
突然、横から飛んできた明日香をぎりぎりで回避する芽吹。
「ぎゃふん!?」
そのまま明日香は建物の壁に激突する。
「ちょ!?明日香!?」
その事に驚きつつ、芽吹は上から接近してくるヴァッサーを警戒して距離を取りつつ明日香の元へ向かう。
「ちょっと明日香!?何があったの!?」
「ぬぐぐ・・・ばらっしゃぁああ!!あー!死ぬかと思った・・・」
めり込んでいた顔を抜きつつ、明日香はそうぼやく。
「くっそ、いきなり奥の手とか言った途端に強くなりやがった」
「奥の手・・・・?それって・・・・」
ふと、向こうでヴァッサーと共にフォイアもやってくる。
「あらフォイア、あなた使ってるのね」
「そういうテメーこそ、『神技』使ってんじゃねーか」
何か、聞き慣れない言葉を言い合う二人。
「神技?なんだそりゃ?」
「奥の手って事なんじゃないの。とにかくかなりやばいってのは分かるでしょ?」
頬についた氷から手を離しつつ、芽吹は銃剣を構える。
目の前からは、熱波と寒波の両方がやってきていた。
「・・・突っ込むか?」
「やめておいた方がいいかもしれない・・・あれは、そういう次元の話じゃないと思う」
近付く二人の神官、それに対して、芽吹と明日香は、それぞれの得物をもって対峙する。
しかし、そこでヴァッサーが動いた。
足の裏にスケートのブレードのような部分が出現したかのよう見えた途端、とてつもない速度で二人に接近する。
「明日香、
「ああ!」
芽吹の叫びに、明日香はすぐに応じる。
「遅い」
しかし、明日香が何か行動を起こすよりも速く、ヴァッサーは二人に接近した。そして――――
―――明日香の体が凍り始める。
「な!?」
「明日香!?」
あまりにも速く、明日香の体が凍っていく。
「私の『神技』『氷結世界』は冷気を操る。その範囲内に入ったものは、最大三十秒で体の芯まで氷になるわ」
「ぬ、ぐっぉあぁあああ!!」
体全体が氷になる寸前、明日香が己の中を流れる悪魔の力を開放。その直後に氷が全てはじけ飛び、すぐさま横で同時に氷になりかけていた芽吹をつれて空へと飛ぶ。
そして、その氷をすぐに砕く。
「た、助かったわ・・・!」
「くっそ範囲内に入るだけで凍るとかチートかゴラァ!!」
「でも範囲はあまりにも狭いみたいね。だったら・・・!」
芽吹が銃剣を向け、銃弾を放つ。銃弾は真っ直ぐ飛んでいき、ヴァッサーの眉間に直撃する―――筈だった。
「な・・・!?」
しかし銃弾は空中で止まっていた。
「無駄よ。この『氷結世界』は冷気を操る。それはすなわち、
「んな!?」
「そんなのマジ・・・・?」
つまり、大気を凍らせて弾丸を止めたという事なのだろう。
ようは見えないバリアのようなもの。即ち芽吹の弾丸は通用しない―――
(そんな相手にどうやって戦うっていうのよ・・・?)
思わず、そんな思考が芽吹の脳裏に過ぎる。
が、それよりも速く、明日香が上空へ芽吹を投げる。
「!? 明日香!?」
「下がってろ芽吹!」
今、明日香の体を流れる悪魔の力は、全ての異能を問答無用で粉砕する。
そして、その力を使って、高速飛翔も可能だ。
そのまま、ヴァッサーに向かって突撃を敢行する明日香。しかし。
「アタシを忘れんな」
「!?」
横からフォイアが飛び込んでくる。
「アタシの『灼熱地獄』ヴァッサーとは真逆、つまり、
「ぐ、あぁぁああ!?」
灼熱の大気が、明日香を襲い、その空気を吸った明日香の肺をすぐさま焼く。
そして、人間の体は、四十度以上の熱には耐えられない――だが。
「な、めるなぁ!」
剣を振り回して熱波を斬り払う。
それによって明日香を襲っていた熱波が掻き消える。
「チッ、意外と厄介だな」
「うおらぁああ!!!」
左の剣がフォイアに直撃し、そして間髪入れずに右の大剣でヴァッサーを叩く。
「ぐっ・・・」
「くぅ・・・」
ぎりぎりの所で錫杖で防いだようだが、意外に重い。
「野郎!」
「舐めるな・・・!」
「こいやぁぁあ!!」
絶叫し、再び二人に向かって突撃する明日香。
その様子を、芽吹は建物の屋上から見ていた。
(悔しいけど、あれは私の手には余るわ・・・どこかから援軍を・・・)
思案していた所を、背後の轟音によって中断させられる。
「ぬあぁあああ!?」
そして悲鳴。その悲鳴の主が芽吹の横に落ちる。
「え!?」
「ぬ・・ぅう・・・」
その正体は将真だった。
「将真君!」
「将真!」
さらに、シズクや昴もやってくる。
「シズクに将真!?何があったの!?」
「ああ、それが・・・ってあぶねえ!?」
上空から飛来してきた無数の礫を回避する一同。
「申し訳ない、相手方のパワーアップについていけず・・・」
「なるほどね・・・」
見れば、地面を変動させながらこちらに向かって歩いてくるエーアデの姿があった。
「・・・聞くけど、あれは将真の手に負えないわけ?」
「
「あっちもどうすんだよ?」
「ああ、あれね・・・・」
シズクが指差す先にも、なぜか巨大な竜巻が起こっていて、これじゃあまさに災害のオンパレードである。
「いや、そもそもからして災害なのか・・・・」
そう呟いて、芽吹は、一つの結論を出す。
「将真は明日香の援護に入って、シズクと昴は私と一緒にアイツを叩く、いいわね?」
「うむ、承知」
「いいぜ」
「分かった」
手早く指示を出し、四人はすぐさま行動に出る。
「むっ!明日香はすでに
槍を水平に構え、もう片方の手で柄を掴む。
そして、己の中に流れる悪魔の力を表に出す。
体に黒い痣のようなものが広がり、やがてそれが両腕全体を覆う。
その姿はまさしく悪魔。
「助太刀するぞ!明日香!」
「おおー!サンキュー将真ァ!」
「チッ、仲間が来たか」
「問題ないわ。すぐに片付ける。」
一方で。
「ふむ、先ほどの男は別の場所に行ったか」
「その代わりに、私が相手になってあげるわ。感謝なさい」
「誰がするものか!」
エーアデが地面を変動させる。
巨大な手が無数に出現し、それが芽吹たちに降り注ぐ。
「シズク、昴!自分でかわして!私は突っ込む!」
「無茶いわないでくれ!」
「ハッ!いってくれるじゃねえか!」
降り注ぐ岩石の雨を掻い潜り、芽吹はエーアデに接近する。
そのまま銃剣の刃を正面上段から叩きつける。それをエーアデは変形させた土で防ぐ。
「無策―――ではないにしても突っ込んでくるか!」
「こっちは接近しないとまともに戦えないんでね!」
一方で、優理の方は。
「――――
明日香、将真同様、悪魔を宿す者としての共通上限解放能力『
弓が黒弓となり、その弓を持つ腕が真っ黒になる。
(さて、俺は明日香のような運動神経を持っていないし、将真のようなパワーを持っている訳でもない。だが、その分、体の身軽さには自信はある)
目の前には見るも巨大な大竜巻。
その竜巻に、例え矢を打ち込んでもその風の壁の前に防がれ、霧散してしまうだろう。
ならばどう対処するか――――?
「決まっている―――流れにのって中に侵入する!」
『
凄まじい程に荒れ狂う風を巻き起こす竜巻の中を、優理は全力で入っていく。
風の中に安全に侵入するには、そのまま真っ直ぐ進んでも良い。だが、あまりにも速い速度で回る竜巻は、その風圧ゆえに、入った瞬間、すぐに巻き上げられて、そしてすさまじい高さから地面に叩きつけられて死んでしまう。だから優理はそうならないよう、風と同じ速度で走っているのだ。
しかし、事はそう簡単にはいかない。
竜巻の中には、巻き上げた瓦礫や、竜巻を起こした張本人であるヴェント自身が発生させている雷が迸っており、それらを躱してヴェントに近付かなければならないのだ。
「くそが・・・・!」
悪態を吐き、優理はその瓦礫をかわし、雷を霊子の壁で防ぎつつ、ヴェントに接近していく。
「舐めるなよ・・・ガキが・・・!」
街中を勇者の脚力によって、走り回る美森。
「友奈ちゃん一体どこにいるの?」
走りながら、そう呟く美森。
これほど走り回ってなお、みつからない友奈に、美森は心配せざるを得なかった。
街のあちこちで起こる激しい戦闘音が聞こえる。もしかしたらもうどこかで戦っているかもしれない。いや、勇者システムもなしにどうやって戦うのか。この場合はむしろ巻き込まれているといった方がいい。早く友奈を見つけて勇者システムを渡さなければならない。
「お願い、友奈ちゃん、無事でいて・・・!」
美森は、願うような気持ちでその足を早め――――――
突如起きた一際大きな轟音に、その歩みを止めざるを得なかった。
「え・・・!?」
その方向を見た先、雷が落ちたのかと錯覚する程の轟音した先に、それはいた。
全身が白い白骨でできた、巨大な怪物を――――
「・・・銀?」
美森は、その怪物を、そう呼んだ。
『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』
次回『怪物となった少女』
いつだって、怪物の運命は―――